357号 - 結核予防会

結核・肺疾患予防のための
平成26年度複十字シール
前号(No.356 2014年 5 月)で今年度の安野光雅氏によるシールをご紹介しましたが,
今年度は複十字シール運動キャラクターの小型シールを作成しました。
頼もしいシールぼうや,かわいいシールハイハイ,そして2013年に誕生したキュートな
シールちゃんの 3 人が揃ったシールです。今年から複十字シール運動に一役買って
くれることでしょう。
今後もこのキャラクターたちをどうぞよろしくお願いします。
No.
このマーク(複十字)は、
世界共通の結核予防運動の
旗印です。
357
2014.7
複十字
本誌は複十字シール募金の収益により作られています http://www.jatahg.org/
たすけあインコ
飛んでいるシールハイハイ
シールぼうや
シールぼうや
おまじないのポーズの
シールちゃん
公益財団法人結核予防会
総裁秋篠宮妃殿下
新結核切手紹介シリーズ(12)
ご動静
小林佑吉先生からの貴重な切手のご紹介は12回目となり,今回は1949年ハイチ共和国で発行された切手をご紹介します。
資金寄附者感謝状贈呈式並びにお茶会でのご様子
平成26年5月23日リーガロイヤルホテル東京(新宿区戸塚町)
妃殿下は,贈呈式において結核予防事業資金として多額のご寄附をくださった方や功績の
あった方々に感謝状をお渡しになりました。続いて記念撮影とお茶会が行われ,なごやかな
ひとときをお過ごしになりました。
ハイチ共和国はカリブ海西インド諸島に位置する国で,西半球で最も貧しい国と言われ,国民の80%は貧困状態
に置かれています。劣悪な衛生環境下,結核と同時に猛威を振るっていたマラリアの根絶を呼びかける切手が発行
されました。
図柄の左上にマラリア原虫を媒介するハマダラカが描かれ,右下には複十字マーク,中央にはサナトリウムが描
かれています。
2010年ハイチを襲ったマグニチュード7.0の大地震により,国内に 2 つあったサナトリウムの 1 つは全壊,残
る 1 つ(切手に描かれている建物)はかろうじて全壊を免れ,現在は残った一部のスペースで細々と医療活動が行
われています。
2011年第14回秩父宮妃記念結核予防功労賞国際協力賞を受賞された須藤昭子医師は,現在まで30余年にわたり,
現地で地震被害復興支援や結核医療を絶えず支援しています。
ハイチ共和国は現在でも結核罹患率が10万対213(2012 WHOデータ)とかなり高い状態にあります。
Message 設立30周年と公益財団法人への移行にあたって
公益財団法人 山梨県健康管理事業団
せ ん ど う
だ
たもつ
仙洞田 保
専務理事 山梨県健康管理事業団は,昭和58年 4 月に山梨県,
催や, 9 月の結核予防週間の街頭キャンペーンなど
市町村,医師会の三者により設立され,自主自立の
を積極的に行うことが大事であります。
経営方針のもと,お陰様で昨年設立30周年を迎える
また,健診事業を実施し,そこから得られる豊富
事が出来ました。結核予防会,各県支部の皆さんの
なデータを活用して本県の健康課題を抽出する調査
ご支援に対し感謝申し上げます。
研究事業や,その健診で得られたデータを市町村や
さて,喜ばしいことが続き,当事業団ではこの 4
事業所に提供し,予防対策,健康管理として活用し
月から公益財団法人として新たなスタートをいたし
て頂こうと考えています。
ました。
さらに,がん対策として24年度から県の委託を受
当事業団は,各県支部の中でも公益法人の取り組
け,がん患者サポートセンターの運営を行っていま
みは遅く,最初から一周遅れのトップランナーで行
す。サポートセンターでは,医師,保健師,がん経
こうと思っていました。それは,健診事業を含め公
験者のピアサポーターによる面接,電話相談が行わ
益の中心である調査普及啓発をどう進めていくか,
れ,がん患者の方々からも大変喜ばれております。
また,各県の特色ある公益事業を参考にさせて頂き
今後は,公益法人移行を契機に新たな決意のもと,
たいとの思いからでした。
将来の健診施設の整備や最新の検診車両を整備し,
特に,これからの公益事業は,予防に関する正し
質の高い健診に努め,県民が健康で安心して暮らせ
い知識の普及活動としてシンポジウム・講演会の開
るよう積極的に取り組んで参ります。
Contents
■ メッセージ
設立30周年と公益財団法人への移行にあたって
仙洞田 保……  1
■ 心のこもったお言葉とたくさんの花と懐かしい映像に包まれた
「長田功先生を偲ぶお別れの会」
野田 成男……  2
■ 次世代の結核研究に向けてのベクトル合わせ
第89回日本結核病学会総会報告
土方美奈子……  4
■ 第7回呼吸の日記念フォーラム(2014)
肺の生活習慣病-COPDを知っていますか?
……  6
■ 日本対がん協会・結核予防会共催
平成25年度診療放射線技師研修会を終えて
濵﨑 彩子……  7
■ シリーズ結核対策活動紹介
●地域の薬局・薬剤師との連携最前線 永田 容子……  8
●薬剤師と連携した地域DOTSモデル事業
山本 要・宮腰 玲子・滝本 法明・佐藤 望……  9
●薬局DOTSの取り組みをはじめて
脇川紗也香……  9
■ ミャンマー結核患者発見強化に挑む
-JICA主要感染症対策プロジェクトⅡ
藤木 明子……10
■ 教育の頁
接触者健診の手引き(第 5 版)の主な改正点
阿彦 忠之……14
■ シリーズCOPD
●呼吸不全今昔物語-結核後遺症と現在の結核
佐々木結花……16
●慢性呼吸不全の方のよりよいケアを目指して
-複十字病院 2 C病棟(医療型療養病棟)について
野手 尚美……17
■ ずいひつ
急性期と慢性期とは
武久 洋三……18
■ 最近出された手引きの紹介
石川 信克……19
■ TBアーカイヴ
桜映画社の「結核予防」映画10作品について
-結核予防会の保存と活用事業に協力して
山田三枝子……20
■ たばこ
●第 2 回健康日本21(第二次)実現セミナー
-行政担当者向け喫煙対策Webシンポジウム-
……25
●世界禁煙デー記念シンポジウム「税とタバコを考える」
……26
●オールジャパンで,たばこの煙のない社会を
……26
●結核予防会の禁煙ポスターが出来ました!
……26
■ 外国人結核相談室からNo. 10
-患者さんからの質問 2 (潜在性結核感染症)
須小みどり……27
■ ストップ結核パートナーシップ日本だよりNo. 29
結核ゆかりの地ツアー ~島尾結核研究所名誉所長とめぐる~
宮本 彩子……28
■ 平成25年度高額寄附をいただいた方々からのメッセージ
……29
■ 平成25年度複十字シール運動募金結果報告
……31
▽ 予防会だより
○第54回日本呼吸器学会学術講演会 出展報告
○第6回喀痰誘発研究会in大阪大学中之島センター
○インドネシアTBCARE支援の現場から
米国大使,国立結核菌検査センターを訪問
……24
……24
……25
〔表 紙〕平成26年度複十字シール運動ポスターより
7 / 2014 複十字 No.357
1
心のこもったお言葉とたくさんの花と懐かしい映像に包まれた
「長田功先生を偲ぶお別れの会」
公益法人結核予防会
公益財団法人結核予防会は,本年 4 月30日(水)リー
ガロイヤルホテル東京において,
「長田功先生を偲ぶ
お別れの会」を開催しました。ご親族,友人をはじめ,
新山手病院のある東村山市の近隣医療機関,結核予
防会支部,関連団体など330名余りの関係者のご参列
を得て,総裁秋篠宮妃殿下ご臨席のもと,会は午後
3 時から 5 時まで 2 部構成で行われました。
写真にあるように,第 1 部の「お別れの会」の会
場正面の祭壇には,白を基調としたたくさんの花に
囲まれて,大きな遺影が中央に飾られました。
会は,結核予防会石川信克副理事長の「開会の言葉」
に始まり,参列者全員による黙祷のあと,長田功先
生と長年にわたり親交の厚かったご友人お 2 人から
心のこもった滋味掬すべき「故人に贈る言葉」が遺
影に向かって語りかけられました。
〈尾形正方結核予防会複十字病院名誉院長〉
「昨年の 5 月に君から胃の手術をすることになった
から立ち会えと言われ大変驚きましたが,術後 1 年
間の君の態度は実に見上げたものでした。苦しいこ
と,辛いことがあっても決して絶望することなく,
最後まで自分の病状と向き合い戦い続けました。丁
度それは普段君が患者と向き合い一日でも長く命を
大切にしていたことと相通じるものがあります。君
とは医学部入学のときから,予防会で共に働いた今
日まで期せずして約40年間同じところで学び,共に
働いてきました。思えば医学部のボート部の合宿で
東北大の艇と正面衝突し凍るような荒川に放り出さ
れたことから始まっています。インターン制度をボ
イコットし 1 年遅れて国家試験を受けたあと昭和43
年 4 月に,後に癌研有明病院長となった中川君と 3
人で恩師藤間先生の下で寝食を忘れ外科研修を行い
ました。昭和49年 1 月に聖マリアンナ医科大学病院
開設時に図らずも同じ教室で働くことになり,医局
員の少ない中で外来診療,手術,実験を共に行い,
君は若手の医師は勿論のこと教授をも叱咤激励して,
あそこの教授は誰なのかと言われていたことは多分
知らなかったでしょうね。昭和52年10月に君は東大
医科学研究所の藤井源七郎先生の下に戻り,私は縁
あって結核予防会に御世話になりました。当時清瀬
には十数カ所の結核療養所がありましたが,どこも
結核患者の激減により経営難に陥っており,一般病
院への転換を試みていました。しかし一般病院への
転換は困難を極め多くの病院が閉鎖したり,老人ホー
ム等への転換を余儀なくされていました。東村山の
2
7 / 2014 複十字 No.357
野田 成男
総務部長 保生園も東大医科学研究所の藤井源七郎先生を院長
としてお迎えし,先生も大変苦労され,昭和58年に
右腕として君を保生園に招聘されました。その後の
ことは皆様よくご存じの通りです。両病院に分かれ
てはいても,手術をお互いに手伝ったり,症例検討
会を開いたり,時には言い争いもしましたがお互い
の信頼感に変化はなかったと思っています。君はい
つも何かを考えており,他人からは茫洋として近づ
き難い印象を与えていましたが,時に見せる笑顔は
誠に人なつこいものでした。釣りが好きですべてを
忘れて浮きに精神を集中したかったのでしょう。漢
詩が好きで部屋でよく吟じていました。君は深い洞
察力と強固なリーダーシップで周囲を牽引していき
ました。青木会長が結核に無縁な君を理事長に推挙
した理由は将にその点を評価されてのことです。新
山手病院を見事に復活させ,これから予防会を先頭
に立ってリードしようとする時に病に倒れたことは
予防会にとって大きな痛手ですが,君もさぞ無念な
ことだったでしょう。何時も病床の枕元には専門書
以外に翻訳途中の書籍があって,体調が良くなくて
も学問を忘れない君でした。君が独身の頃東京から
大阪まで通い詰めて奥様との結婚にこぎつけた話は
今でも忘れませんが,何時も枕元で優しく付き添っ
ておられた裕子様の心中はさぞ辛いものであったと
推察致します。病室を何時訪ねても丁寧に対応して
頂いた新山手病院の職員の方にこの場を借りてお礼
を申し上げるとともに,江里口院長,主治医の丸山
先生をはじめ多くの職員の方が病院の総力を挙げて
治療して下さったことに心から感謝申し上げます。
長田先生,長い間本当にお疲れ様でした。どうか安
らかにお眠りください」
〈成内秀雄東京大学名誉教授〉
「こういう形で,話し掛ける事になるとは思っても
見なかった。今日も,何時ものように君の事を“長田”
と呼ぶ事にさせて下さい。長田とは医学部の同級生
で,仕事は,長田は外科,こっちは基礎の免疫,と
分野は違っても,趣味が共に“魚釣り”と言う事も
あり,医科研時代から,共通の話題も多かった。最
近は,先祖が,戦国末期に,共に北条氏照に仕え,
同じ城に居たという話題も加わったね。長田の事を
思うと必ず思い出すのは,君と患者さんとの或るや
り取り。大分前の事だけど,新山手病院の玄関前で
君と立ち話をしていた時,年配の男性が前を通り掛
かった。すると『成内!一寸待って』と言って,そ
第 1 部「お別れの会」たくさんの花に囲まれた祭壇
の男性に近づいて,名前を呼んで,
『具合はどう? この間の検査の結果は…,これこれ…』と話し始め
たのを聞いて,驚き,感心して,嬉しかった!患者
の情報が,そこまで,頭に入っている医者は見た事
がなかったよ。そう言えば,我々が学生時代,ポリ
クリの時に,化粧した女性の患者さんが診察室に入っ
て来たら,
『顔色,肌のつや,唇の色等は大事な判断
材料なのだから,化粧はダメだ! 今度からは化粧
等しないで来い!』と怒った先生が居たね! 我々
の学生時代は色々あったけど,長田は語学に熱心だっ
たね。ドイツ語の病理学の参考書を読んだと言って
いたのを覚えている。中国語も,あれは歴史書だっ
た? 長 田 が 去 年 出 し た あ のKonjetznyのDer Magenkrebsの日本語訳は,その延長線上にあると思う。
長田のあの本を読んで驚いた。Konjetznyは,予断
を持たず,病理標本から徹底的に事実だけを観察し
て,胃癌の,感染による胃炎起源説を唱えている。
今でこそ,ピロリ菌が胃の発癌に大いに関係してい
る事が言われているけど,70年以上も前に,あのよ
うな説を纏めて出版しているKonjetznyという人が
居た事に驚き,改めて現象の観察の重要さを思い知
らされた。それにしても,長田がKonjetznyの説を
知り,著者の存在を知っていた事にも感心した。病
院の病理検査室に机を持ち,何時も実物の標本を見
て居たのも頷ける。結核予防会も公益財団になり,
「理
事長は75歳で辞める」と,自分で時間を区切って,
長田流のやり方で予防会を発展させようとしている
時に病魔に襲われてしまった。それでも,挫けず病
室から本部にも出かけていた。長田は自分の治療に
も,最後迄非常に前向きだった。出来る事は進んで
やるという姿勢だったね。我々の免疫細胞療法も 3
種類受けてくれた。病室に治療用の細胞を届けた時,
僕の顔を見るなり『文科省の科研費を申請できるよ
うになったよ!』と嬉しそうに大きな声で言ったの
を良く覚えている。最近,あんなに嬉しそうな長田
の顔を見た事はなかった。何時も,
『研究所を何とか
しなくっちゃあ』とか,小声で呟くことが多かった。
最後迄,結核予防会,特に研究所の事を気に掛けて
いたね! もう一度話ができると思っていた。あれ
だけ頑張ったのだから,これからはゆっくりと見守っ
第 2 部「故人を偲ぶ会」懐かしいスライドの映写
て居てください」
また,このお別れ会に出席できない方等から多く
の弔電やお礼の言葉が寄せられました。渡邉光一郎
第一生命保険株式会社代表取締役社長様,寺野彰獨
協学園理事長・獨協医科大学名誉学長様,草刈隆郎
公益財団法人がん研究会理事長様からの弔電が読み
上げられ,
時間の都合で他は一部のみ紹介されました。
続いて,ご令室の長田裕子様からご遺族を代表し
てのご鄭重な謝辞があり,その後ご遺族,総裁,ご
親族,主催者代表,当会役員・関係者,参列者の順
で献花がしめやかに行われて第 1 部は終了しました。
献花を終えた参列者は第 1 部の会場と隣室の第 2
部の会場との間で,ご令室の長田裕子様,ご令息の
長田尚様及び結核予防会石川副理事長,橋本壽専務
理事,島尾忠男顧問の立礼を受け,第 2 部の会場に
移動しました。
第 2 部は「故人を偲ぶ会」として執り行われまし
