APA 1 2 3 著作権 4 5 ト ー ポ レ 6 7 8 9 vol. index 02 特集1 スイカ写真事件。結果考察と影響 02 特集2 ホテルパンフレット事件−判例評釈 06 連 載 著作権を知ろう!−2 10 連 載 著作権相談 case 2 14 APA著作権相談室は誕生して5年目を迎えました。これまでに多くの相談が寄せられましたが、そ 10 の中でも鮮烈な闘いを勝ち抜いたのが世に「スイカ写真事件」という名で知られた黄建勲氏の著作権 11 侵害訴訟です。この裁判は被写体そのものの決定も著作物の重要な要素とされるなど、これまでにな 12 い創作の原点が争点となった画期的なものでした。この判決の持つ意味や影響はなんだろうか。創刊 13 第2号の大きなテーマとしました。 14 15 16 17 18 スイカ写真事件感想 三戸岡耕二 弁護士 APA著作権相談室担当 19 20 本件判決を顧みて。 21 本件判決のキーワードは、①著作権と被写体 ②類似 22 23 24 ②類似ということ。 本件スイカの写真が2枚。地裁の裁判官は似ていないと ③依拠の3つである。 いい、高裁の裁判官は似ているという。人の感性とは実に ①著作権と被写体ということ。 様々である。この差は何か。本件に関する限り、写真という 著作物に対する思い入れの差である。 従来の地裁を中心とする判例は、写真著作権には被写体 ③依拠ということ。 の創作性は含まず、もっぱら、写真技術を偏重した考え方 25 が支配的であった。しかし、写真機の凄まじい進化により、 26 素人でもただシャターを押すだけで、相当の写真が撮れて 裁判官が、依拠に関する証拠調べを徹底していれば、結論 27 しまう時代になると、写真家による写真技術とは何かとい は、自ずから明らかであった。 28 うことが問 題になる。写真技術とは、より素 晴 らしい写 真 29 30 を見抜く力であろう。機械的、物理的、光学的な写真技術 より創作する技術であろう。裁判所が十年一日のごとく、 常套句として引用する特徴的重要表現と云う語により表 32 現される旧来の写真技術なる概念は、もはや、現在の写真 33 の著作権を論じるには、その内容が貧弱に過ぎる。 35 36 ■執筆者プロフィール 三戸岡耕二。昭和19年生 まれ。中央大学法学部卒 業。日弁連業務対策委員 会副委員長、第一東京弁 護士会仲裁運営委員会副 委員長、日弁連法律相談 事業委員会副委員長、東 京家庭裁判所参調会副会 長、日本調停委員連合会 副委員長、法制審議会幹 事などを歴任。現在、三戸 岡法律事務所主宰、経済 問題を主に手がけ知的財 産権(特許)問題の経験も 豊富。APA知的所有権部 著作権相談室担当弁護士 としても活躍。 を駆使して、より素晴らしい写真を磨き澄まされた感性に 31 34 裁判官により最も避けるべきは、先入観である。地裁の まさに、著作権法に「思想又は表現を創作的に表現した もの」と規定された著作物の概念を、写真表現の実態に適 合するように内容豊かに捉えるには、当然のこととして、被 写 体 の創 作 性 も重 視 されなければならない。このことを最 37 も声を上げて主張しなければならないのは、写真家自身で 38 ある。 39 0 1 特集 1 スイカ写真事件。結果考察と影響 田口重憲 横浜国立大学大学院国際社会科学研究科 助教授 ている。 「スイカ写真事件」 (東京高裁判決平成12年6月21日判例 1 時報1765号96頁)は、これまで、裁判例が少ない、異なる被 写真の創作性に関しては、写真という機械の操作に依存す 2 写体を撮影した場合の写真の著作物の著作者人格権の侵 る作品であることに鑑み、撮影における技術的部分で創作 3 害 について判 示 したものであり、主 として、写 真 の著 作 物 性が発揮されるとの考え方が有力であった。 の創作性について、写真の撮影や現像等撮影技術に関する 歴史的に、写真の著作物の保護期間は、他の著作物よりも 創作性のみをいうのか、被写体の創作性の有無を考慮すべ 短くされていた (平成8年の法改正以前は公表後50年(一 きか否かについて争われた事例である。地裁と高裁では結 般の著作物は著作者の死後50年) 。20歳の時に撮影し公表 論 が分 かれたが、これは、写 真 の創 作 性 についての考 え方 した写真は70歳の時に保護期間が満了し、著作者に無断 7 の相違のほか、共通点がアイデアか表現かの両裁判所の考 で利用できた。 ) 。このため、被写体に著作権法上独自の保 8 え方 の違 いによるものである。本 稿 においては主 に前 者 に 護に値する独自性がある場合は、写真の著作物の創作性と 9 ついて論じることとする。 してではなく、それ自体の著作物としての創作性と考える 東京地裁では、写真の創作性を 「原告が撮影するに当たり ことが適当であった。現在では、写真の著作物の保護期間 さまざまな工夫を凝らした撮影時刻の決定、露光、陰影の が一 般 の著 作 物 と同 様 とされたため、この点 に関 しては、 付け方、レンズの選択、シャッター速度の設定、現像の手法 写真の著作物の創作性について、被写体自体の創作性を含 等 によって生 じた創 作 的 な表 現 部 分 」として捉 えていた。 めて、議論できる状況になったといえよう。 一方、東京高裁では、これに加え、 「被写体の決定自体につ それでは、写真の著作物の創作性に被写体自身の創作性を 14 いて、すなわち、撮影の対象物の選択、組合せ、配置等にお 含めることが適当であろうか。 いて創作的な表現がなされ、それに著作権法上の保護に値 被写体に係る創作性も含め考えることとした場合、写真の する独自性が与えられることは、十分あり得ることであり、 著作者は誰であるかということが問題になりえる。今回の その場合には、被写体の決定自体における、創作的な表現 ケースでは、被写体の決定等と撮影者が同一であるが、実 部分に共通するところがあるか否かをも考慮しなければな 際の写真の制作過程を考えた場合、スタジオ内のスタッフ 18 らないことは、当然である。 」とし、被写体それ自体における との共同作業として行われることも多い。このような場合、 19 創作性を当該著作物の創作性に含ませて考えることとし 従来の技術的部分で創作性が発揮されると考える場合、多 20 4 5 6 10 11 12 13 15 16 17 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 原告の写真家黄建勲氏撮影の「みずみずしい西瓜」 問題となった写真 0 2 31 くの場合実際にシャッターをきるカメラマンが著作者と考 が行った場合に、当該「写真」を総合的な 「作品」と捉えて えられる。一方、東京高裁の考え方をベースに考えると、ス 論じる場合にのみ有用なものであり、写真の著作物一般に タジオ内のスタッフとカメラマンの共同著作物と考えるこ ついてのルールと考 えるのは必 ずしも適 当 ではないのでは とになるのであろうか。そうすると、果 たしてこのように著 なかろうか。 作 者 を考 えることは実 態 とあっているのであろうか。また したがって、基本的には被写体それ自身が創作的な表現と 法的にも適当であるのだろうか。 して保護されるべき場合については、被写体自体の創作性 私が論じたいのは、高裁の論理構成が適当かどうかであり、 を写真の著作物の創作性と分けて把握するという考え方 高裁の結論の妥当性ではない。被写体に著作権法上の保護 が、応用範囲が広い説明であろう。 を与えるべき創作性がある場合は、論理構成としては、高 最後に、著作権法によって保護されるのは表現であり、ア 裁の対場のほか、被写体自体の著作物性(例えば美術の著 イデアではない。地裁では、共通点をアイデアに過ぎないと 作物としての創作性)を論ずる方法がある。すなわち、被写 捉え、侵害を否定した。一方、高裁は、表現の共通性を認め 体の創作性を、写真の著作物の創作性とは切り離して考え たものである。アイデアか表現かの問題は、非常に難しい問 る考え方である。本判決のように被写体に係る創作的な表 題であり、この点については、東京高裁平成12年9月19日 現が写真撮影者によって行われた場合で、写真として複製 判決(判例時報1745号128頁)などが参考になる。 等が行われるときは、結論は同じになる。