おうとう、うめ及びあんずの灰星病における 新しい被害症状 県南果樹研究センター 小笠原博幸 平成19年、おうとう、うめ及びあんずの一部園地で、落花期頃から葉に赤褐色の 斑点が発生し、やがて斑点部分が穴になる(せん孔する)症状が目立った。また、 うめとあんずでは果実にも赤褐色斑点の発生が認められた。これらの原因を検討し たところ、灰星病の被害症状であることを明らかにしたので紹介する。 1.おうとうの灰星病における症状 1)症状 落花期頃から葉上に0.5∼2.0mmの赤褐色斑点 を生じる。斑点の中央部に灰白色の斑点を伴う ものもある。病斑は葉が大きくなるのに伴いせ ん孔する(写真1 )。黄変落葉はしない。本被 害症状は褐色せん孔病と似ているが、褐色せん 孔病は収穫期以降の発生が多く、黄変落葉する (写真3)ので区別できる。 写真2 接種による症状再現、「高砂」 写真1 写真3 葉の症状、「北光」 褐色せん孔病、「佐藤錦」 2)原因の究明 本障害の原因を明らかにするために、県南果樹研究センター植栽のおうとう「北 光」から被害葉を採取し、病原菌の分離を試みた。その結果、おうとう灰星病の病 原菌である Monilinia fructicola が分離された。 そこで、県南果樹研究センター植栽のおうとう樹から灰星病の被害果実を採取し、 その被害果に形成されている灰星病菌の分生子を 、「高砂」の新しょう葉に接種し て、1の1)で示した症状が再現されるかを検討した。その結果、15枚の接種葉の 全てにおいて、多数の赤褐色斑点が発生し(写真2 )、それら赤褐色斑点からは接 種に用いた灰星病の病原菌が高率に再分離された(表1)。 - 1 - 以上の結果から、平成19年に南部地方を中心に発生した、おうとうの新しょう葉 における赤褐色斑点は、これまで青森県で未発生であった灰星病被害の一症状であ ると結論づけられた。 表1 接種によるおうとうの葉での赤褐色斑点の発生(品種:高砂) 発病状況 区 発病 葉数 / 供試 葉数 再分離の状況 発病度 再分離 病斑数 / 接種区 15/15 73 17/40 無接種区 10/15 16 − 供 試 病斑数 再分離率 42.5% − 1)接種源:おうとう罹病果実の分生子より調整 2)指数0:発病なし、1:病斑数が1∼5個、3:病斑数が6∼20個、5:病斑 数が21個以上 発病度=Σ(指数×指数別葉数)/(5×調査葉数) 3)開花期の防除と発病状況 県南果樹研究センターのほ場において、「開花直前」と「満開5日後」に有効薬剤を 散布した(慣行散布区:「佐藤錦」)場合と、同時期に防除を行わなかった(無散布 区:「北光」)場合を比較対照に、発病状況を調査した。 花腐れの発生は、慣行散布区では見られなかったが、無散布区では発病花そう率 が17%と高かった。また、葉の発病率は無散布区で73%と非常に高かったのに対し、 慣行散布区では5.5%と低かった(図1)。 葉の病斑(赤褐色斑点)は、花腐れの病斑に形成された分生子が、展開まもない 若い新しょう葉に二次感染して生じているものと考えられる 。「開花直前」と「満 開5日後」の薬剤散布は、一次感染に起因する花腐れの防除対策として不可欠であ るとともに、図1の試験結果から、その後の二次感染に起因する新しょう葉での発 病防止にも極めて効果的であることが明らかになった。 発病花そう率・発病葉率 80 73 発病花そう率 60 発病葉率 40 17 20 (%) 0 図1 0 5.5 慣行散布区 無散布区 開花期の灰星病防除と発病状況 花腐れ調査:5月18日、1区3樹、1樹当たり100花そう 葉発病調査:6月7日、1区2樹、1樹当たり100葉 - 2 - 2.うめ及びあんずの灰星病における症状 1)症状 葉:0.1∼1.5mmの赤褐色斑点を生じる。