たが,会場には長田功先生の幼少時から最近までの
懐かしい写真スライド80枚の映写や,遺品の展示コー
ナーもあり,BGMとともに当時が偲ばれました。
最初に,江里口正純新山手病院長の開会挨拶,島
尾忠男顧問の献杯があり,その後,次の 5 人の方か
ら順次「故人に贈る言葉」として,長田功先生を偲
ぶ思い出話や感謝の言葉などが参加者に披露されま
した。
①新山手病院の地元東村山市医師会を代表して,今
井均東村山市医師会会長・今井クリニック院長様
②高校時代の友人を代表して,宮川昌夫株式会社カ
イトー会長様
③城 西外科研究会を代表して,大高均同会会長・国
家公務員共済組合連合会立川病院副院長様
④新山手病院が保生園時代からの退院された患者様
等の会を代表して大場昇保生会会長様
⑤結核予防会OBを代表して村上治洋元新山手病院事
務部長様
「故人を偲ぶ会」は最後に,橋本専務理事の閉会の
挨拶で締めくくられ終了しました。
7 / 2014 複十字 No.357
3
次世代の結核研究に向けてのベクトル合わせ
第89回日本結核病学会総会報告
会期:平成26年 5 月 9 日〜10日
会場:岐阜市・長良川国際会議場
結核研究所 生体防御部
病理科 科長 土方 美奈子
平成26年 5 月 9 日〜10日,愛知医科大学/中日病
射線技師・臨床検査技師・栄養士・理学療法士等の
院の森下宗彦会長のもと,岐阜市で第89回日本結核
医師以外の職種のための研修制度である「抗酸菌症
病学会総会が開催されました。JR岐阜駅北口前広場
エキスパート制度」が始まり,今回は指定セミナー
では,今回の総会ポスターの中央で参加者の注目を
が開催される最初の総会でもあったこともあるため
集めた「黄金の織田信長公像」が,五月晴れのもと
か,学会場には女性の姿がとても多く見られました。
燦然と輝いていました。学会場は,長良川河畔,金
華山のちょうど対岸に位置する長良川国際会議場で
【結核は一般病院でみる普通の病気になれるか?】
したが,安藤忠雄設計の建物は外観だけではなく中
今回の総会テーマに関連して,シンポジウム「結
の構造も非常にユニークで,目的の会議室にたどり
核は一般病院でみる普通の病気になれるか?」が開
着くのに大いに苦労したのはおそらく私だけではな
催されました。現在日本では,結核患者数の低下,
かったと思います。今回の総会テーマは「結核医療
在院日数の短縮から,必要な結核病床の数が減って
の進化を目指して 〜特別な病気から普通の病気
います。結核が猖獗を極めた時代には結核療養のた
へ〜」
, 2 日間の総参加者数は1,399名, 1 階だけで
めの施設(サナトリウム)が各地にありましたが,
1,300席近い大きなメインホールを除く他の 5 つの会
結核の医療の場は時代と共に移り変わり,結核専門
場では,立ち見の人が並ぶような盛況ぶりでした。
病院から結核病棟へ,そして今はさらに病棟単位か
18のシンポジウム,12の教育講演,ワークショップ:
ら病床単位へと,集団から個への結核医療の再編を
要望課題の80演題に加えて136一般演題の発表が行わ
考えるべき時期を迎えています。現在,結核医療供
れ,それだけに,興味のある演題発表が同時間帯に
給体制のバランスが悪いために生じている様々な問
別会場で並行して進行していたために,ひとつしか
題点,それに対して,将来に向けてどのような取り
聴けなくて残念だったという声も多くきかれました。
組みが必要とされるかが活発に議論されました。ま
また,今年から,看護師・保健師・薬剤師・診療放
た同時に,結核患者の高齢化に伴って合併症を有す
る患者が増加することにより,結核専門病院だけで
は対処できないような合併症治療を担うには,一般
病院(総合病院)での集学的治療が必要となること,
医学教育上,結核診療に触れる機会を増加させるた
めに教育病院に結核患者収容モデル病床等を設置す
ることの重要性も指摘されました。ここで「一般病
院でみる普通の病気」と言う意味は,結核医療に必
要な病室等の施設整備はもちろんのこと,専門的知
識を持ったチーム医療が可能である,特定の体制の
整った一般総合病院において,結核の治療が行われ
ていくイメージが示されているように思いました。
長良川国際会議場メインホール
4
7 / 2014 複十字 No.357
【潜在性結核感染症とIGRA】
次世代シークエンサーの解析の費用の低下に伴い,
潜在性結核感染症(LTBI)診断のためのインター
誰でも手軽に全塩基配列が得られる未来は意外に近
フェロン-γ遊離試験(IGRA)として,先行したクォ
いのではないかと思われます。膨大なデータの中か
®
ンティフェロン TBゴールド(QFT)と,新たに平成
®
ら何が見いだせるのか,今の結核・NTM症研究にお
(T-SPOT)
24年11月に保険適用されたT-スポット .TB
いて,基礎研究の果たさなければいけない役割は非
のそれぞれの特性は,今回の総会のトピックのひとつ
常に大きいと考えます。
でした。まだ何か結論的なことが言える段階ではなく,
これからもしばらく議論が継続され,次回の総会でも
重要な分野のひとつになると思われます。
【関心が深まる非結核性抗酸菌症】
【ハイブリッドカーの開発〜次世代に向けて】
特別講演として,トヨタ自動車の小木曽聡氏の「ト
ヨタの次世代環境車」初代プリウスの開発〜将来に
向けてという講演がありました。今では街を当たり
今回,非結核性抗酸菌(NTM)症に関する演題が
前のようにハイブリッドカーが走っていますが,岩
非常に多く,基礎研究,臨床について,それぞれシ
崎俊一氏の「21世紀に間にあいました。」という記憶
ンポジウムでも取り上げられました。NTM症は,ヒ
に残るコピーとともに,初代プリウスが登場した
トからヒトへ感染しないという点で結核とは全く異
1997年には,今日のような普及はまだ想像できなかっ
なりますが,臨床の場での重要性の増加,基礎研究
た気がします。その当時,達成は難しいと誰もが思
の関心の高まりを反映し,結核病学会の中で占める
うような非常に高い目標を掲げてのハイブリッド
割合が大きくなってきました。
カーの技術開発を乗り切らせたものは何だったのか,
【次世代シークエンサーの利用】
というお話の中,「ベクトル合わせ」という言葉が強
く印象に残りました。大きくて複雑な開発プロジェ
結核菌,NTMともに,次世代シークエンサーを用
クトに関わる,それぞれの専門分野を持つエンジニ
いて全ゲノム遺伝子配列情報が得られるようになっ
ア達が,明確なコンセプトの下でベクトルを揃える
たことで,菌についても,またそれに対する宿主の
ことで,モチベーションを維持し,困難を克服して
応答についても,今までわからなかったことが解明
高い目標を実現することができたというサクセス・
されるようになっていく時代を迎えました。今後,
ストーリーは,他業種,他分野にも示唆に富むもの
でした。結核病学会は,臨床,対策,疫学,基礎,等々,
様々な専門領域を持つ人が集まる学会で,学会とし
て,このように多様性があることは非常に大事なこ
とである一方で,見方によっては,それぞれのベク
トルの向きがばらばらで,ややまとまりがないよう
な印象も少し受けました。「結核医療の進化を目指し
て」というテーマを掲げての総会でしたが,結核に
関わるいろいろな専門領域の「ベクトル合わせ」的
な仕掛けがあると,さらに魅力的な結核病学会総会
になったのではないかと思います。次回の第90回総
会は,
平成27年 3 月27日〜28日に長崎で開催されます。
NTM症基礎研究シンポジウム
7 / 2014 複十字 No.357
5
第 7 回呼吸の日記念フォーラム(2014)
肺の生活習慣病-COPDを知っていますか?
2014年 5 月11日(日)日本医師会館大講堂(東京
会場の 1 階に用意された特設会場では,肺年齢測
都文京区)において,第 7 回呼吸の日記念フォーラ
定体験会を同時開催し,多勢の方が肺年齢測定を体
ムが開催されました。
験され,順番待ちが出るほどの大盛況でした。
7 回目となる今回は,第 1 部「肺の生活習慣病-
(文責:普及広報課)
COPDを知っていますか?」,第 2 部「肺年齢体験と
私の健康法」をテーマに,早期発見,治療,併存症,
健康法についての講演と,呼吸リハビリテーション
の実演,ミニコンサートが実施され,327名の参加者
がありました。
「肺年齢体験と私の健康法」の中では,パネリスト
として元・体操日本代表 池谷幸雄さんが登場し,
ステージ上での呼吸機能を検査するためのスパイロ
メーター体験や倒立などの実演,体操にまつわる様々
なエピソードで会場を賑わしていました。
ミニコンサートでは日本を代表する世界的ジャズ
トランペッター 日野皓正さんの71歳という年齢に
参加者は驚き,年齢を感じさせない迫力ある演奏に
第 1 部 司会を務められた複十字病院 工藤院長
写真提供:公益社団法人日本医師会
魅了されました。
元・体操日本代表 池谷幸雄さん
見事な倒立や楽しいおしゃべりで会場を盛り上げた
日野皓正さん,石井彰さん
美空ひばりさんの曲など迫力あるジャズ演奏を披露された
第 1 部 「肺の生活習慣病-COPDを知っていますか?」
講演:COPDの早期発見のために
/藤本圭作(信州大学医学部保健学科検査技術科学専攻生体情報検査学領域 教授)
講演:COPDの治療,併存症について
/金子教宏(亀田総合病院呼吸器内科 部長)
第 2 部 「肺年齢体験と私の健康法」
対談:アスリートによる肺年齢体験と健康法について
司会/道永麻里(公益社団法人日本医師会常任理事),トークゲスト/池谷幸雄(元・体操日本代表)
実演:呼吸リハビリテーション実演 正しい呼吸方法の体験
/佐野裕子(Respiratory Advisement Y’s代表)
第 3 部 「呼吸の日記念フォーラム・ミニコンサート」
6
出演:日野皓正(トランペット)石井 彰(ピアノ)
7 / 2014 複十字 No.357
日本対がん協会・結核予防会共催
平成25年度 診療放射線技師研修会を終えて
平成26年 3 月12~14日の 3 日間,結核研究所にて診
療放射線技師研修会が開催され,全国各地から51名が
参加した。
公益財団法人 熊本県総合保健センター
健診部放射線科 研修会初日は胃がん・胸部・乳がん検診の 3 種別 7
濵﨑 彩子
班に分かれ,グループ討論が行われた。私は乳がん検
診班に入り,男性を含む 8 名の受講生で討論を行った。
次に神奈川県労働衛生福祉協会の本田今朝男先生に
男性技師は,受診者が女性のためにポジショニングの
よる「胃部撮影時の追加について」のご講演があり,
際にあまり接近できず,また乳房をしっかり掴むこと
追加撮影方法,透視下での読影方法など基礎から教え
も容易でないこと等,男性目線の貴重な意見も聞くこ
て戴いた。特に胃透視撮影の経験が浅い私にとって,
とができた。
後壁病変か前壁病変かを判断する方法論など,今後の
午後最初の熊本県総合保健センターの土亀直俊先生
業務に役立つ内容が多かった。
のご講演では,放射線技師として知っておくべき胃X
2 日目の午後最初の講演は,結核予防会複十字病院
線検査の利点・欠点を学ぶとともに,バリウム誤嚥に
の黒﨑敦子先生による「胸部単純写真,CTから読み解
ついての技師の対応の仕方や言葉の使い方の重要性を
く肺の結節性病変&びまん性疾患」についてであった。
学ぶことができ,非常に有用な内容であった。
肺がんの様々な症例や,単純X線写真の新しい読影法
続く結核予防会複十字病院の花井耕造先生によるご
である経時差分法やエネルギー差分法などを学ぶこと
講演では,肺がんの死亡率減少のためには,質の高い
ができた。続いての東京都がん検診センターの入口陽
CT検診を普及させて受診率を向上させることが重要
介先生によるご講演は,胃がんの肉眼的分類,陥凹性・
で,装置の精度管理や技師の読影技術の向上の必要性
隆起性病変の特徴など,本田先生のご講演の内容を補
も説かれていた。
足するもので,撮影で見落としてはいけないポイント
初日最後は,東京都結核予防会の畠山雅行先生の「CT
をわかり易く説明して戴いた。
画像の読影」についてのご講演であったが,突如認定
2 日目の最後は,社会保険群馬中央総合病院の新井
試験の問題が配られ抜き打ちテストが始まった。成績
敏子先生による,
「マンモグラフィの精度管理」につい
優秀者には京都のお土産を戴けるとあって気合い十分
てのご講演であった。デジタル化により高濃度乳腺の
に取り組んだが,残念ながらもらえなかった。初日の
撮影画像の質が著しく向上しているので,技師は今ま
研修終了後の意見交換会では,普段お話する機会がな
で以上に診断しやすい画像を医師に提供する責務があ
い方とも交流でき,とても楽しい時間を過ごせた。
ることを学んだ。
2 日目の朝のモーニングセッションでは,畠山先生
最終日のモーニングセッションでは,東芝メディカル
から石綿肺や中皮腫の胸部X線写真の読影方法を教え
システムズから新しい乳房検診車についての説明があっ
て戴いた。続いての保健医療福祉情報システム工業会
た。その後 5 班に分かれ,各自持参した胃X線写真を指
の吉村仁先生による「地域医療連携の今後について」
導の先生に評価して戴いた。他施設の方の写真を拝見
のご講演は,処方箋やお薬手帳の電子化,医療IDの実
できたことで自己の技術評価もでき,良い刺激となった。
現の可能性など,日本の医療ITが今後ますます発展し
続いての京都医療科学大学の遠藤啓吾先生による「原
ていくことを予感させる内容であった。
発事故と診療放射線技師の役割」についてのご講演か
ら,原発事故により医療被ばくへの関心が強くなって
いるが,自分達は放射線のプロであるという強い意識
を持つべきことを再認識させられた。
最後は,宮城県対がん協会がん検診センターの加藤
勝章先生による「読影医から診た発見胃がんの検討」
というご講演で,加藤先生が今までに経験されてきた
様々な症例を見せて戴き,自分の胃がん症例について
の知識を増すことができた。
今回の研修会で得た知識を今後の日々の業務に活か
せるよう努力していきたい。最後に,多くの有意義な
胃X線フィルム評価の様子 奥の右端(筆者)
知識を与えて戴いた講師の先生方に感謝致します。
7 / 2014 複十字 No.357
7
結核対策
活動紹介
地域の薬局・薬剤師との連携最前線
結核研究所対策支援部
保健看護学科 科長 永田 容子
DOTSを更に発展させるために,地域と薬局が連
〈第
2 回〉 6 月 2 日(月)では,先月 5 月の結核病
携した取り組みが各地で行われている。今後,外来
学会での薬剤師の発表の紹介,モバイルHealthの取
や薬局との連携が必須となることから「地域DOTS
り組み,DOTSノートの活用と連携,薬局窓口での
を円滑に進めるための指針」案について検討を行っ
プライバシーの配慮,清瀬市としての薬局DOTSを
た。その試みとして,清瀬市薬剤師会,複十字病院
どう進めていくかについて意見交換を行った。
近隣の 3 カ所の薬局,多摩小平保健所,複十字病院(薬
剤科・病棟・外来)から薬剤師,保健師,看護師が
〈まとめ〉
①結核患者の薬剤処方時に,DOTSノー
一堂に会し,清瀬市の外来・薬局DOTSの発展を目
トを持ってきてもらうように声をかける,②「きよ
指して話し合った。
せ吸入療法研究会」
(本誌;2014年 5 月No.356,p2223参照)で地域病薬連携を行っており薬剤師会も参
〈第
1 回〉
平