写真以外の形で 複製等が行われた場合、例えば、本件のような被写体を、写 真の方法により複製するのではなく、類似した被写体を自 らアレンジして、明るい感じの水彩画として描いた場合を 考えてみるとどうであろうか。このような場合、撮影・現像 方法による特徴的な表現(本判決でも写真の創作性の不可 欠な一要素として考えていると解される)と当該水彩画の 特徴的な表現は通常異なると考えられるだろう。従来、写 真の本質的な特徴と考えられていたものがない場合につい て、なお、 「写真の著作物」の複製権等の侵害というのは疑 問であり、単に、このような場合は、被写体自体に著作権法 上独自に保護されるべき点があるのであれば、被写体の選 ■執筆者プロフィール 田口重憲。昭和39年生まれ。 東京大学法学部卒業。文部省 (現文部科学省)入省。文化 庁著作権課、新潟県教育委員 会生涯学習推進課、内閣中央 省庁等改革本部事務局、文部 省大臣官房総務課行政改革 推進室などを歴任。現在、横 浜国立大学大学院国際社会 科学研究科助教授として、大 学 院 において著 作 権 法 等 知 的財産法関係の講義を担当。 択、組合せ、配列を美術の著作物(例えば活け花のようなも の)と捉え、美術の著作物(被写体)の複製・翻案と理解す べきであろう。 また、被写体の創作者と撮影者が異なる場合に共同著作物 と解 することができるのか考 えると、著 作 権 法 上「共 同 著 作物」とは 「各人の寄与を分離して個別に利用することが できないものをいう」 (2条1項12号)とされており、被写体 が独自に利用されうる場合(水彩画等で描がかれる)は共 同著作物にはならないのである。 高裁の考え方は、被写体の選択、配列等と撮影を同一人物 0 3 「下手」な物真似は盗作 徳山喜雄 朝日新聞 総合研究本部 研究員 スイカ写真の「下手」な物真似を盗作とする とその方法や考え方について語っている。 して新 しい写 真 を撮 影 することが、著 作 権 高裁判決を、最高裁は支持した。高裁判決 この「物語性(風物詩) 」 「生き生き」 「食視化 法に違反するといっているのではない」と念 は作品の中に宿る写真家の思想や感情部分 から食 指 化 へ」といったキーワードから、黄 を押 した。これは姑 息 な「パクリ」ではなく、 にまで踏み込み、2作品の制作経緯を詳細に 氏の写真家としての思想や感情を伺うこと 先達の作品を超えるいいものを創れと激励 検討し、一方を「改悪 」写真としていた。こ ができる。 しているようでもある。 のほど上告が棄却されたことによって、安易 安易な姿勢に警鐘 な模倣を厳しく戒めるこの判決が確定する 敗訴した湯野昇氏の写真に、黄氏とは異な という湯野氏の主張に対して、この判決は ことになった。 った思 想 や感 情 を読 みとることができたの 写真表現とはそんなに軽いものではない、も 思想や感情を問う なら、この作 品 は盗 作 といえなくなる。しか っと高度な表現行為だと認定したともいえ 古来から絵画や音楽、文学の世界において し、薄く切った6片のスイカ(西瓜)を載せた よう。判決が確定したことは、写真表現に真 も、思 いつき、いわゆる作 品 を創 るきっかけ 楕 円 球 の果 物 は、スイカではなくトウガン 摯 に携 わる者 にとって歓 迎 すべきことだろ となるアイデアなどは多 くの人 が持 ち合 わ (冬瓜 )だった。画面右奥にもスイカに混ざ 「偶然の一致 」でオリジナル写真と類似した う。 せているものだ。そのアイデアを形 にする過 ってトウガンらしきものがのぞく。さらに、 もうひとつ注 目 できること。それはフォトラ 程が難しいのであり、それが創造的行為であ オリジナル写 真 には籐 の籠 が使 われている イブラリーの経営者の磯野恵美子氏にも連 ろう。たとえば、こんな小 説 を書 きたいなど が、盗作作品はざるを使った。黄氏の「物語 帯責任を求めたことである。盗作の可能性 というアイデアは、その道を志す人なら誰に 性(風物詩) 」を色濃く感じさせる部分を、ち を感じつつも、写真家だけの責任に転嫁し、 だってある。しかし、アイデアだけでは小 説 ぐはぐで安 易 な選 択 で損 なったにすぎなか 写真を販売する業者は他にもいよう。しかし、 は書 けない。こうしたアイデアを盗 んだこと った。 これは写真業界全体の信用をおとしめる行 を立証するのは至難の業であろうし、表現の さらに、オリジナル作品は発表の1年前に最 為 であり、厳 に慎 まなければならない。判 決 世 界 ではあまり意 味 のないことなのかもし 盛期のスイカをスタジオに持ち込み、霧を噴 はこうした部分にまで目を配り、写真家およ れない。 いたり、ライティングに工夫を凝らしたりす び写真取り扱い業者双方の安易な姿勢に警 判決もこの部分は重要視していない。最終 るなどして、 「生き生き」としたものに仕上げ 鐘を鳴らした。 的に写真が示しているものが「何を有するか」 ている。しかし、盗作作品は雨の日に実家の ということに着目している。別の言葉で言え スイカ畑で、特にライティングをせずに撮影 ば、写真家の固有表現の核心部分、つまり したため、平板なものにとどまった。 「思想または感情」部分を問うことになった。 オリジナル作品は「食視化から食指化へ」と 勝訴した黄建勲氏は「APA著作権レポー いう目 的 を達 成 したといえるが、盗 作 作 品 ト」の前号で、 「私の映像 づくりは①その中 は新たな思想や感情の注入どころか、オリジ に物語性(風物詩)を極度に集約する②被写 ナルよりはるかに劣 るものとなった。この部 体の内容に充分な理論づけをしたうえで原 分に注目した判決は、湯野氏の行為につい 案 をまとめ、それをさらにイラスト化 して提 て「写真を改悪した」 「個性ある表現をあり 示するようにしている。 (……)それぞれの作 ふれた表 現 にした」などとし、 「粗 雑 に再 製 品は発表の1年前に私のスタジオで撮影され 又は改変したにすぎないものというべきだあ ている。もちろん生き生きとした一瞬を撮る る。このような再製又は改変が、著作権法上、 ためである。旬に採れた野菜・果物の顔はす 違法なものであることは明らか」と断じた。 ばらしい。演劇の主役の表情と同じで輝い 「先行著作物の被写体を参考として利用し ている。的確な食視化は食指化につながる」 つつ、被写体を決定し、自らの創作力を発揮 0 4 ■執筆者プロフィール 徳山喜雄。1958年生まれ。朝日新聞映像本部記者、 デスクを経て、現在、同・総合研究本部で映像メディ アの研 究 を進 める。ベルリンの壁 崩 壊 をはじめとす る一連の東欧革命、崩壊前後のロシア・旧ソ連諸国、 中国、北朝鮮など旧共産圏を数多く取材。著書に、 『フォト・ジャーナリズム』 (平凡社新書) 、 『苦悩する ロシア』 (三一書房)など。98年、取材キャップをした 朝日新聞連載『素顔の中学生』で日本新聞協会賞を 受賞。 スイカ写真事件についての所感 中西 開 ㈱電通 法務室 主管 1 スイカ写真事件は、広告表現の権利関係の相 高裁がこのような判決を下したのは、事件の背 な創作性」の2つがポイントになってくるわけで 2 談をよく受ける広告業界の法務関係者にとっ 景(モラル的に許せない)と本件被写体の選択・ すが、東京高裁の判決では必ずしもこの基準が 3 ては、極めて興味深い事件でした。以下は法務 組合せ・配置の極めて高い独自性を理解し、被 明確ではありません。 「 著作権法上の保護に値 4 関係者の一人として私の思ったことを素直に 告を敗訴させる必要があると考えたからだと思 する独自性」については、 「 景色、人物等現存す 5 述べさせて頂きたいと思います。 われます。私も東京高裁の判決を読み、三戸岡 る物が被写体 」となっているケースでは独自性 6 正直に言って、本件が東京高裁において逆転 弁護士の裁判の説明を聞くまでは、本件のスイ が認められにくく、本件のように「人為的に作 7 判 決 が下 されることはないのではないかと思 カの選択・組合せ・配置がここまで高い独自性 り出されたものが被写体 」となっているケース 8 っていました。事件の背景をよく知らなかった を有しているとは思ってもいませんでした。 では独自性が認められやすいということのよう 9 という事情もありますが、写真の著作権侵害 本件に関する東京高裁の判決は納得できるも です。 「 新たな創作性」については、表現手法の 10 の判定において、被写体の選択・組合せ・配置 のであったとしても、実務的影響が心配される 限界、制作意図などとの関係もあり、作り手の 11(いわゆるアイデア)の独自性をも考慮すると、 のは、写真の創作活動の萎縮効果です。