消化ガス燃料電池 - 公益社団法人 日本下水道協会

5.1.4 消化ガス燃料電池
5.1.4.1 原理
燃料電池は、
「水の電気分解」と逆の原理で、消化ガスから取り出した水素と空気中にある酸素を
電気化学反応させて発電するものである。
図 5.1.4.1 燃料電池の発電原理
出典:社団法人 日本ガス協会 http://www.gas.or.jp/default.html
燃料電池の本体は、セルスタックといい、セルが積み重なってできている。
セルには、燃料極と空気極があり、反応に必要な水素が燃料極を通り、酸素が空気極を通る構造と
なっている。水素は電極中の触媒の働きで電子を切り離して水素イオンになり、電解質はイオンしか
通さないという性質があるため、切り離された電子は外に出て行く。電解質の中を移動した水素イオ
ンは、反対側の電極に送られた酸素と外部から電線(外部回路)を通じて戻ってきた電子と反応して
水になる。この、
「反応に関与する電子が外部回路を通ること」が、電流が流れるということであり、
電気が発生するということである。
なお、消化ガス中に含まれる硫黄化合物などの不純物は、改質器の効率・寿命を低下させるため、
供給する消化ガス中の不純物は除去する必要がある。
セルスタック
セル
ひとつのセルでつくれる電気
は、
電圧 0.5∼0.8V 程度なので、
大きな電気を作るためにセル
を積み重ねる必要がある。
図 5.1.4.2 燃料電池のしくみ
出典:社団法人 日本ガス協会 http://www.gas.or.jp/default.html
- 91 -
5.1.4.2 設備構成概要
燃料電池は、ガスホルダから取り出した消化ガスを前処理装置により不純物除去を行い、高濃度の
メタンガスに精製する。精製したメタンガスを基に改質器と変成器で水素をつくり、セル(セルスタ
ック)に水素を供給する。
図 5.1.4.3 燃料電池の設備構成(リン酸型)
出典:再生と利用 独立行政法人土木研究所
燃料電池の種類と特性を次表にまとめる。
表 5.1.4.1 燃料電池の種類と特性
作動温度による分類
形 式
略 称
低 温 形
リン酸形
固体高分子形
PAFC
PEFC
H3PO4
イオン交換膜
イオン伝導種
運転温度
冷却方式
触 媒
発電出力
発電効率(LHV)
開発状況
H+
190∼220℃
水冷
Pt
∼1000kW
35∼45%
実用化
H+
60∼120℃
水冷
Pt
∼50kW
30∼40%
実用化
用 途
業務用
小形産業用
自動車用
家庭用
可搬式
電解質
高 温 形
溶融炭酸塩形
固体酸化物形
MCFC
SOFC
Li2CO3
安定化ジルコニア
K2CO3
CO32600∼700℃
O2∼1000℃
ガス冷却/改質冷却 ガス冷却/改質冷却
不要
数∼10万kW
45∼60%
実用化
不要
数∼10万kW
45∼60%
研究段階
業務用
産業用
発電用
業務用
産業用
発電用
出典 : 電気学会燃料電池運転性調査専門委員会編「燃料電池発電」より一部引用
- 92 -
5.1.4.3 一般的な特徴
燃料電池の一般的な特徴は、以下のとおりである。
① 効率が高い
従来の発電は、エネルギーの形を何度
も変えるために損失が多い。
出典:社団法人 日本ガス協会
http://www.gas.or.jp/default.html
図 5.1.4.4 燃料電池の発電原理
② 回転部分が無いので振動・騒音がない
③ 排気がきれい
反応時に生成される物質は水(H2O)と二酸化炭素で、大気汚染の原因となる窒素酸化物(NOX)
はほとんど出ない。また、二酸化炭素(CO2)は、燃料電池の総合効率が高いので、同じ電気・熱
を使った場合より発生量が非常に少ない。
5.1.4.4 事業事例
5.1.4.4.1 山形県山形市
都市名
利 用
消化ガス
山形県山形市
場 内
場 外
技 術 <状 況>
燃料電池+ガスエンジン発電
<実機導入済み>
供用時期
事業費
総エネルギー
又は施設規模
H14.5(燃料電池)
S63.11(ガスエン
ジン)
約 4.7 億円(燃
料電池)
約 2.8 億円(ガ
スエンジン)
948kW:発電 378+熱 570
・燃料電池発電(りん酸形,
発電 100kW×2 基,
熱 260kW)
・ガスエンジン発電( 発電
178kW,熱 310kW)
