M/新技術・新機軸 99.3.29 15:33 ページ 24 次世代カラー画像処理システム 「ViewLo」の開発 株式会社 つくばソフト研究所 代表取締役社長 内田 茂行 盛岡開発室 春木 亮二 1 開発の背景と経緯 たとえば、種々の画像要素を扱うための最も簡 易な方法として、ビットマップデータとして取り マルチメディア産業の発展にともない、さまざ 扱う方法がある。しかしながら、この方法は、画 まな画像をデジタル情報として取り扱うことが一 素値をそのままデータとして扱うため、データ量 般的となっている。近年、実施されるサービスは が膨大なものとなる。したがって、サイズの大き 多様化の一途をたどっており、デジタル画像とし な画像を取り扱うときには、メモリ容量および処 て取り扱われる対象も複雑化している。たとえば、 理時間の観点から、致命的な欠点となる。さらに、 イラスト、写真、文字など(以後、画像要素と称 ビットマップ演算を基礎としているので、拡大、 する)が混在するような画像を、普段の生活の中 縮小などの変形を行うと画像が乱れ、画質が著し で目にすることは当たり前となっている。また、 く低下する。 実施されるサービスも単に画像を再生するだけで ビットマップ法の欠点を補うために、現在では なく、画像の品質を保持したまま、任意の大きさ 変換符号化と呼ばれるさまざまな方法がトレンド で、自由なレイアウトによって印刷することなど となっている。変換符号化とは、数学の直交変換 が求められている。これらの要求を満たすために などの考え方に基づいて、冗長度の少ない軸に画 は、種々の画像要素を区別なく取り扱うことがで 像信号を変換してから圧縮符号化する方法である。 き、画像の変形に対しても高精細な再生結果を得 特に、離散的コサイン変換(DCT)を用いた符号 ることのできる画像符号化手法が必要となる。加 化は、静止画像の符号化方式として注目を集め、 えて、データ保存容量および処理時間削減のため それに基づいて考案されたJPEGは、静止画像の標 に、データ量が少ないことが望まれる。 準符号化方式となっている。しかしながら、古く 弊社の母体である印刷会社では、印刷工程のデ から指摘されているように、急峻な濃度変化を持 ジタル化を目指し、さまざまな画像要素を高品質 つような画像に対しては、ブロック歪みやエッジ なまま自由に扱うことのできるシステムを探し求 の劣化を生じるという欠点がある。このことは、 めてきた。しかしながら、趣味として利用できる 種々の画像要素が混在した画像の境界部分におい 画像処理システムは多々製品化されていたが、印 て、画質を著しく劣化させるので致命的な難点と 刷というシビアな世界に通用するシステムを見つ なる。さらに、DCTは拡大や縮小などの変形に対 け出すことはできなかった。 する品質が考慮されていない。 24 ︱eizojoho industrial M/新技術・新機軸 99.3.29 15:33 ページ 25 新技術・新機軸 探し求めたシステムが存在しないのであれば、 自ら開発を手がけようと、弊社は、上述の条件を 満たすことのできる画像処理システムの開発を目 指して、平成4年にベンチャー企業として誕生した。 以来、まず、2値画像のみを対象としたベクトル化 技術に基づく画像処理システムの開発を始めたが、 世の中のメディアの進歩は著しく、濃淡やカラー などの多値画像をも取り扱い得る画像処理システ ムの開発要求が高まってきていた。そこで、当時 筑波大学の講師であった堀内隆彦氏(現岩手県立 大学助教授)と数年前から産学協同を実践し、カ ラーおよび濃淡画像に対する画像処理システムの 開発を行ってきた。そして平成8年秋、多値画像を 対象とした画像処理システムの特許出願にまで至 ったのである。 図1 2 2.1 仮想アナログ空間の構築 Vectorization)と呼ばれるものである。次節で、こ 概要 のDV方式を説明する。 弊社の開発した、写真などのカラー画像に対す る画像処理技術の処理手順を図1に示す。一般に、 カラー画像は「輝度」あるいは「染料」といった 2.2 DV方式 濃淡のある画像をベクトル化する方法としては、 観点から、複数枚の濃淡画像に分解して表現され 画像全体を1度に関数によって表現する方法が考え ることが知られている。また、2値画像は、後述す られる。しかしながら、濃淡変化の激しい信号成 るように濃淡画像の特殊な場合として表現される 分を曲面として表現するためには、一般に高次の ことから、以後の説明は濃淡画像を対象として行 関数が必要となり、データ量および処理時間の双 うことにする。 方が増加する。 弊社が開発した新技術の骨子は、計算機の中に そこで、弊社が開発した方式では、まず画像の 仮想アナログ空間を構築することにある。すなわ 輝度変化の激しいエッジ部分を境界とするいくつ ち、デジタル情報として入力された画像データか かの領域に画像を分割する。図2(a)を入力画像 ら、計測器の観測によってデジタル化される前の とした場合、図2(b)に示すような、領域に分割 実世界の情景(アナログ空間)を、仮想的に推定 した画像が得られる(各領域内を平均濃度で表現 して計算機内に構築する方法である。 してある) 。