成26年 3 月27日(木) は, 薬 局DOTS
加しているので,その場を活用して10分程DOTSの
の目的と今回の検討会の経緯,複十字病院の病棟/
話を入れてもらう,③薬局DOTS実施事例のコホー
外 来 / 薬 剤 科 のDOTSの 状 況, 管 轄 保 健 所 の 薬 局
ト検討会を行う(12月ごろ),④ITを活用した服薬
DOTSの状況,地域の 3 カ所の薬局から結核患者へ
支援アプリ(患者さんが使いたくなるようなアプリ)
の服薬について,最後に「地域DOTSを円滑に進め
の共同試作などを今後の予定とした。
るための指針」案について情報共有を行った。
〈まとめ〉
①病院に近い薬局ではなく,地元の薬局
を利用している傾向がある,②薬局DOTS実施例で
は,保健所から電話のみで依頼,脱落時の対応の取
り決めがなく保健所と円滑な連携ができなかった事
……本誌の薬局DOTSの掲載……
2007年 5 月号No. 315「杉並区における薬局DOTSの取
り組みについて」,2009年 5 月号No. 327「調剤薬局にお
けるDOTSの取り組みについて」,2009年11月No. 330「中
野区における薬局DOTS」,2012年 1 月号No. 342「鈴鹿
例がある,③DOTSノートの利用が外来DOTS/薬
保健所における薬局DOTSの取り組みについて」などで,
局DOTSに有用(経験的事実)であることから,薬
保健所だけでなく,ご担当されている薬局長の方の取り
局で使用されているお薬手帳との連携やパスとして
の活用ができないか,という 3 点について,更に検
組みも含まれており,薬局との連携は患者さんの服薬継
続に大きな力となっている。
討を重ねることとなった。
次ページには,薬剤師と連携した秋田県と長崎県
*保 健所が薬局DOTSによる支援を導入する場合の
の取り組みを紹介しています。
留意点を表にまとめた。
表 保健所が薬局DOTSによる支援を導入する場合の留意点
薬局DOTSによる支援の留意点(案)
(留意点)①かかりつけ薬局の選び方(処方箋による調剤薬局と同じであること)
②DOTSの方法を確認しておく
例)来局時間の設定も患者に合わせて柔軟に対応できる方がよい
③未来局や副作用などトラブル発生時の対応方法を決めておく
④その上で,主治医への連絡や調整は,薬局もしくは保健所が行う
⑤さまざまな事例の体験を共有(コホート検討会)する
⑥DOTSにおける最終責任は薬局ではなく,保健所である
8
7 / 2014 複十字 No.357
【薬剤師と連携した地域DOTSモデル事業】
秋田県秋田中央保健所
【薬局DOTSの取り組みをはじめて】 長崎県県央保健所地域保健課
山本要所長,宮腰 玲子,滝本 法明,佐藤 望
脇川 紗也香
当保健所において保健師による地域DOTSと併せ
長崎県は結核罹患率が高く(長崎県20.3全国16.7人
て薬剤師と連携した地域DOTSのモデル事業を実施
口10万対率2013年),保健所事業において結核対策は
したので,その概略を紹介します。
重要な課題です。
平成24年 6 月からの 9 カ月間,服薬中断リスクが
県央保健所は「罹患率減少のためには,治療完遂
高くモデル事業に参加した患者 3 名を対象として,
の徹底を!」と考え,服薬状況の確認や服薬中断の
退院後の通院開始から服薬終了までに飲殻と服薬管
早期把握を可能にするために,薬局DOTS事業に取
理手帳による確認と指導を行いました。そのうち就労
り組んでいます。
の関係等で保健師の訪問による服薬確認ができない
事業開始にあたって,薬剤師会と連携のもと薬剤
2 名に対し薬局DOTSを実施,虚弱で外出困難な 1 名
師対象の研修会を開催。またコホート検討会への薬
に対し薬剤師による訪問DOTSを実施しましたが, 3
局薬剤師の参画によって,多職種によるコホート評
名とも服薬を中断することなく治療終了となりました。
価が可能となりました。その中で,協力薬局の薬剤
また,モデル事業終了後に関係者による検討会を
師さんから副作用出現時の対応や対象者の選定など
開催しましたが,この検討会を通じて事例への関わ
に関して課題や意見が出されました。
りや治療の評価について職種を越えた共通認識を持
つことができました。
今回の試みでは,保健師に加えて患者の生活圏内
にいる薬剤師が関与することで,薬の副作用等に対
する専門性の高い助言指導ができ,その結果,患者
に治療への安心感を与え,確実な服薬継続に繋がっ
たと思われます。今後もこのモデル事業を発展させ
結核対策の強化を図っていきたいと考えます。
※こ の事業内容は,2013年10月日本公衆衛生学会で
発表したものの概要です。
杉並保健所では,DOTS判定会議の中で,専門医師
や保健所の意見をふまえ適切な支援計画が策定され,4
カ月後,終了時など定期的に計画を評価する仕組みが
あり,薬局・保健所・医療機関を結ぶ連絡体制によって,
問題発生時にも迅速な対応をしておられ,長年築かれ
てきた薬局と保健所との強い連携体制を実感しました。
これらの学びを活かして
今年度県央保健所では,昨年に続き薬剤師対象の
研修会を開催し,事業実施と並行して薬局DOTSの
※詳細の問い合わせ先:
秋田県潟上市昭和乱橋字古開172番地 1
秋田県秋田中央保健所 健康・予防課
解決のヒントを求め杉並保健所に先進地視察
/電話 018-855-5170
周知を図ります。
現在,当所の薬局DOTS実施中の方は 2 名です。う
ち 1 名は70代男性,抗結核薬 3 剤以外に15種類処方
され,誤薬のリスクがあり薬局DOTS対象となりまし
た。協力薬局の薬剤師さんは対象者を顔見知りだっ
結核対策へのユニークな取
り組み,工夫された事業な
どを本誌でご紹介します。
ご投稿をお待ちしています。
たので「Aさんのためなら」と熱心に結核について勉
強されています。対象者,家族,薬局薬剤師のご意
見に耳を傾け,こまめに情報交換しながら,適時評
価し,薬局DOTSの効果を見出したいと考えています。
今後、薬局DOTSを充実させ,対象者の身近なと
ころでより専門性を活かした地域DOTSを実現して
参ります。今年は協力薬局の薬剤師による実施報告
を加え,薬局DOTSの効果をお伝えする予定です。
目標は,結核罹患率が低い都道府県ベスト10!
7 / 2014 複十字 No.357
9
ミャンマー結核患者発見強化に挑む
― JICA主要感染症対策プロジェクトⅡ ―
はじめに
日本は2005年より「主要感染症対策プロジェクト」
(2005年1月~2010年1月)を通してミャンマーに
おけるHIV/エイズ,結核,マラリアの3疾患対策
結核予防会国際部 シニアアドバイザー
強化を支援してきた。その結果安全血液ガイドライ
ンや外部検査精度ガイドラインの策定,国際基準に
藤木 明子
従った新結核塗抹検査外部精度管理法(EQA=External Quality Assessment=外部精度管理)導入や
全国結核有病率調査,コミュニティベースマラリア
対策パッケージの策定等に成果を上げてきた。その
後,2年間の延長フェーズを経て2012年より3年間
の予定で「主要感染症対策プロジェクトⅡ」
(2012年
3月~2015年3月)が開始された。
ミャンマーの結核事情は,WHO報告によると22
の結核高負担国(10位)
,27の多剤耐性結核高負担国
(16位)に挙げられている。1997年に結核対策に有
効 と さ れ るDOTS(Directly Observed Treatment,
Short-course; 直接服薬支援療法)戦略を導入の後,
段階的に拡大を見せ,2003年にはほぼ全国100%に相
当する325カ所のタウンシップ(およそ人口15万人を
カバーする行政単位)をカバーするに至った。とこ
ろがDOTS戦略が全国に拡大されたにもかかわらず,
2009年の有病率調査の結果から,これまでのWHOの
推計よりもおよそ2.5倍の結核患者が潜在的に存在す
ることが示唆され,保健省NTP
(結核対策課)は,
これまで以上に患者発見強化の方針を「結核対策5
カ年計画」に打ち出した。
プロジェクト結核班はこの背景を踏まえ,
ミャンマー
インドシナ半島に位置し,南北に延びる国土は,中国,ラオス,
タイ,バングラデシュ,インドと国境を接する。67万平方キロ
あまりの国土(日本の約1.8倍)に人口約6,400万人を有する。
行政区分は7管区(Region)・7州(State)・首都(Capital)の
15地域からなっている。
①タウンシップの下部組織である人口1,500~40,000
人をカバーするステーションレベルの病院結核検
査室を中心とした患者発見
②民間薬局を巻き込んだ結核有症状者の医療施設へ
の紹介,いわゆる官民連携による患者発見
③コミュニティDOTS活動(村のボランティアによる
患者発見・治療)
ラタ(Latha)結核センター
半世紀以上前に建てられたヤンゴン病院幹部用コロニアル風
官舎が,現在ヤンゴン管区結核センターとして再利用され,そ
の片隅に中央EQA管理ユニットやプロジェクト結核班執務室も
構える。
10
7 / 2014 複十字 No.357
という3本柱の視点からアプローチする患者発見強化
を目指した。活動対象地域は,大きな結核問題を抱え
る2大都市のヤンゴン管区(人口597万人)とマンダ
レー管区(人口670万人)である。
これまで結核班には結核対策,結核検査マネージ
年次報告の具体的内容は,現存するデータから①
メ ン ト, 民 間 薬 局 か ら の 紹 介, コ ミ ュ ニ テ ィ
四半期毎のメジャーエラー(強陽性での誤り)発生
DOTS,放射線技術等の分野から延べ8人の技術専
の推移,②管区・州内毎のメジャーエラー発生検査
門家が現地で関わり合い,東京側から3人の事務方
室数,③四半期毎による塗抹標本作成評価の推移等
がプロジェクト運営を支えた。
に的が絞られた。分析対象地域はプロジェクト活動
ここではミャンマー主要感染症対策プロジェクト
地域のみならず全国を対象にしたい,という強い要
Ⅱにおいて検査分野から患者発見強化支援に携わっ
望支援がプロジェクト結核班に出された。この分析
た一端を中心に報告したい。尚,官民連携患者発見
対象地域の拡大要望受け入れには,いくつかの検討・
やコミュニティDOTS活動については,本誌№353
確認の課題があった。
(2013年11月:24-27p),西山裕之「ミャンマーでの
まず,プロジェクトPDM(Project Design Matrix
患者発見システムについて―主要感染症対策プロジェ
=目標・活動・投入等を含むプロジェクト概要表)
クトフェーズ2(結核)
―」に詳しい。
に合致していないということ,その実施にはそれに見
ミャンマーNTPの悲願
合うNTP側からの人材増員や予算増額等が伴うこと
に理解を求めなければならなかった。更にもっとも重
2007年に新塗抹検査精度管理法がミャンマーに導
要で,相手国側にとって厳しいとも思える条件,飽き
入されて以来,そのデータ情報は全国から中央EQA
ることの無い継続的なコミットメントの担保を付け加
管理ユニット(National EQA Management Unit for
えた。長年の経験から,多くの途上国では様々な状
TB Microscopy)に郵送収集されている。
況変化により条件や約束事はしばし「…やがて反故
にされる」か「…ウヤムヤにされる」ことは珍しくな
く,ともすると協力・協同であったはずの作業は,単
なる一方的な下請け作業に陥ることが少なくない。こ
れから起きるかもしれないであろう多くの障壁を乗り
越えるお互いの覚悟の確認が必要なのである。
ほどなくしてNTP側からEQAデータベース作成業
務応援に携わるスタッフ2人がEQAデータベースの
ドラフトとデスクトップパソコンと共にヤンゴンの
中央EQAユニットへ送り込まれてきた。この異例と
も思えるミャンマー側の素早い対応に,EQAデータ
運営の司令塔を構築するという決意の表れが見て取
ミャンマーの郵便屋さん
脆弱な通信事情にあるミャンマーでは,全国からの大事な
EQAデータの多くは郵送が一般的で確実な方法である。郵便配
達夫の制服に身を包んではいても亜熱帯の暑さには勝てない。
ズボンの代わりにロンジーを身に着けていた。規則違反だから
下半身は撮影しないでネと言われた。
しかし,長い間それらのデータ情報は放置され,
その結果が現場に有効利用されることはなかった。
結核患者発見を喀痰塗抹検査によって実施されてい
れた。この様にしてミャンマー側から投げられたボー
ルをプロジェクトは受け止めることになった。従来
計画のヤンゴン及びマンダレー管区の2管区から全
国15管区/州へ,そして検査施設の対象数は,128カ
所から464カ所と本来の計画より4倍近くに拡大され
た活動が開始された。
EQA年次報告第一号の刊行と今後の展望
るミャンマーにとって,喀痰塗抹検査の質の把握は
データを単なる数字の羅列化に終わらせるのでな
結核対策の成否を左右する重要な鍵である。そのた
く,それを読み解き,わかり易い図式化表現に置き
め全国の塗抹検査の質状況をまとめた年次報告の刊
換え,鏡検検査の質向上政策に反映させるためのツー
行は,検査の質改善・向上に役立つばかりでなく有
ルにしようとする技術移転は実行に移された。だが,
効な患者発見モニタリングや情報発信に繋がり,ミャ
口で言うほど容易なことでない現状の厳しさを思い
ンマーNTPの長年の悲願ともいうべきものであった。
知らされるのに時間はかからなかった。長年放置さ
7 / 2014 複十字 No.357
11
プロジェクト専門家達とカウンターパート達の忍
耐と努力の実が結び始めた瞬間である。これは,結
核患者発見強化という壮大な課題の前にはほんのは
じまりの一部にすぎないが,全国における塗抹検査
の現状把握の上で大きな意義を持つものとして高く
評価された。人材育成強化優先地域やその有効な予
算配分の決定をはじめ,これまで中央からの巡回指
導が無縁であった地域への巡回指導活動が具体的に
行われるようになるきっかけをもたらした。このよ
うに塗抹検査技術の質改善やその判断材料,ひいて
ミャンマー初のEQA年次報告書
患者発見強化という壮大な課題の前にはほんの一部のはじま
りにすぎないが,大きな意義を持つものとして高く評価された。
は患者発見強化に繋がる有用な情報源としてミャン
れたデータ整理,データベース化,目視によるデー
に期待が寄せられている。
タチェック等の膨大な作業量はもとより,脆弱な通
プロジェクトは日本人特有のこだわりと徹底ぶり
信インフラ事情は関係者間のコミュニケーション不
でEQAデータ管理運営のノウハウを伝授し,ミャン
足や保健省NTPからの意思決定の停滞を招き,暫し
マー中央EQAユニット自立の可能性を示した。
仕事の中断を余儀なくされた。そして何よりも文化
塗抹検査診断中心のミャンマーにあって,患者発
や思考の違いからくる仕事の進め方にも大きな戸惑
見強化の核心に迫る結核対策政策や国際機関への支
いを禁じ得なかった。その結果生じる幾度となく繰
援要請発信材料への一翼を担えたのではないか,と
り返される原稿の加筆修正作業に苦笑,辟易し,し
いったら言い過ぎか。患者発見強化に繋がるけん引
ばし実務の大幅停滞の遠因にもなった。このような
役はミャンマー中央EQAユニットの双肩にかかって
環境の中での行きつ戻りつの作業に奮闘すること365
いるが,その挑戦は始まったばかりである。残りわ
日余り。ついにミャンマー初といわれるEQA年次報