効
果
コスト削減、温室効果ガス削減
特
徴
コージェネレーション
(熱電供給システム)
エネルギー当り
事業費 千円/kW
維持管理費
(H16,17,18)千円
791
燃料電池※1
15,533;16,373;39,780
ガス発
16,887;18,373;15,790
費用補助制度
下水道国庫補助事業
※1:H18 維持管理費に大規模修繕費を含む
山形県山形市下水道部浄化センター
(1)はじめに
1)山形市の下水道の概要
山形市の下水処理は、市街地等を中心とした区域を単独公共下水道で、それ以外の市街地周辺
等区域を、最上川流域下水道で整備している。平成 17 年度末における普及率は 90.0%(=225,971
人/行政区域人口 251,022 人)、利用率は 84.3%(=190,566 人/処理区域人口 225,971 人)である。
2)山形市浄化センターの概要
山形市浄化センターは、計画最大 52,000m3/日(計画平均 40,000m3/日)の処理場であり、図
5.1.4.5 に、センターの水処理・汚泥処理・エネルギー利用のフローを示す。
- 93 -
脱水汚泥の 6∼7 割は、山形市前明石ケーキ処理場(平面発酵方式、昭和 55 年より稼動)に運搬
しコンポスト化され、残りのケーキは産業廃棄物処分となっている。
消化槽から発生した消化ガスは、燃料電池発電(りん酸形、100kW×2 基)・ガスエンジン発電
(178kW)にて利用しており、発電廃熱も消化槽加温・冷暖房で利用する、いわゆるコージェネレ
ーション(熱電併給システム)で運転を行っており、燃料電池にコージェネを加えた試みは全国初
であった。
(2)導入目的
1)背景
浄化センターでは、昭和 40 年の運転開始時より消化槽を有し、発生消化ガスは消化槽加温用
蒸気ボイラ等で使用していた。昭和 63 年に、消化ガスエンジンによるコージェネレーション運転
を開始し、電力を場内、廃熱を消化槽加温・場内水質試験棟冷房に利用してきた。燃料電池導入
前年の平成 13 年には、消化ガスをエンジン・消化槽加温用温水ヒーター(蒸気ボイラを更新した
もの)で利用していたが、流入汚水量の増加・汚水濃度の上昇に伴う、発生消化ガス量の増大によ
り、消費を越える余剰ガスが生じ、この余剰ガスの大気放出を余儀なくされていた。
センター周辺は、運転開始時は住宅等が少なく田畑中心であったが、平成 13 年頃には大型店
舗進出・宅地化が進み、悪臭に関する苦情が寄せられていた。その主要因は水処理・汚泥処理か
らのものであるが、他の一因に消化ガスの大気放出も上げられ、この防止を急務としていた。
汚泥処理施設
ガスエンジン
遠心濃縮および脱水処理
温水ボイラー
コンポスト化等
図 5.1.4.5 山形市浄化センターの水処理・汚泥処理・エネルギー利用のフロー
- 94 -
2)余剰ガス処理方法の検討
消化ガスの放出を防止するための余剰ガス処理方式の検討は、余剰ガス燃焼、ボイラ(熱利用)、
発電(コージェネ)の比較であった。そのうち発電は、建設費では決して有利とはいえない場合も
あるが、省資源・地球温暖化防止に大きな効果があるものであった。加えて、買電電力量の削減
および既設発電と併用での契約電力削減によって、ある程度のコスト回収が可能で、廃熱も消化
槽加温には十分である。
発電方式の検討は、ガスエンジン、燃料電池の比較であった。マイクロガスタービンは、当時
はまだ、実機例が確認できなかったため、比較対象には至らなかった。
ガスエンジンを新規に導入する場合は、排気ガスの NOX が、大気汚染防止法の現基準値 600ppm
をクリアしなければならない。当センターで必要とする小規模エンジンにおいては、高額な三元
触媒等 NOX コンバータが不可欠となり、維持管理費の予測が非常に困難であるため、不採用とな
った(当センターの既設ガスエンジンでは、NOX コンバータを使用せず、希薄燃焼方式で NOX 約
780ppm となっており、昭和 63 年導入時の大防法基準値 2,000ppm をクリアさせている。)。
一方燃料電池は、排気がクリーンで低騒音、また発電効率が高いためトータルでのエネルギー
回収も大きく、
「環境先進都市」を目指していた当市の環境施策にも合致していた。新技術ではあ
るが、都市ガス用として普及している他、横浜市北部汚泥処理センターでの良好な稼動実績も確
