. . ( . ): ∼ シンポジウム Ⅳ <心房細動とアミオダロン> 心機能障害例のアミオダロン抵抗性心房細動に 対する低用量ベプリジル併用の有用性 藤 木 明* 表1 患者背景 はじめに 心房細動(AF)を伴ううっ血性心不全患者において, リズムコントロールとレートコントロールの有効性を 比較したAF―CHF試験の結果が,2 0 0 8年に報告され た1).2002年のAFFIRM試験2)でも示されたように, リズムコントロールにより十分な治療効果を得るため には,AF改善による寄与度の大きい症例を選択する 必要がある.このような背景から心不全患者を対象に 実施されたのがAF―CHF試験であるが,結果的にリズ 症例数/男性例 (例) 10/7 年齢(歳) 5 5±15 持続性心房細動/発作性心房細動 10/0 拡張相肥大型心筋症 5 拡張型心筋症 3 陳旧性心筋梗塞 2 左室駆出率(%) 2 7±10 左房径(mm) 4 85 . ±45 . アミオダロン用量(mg/日) 1 80±4 2 (100∼2 0 0) ベプリジル用量(mg/日) 12 0±59 (50∼2 0 0) 観察期間(月) 147 . ±89 .(2∼2 4) ムコントロール群とレートコントロール群の生存率に 有意差は認められず,AF合併心不全患者の生命予後 に対する両治療の効果は同等とされた. しかし,本試験で報告された結果の解釈には注意を 対象と方法 要する.まず,リズムコントロール群における洞調律 対象は,心室性不整脈に対してアミオダロンを投与 維持率は8割前後にすぎず,残る2割では十分なAF されている心不全患者1 0例(男性7例,女性3例) で, 抑制効果が得られていない.しかも,洞調律維持例の 平均年齢は5 5歳である.基礎心疾患は拡張相肥大型心 中には多数のAF再発例が含まれており,本来のリズ 筋症5例,拡張型心筋症3例,陳旧性心筋梗塞2例と ムコントロールが成立していないと考えられる.一方, いう内訳であり,左室駆出率(LVEF)は2 7±1 0%,左 レートコントロール群では約4割もの症例が洞調律に 房径は485 . ±45 . mmと,心機能の低下が著しい患者群 復している.すなわち本試験では,反応性の良好な患 であった (表1) . 者に対してリズムコントロールを施行し,洞調律を維 これらの症例はいずれも持続性AFを伴っており, 持させることで予後を改善するという治療の効果が, アミオダロン単独では十分に抑制できなかったため, 適切に評価されたとは言い難い. ベプリジルを併用するとともに経過観察を行い,洞調 そこで今回,アミオダロン抵抗性のAFを合併した 律化の頻度および心電図指標の推移を検討した.ベプ 心機能障害例にベプリジルを投与し,両薬剤の併用に リジルの投与は,1 2誘導心電図におけるQT間隔なら よるリズムコントロール治療の有用性を検討したので びに徐脈の発生状況,血圧の推移などに留意しながら 報告する. 50 mg/日より開始し,徐々に増量した.投与量は平均 12 0mg/日と比較的少なく,経過観察期間は平均1 47 . カ * A. Fujiki:富山大学医学部第二内科 月(2∼2 4カ月) であった. ― ( 722)― 第1 3回アミオダロン研究会講演集 アミオダロン200 mç/日+ ベプリジル100 mç/日 洞調律化5日後 洞調律化1日後 13日後 E A E A V1 V2 図1 併用療法前後の心電図(症例1) E:23 cm/秒 A:51 cm/秒 E:32 cm/秒 A:29 cm/秒 図2 経胸壁僧帽弁血流(症例1) 症例呈示 1.症 例 1 4歳,女性.拡張相肥大型心筋症. 症 例:7 新たにVT/VF発作が生じたため緊急入院し,人工 経 過:自宅での心肺停止後に蘇生術を施行され, 呼吸管理下となった.アミオダロンを30 0 mg/日へと ただちに植え込み型除細動器 (ICD)を導入された.以 増量,同時にアプリンジン6 0 mg/日,およびニフェカ 降は約10年にわたり,アミオダロン20 0 mg/日の内服 ラント静注03 . mg/kg/時の併用を開始した.その後, を継続中.LVEF 2 5%の低心機能例である. 人工呼吸器から離脱すべく抜管を試みたところ,AF 最近になって動悸を主訴に来院,1 2誘導心電図で持 由来の頻脈からVTへの移行を呈したため,AFのコン 続性のAFが認められた.