ずかになったプロジェクトはその挑戦に向けて積極
告第1号の刊行(2012年版)が2014年2月に実現した。
的にエールを送り続けねばなるまい。
マー結核政策立案担当者のみならず,海外の結核ド
ナー関係者からも熱い視線が注がれ,その刊行継続
年次報告刊行作業
絶えず内容の意見交換と共に作業は進められた。編集委員メンバーにはRIT
(結核研究所)で行われているJICA国際研修卒業生も
加わり,報告書刊行の一端を担った。編集会議ではRIT卒後の成長を垣間見,それを実感した場でもあった。
12
7 / 2014 複十字 No.357
ミャンマー寸見
仕事に明け暮れ,ホテルと仕事場だけの単調な往復にあっても,時にはミャンマーならではの光景に目が留ま
り,ささやかな感動,感心,驚嘆に出会う。そんな中からごく一部番外編として写真と共に明かしたい。
鳥のエサ
水瓶
敬虔な仏教徒の多いミャンマーでは,日常的に様々な功徳を積む仏教の教えを守る行為が見られる。小鳥に餌をやること(写真左:落
穂を束ねて塀や木の枝に掛けると小鳥はそれに群がる。一束20円くらいで売っている)や道行く人々へののどの渇きを潤すための飲み水
の提供(写真右:道行く人誰もがのどの渇きを潤すことができるよう,道端や寺院に用意されている素焼きで出来た水瓶。水補充や管理は,
置かれた水瓶の近所の人々が無償で行っている)は一般的に見られる光景である。
シュエダゴン・パゴダ
ヤンゴンの丘(シングッタヤ)にそびえるパゴダ。夜は金色にライトアップされ(写真左),日中は日の光によってより一層黄金色に輝
き(写真右),存在感を見せつける。ちなみに,パゴダの見えるホテルの部屋は宿泊代が割高になっている。
竪琴
曲がった琴を意味するボートのように湾曲した形が特徴。棹は「シャー」の木の曲がった根,先端は菩提樹の葉を模した装飾がある。
共鳴部はミャンマー国花「バダウ」の木をくり抜き上部には鹿革が張ってある。弦は絹糸をより合わせた16本弦である。4~5kg位の重さ
があり,思いのほかズッシリ感がある。
7 / 2014 複十字 No.357
13
教育の頁
接触者健診の手引き
(第 5 版)
の主な改正点
山形県健康福祉部
医療統括監 阿彦 忠之
結核の早期制圧に向けて,結核患者の接触者の健
の検査性能はほぼ同等と考えられるので,第 5 版で
康診断(接触者健診)は,患者の確実な治療ととも
は,各地域の検査体制,経費負担,および利便性な
に優先度の高い重要な対策である。感染症対策に関
どを考慮して各保健所等がいずれかを選択して実施
する地域の中核機関である保健所にとっては,感染
するよう記述した。
症法に基づく業務の中でも,接触者健診の占める割
合が最も高いと推定される。接触者健診の手引きは,
(2)乳幼児に対するIGRAの適用拡大
感染症法のもとで質の高い接触者健診を実施するた
今回の改訂にあたっては,乳幼児へのIGRAの適用
めの保健所職員向けの指針として,平成19年に初版
拡大が大きな議論となった。第 4 版までは,乳幼児
が作成された。その後,診断技術の進歩や全国の保
に対する第 2 世代のQFT-2Gとツベルクリン反応検
健所からの意見などを踏まえて改訂を重ねてきたが,
査(ツ反)の性能比較の成績などを根拠に,乳幼児
平成26年 3 月に改訂第 5 版が完成し,全国保健所長
の結核感染診断法としてはツ反を優先していた。し
会および結核予防会結核研究所のホームページ上で
かし,
公開されている。第 5 版では,インターフェロンγ
①QFT-3GはQFT-2Gと 比 べ て 感 度 が 高 くT-SPOT
遊離試験(IGRA)の適用方法や患者の感染性期間の
推定方法などで大きな改正があったので,その概要
と同等であること1)
②小児の活動性結核患者
(LTBIではなく,
結核発病者)
に対するQFT-3Gの感度は,成人結核患者を対象
を以下に紹介する。
とした場合と同等であるという知見が得られたこ
1.IGRAの適用について
と1)
手引き「第 4 版」の公表時点では,「クォンティフェ
③健診対象がBCG既接種の乳幼児の場合,IGRAより
(QFT-3G)が国内で利用できる
ロン TBゴールド」
もツ反を優先するための科学的根拠が乏しいこと
唯一のIGRAであった。その後,QFT-3Gとは測定原
などを理由に第 5 版では,乳幼児であってもIGRA
®
®
理の異なる手法として「Tスポット TB」(T-SPOT)
を接触者健診の基本項目の一つとして位置づけるこ
が平成24年11月に健康保険適用となり,接触者健診
ととした。ただし,乳幼児の活動性結核(発病後)
においても既にQFT-3GまたはT-SPOTのいずれかの
に対するIGRAの感度をそのまま乳幼児のLTBI(発病
手法で実施されていることを踏まえて手引きの内容
前)にも適用できるかは不明であり,IGRAは 5 歳未
を修正した。
満の「未発病感染例」を正確に検出できない可能性
があるとの指摘もある2)。このため,乳幼児のLTBI
(1) 2 つのIGRAの比較と選択
14
に対するIGRAの感度不足の可能性を考慮して,乳幼
QFT-3GとT-SPOTの性能比較については,わが国
児ではIGRA単独ではなく,ツ反も併用する方法を基
の接触者健診適用例での比較検討に関する知見がま
本とした。
だ少ない。特にT-SPOTについては接触者健診に適
検査の手順として,先にIGRAを実施し(その結果
用されてからの期間が比較的短いため,検査後の追
が陰性の場合に)引き続きツ反を実施するという方
跡調査(例:陰性者からの発病率の分析など)を含
法では受診回数が多くなることから,できるだけ
めた評価は今後の課題である。現時点では,潜在性
IGRAとツ反を同時に実施することが望ましい。しか
結核感染症(LTBI)のスクリーニングにおける両者
しながら,これは健診方法の大きな変更であり,かつ,
7 / 2014 複十字 No.357
IGRAのための乳幼児の採血は困難を伴う場合がある
の出現時期などを感染性期間の始期と考えて健診を
ことから,健診を実施する施設の状況,および事例
企画することを基本としていた。わが国では,米国
のBCG接種歴や感染リスクなどに応じて,ツ反を優
と比べて胸部X線検査の機会(定期健診,他疾患で
先する方法も選択肢の一つとした。特にBCG未接種
入院時の検査など)が多いので,「一律 3 カ月前」で
児の場合は,ツ反発赤径10mm以上を「陽性」とす
はなく,基本は「症状出現時期」とし,比較できる
る判定基準を適用できるので,ツ反を優先する意義
胸部X線所見があれば,それを参考にして判断する
がある。ただし,ツ反を優先する場合であっても,
という考え方であった。
乳幼児の活動性結核の見落としを防ぐために,患者
しかし,
「診断時に喀痰塗抹陽性(3+)であっても,
との接触歴等から感染リスクが高いと推定される乳
咳の出現は 1 カ月前からで,健診歴がなく参考にで
幼児には,IGRAの併用を推奨することとした。
きる過去の画像所見もない」といった事例が少なく
ないことや,症状出現時期の聞き取りが十分にでき
(3)結核感染率の高い集団におけるIGRA再検査
ない事例も(特に高齢者では)多いことから,第 5
結核感染が明らかな者でも,感染初期にはIGRAお
版では,感染性期間の始期の推定方法を一部修正す
よびツ反で陽性反応を検出できない。これまでの研
ることとした。具体的には,喀痰塗抹陽性(または
究によれば,感染を受けてからIGRA陽転までの期間
胸部X線検査で空洞あり)の患者については,過去
は通常 2 ~ 3 カ月と推定されている。しかし,結核
のX線所見や菌検査所見等を遡って分析することに
感染率が極めて高かった集団感染事例においてIGRA
より感染性期間の始期の推定が可能である場合を除
による追跡検査を長期間実施した研究によれば
3)4)
,
いて,基本的に「結核診断日の 3 カ月前,又は初診
感染曝露から 2 カ月後の陽性確認が最も多いものの,
時の胸部X線検査で既に空洞所見を認めた例では初
3 ~ 6 カ月の間に陽転化したと考えられる者も少な
診日の 3 カ月前」を始期とする方法を提示した。また,
くないことが報告されている。そこで,結核患者と
患者登録直後の(第一同心円の)接触者健診により
の最終接触から 2 ~ 3 カ月後の健診で実施したIGRA
新たな結核患者(発病者)が発見された場合は,感
の陽性率が非常に高かった場合など,結核感染率が
染から発病までの期間(集団感染事例の観察では,
極めて高いと推定される集団に対しては,IGRA再検
感染源患者の症状出現から 7 ~ 8 カ月後の発病例が
査を最終接触の 6 カ月後にも実施するよう推奨する
最も多い)も考慮して,感染性期間の始期を遡及す
こととした。
ることを追加記載した。
2.
「感染性期間」の始期の推定方法について
なお,今回の第 5 版は,平成25年度厚生労働省新
型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業「地
接触者健診の企画にあたっては,結核患者の感染
域における効果的な結核対策の強化に関する研究(研
性期間(患者の接触者に結核を感染させる可能性の
究代表者:石川信克)
」の分担研究成果の一つである。
ある期間)の推定が重要である。米国CDCの接触者
健診ガイドラインでは,基本的に結核診断日の「 3
カ月前」からを感染性期間とすることが勧められて
いる。しかし,わが国では,感染症法に基づき「結
核にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある
者」に対して,知事等が接触者健診を勧告する(従
わなければ強制措置が可能)という人権制限的な制
度であり,対象範囲を一律に広く設定するは問題で
あるとの指摘があった。そこで,本手引きの第 4 版
(文献)
1 )徳 永修.小児を対象とした結核感染診断におけるQFT-GIT及び
T-SPOT TB反応性の比較. 平成24年度厚生労働省新型インフルエ
ンザ等新興・再興感染症研究事業「結核の革新的な診断・治療及
び対策の強化に関する研究」報告書, 2013.
2 )Mandalakas AM, et al. Interferon-gamma release assays and
childhood tuberculosis: systematic review and meta-analysis. Int
J Tuberc Lung Dis 15:1018-1032, 2011.
3 )濁川博子,他.感染暴露後 1 年間QFTで経過観察しえた61名の医
療施設内の結核暴露事例.結核87: 635-640, 2012
4 )Lee SW, et al. Time interval to conversion of interferon-γ release
assay after exposure to tuberculosis. Eur Respir J 37: 14471452, 2011.
までは,症状出現時点や感染性結核を疑う画像所見
7 / 2014 複十字 No.357
15
シリーズ
COPD
呼吸不全今昔物語
―結核後遺症と現在の結核
複十字病院
佐々木 結花
診療主幹 在宅酸素療法(Home Oxygen Therapy;HOT)
侵襲的陽圧換気療法の開発,慢性下気道感染症への
は1985年から保険適用となった治療で,long term
研究が進み,これほどの死亡率ではないと考えられ
oxygen therapy
(LTOT:長期酸素療法)が可能とな
るが,重症肺結核に懸命に立ち向かい,一息ついた
り,それ以前は,酸素吸入のみを目的とした長期入
患者さんに呼吸不全という後遺症が忍び寄り,命さ
院されていた患者さんたちが在宅療養できるように
え奪いかねない状況は,稀ではないかもしれない。
なった画期的な治療法である。1985年にHOT対象と
現在でも画像上拡がりⅢや広汎空洞型肺結核(bⅠ3)
なった患者さんの原疾患は,肺結核後遺症,慢性閉
を呈する非高齢の患者さんは稀ではない。それらの
塞性肺疾患(COPD)の 2 者が多くを占め,肺線維症,
患者さんは受診の遅れが長期であることが多く,結
肺癌等の病名で登録される方は,現在ほど高率では
核自体の予後は良好とは言えず❷,治癒後も肺アスペ
なかった。
ルギルス症,肺非結核性抗酸菌症の発症に悩まされ
肺結核後遺症症例は,結核による肺既存構造の破
る場合がある。また,禁煙できず肺気腫を合併しさ
壊を基盤とし,抗結核剤投与のみによって加療され
らに悪化のスピードが速まる可能性もある。肺結核
た症例に加え,胸郭成形術や人工気胸術,肺切除術
は,発病予防,早期受診・早期診断・早期治療が重
など観血的治療を施行された症例を含み,さらに経
要であるということは,言うまでもない。それはただ,
年変化が加味された複雑な病態を一群のものとして
周囲への感染の拡大を減じ,次の世代へ感染のリン
とらえられてきた。現在は,感受性の肺結核治療は
クを残さないためだけでなく,患者さん自身の生活
化学療法であり,化学療法で治癒された肺結核後遺
の質を後年低下させないというもう一つの意義があ
症,すなわち外科的侵襲を除いた肺結核後遺症症例
る。
の肺循環諸量と予後の関係について検討を行ったこ
当院 2 C病棟は,
慢性呼吸不全の患者さんに,
「HOT
❶
とがある 。
ステイ(ほっとステイ)」を検討中である。通常の
対象は21例で,平均年齢58.4±9.4歳,肺結核発症
ショートステイではなく,労作・睡眠時酸素飽和度
から右心カテーテルまでの期間は, 5 年以内が 2 例,
測定,適切吸入酸素量再設定,呼吸法再習得,リハ
6 ~10年 0 例,11~15年 2 例,16~20年 3 例,21~
ビリテーションを目的としている。加えて,栄養指導,
25年 3 例,26~30年 3 例,31年以上 8 例と,発病か
口腔ケア指導,誤嚥予防などを取り入れていく予定
ら長期に経過し経年変化を有した症例が多かった。
である。広く見渡せば,最新の潜在性肺結核感染症
安静臥位室内気吸入下血液ガス分析値は,PaO2 59.3
(LTBI)研究からこのHOTステイまでが,当院の
±11.4 Torr,PaCO2 51.9±6.3 Torr,21例 中20例 が
結核対策であると言えるかもしれない。
高炭酸ガス血症を伴っていた。呼吸機能では%VC
44.1±16.3%,FEV1%66.6±23.0%と高度の拘束性換
気障害,軽度の閉塞性換気障害を認め,肺循環諸量
では室内気吸入下平均肺動脈圧(PAm)は27.1±7.1
Torr,21例中20例でPAm 20Torr以上の肺高血圧を
認め, 7 例がPAm 30 Torr以上の高度の肺高血圧で
あった。21例中HOTを施行した化療群18例の生存率
は, 1 年生存率88.9%, 3 年生存率62.6%, 5 年生存
率38.5%であった。化学療法を行って肺結核が治癒
しても,呼吸機能が低下しHOTが開始されれば,約
40%が 3 年で死亡していたことになる。現在は,非
16
7 / 2014 複十字 No.357
文献)
❶ 佐
々木結花,山岸文雄,鈴木公典,他:化学療法にて治療された肺
結核後遺症症例の肺循環諸量と予後の検討 日呼吸会誌 1998;
36:934-938.
❷ 佐 々木結花,山岸文雄,八木毅典,他:広汎空洞型(bI3)肺結核
症例の臨床的検討 結核 2002;77:443-448.