認させて頂いていた。以上より、既設ガスエンジンでの経験を生かしながら、燃料電池導入を進
めることになった。
(3)事業概要
1)検討から稼動まで
検討から稼動は、平成 12 年 12 月∼平成 13 年 1 月市内部での検討、2 月∼4 月設計(外部委託)・
補助申請、5 月入札、6 月市議会議決後着工、工事計画届(経済産業省あて)・ 受給協定(東北電力)
等々の諸手続きを経て、平成 14 年 3 月完成、5 月の完成式典後本格稼動という、非常に過密なス
ケジュールで行われた。
施工・燃料電池主機製造は、指名競争入札で受注した富士電機(株)(現富士電機水環境システ
ムズ(株))が行い、総工費は 473,550 千円(うち建設省の下水道事業補助 55%)、工種内訳は、電
気設備(燃料電池・盤・熱利用を含む補機類・配管配線等)328,050 千円、機械設備(脱硫塔・汚泥
熱交換器・消化ガス配管・温水配管等)90,300 千円、建築・土木(建屋・建屋設備・杭基礎)55,200
千円であった。
2)施設・設備概要
消化槽は円筒形(1,660m3×2 槽、1,460m3×2 槽、うち現在 3 槽使用)を、重力濃縮の生汚泥・
ベルト濃縮の余剰汚泥を投入し、ガスブロワ・ポンプにて攪拌(平成 19 年度に 4 槽中 2 槽を機械
攪拌式に更新予定)し、37℃程度で中温消化している。発生消化ガスは、乾式脱硫塔(230m3/h×2
基)を直列に通過し、乾式ガスタンク(900m3×3 基)で貯留・供給を行っている。
貯留消化ガスは、燃料電池・ガスエンジン・消化槽加温用温水ヒーター(重油焚切り替え可)で
利用している。ヒーターは、発電設備停止時にガス焚、廃熱不足時に重油焚等で切替使用可能で
- 95 -
ある。表 5.1.4.2 に燃料電池・ガスエンジン等消化ガス利用機器の仕様を示す。
表 5.1.4.2 消化ガス利用機器の仕様
機
器
燃料電池
ガスエンジン
温水ヒーター
ガス消費量(Nm3/h)
45×2 基
110
50
発電電力(kW)
100×2 基
178
熱量(kW)
260
310
発電効率(%)
39
27
熱効率(%)
50
48
290
85
図 5.1.4.6 に熱利用の配管フローを示す。熱は、燃料電池廃熱は消化槽加温・場内汚泥処理棟
監視室の暖房で、ガスエンジン廃熱は燃料電池同様の他、場内水質試験棟の冷房で、ヒーター供
給熱はエンジン同様にて利用可能である。実際の運用は、常時最低 3 基の消化槽を、燃料電池 2
槽・エンジン 1 槽、または燃料電池 1 槽・エンジン 2 槽のパターンで加温している。消化槽加温
温水の一部(余剰分)は、冬季は汚泥処理棟監視室の暖房へ、夏季は水質試験棟の冷房へも送って
いる(平成 19 年度に水質試験棟冷房での利用をとりやめ、管理棟・水質試験棟の給湯および管理
棟暖房での利用に変更予定)。
消化槽へはスパイラル式汚泥熱交換器(各槽毎計 4 基)、汚泥棟へはファンコンベクタ、水質試
験棟へは吸収式冷温水発生器にて供給している。表 5.1.4.3 に各熱利用機器の仕様を示す。図
5.1.4.6 のように、全ての熱源・供給先が温水ラインで一つに接続されているが、バルブ開閉で
他の熱源・供給先の分離を行い使用している。
燃料電池の発電電力は、補機消費分を除き 6,600V に昇圧後、ガスエンジンと共に系統連系し
ている。買電(6,600V)からは、発電の不足を補うものとなる。
燃料電池は、発停に 4∼5 数時間、起動時に消費電力 30∼40kW、発停時に窒素消費が必要で、
頻繁な発停に不向きであるため、24 時間連続運転している。そして、燃料電池の発電効率は 39%
(ガスエンジン 27%)と高いため、トータルの発電電力量を増やすために、高出力を保持させてい
る。また、発生する消化ガス量には限りがあるため、ガスエンジンは、ガス貯留量に応じた発停
を行っている。
これは即ち、
燃料電池のベース運転+ガスエンジンのピークカット的運転による、
買電電力量の減・契約電力の減を図るものである。
表 5.1.4.3 熱利用機器の仕様
機 器
スパイラル式
汚泥熱交換器
吸収式
冷温水発生器
ファンコンベクタ
用 途
消化槽汚泥加温
場内水質試験棟冷房
場内汚泥処理棟
監視室暖房
備 考