被写体 意識(モラル)の問題に帰着せざるを得ないの 12 写真による創作活動が不当に制約を受ける恐 の選択・組合せ・配置の独自性にも著作権法上 ではないでしょうか。 13 れがあり、裁判所も著作権での保護は認めな の保護が及ぶと言う点ばかりがクローズアップ 結局、 「 著作権法上の保護に値するような独自 14 いだろうとの先入観があったからです。 されてしまうと、今までの写真と同一・類似の 性」 「 新たな創作性」についても、ケースバイケ 15 また、アイデアの流用は、 「イメージ権」の問題 写真を撮影することが著作権侵害として許さ ースで判断していくしかなさそうです。 16 として考えられることがあったということもあ れないという誤った認識が定着してしまう恐れ 広告業界の今後の課題としては、 「 著作権法上 17 りました。イメージ権とは、制定法で定められ があるからです。このような認識があると、写真 の保護に値するような独自性」 「 新たな創作性」 18 ている権利でもなければ、判例で認められてい 家の創作活動が萎縮するばかりでなく、広告表 についての研究を深め、これに関する何らかの 19 る権利でもありません。写真、イラスト、映画 現の権利関係の相談を受ける法務関係者の判 ガイドライン(あるいは事例集 )を策定するこ 20 などのアイデアの流 用 が問 題 になるようなケ 断も被写体の選択・組合せ・配置が少しでも似 とではないかと思います。 21 ースで、便宜的に使われてきたものです。有名 ていたら止 めさせてしまうということになりが 最後になりましたが、写真の著作物の保護に関 22 写真家の写真の構図を模倣したり、有名イラ ちです。 する貴重な先例を築き上げた黄建勲氏、三戸岡 23 ストレーターの独特な色使いを真似したりす 被写体の選択・組合せ・配置が同一・類似の写 弁護士、APAの関係者の皆様の努力に敬意を 24 る場合にイメージ権が問題となってきます。文 真を撮影することは許されないという認識を一 表します。 25 化は、先人の業績をベースに発展していくわ 般化することは、絶対に避けなければなりませ 26 けですから、アイデアの流用が全く許されない ん。東京高裁も、 「 先行著作物の被写体を参考 27 わけではありません。一方、原作者のオリジナ として利用しつつ、被写体を決定し、自らの創 28 リティも十 分 に尊 重 される必 要 があります。 作力を発揮して新しい写真を撮影することが 29 そのため、イメージ権の問題は、アイデアを流 著作権法に違反することはない 」と明言してい 30 用する側の「モラルの問題」であるとされてき ます。 31 ました。私は、スイカ写真事件は、著作権侵害 著作権法上許されないのは、先行著作物の被写 32 とは認められないが、モラルの問題として許さ 体の選択・組合せ・配置に「著作権法上の保護 33 れない事件だと思っていました。 に値 する独 自 性 」が認 められるときに、そこに 34 しかし、本事件で、東京高裁は、写真の著作権 何ら「新たな創作性 」が認められない形で、先 35 侵害の判定において、被写体の選択・組合せ・ 行著作物と同一・類似の写真を撮影することで 36 配置の独自性も考慮し、そこに共通性があれ す。 37 ば、著作権侵害が認められるとしました。東京 「著作権法上の保護に値する独自性」と「新た 0 5 ■執筆者プロフィール 中西 開。昭和37年生まれ。京都大学経済学部及び 法学部卒業。昭和62年、川崎重工業株式会社入社、 法務部・知的所有権部にて契約業務に従事。平成9 年、株式会社電通中途入社、法務室にて権利、景品 などの法務相談業務及び契約業務に従事。日本著作 権法学会会員。 特集 2 ホテルパンフレット事件−判例評釈 三戸岡耕二 弁護士 APA著作権相談室担当 本レポートに掲載する目的 レット等 の所 有 権 はホテルに移 転 し、 本件は事実関係としても法律関係に 以後、ホテルに帰属することになる。し S写真家が、N印刷会社に渡した写 してもごく普通の簡単な事件である。 かし、この有 体 物 としてのパンフレッ 真は、Tホテル専用のものであり、他に この事件を、本レポートに掲載するの ト等の所有権とは別にこのパンフレッ 使用する余地がないため、将来Tホテ は、本件がごく普通の事件であるため、 ト等に表現されている制作者の 「思想 ルからまた発注されることも予想され 逆に、普通の写真家が、日常の写真撮 又は感情」が「著作権」として著作権法 たので、N印刷会社に渡されたまま、N 影業務に普遍的に付随する問題であ により保護されているのである。 印刷会社に保管されていた。 めた撮影料を支払っていた。 写真の著作権は、写真を撮影した写 平成12年4月21日Tホテルの代理人 写真家は、常々何に気を付ければよい 真家に帰属しており、写真家が、撮影 という弁 護 士 から、概 要 、次 のような かの警告の意味を込めて本レポートに した写真を印刷会社がホテルのパンフ 内容の催告書がN印刷会社に内容証 掲載するものである。 レット等を作成するために使用するこ 明郵便で送付されて来た。 り、この事 件 を紹 介 することにより、 とを印刷会社に対し、有償で許諾した 「TホテルはN印刷会社に対し、ホテル 事件の概要 ものである。従 って、この使 用 するこ 等のパンフレット作成を依頼しており 事件の概要は、地方のホテルが、約10 とを許諾した後も写真の著作権は、写 ますが、右作成に必要なポジ約150枚 年 前 から、ホテルのパンフレットやチ 真家に帰属している。 を印刷会社にお預け致しております。 ラシや小 冊 子(以 下 、パンフレット等 また、パンフレット等 の著 作 権 は、 今般、諸般の事情により、お預け致し という)の作成を印刷会社に発注し、 パンフレット等 を製 作 した印 刷 会 社 ているポジの返 却 方 をお願 い致 しま 受注した印刷会社は、写真家に、ホテ に帰属しており、同様にホテルに有償 す。ついては、本書面、到達後1週間以 ルの宣伝用写真の撮影を依頼し、撮影 で使用許諾を与えた後も印刷会社に 内に当社までご返却下さるようにお願 された写 真 を利 用 して、ホテルのパン 帰属していることになる。 い致します。 」 本件の発端は、他の広告代理店が、T フレット等を作成し、ホテルに納品し ていた。 本件事件の具体的経過 ホテルにパンフレット等 につきN 印 刷 写真家が印刷会社に渡した写真のポ T ホテルが、約 10年 前 から、ホテル 会社よりも格安で作成出来ると持ちか ジは、ホテルの再 度 のパンフレット等 の宣伝用パンフレット等をN印刷会社 けたもので、S写真家の撮影した写真 の作成の際の再使用を考えて、印刷会 に発注していた。N印刷会社は、Tホテ についても、引き渡しをN印刷会社に 社に保管されていた。 ルから発注がある都度、S写真家に写 要求すれば、N印刷会社は応じざるを このような、写真家、特に広告写真家 真撮影を依頼し、S写真家は、直接、T 得ないだろうとけしかけたようである。 の営業は、ごく普通の写真家の日常の ホテルに出 向 き、T ホテルの担 当 者 と N印刷会社の代表者N氏から相談 営業形態と思われる。 いろいろと打 ち合 わせをしながら、ホ を受けたS写真家は、APAの知的所有 テルの外観や豪華なロビーや客室やN 権部に相談し、平成12年4月26日当職 法律的観点 印刷会社がモデル紹介会社から選定 に相談の連絡をして来た。 この営業形態を法律的に見ると次の したモデルを加えたりして数十枚の写 当職がS写真家の経過説明を聞く限 ようになる。 真を撮影し、この写真のポジをN印刷 り、S写真家が撮影した写真の著作権 会社に渡していた。 は、S 写 真 家 に帰 属 するものであり、 ホテルがパンフレット等を印刷会社 に発注し、印刷会社がパンフレット等 N印刷会社は、S写真家が撮影した 決 して、T ホテルに帰 属 することはな を作成し、ホテルに納入することは、法 写 真 を利 用 して、ホテルのパンフレッ く、T ホテルからの写 真 引 き渡 し要 求 律上、請負契約の成立とその履行とし ト等 を作 成 し、T ホテルに納 品 し、総 は、明確に拒絶する様にと指示した。 てとらえられる。