慢性呼吸不全の方のよりよいケアを目指して
―複十字病院 2C病棟
(医療型療養病棟)
について―
複十字病院 2C病棟
野手 尚美
看護師長 『HOTステイ(ほっとステイ)
』の入院病棟になる 2 C
生活を支える大きな力になっていくものと思います。
病棟についてこの場を借りて少し紹介をさせて頂きます。
2 C病棟は,COPDをはじめとした慢性呼吸不全の
患者様が安心してゆっくりと療養していただく場とし
生活を支えるケア…
呼吸苦の増強や合併症を発症しないために,口腔ケ
て大きな役割を果たしております。医療療養型病棟と
ア,嚥下訓練,排便コントロールも丁寧に行っていま
して,看護師と看護助手がコメディカルと協力をしな
す。食前の排痰介助,食堂への移動,食後の歯磨き,
がら,医療処置,看護,リハビリ,介護,レクリエー
歯磨きがご自分でできない患者様の口腔ケア,昼食前
ション,社会資源の情報提供…と多岐にわたる援助を
のパタカラ体操(誤嚥予防の運動です)
,誤嚥を起こ
させて頂いています。COPD・間質性肺炎・肺癌など
しやすい患者様への食事介助や内服介助…誤嚥予防の
の疾患により呼吸困難だけでなく精神的な不安を抱え
ための学習会を重ねながら取り組んでいます。
る患者様が,少しでも安楽な療養生活が送れるように
昨年は個別的排泄ケアに取り組み,おむつ排泄から
様々な工夫を凝らしています。
ポータブルトイレ排泄に移行できた患者様が多数い
らっしゃいました。今年は,前回紹介のあった吸入療
入浴「どうしたら,少しでも安楽な入浴を楽しんで
いただけるか…」
法の個別指導と個々の患者様の状態に合った
「まくら」
のあり方について取り組む予定でおります。
医師の許可があれば,ほとんど全員の患者様が入浴
をされています。入浴の順番,入浴方法,衣類の着脱
の手順,酸素流量を増量するタイミングや吸入方法,
私たち自身も患者様にとっての空気…
『ひとがほんのわずかしか空気を吸い込めないときに
洗髪の手順,
浴室のドアを開けておくかどうかにまで,
は,ほんのわずかな空気はぜひとも良い空気でなくちゃ
試行錯誤を繰り返し,一人一人の患者様にふさわしい
いけません』と,看護覚書の中の一節にあります。
(ナイ
入浴方法をカンファレンスで検討しています。介助を
チンゲールの言葉ではなく,医師の言葉でしたが…)
させていただく看護助手の,技術と経験そして優しさ
環境を整えること,患者様の意欲や機能を最大限に
が,より良い方法を生み出す源になります。患者様の
引き出すケア,患者様への声のかけ方,患者様やご家
湯上りの気持ちよさそうな笑顔がスタッフの励みとな
族への励ましの心,ケアを通して感じる喜びと感謝,
ります。
生命への尊敬。すべてが患者様の呼吸を支える要素と
なり,空気そのものになっていきます。今後も心して,
リハビリテーション
週に 1 回のリハビリテーション・カンファレンスで
慢性呼吸不全の方々のためのよりよいケアに取り組ん
で参ります。
は,理学療法士の方と目標を共有するだけでなく,患
者様に生活援助をする上で行うべき援助技術のコツや
留意点,指導方法も学んでいます。
理学療法科の浅居科長やスタッフの方々の「お一人
お一人の人生をどう支えていくか」という視点から語
られる言葉には,大切な気づきのポイントが含まれて
います。慢性疾患を抱える患者様にとって「自分でで
きるのだろうか」ということ,一つ一つが大きな関心
事であり,生きがいでもあります。
『HOTステイ(ほっとステイ)
』で,肺機能の状況
を評価し,その方の肺機能と生活様式にあったリハビ
リをしながら,在宅で生活を送るための生活訓練(予
行練習)を病棟で実施することは患者様の在宅・療養
2 C病棟スタッフは患者様のより良い入浴方法を日々検討しています
7 / 2014 複十字 No.357
17
ずいひつ
「急性期と慢性期とは」
医療法人平成博愛会 博愛記念病院 理事長
一般社団法人 日本慢性期医療協会 会 長
武久 洋三
18
病気には急性疾患と慢性疾患があるとされている。
医療であり,処置後に元の生活に戻るための治療等
ふつう生活習慣病というと,慢性疾患となる。感染
は慢性期医療という。今回の医療・介護の一体改革
症は一般には急性疾患であるが,結核はずっと慢性
法案の中にも医療圏の中での急性期病床と慢性期病
疾患と思われてきた。それは特効薬がなく,長期の
床の患者の実態を医療機関に報告させて,当該医療
療養を余儀なくさせるからであった。しかし戦後特
圏内での患者のニーズに合っているかの整合性を問
効薬により,結核は慢性から急性の病気に変身を遂
う「病床機能の報告制度」なるものが開始される。
げた。すなわち,治療により早期に社会復帰できる
超高齢化社会になって当然のことながら急性期病
ようになって久しい。しかし戦後半世紀を過ぎたこ
床より急性期治療後の慢性期の病床の方が圧倒的に
ろから少し怪しくなってきた。薬物に対しての耐性
ニーズが高い。にもかかわらず,現在まで急性期と
菌が出現し,非定型性抗酸菌などと命名される多彩
いわれていた一般病床は慢性期の象徴といわれてい
な敵が現れてきた。
る療養病床の 4 倍近くになっていた。このおかしな
今なお感染力は強く,よく集団感染するし,病院
ディスクレパンシを大胆に改革したのが,この 4 月
内でも敵に対する予備知識不足により医療の専門家
の診療報酬改定である。実は急性期病床と思われて
でありながら,素人集団と変わらないような危機感
いる病床に大量の慢性期患者が混在していたのだ。
もないし,呼吸器症状があっても結核なんかを想定
2025年には2010年の1.5倍の日本人が死亡するとい
しない医療機関が多く,時折マスコミをにぎわす。
う確定的予測によれば患者が死亡するまでに 2 回以
一人の患者が見つかれば,すでに大量の感染の可能
上入院したとすると現在の 3 倍以上に入院患者が増
性を考えて,大掛かりな対策がとられる。
加するということであり,これ等の患者に入院して
私も結核に関しては素人であり,
「その感染力はイ
貰おうとすれば一人の入院期間を現在の1/3にしなけ
ンフルエンザやノロウイルスにも劣らないし,一度
ればならない。その為に今回の改定は治療が終われ
罹患して耐性菌だったら重症化して生命をも脅かす」
ば病院から出来るだけ早く在宅方向に移行してもら
という程度のことしか知識はない。といいながらも,
うことを意図したものとなった。日本は中途半端な
私の病院でも10年に 2 度くらい職員が感染すること
規模の中小病院が全国に散在している現状にあるこ
がある。結核菌に関わらず,微生物は人間を最適の
とから,メリハリの利いた病院機能を明確にした。改
宿主として狙っている。彼らとの戦に終わりはない。
定すなわち,急性期ははっきりと急性期らしく,急性
ちょっと勝ったと油断していると,きついしっぺ返
期治療後のPost acuteは,地域包括ケア病棟を創設し,
しを食ってしまう。地震,雷,火事,親父ではないが,
在宅復帰に注力させるという意図だ。もはや中途半端
胸部所見,呼吸器症状をみたら,癌,結核,肺炎,
な急性期病院は認めず,急性期とは高度急性期病院
インフルエンザの順で怖いものから徐々に除外診断
のみとするメリハリが実現することも近いことである。
をする癖をつけよう。
では,結核はというと,やはり特別の疾病であり,
急性と慢性の概念にはもうひとつ急性期,慢性期
結核患者の減少により少なくなった結核病床をむし
という疾患ではなくその病期によって分ける場合が
ろきちんと整備しなくてはいけない。大きな医療費
ある。急性疾患でも手術などの急性期処置は急性期
抑制政策の中に結核を埋もれさせてはいけない。
7 / 2014 複十字 No.357
最近出された手引きの紹介
結核研究所
所長 石川 信克
最近,結核対策に関する「手引き」類が作成・公
るかという視点で作成されている。
表されたので,そのいくつかを紹介する。
刑事施設被収容者,そして刑事施設出所者は,世
① 阿 彦忠之,石川信克編:感染症に基づく結核の
界的に社会経済的弱者として結核に対してリスクの
接触者健康診断の手引きとその解説 改訂第 5
高い集団である。我が国の刑事施設における最近の
版(2014年 3 月)(本誌14-15pに掲載)
結核患者数は年間200人前後と報告されているが,結
② 加 藤誠也編:結核院内(施設内)感染予防の手
核罹患率は一般人口と比較して約13倍と高く,入所
引き.平成26年版.(2014年 3 月)
中,出所後,ともに結核対策上の特別の注意が必要
③ 国 際結核肺疾患予防連合:結核患者への禁煙の
であり,関係者の相当の努力が求められる。そのた
勧めとたばこの無い環境づくり(2010年版 和
めには刑事施設と保健所との連携が必須で,各地域
訳,2014年 3 月)
で様々な試みがなされてきた。国際的にはいくつか
④ 石 川信克編:保健所に向けた刑事施設における
のガイドラインもあるが,各国でも対策は容易では
結核対策の手引き―刑事施設と連携していくた
ない。本手引きは,全国的な調査を踏まえて,刑事
めに―(2014年 3 月)
施設における結核対策に係る保健所・刑事施設の職
これらは,それぞれ厚生労働科学研究(新型イン
員の協力,厚労省結核感染症課をはじめ関係機関か
フルエンザ等新興・再興感染症研究事業)の一環で
らの意見もいれて初版として作成された。各所の試
なされた研究の成果である。①,②に関しては,従
みや事例も紹介し,刑事施設での結核対策が,より
来から広く用いられたものが,新しい知見を入れて
効果的に行われるような手順を示す。新規患者発生
改訂された。ともに,保健所や病院,結核対策に関
時の対応,接触者への対応,普及啓発などに加え,
わる方々に必読のものである。③は,結核と喫煙の
更に刑事施設における結核患者の特徴を考慮した「積
深い関連から,結核患者の禁煙ABCとして国際的に
極的疫学調査票(刑事施設用)」や治療途中で出所す
広く用いられているガイドブックの和訳で,今後の
る患者に対するリスクアセスメント票と服薬支援計
活用が期待されている。
画票の案も示されている。内容の性格上,①,②と
④は今回新たに出された初版で,刑事施設を管轄
も併せて利用することが望まれる。
する保健所向けに,いかに刑事施設と協力・連携す
上記の各手引きは,次の各ウェブサイトでも見る
ことができる。
1 )http://www.phcd.jp/02/kenkyu/kouseiroudou/
pdf/tb_H25_tmp02.pdf(全国保健所長会ホーム
ページ)
2 )http://www.jata.or.jp/rit/rj/院内感染予防の手
引 き(2014年 最 終 版)
.pdf(結 核 研 究 所 ホ ー ム
ページ)
3 )http://www.jata.or.jp/rit/ekigaku/index.php/
download_file/-/view/2590/(結核研究所疫学情
報センターホームページ)
4 )http://www.jata.or.jp/rit/rj/刑事施設.pdf(結核
④保健所に向けた刑事施設における結核対策の手引き
研究所ホームページ)
7 / 2014 複十字 No.357
19
TBアーカイヴ
桜映画社の「結核予防」映画10作品について
―結核予防会の保存と活用事業に協力して―
桜映画社プロデューサー
山田 三枝子
結核予防映画の保存と活用―結核予防会のアーカイヴ
日本の結核予防に深く関わった島尾忠男先生(現結核
事業
予防会顧問)をはじめ関係者の方にオーラルヒストリー
結核予防会は今年,創立75周年を迎えられます。設
の記録として証言映像を作成し,結核が現在もなお制
立以来,日本で蔓延していた結核を制圧するために活
圧できていない感染症の一つで,過去の病気ではなく,
動され,日本の公衆衛生運動をけん引し,結核予防に
一般の人たちに結核に対する正しい知識をもって理解
大きな貢献をされてきたことはいうまでもありません
してもらう必要があることや,結核予防会,結核研究所,
が,現在も結核とのたたかいは終わってはおらず,唯
結核予防婦人会などのこれまでの業績を後世に伝承す
一の結核専門機関として,結核予防会の存在は今後ま
るため,生の声で映像を記録することが必要と考え,
すます大きくなると確信しております。
結核予防会様のホームページや行事で公開できるよう
私は現在,結核予防会のアーカイヴ事業として,こ
制作する所存でおります。
れら業績の一端を 2 つの映像アーカイヴを通して,多
くの人にお伝えするお手伝いをさせていただいており
桜映画社と結核予防映画
ます。
ところで,桜映画社は,地婦連(全国地域婦人団体
一つ目は,桜映画社の結核予防10作品のフィルム原
連絡協議会)会長の山高しげりを代表に都婦連(東京
版(35ミリフィルムや16ミリフィルムネガフィルム)
都地域婦人団体連盟)の幹部全員と各地の婦人会会長,
からHD
(ハイビジョン)デジタルリマスター作業を行
田辺繁子,波多野勤子など47名が設立発起人となって,
い,日本の結核対策の映像遺産として後世に伝えてい
1955(昭和30)年に教育映画の制作会社として発足し
けるよう保存(アーカイヴ)する事業で,併せて英語
ました。当時「母親プロダクションの誕生」と新聞で
字幕版を作成し,アジアやアフリカなどの開発途上国
も大きく報道され,児童映画と婦人のための教育映画
の保健衛生担当者に日本での経験を伝え,結核対策に
を企画の柱にして,
「母と子の桜映画社」とも言われま
活用していただくことを目的としています。
した。桜映画社の創業者である村山英治は,後年,
「環
フィルムは,約50年で劣化が起こり,使用不能にな
境衛生とか,家庭生活,子供のしつけなどで教育映画
るといわれます。半世紀近く倉庫で大切に保管してき
の制作会社を作りたい」と,戦前から親交のあった市
たマスター原版(フィルムネガ)も,このままでは色
川房枝さんに相談に行き,山高さんを紹介され,二つ
があせたり,劣化するばかりでした。またネガの状態
返事で山高さんが桜映画社の初代社長を引き受けてく
では,映写が不可で内容を見ることができません。今回,
れたと記しています(新宿書房刊『桜映画の仕事〈映
この貴重な映像を長く保存し,活用するという観点か
画に生きる〉
』より)
。桜映画社の第 1 作は,保健衛生
ら,マスター原版(フィルムネガ)をデジタル機器に
で当時大きな課題だった,
「蚊とハエの駆除」の問題を
取り込んで画質を復元するにあたっては,費用もかか
取り上げ,東京瑞穂村の婦人会の協力のもとで,
『さよ
りますが,SDデジタルリマスター(標準画質)ではなく,
うなら蚊とはえさん』
(企画:全地婦連)を制作。草創
HDデジタルリマスター(ハイビジョンに対応した高解
期桜映画社が取り組んだ社会教育映画は,保健衛生か
像度画質)を推薦させていただきました。そして,10
ら結核予防,売春対策にまで及んでいます。
作品すべてに英語の字幕をつけ,日本語版と英語版を
本稿では,特に1958年より1984年までに制作した「結
選択できるようにいたしました。
核予防」10作品を紹介したいと思います。
二つ目は,日本の結核予防の証言映像の制作です。
20
7 / 2014 複十字 No.357
桜映画社の「結核予防」映画10作品
いい空気を吸わせて…」
①お母さんの幸福〈1958(昭和33)年/35mmフィルム
当時,結核患者は,全国に48万人と推定され,子供
しあわせ
の結核は,その殆どが大人から感染していたことから,
/劇形式/48分/モノクロ〉
映画の内容は,主婦であるお母さんが結核になり,
子供を結核から守ることを訴える児童劇映画として制
医者に入院をすすめられたが,自宅療養を決め,家族
作されました。
が力を合わせてお母さんを看病するというホームドラ
③たくましき母親たち〈1959(昭和34)年/35mmフィ
マ。戦後10数年がたっても,結核が日本で死亡順位の
ルム/劇形式/48分/モノクロ〉文部省選定,厚生
上位を占めているという状況のもとで,家庭の主婦と
省推薦,東京都教育委員会選定,国民文化会議推薦,
その家族に結核予防(家庭内感染)を啓発する目的で
第 4 回教育映画コンクール銀賞
制作されました。当時のチラシを見ると,文部省選定,
当時,保健文化賞を受けた大阪府吹田母子会をモデ
東京都教育委員会選定,都民映画コンクール教育映画
ルにした群集劇で,実際に母子会の会員が炎天下,撮
銀賞のあとに,結核予防会をはじめ,日本PTA全国協
影に協力,出演した会員は1,000人を超えました。日本
議会,中央児童福祉審議会,全国地域婦人団体連絡協
の公衆衛生運動が,
「蚊とハエの駆除」の活動からやが
議会,主婦連合会,日本青年団協議会など11の団体か
て地域の様々な健康にかかわる問題に総合的に取り組
ら推薦を受け,さらに試写会に,秩父宮妃殿下がご臨
む活動に進展している様子が,この映画から伝わって
席になり,この映画を推奨された…ということが書か
きます。特に映画の終盤,結核住民検診をきっかけに,
れています。
「家庭の主婦が結核問題に関心を向けるよ
〈母子会〉組織が全市に拡がり,検診受診率が保健所
う結核予防関係婦人団体の育成,強化に格別のご配慮
の予想をはるかに超えて89パーセントに達し,大勢の
を示され」
(結核予防会刊『60年の軌跡』より)秩父宮
人たちが集まってくるところは圧巻です。戦後,日本
妃殿下が結核予防に深い関心を寄せられたことをここ