120kW×4 基
(消化槽毎に 1 基)
279kW+灯油追焚
18kW×2 台
- 96 -
水質試験棟
冷 房
燃料電池
V1
吸収式温水機
定 格 出 力 (運 転 初 期 )
(逆 流 あ り )
加 温 熱 量 :2 3 4 .2 kW *
(熱 出 力 : 26 0 .2 kW * )
(放 散 熱 量 : 1 0% )
(逆 流 あ り)
V2
V5
V3
V 20
V4
(既 設 )
ガスエンジン
V 10
V21
(既 設 )
N O .1
汚泥熱交換器
定格出力
4 8 .5 ℃
常時開
(既 設 )
加 温 熱 量 : 2 7 9.1 kW
(熱 出 力 :3 1 0.1 kW )
(放 散 熱 量 : 10 % )
V11
3 7 .8 ℃
3 6 .0 m 3 / h
常時開
(既 設 )
V14
(逆 流 あ り)
(逆 流 あ り )
V6
3 8 .0 ℃
9 .6 m 3 / h
V9
(既 設 )
3 8 .3 ℃
3 6 .0 m 3 / h
9 0 .1 ℃
3 5 .0 ℃
V15
V18
N O .1
消化タンク
N O .3
消化タンク
8 1 .0 ℃
1 3 .2 m 3 / h
V12
4 8 .5 ℃
V13
3 7 .8 ℃
3 6 .0 m 3 / h
3 5 .0 ℃
N O .3
汚泥熱交換器
V19
3 8 .3 ℃
3 6 .0 m 3 / h
V16
3 8 .0 ℃
9 .6 m 3 / h
9 0 .1 ℃
3 5 .0 ℃
N O .2
汚泥熱交換器
V17
N O .4
消化タンク
N O .2
消化タンク
8 1 .0 ℃
1 3 .2 m 3 / h
V7
常時開
(既 設 )
V8
3 5 .0 ℃
N O .4
汚泥熱交換器
温水ヒーター
定格出力
加 温 熱 量 : 26 1 .6 kW
(熱 出 力 : 2 90 .7k W )
(放 散 熱 量 : 1 0 %)
消化槽
N O .1
N O .2
N O .3
N O .4
バルブ
燃 料 電 池 2台
状態
ガスエンジン
開
温水 ヒーター
閉
図 5.1.4.6 熱利用の配管フロー
3)運転状況
表 5.1.4.4 に、投入汚泥量・発生消化ガス量等、消化槽の運転実績を示す。表 5.1.4.5 には、
消化ガス成分を示す。表 5.1.4.6 には、消化ガス利用量・発電電力量・廃熱利用量等を示す。
トータルの消化ガス利用では、平成 14 年度には、発生のほぼ全量を利用し、目的である大気
放出・悪臭拡散を防ぐことができた。平成 15 年度には、消化槽周りのガス抽出管類の更新により
漏洩ガスが減少し、ガス利用量が増大している。
消化ガス成分は、
燃料電池で要求する硫化水素濃度 0.5ppm 以下に対し 0ppm(検出限界以下)を、
同じく要求するメタン濃度 60%前後に対し 57∼62%を維持している。なお、燃料電池の許容メタ
ン濃度は、導入後の制御等改良により、現在では約 50%(出力は約 90%まで低減する)まで向上し
ている。
運転時間は、燃料電池において、時間稼動率 97%(H14.5∼H19.4)、累積 43,055 時間(H19.4 ま
で)となっており、非常に順調である。
総発電量は平成 13 年度比で 185%(H15 年度)に増加し、買電量は平成 13 年度比で 80%(H15 年
度)に削減した。
発電電力量の総使用電力量に占める割合(以下電力自給率)は 42%(H15 年度)にな
り、目標にしていた 40%を満足することができた。月毎の電力自給率では、平成 19 年 4 月には、
最大の 52%をも記録している。
また、
契約電力は、
880kW(H13 年度)→750kW(H14.5)→710kW(H16.4)
と低減している(現在は他機器の省エネルギー化等により 680kW まで低減)。
総廃熱利用では、常時、稼動 3 消化槽を設計値 35℃以上の約 37℃に保った。ガスエンジンの
廃熱利用量は、計測機器(温水温度計・流量計等)の未設置により検証できていないが、加温消化
槽数の割合等から、燃料電池と同程度であると推測している。
- 97 -
発電効率については、燃料電池にて 31.4%(H14∼18 年度平均)、ガスエンジンにて 25.5%(H14