従 って、印 刷 会 社 の 額の代金を受領し、その中からS写真 N印刷会社は、いままでTホテルとは、 パンフレット等 の納 入 により、パンフ 家に対してはS写真家との間で取り決 長い付き合いがあり、あまり表立って 0 6 1 2 3 4 5 争 いたくないとの事 情 もあったので、 宣伝のため、広く配布する挙に出た。 張 を否 認 するであろうから、いかにこ 6 N印刷会社は、Tホテルに、S写真家が、 T ホテルが、配 布 した新 しいパンフレ れを証明するかである。本件訴訟の争 7 写真の著作権は自分に帰属している ット等は、ほとんど、N印刷会社が、従 点は、損害賠償額の立証であった。 8 と主張して、N印刷会社に対し、強く 来、作成したものと同じであった。 特に、本件では、正式な契約といえる 9 写 真 のポジの返 還 を求 めてきたので、 ここに至 って、S 写 真 家 もこのまま放 ものは、T ホテルとN 印 刷 会 社 の間 の 10 やむなく、S 写 真 家 にすべてのポジを 置 する訳 にも行 かず、この先 、多 分 に 法律的にいうと請負契約であり、N印 11 返還したと伝えることにした。 煩わしいことに巻き込まれるとの不安 刷 会 社 が注 文 に応 じて商 品 としての 12 Tホテルの代理人弁護士には、平成12 があったと思われるが、訴訟を提起す パンフレット等 を作 成 し、納 品 し、注 13 年5月9日S写真家の代理人として当 ることを決断した。 文主であるTホテルはその請負代金を 14 職が、写真及びポジの引き渡しには応 N印刷会社も共に原告として、提訴す 支払う関係である。従って契約の中で 15 じられない旨 の回 答 書 を内 容 証 明 郵 ることになった。 この損害賠償額を証明する資料がほ 16 便にて、送付した。 17 T ホテルでは、新 しい観 光 シーズン 18 を迎え、何としても、Tホテルの宣伝を 19 しなければならず、従 来 、N 印 刷 会 社 20 において作成したパンフレット等を新 21 しい広告代理店を使って、複写しそれ 22 らをアレンジして新 しいパンフレット 23 等を作成するという情報が人づてに伝 24 わって来た。 25 とんど無く、その算定の立証が困難で 訴訟経過 あった。 提訴に当たっては、次のような準備 しかし、訴 訟 は、T ホテルの代 理 人 の新しい弁護士が、著作権をよく理解 をした。 ①Tホテルが配布した侵害パンフレ ット及びチラシの収集 ②侵 害 パンフレットなどの侵 害 部 分の照合による確認 しておらず、 「契約関係にないS写真家 が、何故、写真の著作権を取得するの か」との疑 問 を提 示 した。このため裁 判所がこの代理人に著作権を理解さ ③侵害部分のS写真家の写真撮影 せるためにかなりの時間が費やされる そこで、当 職 は、T ホテル代 理 人 弁 護 料やN印刷会社のデザイン料の特 結 果 となった。同 代 理 人 は、T ホテル 26 士に対し、N印刷会社が、従来作成し 定 は高い代金を支払って、パンフレット 27 たパンフレット等 を複 写 し、それらを 28 アレンジして新 しいパンフレットやチ 29 ラシを作 成 するということは、明 らか ⑤慰謝料額の算定 そこに使われている写真の著作権もす 30 に、N印刷会社のパンフレット等に関 平成13年2月2日岐阜地方裁判所に べてT ホテルに帰 属 しているのだとい 31 するデザインの著作権やS写真家の写 提訴。 う考えから最後まで抜けられなかった 32 真 の著 作 権 を侵 害 することになるの 請求額は、S写真家が金252万円、N 様 である。従 って、法 律 の素 人 である 33 で、そのときは、必 ず、T ホテルは損 害 印刷会社が金173万円であった。 写真家の人々が、何故、本件の様にパ 34 賠 償 責 任 を負 わされることになるの 本件訴訟は、法律的には、特に困難な ンフレット等を既にTホテルに納品し 35 で、そのようなことがないように中 止 問 題 はなく、パンフレット等 のデザイ た後になって、写真家が、写真の著作 36 するようにとの警 告 書 を内 容 証 明 郵 ンに関する著作権は、N印刷会社に帰 権 を主 張 出 来 るのかと疑 問 に思 うこ 37 便にて送付した。 属 し、パンフレット等 に使 用 された写 とがあってもあながち責 められないと 38 このときのT ホテルの代 理 人 であった 真の著作権は、撮影者であるS写真家 思った。 39 弁護士は、Tホテルの主張が法律的に に帰 属 しており、T ホテルが、これらS これは、写真そのものと写真の著作権 40 無理であり、主張を貫けないとを認識 写真家やN印刷会社にその著作権が とを混同したことに起因する誤解であ 41 したのか、その後、辞任している。 帰属するパンフレット等を複写して新 る。両者の権利はまったく別のもので ④侵害部分の各損害額の積算によ る総損害賠償額の算定 等をN印刷会社から買い取ったのであ るから、パンフレット等 の著 作 権 も、 42 しかし、程なく、Tホテルは、観光シ たなパンフレットなどを作 成 したので ある。著作権とはその写真によって表 43 ーズンを迎 え、背 に腹 はかえられない あるから、著作権侵害による損害賠償 現された写真家の「思想又は感情」で 44 と、N印刷会社が、従来作成したパン 責任があることは明白である。 ある。それゆえに、 「無 体 財 産 権 」とか 45 フレット等 を複 写 し、それらをアレン 46 ジして新しいパンフレット等を作成し 問題は、損害賠償額の算定であり、 Tホテルは当然、この損害賠償額の主 0 7 「知的所有権」といわれる。 写真を買い取った者も、その写真を 複写して配布することは許されず、そ 議和解案提示、和解案を検討 社に、金75万円の支払いを求めるもの の写真に自分の名前を撮影者として ⑤平成13年10月22日第4回電話会 冠したり、その写真に手を加えたりし 議相手方が当方の和解案拒絶 て、公 表 することも許 されない。これ ⑥平 成 13年 12月 10日 第 5回 裁 判 絶 したものの、12月 10日 に証 人 尋 問 は、その写真の著作権が、有体物たる 所、S写真家、N代表、Tホテル従 が終了すると、裁判所としても和解に 写 真 とは別 のもとして存 在 し、かつ、 業員の尋問 より解決するか判決により解決するし 撮 影 した写 真 家 に帰 属 しているから である。 ⑦平成14年1月28日第6回電話会 議、和解成立、裁判終了 であった。 Tホテルは当方の和解案を一旦は拒 かなくなり、裁判所が強く、Tホテルに 決 断 を求 めたところ、T ホテルも当 方 裁判長から、何度も、何故、写真の 本件訴訟は、平成13年2月2日に提 の和 解 案 を飲 んで和 解 により解 決 す 著作権がTホテルに帰属しているのか 訴しているが、平成12年4月26日に受 ることを承知し、本件は平成12年4月 と問い詰められた同代理人が最後に、 任してから、それまでは、S写真家と共 26日に受任した後、約2年で全面的に 「この写真の著作権もパンフレット等 にN印刷会社のN代表とも面密な打ち 解決したことになる。 とともにT ホテルが買 い受 けたもので 合 わせをして訴 訟 の準 備 をして来 た あり、N印刷会社の代表者Nが、S写 が、N印刷会社は平成13年5月10日に 本件から学ぶべき点 真家から写真の著作権を譲り受けて 破産宣告を受け倒産していた。この事 以上、経過を思いつくままに述べたが、 おり、この譲り受けた写真の著作権を 実 をS 写 真 家 を通 じて知 ったのは、6 写真家としては、撮影した写真の著作 さらにT ホテルに譲 渡 するという契 約 月の下旬であり、本件事件の核心部分 権は自分に帰属するのであり、撮影し が出 来 ていたのだ」と主 張 するに至 っ に存在したN代表の所在が杳として知 た写 真 そのもよりも、そこに表 現 され た。写真の著作権をTホテルが取得し、 れず、損害賠償額の立証が思うように た著 作 権 こそ重 大 な権 利 であり財 産 T ホテルに帰 属 しているというために 出来ず、訴訟の維持も危ぶまれる事態 であることを十 分 に自 覚 し、 「著 作 権 はこのような主張をする以外にはない に立ち至った。 をどう護 るか」にもっと意 を用 いるべ のである。 それまでは、損害賠償額を立証する書 きである。