経口抗菌薬を使いこなす ~「とりあえず●●●を処方しよう」からの脱却~ 大阪市立総合医療センター 感染症センター 医長 白野倫徳 平成25年2月16日(土) 第16回都島メディカルカンファレンス(MMC) 薬剤耐性菌の選択 色々な耐性菌の略語 【菌の名前】 MRSA (メチシリン耐性黄色ブドウ球菌) MRSE (メチシリン耐性表皮ブドウ球菌) VRE (バンコマイシン耐性腸球菌) MDRP (多剤耐性緑膿菌) PRSP (ペニシリン耐性肺炎球菌) 【耐性の性質(修飾語)】 BLNAR (βラクタマーゼ陰性アンピシリン耐性) :インフルエンザ菌 ☞βラクタマーゼが陰性であるにも関わらず、アンピシリンに耐性である・・・ 【産生する酵素の名前】 ESBL (基質拡張型βラクタマーゼ) :大腸菌、クレブシエラなど腸内細菌 MBL (メタロβラクタマーゼ) :緑膿菌 KPC (クレブシエラ・ニューモニエ カルバペネマーゼ :クレブシエラ Emergency of VRE in New York City (人) (%) □検出病院の割合 ■検出患者数 (年) Frieden TR, et al. Lancet. 1993; 342: 76-79. 京都におけるVRE検出施設状況(2008年末まで) 地区 2004 まで 2005 2006 2007 2008 府 (京都市外) 北部 北部 ('96) S S 京 都 市 内 南部 S 府 (京都市外) 南部 vanA vanB E. faecium vanA vanB E. faecalis vanA vanB E. galinarum かぜ症候群の病型 上・下気道症状を有するもの 非特異的上気道炎型 鼻炎型(急性鼻・副鼻腔炎型) 咽頭炎型 気管支炎型 上・下気道症状の目立たないもの 高熱のみ型(インフルエンザ型) 微熱・倦怠感型(急性・慢性) 特徴的所見のある型(発疹型, 急性胃腸炎型, 髄膜炎型, 他) 田坂佳千:“かぜ”症候群の病型と鑑別疾患.今月の治療, 13:1217-1221, 2005 抗菌薬が必要な病態 非特異的上気道炎型 抗菌薬不要 鼻炎型 急性細菌性副鼻腔炎 咽頭炎型 A群β溶連菌 気管支炎型 急性細菌性肺炎 高熱のみ型 インフルエンザ、敗血症(腎盂腎炎、 胆嚢炎など) 微熱・倦怠感型 感染性心内膜炎、結核 特徴的所見のある型 細菌性髄膜炎、リケッチア症など 「何かあったら不安・・・」では抗菌薬を処方しない その「何か」が何であるか推測する労力を惜しまず、必要なら迷わず投与 岩渕千太郎:抗生物質って本当に不必要? レジデントノート増刊 13(14):2617-1622, 2012 インフルエンザ流行期にインフルエ ンザ以外の重篤な疾患を見逃さない • インフルエンザ迅速検査の感度は10〜70%、す なわち、感染していても30〜90%検査は陰性 • 迅速検査が陰性でも、インフルエンザを除外す ることはできない • 迅速検査の特異度は高く、偽陽性は少ない • インフルエンザ流行期に検査で陽性であれば真 の陽性である可能性が高い 咽頭痛 • のどの痛みが強い場合 ☞溶連菌による扁桃腺炎を考える。 • 飲み込めないほど強い咽頭痛がある場合、stridorを聴取す る場合には、急性喉頭蓋炎や扁桃周囲膿瘍を疑う。 • これらは上気道閉塞から窒息をきたしうる。 【溶連菌による急性扁桃炎の予測方法】 Arch Intern Med. 2006;166:640-644. ・38 度以上の発熱あり:1 点 ・咳がない:1 点 ・前頚部リンパ節腫脹、圧痛あり:1 点 ・白苔を伴う扁桃腺腫脹あり:1 点 0〜1 点:溶連菌感染の可能性は低く、抗菌薬は不要 2〜4 点:溶連菌迅速検査で陽性なら抗菌薬で治療、陰性なら抗菌薬不要 その他の症状 鼻閉、顔面痛が強い場合 ⇒急性副鼻腔炎を考える 咳や痰が強い場合 呼吸困難、頻呼吸、低酸素血症を伴ったり、聴診 でラ音を聴取したりするような場合 ⇒肺炎を考える (インフルエンザ肺炎、細菌性肺炎、あるいはイン フルエンザに合併した細菌性肺炎) 頭痛が強い場合 ⇒髄膜炎の可能性を考える 主な迅速診断キット インフルエンザ 尿中肺炎球菌 尿中レジオネラ1型 「検査前確率」を考慮する A群β溶連菌 感度・特異度を考慮する ↓ ノロウイルス 利用できるものは利用し、余 ロタウイルス 分な抗菌薬処方を減らす RSウイルス アデノウイルス HIV抗原抗体 Clostridium difficile toxin A/B ベロ毒素 抗菌薬を処方する場合 ①感染フォーカスはどこか? ②感染症だとすると、病原微生物は何か? ③その病原微生物に有効な抗菌薬はどれか? ☞そのうえで、可能な限り培養検体を提出する ※患者さまをご紹介いただいた場合、後日培養結果を お知らせいただければ幸いです 培養は「もう後戻りできない」検査 外来で使いこなしたい経口抗菌薬 ペニシリン系 アモキシシリン、アモキシシリン/クラブラン酸 セフェム系 セファレキシン、バナン キノロン系 レボフロキサシン、シプロフロキサシン マクロライド系 アジスロマイシン テトラサイクリン系 ミノサイクリン、ドキシサイクリン その他 ST合剤 ペニシリン系 アモキシシリン(AMPC) ⇒サワシリン® 13.3円 GPC (連鎖球菌、肺炎球菌、 腸球菌) GNR (大腸菌、インフルエ ンザ桿菌) 【外来でのAMPCの適応】 細菌性急性咽頭炎 ←迅速診断キット 急性中耳炎で対症療法で治らないもの 急性副鼻腔炎で対症療法で治らないもの 軽症肺炎 ←グラム染色が望ましい 梅毒 ☞処方例 咽頭炎:サワシリン500mg×3, 10日間 軽症肺炎:サワシリン500mg×3, 解熱後3-5日まで ペニシリン系 アモキシシリン・クラブラン酸(AMPC/CVA) ⇒ オーグメンチン®, クラバモックス® 36.9円 【外来でのAMPC/CVAの適応】 軽症腹腔内感染症(憩室炎など) GPC 動物・人咬傷 (ブドウ球菌、連鎖球菌、 肺炎球菌、腸球菌、口腔 皮膚軟部組織感染症 内嫌気性菌) GNR 副鼻腔炎・中耳炎 (大腸菌、クレブシエラ、 インフルエンザ桿菌) 尿路感染症 AMPCで難治例 アモキシシリン・クラブラン酸 について アモキシシリン・クラブラン酸(オーグメ ンチン®)は、AMPC 250mg+CVA 125mg 3錠分3なら、AMPCの量が足りず、効果不 十分 6錠分3なら、CVAの量が増えすぎて、嘔気 などの副作用が出やすい ☞オーグメンチン3錠+サワシリン3錠を分3 で処方 第一世代セフェム セファレキシン(CEX) ⇒ケフレックス® 10.7円 【外来での第一世代セフェムの適応】 蜂窩織炎 ←黄色ブドウ球菌(MSSA), 溶連菌など GPC 咽頭炎 (ブドウ球菌、連鎖球菌、 尿路感染 肺炎球菌) 創傷処置の予防内服 GNR (大腸菌、クレブシエラ、 インフルエンザ桿菌) ☞処方例 蜂窩織炎:ケフレックス500-1000mg×4, 10-14日間 第三世代セフェム セフポドキシムプロキセチル(CPDX-PR) ⇒バナン® 78.3円 GPC (ブドウ球菌、連鎖球菌、 肺炎球菌) 【外来での第三世代セフェムの適応】 市中肺炎 GNR (大腸菌、クレブシエラ、 尿路感染 インフルエンザ桿菌 顔面の蜂窩織炎 BLNAR) ※肺炎球菌、モラキセラ、インフルエンザ桿菌などもカバー ☞処方例 軽症肺炎:バナン100-200mg×2, 解熱後3-5日間 ニューキノロン レボフロキサシン(LVFX) ⇒クラビット® 475.3円 シプロフロキサシン(CPFX) ⇒シプロキサン® 55.8円 GPC 【外来でのキノロンの適応】 (ブドウ球菌、連鎖球菌、 市中肺炎 肺炎球菌、腸球菌) マイコプラズマ、 尿路感染症 GNR レジオネラ、 クラミジア (大腸菌、クレブシエラ、 インフルエンザ桿菌 BLNAR)、緑膿菌) 骨、前立腺など、組織移行はよい ただし、市中肺炎ならセフェム±マクロライドで治せばいい 尿路感染症なら、セフェムまたはST合剤で治せばいい 結核をカバーしてしまう ☞処方例 腎盂腎炎:シプロキサン400mg×2, 10-14日間 市中肺炎:クラビット500mg×1, 10-14日間または解熱後3-5日間 マクロライド アジスロマイシン(AZM) ⇒ジスロマック® 300.9円 クラリスロマイシン(CAM) ⇒クラリス, クラリシッド® 88.6円 【外来でのマクロライドの適応】 GPC 異型肺炎(マイコプラズマ、クラミジアなど) (ブドウ球菌、連鎖球菌、 肺炎球菌、腸球菌) 百日咳(ただし急性期) マイコプラズマ、 GNR レジオネラ、 カンピロバクター腸炎 (カンピロバクター、 淋菌、クラミジア インフルエンザ桿菌) 性感染症 ※肺炎球菌は耐性が増えている⇒エンピリックには使えない ※安易に少量長期療法を用いるべきではない ☞処方例 異型肺炎:クラリス400mg×2, 14日間 ジスロマック500mg×3, 3日間, 2g×1(SR)単回 テトラサイクリン ドキシサイクリン(DOXY) ⇒ビブラマイシン® ミノサイクリン(MINO) ⇒ミノマイシン® 【外来でのテトラサイクリンの適応】 