いま再考される“集まる”働き方

いま再考される“集まる”働き方
Essay
コクヨ株式会社 WORKSIGHT LAB. 主幹研究員/WORKSIGHT編集長/
ワークスタイルコンサルタント
山下 正太郎
流動する知、集約するワーカー
本社オフィスはそうした思想を強く感じさせる*3。ゲームの主戦場
を利かせる働き方を求めたことで、全員分の席を用意する必要のな
つつある。社会保障費の上昇、増税により若い世代が手にするサラ
が専用ゲーム機からモバイルへと移行し、ユーザーの奪い合いは熾
いABWの導入が一気に進んでいる。
リーは減少傾向にある。それでいて今後安定的に収入が上昇してい
いま、大企業の働き方が大きく変化している。
烈を極めている。如何に早く、クオリティの高いゲームを市場に送
かつてインターネットを中心とした情報技術が発展し
「世界がフ
り出せるかが彼らの至上命題だ。
中でもオーストラリアの金融機関が世界から注目を集めている。
くという将来像も描きにくい。むしろ彼らは、サラリー以外の
「働く
労働集約的なサービス産業では国土が広く北米、欧州からも遠い
意味」を企業に求め始めている。特にこれから働き盛りを迎える
ことがネックとなり、タレント確保やリテンションのためにABWが
1980年代以降に生まれた
「ミレニアル世代」は、人生のなかで好景
広く採用されている。
気を体験しておらず、金銭に対して魅力を感じていない。その仕事
ラット化する」と言われ、ワーカーもオフィスも分散すると考えられ
ビジネスを加速させるために、新設された本社オフィスではコミュ
てきた。しかし実際にはニューヨークやロンドン、東京といった世
ニケーションのスピードを加速させる手段を考えた。中央にフロア
界の大都市では人口が増加し、オフィスを基点とする都心回帰の働
を貫く階段を設置し、分断されたフロア間をつないだ。またその周
国内最大の銀行、ナショナル・オーストラリア銀行では複数拠点
が自分にとってどんな意味があるのか、また社会にどう役立ってい
き方を志向する企業の動きがみえる。特に複雑な課題解決を伴う
辺には視覚的につながりやすいオープンキッチン等を配置しイン
を統合し本社オフィスを2013年に新設した 。ここにはバリエー
るのか、その問いに企業は応えなければならない。彼らは社員であ
高度な仕事を行う人材に限って集まることを志向しているのだ。
フォーマルなつながりを作っている。なんだ、その程度かと思われ
ションに富んだ様々な場所が用意されている。ABWはコスト減の
る前に
「グッド・シチズン:善き市民」
なのだ。
なぜ集まって働くのだろうか?背景には知識の流動化がある。
るかもしれない。だが実は、社員同士のコミュニケーションはほん
施策でオフィスはチープにすると考えられがちだが、全くの逆であ
企業の社会的価値という側面からも、自社の利益のみを追求す
イノセンティブ というサービスはグローバル企業からリスクの高
の些細な環境変化が影響することをクリエイティブな企業ほど経験
る。むしろ単位面積当たりの投資は増え、より機能性を高めた場が
る企業は支持されなくなっていることも明らかだ。ステークホル
的に理解しているのだ。
展開される。なぜか。個人席こそ自宅やカフェなど外部環境の活用
ダー、特に社員の求心力を保ち、能力を最大限発揮してもらうため
*1
い課題を集め、その解法をインターネット経由で広く集めるという
*5
ものだ。企業は早く、安くビジネスの課題解決を実行できる。こう
コミュニケーションを増やすことで、知識そのものが共有される
で大きく圧縮できるが、外部で調達できないチームのためのしかも
になぜ集って働くのか、そこでどう働くべきなのか、考え直す時期
したサービスはクラウドソーシングと呼ばれ、世界の労働市場を激
ことに価値があると考えられがちだが、むしろノウフーを共有する
業務に応じた特殊な要件を満たす場所を作る必要があるからであ
に来ている。
変させている。他にも、人工知能の急激な進歩なども既存の仕事
方が生産性を高めることが米ハーバード大学の研究で分かってい
る。ABWのような分散する働き方は集まることを軽視したもので
を消失させるインパクトが指摘されている。
る*4。こうした各自の中に記憶されたノウフーはトランザクティブ・
は無い。むしろその企業にとって何が重要な仕事で、短時間でも集
メモリーと呼ばれ、オフィスづくりでも重要視され始めている。
まった際にどう価値を生み出せるかが問われている。
固定的な知識はもはや持続的な競争力を生み出すことが難しく
なっている。いま必要とされるのは、新しい価値を如何に継続的に
少子高齢化社会を迎える日本でも労働人口は減り、介護などの
生み出すのか、そこが働き方・働く場のデザインの焦点になっている。
課題を抱えるワーカーが増加することはほぼ間違いない。ABWの
ワーカーの自律性を尊重する
コミュニケーションの濃度を高める
ような柔軟な働き方の導入は今後の重要な経営課題となるだろう。
*2 http://wired.jp/2013/03/01/yahoo-no-work-from-home/
*3 http://www.worksight.jp/issues/634.html
*4『世界の経営学者はいま何を考えているのか―知られざるビジネスの知のフロン
ティア』http://www.amazon.co.jp/dp/4862761097
*5 WORKSIGHT 08号「ウェルビーイング・アット・ワーク」
もう一つ大きな働き方の動きがある。R&Dとは違ってオペレー
ショナルな業務を中心としたワーカーには、アクティビティ・ベース
求められるコアバリュー・オリエンテッドな働き方
2013年、ひとつのニュースが駆け巡った。米ヤフーのCEOマリッ
ド・ワーキングという自律的な働き方が進んでいる。頭文字をとっ
サ・メイヤーが在宅ワークを禁止したというのだ 。従来のシリコ
てABWと呼ばれ、簡単に言ってしまえば
「時間と場所を選ばない働
集約して働く、自律性を活かして働く、いずれの働き方において
ンバレーの働き方である必要なときにオフィスに通うスタイルを否定
き方」
である。しかし従来のフリーアドレスやノンテリトリアル・オフィ
も機能させるために重要なことがある。それは会社の持つ大切な価
し、社員同士のつながりをもう一度取り戻すことが意図だった。い
スと呼ばれるオフィス内の空間利用の自由を問うものではない。オ
値観:コアバリューが起点となっていることである。これを無くして
まR&Dを中心に価値を生み出す源泉として社員のコミュニケーショ
フィスそのものすら働く場の選択肢の一つというものだ。
これからの働き方を考えることはできない。
*2
ンの質を高めようとする動きがある。
韓国を代表するモバイルゲーム会社、NHNエンターテイメントの
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*1 http://www.innocentive.com/
先述した通り都心回帰の傾向が高まり、都心オフィスの賃料高騰
まず理由として挙げられるのがワーカーのマインドセットの変化
は大きな課題となっている。さらにワーカー側も生活と仕事の融通
だ。現在、先進国を中心にサラリーに対する魅力が急速に失われ
プロフィール / Shotaro Yamashita
コクヨ株式会社入社後、戦略的ワークスタイル実
現のためのコンセプトワークやチェンジマネジメン
トなどのコンサルティング業務に従事。コンサル
ティングを手がけた複数のオフィスが
「日経ニュー
オフィス賞」などを受賞。2012年、未来の働き方
の可能性を追求するWORKSIGHT LAB.を立ち
上げる。世界の先端企業を取材したワークプレイ
ス研究誌『WORKSIGHT』
の編集長も務める。
⃝WORKSIGHT
http://www.worksight.jp/
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