フォワード型 DC/DC コンバータの 2 次側を流れる励磁電流

平地研究室技術メモ No.20070106
フォワード型 DC/DC コンバータの 2 次側を流れる励磁電流
(読んでほしい人:パワエレ技術者)
2007/1/6 舞鶴高専 平地克也
■1 石フォワード型の電圧電流波形と電流経路
2006/11/25 の技術メモでフォワード型 DC/DC コンバータにも負方向の励磁電流が流れることを
説明しました。2006/12/30 の技術メモでは負方向の励磁電流の実測波形を紹介しました。今回は励
磁電流が 2 次コイルにも流れており、その方向が負であることを説明します。
図1に 1 石式フォワード型 DC/DC コンバータ(1 石フォワード型と略す)の主要な波形の模式図
と動作モードを示します。図2にモード②とモード③の電流経路を示します。図1と図2は
2006/12/30 の技術メモと同じものです。また、モード②とモード③の動作は 2006/12/30 の技術メモ
で詳しく説明したのでそちらを参照下さい。
TR1 D2
2Vin→
T1 電圧
Vin→
n3
0V→
n1
n2
I1
V in
Cin
T 1電流
D1
T1
負荷電 流
励磁電 流
C1
モード②
Vin→
TR1 D2
n1電圧
0V→
I1
V in
vD1
Cin
0A→
vD2
vn 2
vn1 n1
D1
T1
②
C2
D3
n2
R1
励磁電流( 推定)
①
L1
n3
vn1
-Vin→
図1
C2
D3
R1
0A→
モード
L1
C1
モード③
③ ④
1 石フォワード型の波形と動作モード
図2 モード②と③の電流経路
■ 励磁電流が 2 次コイルに転流する原理
IM
モード③の期間中スナバコンデンサ C1 は放電を続け、
その電圧は 2Vin
から Vin まで低下します。この時の等価回路は図3で表すことができます。
LM はトランス TR1 の励磁インダクタンスです。IM は負方向の励磁電流
vn1
V in
R1
です。コンデンサ C1 の電圧 VC1 の初期値は 2Vin であり、C1 と LM で共
vC1
振しています。よって、VC1=Vin となった時点で共振電流 IM は最大とな
り、C1 はさらに放電を続けて VC1<Vin となります。VC1<Vin となった
時点でこれまで負の電圧であった 1 次コイルの電圧 Vn1 は正となります。
1
LM
図3
C1
モード③の
等価回路
Vn1 が正になると 2 次コイルの電圧 Vn2 も正となり、これまで逆バイアスされていた整流ダイオー
ド D2 が順バイアスされて導通します。その結果、これまで n1 コイルをながれていた励磁電流は n2
コイルに転流するのです。図4にモード④の電流経路を示します。励磁電流は n2 コイルから D2 を
通って流れ、負荷電流の一部となります。電流の方向は n2 コイルの黒丸「・」から流れ出る方向で
あり、即ち負方向の励磁電流です。
TR1
■ 2 次コイルの励磁電流の実測波形
D2
n3
図5に T1 のドレインソース間電圧波形と整流
ダイオード D2 の電流 ID2 の波形を示します。(a)
Cin
はトランス TR1 のコアにギャップがない時の波
D1
T1
形、(b)は 0.18mm のギャップを設けた時の波形
n2
ID3
n1
ほとんどわかりませんが、(b)ではギャップを設けて励磁電流
図4
L1
C2
D3
負 荷電流
励 磁電流
R1
C1
です。ギャップがない時は励磁電流が小さいので
ID2
モード④
モード④の電流経路
を大きくしているので 2 次コイルを流れる励磁電流を見るこ
とができます。(b)の白枠部分で、T1 が ON する前に少し ID2 が流れていることが確認できます。(c)
に白枠部分の拡大写真を示します。(d)に拡大写真の説明図を示します。モード④で ID2 が少し流れ
ていることがはっきりと確認できます。
図6に T1 電圧波形とフライホイールダイオード D3 の電流 ID3 の波形を示します。モード②③④
では負荷電流は D3 を通って還流していますが、モード④では励磁電流(即ち D2 電流)が負荷電流
の一部となるのでその分だけ ID3 が減少します。(a)では励磁電流が小さくて明確には確認できませ
んが、(b)(c)でモード④での ID3 の減少をはっきりと確認できます。
従来、DC/DC コンバータの励磁電流は 1 次側を流れると一般に考えられてきましたが、このよう
に 2 次側にも流れていることが確認できました。
0V
0A →
0A
モ ード ② ③④
(a) ギャップなし
(b) ギャップあり
0.18mm
(d) 拡大写真の
(c) 拡大写真
説明図
(左の白枠部分)
時間:10µsec/div
上:T1 の電圧波形:50V/div
下:ID2 電流波形:2A/div
図5
2
T1 の電圧と ID2
0V
モ ード ② ③④
0A
(a) ギャップなし
(b) ギャップあり
0.18mm
(c) 拡大写真
(左の白枠部分)
時間:10µsec/div
上:T1 の電圧波形:50V/div
下:ID3 電流波形:2A/div
(d) 拡大写真の
説明図
T1 の電圧と ID3
図6
■ モード④の期間中トランスの電圧が 0V の理由
図1に示すように、モード④の期間中トラン
TR1
スの電圧は 0V であり、その結果 T1 電圧は Vin
D2
n3
となります。トランスの電圧が 0V になる理由
は従来は「トランスがリセットされてエネルギ
Cin
ーがなくなるので」というような説明がなされ
D1
T1
ていました。しかしながら、トランスの電圧は
n2
ID3
n1
R1
C1
外部から与えられるものであり、リセットされ
ている(励磁電流が流れ終わっている)か否かで決まるもの
ではありません。
図7
ID2
L1
C2
D3
負 荷電流
励 磁電流
短 絡径路
モード④の n2 コイル
短絡径路
モード④の期間中にトランスの電圧が 0V になるのは n2
コイルを流れる負方向の励磁電流が原因です。モード④では図 4 に示すように D2 には励磁電流が流
れ、D3 には負荷電流が流れて共に導通しており、図 7 に示すように n2 コイルは短絡されているこ
とになります。その結果、トランスの電圧は 0V にクランプされるのです。
以上
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