その後も外来にて経過を観 トロールを目的にベプリジル投与を50 mg/日より開 察していたところ,AFによる頻脈時にICDの不適切作 始,10 0 mg/日へと増量した.その結果,直流除細動 動が生じ,3 0 Jのショック治療がなされたがAFは停止 (DC)を施行するまでもなく洞調律への復帰が得られ しなかった. た. AF抑制目的にベプリジル5 0 mg/日の投与を開始し, アミオダロンは3 00 mg/日で継続,ベプリジルは さらに1 00 mg/日へと増量した結果,併用開始の約2 200 mg/日へと増量し,ニフェカラントは中止したが, 週後には洞調律化が得られた (図1) .QT間隔はやや延 ベプリジル開始の約2週後にQTc 05 . 8秒と延長を認め 長するも許容範囲内であった.洞調律復帰後に洞性徐 た.アミオダロンとベプリジルをともに中止したとこ 脈を来し,ICDによるバックアップペーシングを認め ろ,数日でAFが再発したため,アミオダロンは2 00 たものの,アミオダロン1 0 0 mg/日への減量にて対応 mg/日,ベプリジルは5 0 mg/日と減量再開し,その翌 し,ベプリジルとの併用は継続した.以降はAF再発や 日には洞調律化を認めたが,ベプリジルのみを中止す ICD不適切作動を認めず,良好に経過している. るとAFは再発した.最終的にはアミオダロン20 0 mg/ 本症例の細動周期は,アミオダロン単独投与時から 日,ベプリジル5 0 mg/日に加え,カルベジロール25 . 218 msと延長していたが,ベプリジル開始後(洞調律 mg/日の投与で抜管が可能となり,QT延長も許容範 復帰前)には231 msとさらに延長した.一方,洞調律化 囲内に抑えられたが,本症例はその後,肺炎から敗血 翌日の経胸壁僧帽弁血流ではA波が観察され (図2左) , 症性ショックを来して死亡した. 除細動後5日目にはさらに心房収縮は回復し (図2右) , 結 LVEFの軽度改善を認めた.本症例で得られた機械的 果 な心房収縮の早期回復は,ベプリジルを投与した他の アミオダロンとベプリジルの併用を行った1 0例のう 症例でも確認されている. ち,薬物治療で洞調律に復帰したのは6例で,洞調律 2.症 例 2 化に要した期間は2週間から1カ月程度であった.6 例中3例ではAFの再発を認めていない.少数例の検 9歳,男性.拡張型心筋症. 症 例:5 経 過(図3) :心室頻拍/心室細動 (VT/VF) の発作 討ではあるが,薬物により洞調律化に至ったこれらの に対し,アミオダロン2 0 0 mg/日の内服を継続中で 症例は,リズムコントロール治療への反応が良好であ あった.ICD植え込みは本人の同意を得られず未施行. るのみならず,心不全のコントロールも容易となる傾 LVEFは22%と低下しており,2年前からAFが慢性 向がみられた.ただし,6例中1例は心不全により死 化していた. 亡した (図4) . ― ( 723)― . ニフェカラント 0.3 mç/kç/時 アプリンジン 60 mç アミオダロン 300 mç 200 mç ベプリジル 200 mç 100 mç 50 mç 50 mç AF 2004/2/1 2/10 2/20 3/1 V1 V2 V3 QTc=0.46 0.58 0.46 図3 経過図(症例2) 表2 心電図指標の推移 アミオダロン+ベプリジル 併用療法 10 薬物治療による 洞調律化 6 電気的除細動による 洞調律化 4 心不全死 1 心不全死 2 アミオダロン投与時 ベプリジル併用時 RR (s) 08 . 7±02 .1 QT (s) QTc 04 . 2±00 .5 04 . 6±00 .4 09 . 8±01 . 8* 04 . 6±00 . 4* FCL (ms) 18 4±42 04 . 7±00 . 3 21 2±4 0* *:p<00 . 5 vs アミオダロン投与時. 図4 併用療法施行例の転帰 は併用前後で有意な変化が認められていない.一方, 細動周期はアミオダロン投与時に1 84 ms,ベプリジル 併用時に2 12 msと,約3 0 msの延長にとどまっており, Heteroçeneous conduction Loss of AV synchrony AF 非心不全症例に対するベプリジル投与で5 0 ms前後の 延長が認められることを考慮すれば,併用による延長 Altered atrial refractory properties は軽度であった.