視覚的素材を用いた診断的評価の有効性の検討(中学校理科)

PB044
教心第 57 回総会(2015)
視覚的素材を用いた診断的評価の有効性の検討(中学校理科)Ⅱ
―文章問題による診断的評価との比較による―
○荒尾真一(岡山大学) 奥野晃司(玉野市立八浜中学校)
谷本薫彦(真庭市立落合中学校)
鎌田雅史(就実短期大学)
1 研究の目的
学習者の実態に関して対象とする内容の指導を
行う前に的確に把握する有効な方法として診断的
評価があげられる。従来から,文章問題による方
法(以下文章刺激とする)が主に用いられてきた
が,学習者の既存知識の深さや思考の特徴を柔軟
に把握することは容易ではなかった。そこで,
「視
覚的素材を用いた診断的評価の有効性の検討Ⅰ」
(以下この評価方法を視覚的刺激とする)を行っ
た。その結果,診断者の想定を超えて有効な情報
得る可能性が示唆された(2014 荒尾ら)
。今回は,
「文章刺激」と「視覚的刺激」の 2 種類の診断的
評価を対象とする生徒に実施し,比較分析するこ
とにより,
「視覚的刺激による診断的評価」が授
業設計にどのように生かせるか,その有効性を引
き続き検討することとした。
2 研究方法
診断的評価のための視覚的素材の開発に当たっ
ては前回の実践を元に,以下の要件を満たすもの
を目指した。
・授業設計に活かすための情報を得られる素材。
・教師にとって予定調和的ではなく,生徒の実態
について新たな発見が可能である。
・評価者によって解釈がある程度一致し,評価の
基準が設置可能である素材である。
・診断的評価をするための素材づくりが容易であ
る。
具体的には,対象とする学習に必要な既習事項
について,教科書等に掲載されている視覚的素材
(図,写真)を提示し,
「何を調べるのか」
「何が
分かったのか」と図や写真に獲得している知識や
疑問点を自由記述させた。
調査対象は,すべて中学校理科で,3 年生「塩
化銅の電気分解」
( 2 クラス),1 年生「火山灰の
観察」( 4 クラス)
,2 年生「電流の働きはどのよ
うに表したらよいのか」( 4 クラス)
。なお,「火
山灰の観察」については,学習内容が限定される
ため,文章刺激と視覚的刺激は 2 クラスずつ別に
実施し,その他は,文章刺激,視覚的刺激の順に
2 種類の診断的評価を同じ生徒に実施した。
3 結果と考察
【実践 1 塩化銅の電気分解】2014年11月実施
この学習では,目の前の現象を説明するために
は導線で繋がれていない水溶液の中で電流が流れ
ているはず,それはなぜと既習事項を元に考える
ところがポイントである。診断的評価(導線内の
電流と自由電子他について)した結果,①文章刺
激では84%が両者とも記述でき,②視覚的刺激で
は,両者が記述できたもの19%,白紙が22%あっ
た(文章刺激で調べた次の時間に実施したにも関
わらず)。そのことを元に,授業では,既有の知
識を目の前の現象に当てはめて使うことが難しい
と推測し,既習の学習内容を示唆するヒントカー
ド等や電流の存在を考える場を用意して授業構成
を行った。その結果,実験結果を考察する場面で
ほぼ予想通り生徒が躓く場面が現れ,適切な KR
を返すことにより目の前の現象を基に論理的に推
論を進めることができ科学的な結論を導くことが
できた。
【実践 2 火山灰の観察】2015年 2 月末実施
対象の生徒のうち,各クラス約1/3弱の生徒が
火山灰の観察を実際に行っていた。診断的評価で
火山灰の特徴を指摘できた割合は①文章刺激で
46%,視覚的刺激で20%であった。そのことか
ら,文章刺激では,単に知識として獲得している
レベルでも設問に回答することができるが,視覚
刺激だと,そのレベルでは回答できないことが分
かった。
それを基に,火山灰と流水の働きでできた砂の
提示方法(班別に 2 種類のサンプルのラベルをわ
ざと逆にした)と結果の処理(判断した根拠を合
わせて記述)の工夫を入れて授業構成をした。そ
の結果,観察を繰り返したり他の班と比較したり
しながら,それぞれの特徴を見極めることができ
ていた。
【実践 3 電流の働きの表し方】2015年 2 月末∼ 3
月実施
対象の生徒は,理科では電力は未履修である
が,技術家庭科では電気エネルギーと電力の相関
関係,電力=電圧×電流という知識および計算練
習をしている。診断的評価の結果,①文章刺激で
は,豆球の明るさが,電圧,電流(電気の力も含
む)と比例関係にあるとしている(83%)
。視覚
的刺激では,(60%)②視覚刺激で豆球の明るさ
と電流値の関係を調べる実験を示した結果,電流
値(測定した物)を軸にして考える傾向にあるこ
とが分かった。
それを基に,明るさの異なる 7 つの豆電球(明
るさの順に電圧電流値を並べるとどちらも逆転し
てするようにして)の電圧電流を測定させ。考察
させた。再測定や考察に時間がかかると予想し
授業設計を行った。診断的結果から予想された通
り,明るさと電圧,電流は相関関係がある考えか
ら離れることが難しく,何回も測定しなおす生徒
がみられた。電力に自ら気づいた生徒は( 1 %)
であった。詳細な数値データの分析は当日発表の
予定である。
― 236 ―