の公衆衛生運動は,村ぐるみ,町ぐるみの地域の住民
でも知ることができます。
参加による活躍が大きいことや今日のがん検診の礎を
②小さな仲間〈1958(昭和33)年/35mmフィルム/劇
築いたのが結核集団検診であったことが,この映画を
観るとよくわかります。結核集団検診は,ツベルクリ
形式/50分/モノクロ〉
「健ちゃん,やっちゃん,三ちゃんの 5 歳と 6 歳の子
ン反応検査やBCG,レントゲン間接撮影等で結核を早
供たちは河原で捨てられた子犬をみつけ,駄菓子屋で
期に発見し,病気の進行や蔓延を予防してきました。
ある健ちゃんの家で飼うことに。 3 人は子犬の様子を
日本の予防医学で結核集団検診の経験が大きな役割を
見に通うが,健ちゃんのおじいさんが肺の病気らしい
果たしてきていることを改めてよく理解できました。
と噂が立ち,やっちゃん,三ちゃんの母親は健ちゃん
④再起への道〈1959(昭和34)年/16mmフィルム/記
の家に行って遊んではいけないといいます。おじいさ
録形式/21分/モノクロ〉文部省選定,厚生省監修
んは結核で,やがて健ちゃんにも感染していることが
企画:財団法人結核予防会
わかり,お母さんは健ちゃんをしばらく空気の良い郷
この映画は,ある結核患者の手術後の抜糸から集団
里へ行かせるつもりです。二人は,健ちゃんが田舎へ
体操にいたる肺機能訓練療法の個人指導を記録して,
やられなくてもいいように,ビルの屋上にのぼって,
社会復帰するまでを紹介。当時,結核予防会保生園(東
しあわせ
①お母さんの幸福
②小さな仲間
③たくましき母親たち
7 / 2014 複十字 No.357
21
TBアーカイヴ
村山市にある結核予防会の結核療養施設)で指導を受
という内容が書かれていました。映画は,このような
け,実際の患者さんに出演していただいています。
患者さんの思いを真摯に受け止め,代弁しています。
今回この作品の映像アーカイヴを行うにあたって,
この時から私は,結核に関心のない人にも当時の患者
島尾忠男先生(現結核予防会顧問)が作品解説文を寄
さんの切実な思いを何か伝えていきたいと思うように
せてくださり,その一部をここでご紹介します。
「病気
なりました。
になることによって生じる身体への影響をできるだけ
⑥小さな灯をまもる人びと〈1963(昭和38)年/35mm
少なくとどめ,社会復帰を容易にする理学療法は,今
フィルム/劇形式/30分/モノクロ〉文部省選定 日では医療の中で欠くことのできない地位を占めてい
企画:財団法人結核予防会
るが,肺結核など呼吸器領域での理学療法が日本で導
「郷里に戻り,再婚した主人公のなお子は,前夫を結
入されたのは1957(昭和32)年のことである」先生は,
核で亡くしたことを家族に話していない。村には結核
1955年 4 月から 1 年間スウェーデンに留学,留学先で
予防婦人会があり,住民健診活動をしていたが,呼び
肺結核の手術前後に行われる理学療法に出会い,ス
かけの度に不安に駆られ,検診に行かなかった。やが
ウェーデン結核予防会より56年に刊行された本を帰路
て子供を出産し,
『あなたの胸の写真が大切な赤ん坊の
の船旅で翻訳し,
『肺機能訓練療法』と題する訳本とし
生命を守るのよ』と,個別訪問にきた婦人会のつね子
て結核予防会から出版,日本で初めて「理学療法」を
に諭され,受診の決心をする。結果は結核ではなく,
紹介されました。この映画は,先生が日本へ持ち帰ら
それ以来,積極的に結核予防活動を始めるが…」
れた肺機能訓練療法を実際に結核療養所で胸部手術前
当時,30代の結核による死亡率が高く,若い母親と子
後に応用したドキュメンタリーとして,大きな意味の
供の生命を守るために結核検診の大切さを訴えた作品
ある作品です。私は,今日のリハビリの生みの親が結核
です。結核予防会刊『60年の軌跡』には,
「昭和25年に
予防会の島尾先生だったことを知り,また映画の冒頭
長野市で始まった結核予防婦人団体の結成は,32年には
にスウェーデン結核予防会に対して,謝辞が字幕で紹
結核予防婦人会長野連合会となり,33年には静岡県にも
介されている意味を初めて理解することができました。
結成され,熊本県,秋田県と続き,昭和50年に全国結核
⑤生きぬく〈1961(昭和36)年/35mmフィルム/劇形
予防婦人団体連絡協議会が結成され,52年に厚生省から
式/30分/モノクロ〉文部省選定,東京都教育委員
認可され社団法人となって発展…」と記されていて,こ
会推薦 企画:財団法人結核予防会
の映画も長野県結核予防婦人会の協力で,長野県小布施
この映画は,世間で正しく結核が理解されていない
町で撮影を行っています。りんごの花咲く農園風景は,
ために,回復者が就職問題でどれ程苦しんでいるか,
カラーであったらどんなに美しい映像だっただろうかと
社会復帰には,周囲の温かい愛情や支援,特に雇用す
思います。監督は,
『兄いもうと』など戦前から活躍さ
る側と一般社会の理解が必要と訴えています。女優の
れた木村荘十二(洋画家,木村荘八の弟)です。
三条美紀さんが結核回復者である夫を支える妻役で好
⑦サッパと老人〈1966(昭和41)年/35mmフィルム/
演しているのが印象的です。この作品の台本を探しに
劇形式/36分/モノクロ〉企画:財団法人結核予防会
倉庫に行き,古い作品ファイルの中から,映画の脚本
1950(昭和25)年,日本人の死亡順位が第 1 位だっ
を担当した田辺耕二宛てに寄せられた患者さんからの
た結核も,この映画が制作された1966年には,第 7 位
手紙を偶然発見しました。鉛筆で書かれた手紙には,
となり,結核で死亡する人は少なくなっていました。
病気を克服して,回復してからも,現実問題として就
しかし,患者数はあいかわらず88万 6 千人で減少せず,
業の壁が大きく立ちはだかっていること,是非とも映
特に会社などの組織に入っていない老人の中には,健
画には,社会に出て働きたいかを盛り込んでほしい,
康診断を一度も受診しない者も多かったという状況の
④再起への道
22
7 / 2014 複十字 No.357
⑤生きぬく
⑥小さな灯をまもる人びと
中で制作されました。内容は,三陸地方の漁村を舞台
防ぐことで,抵抗力の研究としてリンパ球をはじめ様々
に結核に感染した老漁師とその孫娘を通して,老人と
な実験を結核研究所で続けていることを,連続ミクロ
子供の結核予防を訴える社会教育映画で,東京オリン
撮影を駆使して紹介した記録映画」結核菌が 1 ミリの
ピックが1964年,60年代は日本経済が高度成長期に入っ
200分の 1 以下の微生物で,しぶとい生命力を持つこと
たといわれていますが,一方地方の過疎化が拡大しは
や病巣が広がる様子などがミクロの映像で明らかとな
じめ,取り残された貧しい漁村の生活が描かれていま
ります。この作品は,清瀬にある結核研究所の一室に
す。貧困と病気を考えさせる一作でした。
監督とカメラマンが泊まり込んで,徹夜の連続ミクロ
⑧家族のこころ〈1969(昭和43)年/16mmフィルム/
撮影を半年も続けて誕生しました。映画は,日,英,
劇形式/32分/モノクロ〉文部省選定,東京都教育
インドネシア,タイ,ビルマ,アラビア,ネパール語
映画コンクール金賞 企画:財団法人結核予防会
版が作成され,世界中で結核予防の啓蒙のため利用さ
この映画は,福島県の八代きみ子さんの入選作文を
れました。
忠実に脚色演出した作品で,結核予防と家族のこころ
⑩よみがえる母のうた―インドネシアの結核予防―(英
の通い合いをテーマにして,結核予防婦人会の会員を
語タイトルThe Struggle of A Mother)
〈1984(昭和
中心とした複十字シール募金運動の収益金により制作
59)年/16mmフィルム/記録形式/34分/カラー〉
されました。
「高橋ブリキ店の主人惣平は,近頃よく咳
厚生省推薦,文部省選定
き込み,
『一度,医者に診て貰ったら』という家族の勧
企画:財団法人結核予防会
めにも耳を貸しません。惣平は家族の生活を思って,
途上国では,いまだに結核への偏見が根強く,正し
結果を恐れ,受診を拒んでいましたが,結果は,肺結
い治療や予防を進めることが難しいという状況の中,
核と診断,惣平の入院を機に家族が心を一つにして助
インドネシアの農村で結核に侵された一人の母親が周
け合い…」
りの人々に励まされながら病気を克服していく姿を通
1969年は,第 4 回結核実態調査が実施され,結核患
して,結核への認識と予防を訴えました。当時,世界
者数が153万人と発表され,結核の死亡順位は 8 位とな
の結核患者は, 1 千万人を超え,そのうち350万人が死
りました。
亡,その大半は,映画の舞台となったインドネシアな
⑨結 核とのたたかいは続いている(1973(昭和48)年
どの途上国が占めていました。日本では,結核対策が
/16mmフィルム/記録/30分/カラー)文部省選定
熱心に進められた結果,高度蔓延国から中等度蔓延国
監修・指導:結核予防会結核研究所
に移行しつつあった頃で,映画は,日本の結核予防会が,
企画:財団法人結核予防会 国際協力活動の一環として,インドネシアの人たちの
「ストレプトマイシンの発見以来,治療も手術療法か
ための結核予防映画を,インドネシア語版と英語版で
ら化学療法(薬剤治療)に変わっても,結核が多くの
制作しました。さらに日本の国民にも,結核への認識
人の命を蝕み,治療には長期を要する病気であること。
と撲滅を訴え,複十字シール募金協力を呼びかけるた
大切なことは体の抵抗力を強め,結核の感染を未然に
め,日本語版も作られました。
⑦サッパと老人
⑧家族のこころ
⑩よみがえる母のうた
―インドネシアの結核予防―
⑨結核とのたたかいは続いている
7 / 2014 複十字 No.357
23
予防会だより
第54回 日本呼吸器学会学術講演会 出展報告
今回で第54回となる呼吸器学会は,平成26年 4 月
25日(金)~27日(日)大阪国際会議場及びリーガ
ロイヤルホテル大阪を会場として行われました。参
加者数は約6,200名を数え,大変盛況となりました。
学会会期中には,多くのシンポジウムやランチョ
ン・イブニングセミナーが開催され,座長や演者を
務められた当会の先生方をはじめ,多くの参加者が
ブースに立ち寄られました。
当 会 出 展 ブ ー ス で は, 予 防 会 各 種 ポ ス タ ー や
COPD啓発冊子,COPD共同研究事業報告書を用意
しましたが,予想を上回る希望者で,追加した資料
もあっという間になくなりました。次回は来年東京
立ち寄られた複十字病院工藤院長
国際フォーラムにて開催
予定です。
(文責:普及広報課) 当会出展ブース
第 6 回 喀痰誘発研究会 in 大阪大学中之島センター
去る 4 月25日~27日,大阪国際会議場で開催され
た第54回呼吸器学会総会の初日の夜,今年で第 6 回
となる喀痰誘発研究会が開催されました。
喀痰誘発研究会は,2009年に発足した研究会で,
結核の診断において,特に重要なプロセスである喀
痰検査のための喀痰採取における新しい方法につい
て研究を進め,啓蒙を行っています。
今年度は,学会会場近隣の大阪大学中之島センター
の一室で開催されました。
会長の後藤元先生(複十字病院院長補佐)による
開会の辞からはじまり,全国 6 施設で行われ,昨年
末症例登録が完了した研究会主導の臨床研究「誘発
喀痰の結核菌検査に関するラングフルート法と高張
食塩水吸入法のクロスオーバー試験」の経過報告等
が行われました。この研究の成果は,今後各種学会
にて発表予定となっているようです。
さらに特筆すべきは,一昨年公開されたWHO(世
界保健機構)の「低リソース環境のための革新的な
医療機器およびeヘルスソリューションズの綱要」内
で,ラングフルートが取り上げられたことが報告さ
れたことでした。
また,アメリカメリーランド大学医学部において,
「肺がんの細胞分析の喀痰検体におけるラングフルー
トの有用性評価」が行われ,ラングフルートによる
肺がん細胞診の為の喀痰検体採取が大変有効である
ことが学術誌に掲載されたことも合わせて報告され
ました。
今後も,より良質な喀痰の必要性,その採取法の
啓蒙に力を入れていくとの認識を新たにして,会は
盛況なまま閉会しました。((株)アコースティックイ
ノベーションズ;相馬一平)
今回で 2 回目の参加となりました。医師の方だけで
なく,検査技師や保健師などの職種も参加しています。
お土産にいただきましたラングフルートは図のよ
うな硬いプラスチックです。これをもっと簡単に,
例えば紙で組み立てて用いることができれば,と研
究が進められています。簡易なラングフルートが近
い将来登場すれば,費用も安価になり,もっと身近
に使用できるのではと期待が高まりました。さらに,
今後発展にむけて,感染管理認定看護師にもこの会
を普及していきたいと思います。
喀痰誘発研究会HP:http://sirg-j.org
研究会出席者
前列左端Hawkins氏(ラングフルート発明者), 2 人目後藤会長,
後列左より 2 人目筆者
(結核研究所対策支援部保健看護学科:永田容子)
24
7 / 2014 複十字 No.357
インドネシアTBCARE支援の現場から
米国大使,国立結核菌検査センターを訪問
4 月 2 日,インドネシア・バンドン市にある結核予防
会の支援事業の拠点,国立結核菌検査センター(BLKバ
ンドン)を,ロバート・ブレイク在インドネシア米国大
使が訪問しました。同センターは,結核菌検査の国家レ
ファランス検査センターとしての機能を果たしている重
要な検査機関の一つです。
ロバート大使は米国とインドネシアとのパートナー
シップを強化するため,インドネシア各地を回りながら
地元の関係者と交流を図る中で,バンドン市長らと経済
等の協力について協議したとのことです。
インドネシアでは,2010年より米国国際開発庁資金に
よる結核高まん延国の対策を支援するプロジェクト「TBCARE」が実施されています。結核予防会が,TBCARE
大使を迎える筆者
の実施機関の一つとして技術的に支援しているBLKセン
ターは,同国の結核菌検査精度管理において重要な役割
を担っているとの国際的な評価を得ています。TBCARE
を通じて,インドネシアと米国,そして日本とのパート
ナーシップが,インドネシアの人々を結核から守るため
に役立っている好例と言えるのではないでしょうか。
ロバート大使は,プロジェクトの中で導入された新し
い結核診断機器GeneXpertによる検査を体験しました。
この機器は核酸増幅(PCR)法を原理とし,患者の喀痰
を簡単な前処置の後,装置に入れるだけで約 2 時間後に
結果が得られるものです。
結核予防会は,インドネシアの人々と協力しながら,
これからもインドネシア結核対策の向上のため力を尽く
センタースタッフと大使
していきたいと考えています。
(結核予防会TBCAREインドネシア・
プロジェクトマネジャー Dr. Tintin Gartinah)
第 2 回健康日本21(第二次)実現セミナー
―行政担当者向け喫煙対策Webシンポジウム―
5 月27日(火)14:00からファイザー株式会社本社18階会議室(渋谷区代々木)において,ファイザー株式会社と結
核予防会共催,厚生労働省と日本医師会後援で標記シンポジウムが開かれました。昨年11月に引き続いて,行政の現場
で先駆的に喫煙対策に取り組んでいる事例を紹介していただき,全国のサテライト会場と結んで,広く情報交換ができ
るものとなっています。
当日は厚生労働省田村憲久大臣のビデオ出演から始まり,厚生労働省健康局がん対策・健康増進課たばこ対策専門官
の野田博之先生のご挨拶,龍ヶ崎市,多治見市,尾張旭市,兵庫県の取り組みを紹介していただきました。当日は全国
約500名の参加を得て,盛会裡に終了いたしました。
(文責:編集部)
7 / 2014 複十字 No.357
25
世界禁煙デー記念シンポジウム「税とタバコを考える」
国立がん研究センター国際研究交流会館ホール(中央区築地)において, 5 月30日(金)に標記シンポジウムが
国立がん研究センター主催(厚生労働省後援)で開催されました。世界結核デー( 5 /31)の前日にWHOのメッセー
ジである “タバコ税を引き上げれば,死亡と疾病が減少する” ということについて,さまざまな立場の専門家が「タ
バコのない社会」に向けて日本のタバコ政策について考えるセッションがありました。フリージャーナリストの小
宮山洋子氏のビデオ出演もあり,プレイベントとして盛り上がりました。
(文責:編集部)
オールジャパンで,たばこの煙のない社会を
2014年世界禁煙デー記念イベント・ 5 月31日
(土)
東京ミッドタウン 1 階キャノピースクエア(東京・港区)
イベントブースも大盛況
当日は,国立がん研究センターならびにたばこと
健康問題NGO協議会の出展と,協力会社による資料
提供がありました。結核予防会が加盟するたばこと
健康問題NGO協議会のブースでは肺チェッカーによ
る肺年齢測定体験を実施し,40名近い方に体験して
いただきました。
来年も会場は未定ですが,必ず 5 月31日
(日)に開
催されます。日本各地で行われる世界禁煙デーのイ
今年の世界禁煙デーは,
「オールジャパンで,たば
ベントにぜひご参加いただきたいと思います。
この煙のない社会を」をテーマに開催されました。
(文責:編集部)
WHOのテーマは,“Raise taxes on tobacco(もっと
たばこ税を!)
