民法(債権法)改正検討委員会 全体会議(第8回)議事録 日時:2008年

民法(債権法)改正検討委員会
全体会議(第8回)議事録
日時:2008年11月3日(月)10:00~17:30
場所:商事法務会議室
【審議事項 1「改正民法典における消費者・事業者の位置づけについて」及び審議事項 2「改
正民法典の編成(目次)について」
】 ·········································································· 2
〔大村委員からの説明〕 ························································································ 2
〔全体会議委員による意見陳述〕·········································································· 16
〔大村委員からの補足説明〕 ················································································ 34
〔内田事務局長からの補足説明〕·········································································· 39
〔質疑応答〕 ····································································································· 41
〔審議事項 1 について自由討議・採決〕································································· 43
〔審議事項 2 について自由討議〕·········································································· 52
【次回以降の予定】 ······························································································· 93
【審議事項1「改正民法典における消費者・事業者の位置づけについて」及び審議事
項2「改正民法典の編成(目次)について」】
○鎌田委員長 ただいまから、第8回全体会議を開催させていただきます。連休の中
をお集まりいただきましてありがとうございます。本日は、前回の全体会議で予告
させていただきましたとおり、改正民法典の編成について審議をお願いいたします。
ただ、その前提といたしまして、消費者及び事業者の概念の取扱いについてご審議
いただく必要があると思います。この点についての準備会での検討結果のご報告は、
前回の全体会議で行いましたので、本日は審議事項1「改正民法典における消費者・
事業者の位置づけについて」、審議事項2「改正民法典の編成(目次)について」の
両者を併せて大村委員からご説明をいただき、その後まとめてご審議いただきます。
それでは、大村委員からお願いいたします。
〔大村委員からの説明〕
○大村委員 第 1 準備会では、従前より検討してまいりました、編成(案)の仮
案を基にいたしまして、各準備会から仮提出されました具体的な提案を考慮に入
れ、編成(案)の原案を作成いたしました。以下ご説明いたしますのは、拡大幹
事会を含む幹事会での議論を踏まえた、編成(案)の修正案です。以下この案を
編成案、あるいは本案などと呼ばせていただくことにいたします。
これらの説明に先立ちまして、配付資料の内容をまず確認させていただきます。
資料は全部で 4 種類に分かれます。資料 1 は、全体会議での審議の対象となりま
す編成(案)そのものを示すものです。
資料 1 の後ろに「第 8 回全体会議参考資料」が付いています。この参考資料は、
資料 1 の編成(案)に、各準備会の仮提案の見出しを貼り付けたものです。各準
備会の仮提案は、その内容はもちろん、提案項目の存否自体につきましても、今
後の加除修正が予定されているものです。しかし、編成(案)について検討して
いくためには、その編成(案)に基づいて、どこにどのような提案が配置される
のかを具体的にイメージできることが必要だろうと考えまして、この参考資料を
作成いたしました。
この参考資料の中身について一言説明させていただきます。参考資料では、編
成(案)に従って提案の見出しを貼り付けておりますが、3 桁の数字を括弧で囲
ったものに見出しが付いたものです。その数字を囲う括弧が、【】のものと、〔〕
のものがあります。【】のものは、規定を設けることを想定している提案を示し
ています。これに対して、例えば参考資料の 1 頁の真ん中辺りに出てまいります
〔Ⅱ-1-1〕というのは【】になっておりませんが、これは立案の方針ですとか、
現行規定の削除や移動などを提案するもので、規定を設けることが想定されてい
ないものです。ですから、この配置案に従って規定を設けていくときには、【】
のものが規定に変わっていくことになりまして、〔〕のものは消えていくもので
す。これが参考資料についてです。
その後に資料 2 があります。資料 2 は、編成案作成に当たっての基本的な考え
方をまとめたメモです。その後が資料 3 です。資料 3 はこれからの私の説明のた
めのレジュメになっています。さらにその後に法律行為に関する規定の位置づけ
に関する資料がありますが、これは第 2 準備会の資料です。これにつきましては、
後で関連のところで触れさせていただくことにいたします。法律行為に関する位
置づけの後に、フランス民法典から始まり、各国民法典の目次が資料として付い
ております。これは、事務局で準備していただいたものです。番号は付いており
ませんけれども、各国民法典の目次が一括して資料 4 になります。あとは、先ほ
ど鎌田先生からお話がありました、前回の全体会議の際にお配りいたしました、
第 1 準備会の資料が資料 1 の前に付いております。これについても後で触れさせ
ていただきます。以上が資料についての確認です。
以下、いまお話いたしました資料のうち資料 2 と資料 1 を主に使い、具体的な
説明に入らせていただきます。以下の説明は、レジュメでは「はじめに」と題し
ました序論部分と、編成案に関する 2 つの本論部分に分かれることになります。
早速レジュメで申しますと、「はじめに」に当たる序論の説明からさせていた
だきます。現行の日本民法典は、消費者契約や商取引に関する特別の規定を含ん
でおりません。また、総則、物権、債権、親族、相続という編成、パンデクテン
方式を採用しております。
ところが、他国の民法典を見てみますと、その規律対象、あるいは編成原理は
同一ではありません。即ち、一方で民商統一法典の形を採るものや、消費者に関
する特則を含むものなどがあります。他方、最近の民法典にはパンデクテン方式
以外の方式によって編成された民法典も少なくありません。このことは、現行日
本民法典の規律対象や、編成方式が自明のものではないことを示しているかと思
います。
もっとも、このことは直ちに現行民法典の規律対象、あるいは編成方式を改め
るべきであるということを意味するものではありません。実際のところ、諸外国
の中には、依然として消費者契約や商取引に関する特則を民法典の外に置く立法
例もありますし、パンデクテン方式の採用に積極的な立法例もあります。しかし、
現行の日本民法典の規律対象や、編成方式が再検討の対象となり得るということ
は明らかなのではないかと思います。
比較法の観点を離れてみましても、一方でパンデクテン方式の法典においては、
契約に関する規定が総則、債権総則、契約総則、そして契約各則に散在し、全体
としての見通しが悪いということは以前から指摘されていたところです。日本民
法学は、早い時期からこの難点を克服するための講学上の工夫を重ねてきており
ます。
他方、日本におきましてもこの半世紀の間に消費者法は著しい発展を見ており、
もはや特別法といって済ませることはできない重要性を持つに至っております。
また商行為法は、その適用範囲を広げており、民法の一般ルールとの関係が改め
て問題となりつつあります。
それでは、再検討するに当たってどのように考えるべきなのかということにな
りますが、この点は民法とは何か、民法をいかなるものとして捉えるのかという
問題と密接にかかわってまいります。民法は私法の一般法であると言われ、また
市民社会の基本法であるとも言われます。この 2 つの定義には発想の相違がない
わけではありませんけれども、民法は私法ないし市民社会の法の基礎として、社
会を支えているという認識、民法の基底性と申し上げておりますが、この認識に
おいて両者は一致しているのではないかと思います。
民法が社会の基礎をなすとすれば、そこで示される諸規範は、対象の範囲に関
しては包括的であり、かつ時の経過に関しては持続的であるということが期待さ
れると思います。ところがこの 2 つの要請、包括性の要請と持続性の要請には両
立しにくい面があります。包括性を求めるとなりますと、さまざまな規範を可能
な限り取り込むことになりますけれども、具体性の高い規範を多数抱え込むとい
うことは、法典の持続性を損なうことになるからです。
実際には、いま申し上げました 2 つの要請の相克は、消費者取引や事業者取引
に関する諸規範をどこまで民法典に取り込むのかという形で問題になってまいり
ます。債権法に即して申しますと、今日事業者取引や消費者取引を除外しては民
法典は理論的にはともかくとして、実際上取引一般を規律したことにはならない
だろうと思われます。
もっともこのことは、取引に関するすべての規範を網羅すべきであるというこ
とを意味するわけではありません。細かな特則を含む民法典は、持続性の要請に
応えることができないばかりではなく、包括性と表裏一体の関係にある一覧性を
欠くことになるからであります。ですから、以上の問題点に関しましては、私法
上の規定のうち、基本的なものを組み込んだ中範囲の民法典が構想されるべきな
のではないかと考えます。
資料 2 で申しますと、第 1 の 1(1)、あるいは(2)に書いたのがその考え方を示
すものです。(1)だけ読ませていただきますが、「改正民法典は、消費者取引や事
業者取引に関する私法上の特則のうち基本的なものを含むものとする」という考
え方です。
さて、この包括性あるいは持続性の要請は、法典の論理性の要請を同時に導く
ように思います。民法典は個別の問題につき、さまざまな特別法や判例が蓄積す
ることになることを想定しつつ、それらを整序する基準となることが求められる
ということです。ただ、その際の論理のあり方は一様、一通りではないと思いま
す。物権・債権の峻別、総則・各則の階層性といった概念の相互関係を重視する
というのは、1 つの有力な方法・論理であろうと思いますけれども、他方で人・
所有権・不法行為・契約などを核として、機能的な関係に配慮するというのも、
もう 1 つの可能な方法であろうと思います。
実際のところ、近時の立法には、この両者のバランスをとろうとしているもの
が多いように見受けられます。日本におきましてもこの問題に関しましては、構
造・機能の双方に配慮した、いわば複合型の民法典を構想すべきなのではないか
と考えます。具体的には契約法・不法行為法、それぞれの機能的一体性に配慮し
つつ、従来の知的な伝統、それは峻別指向ですとか、あるいは階層指向というこ
とですけれども、これらの継承・活用を図ることが課題になるのではないかと考
えます。
資料 2 の第 1 の 2(1)(2)がこのことを示しております。ここでも(1)だけを読ま
せていただきます。「改正民法典は、階層的な論理構造と機能的な一体性の双方
を視野に入れて、編成するものとする」ということです。以上の基本的な認識を
前提にいたしまして、編成案の説明に入らせていただきます。
本論の部分は 2 つに分かれますけれども、まず最初に編成案における消費者取
引・事業者取引の位置づけについてお話させていただきます。既に触れましたよ
うに、消費者取引や事業者取引に関する私法上の規定のうち、基本的なものは民
法典に組み込むべきであるということだとすると、ではどの範囲での組み込みを
考えるべきか。先ほど中範囲と申し上げましたけれども、中範囲というのは具体
的にはどこまでを指すのかということが問題になります。この点に関しての結論
としては、消費者取引については、消費者契約法の私法ルールの部分、事業者取
引に関しては商法典中の商行為法のうち私法ルールの部分を対象とすべきであろ
うと考えます。これらは、それぞれ消費者取引、事業者取引に関するルールとし
て一般性の高いものであると思われるからです。
なお、組み込みに当たってはほかにも組み込みを考えるべきルールはあるので
はないかという議論もあり得るだろうと思います。例えば、クーリングオフに関
する規定はどうかというのは検討の対象になり得るかもしれません。将来、クー
リングオフは消費者取引一般に妥当するルールである、現在の法制で申しますと、
消費者契約法に置かれるべきルールであるということになれば、その時点でこれ
を組み込むことを考えることになろうかと思います。民法典の外延というのは、
固定的・閉鎖的なものとして考える必要はないのではないかと思っております。
以上が組み込みの範囲についてです。
次に、規定の組み込みの方法についてお話いたします。組み込みの対象となる
消費者契約や商行為法の規定の中には、民法の一般ルールとすべきものも多いよ
うに思われます。しかし、消費者取引や事業者間取引だけに適用される特則では
あるものの、取引社会の基本ルールとして、やはり民法典に置くべきものもあり
ます。また、これとは別に、各準備会では既に消費者・事業者が当事者となる場
合の特則が新たに提案されているところです。組み込みに当たりましては、これ
らをどのように配置すべきかが問題となってまいります。
さまざまな規定のうち、もはや消費者・事業者に適用対象を限るべきではない、
そうしたルールに関してはその配置につき、特別な考慮をする必要はないと思わ
れます。改正民法典の中のしかるべき箇所に置けばそれで足りる。一般法化して
しかるべき箇所に置くということで足りると思われます。しかし、重要な特則と
して組み込まれるべきルールについては、その配置の仕方が問題になります。本
案はこの点につき、消費者に関する特則、事業者に関する特則をまとめて置くの
ではなく、民法典の中の関連の箇所にいわば溶け込ませる、統合するという考え
方を採っております。消費者契約法や商行為法の規定をそのまま修正をせずに、
機械的にひとまとまりとして消費者取引に関する特則編、あるいは事業者取引に
関する特則編を設ける考え方を採らないのだとすれば、いま申し上げたような考
え方を採ることになるのではないかと思います。
資料 2 で申しますと、第 1 の 1(民法典の対象)のところに(3)として書きまし
たが、「(2)は民法典の編成にも反映させるものとする」と書いたところがそれで
あります。(2)には、普遍的な「人」を想定するけれども、契約目的との関連で現
れる「人」の差異の面にも留意すると書いてあります。民法典のルールを、普遍
的なルールを中核に据えて、それを補充するものとして差異の側面に着目するも
のを配置していこうという考え方です。
いま触れたところをもう一度申し上げますと、この配置の仕方の背後にあるの
は、民法典は普遍的な取引のルールを示すべきものであって、消費者取引や事業
者取引に関する民法典中の特則は、そのために不可欠なものである、一般ルール
の妥当性は基本的な特則の存在を抜きにしては語れないという認識です。これを
主体に即して申しますと、繰り返しになりますが、取引の世界において普遍的な
「人」を維持するために、消費者・事業者というサブカテゴリーが必要なのであ
り、これらは人一般と同一のレベルに併存するカテゴリーではない、消費者・事
業者という側面に着目することによって、人はその普遍性を確保することができ
るのであって、民法はその基底性を維持することができるという認識です。
ところで、民法典に消費者取引・事業者取引に関する重要な特則を設けるとい
たしますと、消費者・事業者の定義をどうするかということが問題になってまい
ります。定義規定の検討の方向性については、前回の全体会議で簡単にご紹介し
たところです。これが、先ほど後でと申し上げました資料のうちの 1 つで、第 7
回全体会議資料、消費者・事業者の概念に関するメモが前回提出させていただい
た資料です。これについての基本的な考え方は前回お話したとおりです。消費者・
事業者概念について、消費者契約法がベースにしている消費者・事業者というの
を出発点として、消費者・事業者の概念を規定し、そして事業者取引については、
必要に応じてその事業者概念を絞り込むための要件を工夫するというのが基本的
な考え方でした。
この考え方、あるいは具体的な定義の仕方については、これから始まります提
案審議の中で、その順序に従ってご検討をお願いすることになりますけれども、
本日のところは以上いままで申し上げましたような考え方に立ち、民法典に消費
者・事業者の定義規定を置く、付言いたしますと、それを債権編の冒頭に置くこ
とを予定しているということを申し上げるにとどめさせていただきます。ここま
でが消費者についての話です。
いまの考え方に立ちまして、目次案については資料 1 をご覧いただきますと、
これは後でまた詳しくご説明いたしますけれども、この中には消費者取引・事業
者取引に関する大きなまとまりはありません。消費者・事業者の定義規定は、資
料 1 の 2 頁のいちばん上のほうに、契約に基づく債権の通則というのがあり、そ
の中に定義規定という箇所があります。ここに定義規定を置くことを想定してお
りますけれども、そのほかに消費者・事業者に関する大きなまとまりはないとい
うのが、目次との関係での本日のご提案です。以下、その他目次全般、編成案全
般についてのご説明をいたしますけれども、この点が以下のご説明のいわば先決
問題、前提問題ということになります。以上が本論の第 1 です。
続きまして本論の第 2、編成案における契約に基づく債権、(契約債権)の位
置づけと書いてある部分です。実質は編成案全般についての説明ということにな
ります。資料 2 と資料 1 をとりあえずお手元に置いていただきたいと存じます。
説明の順序はレジュメをご覧いただきますと、4 項目に分かれます。編成案作成
の基本方針をまず最初にお話いたしまして、その次にそれを補う形で、編成案作
成までの議論の経緯を説明させていただきます。3 番目、4 番目に編成案作成に付
随する問題、それから提案審議が始まるまでに解決されるべき問題というように、
4 つに分けた形で説明をさせていただきます。
早速第 1 点の編成案作成の基本方針についてです。民法典の編成について、先
ほどお話をしました資料 2 の第 2 に掲げた基本的な考え方というのは、編成案の
具体的な策定に当たりましては、2 つの要請として現れることになろうかと思い
ます。その第 1 が、全体の構成の維持とレジュメでは書いた部分です。資料 2 で
申しますと、第 2 の 1 に書いたところがそれです。2 つの具体的な要請のうちの 1
つ目の要請になりますが、編成(案)を定めるに当たっての大枠を示すものです。
読ませていただきます。資料 2 の第 2 の 1 です。「現行民法典と同様に、総則、
物権、債権、親族、相続の 5 編構成を維持するものとする」。これが大枠になろ
うかと思います。これには 2 つの理由があります。第 1 は形式的な理由ですけれ
ども、今回の改正は非常に大きな改正ではありますけれども、民法典の全面改正
ではありません。ですから、改正対象となっていない部分の編成を大幅に動かす
ということは困難であります。その結果、民法典の編別は基本的にはこれを維持
するのが妥当であるということになろうかと思います。これは形式論です。
第 2 に、より実質的な理由ですけれども、次のような事情もあります。今回の
作業におきましては、債権の概念は放棄しない、これを用いるということでこれ
まで作業を行ってまいりました。本日後ほど述べますように民法総則編、特に法
律行為の概念には重要な存在理由があるものと考えております。そうだといたし
ますと、少なくとも総則・物権・債権という編成は維持すべきである、というこ
とが積極的に言えるのではないかと思います。
以上のことは具体的な編成(案)との関係で申しますと、資料 1 の 1 頁目がこ
れを表しております。資料 1 の 1 頁目には、改正民法典全体の略目次を掲げてあ
ります。ここには第 1 編の総則から始まり、物権、債権、親族、相続ということ
で現在の編別を維持することが示されています。これが、編成(案)作成の基本
方針の第 1 です。
次に、資料 2 の第 2 の 2 から第 2 の 4 まで、資料 2 の下のほうに点線が入って
おりますけれども、その点線の上の 3 項目をご覧ください。これは、いま直前に
確認いたしました、大枠の中に盛り込むべきもう 1 つの要請をまとめたものです。
それは一言で申しますと、契約に基づく債権、契約債権を基軸として、実質的な
意味での債権法を構築しようという考え方に立つものです。
この考え方、この構想は、今回の作業の当初からある意味で暗黙裡に予定され
ていたものであるとも言えるかと思います。と申しますのは、今回の作業対象で
ある債権法というのは、「債権編+法律行為・消滅時効-法定債権」というもの
であります。この括弧付きの債権法は、機能的な観点から見た債権法であり、か
つ契約債権を中心とした債権法にほかならないと思われるからです。
また、実際の作業をこれまで行ってきた各準備会におきましても、このような
考え方を受けまして、契約債権中心の債務不履行法の構想、これは第 1 準備会の
ものです。あるいは債権時効と他の消滅時効との分離の構想、これは第 5 準備会
ですが、こうしたものが打ち出されています。
これらの構想からの要請をまとめたのが第 2 の 2、あるいは第 2 の 4 というも
のです。繰り返しになりますが読ませていただきます。資料 2 の第 2 の 2 です。
「『契約に関する規定群』は、債権編の中にひとまとまりのものとして置くもの
とする」というのが 1 つです。もう 1 つ第 2 の 4 ですが、「(1)債権時効の規定は
債権編の中に置くものとする。(2)その他の消滅時効および取得時効の規定は物権
編に置くものとする」。(3)は、(1)(2)に掲げる 2 つの時効に共通の規定は、それ
ぞれの箇所に置くものとするということです。
これに対しまして、第 2 の 3 が残っています。法律行為の概念につきましては、
その維持についての強い要請というのが第 2 準備会から既に出されているところ
です。確かに原理上、体系上の観点から見て、法律行為の概念を総則編に残すと
いうことは必要なことだと思われます。
そこで第 2 の 3 では、法律行為に関する規定の多くの部分を債権編に移す一方
で、法律行為の概念そのものは維持し、かつこれに関する原則規定、現在の規定
で申しますと、現行の 90 条から 92 条に当たるものなどを総則編に残すことを提