斑点の中央部に0.1∼0.5mmの灰白色∼黒 褐色斑点を伴うことがある。病斑は、葉が大きくなるに伴いせん孔する(写真4)。 果実:0.1∼1.5mmの赤褐色斑点を生じる。斑点の中央部に0.1∼0.5mmの灰白色∼ 黒褐色斑点を伴うことがある。表面は平滑∼やや凸状で、かさぶた状となるものも ある(写真5)。 うめ「豊後」の自然発病 うめ「豊後」の接種病徴 写真4 うめ「豊後」の自然発病 葉での症状 うめ「豊後」の接種病徴 写真5 あんず「新潟大実」の接種病徴 あんず「新潟大実」の接種病徴 果実での症状 2)原因の究明 本症状の原因を明らかにするために、当センター植栽のうめ「豊後」、あんず「平 和」のそれぞれから被害葉を採取し、病原菌の分離を試みた。その結果、うめ、あ んずのいずれの被害葉からも、灰星病の病原菌である Monilinia fructicola が分離さ れた。 そこで、これらの分離菌により、うめ、あんずの葉、果実において、2の1)で 示した被害症状が再現されるかを検討した。 (1) 葉での症状再現 うめ「豊後」の被害葉から分離した灰星病菌の分生子を、当センター植栽のうめ 「豊後 」、あんず「新潟大実」の各新しょう葉に接種した。その結果、25枚の接種 葉の全てにおいて、多数の赤褐色斑点が発生し(写真4 )、それらの病斑からは接 種菌と同じ灰星病菌が再分離された(表2)。 - 3 - (2) 果実での症状再現 あんず「平和」の被害葉から分離した灰星病菌の分生子を、当センター植栽のうめ 「豊後 」、あんず「新潟大実」の各果実に接種した。その結果、10個の接種果実の 全てにおいて、多数の赤褐色斑点が発生し(写真5 )、それらの病斑からは接種菌 と同じ灰星菌が再分離された(表3)。 以上の結果から、平成19年に南部地方を中心に、うめ、あんずの葉、果実に発生 した赤褐色斑点は、灰星病の被害症状の一つであると結論できた。 表2 接種による葉の発病及び分離の状況 発病状況 供試樹・品種 区 発病 葉数 うめ・豊後 / 再分離の状況 供試 発病 再分離 葉数 度 病斑数 / 供 試 再分離率 病斑数 接種区 25/25 88.8 6/32 18.8% 無接種区 11/25 8.8 − − あんず・新潟 接種区 25/25 87.2 12/32 37.5 大実 無接種区 19/25 16.8 − − 注1)接種源:平成19年、「豊後」の被害葉から分離した菌株の分生子懸濁液 注2)指数0:発病なし、1:病斑数が1∼5個、3:病斑数が6∼20個、5:病斑数 が21個以上、発病度=Σ(指数×指数別葉数)/(5×調査葉数) 表3 接種による果実の発病及び分離の状況 発病状況 供試樹・品種 区 発病 果数 うめ 接種区 「豊後」 無接種区 / 再分離の状況 供試 平 均 再分離 果数 病斑数 病斑数 / 供 試 病斑数 10/10 28.7 2/32 2/10 0.3 − あんず 10/10 90.6 1/32 「新潟大実」 10/10 7.6 − 再分離 率 6.3% − 3.1% − 注)接種源:平成19年、「平和」の被害葉葉から分離した菌株の分生子懸濁液 おわりに おうとう、うめ及びあんずの葉に生じた赤褐色斑点と、うめ及びあんずの果実に 生じた赤褐色斑点は灰星病菌(Monilinia fructicola)による症状であった。 本症状は、近くに灰星病の花腐れや被害幼果があると多く発生するので、おうと うでは「開花直前」と「満開5日後」、うめ及びあんずでは「落花直後」の灰星病防除を 徹底するとともに、これらの伝染源を摘み取って処分することが重要である。 - 4 -
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