販売用不動産と投資不動産は国際会計基準で評価損計上

1999年10月4日
第274号
株式会社バード財産コンサルタンツ
160-0023東京都新宿区西新宿7-15-8 ニッパンビル
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販売用不動産と投資不動産は国際会計基準で評価損計上
日本の会計基準が大きく変わ
りつつあります。企業の国際化
の流れの中で、国際会計基準と
整合性を取り始めているのです。
不動産についても国際会計基
準が定められています。会計が
変われば不動産所有に対する考
え方も確実に変わっていきます。
不動産の直接所有を避ける方
向に変わっていくでしょう。
販売目的不動産の評価損
販売目的所有の不動産は会計
上で「たな卸資産」と呼ばれます。
たな卸資産を会計上でどう評
価するかについては日本の会計
基準は①原価法と②低価法との
選択適用が認められています。
製造小売業での低価法が当た
り前ですが、不動産業やゼネコ
ンではほとんどありません。不
動産では原価法が普通です。
10億円で仕入れた土地が8億
円に値下りしても会計上では10
億円のままなのが原価法。2億
円の評価損を計上し会計上8億
円に修正するのが低価法です。
たとえ原価法でも「著しく下
落し、回復可能性がないか不明」
の場合は強制低価法として評価
損計上が強制されますが「近日
中にバブルが再来し値上がりす
る」と会社が強引に考えるなら
それも必要ありませんでした。
国際会計基準でのたな卸資産
の評価方法は低価法となってお
り、原価法は採用できません。
10億円で仕入れた土地が翌年
8億円になれば、即座に2億円の
評価損の計上となります。
日本でもこの低価法は適用で
きます。世界的に経営を考え、
企業の格付けを意識する会社は、
いつまでも日本のローカルルー
ル(日本の会計基準)には従っ
ていられません。従ってこの低
価法を採用することになります。
積水ハウスさんはすべての販
売用土地と遊休地について1900
億円もの評価損を計上し上場以
来発の赤字にします。
損失は巨額ですが、株式市場
での積水ハウスさんの株価は公
表翌日以後4日続伸。格付会社
のムーディーズは不良資産の多
さから同社の社債格下げを検討
していたものの据え置くことに
しました。(日経金融99.10.1)
相次ぐゼネコンの経営破綻で
批判の的となっている公認会計
士協会も神経質になっています。
ゼネコン各社に対しては2000
年3月期決算からは販売用不動
産についての強制低価法の適用
を求めることにしました。
つまり「近日中にバブルが再
来」と会社側がいっても「バブル
は来ない」と公認会計士が思え
ば強制的評価損計上を求められ
ます。厳密適用によって債務超
過に陥るゼネコンも出そうです。
数百の物件を保有しており鑑
定評価のコスト等が大きくとも
日本公認会計士協会は「メーカ
ーならたな卸資産の項目が何万
件にも及ぶケースもあるわけで、
ゼネコンにもすべての物件を対
象としてもらう」方針だとか。
(日経産業99.9.10)
貸しビル等の投資不動産
大変動の兆しは、販売用不動
産ばかりではありません。
販売目的ではない賃貸ビル等
の投資不動産についても、日本
では取得原価主義が原則。評価
減の強制はありません。
しかし国際会計基準草案では、
すべての投資不動産について時
価評価を行い評価損益を計上す
ることとなっています。(バード
レポート99.7.19号参照)
現在の日本では、バブル期に
10億円で買って今や3億円のビ
ルであっても減価償却はするも
のの原価の10億円で帳簿にのせ
ていいことになっています。国
際会計基準の草案では、これに
ついては7億円の評価損を強制
させることになります。
貸ビル業界ゼネコン業界は、
公認会計士協会に「なんとかし
てくれ」と泣きついているよう
です。世界標準に背を向けざる
をえない事情も分かりますが…
また国際会計基準で決まって
も日本が従う義務はありません。
しかし、それではいつまでたっ
ても日本は 世界標準 とは違う
「日本ローカル」のままです。