案しております。第 2 の 3 の書いたところも確認させていただきますが、「(1)
総則編には、法律行為に関する原則規定その他を置くものとする。(2)法律行為に
関するその他の規定は、債権編の「契約に関する規定群」の中に置くものとする」。
こういう考え方です。これに伴い原則として、債権編に移される規定の中の法律
行為という文言は、契約に改めることになりますけれども、これは形式的な変更
であり、従前の法律行為論の内容に影響を及ぼすものではないと考えております。
ここまで申し上げましたことを編成(案)との関係で申しますと、資料 1 の 2
頁目、3 頁をご覧ください。2 頁目から 5 頁目というのは先ほどご覧いただきまし
た、1 頁目の全体の略目次のうちの債権編の部分だけを取り出しましてその中を
示したものです。ここまで申し上げましたことは、資料 1 の 2 頁目、3 頁目に現
れております。即ち「第 3 編債権」の冒頭に、「第 1 部契約および債権一般」と
いう大きなパートを置く。ここに第 1 章の契約に基づく債権という大きな章と、
第 2 章以下の債権の効力・消滅・変動等に関する章等を配置するということです。
第 1 部、第 2 部、第 3 部という通常の法典編成で使われていない言葉を使ってお
りますけれども、こういう言葉を使うことが可能なのかどうなのか、あるいは 1
つずつ繰り下げなければいけないのかということについては、また別途検討が必
要かと思います。あるいは各部、章等の表題等についてもなお検討を要するとこ
ろですけれども、基本的な考え方はいま申し上げたとおりで、債権編の冒頭に第
1 部に契約及び債権一般というパートを設けまして、この中に契約に基づく債権
の章とそれ以外の章を置くというのが、編成上の帰結になります。
なお、債権時効以外の消滅時効につきましては先ほど申し上げましたように、
取得時効と併せて、必要な時効総則的な規定も含めまして、物権の章に置くこと
を考えておりますが、これは目次編成(案)との関係で言いますと、1 頁に戻り
まして、「第 2 編物権」の中に、第 1 章の 2 という形で、総則の後ろに時効に関
する章を設け、ここに置くということで受け皿とすることを考えております。以
上が基本方針の 2 番目です。
3 番目に、債権編の全体としての編成についてお話いたします。以上いま申し
上げました 2 つの要請、2 つの要請と申しますのは、民法全体については総則、
物権、債権、親族、相続という大枠を維持することと、その中で債権編について
は契約債権を中心とした編成をするという要請ですけれども、これを受けて考え
ますと、債権編は具体的にはどのような形で編成されることになるのか。これが、
編成案の中核部分であることになります。
資料 2 に戻っていただきまして、第 2 の 5 に基本的な考え方をまとめておりま
す。読ませていただきます。「(1)『契約に関する規定群』は、『契約および債権
一般』に関するものと、『各種の契約』に関するものとに大別するものとする。
(2)『契約および債権一般』の部分には、債権の発生原因としての契約に関する一
般的な規定に加えて、発生した債権の効力・変動・消滅等に関する規定を置くも
のとする。(3)『各種の契約』の部分は売買を筆頭に、以下、典型契約を順次配列
するものとする。(4)法定債権に関する規定は債権編の末尾に置くものとする」。
これらが考え方です。
目次を開いていただきまして 2 頁、3 頁以下になります。先ほどの続きになり
ますが、まず第 1 部として、「契約および債権一般」というパートを設ける。こ
れに続きまして 4 頁以下が第 2 部で「各種の契約」になります。この第 1 部と第
2 部が契約に関する規定群になりまして、最後に法定債権に関する規定群が 5 頁
のいちばん下ですが、法律に基づく債権という形で配置されるということです。
これが、債権編の基本的な編成に関する提案になります。
基本方針の 4 番目はこれに関連する問題ですが、典型契約の配列ということで
す。いま開いていただいております資料 1 の 4 頁、5 頁に各種の契約という形で
典型契約が配置されております。この配置における基本的な考え方は、典型契約
類型を上位概念で括ったり、あるいはある大きな典型契約概念の下に、それを分
節化するようにして、現在の典型契約を配置することはしないという考え方です。
別の言い方をしますと、現行法と同様に、典型契約類型は同じレベルで列挙して
いくという考え方を採っております。
以前に、役務提供契約について、役務提供契約の中を総則と各則に分け、各則
として請負以下を配置することが話題になりましたけれども、そういう考え方を
採らずに、いわばフラットにすべての契約類型を並べていくという考え方に立っ
ております。グルーピングするということも途中では検討いたしましたけれども、
今後新しい契約類型が追加されることを考えますと、グルーピングはその際の制
約として働くこともあるかもしれない、どこに置いたらいいかわからないという
ようなことがあるかもしれない。あるいは、現在提唱されているさまざまなグル
ーピングというのは、現行の典型契約類型を前提にして、それをいかに分類する
かという観点に立つものでありまして、その枠になかなか収まりきれないものが
あるということも理由です。そうしたことも考えまして、典型契約類型について
は、上位の概念で括るようなことはしないということをここで提案しております。
ただ 1 つ、この列挙されているものの中の最後にあります継続的契約というも
のは、各種契約類型の末尾に置かれておりますけれども、これがほかの契約類型
とは異なるものであって、いわば類型横断的に適用されるものであることは明ら
かなことだろうと思います。そういう意味では別立てにすることも考えられるの
ですけれども、いまのような性質を持つものだということを含んだ上で、各類型
の末尾に置くという取扱いをしております。末尾に置くものとして、ほかにいく
つかのものがあればそれとグルーピングして、カテゴリーに段階差を設けること
も考えられます。そんなことも検討してみましたけれども、結局現在のところで
は、性質の違うものとして残るのはこの継続的契約だけだと思われますので、こ
のような配置をしております。以上が編成(案)作成の基本方針の部分です。
次は、4 項目のうちの 2 番目です。編成案作成までの議論の経緯を少しご紹介
させていただきます。幹事会においては、いまご説明いたしました編成案を、こ
の全体会議に提出する原案とすることについてご了解をいただきましたけれども、
その過程でさまざまな議論が交わされました。参考までに主な 4 つの議論につい
てごく簡単にご紹介させていただきます。
1 つ目は、契約編の分離をめぐる議論です。これはどういうことかと申します
と、第 1 準備会の原案においては、本案における第 2 部の各種の契約の部分を、
第 4 編として独立させることが提案されておりました。各種の契約の部分には、
物権にかかわる規定も含まれるということ、あるいは各種の契約の部分は他の部
分に比べて改正の対象になることが多いと思われることなどがその理由でした。
しかし、幹事会におきましては、そのような要請に関しては、債権編の内部で独
立のパートとして取り扱うということで対処し、債権編の一体性を確保すること
を優先させることになりました。これが(1)の契約編の分離をめぐる議論というこ
とです。
2 番目は略式の言い方で恐縮ですが、債権総則的な規定群をめぐる議論です。
これは編成(案)で申しますと、3 頁の「第 3 編債権」の第 1 部の「契約および
債権一般」の中に、第 2 章以下、責任財産の保全以下の規定が 3 頁に掲げられて
おります。これらの規定をどのように扱うかということに関し、幹事会では大き
く分けて 2 つの方向の議論がありました。
第 1 準備会の原案は、3 頁に置かれた規定は、契約債権、法定債権の双方を想
定したものであるとの理解から、これを次のように対置するというものでした。
編成(案)の第 1 部第 1 章に掲げました、「契約に基づく債権」というのを最初
に置く。その上で、いちばん最後の「法律に基づく債権」というのを次に置く。
その 2 つに続けて、3 頁の責任財産の保全以下の規定を置く、これが第 1 準備会
の原案でした。つまり、債権発生原因としての契約債権・法定債権をまず掲げ、
対置した上で 3 頁の諸規定をその後に配置するということだったわけです。幹事
会では、これに対する賛成意見も多くありましたけれども、契約に関する規定群
をできる限り一体化するという基本方針を重視すべきだという意見も同様に強か
ったところです。
そこで、最終的には編成(案)の第 1 部を、契約に基づく債権に関する規定と、
主として契約に基づく債権を念頭に置きつつ、債権一般にもかかわる規定、この
双方を含むものとして捉えるということによって調整を図ったという経緯があり
ます。契約に基づく債権に関する規定というのが、第 1 部の第 1 章になります。
第 2 章以下は、確かに債権一般にかかわる規定であるけれども、契約に基づく債
権を念頭に置きつつ、債権一般にかかわるという規定として位置づけることによ
ってここに組み込むという考え方を採ったということです。これが、議論の経緯
の第 2 点です。
第 3 点は法律行為をめぐる議論です。法律行為に関する規定の位置は、いわば
民法典の体系の要石であるとも言えます。ですから、この点についても当然のこ
とながら、幹事会ではさまざまな議論が交わされました。規定の配置そのものを
めぐりましては、総則編には定義規定、分類規定のみを置くという案と、法律行
為の規定を債権編に移すことはせずに、総則編に存置するという 2 つの案を両極
にし、段階的な複数の案が出されました。
複数の案と申しますのは、代理の部分は総則に残そうという案、さらに無効、
取消しの部分も総則に残そうという案などです。これらにつきましては、先ほど
資料の説明の際に後でと申し上げました、第 2 準備会の資料、法律行為に関する
規定の位置づけがありますが、この中で各案の比較検討がされております。これ
を踏まえつつ、先ほど申し上げましたようにさまざまな議論が展開されたところ
です。結論といたしましては、総則編の原理性を維持しつつ、債権編の一覧性を
確保するということで、現行の 90 条から 92 条に当たる規定は、原則規定として
総則編に残すことになりました。これが、法律行為をめぐる議論についてです。
議論の経緯の 4 点目として、その他の消滅時効をめぐる議論について触れさせ
ていただきます。債権時効に関する規定を債権編に置くとして、その他の消滅時
効に関する規定をどこに置くのかというのは 1 つの問題であります。幹事会にお
いてはこの点について、取得時効とともに総則編に存置する、触らないという案、
逆に債権時効とともに債権編に移すという案も検討されました。
前者に対しましては、債権時効を債権編に移した後に残るその他の時効、取得
時効とその他の消滅時効は、もはや総則編に置くだけの一般性を持たないという
言い方が示されました。また後者に対しては、後者というのはその他の消滅時効
を債権編に併せて移すという考え方ですが、これに対しては、それは可能な考え
方ではあるけれども、債権時効とその他の消滅時効とを区別するという考え方か
らすれば、両者はそれぞれ別の場所に置いたほうがよいとされました。結論とい
たしましては、取得時効との共通性に着目し、その主たる対象が物権となること
から、物権編にまとめて配置するという原案が維持されたということです。
なお、その他の消滅時効に関する規定を物権編に移すに当たりましては、取得
時効と併せて時効障害事由、現行法で申しますと中断や停止についての手直しを
することになろうかと思います。これにつきましては、今回は物権編には手を付
けないということではなかったかという疑問が生ずるところです。しかし、この
点に関しては物権編の積極的な改正は考えないとしても、必要最小限の修正はす
べきだという前提に立っております。同様のことは後でちょっと触れます法定債
権、特に不法行為などについても言えるところかと思います。以上が、お話すべ
き 4 項目の第 2 項目、編成案作成までの議論の経緯です。
次に 3 項目といたしまして、編成案の作成に付随する問題についてお話いたし
ます。3 つありまして、最初が債権編第 1 部の通則、あるいは補則についてです。
債権編の冒頭には、通則という形で基本原則を置くことを想定しております。こ
れは資料 2 の基本的な考え方で申しますと、第 2 の 6 に書いたところですけれど
も、読み上げは省略させていただきます。編成(案)ではどうなるのか、という
ことだけ触れさせていただきます。
編成(案)で申しますと、資料 1 の 2 頁目の冒頭部分にそれが置かれているこ
とになります。先ほど定義規定についてお話しましたけれども、定義規定のほか
に、第 1 章の契約に基づく債権の第 1 節通則の中に第 1 款として基本原則を置く
という考え方です。この中に置かれる規定、提案を見ますと、総則編の基本原則
と重複する部分もあります。ですが、債権編に即した形で、債権編の冒頭で基本
原則を宣言すべきであろうという考え方に立ちまして、この基本原則という項を
設けております。
なお、差し当たり今回の作業対象には含まれておりませんけれども、総則編の
基本原則の見直しというのも重要な課題であるということを申し添えておきます。
いま、債権編の冒頭の通則についてお話をいたしましたけれども、併せて債権
編第 1 部の最後に置かれました、有価証券という章についても触れさせていただ
きます。これは資料 2 で申しますと、第 2 の 7 に書きましたけれども、目次ベー
スで申しますと、3 頁のいちばん最後の第 7 章の有価証券がこれです。これは、
見開きで現されております 3 編債権第 1 部、契約および債権一般の保証という位
置づけのものです。
どうしてこういうものが置かれているかということについてですけれども、こ
れは第 3 準備会と商法の WG との会合の中で、有価証券に関する原則規定を民法の
中に置くべきではないかという意見が出たということを受けて、民法の中の受け
皿となる位置を示したものです。もちろん、それはそういう意見が出ているとい
うことでありまして、内容については今後検討されるということだろうと思いま
す。ですから、そもそも民法に有価証券の規定を置かないという結論になるのか
もしれませんけれども、仮に置くとしたらどこに配置するのかということで、受
け皿としてこの場所を示したということです。以上が付随問題の第 1 についてで
す。
第 2 に、適用関係の明確化についてお話しておきたいと思います。これは技術
的な問題でありますけれども、本案においては適用関係の明確化、準用規定の整
備がある意味非常に重要です。契約債権を中心に据えましたこの案におきまして
は、法律行為の規定、あるいは債権一般に関する規定を、契約に関する規定とし
て位置づけ直すということが行われております。
その結果といたしまして、適用関係の明確化、準用規定の整備が必須になって
まいります。
資料 2 で申しますと、2 頁の第 2 の 8、第 2 の 9 がそのことを示しております。
読み上げは省略いたしますけれども、一方で契約に関する規定に置き換えられた
法律行為に関する諸規定、これらの規定は債権契約以外の契約や、単独行為その
他の契約以外の法律行為にも適用ないし準用されるということを示す必要があり
ます。それは、契約に関する規定の形に法律行為の規定を書き直すけれども、法
律行為論の実質は動かさないということの帰結であるということになります。
他方、先ほど触れました括弧付きの債権総則的な規定のうち、契約債権に特化
した形に改められるものに関しては、法定債権につき、これに対応する規定が必
要になってまいります。例えば、損害賠償の範囲に関する規定などがその重要な
例です。
また、法定債権にも妥当するにもかかわらず、契約債権のパートに置かれた規
定、先ほどの 3 頁目の第 2 章以下の規定がそれですけれども、これらについては、
もし適用関係に疑義が生ずるようであれば明文の規定を置いて対応を図るという
ことを考えております。以上が付随問題の 2 番目です。
付随問題の最後に、総則編の将来像ということを付け加えさせていただきたい
と思います。民法総則編がこの先どうなるのか、というのはそれ自体重要な問題
であろうと思います。先般の公益法人改革により、民法総則編からは、法人に関
する実質的な規定のほとんどが脱落したわけです。
今回の債権法改正におきまして、法律行為に関する規定の多くが債権編に移さ
れる。時効に関する規定が、物権編と債権編に 2 分される。本日は申しませんで
したが、期間に関する規定は、法の適用に関する通則法へ移すというようなこと
も考えられておりますが、このようなことが行われますと、実質的な規定として
総則編に残るのは人に関する規定だけではないかということにもなってまいりま
す。そうなりますと、総則編を廃止して、「人編」を置くというような方向性も
出てくるかもしれません。確かに人に関する規定は、民法典において重要な位置
を占めてしかるべきだろうと思いますし、親族編との関係も再考されてよいだろ
うと思います。
しかし、このことによって現在の総則編の存在意義は否定されないだろうと考
えます。今回の編成(案)作成に当たりましても、総則編に法律行為に関する規
定は一切置かないという案は最初から検討の対象になっておりません。本案は、
総則編を解体・廃止するという方向を目指すものではなく、基本原則と基本概念
を定める部分として将来整理していくということを含意するものです。言い換え
ますと、この案の中には、総則編は権利の主体、客体、変動原因としての行為と
いう民法の基本要素を提示し、その相互関係を示すものであるという認識。総則
編というのは、そういう役割を負っているという認識、そのようなものとして総
則編を維持する必要があるという判断が含まれております。以上のことが、第 2
の 10 に書いたことの趣旨です。
繰り返しになりますけれども、法律行為の章は存置する、期間の章は通則法に
移し、時効の章は廃止するというのが案ですけれども、総則編は基本原則と基本
概念を定める部分として、今後に向けて整理しているという考え方に立つという
ことです。以上が、編成案作成に付随する問題についてです。
最後に 4 項目として残っているのが、提案審議開始までに解決されるべき問題
ということです。とりあえずレジュメには 3 つの項目を掲げてあります。最初は、
配置が流動的な部分がなお残っているけれども、この配置を固める必要があると
いうことです。1 つは先ほども各種の契約のところで触れましたけれども、継続
的契約の取扱いをどうするのかということです。編成(案)では、各種の契約の
末尾においてあるわけですけれども、これが他の典型契約と異なるものであると
いうことは先ほども申し上げたところです。
これは、いわば各種の契約のパートで、補章的な扱いを受けることになるわけ
ですけれども、そのことを形式上より明確化する必要はないか。あるいは、そう
いうものであるならば、これをここに置くのではなくて、他の場所に移すという
ことを考える必要はないか。これは幹事会でも留保されている点です。
配置が流動的な部分の第 2 として、約款の取扱いをどうするのかという問題が
あります。細かい説明は省略させていただきますが、編成(案)では約款に関す
る規定は組入れ、解釈、内容規制の 3 つに分けて配置する考え方を採っています。
しかし、これでよいのかどうか、あるいはそうではなくて、まとめて約款に関す
る規定群を配置したほうがよいのか。仮にまとめて配置するとしたら、それはど
の位置に置くのがよいのか。これは、今後検討して決着を付けるべき問題であろ
うと思います。
さらにもう 1 つ、先ほど来債権総則的な規定の置き所という話をしております
けれども、目次案の資料 1 で申しますと、3 頁の責任財産の保全以下の規定の配
列がこれでよいかどうかについても、もしかすると見直しが必要かもしれません。
幹事会では、債権の消滅等という大きな章がありますけれども、これを有価証券
の前に置いたらどうかという案も出されていたところです。
以上が、なお配置が流動的な部分であり、提案審議までに解決されるべき問題
かと思います。
細かい話ですが、ここまでの説明で全然触れていませんけれども、最初に申し
上げた全体会議参考資料というのがあります。この 3 頁の上の「基本原則」と書
いたところに★が付いています。あるいは 4 頁の上の「約款による契約」という
ところで★が付いています。5 頁の真ん中より少し下の「契約条項の無効」に★
が付いています。さらに 25 頁の「継続的契約」というところにも★が付いていま
す。いちばん最初の基本原則のところについてはすぐに補足しますが、その他の
★は、いま申し上げた配置が流動的な部分を表すものです。
配置が流動的な部分に続いて、解決されるべき問題の第 2 は分節化が不十分な
部分があるのではないかという問題です。これは売買をはじめ、典型契約に関す
る部分をさらに分節化する必要はないか。あるいは分け方を見直す必要はないか
という問題です。売買の売主の義務をどの程度の詳しさで細分化するのかという
問題とか、あるいは資料 1 でご覧いただくと 4 頁、5 頁の各種の契約のところで
すが、贈与のところに総則、特殊な贈与という節が立っています。総則という言
葉は避けて一般の贈与としてもいいかもしれませんが、こういうふうな種分けを
することが適当かどうか。これは 5 頁の委任、寄託についても同様ですが、こう
したことがなお検討すべき事柄かと思います。
さらに先ほど売買の話をしましたが、第 4 節に特殊な売買という項目が立って
います。この特殊な売買という項目に、一体何を持っていくのかという問題もあ
ろうかと思います。全体として各種の契約の部分で典型契約類型については、先
ほどフラットに並べると申し上げましたけれども、各典型契約類型の中の整理と
いうのが、解決されるべき問題として残っているのではないかということです。
解決されるべき問題の 3 番目、最後の問題として提案相互間の調整を要する部
分というのがあるだろうと思います。これはいくつかございます。先ほどすぐ後
でご説明すると申し上げましたが、あちこちいって申し訳ありませんけれども、
全体会議参考資料という厚い資料の 3 頁の基本原則のところの★についてです。
この基本原則の部分は、そもそも基本原則というのを置くことを提案しています
けれども、置くとして、この中にどういうものを置くのかが問題になろうかと思
います。
例えば現在、仮提案を貼り付けていますけれども、【Ⅰ-2-1】(契約自由の原
則)というのをいちばん上に貼っています。これに対して、3 頁の真ん中あたり
に【Ⅱ-5-1】(諾成主義の原則)というのが出てきますが、例えばこのあたりの
整理は必要ではないか。基本原則というのを置くかどうかが問題ですが、置くと
した上で、何を置くのかが提案相互の調整を要する問題としてあるのではないか
ということです。
ほかに同じ参考資料の同じ頁ですが、契約交渉過程に関する規定が 3 頁の真ん
中あたりの右側に括弧で括ったものですけれども、これは左の番号を見ていただ
くと、【Ⅱ-5-3】とか【Ⅰ-2-1】となっていて、第 2 準備会と第 1 準備会で関連
