. . ( . ): ∼ シンポジウム Ⅴ アミオダロンと ICD 松 田 直 樹* AVID ・Vfまたは血行動態の不安定な持続性VT ・左室駆出率40%以下 ・1,016例 はじめに 現在,基礎心疾患を有する持続性 VT (心室頻拍) ,Vf (心室細動) に対する治療の第一選択は ICD(植込み型 除細動器)である. 1.0 ICDグループ 0.8 致死的不整脈患者の予後についてアミオダロンと ICDを比較し,ICDの優位を実証したのが AVID trial1) であった.すなわち,Vfまたは血行動態の不安定な持 続性 VTで左室駆出率4 0%以下の10 ,1 6例を ICD群と抗 0.2 不整脈薬群(うちアミオダロンが9 6%)に割り付けた結 0.0 0 果,図1のごとく前者で有意に総死亡が少なく予後を p<0.02 抗不整脈薬グループ アミオダロン:96% 生 0.6 存 率 0.4 1 2 3 (年) 図1 ICD群と抗不整脈薬群における生存率の比較 改善した. 日本でも同様のことがいえるのか.ICD患者にアミ オダロンを併用した場合はどうであるのか.自験例の 内服できないか,あるいは中止したものが2 2例 (AMD データから,致死的不整脈に対する ICD治療における 中止群) であった. アミオダロンの位置付けを検討する. 結 対 象 果 平均観察期間は41 . ±34 . 年で,84例 (2 5%)が死亡し, 対象は,198 6年から2 0 0 1年に当院に入院した持続性 突然死が2 7例(80 . %),心不全死は3 3例 (98 . %) であった. 単形性 VT 28 5例,持続性多形性 VTまたは Vf 51例の 突然死の発生率は,AMD単独継続群では AMD中止 計336例である.ただし,カテーテル・アブレーション 群に比べ有意に低かったが,ICD群では1例しか突然 成功例は除いた.平均年齢5 5±14歳,男性27 8名,女性 死はなく,ICD群では突然死をほぼ完全に予防するこ 58名.心筋梗塞後10 8例,非虚血性心疾患2 2 8例で,非 とが示された (図2) . 虚血性心疾患の内訳は DCM(拡張型心筋症) 1 05例, さらに総死亡についても,AMD単独継続群は AMD HCM(肥大型心筋症) 3 2例,ARVD(催不整脈性右室異 中止群に比べれば死亡は少ないが,ICD群ではそれ以 形成症) 3 3例,他の心筋症1 8例,弁膜症1 4例,その他26 上に死亡が少なく,両者の間に有意差を認めた (図3). 例である.平均左室駆出率 (LVEF) は3 8±15%で, 164 同様の検討を AVIDの対象である血行動態が不安定 例 (4 88 . %) に失神の既往があった. な VT/Vfで,かつ左室駆出率4 0%未満のグループに 336例のうち,最終的に ICD植込みを行ったのは1 98 絞って行っても,AVIDと同様,ICD群の予後はアミオ 例 (ICD群) ,ICDを植え込まずアミオダロンを継続内 ダロン群よりも良好であった. 服したのは11 6例(AMD単独継続群),アミオダロンを ただし,AVIDでは,ICD群の約15%で最終的にアミ オダロンを内服していた.われわれの ICD群1 9 8例の * N. Matsuda:東京女子医科大学日本心臓血圧研究所循環器内科 0287―3648/03/¥500/論文 /JCLS 中でも,9 7例においてアミオダロンを併用していた. そこで,ICD植込み例に対して,アミオダロンを併 ― ( 1333)― . 突然死 総死亡 ICD群 1.0 1.0 p<0.001 0.8 p<0.01 AMD単独継続群 生 0.6 存 率 0.4 生 0.6 存 率 0.4 p<0.01 AMD中止群 0.2 0.2 0.0 0.0 0 1 2 3 4 5 ICD群 0.8 6 (年) AMD単独継続群 0 1 2 3 4 5 6 (年) 図3 総死亡率の比較 図2 突然死発生率の比較 表1 ICD植込み患者の背景 総死亡 1.0 AMD併用群 非併用群 97例 101例 平均年齢 (歳) 55±13 56±16 NS 性別 (男 /女) 79/15 78/23 NS 左室駆出率 (%) p<0.005 AMD中止群 AMD併用群 0.8 36±15 39±15 NS 心筋梗塞 拡張型心筋症 29例(29%) 32例(33%) 33例(33%) 24例(24%) NS NS 心室細動 15例(16%) 18例(18%) NS 