∼18 年度平均)である。この発電効率は、燃料電池においては外部補機使用分(約 5%)を差引後、
ガスエンジンにおいては差引前の値となっており、両者の発電効率の差は、数値以上で定格同等
といえる。
熱利用効率については、燃料電池にて 22.0%(H14∼18 年度平均)となっている。燃料電池の保
有する熱効率は 47%なので、発生熱量の半分程度を利用したことになる。
図 5.1.4.7 に、
燃料電池の廃熱利用量月別値(H14 年度)を示す。
最大利用月は 1 月の 165,788kWh/
月(5,348kWh/日)、一方最小(H14.4 は試運転中のため除外)は 8 月の 66,843kWh/月(2,156kWh/日)
である。夏季に消化槽での熱利用が減少することにより、季節変動が顕著になっている。総合の
エネルギー利用量を向上させることは、夏季の熱利用量を増大させることに直結している。夏季
の熱利用に限度のある下水処理場等においては、発電効率の高い燃料電池が、最も有効なものと
思われる。
表 5.1.4.4 消化槽の運転実績
年
度
生汚泥量(m3/年)
生汚泥濃度(%)
余剰汚泥量(m3/年)
余剰汚泥濃度(%)
消化日数(日)
発生ガス量(m3/年)
H14
H15
H16
H17
H18
39,416
4.86
40,934
3.97
22
1,267,057
41,978
4.84
43,484
3.52
21
1,470,755
40,576
5.27
31,528
4.10
23
1,474,107
42,771
5.07
43,775
3.81
22
1,417,605
41,554
4.96
43,710
3.63
22
1,449,690
表 5.1.4.5 消化ガス成分
年度
CH4(%)
CO2(%)
N2+O2(%)
H2S(ppm)
H14
57.6
40.5
1.5
検出限界以下
H15
58.0
40.3
0.3
検出限界以下
H16
58.4
40.5
0.4
検出限界以下
H17
59.0
39.6
0.5
検出限界以下
H18
59.0
40.7
0.5
検出限界以下
表 5.1.4.6 発電設備の運転実績
年度
ガス利用量(m3/日)
時間稼動率(%)
発電電力量(kWh/日)
発電効率(%)
廃熱利用量(kWh/日)
熱利用効率(%)
燃料電池
エンジン
燃料電池
エンジン
燃料電池
エンジン
燃料電池
エンジン
燃料電池
エンジン
燃料電池
エンジン
買電電力量(kWh/日)
発電電力量/総使用電力量
=電力自給率(%)
H14
2,008
1,435
95.5
65.3
4,146
2,205
33.0
24.6
3,447
未計測
27.5
−
10,812
H15
2,121
1,887
97.6
83.5
4,186
3,025
31.6
25.7
2,899
未計測
22.9
−
10,147
H16
2,123
1,909
96.3
80.8
4,153
3,072
31.3
25.7
2,770
未計測
20.9
−
10,243
H17
1,997
1,854
95.2
75.7
3,903
3,035
31.3
26.2
2,339
未計測
18.7
−
10,304
H18
2,333
1,625
98.8
67.9
4,376
2,582
30.0
25.4
2,939
未計測
20.2
−
9,631
37.0
41.5
41.4
40.2
41.9
※燃料電池の発電電力量・発電効率は外部補機分差引後の数値,エンジンの発電電力量・発電効率は補機分差引前の数値
- 98 -
200000
kWh
150000
熱量
100000
50000
0
4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3
月
図 5.1.4.7 燃料電池の廃熱量月別値(H14 年度)
4)維持管理状況
燃料電池の維持管理は、日常点検・監視の他、運転中定期消耗品交換、停止を伴うオーバーホ
ール(1 回/年)、メーカーによる遠方監視等である。維持管理の費用は、17,000 千円/年(H14∼18
年度平均)であった。平成 18・19 年度および平成 26・27 年度は、セル・改質器の入替による大幅
な費用増となるが、それを含めても、約 16,800 千円/年(長期平均)が達成可能な目標である。セ