のある提案がされていることがわかります。これらの内容の調整を提案審議まで
に図る必要があるだろうと思います。同様のことは売買に関する規定にもあって、
参考資料の 16 頁になりますが、やはり右側に括弧が付いたところがあります。第
1 準備会と第 2 準備会の間で出ている提案を、すり合わせることが必要になるの
ではないかと思います。
こうした問題の最後として、いまご覧いただいている参考資料の 1 頁に戻りま
す。法律行為の効力に関する原則規定をどのようなものとするのか。あるいは分
類規定とか準用規定をどうするのかというのも残された問題で、調整が必要だろ
うと思われます。先ほど法律行為については、現行の 90 条から 92 条に当たる規
定を総則編に存置すると申し上げましたが、これを総則編に置くだけではなく、
債権編のほうに置く必要もあるのではないかという問題もあります。これは基本
原則の置き方とも共通する問題ですが、重複して規定を置くための工夫を考えた
らどうかということです。
これは、ご覧いただいている参考資料で申しますと 1 頁に☆が下のほうで付い
ています。公序良俗から始まり法律行為と慣習まで、それから新たに提案されて
いる意思能力に関する規定というのを含めて、ここに置くとともに、参考資料で
いくと 4 頁の真ん中あたりに☆が付いていますが、この箇所にも置くような工夫
ができないだろうかということです。これが、お話の 4 項目の最後の提案相互間
の調整を要する部分についてです。
以上です。資料のあちこちにいきましてお聞き苦しい点があったかと思います
けれども、不明な点につきましては後で補足をさせていただきたいと存じます。
〔全体会議委員による意見陳述〕
○鎌田委員長 ありがとうございました。最初に申し上げましたように本日の審議
事項の消費者・事業者の位置づけと改正民法典の編成の2つについて、まとめてご説
明をいただきました。予めお知らせと合わせてお願いの文書をお送りしておきまし
たが、今後の審議を続けていくためには、いまの2つの内容について一応のご承認を
いただけないかと考えているところです。本日の資料の中に1枚紙で議案1、議案2と
いうのが書いてある紙がありますが、いまのご説明の中にありましたことのうち、
ご承認をいただければと考えているのが大きくこの2つです。
議案1が、改正民法典における消費者・事業者の位置づけについて、その1が、改
正民法典は消費者取引や事業者取引に関する私法上の特則のうち基本的なものを含
むものとする。その2が、消費者・事業者に関する規定をまとめて独立に配置するこ
とはしない。消費者契約に関する章を設けるのではなく、関係する場所にそれぞれ
に関連する規定を置くという提案内容です。
議案2が、改正民法典の編成(目次)についてということで、提案審議のための改
正民法典の編成を暫定的に資料1のとおりとする。この2つの点についてご意見をい
ただき、可能であればご承認をいただいて、これらを踏まえて今後の作業を進めて
いきたいと考えているところです。しかし、それぞれ大変大きな問題ですので、十
分なご審議をいただいておく必要があると考えていますので、今日中の議論では時
間が足りないということであれば、さらに全体会議を追加して開催し、これらの課
題について議論したいと考えています。
先ほど申し上げましたが、仮に本日の議案をご承認いただいた場合には、その次
の全体会議からは、改正民法典の暫定的な編成に沿って幹事会提出の改正の基本方
針、改正試案と言い換えてもいいかと思いますが、その原案について順次ご審議い
ただくことになります。したがって、この改正の理念とか、それを表す編別という
ことについてご議論いただくことは大変重要ですし、そういう意味で今回の審議が
大きな結節点ということになりますので、この機会にいろいろとご意見を出してい
ただきたいと思っています。
準備会の委員につきましては、いろいろな形で準備会の中で、あるいは幹事会、
拡大幹事会というところでご意見をいただく機会がありますけれども、それ以外の
全体会議委員の方につきましては、随時、ご意見を伺うということが大変難しい状
況にありますので、この会議の中で特に準備会に参加されていない委員の方に、存
分にご意見をお述べいただきたいと考えています。強制ということにならないよう
にとは思いますが、支障がなければ順次、準備会委員ではない全体会委員の方にご
発言をお願いしたいと思っていますが、よろしいですか。着席順で加藤先生からお
願いします。
○加藤委員 非常にエキサイティングなご報告、面白く伺いました。2 点の大きな
提案があったと思いますが、第 1 点の消費者取引と商行為と事業者取引の位置づけ
ですが、これは現段階では、私はリーズナブルな提案だろうと思います。ただ、現
在はあくまで審議の過程ですので、具体的な問題を討議した結果、現行法のほうが
いいということになりましたら引っ込めることは必要だと思います。いまおっしゃ
ったような形で、この消費者契約法、商行為法の基本原則をどういう形で取り込む
か。私は基本方向として賛成したいと思います。
第 2 の編成案について、いろいろと私は違う意見があるのですが、最初に賛成す
るところから申し上げると、1 の編成で典型契約の配列です。これについては基本
的に賛成したいと思います。ただ、これは全面的に賛成することを意味しているわ
けではなく、例えば終身定期金といったものは、果たして典型契約になるのか、疑
問に思っていますので、ここで基本方針に賛成したからといって、すべて細部にい
たるまで賛成だと思われては困るのですが、基本方向には賛成したいと思います。
そこから先の編成案についての考え方ですが、これまでこの委員会は民法改正の
目的は何とかという、「そもそも論」等々には入らないような形で討議してきまし
た。これは鎌田委員長の采配、あるいは内田事務局長のお考えだと思いますが、こ
れは神々の論争に入らないという意味で、非常に現実的な、いい采配の仕方だった
と思っています。ただ、今回の報告を伺って、我々は何のために民法改正をするの
か。この問題に立ち入らないと回答ができないような段階に来たと思いました。
今日のご報告でいちばんの目玉と私が感じたのは、法律行為の相当部分を契約法
に移す。そして契約法のところで債権総論と契約総論の二段階構造を打ち払って、
いわば具体的に契約を捉えるようにする。これが基本的な発想法だろうと思いま
す。今日配られた資料の中で、法律行為に関する規定の位置づけという資料があり
ますが、その中で本案とおっしゃった案に対して、具体的秩序思考をとろうとして
いるという評価が記載された箇所があります。確かに今日提案された本案というの
は、具体的秩序思考をとろうとするものだと思います。具体的秩序思考というのは
当然のことながら具体的に問題把握をするわけですから、その部分はわかりやすい
というメリットがあります。このメリットを追求しようとしたのが今回の提案だと
私は理解しました。
ただ、具体的秩序を求めて同種の規則を具体的内容にそくして繰り返すとなる
と、法典の規範の量が増大化します。例えば今回の提案でも公序良俗等々の法律行
為の内容を 2 回繰り返すということはその現れです。これを徹底していくとほかの
ところもそうなるはずですが、今回のご提案の場合、ほかのところには単独行為と
か法律行為の規定を準用するという形になりました。そういう準用規定を置くこと
で、その膨大性は一定の範囲にとどめられていますが、この他、時効のところでも
同じ問題が生じると思います。
このような発想の結果として何が起こるかというと、例えば物権法のところでも
物権の放棄というような法律行為があります。あるいは相続編でも遺言等々の法律
行為があります。こういった問題について単純に準用とすると、いわば民法の中程
に規定された契約編が、総則的機能をもち、その前の物権法やその後の相続法で準
用されるという、なか膨れの非常にいびつな形になります。要するに、具体的秩序
思考を全面的に貫徹すれば、同一規範を繰り返し規定して民法典が膨大なる。また、
具体的秩序思考を契約にだけ貫けば、民法典では中間に規定された契約の条文がそ
の前や後で準用され、なか膨れで、民法典の形がいびつになる。このようなコスト
を、ご提案の具体的秩序思考は払わなければならない、と私は思います。前に日経
の記事を読んだときに、民法が 2,000 条以上になるといわれているのをみて、一体
何をお考えか、私はその時点では理解できなかったのですが、おそらくこの具体的
秩序思考を追求していけば、そういう膨大な法典にもなるのだろうと思います。
現在の日本民法は、パンデクテン方式をとっているわけですが、このパンデクテ
ン方式は、問題を抽象化して総括的に規定していきますから、規定の数がコンパク
トになります。抽象化したことによるわかりにくさはもちろんあるのですが、その
反面、コンパクトになることの透明性があるわけです。
要するにメリットとデメリットは裏腹で、このパンデクテン方式は抽象化するこ
とによって、コンパクトな透明性を追求する代わりに具体性を欠く。それに対して
今回の提案は、一定程度まで具体性を追求して条文の数を増加させる。しかし、過
渡に増加させないために契約のところに総則性を持たせて形をいびつにする。この
ような形のご提案なわけです。要するに、現行法とご提案とはメリット、デメリッ
トが裏腹になっていると思います。
かりにわが国が、民法をはじめて制定するのであればどちらにするか。つまりコ
ンパクトな明析性を追求して具体性を犠牲にするか。あるいは規定の数を増加させ
て具体性を確保するかわりに、民法典の透明性を犠牲にするか。それはある意味で
好みの問題だと思います。どちらを好むかは、ある意味で国民が最終的に選択する
ことですけれども、一種の選択問題だと思います。しかし、我々が現在しているの
は民法の改正です。はじめての民法制定ではありません。
そうすると一体何のために我々は民法を改正するのか。これを考えなければいけ
ない。これが最初に申し上げた「そもそも論」になります。私は今年の 10 月 13 日
の私法学会のシンポジウムで、民法の改正試案を示しました。そのときに改正試案
を示すに先立って基本方針を述べました。それは長くなるので繰り返しませんし、
判例タイムズの新年号(1281 号)で述べましたのでそこをみて頂きたいのですが、
その中の 1 点だけはここで述べさせていただきたいと思います。
それは民法の改正を考えるときには現実的でなければいけないということです。
論文と立法は違う。論文は自由奔放に書けばいいけれど立法は自由奔放にやっては
いけない。いい論文には独創性が必要ですが、いい立法には現実性が必要です。論
文を書いてもその内容を好まない人はその立場をとらなければいいけれども、立法
はどんな人もそれに従わなければならない。立法というのはいわば権力に裏打ちさ
れたものです。その分だけ論文を書くときとは違った自制が必要です。これを私は
申し上げたいと思います。
もう 1 つ申し上げると、私はこの委員会に先立つ 1 年前に民法改正研究会という
のを立ち上げて、仲間たちと民法の改正作業に携わっています。その初回に私が申
し上げたことは、民法の基本枠組みをいじることによって国民に、あるいはそれを
使っている法曹に無用な混乱を与えることはやめよう。そういった社会的コストを
最小限に抑えながら民法の改正を考えようと、参加者に申し上げました。このこと
は、今年 3 月 1 日、2 日に私たちの民法改正研究会が主催した国際シンポジウムが
あって、ドイツのリーゼンフーバー先生がおっしゃった「壊れていないものを修理
するな」という考え方に結び付くと私は思っています。
いまは、法律行為のことを中心に申し上げましたが、ここでもう 1 つ大きな問題
として時効があります。今回の提案では時効が総則から移されて物権と債権に分断
された形になっています。これもある意味で具体的秩序思考の現れだろうと私は思
います。その結果どういうことになるかというと、民法の取消権等の形成権の消滅
時効がどうなるか。あるいは相続回復請求権の消滅時効がどうなるか。それぞれの
ところに具体的な規定が置かれれば問題は解決されますけれども、その代わり条文
の数は膨大になります。そういった意味で、ここでもパンデクテンの抽象的思考を
外したことのマイナスの側面も現れている。具体的思考によるプラスの側面もあり
ますけれども、さっきのプラスマイナスが裏腹だということはここにも現れている
わけです。
この委員会で、今回に限らず私はかなり発言していて、その中にはご提案に対す
る異論も多かったことは十分自覚しています。しかし、私はこれまで基本的に再考
を促すという意味で異論を申し上げることはありましたが、反対と申し上げること
は避けてきました。これはこの会議を混乱させることを避けたいと思ったからで
す。今回、これだけの労力をかけて提案なさったことについて甚だ僭越ですけれど
も、法律行為と時効を民法総則から移す総則の考え方について、私は、最初に、是
非再考をお願いしたいと思います。私は会議を混乱させることは避けたいと思って
いますが、このような提案がなされることによって、社会的混乱が巻き起こされる
と私には思えて仕方ありません。社会的混乱をとるか会議を混乱させることのいず
れをとるかと言われたら、社会のために、私は最終的に会議を混乱させる道をとら
ざるを得ないので、是非、再考をお願いしたい。最後までこの提案が維持されるの
であれば、私は最終的には反対の立場をとらざるをえません。
○鎌田委員長 とりあえず、ご意見を全部伺ってからということにしたいと思いま
す。廣瀬先生、よろしいですか。
○廣瀬委員 私は最後のほうがいいかと思ったのですが着席順ということですので。
議案1についての消費者・事業者の位置づけは、私も基本的にこういう方向はよろし
いのではないかと思っています。関連して若干気になったところを述べさせていた
だきます。議案1の1について消費者取引と事業者取引という概念がありますが、消
費者取引の方は、おそらく消費者契約法と同じように事業者・消費者間のものであ
り、事業者取引の方は事業者間だというと、それ以外の消費者間取引の話はいろい
ろ問題にはなるだろうけれども、とにかくここではそれも基本的なものを含むとい
う割に緩やかなというか、緩やかかどうかそこはちょっと問題はありますが、そう
いうものをとにかく入れるという方向で、つまり消費者双方の取引は当然入ってい
るのであろうと理解しました。それを特殊なものとみるか、まさに民法一般の契約
の典型とみるかなど、いずれにせよ検討するのはいいことだと思っています。
2番目は提案をまとめてというのですが、報告のときは規定という言葉を使われま
した。これは提案をまとめて独立に配置するということですか。小さいことですが、
その辺が気になりました。まとめてというのは、かなり大きな意味でまとめてとい
うことではないでしょうから、これも賛成です。ただ、それぞれの中身については
まだ議論があるのは留保できるのだろうということで、特に前回のメモの話と今回
の提案の話と、若干、これはというところもありますから、それは留保させていた
だきます。
議案2に関しては、加藤先生の言われたことについては私は明確な発言は避けます。
加藤先生のご意見もあり得ると思いますが、かなり微妙なところもあるように思い
ます。もう1つ私としては債権法の通則と契約法との関係に関して若干の疑問があり
ます。それは今回は契約を中心としてということで、資料の1で言えば民法第3編債
権第1部で契約および債権一般として、次に契約といくわけで、法定債権を含めた債
権の一般的な通則というのはあえて置かないわけです。この点はそれでいいのか、
もう少し検討の余地があるのではないかという気がしています。
また、契約に基づく債権のところの基本原則で、どんなものを盛り込むかという
ところとも関わると思いますが、ここと各種の契約との関係、あるいは債権総論に
当たるものとの関係で私が気になっている点は、特に債務不履行責任の一般的な要
件に関し、少なくとも役務型などの一定の契約類型では要件を区別すべきではない
かという問題意識がありますので、その辺が、ここの考え方では、まずは契約及び
債権一般というところで通則的に述べた上で、あと各則ではさらに分けない。ただ
並べるということでしたから、前から言っている要件論あるいは効果論のところで、
それでいいのかなという疑問は残っています。とりあえずそれだけにしておきます。
○鎌田委員長 池田先生、お願いします。
○池田委員 私は今日は、かなりじっくりと発言をさせていただかなければならな
いと思って参りました。まず議案1と議案2を分けて発言したいと思います。議案1、
「改正民法典は消費者取引や事業者取引に関する私法上の特則のうち、基本的なも
のを含むものとする」、これだけを読むとそんなに問題はなさそうにも思いますが、
しっかりここのところもその心を聞いておきたいと思います。
この点については、ご承知のように世界でもなお両論があるわけです。先ほども
加藤先生がお話になった今年3月の民法改正国際シンポジウムは、加藤先生のグルー
プが主催し私が司会をしたものですが、ここでもオランダ代表のハートカンプ教授
は、消費者法や商法までも民法典に取り込もうとするオランダ民法典の立場を説か
れたわけです。
一方、2005年に公表されたフランス債務法改正案をまとめたご本人である、フラ
ンス代表のカタラ名誉教授は、なお民法がニュートラルなものであるということを
強調されまして、民法典に消費者法を決して取り込まず、商事法的な処理ともはっ
きり区別するという、同教授の見解を明瞭に述べておられました。その後、私は個
人的に会話をしてその立場を確認したところです。こういう考え方も世界にはある
わけです。
そこで1点、お尋ねしておきたいのは、先ほど大村先生は普遍的な「人」の間の取
引を原則とするのだということをおっしゃいました。これは内田さんがNBLに書かれ
ているところですが、一方に民法の商事化、取引法化という問題があるわけですけ
れども、もう一方で、本来、民法が扱う市民としての自然人も消費者という色の付
いた人が主となり、取引の世界に登場する登場人物が、多くの場合、商人か商費者
かという色付きの人になったとき、民法の想定する人の意味も変化せざるを得ない
と書かれておられる。
それは決して間違いとは思いませんが、準備会、幹事会の皆さんは、民法典の改
正にあたって、現代の民法の対象とする人たちは結局、普遍的な「人」というもの
による取引は少数である。中心は既に消費者や事業者という、色の付いた人たちの
取引なのだという認識に立っておられるのかを、私の発言の後でお答えをいただき
たいと思います。私はカタラ教授の言う、民法はニュートラルなものが中心という
意識で民法を勉強してまいりましたし、今でもそういうものだと思って教育をして
います。
そうすると、改正民法典は消費者取引や事業者取引に関する私法上の特則のうち、
基本的なものを含むものとするというのは、世界の流れからすると、ここまではい
いのではないかというご意見が多いかと思いますが、心として確認しておきたいの
は、取引の世界以外にも民法というものがきちんとあるというか、取引の世界以外
から民法は始まっているのだということです。個人対個人の境界紛争があったり事
務管理があったり、取引以外のところでの親族、相続の話があったり、こういうも
のとしての民法の基本イメージというものを私は維持したいと思います。
申し上げたいのは、次の議案2に対する私の発言につなぐ部分ですが、今回、我々
は民法(債権法)改正検討委員会というのをやっています。私はこれは民法の中の
債権法の改正検討委員会であって、民法を債権債務法にしようというものではない
と思っています。皆さんもそういう意識でおられるのだと思いますが、そこのとこ
ろは確認をしておきたい。債権法以外は、ここで議論してきた消滅時効等を除いて
原則として対象外というお話ではなかったのか。
先ほど大村先生は、今回の議案2の改正民法典の編成のご提案は、総則編を決して
解体するものではありませんとおっしゃっておられるけれども、総則編の中身をか
なり実質的に債権編というか、そちらに動かそうとしておられる。我々は、特に幹
事会の皆さんは、より謙虚になるべきだと思います。つまり現在、我が国では一方
で民法(総則)改正検討委員会というのが走っているわけではありません。私はカ
ウンターパートとしての別の分野の検討委員会が走っているならば、両方で自由に
提案を持ち出して審議会なり何なりで決めていただく。これはフェアであろうと思
いますけれど、カウンターパートのないところで民法(債権法)改正検討委員会が、
このような形で総則に置いてある条文を債権編に取り込むというのは、私はするべ
き議論ではないと思います。
具体的に申し上げると、まず代理のところで今回の議案2に対する私の意見ですが、
代理は議案では債権編のほうに入ってくるわけです。第3節の契約の当事者というと
ころに入ってくるのですが、私が申し上げるまでもなく、代理というのは任意代理
と法定代理があるわけです。法定代理というのは、これも言うまでもなく個々の契
約の出現する前に既に存在している話です。いくら契約を中心にして並べ替えよう
とおっしゃっても、これは現在と同じく法律行為の後に付けるべきものではないで
しょうか。先ほど紹介したオランダでさえ、法律行為と代理はセットにしてたしか
並べて規定していると思います。
時効についても、これは、ここで特に消滅時効についてはいろいろ議論してきた
ところですけれども、今回の提案だと物権のほうに取得時効および消滅時効を置き、
債権のほうに消滅時効を持っていって総則からは外すということです。結局、それ
はいまの民法総則が持っている物権債権に共通の規則を、まとめて総則で規定して
いる効用を否定する。それは総則編のメリットを失わせ、その意味で総則編解体で
す。総則編のメリットを失わせる提案ということです。だから私は、この辺は慎重
かつ謙虚になるべきだろうと思います。それは代理についても時効についても、こ
ういうふうに移しますということでそれなりの説明は付くでしょう。しかしそれが
今回やるべきことかということです。
こういうことまでは、どうお考えになったのかわからないけれども、この提案の
ような民法典を大学のカリキュラムの中で授業するときには、どんなカリキュラム
編成になるのか。そういうことはどういうふうにお考えになって、こういう提案を
されているのか。先ほど加藤先生からは、市民に対しての混乱を引き起こすという
話もありましたけれども、そういう民法典の教育ということも考えて提案はされる
べきだろうと私は思っています。個々にまだ申し上げたいことはありますが、以上、
私のとりあえずの意見とさせていただきます。
○鎌田委員長 ご説明を求められた部分がありますが、たぶん類似のご意見も出て
くると思うので一括してお答えさせていただきたいと思います。瀬川先生、お願い
します。
○瀬川委員 議案1ですが、私は基本的には賛成したいと思います。確かに池田先生
のおっしゃるような考え方もありますが、消費者取引を民法の中に入れることにつ
いて、消費者取引の中にもいろいろなものがありますけれども、いま具体的に提案
されている消費者契約法の部分というのは、民法の中に入れていいだろうと考えて
います。
どうしてかと言いますと、1つは、確かに普遍的な「人」という考え方に基づいて、
今の民法典は18世紀末から19世紀、20世紀にかけて作られたものですけれども、そ