なお国際会計基準の心配が必
要なのは公開企業だけです。非
公開なら当面は影響有りません。
1999年7月19日
第264号
バードレポート
このレポート第 264 号は、バードレポ
ート第 274 号(99 年 10 月 4 日号)をお
読みの際の参考になさってください。
投資不動産は時価主義会計…企業の土地神話は最終崩壊へ
世界統一会計基準
日本の会計制度で、土地は
『原価主義』です。土地を購入
すると帳簿には取得原価で計上
します。その後に値上がりして
も値下りしても、売却までは取
得原価が帳簿価格に残ります。
戦後の土地値上がりで膨大な
含み益が生じ「含み益経営」と
も言われ、日本的経営や土地神
話の大きな根幹になりました。
それが崩れます。
ワルシャワでは国際会計基準
委員会の理事会で世界の統一会
計基準作りが進んでいます。
ここで、投資不動産について
『時価主義』を導入することが
決まりました。(日経99.7.4)
時価主義では、値上りすれば
売却せずとも利益等を計上し、
値下りすればそれだけで損失を
計上します。
ここでの
「投資不動産」とは、
「所有はしているが自社で使用
していないもので、賃料収入や
値上がり益を期待するもの、と
いうのが定義だ。
これでいくと三菱地所のよう
な不動産賃貸業はもちろん、生
命保険会社の所有するオフィス
ビルや一般事業会社の持つ遊休
地、貸しビルなども含まれる。
当初、賃貸業の集まりである
日本ビルディング協会などの要
望もあり、国際会計基準委員会
で日本代表は投資不動産の概念
の中から不動産賃貸業をはずす
ことはできないかと要望した。
だが、これは受け入れられなか
った。(日経金融99.3.11)」
原価主義は不動産価格上昇
時に含み益を形成し、それが業
績落込時の隠し玉になりました。
価格下落時には、いくら値下
りしても「値下り損」計上の必
要がありません。売却しない限
りは会計上の損失がでません。
更に98年には、銀行救済のた
めの「土地再評価法」が立法され、
都合のいい場合にだけ、時価主
義として事業用土地の含み益を
計上できる仕組みにしました。
ゼネコン等所有の膨大な含み
損の投資不動産には目をつぶり、
銀行等の事業用土地の含み益だ
けは計上を許すという、何とも
ウサンクサイ恣意的な仕組みが
現在の日本の会計制度です。
そんな日本企業の会計は諸外
国から信用されていません。日
債銀や山一等の実績を見れば当
然とも言えますが。
日本企業への影響
国際会計基準で投資不動産
の時価主義が決まっても、その
まま日本の公開企業がすべて従
う必要はありません。
しかし日本の会計制度もグロ
ーバルスタンダードを無視でき
なくなっています。一部企業は
率先して新基準に従うでしょう。
バブルでしこった土地を抱え
る企業は、膨大な含み損を隠し
きれなくなります。
これまでは資本関係を薄くし
た受け皿子会社に飛ばして含み
損を隠していましたが、それも
連結決算の条件が厳しくなり、
飛ばしきれなくなります。
一方、含み益の会社はそれ程
苦労はありません。時価評価さ
れ、含み益が資産に計上され、資
産と資本が膨らむだけです。
しかし時価評価されることで
「こんなに巨額の資産があるの
に、こんな僅かな利益しか出せ
ないのか」、すなわち時価ベー
スでの総資産利益率や総資本利
益率が低下し、無能呼ばわりさ
れる大企業経営者が続出します。
本業がしっかりしていても、
不動産価格の変動が会社の利益
を大きく左右します。これは経
営者には望ましくないことです。
これまで、土地は経営の安定
化要因でしたが、これからの土
地は明らかに不安定化要因にな
ります。特に公開企業にとって
の土地は爆弾ともなりえます。
企業活動の成果は会計の数
字により表示され、当然に経営
者の意思決定はその会計や会計
制度を意識します。土地の継続
保有や新規取得が有利でなく不
安定材料となるなら、企業の経
営者は必要な土地だけを残して、
他を手放そうとするでしょう。
ワルシャワで決められる国際
会計基準の投資不動産時価主義
は、企業にわずかに残る土地神
話を打砕く黒船かもしれません。