”です。
昨年に引き続き,厚生労働大臣(当日は赤石清美
厚生労働大臣政務官)よりフィギュアスケーターの
安藤美姫さんが禁煙大使に任命されました。
世界に発信する禁煙大使
安藤さんは,アスリートとして,また母として禁
煙の大切さを会場に詰めかけたイベント参加者に呼
びかけました。また,ご自身の周りをはじめ,世界
中の人に愛する人を守るため,禁煙大使として訴え
かけたいと力強く宣言されました。
結核予防会の禁煙ポスター
が出来ました!
結核予防会では,「たばこと財布がのしかかる。禁
煙するぞ‼」という禁煙ポスターを作成しました。
無料で配布していますので,ぜひ人が集まるとこ
ろに掲示してください(ただし,送料は実費ご負担
いただきます)。お問い合わせは,結核予防会普及広
報課(電話03-3292-9288)まで。
(文責:普及広報課)
26
7 / 2014 複十字 No.357
外国人結核相談室から
No.10
―患者さんからの質問 2 (潜在性結核感染症)―
外国人結核相談室 須小 みどり
当相談室は第一健康相談所で行っている診療支援
だと思っていましたが,Wさんは十分理解できてい
で,潜在性結核感染症の予防的治療を受ける外国人
なかったようです。
の患者さんに関わる機会もあります。予防的治療の
Fさんは30代のインド人男性で,数年前から日本
支援には治療の場合とは別の難しさがあります。
のIT関連会社に勤務していました。同僚が結核を発
外国人の患者さんでは無論,国による医療制度や
病し,接触者健診の結果,予防的治療を開始するこ
慣習の違いも関係してきます。しかし,一番の要因は,
とになりました。治療を始めてすぐに,元の患者が
潜在性結核感染症や予防的治療に理解しにくい面が
INH耐性結核だったことが判り,RFPの服用に変更
あるからだと思います。日本人の患者さんからも同
されています。Fさんは仕事の関係上,残業も多かっ
様の質問が寄せられます。
たため,とにかく食事や休憩,睡眠の時間は十分と
第一健康相談所で予防的治療を開始する外国人の
るように話しました。治療が終了する頃,転勤が決
患者さんは,日本語学校など同じ学校の生徒や職場
まり,英文の診療情報提供書を持ち,今後は定期的
の同僚が結核を発症し,その接触者健診の結果を受
にX線検査を受けるように指導され,インドに帰国
けてという場合がほとんどです。以下, 2 人の例を
しています。
紹介します。
Fさんからは「治療が終了したら,いったい何が
Wさんは20代の中国人男性で,日本語学校に在籍
変わるのか」と質問されました。結核を発症して治
していました。クラスメートが結核で入院し,接触
療を受けているのであれば,咳や痰などの症状が治
者健診でQFT検査陽性となったため,第一健康相談
まるとか,X線検査で肺の陰影に変化があるとかで,
所を紹介され受診しました。診察の結果,同じクラ
多少なりとも実感を持つことができます。しかし,
スの 4 名とともに潜在性結核感染症の治療を開始す
治療の効果が目に見えない予防的治療では, 6 カ月
ることになりました。
間の服薬で「かなり発症を抑えられた」と言われても,
通院中,Wさんから「なぜ何度も受診しなければ
なかなか自覚できないかもしれません。
ならないのか。薬をまとめてもらっておくことはで
WさんやFさんのように疑問を口にしてくれれば
きないのか」と訊かれました。どうせ服薬するだけ
よいのですが,中にはしっくりこないながらも治療
なら同じことだと考えたようでした。それに対して
期間を終えてしまう患者さんや,予防的治療の必要
医師が「まず薬の肝臓への副作用を調べるため,定
性に納得できないまま中断してしまう患者さんもい
期的に血液検査をする必要があります。また,きち
るでしょう。その他に,患者さんの誤解もあります。
んと服薬できているか確認もしたいのです」と答え
例えばQFT検査について,陽性とは「血液中に結核
ました。
菌が存在する」と解釈していた患者さんがいました。
順調に治療期間が過ぎ,最後にもう一度,X線検
また,毎回の副作用を調べるための血液検査で「結
査を行ったときのことです。Wさんが「最初の写真
核菌の減り具合を見てい
と比べて良くなっていますか」と質問したので,医
る」と思っていた患者さ
師が「結核を発病していた訳ではないので,もとも
んもいました。
と肺に異常はありませんでした。今回も異常はあり
相談室では,結核に感
ません」と改めて説明しました。それまで,結核に
染している状態や予防的
感染している疑いが強いこと,発病を抑えるため予
に治療をするという概念
防的治療をしていることは繰り返し伝えていました。
について,どのように説
また,Wさんから「結核を発病したらどうなるのか」
明すれば解りやすいかを
と訊かれ,症状や治療,治療終了後の健診について
常に考えながら,支援に
答えてもいました。当然,納得してくれているはず
あたっています。
7 / 2014 複十字 No.357
27
結核ゆかりの地ツアー
~島尾結核研究所名誉所長とめぐる~
清瀬は,多くの結核療養所が集中して建てられた「結核の町」で,石田波郷や吉行淳之介などが療養生活を
中央公園の「清瀬病院跡」(1931年開設)
「療養所では,療養生活が長い患者さんほど,病室の奥の位置を獲得することができる。牢名主のよう…」と,島尾先生から患
者さんの微妙な心理をユーモアを交えお話を伺いました。
中央公園清瀬病院跡の石碑
「ここに清瀬病院ありき」
旧東京府立清瀬病院,
後の国立療養所清瀬病
院正面入口
結核研究所での講義
「結核研究所」は,貴重な病理標本,歴史的資料(当時のポスターなどの資料)などを有しており,アーカイブ化などによって
それらの保存が望まれています。
渋谷金太郎清瀬市長による挨拶
島尾忠男先生による「清瀬と結核のご縁」
を聞く
岩井和郎先生による病理標本の説明
傷痍軍人東京療養所の跡(1939年開設)(現東京病院)「外気舎」
患者さんは外気舎と呼ばれる小さな病棟で外気療法や簡単な作業療法によって回復を目指しました。
島尾忠男先生による外気舎の説明
当時の外気舎
大田健東京病院院長のお話
国立東京療養所,国立療養所清瀬病院が,統合されるかたちで現東京病院があります。かつて15あった療養
所は,現在は新たな病院などに立て替えられています。東京病院大田健院長より,最近では患者の老齢化に加
え,若者層の患者も増加しているなど,現在の東京病院の結核の状況のお話も伺いました。結核治療は進歩し
ましたが,日本は未だ低蔓延ではない状況です。そして「亡国病」とまでいわれた結核との闘いの跡が,形と
してほとんど残されていないことにも危機感を感じました。
また,結核研究所は今日も結核に関する最新の研究を続けています。1963年から始まった結核国際研修は,
2012年で50周年を迎え,世界97カ国より2,000人以上の保健医療従事者が修了,卒業生はWHOをはじめ国際的
に活躍している人も少なくありません。結核を克服した経験からの貴重な知見を有し,その経験をもって人材
育成をするなど,国際貢献の役割も果たしています。
STBJは,清瀬市の「世界文化遺産登録に向けた活動」を応援しています。清瀬市が,このような文化的,
医療的な資産を有していること,そして日本のお国芸ともいわれる結核対策によって,国際貢献していること
を多くの人々の知っていただくよい機会になればと思っています。またこのツアーは,朝日新聞(東京版,多
摩版,
)東京MXテレビ( 4 / 4 18:00 MXニュース)で紹介されました。好評でしたので,また企画をし
たいと考えております。
「このようなところもある」というようなご提言を頂けましたら幸いです。
(ストップ結核パートナーシップ日本 事務局次長 宮本彩子)
28
7 / 2014 複十字 No.357
Coughing even; not alone
していたことでも知られています。ストップ結核パートナーシップ日本(以下STBJ)は,島尾忠男先生の『複
十字』
No.330の「結核ゆかりの地歴訪 第 1 回清瀬―結核関係者の聖地―」にヒントを得て,
「結核ゆかりの地
ツアー~島尾結核研究所名誉所長とめぐる~」を清瀬市,独立行政法人国立病院機構東京病院,結核予防会結
核研究所対策支援部のご協力のもと, 4 月 3 日に開催しました。当日は,結核医療における清瀬の存在意義で,
「世界文化遺産」登録を目指す渋谷金太郎清瀬市長をはじめ,清瀬市議会委員を含む61名の参加となりました。
No.