れはその時代の普遍的な人であって、今の時代の普遍的な人というのは、たぶん今
の現実を踏まえながら考えていかなければいけない。民法の中で消費者契約法の部
分を落としてしまうと、相当部分が現実離れした契約法になってしまうと認識して
いるからです。
消費者契約の部分と言ったのは、例えばクーリングオフというのは当事者の個々
の契約において、消費者の方もよくわかっていても8日間なら8日間の期間の間に取
り消すことができるというものですが、それは売主と買主の間の均衡、バランス、
公平を考えた制度ではなくて、おそらく大量販売システムを考えて作られた法制度
です。これは民法に入れることは適しません。しかし、消費者契約法というのは、
不実告知、断定的判断等の売主側の行為と、それによる誤認等の買主側の状況との
バランスで作られた制度です。これは民法の考え方の中に取り入れていいものだと
考えるからです。どの辺で線引きをするかというのは、例えば民法の中にも中途解
約の規定が委任のところにありますし、個々の規定に即して考えなければいけませ
んが、いま提案されている部分については構わないと私は思います。
基本的にはそういうことですが、自分自身もまだ決めかねているのは、事業者の
ほうは事業者概念として定義を置いていいと思いますけれども、消費者取引のほう
を消費者というところで捉えていいのかというのは、まだ決めかねています。とい
うのは、事業者のほうは契約をする人の属性として捉えることができますけれども、
消費者のほうは人の属性というよりも、取引の意図あるいは企図の属性ですので、
むしろここで言うと消費者取引とは、事業活動または職業活動以外の活動のために
締結される契約という形で捉えたほうが、いま考えられている具体的な規定の提案
ともマッチするのではないかと思います。
議案2のほうですが、私は今回の改正の出発点である国民にわかりやすいという観
点から言うと、総則のところから契約のほうに移すというのは、出発点には適合的
な改正方向だろうと思います。加藤先生がおっしゃった社会的混乱、あるいは池田
先生がおっしゃった教育上の見通しの悪さというのは、もう少し具体的にご説明い
ただければと思います。
ただ、個々の問題で代理についてですけれども、私はこの位置がいいかどうかと
いうのは問題で、代理というのは総則に残すべきものではないかという気もしてい
ます。というのは、代理というのは契約のところに下ろすと多角的な契約関係にな
るので、契約という観点からは当事者のところに下ろせるものではないように思う
からです。もう少し検討が必要なのではないかと思います。
○鎌田委員長 野村先生、お願いします。
○野村委員 最初の改正民法典における消費者・事業者の位置づけについてという
のは、基本的に賛成したいと思います。以前に包括根保証に関する民法の改正のと
きに、たしか法人を除くという条文になっていたかと思いますけれども、実質的に
個人保証と事業者保証、すなわち事業者間取引と消費者取引を区別するような内容
になっているということで、民法は私法の一般法であるという基本的な観念からす
ると、矛盾するのではないかという批判を受けたことがあります。しかし、オラン
ダ民法やドイツ民法などを見ると、新しい民法概念というのがだんだんできている
のではないか。そういう観点から日本で改正を考えるとすれば、こういう方向も考
えていいのではないかということです。
大村さんの先ほどの説明では、基本原則を取り込むということなので、具体的に
どういう条文が入るのかというところで検討が必要かなと思っていますが、消費者
取引については、これも全くイメージですけれども、どちらかというと、むしろ民
事一般ルールとして取り込めるルールがかなりあるのかなと思っています。もちろ
ん消費者取引特有のルールとして規定すること、あるいは事業者間取引特有のルー
ルとして規定するというものが入ってくることもあろうかと思いますが、基本原則
という観点であればいいのかなと思っています。
2番目の改正民法典の編成についてということで、特に法律行為についての規定が
債権編のほうにかなり移されるということですが、現行法は総則に規定しているこ
とのメリットもかなりあります。例えば遺言について民法の総則が適用されるのか
どうかというのは、日本では理論的に言えば形式的にあまり問題にならない。フラ
ンス法などではかなり議論があって、しかし、遺言について全く規定がなく契約の
規定を類推することが行われているわけです。そういった議論を避けられることは
あるわけですが、日本でも相続の放棄承認については、総則の規定によって取り消
せるという規定をわざわざ置いているわけです。そういう点を準用でということで
すが、準用されるべき規定の範囲がうまく書けるのか、ちょっと危惧を感じていま
す。契約に関する規定と言っても、現在の93条~96条だけではなく、もうちょっと
広い範囲の規定が準用されるということだと思いますので、これはかなり技術的な
問題です。
もう1つ、逆に契約以外のところで別に規定することも考えられるのかなと思いま
す。例えば遺言について、解釈については多少違った扱いをする必要があるのかな
と考えています。そうであるとすれば、わかりやすさという観点からすると、書く
場合の特性を考慮して別途規定するということも考えられるかと思います。ただ、
それはそれでいろいろ難しいところがおそらくあって、全く準用規定というのをな
くして、全部について、個別の規定を設けるということは事実上、たぶんできない
と考えられます。そうなると、準用される場合と独自の規定を持っている場合とが
混在することになって、その辺の理解しやすさという点からすると、多少問題があ
るかもしれないと思います。ただ、そういった方向も、一応検討に値するのではな
いかと思っています。
それと、これは全体としての感想の域を出ないのですが、例えば不当条項のリス
トを規定するということについては、これはかなりテンタティブな考えですけれど
も、フランスでも30年ぐらい前から議論としてはあって、グレーリストを条文化す
るということも行われているようです。それは1つの例ですが、かなり細かなところ
まで規定を置くということになると今後、かなり改正を頻繁に考えていかなければ
いけないということになってくるのではないか。先ほど大村さんも持続性と包括性
というお話をされましたが、そういった覚悟が必要なのかなということで、これは
感想です。
○鎌田委員長 河上先生、お願いします。
○河上委員 私は遅れて参加したこともあって、少し遠慮しながら話を聞いていた
のですが、基本的にこの債権法改正の原案というのは、事業者法を作ろうという発
想で作られているとしか思えないですね。民法で一体何を規定しようとしているの
かということについての基本的なスタンスが、どうも違うのかなという気がします。
個人的には加藤先生や池田先生のご意見にシンパシーを感じています。
大村さん自身がおっしゃいましたが、民法というのは市民社会の基本ルールを定
めるものだとなれば、そこでは個人で、ある程度互換性のある人間の間で取引がな
されたときの権利義務の分配を、きちんと定めておくということであって、さらに
それの再配分を組み込んだ特別ルールというのは、民法の持っている基本的な価値
を非常に不透明なものにする気がしてならないのです。その意味では、消費者法と
いうものを民法の中にそのまま無造作に組み入れることに対しては、私はどちらか
というと懐疑的な考えを持っています。
消費者契約法の例えば実体法ルールというのは、あれは実際は民法の詐偽、錯誤、
脅迫なんかの規定でそのままいけるものであって、あれは別に事業者・消費者と言
わなくても、あのルールは入れられるものだと考えていますから、それにふさわし
いものを民法の中で補充するということであれば、結構なことだろうというふうに
思います。
ただ、それを踏み越えて、例えば特別の条項について無効条項を定めるというこ
とであれば、それは別個に消費者契約法なりで機動性の高い法律にしておいて、消
費者基本法をトップに置いた消費者法体系のようなものを、別個に並べておくこと
でも構わないので、民法の中に消費者契約法を、とにかく実体法は全部入れるのだ
という言い方はしなくてもいいのではないか。当事者として考えれば、C to C、B t
o C、B to Bがあるとすると、基本的には自然人を中心にしたC to Cのところでまず
は考えて、事業者であってどうしても必要なものは事業者概念を立てて、民法の中
に少し特別ルールを置くということでいいのかなというのが、第1番目の問題に対す
る私の印象です。
民法典の編成や目次に関してですが、法律行為というのは残すと言われましたけ
れども、これは結果的には残していないですね。上手に説明されたので何となく騙
されそうになりましたけれども、90条と92条辺りまでを置いたからといって、それ
は法律行為論が残ったとは誰も言わないわけです。当事者の意思によって決定した
ものをできるだけ実現すると、法律効果として与えるというのが民法の基本的スタ
ンスだということであれば、それは契約であろうが、単独行為であろうが、合同行
為であろうが、それは法律行為と言われるものについて与えるべき効果として、考
えていったほうがいいというふうに思います。
そこを準用でやろうということですが、準用規定をいっぱい民法の中に入れて商
法みたいな状態にしていいかというと、商法の先生には申し訳ないですけれども、
それは見苦しくてしようがない。ですから基本理念は基本理念として、きちんと法
律行為と意思表示に関する考え方を打ち立てるのだったら打ち立てる。それが契約
法の一覧性を損なうというのであれば、契約法に独自の形で書いたって構わないと
思います。ただ、それは市民が本当に民法を読んで法律がわかる状態になるとは思
えないのです。ですから、ある程度段階を追った構造的な階層性をきちんと守った
ほうが、私はかえって市民が勉強するときもしやすいという感じがしています。そ
の意味で代理というあたりは法律行為の後ろに置くほうが、すっきりするのではな
いかということです。
時効は、これも見るからに場所が悪くて、物権のところに入って、しかも消滅時
効と何かがあって、それをまたさらにみんなが援用することをやるというのも、こ
れまた非常に気持の悪いことです。民法というのは、おそらくほかの法典によって
もずいぶん援用されているものですから、その意味では時間の経過によって法律効
果が発生したり、消滅したりするというルールについての一般ルールは、総則のと
ころへ置いておいて、あるいは時効法という何か別の場所を作って、そこに置くと
いう形のほうが、すっきりするのではないかという気がしました。
ほかにも細かい話で、いろいろ気が付いたところを申し上げたいのですが、最後
に継続的取引とか約款についての議論がありましたので、それだけ申し上げます。
これはもし置くのであれば契約総則のところに移してしまうということで、全体に
適用されるのであれば、契約一般のところへ回したほうが素直かなという気がしま
した。具体的なところはもう少しありますけれども、以上です。
○鎌田委員長 山下先生、お願いします。
○山下委員 商法も会社法になりますと準用規定を置かないで、逐一条文を立てて
いるので、これがまた条数が増えていいのかどうかという問題はあるところです。
商法の関係では議案1については昨年来、商行為関係のWGを作り、そこでは鎌田先生、
内田先生にご出席いただいて意見のすり合わせをしているところです。その他の準
備会とも問題ごとに必要があれば打合せをさせていただいています。議案1というの
はそういうものを集約していただいたところで、大体商法サイドも、これに異論は
ないということかと思います。事業者の定義とか、消費者契約法で言うような事業
者というのを一括してすべて規定するのか。また内部で企業的な事業者と、そうで
ないものを区別するか、そういう各論的な問題はあるかと思います。それは今後の
具体的な規定ごとの検討で処理されていくものかと思っています。
議案2については、私どもは特段の意見はありませんので、民法の先生方のご議論
に委ねたいと思いますが、今日のいろいろなご意見を伺った感想としては、民法で
抽象的な人一般を前提として規定を作るといっても、例えば相殺の規定のように世
の中で最も使っているのは企業なのであって、それを無視して民法の規定もできな
いだろうし、仮にそれを非常に抽象化してしまったような規定を作り、しかし事業
者のことを考えると何か特則が要るということになって、またそれが商法でやった
らどうだと言われても、商法も困るなというところです。理論的一貫性というのも
重要かと思いますが、ある程度現実的な妥協というのも一方には必要なのかなとい
う感想を持った次第です。
○山本(和)委員 訴訟法から賛成も反対も特にないのですが、ちょっと気になっ
たところだけをコメントさせていただきます。議案1の消費者のところで、消費者契
約法の実体法部分を民法の中に加えるということですけれども、そうすると消費者
契約法はご承知のように手続法部分というか、いわゆる団体訴訟の部分があって、
それが法律として割れるということになるのかなと思うのです。そのことの当否は
よくわからないところがあるのですが、将来、法律の改正ということを考えたとき
に、実体法部分と手続法部分がある程度密接な関連を持つとすれば、そこはうまく
改正作業がいくのかなというのがちょっと気になるところです。この分野は非常に
歴史の浅いところで、現実の変動も激しいところだと思いますので、その実体的な
規定と、そのエンフォースメントを合わせたような形で改正していくことが、必要
になることが多いのかなという想像もありますので、そのあたりはうまくいくよう
にということです。
ただ、これは法律が分かれるというより、むしろ所管官庁の問題かなという気も
するところで、それをこんなところで議論してもしようがないし、また民法だから
法務省が所管になると限った話でもないのかもしれませんが、そのあたりがうまく
連携がとれて、改正が円滑に進むようなことになればいいという印象を持ちました。
議案2の関係では、先ほど来出ている法律行為という概念で、これは私どもの分野
でもこの法律行為概念を模した形で、訴訟行為概念というのを作ったり、あるいは
行政法の分野でも行政行為という概念があるのだろうと思います。最近、そういう
議論は我々の分野でもあまり流行らないところがあるのかなという感じもしますが、
そういった分野の議論にどういう影響を及ぼすのか。法律行為の代理についての規
定が、訴訟行為についてどの程度類推されるのかという議論で、例えば表見代理の
規定が訴訟行為についてどの程度類推されるのかという議論があります。そういう
議論で、この代理が法律行為のところから契約の部分に移って、あとは準用という
話になったときに、何か違ってくるのかどうかという話があるのかなという気がし
ました。そのような点も余裕があれば若干、視野に入れてご議論をいただければあ
りがたいということです。
○鎌田委員長 角先生、お願いします。
○角委員 皆さんがおっしゃったことの繰り返しになるだけだと思いますが、私で
すから表現がえげつなくなるというだけです。それはご容赦ください。議案1は賛成
であり反対であるという、ほとんどコウモリのようなお返事になってしまいますが、
先ほど池田先生がおっしゃったように、議案1の1の「改正民法典は消費者取引や事
業者取引に関する私法上の特則のうち、基本的なものを含むものとする」という、
ここの意味だと思います。例えば消費者取引のうち消費者契約法の実体法ルールを
入れるという点については先ほど河上先生がおっしゃったように、この実体法ルー
ルは消費者に特有のものではない。民法が想定している人というのは、かつてのよ
うな賢くて強い人ではなく、どこかドジでのろまな人たちなのだから、それは普遍
的な人間同士の関係を規律している、だから、現在は、消費者契約法にあるが、民
法に入れるのだというご提案でしたら私も賛成です。
したがって、議案1の1は、まさに池田先生がおっしゃったように、ご提案のその
心はということです。民法における人について、フランス革命の洗礼を受けた後で
きた民法が前提にしていた人というものが変わったからこうなのか、そうではなく、
依然として人は変わってはいないが、特則として入れるということなのか。そこの
ところの説明が足りないので態度を決めかねるのです。もし、前者であるのでした
ら私は賛成します。
事業者取引に関する私法上の特則も、そういう意味では、いま、どんな人でもそ
んなとろいことはやっていないよねというのだったらば、それは民法に入れる。で
も、本当に事業者に特有なものというのは入れていいのか、どうなのか迷うのです。
ただ、山下先生がおっしゃったように、民法における人というのはこうですけど、
世の中に起こることは、かなりの部分が民法で考えている人からはみ出すものでも、
これは特則ですよという形で入れておくのも、ひとつの立場なのかなという気もし
ます。議案の1の1は、その心をお聞かせ願いたいと思います。
議案2は、はっきり言って反対です。先ほど河上先生がおっしゃったように、総則
編は残すとおっしゃっていますけれども、ご提案によると、総則編は解体以外の何
者でもないと思います。かつ、先ほど池田先生がおっしゃったように、いま民法全
体の改正が進んでいるのだったら、私はこの提案は提案として受け入れられますけ
れども、総則もやっていない、物権法もやっていない、家族法もやっていない。債
権法だけが進んでいるときに、総則のところに手を突込んで、そこについて誰もカ
ウンターパートで意見を言う人がいない。この債権法改正の委員会だけで、これか
らの民法の他のところがどのように改正されるかどうかわからないのに、他のとこ
ろの将来のかたちを拘束してしまうということになりますので私はこれは大反対で
す。私の表現がえげつないというのはそういう意味です。
法律行為に関する規定の位置づけで、第2準備会の方が作った資料が出ています。
まさに4頁から5頁にあるA案とB案の基本的な違いというところです。今回の編別の
提案というのは、民法の持っている体系性の考え方を変えるものではないとおっし
ゃっていて、提案なさっている方はそうかもしれないけれども、通奏低音としては
かなり今のパンデクテンの体系とは異なるものがあると思います。この提案は、は
っきり言って契約法の独立を主張していると思います。ただ、皆さんはとても賢い
方ですので説明が上手だというだけかと思います。
別の話ですが、さきほど、法律行為は契約のところに置いて、あとは他で準用す
るとおっしゃいましたけれども、まさにこれは加藤先生がおっしゃったように、す
ごく法典としてはいびつなのだと思います。法律行為というのは、人は自分の意思
に基づいてのみ拘束されるという、ある意味で非常に理念的なものが書かれている
わけで、それを契約のところに落とすというのは、法律行為を非常に矮小化するこ
とではないかと思います。それに連れて代理というのも、その意味では他人がやっ
たことでも、「あなた、それに拘束されることはありますよ」ということだと思い
ます。私の理解が間違っているかもしれませんが、そういう意味でいまの総則の置
き方というのは非常に上手に置いていると思います。
時効についてですが、この提案は、この前言われた債権の消滅時効については履
行拒絶権構成をするという前提で作ると、ある意味でこう書かざるを得ないかもし
れませんけれども、それ自体が本当に是か否かについては全く結論が出ていません。
それもありますし、かつ、この委員会でやっていない取得時効とその他の消滅時効
は物権に置くというのは、物権はバッファではないわけです。これは私の時効観で
言っているだけと言われればそれまでですが、時効は、時の経過によって権利の得
喪あるという形で、まとめて置くべきではないかと思います。
契約のところですが、契約の不履行のところでいわゆる履行請求、強制履行、損
害賠償という、今まで債権の効力として説明されているものが、ここに置かれてい
ます。ここに置くということは債権概念は維持するとおっしゃいましたが、もしか
したら債権概念の解体の第一歩を踏み出すことになるのではないかと思います。と
いうことで私は反対です。かつ、先ほど加藤先生がおっしゃったように、学者が自
分たちのプライベートな会として提案するなら、私は非常に素晴らしい案だと思い
ます。でも、いま我々がやっているこの会の位置づけというのはよくわからない。
最終的には民法の改正につながる問題です。
民法というのは、まさに明治の先人たちが日本の国家のために金庫を空っぽにし
て作ったわけです。100年以上積み上げて、これを前提にして取引社会が動いている
わけです。それを改正するのだったらば、何で改正するのかという根っこの議論が
必要で、先ほど加藤先生がおっしゃったように神学論争はやりたくないのですが、
それをやらずに進めてきてしまって果たしてそれでいいのか。かつ、何で改正する
のかと言われたときに説明できないのです。
私は、前に、友人のアメリカ人のlawyerと喋っていて、「何で改正するの」と言
われて「うっ」と詰まってしまったことがあります。少なくとも何で改正するのか
ということが、この会に携わっている人たちで納得できるだけのものがないと、こ
れはこのままいって大丈夫なのかというのが私の危惧です。もしもこの延長線上で
改正案が出たときに、どれだけ世の中からリアクションが出てくるかというのはわ
からないし、また、そのリアクションに対して、世の中は馬鹿だとは言えないわけ
です。法律の消費者は国民です。改正は国民のためなわけですから、責任感を持っ
てやらなければならないと思います。
前に別の研究会で、国の制度を作っていたときに座長の先生が、とにかくみんな
で飲めるところはここまでだという線を引いて、それでやりましょうと。それに個
人的に反対な人がいるのはわかるけれども、それは自分でどんどん論文を書きなさ
いということでした。前に大村先生が私法学会にお招きになった韓国の民法改正の
責任者の先生が、最後におっしゃっていましたけれども、国家的に大きな、国民に
対してものすごいインパクトを与えることをやって、その責任感の重圧で眠れない
ことがあるとおっしゃった。私は本当にそうだと思います。以上です。編別につい
ての提案には大反対です。
○鎌田委員長 安永先生にも伺います。
○安永委員 こちら側にいるのは準備会の方々よりは高齢であるが故か、あるいは
熱い議論に参加していないが故か知りませんが、比較的反対の方が多い。私はたぶ
んこの中で最高齢に近いと思いますので比較的似たような感想を持っているわけで
す。
提案は2つありますが、前者のほうについてはあまり抵抗感なく、たぶんこういう
のは可能であろうと考えています。商行為の部分については既に非常に綿密なすり
合わせがなされているということですので、これを取り込むことについては特に問
題はないかなと思っています。
消費者契約法ですが、確かにいろいろ問題はあると思います。契約というものを1
つのまとまりのある法典の形にするということであれば、契約の効力等について消
費者契約法というのは非常に大きな部分ですので、そういうものが民法典の中に取
り込まれるのは、一覧性という意味でもいいことかなと伺いました。参考資料を拝
見すると、比較的上手にそれは取り込まれているのではないかと思いました。ただ、
民事訴訟法の山本先生のご指摘のような点もありますので、本当はいちばんいいの