失神発作 53例(55%) 52例(51%) NS p<0.01 生 0.6 存 率 0.4 AMD非併用群 0.2 0.0 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10(年) 図4 ICD植込み例におけるアミオダロン併用の有無と予後 LVEF≧40% LVEF<40% AMD併用群 1.0 1.0 NS 0.8 AMD非併用群 生 0.6 存 率 0.4 AMD併用群 0.8 生 0.6 存 率 0.4 0.2 * AMD非併用群 0.2 * 0.0 0.0 0 2 4 6 8 10(年) 0 :p<0.01 2 4 6 8 10(年) 図5 ICD植込み例におけるアミオダロン併用の有無と予後 (心機能別の比較) 用することの意義について検討した.アミオダロン併 用群,非併用群の背景を比較すると,平均年齢,性別, 左室駆出率に差はなかった.また,基礎心疾患の種類, 心室細動の有無,失神発作の有無にも両群で有意差を 認めなかった(表1) . 心不全死 1.0 0.2 併用の有無に分けて示す.非併用群の1 0年生存率が 0.0 3 9%であったのに対し,併用群では8 6%と,後者の予 これを心機能が比較的良好な例 (LVEF≧4 0%) と低 p<0.05 生 0.6 存 率 0.4 図4に,ICD植込み例の累積生存率をアミオダロン 後が有意に良好であった. AMD併用群 0.8 AMD非併用群 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10(年) 図6 ICD植込み例におけるアミオダロン併用の有無と予後 (心不全による死亡頻度の比較) ― ( 1334)― 第7回アミオダロン研究会講演集 ショック作動からの回避曲線 すべての適切作動からの回避曲線 1.0 1.0 0.8 0.9 AMD非併用群 生 0.6 存 率 0.4 AMD併用群 生 0.8 存 率 0.7 AMD併用群 0.2 AMD非併用群 0.6 0.0 0 1 2 3 4 5 6 (年) 0 1 2 3 4 5 6 (年) 図7 アミオダロン併用の有無による ICD作動状況の違い (%) 100 p<0.05 (%) 30 AMD併用群 p<0.03 25 20 AMD非併用群 25.7% その他 13.4% 非持続性VT 15 洞頻脈 50 10 1 2 3 4 心房性頻脈性 不整脈 5 (年) 5 図8 連続作動(electrical storm) からの回避曲線 0 AMD併用群 AMD非併用群 図9 不適切なショック作動の頻度 下例(LVEF<40%) に分けて比較すると,LVEF≧ 40%群では併用群,非併用群で差はみられなかったが, LVEF<4 0%群では併用群の生存率が非併用群に比べ を過ぎても electrical stormのあった患者の死亡率は 有意に大であった(図5) . 19 . 倍になっている.われわれの例でアミオダロン併用 では,なぜ心機能低下例では ICDにアミオダロンを の有無による electrical stormからの回避を比較する 併用すると予後がよいのか.いくつかの理由が考えら と,併用群では非併用群に比し有意に electrical storm れる.まず,ICD植込み例における心不全による死亡 の頻度が少なかった (図8) . の頻度をアミオダロン併用の有無で比較した.併用群 ICDで問題となるのは不適切なショック作動である. では心不全死は3例であったが,非併用群では1 1例で この頻度をアミオダロン併用の有無で比較すると,併 あった.アミオダロンを併用することが心不全死を予 用群で1 34 . %,非併用群で2 57 . %と非併用群の方が2倍 防し,予後を改善している可能性が考えられる (図6) . 近く多かった.その内訳をみると,心房細動をはじめ また,アミオダロン併用の有無による ICD作動状況 とする心房性頻脈性不整脈は併用群では有意に少なく, の違いを比較すると,併用群,非併用群のいずれにお 非持続性 VTも併用群の方が少なかった.しかし,洞頻 いても3年間に半数以上の患者に適切作動がみられた 脈はほとんど同数であった (図9) .すなわち,アミオ (図7左).しかし,適切作動の中でもショック作動の ダロンを併用することにより,心房細動をはじめとす みで比較すると,併用群の方が明らかに作動例が少な る心房性不整脈,あるいは非持続性 VTに対する誤っ かった (図7右).