ル・改質器の寿命は、導入当時の機種では 40,000 時間(約 5 年間)運転であったが、現行機種では
60,000 時間(7∼8 年間)運転にまで延命しており、耐用年数の 15 年間で 1 回のセル・改質器の入
替を行えば十分である。よって、現行機種における維持管理費は、当方の目標値よりも激減して
いる(約 13,000 千円/年)。
(4)導入効果
1)コスト効果
買電電力量・契約電力の削減により、大幅に電気料金を減らすことができた。表 5.1.4.7 に電
気料金・処理水量等運転効果を示す。電気料金は、平成 13 年度比で 16,300 千円(H15 年度)の削
減となった。処理水量は平成 13 年度比で 114%(H15 年度)と増加しており、必要電気料金も増加
したと仮定すれば、燃料電池の効果は約 19,500 千円/年と推計される。これにガスエンジンの発
電電力量分を加算すれば、トータルの効果は約 33,000 千円/年となる。
廃熱利用や温水ヒーターの消化ガス焚も燃料費減に結びつく。燃料電池の廃熱利用量を現行の
重油代に換算すると約 7,710 千円/年となる。
ガスエンジンの廃熱利用量も同等であると仮定すれ
ば、トータルの効果は約 15,420 千円/年と推計される。
また当方では、燃料電池を導入したことで、ガス燃焼等余剰ガス処理装置を保有する必要がな
くなっている。つまり、燃料電池導入の効果として、余剰ガス処理装置等(消化槽加温装置を含む)
を建設・維持管理する費用が削減できたことになる(推定費用効果は表 5.1.4.8 による。)。
- 99 -
表 5.1.4.7 運転効果
年 度
発電設備
電気料金(円/年)
処理水量(m3/年)
H13
H14
63,698,357
12,176,888
年 度
発電設備
電気料金(円/年)
処理水量(m3/年)
H17
H18
燃料電池+エンジン
47,273,666
46,696,361
13,838,550
14,423,040
エンジン
50,318,123
13,459,313
H15
H16
燃料電池+エンジン
47,416,385
46,777,211
14,022,880
14,724,200
表 5.1.4.8 建設費・維持管理費・コスト効果・便益
設
備
燃料電池
エンジン
計
発電設備の建設費(千円/年) ※1
-10,650
-6,250
-16,900
発電設備の維持管理費(千円/年)
-16,800
-13,800
-30,600
発電による電気料金削減効果(千円/年)
19,500
13,500
33,000
廃熱利用による燃料費削減効果(千円/年)
7,710
7,710
15,420
余剰ガス処理設備等の建設費削減分(千円/年) ※2
2,520
2,520
5,040
余剰ガス処理設備等の維持管理費削減分(千円/年)
1,860
1,860
3,720
環境面でのコスト効果(千円/年)
5,750
4,250
10,000
9,890
9,790
19,680
計:便益(千円/年)
※1:燃料電池の建設費は、建設費 473,550 千円÷目標稼働年数 20 年×0.45(国庫補助分を除いた山形市負担分)
※1:エンジンの建設費は、建設費 277,710 千円÷目標稼働年数 20 年×0.45(国庫補助分を除いた山形市負担分)
※2:余剰ガス処理設備等の建設費削減効果は、推定建設費 56,000 千円÷耐用年数 10 年×0.45(国庫補助分を除いた
山形市負担分)
2)環境的効果
二酸化炭素削減では、買電電力量の削減分について、下水道基準の換算係数 0.384(kg/kWh)で
1,010t(H15 年度)(NEDO 基準 0.640(kg/kWh)では 1,690t)となる。廃熱利用や温水ヒーターの消化
ガス焚分について、ガスエンジンを含めたトータルの利用熱量を、燃料電池分の 2 倍程度と仮定
すれば、550t(H15 年度)となる。以上より発電設備全体としては、約 1,560t/年と集計される。
環境面での効果は、二酸化炭素削減量を数値で示しても、一般には理解され難い場合が多い。
削減量を、森林の面積で表すことや、費用対効果に置き換えることができれば、理解も進み易い
ものと思われる。仮に費用対効果に置き換えるものとして、デンマークの環境対策税の 1.5 円