は双方の法典に同じ内容の条文が並んでいることかもしれませんけれども、法制的
に見ればそういうのは不可能かもしれませんので、そこらの取扱いを慎重に考えて
いただければと思っています。
第2の編別についてですが、先ほどこの基本的な考え方という資料2のペーパーを
拝見して、第1の2というところが結局、それに関わる部分です。「階層的な論理構
造と機能的な一体性の双方を視野に入れて編成するものとする」という、これが基
本的な編成についての考え方を示しているものだろうと思いますが、調整がうまく
いっているのかどうかということがまさに問題であろうと思います。非常に慎重な
考慮をした上で、こういう提案をなされているということを伺いました。しかし、
私も機能的な一体性というか、契約法として一体的なルールを作ろうという、その
理念のほうがやや勝っているのではないかというふうに拝見したところです。しか
も総則のある部分はなくして、契約法の中にその総則のルールを持ってきてしまお
うということで、契約法としては非常に見通しがよくなるというのはそのとおりで
すが、従前、総則として機能していた部分についての見通しが、逆に悪くなってし
まう恐れがないわけではないと思います。
表現はきついですが、契約法はよくなったけれども、あとは野となれ山となれと
いうところがないではない。準用という形で非常に上手に処理をするという提案で
すが、その準用の内容というものが必ずしも具体的には示されていませんので、そ
ういう準用という手法でやっていくということで本当にうまくいくのかというのが、
非常に大きな懸念になっているわけです。
総則というのは、物権と債権の双方の編別の総則であったわけで、物権、債権、
親族、相続についての総則ですから、契約のところあるいは債権編のところに総則
規定を下ろしていって、それをそれぞれの部分においてそれを準用することで足る
のか。また、民法についてだけの総則ではないという面もあり、それ以外の法領域
についての総則の働きについては、準用という手法でうまく処理ができるのかとい
うことも気になるところです。
例えば時効などを例にとると、債権編での時効の部分と物権編での時効の部分と
いうことで、一応、2つに分かれて、共通する総則的な部分というのはそれぞれに置
かれるということのようですが、しかし、本当にそれで済んでしまって、物権、債
権の領域を見るだけで、時効に関する問題というのはすべてうまく処理できるのか
というのが疑問になるところです。例えば農業委員会に対する許可申請についての
時効の問題などは、10年なのかどうなのかというのは、物権のところを見ないとわ
からないということであれば何か非常に違和感があって、そういう意味では総則か
ら外していく場合に、さっきの話になりますが準用を上手にやらないと、どこかで
穴が空いてしまうことになる。だから、契約に焦点を合わせていろいろな法制の整
備ができるということですが、光が当たらないという部分が必ず出てくるわけです。
つまり総則から外していくということになれば光が当たらない部分が出てくるわけ
で、一体、どこに光が当たらなくなるのかを慎重に見極めないと、穴が出てくると
いうことではあると思います。
もっとも、反対論のような議論をしていますけれども、必ずしも全面反対という
ことではなくて、総則から外していくことも1つのあり方だと思いますから、光が当
たらなくなる部分について慎重に見極めていただいて準用という方法で処理するの
か、あるいは重ねて規定を興すのか、そういうところを具体的に示していただけれ
ばと思います。
条文の数が増えるという問題は二次的な問題だと私自身は考えていますので、そ
れぞれの問題について類似の条文が重なっても、それは構わないのではないか。む
しろ準用というよりは、それぞれ必要な規定を、それぞれの分野について立てなけ
ればいけないのであれば、立てたほうがいいかなというふうに考えています。そこ
らのところを具体的な提案を見た上で判断していきたいと考えています。抽象的な
話で申し訳ありませんが、以上です。
○始関委員 いま、全体会議の先生方からいろいろな問題点のご指摘があったわけ
ですが、おそらく述べられるべき問題点はほぼ述べられたのかなと思って聞いてい
ました。しかし、そういう問題点というのは、おそらく幹事会の先生方の間でも十
分議論されて、その上でこういう提案になっているのだろうと思いますので、先ほ
ど加藤先生がメリットとデメリットは裏腹だとおっしゃったのはそのとおりですが、
それをどういうふうに整理するのが、よりメリットのほうが多く、デメリットが少
なくなるかという問題かと思います。それについて十分検討された上で、こういう
提案がされているのだろうと思いますので、それはそれでひとつの考え方であろう
と思っています。
加藤先生から、改正であるということに留意する必要があるというご指摘があり、
それはそのとおりだと思っています。国民、法曹に無用の混乱を招かないようにす
る必要があるということもご指摘のとおりですが、いまの段階で、このメンバーで
法曹にどういう影響があるか考えても、肝心の法曹はほとんどいないわけですから
仕方がないことです。また、加藤先生が、ここでの提案というのは非常に大きなも
のなのだから、慎重にならなければいけないと言われましたけれども、必ずしもそ
のようにお考えいただく必要はないのではないか。つまり、もしもそういうもので
あるならばそれは法制審議会で議論すべき事柄であり、今後、この債権法改正検討
委員会の出される試案も1つの重要な参考資料としながら、そしてまた他のいろいろ
な学者グループとか、加藤先生のグループもそうですが、そこが出された試案など
も参考資料としながら、実務界の人たちにたくさん入っていただいて、法制審議会
で相当時間をかけて議論することになると思っています。この研究会はあえて実務
家を入れておられないわけですから、実務家がどう考えるかとか、あまり先読みす
るのでなく、学者としてどうあるべきかをお考えいただくということで、それはそ
れでいいのではないか。それでできあがった試案が駄目なものなら法制審議会で駄
目だと実務家は言いますから、それで潰れますし、それはそれでいいのだろうと思
います。ですから加藤先生、あまり向きになっておっしゃらなくてもいいのではな
いかと思います。
実は私、この間、同期会があって同期の弁護士の何人かと話をする機会があった
のですが、弁護士会の一部は非常に重大な関心を持っています。しかも自分たちが
この中に入らせてもらっていないということについて非常に不安感を持っています。
加藤先生が言われたような捉え方をしている向きがあって、それで余計不安がって
いるわけですが、私はそのときに、この債権法改正検討委員会は学者の先生方のご
議論だけど、その後に法制審議会で弁護士会の意見を述べてもらう時間が十分にあ
るから、どんなものが出てくるか楽しみに待っていれば、それでいいのだという話
をしていますので、そういうものとしてご議論を深めていただければと思います。
さて、今日の議題は2つあるわけですが、まず第1の点です。今述べましたような
この検討委員会の試案の意味から言えばこういう提案は考え得る提案だと思います。
ただ、山本和彦先生が言われましたが、訴訟法の規定が消費者契約法にあるという
問題と所管省庁の問題があることはお含みおきいただいた上で、学者として考える
あるべき姿をご検討いただければと思います。
次に、編別構成ですが、いろいろなご議論があってそれぞれ一理あるお話だと思
いますので、それも踏まえてこの案が出ていると思っていますから、私がとやかく
申し上げることはないのですが、1点、今日のご議論でも出ていた準用という問題が
あります。準用については会社法をご覧いただくと、先ほどもご指摘がありました
が、会社法には準用規定がほとんどないのです。なぜそうなったのかお話をしてお
くことが、これからのご検討の参考になるのではないかと思います。
会社法というのは、法人に関する基本法的な性格があり、他の法律において会社
法の規定というか、元は商法の会社編の規定がたくさん準用されてきたわけです。
昔は、準用ということについて非常に大らかだったのですが、会社法制定の際には、
準用規定の準用、つまり孫準用は基本的に許さないという方針で審査が行われたよ
うです。そのために会社法の規定は、ほかの法律でものすごく準用される。商法が
そうですから会社法もそうなるわけですが、準用規定の準用は許さないという観点
で、会社法内での準用はさせない。そうすることによって、ほかの法律に会社法の
規定をそのまま準用できるようになるということが考慮されて、書き下ろしになっ
たわけです。
民法の規定は会社法ほどにはたくさんの法律で準用されていないと思います。準
用が問題になるところがどのくらいあるのかにもよりますが、元の規定をほかの法
律に準用するという方法で処理することも可能ですので、そこはもう少しいろいろ
な法律でどの程度準用されているのかを調べなければなりませんが、会社法の場合
のように多数の法律において準用されているとするならば、いまご提案のような準
用で切り抜けることはできないことになる可能性があることを、申し上げておきた
いと思います。
個別のことはあまり申し上げたくないのですが、時効の点についてちょっと気に
なったのは、その他の消滅時効と取得時効の規定を物権編に置くということですけ
れども、そうすると不動産賃借権の時効取得についてどうするのか。参考資料とし
て配付されたものを見ると、賃借権のところに不動産賃借権の時効取得の規定がな
いように見受けられましたので、それをどうお考えなのかなというのが、細かいこ
とですけれども気になりました。
大村先生から、さらに考えなければいけない問題として資料1の5頁の第16章で「継
続的契約」という言葉が、これでいいのか。あるいは場所がこれでいいのかという
お話がありました。そこで説明がありましたように、他の契約類型と異なって、類
型は横断的に適用されるものだということであるならば、そのことが少なくとも章
の見出し、章名に、もう少しはっきりわかるほうが、よろしいのではないかという
気がしました。とっさに思い付いたことですけれども、継続的契約に関する特例と
か特則とか、そういう用語を使えば、15章までに書かれているものの特則を16章で
定めているのだということが、少しはわかるかなという気がしました。別のところ
に置くという選択肢もあると思いますが、パッと考えたところ、なかなか難しいの
かなという気がしました。以上です。
○鎌田委員長 ありがとうございました。いろいろなご意見を頂戴しましたけれど
も、ここの内部でのコンセンサスと同時に、始関さんのお話にもありましたけれど
も、学界全体の中でも意見が大いに分かれるところだろうと思いますので、基本的
な部分をしっかり時間をかけて議論しておく必要があると思います。時間的にはお
昼休みですので、ここで一旦、休憩にして、幹事会対全体会義委員というのでなく
全体の議論で展開していきたいと思います。とりあえずは、いま出された問題につ
いて大村さんからご説明をいただくことで午後は開始したいと思いますので、よろ
しくお願いします。
(休憩)
〔大村委員からの補足説明〕
○鎌田委員長 再開させていただきます。午前中にいろいろ有益なご意見と併せて
ご質問も頂戴しましたので、まず全体について基本的な事柄に限ってということに
なろうかと思いますが、大村さんからご説明をいただいて、その後、項目別に議論
をしていくことにしたいと思いますので、よろしくお願いいたします。それでは大
村さんよろしくお願いします。
○大村委員 午前中はどうもありがとうございました。たくさんの異論が出るだ
ろうということは覚悟してまいりましたけれども、非常にたくさんのご意見なら
びにご質問をいただきました。これはあとでのご議論についてのお願いなのです
が、ご意見の中には一致されている点と不一致の点があろうかと思いますので、
個別の問題ごとに仕分けてご議論をいただければと思っております。どこかがお
かしいので全体に反対ということですと、反対がたぶん多数を占めることになる
と思いますので、その辺についてご配慮をいただければと思います。
いまのことと関わりますけれども、基本的なスタンスについてどう考えるのか
ということを議論していないではないかというご議論がありましたが、そこを議
論していただいた上で、具体的には今回目次を提案していますので、目次の部分
をどこをどのように改めたらいいのかご意見をいただければと思っています。こ
れは私の一般的な希望でございます。
たくさんのご意見のすべてにお答えできないのですが、2、3 のことを申し上げ
たいと思います。まず 1 つは今回のこの案について、たぶん先生方のリップサー
ビスかもしれませんが、「白紙から考えるのならばよろしいかもしれないけれど
も」というようなコメントをしていただきました。しかし、改正案としては反対
だというご趣旨でしたが、この案は改正案として準備をさせていただきました。
ですから、白紙からということではなくて、白紙であればさまざまな可能性があ
るわけですが、そういうことではなくて、あり得る範囲内で何ができるかという
ことで考えております。「学者としては面白い意見を言うのもよろしいけれども」
というご意見もありましたが、便宜上私が今日ご報告いたしましたがこれは私個
人の意見ではありません。おまえの意見を言えと言われればこれと別な案もござ
いますが、そういうものではないということを、まず申し上げておきます。
それらのこととも関わるのですが、加藤先生はしばしば、壊われていないもの
を改正する必要はないのではないかとおっしゃります。確かに、契約に関するル
ールの現在の規律の仕方について我々は慣れております。先ほども申し上げまし
たが、契約法というのは、頭の中で、どことどことどこにルールがあるのかとい
うことを組立てられるわけなので、それで不自由はないと感じるわけです。しか
し、それは果たして壊われていないということになるのかをご検討いただければ
と思います。
今回のこの案は、あるいは突然の提案のような印象を持たれた方もいらっしゃ
るかと思います。こんなこと我々はいままで考えていなかったではないかとお感
じになった方もいらっしゃると思います。ですが、それは民法の全面的な改正に
ついて、我々が考え始めたのはここ数年のことだということに由来するところも
大きいだろうと思います。
池田先生のご質問・ご指摘の中で、教育との関係をどう考えるのかという点が
ございました。非常に重要なご指摘だと思っております。出来上がってみないと、
どのように自分の授業を組立てるのかということは想像がつかないところがござ
いますが、それとの関連で申しますと、この案を提案する際にはこれまで行われ
てきた講学上の工夫というものについては十分な考慮をしたつもりでおります。
民法典が出来ましてから民法に関する概説書、体系書、教科書類はたくさん書か
れております。もちろんパンデクテン式で法典が出来ていますので、パンデクテ
ンの方式にしたがって教科書が書かれるのが通常の姿であるわけです。しかし、
言うまでもないことですが、早い時期からパンデクテンの編成を崩した講学上の
試みというのがなされています。非常に日本的な特色なのではないかと個人的に
は感じています。それは法典としては現在のようなものを取り入れたけれども、
これを講学上説くためには、必ずしもこの順序がよくないのではないかというこ
とが考えられ、試みられてきたということだろうと思います。
戦前の末弘先生や穂積重遠先生に始まりまして今日に至るまで、程度の差はあ
りますが、民法典の編成から離れたさまざまな試みがされてきたわけです。もち
ろん民法典を維持した教科書という面もございます。加藤先生がおっしゃったこ
とですが、それにはそれぞれのメリットがあるわけです。長い長い日本民法学の
伝統の中に、法典と違う講学上の体系を工夫するという伝統があったのではない
かと思っています。
どなたかのご意見の中に、一般の人に民法典がどのぐらいわかるだろうかとい
うご指摘がありましたが、一般向けと言われるような民法の概説書を見ますと、
「契約」という形で問題を括っているものが極めて多いと思います。1 例に過ぎ
ませんが、例えば放送大学の民法の関係の教科書が何冊かありますが、それらを
見てみたところがすべて「契約」というような括りで問題を捉えているように思
います。そこにはそういうことが必要とされているという認識が潜んでいるので
はないかと思っております。我々のパンデクテンの伝統とは違うもう 1 つの伝統
をどのように組み込んでいくのかというのが、この点についての私の基本的な問
題意識でございます。これが第 1 点です。
第 2 点にお話を伺っていて、私の説明が不足していたと感じる部分がいくつか
ありました。何人かの方からは「人」に対する考え方や民法典に対する考え方を
示せと言われたのですが、これは大きな問題なので、すぐあとにとりあえず私の
考え方の一端を話します。それ以前の問題として、この目次案の説明そのものに
ついて足りなかった点が、特に 2 点あったと思います。消費者・事業者に関わる
私法上の基本的な規定を民法典に取り込むと申し上げました。それは消費者契約
法やあるいは商行為法の規定だと申し上げたのですが、具体的にそれらの規定が
どのような姿になって取り込まれるのかということについて「一般法化」という
言葉と「統合」という言葉を説明の中では使いましたが、それについて十分なイ
メージを形成していただくことができなかったのではないかと思っております。
「一般法化」と「統合」というのは、先ほど山下先生からお話がありましたが、
商行為とのすり合わせの中で出てきた表現ですが、一般法化というのは、当該規
定を人一般に適用されるルールとして書き直して、それを民法典に取り込むとい
う趣旨です。「統合」というのは、消費者なら消費者に適用される特則ではある
けれども、それを民法のしかるべき位置に位置づけるということです。
ここは角先生のご質問などにもかかわるところかと思いますが、例えば消費者
契約法について言いますと、実体規定が前半部分に置かれていますが、4 条の規
定、不当勧誘に関する規定、細かい話は私どもの管轄ではなくて第 2 準備会の管
轄なのですが、それらの規定の大部分と言ってもいいかもしれませんが、相当部
分は一般法化されるというのが前提です。それから商行為についても大部分と言
っていいかどうかはわかりませんが、相当部分は一般法化される。一般法化され
たものを民法に取り込むというのがまず第 1 の前提です。
これも角先生のお話で申しますと、場面によるわけですが、消費者に限らず取
引の関係において、ある程度の配慮をするべき場合はあるだろうし、別の局面で
は事業者に限らず迅速に対応すべき場合というのはあるだろうということで、一
般法化された規定を民法の中に取り込むことを考えております。
そうしたときに残る規定、一般法化には馴染まない、しかし、特則としては基
本的な性質を帯びた規定、例えば消費者契約法 4 条の中のある部分は、もしかす
ると、消費者に固有の規定として残さざるを得ないという結論になるのかもしれ
ませんが、それは一般法化されたルールに付随するものとして、民法典の中に統
合するということが考えられてよいのではないかということです。これは商行為
法についても同様です。これが最初の補足です。
それとの関係で、これもご質問ないしご指摘がございましたが、消費者を人の
属性として捉えるのではなくて、契約の局面において、契約の目的に着目してそ
の消費者であるということを勘案するという仕方がよろしいのではないか、これ
は瀬川先生からおっしゃっていただいたのですが、私もそういう発想に立って、
消費者ないし事業者を概念規定し、そして、それに関する特則を取り込もうと考
えています。これはあとで「人」に対する見方とも関わりますが、事実の説明と
してはそのように考えています。
債権編に消費者あるいは事業者の定義規定を置いたらどうかということを一言
申し上げましたが、これも人一般と併存するカテゴリーということではなくて、
人一般を前提にした上で契約法の中で、契約目的との関連で現れるサブカテゴリ
ーとして消費者ないし事業者を扱う意図から、債権編の冒頭に置くのはいかがか
と提案しているということです。以上が第 1 点でして、複数の方々からのご質問
は、この点が明確でなかったというところに起因するところがあるのではないか
と思いました。
もう 1 点、これも複数の方からご意見が出ましたが、結局これは法律行為とい
う概念を否定するものではないかというご意見がございました。否定するものか
どうかというのは判断が難しいところなのですが、私自身は先ほども説明の中で
申し上げましたように、法律行為の概念は必要だと思っていますし、これを維持
するという前提でこの案を考えています。ただ、受け止め方としては、これでは
法律行為の概念を否定することに通じないかという見方があろうとは思います。
その際の前提として、法律行為の基本的な考え方、法律行為の拘束力を契約の所
に定めるということになるのかというご批判があったかと思いますが、それはそ
うではありません。法律行為の拘束力、あるいは基本的な効力に関する規定は総
則に置くことを考えております。現在、法律行為の定義規定や効力に関する基本
的な規定はありませんが、第 2 準備会ではそれを用意されていますので、それを
まず法律行為の章の冒頭に置くことを考えています。ですから、少なくともその
限度では、法律行為というものの一般性は確保されていると考えているというこ
とを重ねて申し上げておきます。
残る大きな問題として、「人」に対する考え方とか、民法典に対する考え方を
示せというご意見が、池田先生をはじめとして複数の方から寄せられました。こ
れは繰り返しになりますが、ご検討をいただくのは差し当たりこの民法典の編成
ということでして、これから申し上げることは、それについての説明です。また、
私の個人的な説明に当たるところもあります。
横道にそれますと、先ほど内田さんは人を二分化していて、取引の世界にいる
人と消費者とに分けてお考えではないかというお話がございました。研究者とし
ては私は内田さんとは違う意見をもっていますが、この案がどういう発想で作ら
れているかについてのお話をしたいと思います。
これは申し上げたことの繰り返しになりますが、基本的には普遍的な「人」と
いうのを維持する。そして 1 つの民法典を維持する。何人かの方々がおっしゃっ
たように、取引社会の法として特化されたものではなくて、より広い市民社会の
法として、これを維持するという考え方に立っているつもりです。ただ、その際
に一方で抽象的な人の中身を拡張する必要があるだろうと思っています。それは
先ほどの消費者・事業者との関係で申しますと、一般法化によって達成されると
ころだろうと思います。また抽象的な人を拡張したとして、なお残る部分につい
て、抽象的な人を支えるためのルールとして消費者や事業者に関するいくつかの
特則が必要であろうと考えていますが、これは抽象的な人を補充・補完するもの
として必要なものだと考えております。具体的秩序思考の現れが強いというお話
がありましたが、いま申し上げたような限度では、具体的なものを取り込もうと
しております。しかし、繰り返しになりますが、それは普遍的・抽象的な人とい
うものを維持するためにそのことが不可欠考えるからです。
いま申し上げたことが差し当たりの答えなのですが、池田先生からはフランス