自 分 に帰 属 する著 作 権 は、 しかし、このようなことは、事実ではな 証としては、①S写真家がN印刷会社 明 確 に譲 渡 する意 志 を表 明 しなけれ く、結 局 、T ホテルの代 理 人 も証 明 す に渡 した写 真 の撮 影 料 を明 記 した写 ば、他 人 に移 転 することはないが、相 ることは出来なかった。 真の納品書と②Tホテルが提出したN 手方に預けている状態が、漠然と続い 印 刷 会 社 に支 払 ったパンフレット等 たりするとこの意志の確認が困難とな の代金総額を示す書面しか提出され り、しいては、譲 渡 したと見 られるこ ていなかった。 とにもなって来る。常に、写真家は、自 ここで訴訟の経過を時系列に摘示 しておく。 ①平成12年2月2日岐阜地方裁判所 に提訴 しかし、7月下旬になり、N印刷会社 分の写真の著作権が、自分に帰属して ②平成13年5月24日第1回口頭弁 の破産管財人と連絡が取れ、破産管財 いることが外観からも認められるであ 論期日岐阜地方裁判所訴状陳 人がN印刷会社とTホテルの取引経過 ろうかと自問して見る必要がある。 述、答弁書陳述第2回目の期日か を示す、詳細な大部の帳簿を証拠とし また、写 真 の使 用 を許 諾 したのか、写 ら電 話 会 議 方 式 になり、双 方 代 て裁判所に提出するに至って、損害賠 真の著作権の譲渡をしたのか、いずれ 理 人 は事 務 所 に居 て、裁 判 所 と 償額の立証も出来、ほぼ、当方の主張 の意志か明確に判定出来ないときは、 同時に3者が通じた電話による会 が100%認められるとの確信が持てた。 支払われた金額により判定されること 議で協議し、そこで決まったこと しかし、8月末頃になると今度はTホ が多いので、常に、写真家は、その写真 を、次回期日までに書面にして提 テルが経営不振で倒産するかもしれな の著作権を譲渡した場合の譲渡料は 出 するという方 式 で審 理 が進 め いとの風評が立ち、急遽、和解による いくらであり、著作権の使用許諾料は られた。 解 決 も考 慮 しなければならず、9月 10 いくらであるとの意識を持つことも大 日 には当 方 から和 解 案 を提 示 してい 切と思われる。 ③平成13年7月5日第2回電話会議 準備書面陳述、準備書面陳述 ④平成13年9月10日第3回電話会 る。当方が提案した和解案は、S写真 家に、金150万円の支払いとN印刷会 0 8 1 当事者は語る 2 3 4 5 6 「困ったことになった…」 7 芝野将光 8 日本広告写真家協会正会員 中部支部 株式会社 スタジオマジソン 9 10 11 「困 ったことになった… 」神 妙 な顔 つ いただくこととし、出 来 上 がった“回 ● 12 きのN社長から手渡された封筒の中味 ● ● ● ● 答書”は著作者(私)が、N印刷会社に ● たと思う。 ● それは実 に重 味 のあるものであり、今 ● 13 は “通知書 ”とあり、聞いた事もない弁 対し写真の利用を許諾 したのであり、 後の自信につながる大切なものでもあ 14 護士の名と朱印がえらく目立っていた。 従ってTホテルに権利の帰属は有り得 った。 15 N社長は、社員10名足らずのこの地方 ないこと、複製等により新たに作成す 我 々 に与 えられた権 利 が日 常 的 に守 16 でも規 模 の小 さな印 刷 会 社 のオーナ るパンフは著作権侵害となること、さ られていく時 代 を迎 えるためには、こ 17 ーであるが、写 真 撮 影 の仕 事 は多 く、 らにモデル (等 )写っているものについ のような実例(判例 )を数多く積み上 18 30年近い付き合いの仲であった。通知 ては肖像権侵害も絡むことになるとの げる事でしかその道は開かれないもの 19 書はN印刷会社を通じて撮影したTホ 忠告を加えたものとなった。 と痛感する次第である。 20 テルの13年 にわたる膨 大 な量 の写 真 しかし、間 もなく新 しいパンフの発 行 21 の内から、150点を 「一週間以内にT を確 認 する事 で私(達 )は、著 作 権 侵 22 ホテルに返 却 しなさい」という内 容 で 害の催告を経て岐阜地裁への告訴と 23 あった。 なるのである。平成12年の夏であった。 24 私の場合、業者を通じて仕事を受ける Tホテルが、最 終 的 に和 解 に応 じてく APAの出版物 25 ケースでは、撮影した写真をその代理 るまでの1年半は私にとって実に初体 APAでは、会員とその作品を紹介する ● ● ● ● ● ● 26 店や印刷会社に預けて管 理 を委 ねて 験の連続であったが、三戸岡先生の親 『映像曼陀羅』、優秀な広告写真を集 27 おり、通常は使用期限を設けず、使用 切なそして適切なリードのお陰で難な めた『年鑑日本の広告写真』、APA賞 28 目的(使用媒体 )が同一である限りリ く乗切ることが出来、仕事にも一切影 の入賞・入選作品集『APA公募展図 29 ピート使用も許している。当方の営業 響することも無くて当初の心配など全 録 』などを出 版 販 売 しています。購 入 30 活動の一端を担ってもらっている事へ く無 用 であったことを特 筆 したい。た を希望される方は〒住所、氏名、電話 ● ● 31 の代償という風に広義的に理解し、ビ だ、抗争中にN印刷会社が倒産し、N 番号、希望の書籍名と部数を書き、フ 32 ジネスを重 視 している訳 であるが、た 社 長 が半 年 間 行 方 知 れずとなった時 ァクスか葉書でお申し込みください。 ● ● ● ● ● ● 33 だ日 頃 から著 作 権 の所 在 については にはさすが心 細 く、いっそ取 り下 げて 34 明確にする努力は続けており、これが 止めてしまおうかと思ったことも正直 35 精 一 杯 の著 作 権 の主 張 となっていた 有 った。しかし、後 半 の認 証 時 には破 36 のであった。 産管財人としての弁護士と共に出廷、 37 一方Tホテルは、広告費を抑えるため 有効と思える証言も得るところとなっ 38 に、パンフレットをはじめとする広 告 たのである。 39 ツールを他 の安 い代 理 店 に依 頼 した この様 な訳 で、私(達 )の事 件 は全 体 40 かった訳 で、当 面 必 要 な1 5 0 点 を を通 じラッキーに推 移 出 来 た一 例 か ● ● ● 41 無償で入手できないものかとN社長と とは思うのであるが、三戸岡先生の熱 42 再三、口頭での交渉を重ねた結果の手 意 ある援 助 のたまものであったこと 43 段であったのである。 は、そのやりとりしたFAX用 紙 の量 の 44 私はN社長と話し合った末、APA著作 多 さからしても確 かであろう。そして 45 権相談室を通じて顧問弁護士である 勝ち得た価値はと言えば、その金額と 46 三戸岡先生にこの問題を引き受けて は比 べるずべもなく大 なるものがあっ 0 9 連載 著作権を知ろう!−2 同一性保持権 広告写真の現場から 著作権法第20条「著作者は、その著作物及びその題号 すが現実に即して考えるとなんか変なのです。我々写真 の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれ 家の写真は、ノートリミングで使用されるとは限りませ らの変更、切除その他の改変を受けないものとする。 」と ん。自主的な制作物なら可能かも知れませんが、他者と 規定し、第2項で教育目的の利用など適用除外を4号定 の共同作業の多いものほど意に反して妥協しなければ めています。これは著作者人格権のひとつとして、著作 ならないものです。制 作 過 程 の依 頼 者 の注 文 について 物 の内 容 や題 号 を勝 手 に変 えることを禁 止 する権 利 は、意に反して勝手なことを言われます。表現を変えて (同一性を保持する)と言われています。著作物は思想、 くれ、色を変えてくれ、トリミングしてくれなど、これは または感情を創作的に表現したもので、その完全性を どうなんだと言いたいところです。現実社会では著作権 保持することによって、著作者の人格権を保護すると 法で決まるものではなく、いろいろな力関係で決まって 同時に、社会全体の文化的所産といえる性格もあり、 いきます。公表されたものでも裁判に訴えて争うのは大 文化の継承の面からも同一性を保持する必要があると 変です。