そして、ベクトル化の第1段階として、 ViewLoでは、この仮想アナログ空間を連続な関 その各境界線(図2(c))を1変数関数として表現 数によって表現することにした。このとき、最も する。境界線を関数表現することによって、画像 重要な問題は、いかにしてデジタル情報から実世 の変形に対して境界部分の品質を保つことが可能 界の情景を推定するかということになる。弊社が となる。なお、弊社の方式では、近似関数として、 開発した推定方法は、2種類のベクトル化の方法を 区分的多項式(B-スプライン関数)を使用してい 併用することによって、画像全体のアナログ空間 る。この段階での実世界の推定は、この近似関数 を推定してベクトル化を行う「DV方式」(Dual の係数を求めることと等価である。デジタルな離 December 1998︱ 25 M/新技術・新機軸 99.3.29 15:34 ページ 26 散点を連続関数で近似する方法は種々提案されて いるが、弊社は「双直交近似」を採用した。この 方法は、一般に係数列を求めるために必要となる 方程式の逆行列を解く演算を要しないため、処理 時間が非常に短いという利点がある。また、近似 の収束評価には2乗誤差を用いた。 次に各領域において、画像の本質的な信号成分 のみを抽出した原子画像(図2(d))を新たに構成 する。この原子画像は、入力画像(図2(a) )と領 (a)入力画像 域内を平均濃度で表現した画像(図2(b) )との差 分によって表現される。ベクトル化の第2段階とし て、その原子画像を2変数関数として表現する。原 子画像は、もはや濃度変化の少ない平坦な画像と なっているため、関数として表現するその「推定」 は容易であり、結果として少ないデータ量で表現 できる。推定は、2変数B-スプライン関数の双直交 近似によって行われる。 このように、独自に開発した2種類のベクトル化 方法の併用によって、画像内のエッジ部分の滑ら (b)領域画像 かさと、画像の輝度変化の滑らかさを同時に表現 することが可能となった。 2.3 2値画像に対する処理過程 本稿で取り扱うシステムの目的のひとつは、さ まざまな画像要素を区別なく処理できることであ った。先述したように、本システムは、カラー、 濃淡、2値の各画像を入力段階で指定することなく、 すべて同等に扱うことができる。カラー画像の場 (c)境界線 合には、分解することによって濃淡画像の処理を 適用できることはすでに述べた。ここでは、2値画 像が入力された場合の処理過程について、簡単に 述べる。 2値画像が入力された場合、濃度変化の激しいエ ッジは、2値画像の輪郭に一致する。したがって、 領域は2種類(たとえば、黒と白)に分割される。 第1段階のベクトル化によって、2値画像のアウト ラインが自動的に関数表現される。次に第2段階の ベクトル化であるが、領域分割の画像が入力画像 (d)原子画像 図2 26 ︱eizojoho industrial と等価であるために、2値画像の原子画像はすべて の点において値が0となる平面画像となる。したが って、原子画像は関数近似を行うまでもなく、平 M/新技術・新機軸 99.3.29 15:36 ページ 27 新技術・新機軸 面としてと推定される。 以上のように、画像要素に 関係なくベクトル化処理が施 され、仮想的なアナログ空間 が自動的に構築されることに なる。 3 新技術の実施例 新技術の実施例を紹介する。 図3(a)は、標準テストデー タSIDBA/Girl(256×256[pel]; 24[bit/pel])の原画像である。 これをビットマップのまま8倍 に拡大して出力した画像が、 図3(b)である。特に、画像 のエッジ部分において画質が 劣化していることが確認でき る 。 図 3( c ) は 、 弊 社 の ViewLoによって出力した画像 ▲ 図3(b)拡大画像 ▼ 図3(c)ベクトル拡大画像 である。画質がクリアである ことが確認できる。また、デ ータ量も原画像に対して数分 の1程度に抑えられている。本 システムは、原画像の精度に 応じて最適な仮想アナログ空 間を構築するため、特に解像 度の指定はないが、一般に入 力画像が高精細になる程デー タ量を削減でき、画像によっ ては1/1,000の圧縮率の実現も 可能である。 図3(a)原画像 December 1998︱ 27 M/新技術・新機軸 99.3.29 15:36 ページ 28 4 期待される用途と今後の展開 ViewLoは、本来の目的であった印刷システムと してはすでに稼働しており、高品質で自由なレイ また、2値画像処理に限った用途も多く、少ない データ量でスケラブルな高品質画像を取り扱える システムとして、ViewLoは限りない可能性を秘め ていると自負している。 アウトの少ロット印刷として、全国にフランチャ イズ展開されている。この他にも、医用画像処理 システム、デジタルカメラ、インターネットを活 用した画像通信システム、画像セキュリティなど への応用が、ハードウェア、ソフトウェアの両面 から検討されている。 28 ︱eizojoho industrial ☆!つくばソフト研究所 3 03-3535-4757 6 03-3535-4759
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