民法の話がありました。これはどなたかから必ず質問があるだろうと思っていま
した。「フランス民法は消費者を民法典の外に置いているではないか」というの
は確かにそのとおりです。そのことについてなのですが、私はこれについてはい
くつかの事情があると思いますし、それから、そのことと関連して、フランス民
法典について注意すべき事柄があると思っています。
1 つは先ほど一般法化及び統合ということを申し上げましたが、フランスの契
約法の一般理論のコアの部分は、もともとかなり広がりをもつ形で適用されてい
るのではないかと思います。例えば「合意の瑕疵」と言われるもの、森田さんな
どが論文をお書きになっているわけですが、ここの部分が実は我々が考えている
ような一般法化を行うような形で運用されているということがあって、だからこ
れをそのまま維持することが可能になっているところがあるのではないかと思い
ます。私どもも消費者契約法のある部分を一般法化すれば、それは民法の規定と
いうことになりまして、それでかなりのところまで対処できることになると認識
しています。
他方これも池田先生がおっしゃったことと関係があるかと思いますが、先方は
既に消費法典を持っているということがありまして、それとの関係でどのぐらい
の統合が図れられるかという問題と、それからこれは言っていいのかどうかはわ
かりませんが、消費者法の規定がヨーロッパからやってくる、EU からやってくる
ということに対するスタンスが 1 つ重要な問題としてあるのだろうと思います。
この辺りは私どもの前提とはやや違うところなのではないかと思っています。
もう 1 つ私どもと前提が違うと思うのは、これはいつか慶應で池田先生のご主
催でグリマルディさんがいらしたときに質問したことなのですが、先方の債権法
改正は、契約各則が対象になっていないのですね。「なぜなのですか」と聞いた
のですが、「契約各則を直すのが大変だから」というようなお答えでした。仮に
契約各則が対象になるということになりますと、また結論の出方というのは違っ
てくるかもしれないと思っております。これは最近のフランスの契約各則の研究
状況を見ますと、民事の契約に限らずに商事の契約も併せた形で、各種の契約を
検討するのが有力な流れかと思います。契約各則を再編するということになった
場合には、そのようなアプローチがとられるということがないとは言えないと思
います。ですからフランス法が現在消費者関係の規定を民法典の外に置いている
のは事実としてはそうですが、いまのような事情を考慮に入れなければなりませ
ん。
もう 1 つですが、これは唐突な印象を与えるかもしれません。特則があるとい
うことがルールの全体としての普遍性を支えると私は先ほども申し上げましたし、
そう考えているのですが、そのことについてフランス法は非常に興味深い例を提
供しているように思います。それは少し前に、海外領土、マイヨットという所に
関する特則、これを民法典の中に入れたという話です。フランス民法典はもとも
とは人、財産、財産の取得方法という、人、物、行為の三分法でできているわけ
です。これは民法の骨格をなしているわけですが、それに海外領土に関する特則
を加えたわけでして、これは非常に大きな変更だったと私は思っています。です
が、これは、共和国の一体性を保持するために海外領土について一定の措置を講
ずる。それがあってはじめて共和国の一体性が保持される、民法典の普遍性が維
持されるという発想に立つものだと了解しています。すべての差異に目をつぶる
ことは、普遍性を擁護するということには必ずしもつながらない。差異を一定の
限度で考慮することによって、共和国ないし民法典の一体性が図れるという発想
がそこに現われていると思います。
消費者ないし事業者について、一定の特則を置くことによって、取引のルール
が普遍的なものとして捉えられるというのは、問題は違いますが、発想としては
いま申し上げたような発想に立つことによって説明可能なのではないかと思って
おります。ここまでが差し当たりの総論的なお話です。
○鎌田委員長 いまのお話と提起された問題とずれているということ、あるいはい
まのご説明の趣旨がよくわからないということがあればとりあえずご質問をお願い
いたします。
〔内田事務局長からの補足説明〕
○内田事務局長 総論の部分で2点ほど私からも午前中にいただいたご批判に対す
る補足をさせていただきたいと思います。1つはNBLに書きました私の論文をリファ
ーしていただき、あるいは日経の記事についても言及がありましたが、NBLの論文は
学者の論文でして、学者として書いたものです。そこで述べた人に対する考え方と
いうのは、必ずしも今回の提案の根拠にはなっていないと私は理解していますし、
私が論文の立場を一貫させて自分の意見で案を作ればこうはならないと思います。
しかし、立法は多くの人の英知を結集する共同作業ですから、原案は、準備会や幹
事会で議論をした人たちの中で、最大限合意できる部分を追求して作ったものであ
るということをまず申し上げたいと思います。
日経の記事については、いろいろな事柄が記事になった先生方もおられると思い
ますのでご存じだと思います。あれはもちろん私が書いたわけではありませんし、
私のこう書いてほしいという意思は必ずしも十分に反映されておりません。「日経
に書かれたが」というふうにおっしゃったのですが、自分の書いた文章ではありま
せん。
2点目ですが、我々はもっと謙虚であるべきであるというご意見を池田先生からも
いただき、また角先生からも総則に手をつけるのはけしからんというお話がありま
した。この点について、1つ補足をさせていただきたいと思います。
この検討委員会は、2年余り前に法務省が債権法の抜本改正に向けた検討に着手を
するということを決めた。それを受けて学界として債権法のあるべき姿について、
学者としての案を示そうではないかということで、組織された委員会です。ですか
ら、ここで作ろうとしているのは、メンバーに実務家が入っていないということか
らも明らかなように、学者としての案であるということです。現在、実務家の先生
方からなぜ我々を入れないのかというご批判が寄せられているのですが、そのとき
にまず申し上げているのは、債権法の非常にアカデミックな性格ゆえに、まず学者
があるべき姿について案を提示して、その上で実務の先生方からいろいろご批判を
いただいて、それを反映させていくという手順には、一定の合理性があるのではな
いかということです。
そして、学者として債権法のあるべき姿を示そうとしますと、当然のことながら、
民法典全体のあるべき姿について、一定の理念を示さずには作れないわけです。総
則編とか物権編は全く別である、そこがどう作られるか我々は関知しないけれども
債権編はこうあるべきだと、そういう法典の作り方はできない。実務的にはあり得
ても学者としてはできないと思います。そしてまた、全体の理念の中での債権法の
あるべき姿を考える点こそ、学者が最もその専門性を発揮できる部分だと思います。
個別の提案の中身、規定の中身になると、実務家のほうが専門性を持っている領域
はあると思いますが、やはり全体の理念の中で債権法を位置づけていくということ
にこそ学者の存在理由はあるように思います。
総則あるいは物権編の中身には直接は手を触れないと言いながら、ある章や節の
配置について手をつけたのは、もし債権編を我々の考えている理念に沿って作り変
えるならば、総則編、物権編について、中身に手を入れないまでも、少なくともこ
ういう構造になることが理念としては一貫している、という姿を示そうとしたと私
は理解をしています。そういうものとしての提案でして、仮にこの提案が立法プロ
セスの中でたたき台になり得た場合も、法制審で審議され、また法務省の内部でも
相当揉まれると思いますし、内閣法制局との調整もあって、最終的にどうなるか、
これはわからないわけですが、少なくとも学問的にはこれがあるべき姿だと思うと
いう提案を最初に行うことには、意味があるのではないかと考えています。以上で
す。
○大村委員 いまのお話との関係で 2 点申し上げます。1 つはいまの総則編につ
いてですが、最後に総則の将来像について申し上げました。総則の将来像をどう
するかは、いま内田さんがおっしゃったような全体的な展望が必要だとしても、
差し当たりここの問題ではないだろうというのはそのとおりでございます。です
から将来像についてどうしようということを提案したわけではなくて、安永先生
が、総則はあとはどうなれというような感じがしないでもないということをおっ
しゃられましたが、まさにそういう危惧感に応答する必要があるのではないかと
いうことです。総則編にある規定を持っていってしまうと総則は残りかすになる
のではないかという危惧に対して、総則についてはこういう位置づけ方が可能で
あるという1つの展望を示したということです。それが 1 つです。
もう 1 つ、先ほど申し上げるのを忘れたのですが、内田さんの記事とも関係し
ますけれども、今回の債権法のボリュームがどのくらいになるのかということで
す。先ほどの参考資料のところに、それぞれの準備会からの提案が貼りつけられ
ています。中には削除を提案するものとか、考え方を提案するものがありますが、
他方 1 つの提案の中で複数の条文に分かれることが想定されるものもあります。
正確ではないのですが、頁数からどのぐらいの数になるのだろうかをざっと計算
すると 700 ぐらいの項目なのかなという気がしました。あるいは 600 かもしれま
せんが、600~700 ぐらいの見当です。
現在、民法典に置かれている条文は、今回の作業対象、先ほど申し上げました
ように、債権編から法定債権を除いて、そして法律行為と消滅時効を足すという
ことですが、これで約 400 条です。ですから、準用規定云々ということ以前に 400
条ぐらいの規定が 600 条~700 条になる。あるいはもしかするとそれ以上になる
かもしれないというのがボリュームについての認識です。
〔質疑応答〕
○鎌田委員長 それぞれの項目について議論をしていきたいと思いますが、いまの
ご説明に直接質問等がありましたらお願いいたします。
○池田委員 いま内田さんからのご説明で、学者として民法総則に触わるところの
話ですが、学者として代理を考えたら、中身に手を入れないまでも、その中身に触
らずとしても、その場所をこうしたほうがいいというお話があったのですが、場所
を動かすだけで、これは中身に触らないのですか。つまり、第3節第1款、第2款とい
う所へ代理を持ってきたときに、場所を動かすだけなのですか。それだったら私は
民法総則に手を出す必要はないと思います。それからその後の無効、取消しのとこ
ろも、今回第2款第1目、第2目、第3目契約条項の無効と書いてあるのですが、これ
結局、中身に触るのではないですか。それであれば、おっしゃることは矛盾してい
る。やはり中身に触るのでしょうということを確認したい。触らないのだったら、
やはり動かすべきではないというのが私の意見です。
○内田事務局長 短くお答えします。代理を含む法律行為は今回の検討対象ですの
で、もちろん中身を変えようとしています。ですから中身に即して配置を考えたと
いうことです。中身に触れないというのは取得時効、それからその他の財産権の消
滅時効ですね。これについては中身について直接、実質的な改正をしようという意
図は含んでいないという趣旨です。
○加藤委員 今日の会議のテーマなのですが、今後提案していく枠組み用としてい
いかどうかであって、今日たとえ枠組み自体には賛成したとしても、今日ここで言
われた提案の内容については私は反対だという、各論的反対は今後に残されている
わけですね。
○内田事務局長 はい。
○加藤委員 そういう意味で大枠について賛否を問うているだけですね。
○内田事務局長 はい。
○加藤委員 そうしたら、先ほどの大村先生のご提案で、反対の論点をはっきりさ
せてほしいということで、私の反対論点を 1 点だけに絞らせていただきます。私は
民法総則の中の条文を物権法や債権法に移すことに反対いたします。それ以外のこ
とを検討をするのは私は結構だと思います。ただ、パンデクテン体系の一部変容と
いう点について、私は最後まで反対をしたいと思います。
○角委員 細かいことで恐縮なのですが、先ほど池田先生がおっしゃったことのあ
る意味では続きですが、総則の中身はいじらない、先ほど内田先生が取得時効と債
権時効以外の消滅時効は中身はいじらないとおっしゃいましたけれども、債権の消
滅時効をここまでいじったときに、取得時効やその他の権利の消滅時効を、いまの
民法のままで置いておけるかどうかは、かなり疑問だと思います。もし、いまの民
法のままで置いてはおけない、絶対になんとかしないといけないのなら、かなり慎
重なレビューをしないといけないと思います。条文の位置を変えるというのは、中
身まで手を突っ込むということと私は同じだと思います現実に最後はどうなるかと
いう話を置いておいて、条文の位置を変えるということは、ただ、変えるとだけの
話ではないと思いますけれども。
もう1つ教えていただきたいのですが、幹事会が手続上どのように係わっているの
か私にはよくわからないのですが、準備会の全体の意見としてこの配置案などが出
されているわけです。それは、準備会の皆さんの中には賛否両論はあっても、この
案で皆さんがお飲みになったというふうにとれば、まあ、準備会で具体的にどんな
議論があったのかというのは聞く必要はないのかもしれません。ですが、現に先ほ
ど私がリファーいたしましたが、第2準備会からは法律行為に関する規定の位置づけ
で、今回提案されたものとは全然違う、わりと現状維持のものが出ています。2つの
案が出て、最終的になぜ今日のご提案になったのかということについて、議論の過
程みたいなのは、我々ここに出てしかお話できないので教えていただければと思う
のですが、いかがでしょうか。
○鎌田委員長 大まかなところは最初の大村先生のご報告の中にもありましたが、
項目ごとに少しずつ議論の中身が違ってくると思うので、時効は時効のいまご指摘
になったような特有の問題がありますし、それから法律行為は法律行為の特有の問
題があって、いま法律行為と時効がいちばん大きな議論になろうと思いますが、そ
れはそれぞれ法律行為と時効についてご議論をしていただく時間をとりたいと思い
ます。あとは全体の枠組み自体をその2つを除いても、なお問題になるようなことに
ついても、項目を分けながら議論をしていくなかで、それぞれの準備会の委員、あ
るいは大村さんから説明をしてもらうように工夫はします。
○加藤委員 項目を分ける前に一言申し上げたいのですが、ここで先ほど学界とし
てどう受け止めるかという話がありましたが、我々は学界から選ばれたわけではあ
りません。我々は勝手に名乗り出ただけです。もちろん別に選挙制があるわけでは
ありませんから、仕方がない側面もありますが、学界を代表して民法改正をすると
いうのでしたら、ある程度学界の意向みたいなものを考える必要があると思うので
す。学問というのはもちろん多数決で決まるものではありませんから、先進的意見
を言ってもかまいません。それで論文として先進的意見が出るのは少しもかまいま
せんが、学界の意向として、民法改正案を出そうとするときに、今日の案が学界に
出て、学界の多数を得られると考えたら、大間違いだと思います。もちろん、これ
は多数決を取るわけにいきませんからわからないという側面もありますが、私が今
日初めてこの案を聞いた全体会議でみても、賛成の方も結論を留保された方もおら
れますが、明確に結論を言った人だけを取れば、反対のほうが圧倒的に多かったで
すね。
学界で、これと同じことになるかどうかはわかりませんが、私はこれが学界の多
数意見としてこうだと言ったら、学界の多数は怒ると思いますよ。
○鎌田委員長 それは、そういう言い方はしないと思います。
○加藤委員 でも、やはりこのような学者グループが作ったときに、もちろん客観
的には学界の中の 20 数名に過ぎないのですが、やはり世間からは学界の意見とし
て取られがちなので、やはり学界がどういうことを考えているかをふまえ、もっと
安定的なものを出していただきたいと思います。
○鎌田委員長 その点も含めて、たぶん言いたいことは山のようにあると思うので、
少しずつ項目を絞りながら、議案1として提出した消費者・事業者の問題をご議論い
ただいて、次に編別の総論的な理念その他に関わること。いまの角先生、加藤先生
のご発言も、広い意味での理念なり基本方針に関わるものだと思いますが、そうい
うもの。それから各論的に法律行為であったり時効であったり、あるいは債権編の
編成の中での契約債権と法定債権の関係とか。債権総論的規定と契約総論的規定と
の関係の整序の仕方というもの。あるいはもっと細かいところで言えば、継続的契
約をどうするかというふうな個別論点がたくさん挙がっていますので、それらに主
として焦点を当てていただくというふうに、全体の議論を整理して、ご討論をいた
だければと思いますが、よろしいですか。
○大村委員 先ほどの加藤先生からのご質問についてなのですが、議論の経緯を
という話ですが、冒頭の一般的な説明の中で、議論の経緯という項目を立てまし
て、どのような項目が議論になり、それについてどういう結論になったかという
ことは申し上げたつもりでおります。ただ、あれだけの話で 1 時間ちょっと超え
ていましたが、限られた時間のその中の一部としての説明なので、足りないとお
感じになったところはあろうかと思います。これにつきましては準備会の委員の
方々で、私が言及した論点について意見を述べられた方がここに皆さんいらっし
ゃいますので、それぞれご発言をいただく中で触れていただくのがよろしいので
はないかと思います。先ほど「この中の多数は」というお話がありましたが、私
1 人で応答していますと、私いつまで経っても 1 人ですので、そういうことでお
願いできればと思います。
〔審議事項1について自由討議・採決〕
○鎌田委員長 そういうことで、まず議案1ですが、改正民法典における消費者・事
業者の位置づけについてという項目に関連してご意見をうかがいます。
○森田(宏)委員 大村さんの最初のご説明とそれに対して示された疑問とがすれ違
っているところがあるように思いましたが、先ほどの大村さんのご説明で、ある部
分は解消したように思います。そうしますと、議案 1 の 1 の文章の書き方がやはり
誤解を招きやすい書き方になっているのではないか。むしろ資料 2 の「編成案作成
にあたっての基本的な考え方」のほうが、先ほど大村さんが説明された要素が入っ
ていまして、つまり、普遍的な「人」概念を維持するというのが基本原則であって、
それを具体化するものとして、事業者・消費者という概念を一部取り込むという考
え方に立つものであることがよく分かりますが、この議案 1 の 1 だけを読むと、そ
れとは別の考え方でもこういう文章になりそうです。
それから、「一般法化」という言葉がキーワードだと思いますが、そうすると、
議案 1 の 1 にいう「私法上の特則のうち基本的なもの」という部分の「基本的なも
の」とは何かということも多義的なのですが、これは、民法の一般法化するのに相
応しい、あるいは民法の一般法の具体化として捉えることができるようなものにつ
いては、民法典に取り込むというその部分が補われて、よく理解できる文章ではな
いかと思います。その辺りの、「議案」というこの文章の意味にも関わりますが、
少し工夫をされたらよりわかりやすくなるのではないかと思います。
「基本的な考え方」の第1の1と対比しますと、議案1では、(2)の部分が挙がっ
ていなくて(1)だけ挙がっているのですが、(2)がどちらかという基本原則で、それ
に立った上で、(1)の考え方をその限度で取り込むというご説明であったと思いま
すから、そのことがわかるように示したほうがよいのではないかと思います。
○大村委員 ありがとうございます。いま森田宏樹さんがおっしゃってくださっ
たとおりなのですが、2 つ補足させていただきたいと思います。1 つはいまご指摘
のあった第 1 の 1 の(1)の文章ですが、「消費者取引・事業者取引に関する私法上
の特則のうち基本的なものを含むものとする」ということなのですが、私法上の
特則のうち基本的なものというものの取込み方は先ほど申しましたように一般法
化という取込み方と、統合という取込み方がある。そのどちらかの方法によって
取込む。その外延をこれで画するという趣旨です。それは森田さんがおっしゃっ
てくださったとおりだろうと思います。
もう 1 点は、この基本的な考え方を議案にしたほうがよろしいのではないかと
いうことだったのですが、議案の書き方の当否は別ですが、私自身の今日の提案
の趣旨からいたしますと、編成案をここでご議論いただくということだと了解し
まして、資料の 1 が差し当たりのご議論の対象だろうと考えてまいりました。
ただ資料の 1 を説明するに際して、考え方を説明しないと説明できないところ
がありますので、資料の 2 を基本的な考え方としてお出ししたということです。
この考え方をそのまま当否を議論していただくことは、差し当たりは想定してい
ませんでしたが、こういう考え方に基づいて資料 1 が出来た。さらに申しますと
資料 1 は加藤先生がおっしゃったように、提案審議のための目次ですので、大枠
を決めてそのあと個別に議論をしていく中で目次のある部分が変わってくるとい
うことはあるのだろうと認識しています。
○内田事務局長 議案の1の1ですね、ここで「基本的な考え方」の第1の1の(1)だけ
を挙げているのは、(2)は森田さんが言われたように、もちろん(1)の根拠になって
いるわけですが、その点についての合意が形成されなくても、議案1の1は支持して
いただけるだろうということです。本体は議案2のほうになります。暫定的に今後こ
れから具体的な提案を審議していく上で、その提案を並べる必要があるわけですが、
並べる大きな枠として今回の編成をご承認いただけないだろうかというのが主たる
議案です。
また審議していただく提案を理解する上で、中に消費者・事業者についての提案
も含まれますので、それは議案1の1のような考え方に基づいて作られているという
ことです。そして、それらの規定を独立に配置していないという点は、議案1の2に
書かれているような方針に基づいているということです。
その根拠が何に基づくのか。さらに根拠を遡ると、ここからは学者によって意見
の対立が出てくるわけで、「基本的な考え方」の第1の1の(2)について、準備会の中
ではある程度共有されているかもしれませんが、広く同意が得られるかどうかはわ
かりません。しかし、実際の承認の対象となる本体は議案2だということです。
これは、今後の提案審議の際にも問題になると思うのですが、根拠について学説
上の対立がたくさんある。説明された根拠には賛同できない。しかし、提案された
中身そのものは別に異論はないということは、多々出てくるだろうと思います。こ
の検討委員会としては、その提案の中身について最低限合意できればいいのではな
いかと考えています。
○池田委員 それはまさにいま内田さんからご説明のあったところで、私は内田さ
んのお話でも議案の2に早く行きたいということだと思いますから、議案の1につい
ては論点を明確にしましょう。私はまさにいまご説明のあったところの(2)の部分は
その理由なのだという、その「理由」が大事だと言って質問をしているわけですか