法的保護に値することを主張し、自分の意思に 解釈されています。 反していることを訴えて、気分・体力・財力の勝負とな ここでは法律の解釈については専門家に訊くこととし るでしょう。 て、 「意に反して」ということを考えてみたいと思います。 現行法は、著作者の人格権を認めると規定しているの 「意に反して」と言うからには、著作者の主観で判断し ですから、意 に反 してなどと言 わないで、もっとはっき ていいと読めるから、その判断が恣意的、独善的なもの りと条文に規定しないと、この種の疑問が次々に生れ であっても、駄目なものは駄目と言っていいと思われま てくるように思います。著作権法は著作物を保護し、社 す。ところが、法律書の中では、本状における「意」とは 会に役立てようという法律だと思います。何をどう保護 著作者の意思として法的保護に値するものを指し、恣 するのか、もう一度我々も考えないと、意に反したもの 意的・独善的な意思は含まれないと考えられると書い になると思うのは筆者だけでしょうか。 堀切保郎 てあるのです。この条文は一見あたりまえに読めるので 知的所有権部副部長 パブリックドメインとは? 今春、アメリカで出される著作権の判決が注目されています。 カが建国された当時の著作権思想である「パブリックドメイ それは著作権の保護期間についての争いです。著作権の保 ン」です。これは誰かが発案したものであっても、人類共通の 護期間は日本では著作者の死後50年(映画・法人著作・無 財産とすれば自由に使うことができ、より人類が発展すると 名や変名の著作物は公表後)とされていますが、これは各国 いう考え方です。要するに著作権の保護期間はできるだけ短 で違いがありアメリカでは70年と定められています。伝統的 い方がよいということです。確かに我々が作り出す著作物は な文化のなかったアメリカは映画、音楽や写真といった新し 既製の何らかの著作物の影響を受けています。純粋なオリ い文化の育成に力を注いできた歴史があります。その結果、 ジナリティはほんの少しかも知れません。人類的な広範な視 例えばディズニーのミッキーマウスの保護期間は、切れそう 野から考えるか、狭義的に保護を考えるか難しい問題だか になると関係団体の陳情によって、法律の改正が行われて らこそ世界中が注目したのです。結果はパブリックドメイン 延ばされてきました。一方では、人類の文化的創造には長い の負けでした。 柳澤俊次 著作権の保護期間は無益だと考える、市民団体がITの発達 によって増 大 してきたのです。その人 たちが望 むのはアメリ 1 0 知的所有権部部長 1 2 3 4 5 6 著作権をめぐる団体活動 7 8 日本の著作権は文化庁が主導で運用されています。著 じの方も多いはずです。現在の日本では法律の改正に 9 作権全般を扱う団体には日本著作権協議会や著作権 よって届け出るだけで仲介業務を行うことができます。 10 情報センターなどがあり、啓蒙や普及に力を入れていま そこで色々な分野がJASRACを目指しています。しか 11 す。これらには著作物を生み出す各分野の団体が参加 し、写真の世界では一人の作家が作り出す作品の数が 12 していて、APAは日本著作権協議会の会員となって理 膨大で、困難な面が多いと考えられています。写真の著 13 事を出しています。著作権に関係する団体は音楽・美 作権団体は保護期間の延長などの運動をした全日本写 14 術・文芸・出版・写真・映画・放送といった代表的なもの 真著作者同盟が解消して、現在では日本写真著作権協 15 から学 会 誌 ・ キャラクター・ グラフィックデザイン・ 詩 会(JPCA)が7団体と個人信託会員の参加によって運 16 歌・実演・CM・テレビ番組・ビデオ・翻訳・漫画・レコー 営 されています。A P A では4 名 の理 事 を出 していて、 17 ド・録音・脚本といったものまであり、新しいものにはコ JPCAを通じて文化庁が主導する各会議にも参加して 18 ンピュータープログラムやソフトといった分 野 がありま います。今春にはホームページが立ち上がる予定で、一 19 す。会員の著作物を管理する仲介業務を行う団体とし 層の活動の活発化が必要とされるところです。 20 て有 名 なのが音 楽 の日 本 音 楽 著 作 権 協 会( 通 称 21 JASRAC)です。カラオケの音楽使用料の徴収はご存 柳澤俊次 知的所有権部部長 22 23 24 25 文化庁の政策 26 27 文化庁は「一億総クリエーター」 「一億総ユーザー」の時 はここから始 めなければならないのです。そこで日 本 写 28 代にどのように著作権法を適用させていくかの課題に 真著作権協会(APAも構成メンバー)では、写真著作 29 取り組んでいます。そこには法律ルールの整備(権利の 権者の確定(著作権者のID化)の推進に着手しました。 30 ルール・例外のルール)・円滑な流通の促進(契約シス 「だれに」の部分を早急に整備しないと先に進めないの 31 テムの改善・IT活用の促進)・国際的課題への対応 です。自 分の名 前に番 号が付くのには抵 抗があるとお 32 (海賊版対策・国際ルールづくりへの参画)・教育の充 もわれますが、大量のコンテンツIDを処理するには基礎 33 実(学校教育・総合的普及啓発)・司法救済制度の充 をきちんと整 備 しなければなりません。これを行 うこと 34 実(裁判手続の改善等)など5つの分野を戦略として掲 によってデータの交 換 E D I : E l e c t r o n i c D a t a 35 げています。これらの問 題 を総 合 的 に研 究 開 発 する場 Interchangeに進むことができます。写真が閉ざされ 36 として、ネット上の「バーチャル著作物マーケット」の実 た世界にいることは不可能です。権利情報の管理方法 37 証実験に着手します。多種・多様・大量の著作物を広 の確 立( I D 化 、E D I 化 、D R M : D i g i t a l R i g h t 38 く活用する場を設け、その中で諸問題を解決へ導こう Management 39 という方 向だと思 います。色 々 な問 題 提 起があったな (利用許諾料率の確立)へ 、また権利保護方式の確立 40 かで、小学校へ著作権啓発の授業へ行ったら子供達か (電子透かし、探索ロボット)から違法コンテンツ対策 41 ら「どこの誰にお金を払えばいいの?」と訊かれ困った へ 、この先、解決しなければならない問題が多数あるこ 42 という報告がありました。音楽はJASRACに連絡すれ とを認識し著作権の活用に道筋をつけていきましょう。 43 ばなんとかなりますが、写 真 はどうするのですか。これ 44 に答えるのは現状では大変です。写真の著作権の活用 の標準化)から契約システムの確立 堀切保郎 45 46 1 1 知的所有権部副部長 Information 蔵入りとなりましたが、不採用の場合 よく聞く話です。写真家は直ちにデザ のギャラの支払いは済んでいましたか インプロダクションに問 い合 わせ、広 ら、 このままなら何 のトラブルにはな 告代理店で事実を確認しました。クラ らなかったでしょう。 ところが写 真 家 イアントの求 めに応 じてポスターが製 撮影の仕事から三年もの月日が流れ の知らないところで事件は起きていた 作されたのは、撮影から数カ月後のこ たある日、突然に多額の賠償金を求め のです。その事件とは著作物の無断使 とでした。著作権と肖像権が無視され る電 話 が鳴 ったとしたら、 あなたはど 用と契約違反による肖像権の侵害に たのです。写真家に重大なペナルティ うしますか。 これからご紹 介 するのは 当たるものでした。写真家は三年も経 ーはないのですが、あるとすれば不 採 著作権相談室に持ち込まれた相談で、 ったある日 、 アメリカからの電 話 でそ 用 になったポジをそのままにしたこと 誰 もが同 じ立 場 になる可 能 性 を秘 め の事実を知り、悩みの日々が始まった でしょうか。長年の取引相手でつい気 た実話です。 のです。 それはひどいもので何 とカタ が緩 んだのが不 幸 に繋 がったのです。 ある写真家が、一流企業の海外向けカ ログどころかポスターに使 われていた アメリカからの請 求 額 は5万 ドルでし タログの撮 影 を行 ったのは、 ロサンゼ のです。 それも世 界 に向 けたポスター た。当然、請求書は窓口になっていた ルスでした。