ショック作動は,特に心機能低下例 たショック作動が減少することも予後に影響している では予後を規定する1つの因子だといわれている.ま 可能性がある. 2) た,AVIDのサブ解析 では,electrical storm (1日3回 一方,ICDとアミオダロン併用の短所として,アミ 以上の頻回作動)が ICD植込み例の予後を規定する独 オダロンによる除細動閾値の上昇が指摘されているが, 立した因子であると報告している.すなわち,electri- われわれの例ではアミオダロンを併用したために除細 cal storm後3カ月間は死亡率が54 . 倍になり,3カ月 動不可能となった例はなかった.ただし, 10 1例中4例 ― ( 1335)― . で,VTのレートが ICDの感知レート以下であったた 考えられた. め,ICDが作動しなかった.アミオダロン併用による VTの徐拍化が原因と考えられたが,設定の変更,ある いはアミオダロンの減量で十分に対処できた. ま と め ICD植込み例においてアミオダロンを併用すること により,生命予後が改善することが示された.その理 由として,①心不全の改善,②ショック治療の回避 (VTの徐拍化により高頻拍ペーシングの有効性を高 める),③連続作動の減少,④不適切ショックの減少が 文 献 1)The Antiarrhythmics versus Implantable Defibrillators(AVID)Investigators:A comparison of antiarrhythmic―drug therapy with implantable defibrillators in patients resuscitated from near―fatal ventricu57 6, lar arrhythmics. N. Engl. J. Med. 33 7:153 8―1 1 997 2)Exner, D. V., Pinski, S. L., Wyse, D. G. et al.:Electrical storm presages nonsudden death:the antiarrhythmics versus implantable defibrillators(AVID)trial. 71,2 00 1 Circulation 1 03:2 06 6―20 ― ( 1336)― 第7回アミオダロン研究会講演集 質疑応答 (筑波大学臨床医学系内科教授) 座長/山口 巖 外山 淳治(愛知県立尾張病院院長) (東京女子医科大学日本心臓血圧研究所循環器内科) 演者/松田 直樹 山口(座長) ありがとうございました.ICDにアミ ありました. オダロンを併用する例はかなり多いですが,その理由 しかし,先生のデータでは,作動の頻度はほとんど をきれいに説明してくださった発表だと思います. 変わらずに予後を改善しています.それがソタロール ただいまの発表につきまして,フロアからご質問を とアミオダロンの違いなのかと思って聞いていました いただきたいと思いますが,いかがでしょうか. が,ソタロールとアミオダロンの海外のデータと比べ 丸山(九州大) ICDとアミオダロンの併用に関して て,そのあたりの解離はどのようにお考えですか. 興味深く拝聴しました.併用することにより,同じⅢ 松田 まずこれは完全なレトロスペクティブなスタ 群薬でも除細動閾値が上昇するアミオダロンと,低下 ディで,アミオダロンを併用した主治医は,発作回数 する pureなⅢ群薬の違いは,同じ QT延長作用を介し が多いからアミオダロンも併用した例が多いと思いま ては説明がつきにくいと思います. す. ICDが放電する瞬時を考えた場合,電気生理的な意 そう考えますと,もともとの VT回数が多いわけで 味での refractory massが同じⅢ群薬でともに増大す すので,最終的に同じになることは,アミオダロンを るように思いますが,そのように単純には解釈できな 併用していた方が同じ母集団であれば作動回数は減少 いのでしょうか. できたと考えます. 松田(演者) 少なくとも pureなⅢ群薬は electrical 予後に関しては,私はアミオダロンについても,β massといいますか,wave lengthを大きくさせて mul- 遮断作用の効果が大きいと考えています.