ら、議案1の1を少し文言を修正していただきたい。「改正民法典は」の後に、資料2
の(2)の言葉を入れていただきたい。「普遍的な「人」を想定しつつ、契約の目的と
の関連で現われる「人」の差異の側面にも留意して、消費者取引や事業者取引に関
する私法上の特則のうち、基本的なものを含むものとする」こういうふうにお書き
直しいただきたい。それならば私は賛成します。
○廣瀬委員 その消費者の関係について、これは消費者契約法が念頭に置かれてい
るのですが、消費者基本法ではもう1つ、2条の基本理念でも謳われている安全とい
う問題がありますよね。安全といった問題を含めて考えると、やはりもう少し一般
的なところにも、消費者に関連する規定があったほうがよくはないかということを
一言。率直に提案すれば、例えば民法の第1編、総則の第2章「人」というところに
も消費者に関する規定を置かなくてよいかということになります。
つまり消費者についてとか事業者については、こちらの提案では資料1の2頁目の
第1章第3編債権の第1部第1章、通則のところの定義規定の中に置く、つまり契約の
中で捉えるということなのですね。今回は契約だということで、そこに絞るという
ことがはっきりすればそれでいいのかもしれませんが、消費者というものに対する
扱いとしては、もう少し広くほかでも考えるという余地を残す必要があるだろうと
思います。
○大村委員 いまの廣瀬先生の考え方はあり得るところだろうと思います。その
ことを排除はしておりません。人身損害等々について考えるときに、特別な配慮
が必要ではないかということはあろうかと思います。現に、時効の規定等々では、
人身損害に対する一定の配慮がされているわけですが、今回のこの提案は消費者
契約法の規定を取り込むのに必要な限度で消費者を定義するということなのです。
これこそが消費者の定義だというように言うつもりはありませんので、先生のご
議論はあり得る議論だと思います。ただ、そのあり得る議論についてここで合意
しようということになりますと、それには反対が出てくるわけです。
私は先ほど申し上げたような、契約の当事者としての人の普遍性を維持しつつ、
消費者の属性を考慮するための方策としては、ここで書いたようなものがよろし
いのではないかと考えて、その限度でご提案したということです。
○加藤委員 議題 1 については基本的に賛成なのですが、先ほども角さんがおっし
ゃったように、これは具体的にどうなるのか、その具体的内容によって賛成できる
か反対するか決まるのです。それとの関係で伺うのですが、要するに検討範囲が問
題となるわけで、第 1 章の総則と売買は当然検討範囲に入ると思うのですが、交互
計算、匿名組合、仲立営業、問屋営業は、少なくとも民法の契約各則には現われて
いませんが、これは取り上げないという理解でよろしいのですか。それも取り上げ
るつもりですか。
○内田事務局長 それはそれぞれの提案のところで問題として出ますので、この議
案の1をご承認いただいたとしても、それぞれの提案のところで、例えば商行為編の
この規定は取り込まないという提案に対して異論を述べていただくことは自由です。
○加藤委員 それで少しもかまわないのですが、例えば委任のところの 1 カ条とし
て商行為の委任を検討するというのなら、全く気にしないのですが、典型契約的な
形、あるいは典型契約の中の 1 節として、現在の商行為の規定がまとまって提案さ
れるのか提案されないのかを聞いているのです。まあ運送とかはさすがに民法に取
り込まないと私も思っていますが、商行為に規定されている商法上の小さな典型契
約みたいのがありますよね。それが全体として民法に規定される、そういう可能性
はあるのかないのかを聞いているのです。
○鎌田委員長 これはまさに今後の検討次第であるし。山下先生にご説明いただい
たほうがいいのかもしれませんが、いま加藤先生が列挙されたものは全部検討の対
象です。
○加藤委員 検討の対象ですか。
○内田事務局長 ええ、ただその検討の結果、いまの段階ではそういうものが例え
ば独立の節になって出てくるとか、あるいはこの項目の中にも条文のタイトルとし
ても出てくるのはあまりない。
○加藤委員 だからといって反対する気はさらさらないのですが、商法に規定され
ている契約群がスポッと民法の典型契約に入る可能性はあるのですね。
○鎌田委員長 商行為編にある、例えば仲立契約というものが入ってくるかと。
○加藤委員 はい。
○鎌田委員長 現在のこの編成案の中にはそれはないですね。
○加藤委員 ないのは、それを民法から排除したのかという質問です。
○鎌田委員長 ただ検討の対象にとして検討はした上で現在の案ができていますが、
そこのところで例えば仲立契約というものをつくって商行為編の規定をそっくり移
してくるということは原案にはありませんけれども、しかし、そこで例えば入れる
べきだというような議論を排除するという趣旨ではない。
○加藤委員 わかりました。その限りでは私はここまでについては賛否どちらでも
いいと思います。ここから先ですが、運送営業以降が入ってくることはないと思っ
ていいのですね。
○内田事務局長 ないです。
○鎌田委員長 寄託の総則までは検討対象ですが、倉庫営業は検討対象から外して
います。
○河上委員 先ほどの「私法上の特則のうち基本的なもの」という言葉がまだよく
わからないところがあるのですが、一般法化が可能なものは、そこにそのまま入れ
ていい。一般法が可能だということの意味は、これは消費者であろうが事業者であ
ろうが妥当する人としてを入れれば済むことですね。そうすると消費者という概念
は要らないと考えてよろしいですか。そうすると、あと必要なのは、統合という形
で消費者対事業者になったときに特別なルールとして、補足的に入れておくべきも
のが必要かどうかというその判断だけをすればよいと考えてよろしいですか。そう
するとあとは契約の目的とか、置かれた状況によって特定された人であれば、これ
また消費者か事業者かという概念が唯一の切り口ではないということにはなりませ
んか。
○大村委員 唯一の切り口ではないということにならないか、ということのご趣
旨が十分に掴めなかったのですが、その前におっしゃっていただいたことを繰り
返すと、契約の目的との関係である人を、その契約では消費者として位置づける
ということなので、つまり消費者に関する一般化されない特則が置かれることが
あるだろう。その中には消費者という言葉が使われる。
○河上委員 やはり使われるのですか。
○大村委員 使われないということであれば、それは一般法化が図られるという
ことになると思いますので、消費者なら消費者に特化した形でのルールを取り込
む、それは取り込んだ結果がゼロかもしれませんが、取り込むということを検討
する。しかし、それはその契約において、ある人が消費者として性格づけられる
という捉え方だということなのです。
○加藤委員 いまのご質問についてですが、先ほど池田先生がおっしゃったことも
河上先生がおっしゃったことも同じで、一般化したものを取り込むかぎりにおいて
は、民法のニュートラル性は失われないのですよ。私は、基本的に民法のニュート
ラル性は維持したほうがいいと思うのです。純粋商法的なもの、消費者法に特化し
たものは、民法に入れるべきではない。しかし、先ほど山下先生がおっしゃったよ
うに、ある種の現実性は必要ですから、商法や消費者法に特化しているといっても、
民法に内容的に連関しているときに、民法に規定したほうがわかりやすいものもあ
りうるので、そういうものについては、付属的に民法に規定してもいいと思うので
す。ただ、それはあくまで付属的なものにかぎられるので、まあ、ニュートラル性
プラスアルファですね。ニュートラル性プラスアルファ程度で納めていただき、民
法のニュートラル性を大きく損なうことはないようにして頂きたいと思います。
○大村委員 プラスアルファを外延にするというつもりです。先ほども少し触れ
ましたが、消費者契約法 4 条は現在一体のものとして理解されていると思います
が、それがすべて一般法化されれば、消費者契約法 4 条については問題は残らな
いわけですね。ですが、消費者契約法 4 条のうちのある部分は、やはり消費者を
想定した規定なのではないかとなったときに、例えば 4 条 3 項だけは消費者契約
法に残し、4 条 2 項までは民法に統合する、一般法化するというのは一覧性の観
点からいって妥当でないだろう。一連のことを定めるために、4 条 3 項に匹敵す
るものについては消費者の概念を使って民法に統合しましょう。こういうイメー
ジです。
○内田事務局長 先ほど池田先生から大変建設的なご提案がありましたので、その
提案の採否をご議論してはどうかと思います。
○池田委員 私がいま申し上げようと思ったのもそのことです。いま加藤先生から
ニュートラル性プラスアルファという表現がありましたが、私も普遍的な「人」を
想定しているのだということが大事なので、それを議案に入れていただきたいとい
うことです。ですから言葉の問題というよりは、やはりその思想というかその問題
であると。ここで今日決めたらこれが基本的な考え方なのだというのですから、私
としてはそこは譲れないと思っていますので、ご審議いただければと思います。
○鎌田委員長 議案の1の1の「改正民法典は」の後に、資料2の第1の1の(2)に相当
する文章を入れるということですね。「普遍的な「人」を想定する契約の目的との
関連で現れる「人」の差異の側面にも留意しつつ」というふうなことですね。どち
らかというと廣瀬先生の先ほどのご意見はそれでは狭すぎるというふうにも聞こえ
たのですが。これが入ることによって無限定に何でも入ってくるわけではないとい
うことがはっきりしてくることにもなると思いますが、この点についてご質問ご意
見がございますか。
○道垣内委員 「普遍的な「『人」』を想定しつつ」というのは、どういう意味で
すか。
○加藤委員 商人とか消費者を原則としては入れるわけではない。つまり消費者、
商人としての色がついていない人を規定するのが民法の基本原則である。しかし、
先ほど私はプラスアルファという言葉を使いましたが、民法との関連性が強いとこ
ろで、例えば、瑕疵担保にかんして商事瑕疵担保についての特則が民法に規定され
ても、それだけだったらおかしくないと私は理解をしています。
○大村委員 道垣内さんがおっしゃるのは、「しつつ」という言葉づかいですか。
○瀬川委員 先生方の間で民法の想定している「人」についてのイメージというか、
思い入れがずれているところがあると思います。例えば民法の中でも制限能力者の
場合に普遍的な人かというと、その面ではあまり普遍的な人ではないと思うのです。
つまりここで問題にしているのは、そういう人も消費者も含めて、普遍的な「人」
というのがあるはずだということだとおもいます。フィクションだからこそ、カギ
括弧が付いているのだと思うのですよ。そういうものを対象にするのが民法です。
ただ、ここで言っているのは契約の目的との関連で現れる特殊性ということに配慮
して、そして、いまの社会では消費者としての取引が拡大しているから、それを考
慮して民法の中に取り込もうという理解だと思います。ですから廣瀬先生のように
具体的な、もう1つ別の局面ということになると、それはそれでもう一度、同じよう
な議論をしなければいけないし、それはたぶんPL法だとかいろいろな問題に引っか
かってくるので、ちょっとそこは押えておこうというのがこの提案の趣旨だと理解
して私は賛成したいと思います。先ほどの池田先生からの修正を含めた形で賛成し
たいと思います。
○大村委員 道垣内さんがおっしゃったように、これをギリギリ詰めていくと、
人に対する差異、イメージの差というのが顕在化することになるのだろうと思い
ますが、そこを顕在化させないと、この提案審議のための枠組みが定まらないか
というと、必ずしもそうではないのではないかと思います。
○野村委員 先ほど加藤さんからプラスアルファという話があって、いま議論の念
頭が置かれているのは、消費者契約法の規定ですよね。例えば、売買のところでい
えば、担保責任についての免責の合意ができるという規定になっていて、消費者売
買については、買主が消費者であるときは認めないとか、そういうルールが入るこ
とがあるかもしれないというイメージですか。
○大村委員 いま野村先生がおっしゃったようなイメージです。というのは、消
費者契約法は取込みの対象になっておりますが、それとは別に、各準備会で作っ
ている規定の中に消費者に着目するもの、あるいは事業者に着目するものがいく
つかあります。いくつかの数は数えてこなかったのですが、そう多くないだろう
と思います。トータルで見ても、10 とか 20 程度の数だと思います。そういうも
のが場合によって付け加えられることはあり得るだろうという認識です。
○河上委員 折角契約の目的というところで、絞りをということだったので、どう
せそうするのであれば、状況も入れていただくとありがたいと思います。つまり、
消費者法というのは、目的関連性で出来上がっている特則と、状況関連型で出来上
がっている特則があるので、できれば契約の目的及びその置かれた状況との関連で
というぐらいの言い方をすれば、PL法も入るし、いいのではないかと思いますが、
いかがでしょうか。
○大村委員 ここで契約の目的との関連で現れる「人」というのを特に書いたの
は、前回ざっとご説明しましたが、消費者の概念規定をするときに契約の目的に
着目して消費者の概念規定をするという趣旨だったのです。
河上先生がおっしゃっているのは、不法行為についても…
○河上委員 それは結構です。
○大村委員 そうですか。ただ、一般論として目的では狭すぎないかというご趣
旨ですか。
○河上委員 先ほどの廣瀬先生のもありましたから、その当事者の置かれた状況と
いうのを入れたら駄目ですかという話です。
○鎌田委員長 私が誤解しているのかもしれませんが、ここで決めているのは……。
○廣瀬委員 私が足を引っ張った形でしたのにまたサポートしていただいて、大変
ありがたいです。ただ、とりあえず消費者契約法だけでもまとまるかどうかという
危惧感ももう一方で持っています。そういう意味では、私のはそれほど重視されな
くとも仕方がないかなという感じです。
状況ということになって、PL法も入れるという話になってくると、もしかすると
いろいろな話に関わりが出てくるかと思います。消費者基本法とか、消費者法の概
念とか、民法とは違った体系からの位置づけも十分考えられます。それとの折合い
は相当大変です。消費者法の考え方もここまでは民法に取り込めないのではないか
とか、例えば消費者契約法4条などについても勧誘などはどのように位置づけるのか
といった問題とも関わってくるかもしれません。そういう意味では少し余裕を持た
せて、目的を少し広めに考えるぐらいでも私は許されると思っております。
○森田(宏)委員 議案 1 の 1 を文章を修正したほうがまとまりやすいかと思って発
言したのですが、かえって混乱を招いたようで戸惑っております。先ほどの説明に
よりますと、議案 1 の 1 の文章そのものが玉虫色にできていて、「基本的なもの」
の理解はさまざまあるが、それらのどれも排除しないというところでコンセンサス
をとったらどうかということが原案であって、それに対して、「基本的なもの」の
意味するところをある特定の方向でもう少し限定すべきではないかというのが修
正案であるという理解でよろしいでしょうか。
そうしますと、先ほどから消費者契約法を取り込むとか、消費者契約法を削除す
るということは議論していないはずで、消費者契約法の規定がどうなるかは、先ほ
ど始関さんのお話もありましたように、別の所で決まる話ですから、いまの1をど
うするかについて先ほどの修正案を採ると採らないとにかかわらず、1の考え方と
いうのは、消費者や事業者の概念を使った規定が入ってくることをカテゴリックに
は排除しないという以上の意味を持たないということになるのでしょうか。ある意
味では、2のほうは意味を持つかもしれませんが、2が決まれば、1のほうは議決が
あろうがなかろうがあまり意味がない提案として理解すればよろしいのでしょう
か。
○内田事務局長 おっしゃるとおりだと私は理解しています。「我々は謙虚である
べきである」というご発言がありましたが、我々が提案するのは法案そのものでは
ありませんし、法案の2、3歩前の内容をこれからご審議いただこうと考えているわ
けですが、その基本的な方向を提案する際に、どのような理念に基づいてその提案
ができているか、というところまで縛ろうと考える必要はないのではないか。最低
限この提案の中身は合理的であると認めてもらえれば、それを法律の中に反映する
ということで十分で、民法の人概念について、どのような理念に基づいているかに
ついて、ここで縛る必要はないのではないかというのが、議案1の1だけが出ている
趣旨です。
○鎌田委員長 いずれにしろ、これは次の民法典の編成案についてもそうなのです
が、ここで合意したら、このような民法になりますという堅いものではなくて、今
後審議していくときに、こういった順番で、あるいは大体こういう編成を念頭に置
いて審議していきます。その中に事業者や消費者に関連するものが入ってきたら、
それについて何も事前の合意なしに、なぜこんなものが入ってくるのだという議論
が出てくるのを避けたいということですから、ここで合意したら、最終的に事業者
に関する特則も消費者に対する特則も1個もなくなったら議決違反だとか、そのよう
なことになるというのでは全くないわけです。
ただ、消費者や事業者に関する規定を取り入れるとなると、本当に大々的にこれ
さえ見れば、商行為法ももうなくなってもいいとか、消費者契約法がなくなっても
いい、そこまで大きなことをやろうとするつもりはありませんと。
第1の1の(2)も、民法典全体あるいは債権法全体は、伝統的な民法上の人を念頭に
置いたものが全体としてベースになっているが、その中に契約目的等と法の関連で
消費者としての特性に着目した規定が入ることがあり得るとか、事業者の特性に配
慮した規定が入ることがあり得る。そういう前提で今後の審議を進めること、ある
いは提案を構想していくことを排除しないという限度での議案だと理解しています
が、それは間違いないですね。
○内田事務局長 もう1つ補足して申し上げますが、ここでの議論の結果は議事録と
してすべて公表され、配付資料もWebサイトで公表されるわけですが、いま実務家の
先生方は、いろいろな委員会を作って詳細にそれを分析しておられ、それに基づい
てさまざまな意見を作っておられます。
そのときに、「消費者や事業者に関する規定が入るのは別に構わない。しかし、
普遍的な「人」というのは何だ」と。それはよくわからない。そんなものに拘束さ
れるのでは反対だという意見が出てくる恐れがある。それは望ましくないのではな
いかと思います。我々として、別にそこまで拘束しなければ改正民法典が維持でき
ないと考えているわけではないのであれば、学説上はいろいろな考え方があるし、
学者の多数はそのように考えていたとしても、最低限、提案としてここまで合意で
きれば改正案は支持できるというところが決まっていればいいし、またそれ以上に
踏み込むのは、まさに謙虚さを欠いているのではないかと感じる次第です。
○池田委員 先ほど委員長がまとめてくださった表現が議事録にきちんと残るので
あれば私はよろしいのです。つまり、普遍的な「人」を中心に置いてということを、
私は別に普遍的な人を定義しようとしているわけではなくて、先ほどの引用した内
田さんのNBLの表現でいえば、消費者とか、事業者という色の付いた人が多くなって
いるという表現が、内田さんの文章だけではなくて、ほかにも出てくる、そういう
ことを言う人はいるわけです。
私はそれに対しての色の付いていない人をまず真ん中に置くべきだということを
申し上げているのです。その意味では、そういうものを前提として議案1の1だとい
うことであれば、先ほど修正案と申しましたが、それで別に議決していただかなく
ても、いま委員長が普遍的な人を前提にということで発言してくださったと思いま
すから、そういうことがここでのコンセンサスだということで十分で、それ以上、
いま内田さんが言われたように、実務家からは普遍的な「人」とはどういう人だと
いう質問が出てくるかとか、そんなことを私は頭に置いているわけではありません。
真ん中の色の付いていないというか、一般市民をまず基礎に置いた民法で、それに
プラスアルファとして、こういう事業者や消費者に関する規定が入ってくることを
妨げないということで理解するのであれば、皆さんがここで了解してくださるのな
ら、ここから先の議論もそう心配ないと思います。
○鎌田委員長 それでは、今のようなご理解で議案1についてはご支持いただいたも
のとさせていただきますが、よろしいですか。
〔審議事項2について自由討議〕
○鎌田委員長 次は議案2です。これは明らかに反対だというご意見が既に出ている
と思います。まず総論的な、どういう理念に基づいてとか、全体の編成の方針につ
いて、先ほど大村さんからも補足的な説明もありましたが、存分にご意見をお出し
いただければと思います。
○加藤委員 進め方ですが、もともと現行民法があるところについて改正提案して
いるわけです。それについて 5 編の編別は維持するが、5 編の編別の中の一部を移
動するという提案があったわけです。私は、先ほど総則から編を越えて、法律行為
の部分や消滅時効の部分が移動するのは反対だ、と 1 点だけ反対したのです。
否決された場合のことを申し上げるのは申し訳ないとも思いますが、仮に原案が
通らなかったときには、現在の 5 編の編別に即して内容を考えていくことになるわ
けですね。要するに、全く白紙のところからこの案が出たのではなくて、現行民法
典があるという前提で出たわけですから、仮に我々がこの会議で同意しないという
結論が出たときには、現行民法典を枠組みで考えていくことになるわけでしょう。
○鎌田委員長 編については、同じですから。
○加藤委員 編は同じだけど、端的にいえば、編の中身を編を越えて移動するとい
う提案なのですよね。それについて同意しなかったときには、議事の手続の進め方
で、現行民法の編別は同じで、編を越えては移動しないということになるわけです
か。
○鎌田委員長 全体会議として、編の間の移動はしないということに決まれば、そ
の編の間を移動しないことになりますと。
○加藤委員 編の間の移動はしないという提案がなければいけないのですか。現行
法を変更する提案に同意しないだけでいいのではないのですか。
○内田事務局長 今回の議案の2は、この次の全体会議から具体的な提案内容をご審
議いただくのですが、それの順番の並べ方を決定しますので、原案が否決だけでは、
どう並べていいか決まらないのです。
○加藤委員 現行民法典の修正提案が否決されれば、現行民法典の構成になるので
はないのですか。
○内田事務局長 現行民法典と全く違った中身の提案がたくさん含まれていますの
で、それをどう並べるかという指針が必要ではないかと思います。
○加藤委員 今回の提案では契約の章の順番が替わっていますが、典型契約の順番
が変更されることにはむしろ賛成なのです。各編の内部での章の入れ替わり等はあ
りうると思います。
ただ、今までの提案で編を越えて移動するのは法律行為と時効だけです。そうす
ると、この移動提案が通らなかったら、法律行為と時効は民法総則で議論するとい