日本の広告代理店やデザ でした。 発 覚 したのはモデルの友 人 が 写真家に来ました。 インプロダクションが絡んだ仕事の内 オーストラリアの店 に貼 られていたポ 相談を受けた知的所有権部では、初の 容は、現地で採用した女性モデルを撮 スターを発 見 して、 ビデオに収 めてき ケースに悩 みました。現 地 のコーディ ること。こんな場合、ロケの手配やモデ たからでした。 モデルは直 ちに肖 像 権 ネーターを通 しての賠 償 の減 額 交 渉 ルのキャスティングの仕切りは色々な の侵 害 としてビジネスマネージャーを は訴訟に踏み切ると強硬でした。その ケースがありますが、 その仕 事 では写 雇って、日本の窓口であった写真家に 上 コーディネーターさえサジを投 げる 真家が現地のコーディネイターを雇い 賠償金の支払いを求めてきたのです。 始末でした。訴訟になれば肖像権を重 任 せました。 しかしオーディションで アメリカのビジネスマネージャーとは、 んじるアメリカの実 情 を考 えれば、ど 一 人 のモデルに決 定 できないまま、 数 ビジネスのトラブルの解 決 屋 で、 多 く う考えてもこちらに勝ち目のないこと 人を撮ることになったのが事件の導火 は弁護士の資格を持っているようです は明 らかです。またアメリカでの裁 判 線 となりました。 後 に問 題 となったモ が実 態 はよくわかりません。 ただ多 額 となり、賠償金や裁判費用も莫大なも デルの写真はクライアントの決定でお の賠 償 金 目 当 てに暗 躍 しているとは のになると予 想 されました。このケー 大きな落とし穴 スでは写真家が今後もクライアントと 良好な関係を望んでいましたので、要 求を飲むしかないとの結論を出しまし た。結局、肖像権に関する違約金と慰 謝 料 がアメリカのビジネスマネージャ ーに支払われました。そして著作権侵 害については、将来を考えて不問に伏 せられました。 私たちもいつ何時、大きな落とし穴に はまるかも知 れません。十 分 に気 をつ けたいものです。 柳澤俊次 1 2 知的所有権部部長 1 2 書評欄の写真集 のです。当然作者は新聞社へ抗議し、抗議文 したが、著作権侵害にならず報道の自由の範 を作り訂正をすぐに掲載することを求めまし 囲 と考 える。このような不 快 なことがないよ た。この顛末は写真家にとって不愉快なもの うに、編集方針について話し合いの場を持つ 新 聞 に書 評 欄 があるのはご存 知 と思 います と思います。 ことは吝かでないというものでした。この中で、 が、写 真 集もよく取 り上 げられます。写 真 集 このトラブルで、新 聞 の書 評 がどのように書 作者の紹介や制作過程の報道は事実確認を は発行部数も少なく、紹介してもらえば売上 かれているか、その一端に触れておきます。抗 取るべきで記者として未熟、モラルの問題と げに有 利 と考 えられます。ここである写 真 家 議の内容はだいたい次のようなものです。 いう意見もありました。 作者の紹介や制作過程の事実確認はどのよ 強い抗議の結果、後日、事実と違う箇所すな る)の体験を報告します。 うに行うのか。また、批評をどのように考えて わち「若手写真家、 、 、 」と「暇を持て余す旅行 写真集は、ヨーロッパ大陸の突端を見たいと 掲載しているのか。基本姿勢を問いました。次 者、 、 、 」の記述の部分が訂正されました。 いう思 いで、風 の吹 くまま、気 の向 くまま、6 に、カラーの写 真 集 をモノクロで掲 載 するこ 最後に担当したものとして感想を書いておき 万キロを駆け抜け、旅をしながら出会った風 との許諾は取るべきではないか。イメージを損 ます。書評は文章として成立しているので事 景を大切に持ち帰った作品集です。2000年9 なわないよう配 慮 すべきと申 し入 れ、トラブ 実誤認と思われる記述から写真を読み解く書 月より1年間パリに住み、もろもろの制約や束 ル回避の方法の話し合いを求めました。われ き方は、例え書評として良く書かれていても 縛を受けないよう、あえてスポンサーを考えず、 われとしては書評というものにあまり配慮し 全体として読者を、すなわち写真を見るもの 写真本来の魅力を最大限引き出すことを考 ていなかった反省から複数の新聞社に意見を を誘 導 したことにならないか心 配 です。新 聞 えて、自費出版を選択した写真集とのことで 聞きました。 社は例え書評でも事実確認はすべきであり、 す。作者の思い入れが強く反映されたものと 結果から書きますと、書評は写真集の批評で 写真のモノクロ、カラーの表現の違いを印刷 思います。 あるから、自由に書くことを大前提としてい の制約にするのはちょっと違うと思いますが、 ところが、書評欄に書かれた文面では、 「修行 る。そうしなければ批評という行為が成立し 皆様のご意見をお聞きしたいと思います。 の場所を欧州に求めた若手写真家が、、、」 「暇 ない。したがって事実確認もしていない。 を持て余す旅行者は、、、」で書き出されている 次に発行された写真集の写真を許可なく掲載 ネット犯罪の摘発 関係の写真家であると偽って、女性とチャ けでした。それがある時 に新 聞 に摘 発 の記 ットの遣り取りをしている愚弄者がいるな 事が出ていました。事件として立件できる 著作権や肖像権の活字が新聞等でよく見 どの問 題 を検 討 してきました。これらの問 じゃないか、我々の努力も間接的であれ報 られるこの頃ですが、昨年の九月に日本で 題をとりあげた真意は、著作権法違反や肖 われた気分を味わいました。 は珍しい著作権法違反容疑(写真集から写 像権侵害の事例でも刑事事件として立件 真を無断で配信)の逮捕者が出た記事が出 することで社 会 に警 告 したか ました。これはA P A も含 めていろいろな著 ったからです。何度も警視庁ハ 作権関係団体が、個別にですが、違反者に イテク犯罪課や生活経済課に 対するきちんとした対応を要請していた結 足を運びました。担当者から返 果によるものです。我々APAは四年前から ってくる言 葉 は「 日 本 では検 警視庁へ行き、会員の写真集の写真がアダ 挙 事 例 が無 いのが現 状 です。 ルトサイト等に無断使用されている実体を その違 法 者 のアドレス宛 に警 報告したり、又ある写真家の写真をPC上 告 文 を出 しなさい。 」と言 われ に掲 載 して、あたかも自 分 がファッション るだけで空 しく引 き上 げるだ 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 (ベテランの我々ならお名前を存じ上げてい 1 3 堀切保郎 小杉俊幸 知的所有権部副部長 知的所有権部担当委員 連載 著作権相談 case 2 金沢文春氏 の場合 バイク写真事件 金沢文春 (社)日本広告写真家協会正会員 初秋のある日、都内の公園へロケに行 くと、案の定多くの同業者が撮影して いた。 「金 沢 さん写 真 集 出 たの知 って ます?」不 意 に声 を掛 けられたその先 に、数カ月前に休刊したバイク雑誌で お世話になった元編集者がいた。聞い てみると、その雑誌で私が13年にわた って撮 影 を担 当 していた連 載 を一 冊 にまとめたものだという。寝 耳 に水 だ が仕 事 中 だったので挨 拶 もそこそこ に、撮影にもどった。 一週間後、都内の大型書店で買い求 めたその書籍は、私と他数人のカメラ マンの写 真 と、モーターサイクルジャ ーナリストの文章をリメイクした旧車 紹 介 の書 籍 であった。調 べてみると、 私の写真は、全112ページ中、80パー セントを超 える74ページ、488カット もの写 真 が使 用 されていた。もちろん 残 りのページには他 のカメラマンの写 真 が。彼 等 にも聞 いてみたが、やはり 出 版 されたことは、だれも知 らないと いう。 「面 倒 なことになった」心 のなか でつぶやいた。 その編集部の撮影システムは、フィル ムを編集部が用意する、撮影後の生フ ィルムは編集者に渡し、編集部が取り 引きしている現像所に出す、カメラマ ンは仕上がりチェックの後、写真を編 集部に置いておく、というものである。 読者の中には、 「そんなシステムがある の? 」と驚 くかたもおられるだろうが、 雑 誌 の世 界 では結 構 見 受 けられるシ 出版された書籍と連載をしていた雑誌。 ステムである。