29
シール
だより
平成25年度
高額寄附をいただいた方々からのメッセージ
平成25年度も「複十字シール募金」に多くの方々からご賛同をいただき,誠にありがとうございました。複十
字シール募金と本会事業資金へのご寄附をいただいた方々の中からメッセージをいただきましたので,ご紹介い
たします。
結核予防会総務部総務課・事業部普及広報課
事業資金をいただいた方々
大場 昇 様
僕は今から40年前の26歳の時
保生会 会長 大場 昇 様
今の新山手病院(かつての保生園)の退院者の会,
に,今の新山手病院に肺結核で
「保生会」は最盛期7,000人の会員がいましたが,現
10年間入院しました。
病気によっ
在は1,000人です。退院者の会は非常に珍しく国内は
て片肺と 6 本の肋骨と10年間の
もちろん,国外でも耳にしないと言われています。
時間と社会的な立場を失いまし
保生園の家庭的な雰囲気がしのばれます。会は新山
たが,幾度かの困難な手術を
手の新改装などのたびに,桜の苗木100本(今日も残
やっていただいて,ありがたい
る)や絵などでお祝いさせていただきました。また
ことに社会復帰を果たす事がで
会員からは,当時は最先端のCTなどの機器,患者さ
きました。その上に今は新山手の敷地に建つグリューネ
ん送迎バスをはじめいろいろの寄贈がありました。
スハイム新山手に住んでおります。僕にとって新山手は
今回の新山手の新築工事一式をお喜び申し上げ,会
マザーホスピタルでありマザーランドです。このたびの
の創設以来60年間に賜ったご厚誼に深く謝意と敬意
新山手の慶事にささやかながら永年の感謝の気持ちを
を申し上げます。
お伝えしたかっただけです。
(故)梅村 典裕 様
主人梅村典裕は,平成25年
10月24日に通院している病院
複十字シール募金にご協力いただいた方々
小川 昌
様
平成15年父が亡くなり,それから 3 カ月後祖母 小
へ向かうバス停で倒れ,帰ら
川はな(94歳)が亡くなりました。実父 小川喜代次は,
ぬ人となりました。生前,愛
仏への敬いに特に厚く大寺院の役員をしておりまし
知県庁職員として,また結核
た。毎日毎日,読経に明け暮れる日々を送っており
研究所の職員として,ネパー
ました。祖母 小川はなは,大会社のオーナーとして
ル国西部地域公衆衛生プロ
実に70年間経営にタッチをして参りました。本当に
ジェクトに参加し,定年後も
毎日毎日,祖父母は人をどれだけ幸せにすることが
ボランティアで行くなど,ネパールの結核医療に長
できるのだろうかと真剣に生活をしておりました。
く従事していました。遺品,遺産を整理する中,ネパー
特に結核で親族が 5 名亡くなり,これを治す薬をつ
ルの医師養成のために奨学金を送っていたこと,昭
くりたいという思いにて親族一体となって経営を
和60年にも結核予防会に寄附をしていたことなど,
やっていることは,幼き私の目にも焼きついており
主人がネパールの医療の発展を心から望み,また主
ます。平成15年から法人でまた個人として,本当に
人の海外医療にかけた人生を思い,結核予防会,と
微力ではございましたが,ご寄附をさせて頂き,紺
くに結核研究所への寄附をすることにしました。主
綬褒章を上贈されましたことが昨日の様に感じられ
人が,余命が分かれば,きっと同じように寄附をし
ました。これからも堂々と生き,社会のお役に少し
たと思います。主人の考え,思いを理解していただき,
でも立ちたいと思っております。
どうぞ大切に使っていただきたいと思います。
7 / 2014 複十字 No.357
29
(故)黒田 香那子 様
故人 黒田香那子(平成25年 7
中島 利男 様
昭和21年頃,肺結核が全国に蔓延した際,肺結核外
月10日 93歳にて逝去)
の遺言によ
科治療を志して国立福寿園,国立銀水園に勤務し闘病
る。故人の長兄 道夫は,昭和 7
の日々の患者様に接して。
年結核にて斃れた。以下は,故人
の思いのこもった公正証書の付言
事項のうち関係箇所である。故人
としゆき
福盛 訓之 様
小学生の時,友人のクラスの
の父 黒田靜は,
官営八幡製鐵所病
担任の先生が結核に罹患し気
院の副院長で,ここに記されてい
づくのが遅かったため,クラス
る内容は昭和10年前後のエピソード。
<付言事項>⑤公益
の生徒の多くが感染してしま
財団法人結核予防会への遺贈は,秀才として誉れが高かっ
うという惨事がありました。幸
た長兄の道夫,妹の恵美子など,若くして結核に斃れた人
いにも私が感染することはあ
の悲劇が繰り返されないことを願うためですし,また父 靜
りませんでしたが,着実に罹患
が,最愛の長男などを肺結核で亡くした無念を少しでも晴
率は低下しているものの未だ
らしたく,産業医として,工員さん達の珪肺などの予防や
に結核が撲滅されたわけではない現実を実際に見たわ
治療に尽力するきっかけとなったのを思ってのことです。
けです。大人になりいつからか,私は人の役に立つこ
と,社会の役に立つことこそ人間として最高の行為と
つたえ
坂本 傳 様
いう信念を持つようになり,ささやかながら社会貢献
祖父が結核で40歳の若さで
活動に取り組むようになりました。ある時,妃殿下の
他界してしまった。祖父の 2 倍
ご公務動静の報道で,公益のために重要な役割を担っ
長生きでき,80歳になったの
ている結核予防会の存在と活動内容を知り,かつての
で,感謝をこめて結核予防に少
おそろしい記憶がよみがえり,悲しい思いをする人が
しでも貢献したく,前回寄附を
なくなりますようにとの思いで迷わず寄附した次第です。
しました。今回は結核予防活動
「複十字シール募金」に少しで
も協力したく,
寄附をしました。
せん げ
宮川 昌夫 様
た故長田功理事長が,世界の結
たかまさ
千家 尊祐 様
都立新宿高校の同窓であっ
核撲滅につき,並々ならぬ熱意
3 月13日,14日 に 島 根 県 で
をもって取り組んでいるのを
開催されました「第65回結核予
見て,少しでも役立ちたいと思
防会全国大会」に秋篠宮紀子妃
い,平成22年から続けておりま
殿下が御臨席の許,実りの多い
す。
大会となりましたこと,大変嬉
しく存じました。また60年に一
度の「平成の大遷宮」本殿遷座
際をお仕えいたし,蘇りました
30
山﨑 かつ 様
千葉の田舎から東京に出て参りまして早55年が過
出雲大社にも御参拝賜り,
光栄の極みでございました。
ぎ去りました。時の経つのはまったく早いのでござい
結核は医学の進歩により,患者が減少していた時期も
ます。長女の小川禎子も夫である山𥔎六四郎も義子息
ありましたが,現在は再興感染症に分類されており,
である小川昌
予断を許さない状況になっております。この度,寄附
列させて頂きますことに深く感謝申し上げます。夫
をさせて戴くことによりまして,こういった社会問題
山𥔎六四郎と私は,子供 2 名の為に一生懸命よく働い
を解決する貴重な機会を得ることが出来ましたことに
たものだなあと振り返りましたら,もう75歳で,孫二
感謝申し上げます。結核制圧を早期に実現する為,関
人も高校一年,中学二年となっております。本当にあ
係各位の皆様方が結核対策の普及・啓発に努めておら
りがたく,ある結核に関する本を読んで私にできるこ
れますことに敬意を表しますと共に結核予防の活動が
とが何かあるのではないかと思い,
微力でありますが,
広く深く全国に拡がっていくことを祈念致します。
ご寄附させて頂きました。
7 / 2014 複十字 No.357
も,本日この様な栄えあるお席に参
山﨑 六四郎 様
のご繁栄にゆかしい団体にご寄附をさせて頂く様に」
今般,ありがたく80歳を迎えることができましたの
とのもとに昭憲皇太后陛下百年のこのよき年にご寄附
で,日本赤十字社に500万円のご寄附をさせて頂き,
をさせて頂きました。今後とも弊社と致しましては,
ありがたくも紺綬褒章を賜り,かしこくも今般,幼き
無理な利益の追求よりもみんなが幸せになれることに
頃の「先生」が結核にて仏の弟子となられたことに何
還元をさせて頂きたく存じ上げます。本日は,この様
か自分にできることがないのかと思い,長寿の祝いの
な栄えあるお席に参列致しますことは誠にありがた
一部としてご寄附をさせて頂くことを思いつきまし
く,これからも尚一層社会の役に立つ会社として社員
て,今回のきっかけとなりしことでございます。
世
一体となって頑張っていきたいと思っております。
界の人々の平和と結核で亡くなることがない様にご祈
願致します。
株式会社オムネズ
よし こ
代表取締役社長 小川 禎子 様
富士フイルムメディカル株式会社
代表取締役社長 平井 治郎 様
弊社は富士フイルムグループの医療関連会社とし
て,長年結核を含め健診業務に従事して参り,複十字
弊社は「日本赤十字社」様より日本で唯一「支援マー
シール運動の趣旨に賛同し,結核の撲滅にお役に立て
ク」使用の栄を賜り,また厚生大臣表彰も賜りました。
ればと思い,寄附をさせていただきました。
私の義母 小川智佐子は,弊社の社長を譲るにあたり
「広く社会に貢献しうる会社」をと,又義母の実家「藤
原関摂家としての栄えある藤原氏の末裔としてご皇室
平成25年度複十字シール運動募金結果報告
平成25年度は,支部と婦人会の組織力を生かし,
県支部となりました。また,前年度募金額を上回っ
複十字シール運動のイメージキャラクターである
た支部は,下記の11支部です。
シールぼうやの認知度向上を目指しました。募金総
【北から順に】
額は,277,273,762円,諸経費96,628,599円,募金総額
山形県支部・埼玉県支部・山梨県支部・福井県支部・
から諸経費を差し引いた益金は,180,645,163円とな
和歌山県支部・広島県支部・香川県支部・高知県支部・
りました。
福岡県支部・佐賀県支部・大分県支部
益金は,発展途上国の結核対策(国際協力)・結核
皆様,一年間本当に有り難う御座いました。
等の予防事業や教育資材の作成・結核予防関係団体
への助成・結核等の調査研究に使われました。(使途
(普及広報課)
内訳は図のとおりです)
募金媒体であるシール,封筒の製作数は,次のと
調査研究に
0.6%
111万円
図
おりとなりました。
種 別
シール大型シート(24面)
製作部数
途上国の結核対策に
19.4%
3,507万円
  298,000部
シール小型シート( 6 面)
1,342,600部
小型シール・封筒 3 枚組合せ
  331,500部
募金対象別では,郵送募金 88,224,028円(31.8%)
,
平成25年度
全国の結核予防
団体の活動に
23.6%
皆様から寄せられ
た温かい募金は,
このような目的で
使われました。
結核予防の広報や
教育資材の作成に
56.3%
1億175万円
婦人会関係 70,194,268円(25.3%)
,市町村60,149,977
円(21.7%)の順となりました。都道府県支部別の募
金成績は, 1 位 沖縄県支部, 2 位 大阪府支部,
3 位 宮城県支部, 4 位 静岡県支部, 5 位 長野
募金総額
2億7,727万3,762円
益金(経費除く)
1億8,064万5,163円
7 / 2014 複十字 No.357
31
シール
だより
中村茂,中河原光,野口洋二,安
藤静江,須藤永一郎,武井良平,
芸直,岩井和郎,梶谷純子,カト
寺田光子,石川美知子,末永邦雄,
日本メジフィジックス株式会社
リックイエズス会,関崎三郎,斉
森山誠哉,小泉豊,益澤秀明,高
(複十字病院)
,梅村典裕,梅村
藤商店,すみれ,タムラ,東京自
沢栄,竹内美智子,仲尾次政剛,
美智子(結核研究所)
,日本ビー
動シール製袋所,平井林三,小山
仲村英一,相坂正夫,お告げのフ
シージー製造株式会社,二瓶浩明,
明,石井毅,梅田鍍金工業所,五
ランシスコ姉妹会,東京キリスト
久保田正義(本部)
光,スエヒロ,徳榮商事,村野猛,
聖書塾,ウエスレアン・ホーリネ
〈複十字シール募金〉(敬称略)
志村知男,佐野節子,日本缶詰協
ス淀橋教会,カトリックマリア会,
会,森新一郎,京王興産,電鉄商
東洋英和女学院小学部,津久井菱
事,西村商店,東山道之,淵倫彦,
子,米山隆昭,福井憲彦,米山忠
藤井源七郎,堀江亘,本田憲業,
興,伊集院功,竹井昭雄,安田裕
本橋達朗,松田守,松家直子,森
子,近藤順子,柴田富子,渋谷武
田美代子,山本恒,坂井光夫,高
子,島村元治,鈴木克治,鈴木崇
桐あや子,中島由紀,長島雅則,
二,鈴木蕃夫,大倉文雄,久保秀
青木修三,石井敏彦,鵜沼直雄,
文,大平明,ウメダ,高橋伸介,
梅崎都志夫,大井玄,小川智也,
日本大学本部総務課,緑雲会多摩
日根野妙子,深川規子,万代恭嗣,
病院,川崎道子,石川陽三,手柴
矢花芙美子,山住美津子,佐々木
良一,深澤龍一,堀内恵美子,本
胤郎,斎藤慶一,七野護,島貫綾子,
多友彦,水野文雄,曽我正彦,田
龍順之助,多賀須幸男,高野照夫,
中和子,田中京子,中根千枝
多額のご寄附をくださった方々
〈指定寄附等〉(敬称略)
群馬県 ― 群馬県老人保健施設協
会,群馬県薬剤師会
福井県 ― 坂本傳
大阪府 ― 金井史,マーケティン
グフォースジャパン,西川正一,
淨美社,コニカミノルタヘルスケ
ア
愛媛県 ― 三谷晃良
本部 ― 日本製茶,竹中一雄,武
川節,あみ印食品工業総務課,国
精工業,近藤泰,三好信子,仲谷
クリニック,根岸綾枝,野原勝男,
野崎健一,勝美印刷,名倉貞子,
山岡建夫,渋谷幸保,安田雄一郎,
温井律子,伊那貿易商会,岩田造
園土木,出口工業,博進紙器製作
所,ヒロセ電機,平和物産,上野
毛幼稚園,六合製作所,吉野賢治,
若松第一,塚本利明,難波卓壮,
梅田常和,恩田明久,樋口孝夫,
松浦義二,山口智道,島尾洋子,
鈴木弘造,寺門光男,名取誠二,
平成26年7月15日 発行
複十字 2014年357号
編集兼発行人 藤木 武義
発行所 公益財団法人結核予防会
〒101-0061 東京都千代田区三崎町1-3-12
電話 03(3292)9211(代)
印刷所 勝美印刷株式会社
東京都文京区小石川1-3-7
電話 03(3812)5201
結核予防会ホームページ
URL http://www.jatahq.org/
高田洋子,高橋紀久雄,竹下寿子,
中村豊,野村恭也,葉山隆,橋本
愛,相川睦子,足立嘉子,有馬愼
二,井美誠,池本眞一,犬山幸子,
木村洋子,加藤光子,久松要雅,
小池隆雄,小暮堅三,大場昇,益
井輝也,水上萬里夫,宮本克巳,
山本秀夫,鈴木三彌,伊勢谷浩,
榎本喜好,岡昭,河東文之助,木
多額のご寄附をいただきまして
誠にありがとうございます。
南富吉,岡田敦之,平山茂博,佐
本誌は皆様からお寄せいただいた複十字シール募金の益金により作られています。
複十字シール運動
――みんなの力で目指す,結核肺がんのない社会
平成26年度複十字シール
複十字シール運動は,結核や肺がんなど,胸の
病気をなくすため100年近く続いている世界共通
の募金活動です。複十字シールを通じて集めら
れた益金は,研究,健診,普及活動,国際協力
事業などの推進に大きく役立っています。皆様
のあたたかいご協力を,
心よりお願いいたします。
運動の輪を広げてください。シールは,はがきや,手紙や包装の封印,何にでも使えます。
問い合せ:普及広報課 TEL03-3292-9287(直)
32
7 / 2014 複十字 No.357
総裁秋篠宮妃殿下
新結核切手紹介シリーズ(12)
ご動静
小林佑吉先生からの貴重な切手のご紹介は12回目となり,今回は1949年ハイチ共和国で発行された切手をご紹介します。
資金寄附者感謝状贈呈式並びにお茶会でのご様子
平成26年5月23日リーガロイヤルホテル東京(新宿区戸塚町)
妃殿下は,贈呈式において結核予防事業資金として多額のご寄附をくださった方や功績の
あった方々に感謝状をお渡しになりました。続いて記念撮影とお茶会が行われ,なごやかな
ひとときをお過ごしになりました。
ハイチ共和国はカリブ海西インド諸島に位置する国で,西半球で最も貧しい国と言われ,国民の80%は貧困状態
に置かれています。劣悪な衛生環境下,結核と同時に猛威を振るっていたマラリアの根絶を呼びかける切手が発行
されました。
図柄の左上にマラリア原虫を媒介するハマダラカが描かれ,右下には複十字マーク,中央にはサナトリウムが描
かれています。
2010年ハイチを襲ったマグニチュード7.0の大地震により,国内に 2 つあったサナトリウムの 1 つは全壊,残
る 1 つ(切手に描かれている建物)はかろうじて全壊を免れ,現在は残った一部のスペースで細々と医療活動が行
われています。
2011年第14回秩父宮妃記念結核予防功労賞国際協力賞を受賞された須藤昭子医師は,現在まで30余年にわたり,
現地で地震被害復興支援や結核医療を絶えず支援しています。
ハイチ共和国は現在でも結核罹患率が10万対213(2012 WHOデータ)とかなり高い状態にあります。
結核・肺疾患予防のための
平成26年度複十字シール
前号(No.356 2014年 5 月)で今年度の安野光雅氏によるシールをご紹介しましたが,
今年度は複十字シール運動キャラクターの小型シールを作成しました。
頼もしいシールぼうや,かわいいシールハイハイ,そして2013年に誕生したキュートな
シールちゃんの 3 人が揃ったシールです。今年から複十字シール運動に一役買って
くれることでしょう。
今後もこのキャラクターたちをどうぞよろしくお願いします。
No.
このマーク(複十字)は、
世界共通の結核予防運動の
旗印です。
357
2014.7
複十字
本誌は複十字シール募金の収益により作られています http://www.jatahg.org/
たすけあインコ
飛んでいるシールハイハイ
シールぼうや
シールぼうや
おまじないのポーズの
シールちゃん
公益財団法人結核予防会