ただし,ベースラインとなる細動周 Rapid ventricular responses 期がアミオダロン投与により既に延長していた点は考 慮すべきであろう. Interstitial fibrosis HF 考 Variability of RR interval Volume and pressure load 察 心不全患者においては,AFの発生が心不全を増悪 図5 心房細動と心不全による悪循環 させるとともに,心不全の増悪がAFの発生・持続を 促進するという悪循環がみられる(図5) .一方,AF― 一方,残る4例は洞調律の回復にDCを要し,いった CHF試験ではリズムコントロール治療への評価が必 ん洞調律に復帰してもAFは再発した.また,4例中 ずしも高くなかったが,臨床診療では同治療に対して 2例は心不全死に至った (図4) . 良好な反応を示す患者が少なくない. 心電図指標の推移を表2に示す.アミオダロン単独 心機能が比較的安定している状態でAFを発症し, 投与時に04 . 2秒であったQT間隔は,ベプリジル併用時 悪循環の初期段階にある症例においては,リズムコン に04 . 6秒と有意な延長を示した.しかし,RR間隔も08 .7 トロールによるAFの抑制が奏効しやすいと考えられ 秒から09 . 8秒へと延長しているため,補正後のQTcに る.一方,心機能の悪化が進行し,その表現型として ― ( 724)― 第1 3回アミオダロン研究会講演集 AFが出現している症例においては,リズムコント ロールでの介入によって悪循環を停止させることが難 しい.すなわち,AFを伴う心不全患者に対してリズム コントロールを施行する場合は,反応性の良好な症例 を見極めることが極めて重要である. おわりに CHF―STAT試験のサブ解析3)では,LVEF 3 5%以下 の心不全症例にアミオダロンを投与した結果,約3割 の症例が洞調律に復している.これらの症例は,洞調 律化が得られなかった症例に比較すると,生命予後が 有意に良好であった.このような知見に基づき,心不 全症例における洞調律維持例の比率を高める治療とし て,アミオダロンとベプリジルの併用療法はさらなる 文 献 1)Roy D, Talajic M, Nattel S, et al;Atrial Fibrillation and Congestive Heart Failure Investigators:Rhythm control versus rate control for atrial fibrillation and 7 7. heart failure. N Engl J Med 2 0 08;3 58:26 67―26 2)Wyse DG, Waldo AL, DiMarco JP, et al;Atrial Fibrillation Follow―up Investigation of Rhythm Management (AFFIRM)Investigators:A comparison of rate control and rhythm control in patients with atrial fibrilla33. tion. N Engl J Med 2 0 02;3 47:18 25―18 3)Deedwania PC, Singh BN, Ellenbogen K, et al:Spontaneous conversion and maintenance of sinus rhythm by amiodarone in patients with heart failure and atrial fibrillation:observations from the veterans affairs congestive heart failure survival trial of antiarrhythmic therapy(CHF―STAT).The Department of Veterans Affairs CHF―STAT Investigators. Circulation 79. 1 998;9 8:2 574―25 検討に値すると考えられる. ― ( 725)―
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