当然編集者は手許に写 1 4 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 真があるので、気軽に二次使用、無断 9月下旬、金額に納得出来なかったの 14 使用ができるという寸法だ。 でAPA著作権相談室に相談。写真の 15 さて、今回の件を時系列で追うと。 引揚げ、交渉の仕方、二次使用料のア 16 7月下旬書籍、発売。 ドバイスをいただく。 17 9月初旬、元編集者の指摘により発覚。 10月上旬第2回目話し合い。 18 すぐ担当者Aの上司Bに抗議、相談。 10月下旬3回目の話し合いをもって書 19 調査のうえ話し合いを約束。 (上司B 面による謝罪と、ほぼ希望どおりの二 20 は担 当 者 A よりすでに各 カメラマン、 次使用料の提示を受け承諾、一件落 合いをつけていくしかないと思う。 21 ジャーナリストの承 諾 はとってあると 着。 最 後 に、話 し合 いは、なんの後 ろ楯 も 22 の報告を受けてあるとの発言。 ) 今回の経験では、いろいろな思いがよ ない一 介 のフリーカメラマン私 1人 に 23 翌日入れ違いで担当者Aより7月1日 ぎる。著作権無視の書籍といえ、13年 対して中堅出版社、先方4人、という 24 の日付入り、二次使用のお願いと題す 間お世話になった出版社のこと、雑誌 非常に心細い状況で数回行われたが 25 る書 面 、および承 諾 書 、が届 く。内 容 業界にはよくあることだが、無断二次 APAの著作権相談室、三戸岡弁護士、 26 は、出版界の慣例で出版後のお願いに 使用。事後承諾。材料費は編集部が出 知 的 所 有 権 部 メンバーの皆 さんのお 27 なったという、理 解 不 能 な内 容 の、お しているから、ギャラは払 っているか かげで、精神的に優位な気分で交渉で 28 詫び文と二次使用料約7万円、の提示 ら、写 真 はこっちのもの、と思 ってい きたと確 信 している。また、他 のカメ 29 (74ページ、488カットで、この金額で るたくさんの編 集 者 。折 りに触 れ、い ラマンの二次使用料も適正な 30 ある。 ) ろいろな編 集 者 に著 作 権 の話 題 を振 金 額 に訂 正 されたことも報 告 31 後日、第1回目の話し合いで先方は、 ってみるが、理解してくれる人、まった します。 32 全面的に非を認め口答で謝罪、担当 く無視、半々といったところだろうか。 33 者Aの著作権に対する認識不足と怠 そして無視とする場合は、編集部や会 34 慢 が原 因 と釈 明 。 (しかし、担 当 者 A 社の方針であることが多いような気が 35 は、編集長であり出版社も中堅で名前 する。マスコミやジャーナリズム側 が 36 も通った会社であり、著作権のことを 著作権を無視する矛盾。カメラマン側 37 あまり知 らないというのも、信 じがた も自 分 を含 め、事 をあらだてて揉 め6 38 い。 )写真二次使用料、30数万円プラ 事を起こすよりは、少々の無断二次使 39 スアルファを提示。 用 はあきらめているというのが実 情 40 だ。 41 このような問題をお互いに起こさない 42 ようにするのは、APA著作権レポート 43 Vol.01にも書 かれていたが 「はっきり 44 しない日本人 」をやめるということだ。 45 日常的に著作権に対する自分の考え 46 をクライアントに示 したうえで、折 り 1 5 者→印刷→編集者)だが、最近は出版界 発達と経済の発達は先ず新しい物を生 でも編集プロダクションの発達が別の問 産し新しい広告をする。そんな時代には 題も発生させている。編集プロダクショ あまり繰 り返 すことはなかった。しかし ンが企画を出版社に持ち込む場合があ 時代は変わった。写真家は古い日本に安 る。手持ちの材料として最初とは別の出 住するなと言いたい。 著作権相談室に持ち込まれる相談で最 版の企画出版物に使用してしまう。写真 善意の第三者という言葉を知っている 近目立った問題は、撮影時の使用目的 家は最初の出版物(社)の依頼としか考 と思う。例の盗品を質に入れてそれを持 とは別の媒体への無断使用、いわゆる流 えていないのだが、出版界の構造変化に 主が発見しても質に入れた金額を支払 フィルム・ データは 必ず返してもらおう 知財まもる 用 問 題 だ。その原 因 はフィルム・ データ わないと持主に物が返らない話しだ。質 の預けっぱなしに根っこがある。 屋さんは盗品と知らなかったから善意で 永 年 付 き合 って来 たデザイナー担 当 だ から信用していた等“日本的”な付き合 いの中で自分の財産を放置、無管理す ぎであるが、それにしても自 分 の付 き合 いの中で返却を求めるのは“言いにくい” のも事実であるのだが、 、 、 。別の角度から モメない ための 第一歩 金 を貸 したのだからという話 しである。 広告主は代理店や制作プロダクション から再使用してもいいですと了解を得て いるよ、当然写真家に話しをしていると 思 った。当 社 に非 は無 い。当 然 である。 代理店、制作プロダクションにクレーム を付 ければ、担 当 者 がいる。さーどうす 見ると再使用したくなる写真映像だか ら再使用されてしまうのだ。写真家は自 対して自分の財産を守る(著作権は財 る、不 況 である。そのうち制 作 プロダク 信を持って良い物を提供しているのだか 産だ)意識が無さ過ぎるのはなぜか。 ションは倒 産 している。せっかく弁 護 士 ら。再使用させる気分を写真家が起こさ 島 国 日 本 のせいだけでは語 れない問 題 先生に依頼しても相手側から破産管財 せているのではないかとやぶにらみの方 である。 人 が出 て来 たなんてこともあった。それ 向から言いたくなるのだ。再使用や流用 広告の場合はもっと複雑である。広告主 につけても自分の財産を預けっぱなしが の原因は写真家自らが作っているのだ。 側 から考 えれば“ウチの広 告 ”の為 に特 原因だ。自分で原因の元を作らぬよう注 出版の場合、写真原稿が渡って行く経 注で写真制作をしてもらったと思うのは 意、注意! 路は広告の場合より比較的簡単(編集 当然だ、だから“ウチの物”だと。産業の 著作権相談室の ご案内 因のひとつです。 ■利用方法 私たちはすでに、何件かの相談を解決 ・相談内容を文書にて事前にAPA事 してきました。トラブルでお悩 みの方 、 務局に提出して下さい。 (書式自由 APAでは平成10年('98)年から担当弁 著作権について知りたい方はぜひご相 連絡先は欄外を参照) 護士による著作権の相談窓口を開設 談ください。 ・内容精査の上相談日を決定し通知 しています。 ■インフォメーション ・相談日に個別面談を実施します。 ほとんどの場合、口約束だけで仕事を ・相談日 毎月第4木曜日(変更にな ・急を要する件については電話にて対 る場合があります) 始める事が多い私たちは、契約書を交 わす習 慣 が余 りないので、ビジネス・ ・場 所 APA事務局(2F APAルーム) トラブルや知 的 所 有 権 の侵 害 に知 ら ・利用資格 ぬ間 に遇 うことがあります。またマル ・相談料 無料 チメディアの発 展 でインターネット上 ・担 当 三戸岡耕二(担当弁護士) APA会員に限る 応します。 ・調査費用や訴訟その他の費用など 別途発生するものは相談者負担と なります。 での知的所有権の侵害や無断使用、 柳澤俊次(部長) その他、数多くの新しい問題も起こっ 飯泉博基(副部長) ています。これらは著作権思想の普及 堀切保郎(副部長) や啓蒙がまだ足りない結果といえます 石田研二(担当委員) が、著作権者である私たちの無知も原 小杉俊幸(担当委員) APA著作権レポート vol.02 ©APA2003 Printed in Japan 本誌掲載の写真・記事の無断転載を禁じます。 発行日 2003年(平成15年)3月31日 発行所 社団法人 日本広告写真家協会 〒104−0045 東京都中央区築地2−11−3 ヒロシゲビル4F TEL.(03)3543−3387 FAX.(03)3543−3317 http://www.apa-japan.or.jp 発行人 藤井秀樹 編集人 柳澤俊次 編集 社団法人 日本広告写真家協会 知的所有権部 印刷・製本 ホクエツ印刷株式会社 1 6
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