/kWh(買電電力量当たり)を用いれば、買電電力量削減による効果は、約 4,000 千円/年となる。ま
た、同じくデンマークの 4,653 円/kℓ(A重油使用量当たり)を用いれば、燃料使用量削減による効
果は、約 1,000 千円/年となる。さらに、グリーン電力認証システムも活用すれば、約 5,000 千円
/年の効果も期待できる。試算を合計すれば約 10,000 千円/年であり、これを前述の二酸化炭素削
減量 1,560t/年で割れば、6,410 円/t という数値となる。これが即ち、二酸化炭素排出量削減の
価値ということになる。
平成 19 年 5 月にバンコクで行われた、国連の IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第 3 部作
- 100 -
業部会では、
「二酸化炭素 1t 当たり約 50 米ドル(約 6,000 千円)あるいは 100 米ドルという価格を
つけ、排出量を減少させる政策をとれば、排出量を抑制あるいは減少に向けることができる」と具
体的に報告した。前述の 6,410 円/t という数値が、決して過剰ではないことは明白である。
表 5.1.4.8 は、以上のコスト効果・環境的効果および建設費・維持管理費、さらに便益までを
まとめたものである。環境的効果の価値については、当方の試算に対し、プラスにもマイナスに
も評価が分かれるところであろうが、これを除いても、便益が十分にあることが理解される。こ
の試算においては、国益に直結する補助事業として扱って頂くことが絶対条件である。表 5.1.4.8
の数値は、現在新たに発電設備を導入する際には、直接的に利用できるものではない。ガスエン
ジンの NOX コンバータ、燃料電池の維持管理費低減等々の条件が変わっており、これによる差異
も非常に大きいものと思われる。
(5)今後の課題、展望
以上順調な運転状況等を報告してきた。今後の課題として、①消化ガス発電設備の環境的効果
を十分に浸透させること、②19 年間稼働し老朽化しているガスエンジンを更新することが上げら
れる。①が十分であれば、環境的効果をコストに結び付けるという行為が不要となる。地球環境・
人類の未来とコストを天秤で量ること自体が「ナンセンス」とされる社会の到来を強く望むもので
ある。②については、前述のとおり、当方のような小規模ガスエンジンでは、NOX 対策に要する費
用が予測困難である。よって、このような規模の発電設備においては、りん酸形燃料電池(100kW/
基程度)とマイクロガスタービン(80∼95kW/基程度)の比較が有効になるものと思われる。燃料電
池については、維持管理費が激減しており、当方の実績よりその効果・安全性が十分確認されて
いる。一方、この規模のマイクロガスタービンは全国でも希少であること等々から、当方では燃
料電池への更新を選択する予定である。ただし、この方針は、全ての発電規模に適合するもので
は決してないことを強調しておきたい。
下水エネルギーの有効利用については、「資源のみち」等国策として押し進めることが謳われて
はいるが、計画検討の段階で、費用対効果が明らかなプラスと算出されないため、事業を始めら
れないケースも多いものと思われる。二酸化炭素削減を含めた環境効果を、費用的に説明するに
は限界があり、
「日本国」では答えも明確ではない。
費用対効果の説明のみが要求される背景には、
地球温暖化防止の重要性、国策の真の意義が浸透していないことがあると思われる。事業が起こ
らないことで、価格低下も生じず、費用対効果が益々圧迫されていく、悪循環が発生している。
よって、下水エネルギー利用を普及させ、地球温暖化防止の一翼を担っていくためには、国策
レベルで、環境に対する啓蒙普及、事業補助への適用の明確化(資源有効利用等環境プラス効果が
ある事業の優位性を明確に)することが望まれる。国策に大きな変革がなければ、消化ガス発電が
増加するよりも先に、消化槽そのものの減少・衰退してしまうことを、非常に危惧するところで
ある。燃料電池の普及については、他の発電同様に、技術面以上にコストが障害であり、最も環
境に優しい技術であることを加味し、改質器・セルの更新年数(7∼8 年等)での補助・支援拡大等
を強く望むものである。
- 101 -