軽症肺炎 リケッチア感染症 マイコプラズマ クラミジア感染症(肺炎、性感染症) にきび 梅毒 GPC (ブドウ球菌、連鎖球菌、 肺炎球菌) GNR (インフルエンザ桿菌) リケッチア、レジオ ネラ、クラミジア ☞処方例 異型肺炎:ミノマイシン100mg×2, 10-14日間 ST合剤 ST合剤(ST) ⇒バクタ® 【外来でのST合剤の適応】 尿路感染症 蜂窩織炎など ニューモシスチス(PCP)肺炎予防 ☞処方例 膀胱炎:バクタ2錠×2, 3日間 急性腎盂腎炎:バクタ2錠×2, 10-14日間 蜂窩織炎:バクタ2-4錠×2, 10-14日間 PCPの予防:バクタ1錠×1 GPC (ブドウ球菌、連鎖球菌、 肺炎球菌) GNR (大腸菌、クレブシエラ、 インフルエンザ桿菌) PCP、リステリア、ノ カルジア、レジオネラ Bioavailabilityとは 経口で投与された薬剤が血中に移行する割合 ①経口≒静注 →吸収は90%以上で、静注薬とほぼ同等 ②経口<静注 →吸収はよく、血中や組織での濃度も悪くはないが 効果は静注薬ほどではない。(60-90%) ③経口<<静注 →吸収が悪く、適切な血中濃度や組織での濃度を維 持できない。(<60%) “bioavailability”を意識する(1) 略号 一般名 商品名 (先発品) bioavailability ペニシリン 系 AMPC セファレキシン サワシリン 90% Βラクタマー ゼ阻害薬配 合剤 AMPC/CVA アモキシシリン/クラブラン酸 オーグメンチ ン 90/60% CEX セファレキシン ケフレックス 99% CPDX-PR セフポドキシム プロキセチル バナン 50% CFDN セフジニル セフゾン 16% CDTR-PI セフジトレン ピボキシル メイアクト 16% CFPN-PI セフカペン ピボキシル フロモックス 不明 系統 世代 第1 セフェム系 第3 Antibiotic Essentials 11th Edition; Jones & Bartlett Learningを参照して作成 “bioavailability”を意識する(2) 系統 キノロン系 マクロライ ド系 サルファ系 テトラサイ クリン系 その他 世代 略号 一般名 商品名 (先発品) bioavailability 第2 CPFX シプロフロキサシン シプロキサン 70% 第3 LVFX レボフロキサシン クラビット 99% CAM クラリスロマイシン クラリシッド 50% AZM アジスロマイシン ジスロマック 35% TMPSMX トリメトプリム-サルファ バクタ メトキタゾール 98% MINO ミノサイクリン ミノマイシン 95% DOXY ドキシサイクリン ビブラマイシン 93% メトロニダゾール フラジール 100% Antibiotic Essentials 11th Edition; Jones & Bartlett Learningを参照して作成 第3世代セフェムの欠点 Bioavailabilityが低い →3錠分3ではほとんど効かない? 結構スペクトラムが広い →耐性菌のリスク ピボキシル基が問題になることも →低カルチニン血症 覚えておきたい副作用 AMPC→伝染性単核球症で皮疹 LVFX→めまい、QTc延長、腱断裂、痙攣、 末梢神経麻痺 DOXY, MINO→歯肉着色、光線過敏、前庭 障害 AZM→QTc延長、下痢 ST→電解質異常、骨髄抑制 共通→肝障害、過敏反応、下痢 アレルギーについて Ⅰ型 IgEを介した即時型 βラクタムによる蕁麻疹、 アナフィラキシー Ⅱ型 細胞障害性 ペニシリンによる溶血性 貧血、顆粒球減少症、血 小板減少症 Ⅲ型 免疫複合体性 高容量βラクタム、異種 血清による血清病、薬剤 熱、過敏性血管炎 Ⅳ型 遅延型細胞性 接触性皮膚炎、播種状紅 斑丘疹様発疹 その他 Stevens-Johnson症候群、TEN、好酸球 性肺浸潤、好酸球性心筋炎、間質性腎炎、 肝細胞性・胆汁うっ滞性・肉芽腫性肝反 応、全身性リンパ節腫脹、無菌性髄膜炎 岡田正人:レジデントのためのアレルギー疾患マニュアル;医学書院 まとめ 耐性菌の問題は地域全体の問題である。 かぜやインフルエンザ症状から、重篤な疾患 を見逃さない。 経口抗菌薬をうまく使いこなす。 ペニシリン系、第1世代セフェム、ST合剤、 クリンダマイシンなどを用いて幅を広げる。 第3世代セフェムを安易に使用しない。
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