ソタロール tiple reentryの回路の輪を大きくし,除細動閾値を低 を投与しても rateが低下しますが,アミオダロンを投 下させることは間違いないと思います. 与したときも低下します. ただし,Naチャネル遮断などのそれ以外のアミオダ 私の経験では,特に重症な心機能が低下した患者さ ロンの作用が,閾値を上昇させているのかもしれませ んに対するソタロールとアミオダロンでは,ソタロー ん. ルの方が心不全の悪化が多いです.同じβ遮断薬でも, しかし,私どもが経験している範囲では,アミオダ 何かプラスの作用があるかもしれませんが,どこか ロンを投与して閾値が非常に上昇した経験はありませ 違っていると考えています. ん.中には低下したという報告もあります.ですから, アミオダロンの魅力はそういったところにあって, アミオダロンを投与すると,除細動閾値がどの症例で 予後を改善するのは単に VT抑制だけではなく,β遮 も上昇するということではないと考えます. 断作用の何かが少し違うような気がします. 栗田(国立循環器病センター) 大変きれいなデータ 栗田 そうしますと,プロスペクティブなスタディ で参考になりました.ありがとうございました. が日本で行われるべきだと思いますので,また今後, Ⅲ群薬と ICDの併用については様々なデータがあり 先生方の施設にもご協力いただきたいと思います. ますが,主にソタロールを使った大きな報告が2つほ それから,β遮断薬の併用は予後やショックの回数 ど出ています.それによりますと,ソタロールは ICD などに影響がありましたか. 作動を約50%減らしますが,予後はあまり変えないと 松田 本日はあえてβ遮断薬の併用については示し ― ( 1337)― . ませんでした.β遮断薬だけの併用でも,実はこれに 症例は効果が悪くなります. 近いデータになります.アミオダロンではなくて, 外山 ということは,両室でペーシングと併用する ICDにβ遮断薬を併用する方がモータリティなどでは と,より効果的にということですか. もっとよいデータになります. 松田 よいかもしれません. しかし,重症例に限ってはその3者を併用すると, 山口 現在,ICDを植え込んだ人に driver’s license さらに有効であるというのが私の結論です.3つ併用 を与えるかどうかが問題になっています.ICDを植え するとよいと思いますが,β遮断薬だけでもかなり効 込んで6カ月,1年のフォローアップで一度も放電が 果があります. ないという,そのあたりに焦点を当てた場合,アミオ 栗田 どうもありがとうございました. ダロン併用群と非併用群を比較したデータをおもちで 外山(座長) 非常にきれいなデータで感心しました. しょうか. 先生の臨床の印象としては,アミオダロンは心機能が 松田 もっていません.また検討してみます. 低下した人ほど心不全を改善する可能性というか,悪 外山 ありがとうございます.ぜひ出していただき 化していくのを抑制する可能性があるのでしょうか. たいデータだと思いますので,よろしくお願いします. 松田 本日は示しませんでしたが,慢性的に LVEF このシンポジウムを終わるにあたりまして,神谷先 を測定しますと上昇していきますし,患者さんの自覚 生,清水先生,土谷先生,山田先生,松田先生に深く 症状を分析しても,重症例の患者さんではアミオダロ 感謝します.アミオダロンはなぜ効くかということを ンを併用することによって,症状が改善する患者さん お聞きすること自体が,間違っていると最初からわ が出てきます. かっていましたが,若い先生方の考えをお聞きして, 抗心不全効果は,特に非虚血の DCM(拡張型心筋 まだアミオダロンの臨床的研究は宝の山であると思い 症)に対して十分にあると考えています. ました. 外山 どれが responderか,non responderかという 特に若い先生方には,アミオダロンあるいは amio- ことは今後の課題になるということですね.完全に心 darone like substanceに興味をもっていただいて,難 筋がへたってしまったら,効果がありませんね. 治性不整脈・心不全の治療に挑戦されることをお願い 松田 効果の予測については,1つは rateが速い方 しまして,このシンポジウムのまとめとします. が効果があります.QRS幅が非常に wideになっている どうもありがとうございました. ― ( 1338)―
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