うことになるのではないですか。
○大村委員 私自身は、もしその前提に立つのであれば、そういうことだろうと
は思います。ただ、それはこの目次が全体として否定されるということではなく
て、例えば、第 3 編の中から今のようなことで法律行為の規定を総則に戻せとい
うことであれば、それは総則に戻るということになるのでしょうが、その上で現
在の構想をどのように活かしていくのかということになるのかと思います。
ですから、ちょっと先走った言い方になりますが、目次案あるいは編成案を考
える際に当たって、どういうことに留意すべきかという基本的なことに関して、
ご意見が先ほどございました。そういうことについては、なおここで議論してい
ただく必要があると思うのですが、その上で出てくる具体的な問題としては、内
田さんがおっしゃったように、次回かどうかわかりませんが、この先の検討に当
たっての目次案として、何を採用するかということだと思います。
それに当たっては、1 つの考え方は加藤先生がおっしゃるように、全部駄目だ
から「現行の民法典の目次に合うようにすべて配置せよ」というお話があり得る
と思うのですが、そうではなくて部分部分でご検討いただけないだろうかという
のが私の希望です。
○加藤委員 私個人も提案全体を壊したくはないのです。だから、私は反対は 1 点
だけで、現在の民法総則に規定されている内容を「総則編」以外に移動させること
に反対といっているだけなのです。
○鎌田委員長 この提案にどこかに反対だと言って「どこかに反対の人は手を挙げ
てください」と言ったら、多数になるかもしれないのですが、ある人は法律行為を
移すのに反対、時効を移すのに反対の人もいれば、債権総論と契約総論の関係、契
約総論と契約各論の関係に反対の人もいる。それはそれぞれ法律行為をどうしまし
ょうか、時効をどうしましょうかという形で意見をいただきたい。
いまその大前提として、そもそも債権法改正理念そのものにかかわるもの、先ほ
どの消費者についてもそうだと思いますが、まず総論的な部分でのご意見があれば、
それについてご提出いただきたい。それが具体的な編成案に直接反映するかどうか
は、ここではこだわらないで、そういうご意見を今までいただく機会がありません
でしたから、お出しいただければと思います。
○池田委員 いささか繰り返しになりますが、大きな形で基本的な姿勢ということ
で申し上げれば、私たちはここで民法の中の債権法を改正しようとしているのだか
ら、先ほどもどなたか事業者法にしようということになるのではないかとか、契約
法化にほかならないというご発言もありましたが、私もバランスを考えるべきだと
思っています。
ここで債権法中心に我々は議論をしているけれども、それは民法を100%取引法と
して理解するのか、取引の世界以外のものが民法に厳然としてあるのだから、事業
者法、取引法という色彩ばかりを債権法中心だからといって、あまり強調するよう
な形にはならないほうがいいのではないか。
それから、契約ということから並べていくということで、当然契約法を中心とし
たというか契約法が発想の中心になる構成になっていくと思うのです。この点は、
債権編の中をどういじるかというのは、ここは自由に議論すべき場だと思っていま
す。先ほどの編別の何を戻すべきだという議論になったら、また発言しますが、債
権法としては自由に議論すべきだけれども、あくまでも民法の全体のイメージから
取引法、事業者法ばかりに特化した商事化した民法というイメージがあまり強くな
りすぎないようにしたほうがいいというのが、私の意見です。
○鎌田委員長 ほかにいかがですか。
○角委員 今日出されたご提案ですが、その根っこは何なのかが見えないのです。
例えば、契約法を中心とした改正は結構。でも、契約がバッと前面に出るような民
法の編別を出されてしまうと、一体債権法改正というのは何のためにやっているの
か、何のためにやるのかということが決まらないと、どこまでいじるかとか、どこ
までの範囲で改正するかが決まらないと思うのです。
先ほど部分、部分で議論すると言われましたが、部分、部分で議論してしまうと
全体が見えなくなってきます。一つ一つの提案はすごく面白いので、各論的な個々
の議論に入ってしまうとそこに特化してしまって、それが全体の中でどういう位置
を占めているかがわからなくなってしまう。よくロースクールの少人数授業であり
がちな弊害が、ここでも出てくるという話で、この辺で何のために改正をするのか
ということの合意は絶対に取れるものではないのかどうかわかりませんが、1つの仕
事をこれだけの人数でやっていくときには、少なくとも何のためにいまやっている
のですかという合意を持っておかないと、いつまで経っても船頭を多くしてという
ことが続きます。スケジュールも押していますし、離れるかもしれないのですが。
今までまとまって、何のために債権法を改正するのかということを、きちんと言語
化して、皆さんで話し合ったことがないので、ちょっと時間を取っていただきたい
と思います。
逆に言えば、それがほかの実務家が知りたいことだと思います。それがわからな
いで、非常に難解な提案が出てくるから、みんなが疑心暗鬼になっているというと
ころがあるのではないかと思います。
○大村委員 いま池田先生がおっしゃった取引中心の民法なのかとか、角先生が
おっしゃった何のために債権法改正をするのかというのは、一般論として、ここ
でご議論をいただく必要があるだろうと、私個人としては思っています。
その認識に立った上で、編成案をどうするのかという個別の問題に進んでいた
だく。個別の問題については、段階を追って議論していただかないと決まらない
ということになるのではないかと認識しております。
角先生が先ほどから私に向けられている批判のうちの 8 割ぐらいは私のご説明
した編成案ではなくて、債権法改正の是非に向けられているので、私は人見御供
なのだと思っておりますが、願わくばあとで 2 割のものに集中していただければ、
そちらのほうにお答えするということでございます。
先取りする形になりますが、目次についての考え方の基本は何なのかというこ
とです。それは池田先生がおっしゃったところにも関わるのですが、債権編の中
で規定をリシャッフルすると、何がいちばんわかりやすいのかというのが出発点
だと思います。
その際に、契約の成立について考えるのであれば、法律行為の総則にある規定
をそれと一緒にするほうがより良くないかという発想です。それから債権の消滅
原因について規定がある。それに今回、消滅時効の規定をいじるのならば、消滅
時効の規定をそれと合わせて配置したらどうかという発想になっております。
法律行為の規定そのものの中身や消滅時効の規定そのものの中身は、今回再検
討しようということでこの作業が始まっているわけです。ですから、その中身に
ついて再検討すること自体は、たぶんここでの了解事項になっていると思います
が、それを編別においても反映させたらどうかというのが、基本的な発想の 2 段
目です。ですから、「債権編の中でどのように考えるのか」と池田先生がおっし
ゃってくださって、まずそれを考える。その際の今回の編成案の基本方針は、契
約債権を中軸に据えて編成を行うという考え方です。
この考え方がそもそもおかしいということであれば、この前提が崩れることに
なりますので、どの考え方に立つのかということになります。仮に契約債権を中
心に規定を配置することはそれはそれで意味のあることだとすると、あとは総則
編から規定を抜いてしまうことの当否という加藤先生が挙げられている問題につ
いて、皆さんがどのようにお考えになるのか。おかしいということになれば、総
則編に残す、その限度でしか契約債権に関する規定の一体性を図れないが、仕方
がないということになるのだと思います。そのように私は問題の配置を考えてい
るのですけれども。
○加藤委員 先ほど総則編の編別を越えていくことに反対と 1 点に絞っていいまし
たが、率直にいえば、非常に遠慮して反対点をその 1 点に絞ったのです。例えば、
資料編の編別を見ますと、「第 3 編 債権」の「第 1 部 契約および債権一般」の
「第 1 章 契約に基づく債権」の「第 2 款 債務の不履行」に「第 1 目 履行請求」
が規定されており、「第 2 目 強制履行」となっています。しかし、私は、履行請
求が「債務の不履行」の一形態であるとは思いませんし、履行請求や強制履行は、
実は契約の分野の問題でも債権の分野の問題でもないと思います。物権的請求権で
も、親族相続でも、履行請求も強制履行も問題となります。そういう意味では、履
行請求も強制履行も、物権、債権、親族、相続のあらゆる編に共通する問題です。
したがって、本来は、民法総則に規定されるべき内容です。
そして第 3 目の損害賠償は契約ばかりではなく、事務管理でも不当利得でも問題
となります。そういう意味では、債務不履行による損害賠償は債権一般の問題なの
です。第 4 目の解除・危険負担が契約の問題なのです。要するに、私は今回の改正
提案に、本当はもう少し一般的に疑問をもっており、債権総論と契約法の融合にも
反対なのですが、あまり混乱させたくないから、反対点を一本に絞り、民法典の編
別構成を変更しようとするのは、問題点があまり目に付きすぎるから、派手にやり
すぎた所だけは我慢してくれというのが、私の遠慮した発言なのです。
先ほどどなたかが「契約栄えて、その他が滅ぶ」と言いましたが、おっしゃると
おりだと思います。ご提案は、基本的にある種のわかりやすさを追求したものだと
思います。世の中で、まったくの素人に「民法って何ですか」と聞かれ、私が 1 時
間か 2 時間で民法を説明するときには、財産法だったら所有権の話をして、売買契
約について話して、賃貸借契約を説明して、不法行為の話をしておしまいです。そ
れと同じような形で、民法改正をしようとしているのが、この提案だと思います。
ある法的問題は、権利一般に関係しようと、債権一般に関係しようと、契約だけの
問題であろうと、とにかく契約についてだけ集中的に規定して、あとの分野は野と
なれ山となれ、というご提案のように思えます。
しかし、世の中で権利義務は、全部の法分野にまたがるわけですから、これはあ
る意味で素人向けではあるが、失礼ながらもう少しいわせて頂けば、ある種の無責
任さをともなう提案だと、私個人は思っています。ですから、私は本当はこれには
反対する点がいっぱいあるのです。だけど、とにかく今、議論の枠組みを作ろうと
するときに、「この枠組みでは話せないよ」と言ったらにっちもさっちも進まない
から、各論的な反対はあとで一つひとつ言わせてもらおう。とにかくあまりにも目
立つ、編別構成を変更するところ、それはやめてほしいというところにとりあえず
反対点を絞ったのが実相で、申し訳ないけど、この提案で行くのでしたら、いま言
ったところばかりではなく、私はいくつもおかしいと思う所があります。
例えば、先ほどご説明を聞きましたからわかりますが、第 7 章は特殊ですが、第
2 章から第 6 章までを置いておいて、契約各論を置いて、法定債権に移りますが、
あれだって本当はおかしいですよね。だから、初心者向けに話しましょう、でも、
きちんと勉強した人は困りますよね、という話です。私はわかりやすいことも大事
だと思います。しかし、法はきちんとしていることがもっと大事です。わかりやす
さを追求して、きちんとした枠組みを放棄したご提案だと思います。そういう意味
では、私は基本的にこの基本姿勢それ自体に非常に疑問をもっているのですが、そ
の中で目に余る編別構成を変えたことに反対を絞っているだけです。ただ、それは、
議論の枠組みだから、まず反対したいということです。
○大村委員 個人的には、多々反論したい所があります。
○加藤委員 反論していただいて結構です。
○大村委員 先生のお考えは 1 つのお考えだろうと思いますが、現行の民法典が
先生がおっしゃるような形で論理的に貫徹したものであるかというと、必ずしも
そうではないわけです。
○加藤委員 ただ、それをもっと壊していますよ。
○大村委員 理念型としてはギリギリ詰めて、論理的に純粋な形を追求すべきだ
という話が出てきうると思います。おっしゃった強制履行の問題などはそういう
観点に立たれていると思います。しかし、現行の民法典も、一方でパンデクテン
の構成を尊重していますが、その中で実際の配慮によっていろいろ現実的な対応
をしていると思います。そのウェイトを少し動かそうというのがこの提案の趣旨
で、その少しが問題だと受け止められているのであれば、どの辺りが落ち着き所
なのかということで、ご議論いただきたいというのが私の趣旨です。
○加藤委員 私が反対するにもいろいろとバリエ-ションがありうるわけで、皆さ
んが賛成するのならば、私が反対したと議事録に残ればいいやという反対と、この
方向に進んでいっては困るという反対の双方があります。ですから、多くの問題に
ついては、最後まで反対するよということを言う気はありません。私は同意できな
いときは、学者ですから、学者として同意できないといって、それで我慢し、済ま
せる点もたくさんあります。ただ、今回の編別構成の変更だけはその域を超えてい
るということです。
○池田委員 それでは、先ほど大村先生が1つ前のご発言で言った段階を踏んで、私
からのどこを賛成して、どこが賛成できないかということでお話したほうがよろし
いですか。もっと前に何か。
○大村委員 是非、それを伺いたいのですが、角先生から根本的なお話が出てお
りますので。私は池田先生のいまのお話で、各論的な議論に時間を残していただ
きたいと思っているのですが、まず一般論について時間を取るべきだというのが、
角先生のご意見だと先ほど承りました。一般論というのは目次ということ以前で
すか。
○角委員 それによって、編別をどうするかというのはかなり左右されると思うの
で、皆さん債権法の改正でどういうスタンスに立つべきだというのは、いろいろな
お考えを持っていらっしゃるのですが、それによって編別のここが気に入らないと
かというのが出てくると思うので、みんなでどこまで改正するかという飲めるとこ
ろを決めておかないと、いつまで経っても平行線になって、まとまらないような気
がします。
今までいろいろなご説明を受けるのですが、大きな話になると、途端にものすご
く理念的な言葉で語られ始めてしまうのですが、その理念的な言葉というのは、私
は、「角さんは理念的なことは苦手だからね」と言われますが、まさにそうなので
す。もう少し抽象度を落とした形で議論をすると、逆に理念的な言葉というのは、
みんなごまかしがあると思うのです。だから、もう少し抽象度を落とすと、それぞ
れが何を言っているかわかりやすくなるのかなということです。私はこの中でいち
ばん理念が駄目な人なので、そんなことはないとおっしゃるのなら、それはそれで
構わないのです。ただ、全体の方針については、本当にかなり腰を落ち着けて議論
をしてもらわないと、説明責任を果たせないと思います。
○鎌田委員長 そもそも債権法を改正する必要があるのかどうかという次元にまで
遡る必要は、たぶん今はないと思います。まさに加藤先生がおっしゃられたような
ことで、改正法がいかにあるべきかを抽象的理念だけでぶつけ合っていても、合意
しても何も生まれないかもしれないというところがあったのです。その1つの手掛か
りとして、が今日はいい機会なのだと思っています。で、編別をどうするかという
のは、何かの理念があるから編別の提案が出てくるので。逆にいうと、抽象的に理
念を語ってくださいというよりものは、こうこうこういう理念だから、こういう編
別になるというようにつなげていただけると、たぶん具体的な手掛かりを持った噛
み合った議論ができるのかなと思います。
そういう意味で総論部分での議論をお願いしたいというのも、本当に抽象的、一
般的にというよりも、だからこういう改正法の形を採るべきだというところにつな
がったような形でお話をしていただけると、ロースクールの授業みたいではない議
論ができるかなと思うのですが、いかがでしょうか。
○廣瀬委員 どのぐらい抽象度が高いか低いかわからないのですが、1つ気になった
ことを申し上げます。それは総則における法律行為や意思表示の中身を契約法、債
権法のほうに持っていくということの意味です。そしてそれについての意見の違い
は、そもそも法律行為論というものにどういう意義を認めるかという点についての
評価の差と関わっているのではないか。皆さん方の議論の中でも、少なくとも濃淡
に差があったような気がするのです。そこには人間の意思というもの、個人の意思
決定というものをあくまで重視するという基本的な考え方があって、それが新しい
民法においても基本に据えられるべきものである、と考えるか、他方、これはヨー
ロッパの学者が近年書いたものを読んだのですが、契約の拘束力の根拠としてはも
ちろん、もう少し一般的にも、意思というものではなく、別の、例えば内容的な正
義あるいは実質的な正義が、民法や契約法の基本には据えられるべきだと捉えるか、
にも関係しているようです。わが国の消費者契約法においては、余計に意思という
ものの意味は薄くなってきて、いろいろな規制が加えられて、ようやく契約という
ものも何とか国家で認められるものになるという考え方が現れているのではないか
と思います。
それが民法典の中で、人一般としたときに、なおも意思というものにウェイトを
置いた形での構成を貫いて、それを主張すべきであるか、それとも契約という中で、
両方の意思表示が合致したところで扱うことで、通則における法律行為一般として
は、意思にはそれほど重きを置かないものを考えるのかというところが、もしかす
ると基本的なスタンスの違いと関係しているのかもしれないと思ったわけです。も
し、これを主張される提案者の中で、法律行為や意思表示の効力の中で通則に置か
れているものも全体の契約の方に移すべきだというのはそういう趣旨だ、というこ
となら、そこを教えていただければと思いました。
○加藤委員 それは大問題だとは思いますけれど、それを民法改正という場で議論
することは適当かどうかということがあると思います。それは基本的に意思に基づ
く自律か、そもそも契約正義か、いずれを追求すべきかは考え方がわかれます。も
ともと大村さんが契約正義論を展開してきたから、契約法に移したのだとは私は思
いませんし、それはここにいる人の中ででも自律か他律かという意思の捉え方につ
いては、随分違うと思います。そこでコンセンサスを得ることは、民法改正のため
の実践的な作業にとっては一致するまでの必要はなく、具体的な問題のあり方につ
き、最後のところで一致すればいいのです。
そういう意味からいうと、これは当たり前ですが、先ほど角さんが言ったように、
民法をなぜ改正するかという問いに、債権法の改正をなぜするかという問いに、答
える必要があるのかと鎌田さんはおっしゃった。確かにこの場では答える必要はな
いけれど、世の中に対してはそれに対する答えが必要なのです。いま我々はこう考
えたから民法を改正するといっても、人々は、なぜ私があなた達の考えに従わなけ
ればいけないのかと誰だって思うわけです。そういった意味で、民法を改正しよう
とし、現行民法と違った提案をするのであれば、この提案には、現行民法よりはこ
ういうメリットがありますよというメリット論を語ることが必要なのです。法改正
というのは現実的な作業ですから、その現実的な作業に合った目的を考えなければ
いけないと思います。
そういう意味からいって、今回の提案が、現行民法よりもどういうメリットがあ
って、学者の学説的満足ではなくて、社会に対してどういうメリットを与えるのか
ということが問題だと思います。そして、もちろん何かをやるときにはメリットも
あればデメリットもあるので、そのメリット、デメリットを総合的に勘案して、こ
ういうプラスがありますという必要があります。たぶん角さんがおっしゃるのは、
そのメリットが見えませんということだと思います。ですから、どういうメリット
があるのかを説明してくださいということだと、私は角さんの話を理解したのです
が、それでよろしいですか。
○角委員 ありがとうございました。私がよくわからないという意味は、いま加藤
先生がおっしゃったとおりですのでよろしくお願いいたします。
○瀬川委員 勉強不足かもしれませんが、私はいまの加藤雅信先生のお話とは逆の
印象を持っていまして、今日の提案のほうが現実の社会に合っていて世の中の人に
は分かりやすいという印象があるのです。ただ、今日の提案によると総則がなくな
ってしまって、理念的な部分がなくなってしまいます。だからこの提案を採ると、
理念的な部分というのは、法学教育とか、法曹が担うことになるのかもしれません。
しかし、こういう条文を作られたら、個々の契約法のルールだけで教育がなされるよ
うになりますよね。それがいいのかもしれませんが、同じ契約法の改正でも、法律
行為の総則の中に条文をかなり残すことも可能です。例えば、今までの意思表示の
ところに加えて、今日の提案で言うと、第3編の債権の第1部の第2節の最初のところ
の諾成主義の規定、あるいはその前の基本原則の規定、あるいは無効取消しの規定、
現在もある心裡留保などを全部総則の中の法律行為の中の契約という所に入れるこ
とも可能だと思います。そして、本当の契約のほうには、細かい申込みと承諾のル
ールとか、そういう細かいルールにしてしまう。つまり、理念的なものの強いもの
を総則に入れて、細かいルールを契約のほうに残すということも可能だと思います。
私は総則というものを条文の中にどういうものとして考えるのかということによ
るのではないか。両方ともあるように思うものです。
○河上委員 例えば、契約法で一貫させて考えるのであれば、契約当事者の能力だ
って当然入って構わないことになりますね。ですから総則の人だって、契約法の中
に入れても構わなくて、残りは準用規定でやるという方法があり得るわけですが、
それはやらないわけです。つまり、人の部分については残し、法律行為のところだ
けを移しというバラバラにしていくことが本当にいいのかどうかということで、か
なり恣意的に入れているという印象は否めません。
もし可能であれば、総則のところは動かさないことにしておいて、総則の法律行
為に代わって「契約」という言葉で契約法のところに書いてみるということであれ
ば、私はそれで一応議論してみても構わないのではないかと思います。その結果、
こちらのほうにあって、総則のほうから削ったほうがいいという話になれば、総則
を削るなり、これは総則で行けますということになれば、総則のほうに置いておく
というようにして、あとの配置を考えていくというようにしていいのではないかと
思います。
例えば、94条2項などは、いろいろな所で使われていますが、契約法のところに来
た段階で、それが使われるほうが勝手がいいのか、あるいは総則のところにあるも
ので、ほかの所で使われたほうが一般的な位置づけとしては格好がいいのかという
のは、またそれぞれに問題として考え得ると思うので、とりあえず総則は総則で規
定を置いておいて、契約法のところで望むらくは、法律行為を契約と書き換えた条
文で理想型を作ってみるというやり方でやってはどうかと思います。
○加藤委員 「ノイラートの船」という言葉があって、船を修繕するときに、航海
中の船を修繕するのは、航海しながらしか修繕できません。現在の民法が使われて
いるときには、現在の民法が動いている社会を前提にするしかありません。そして、
例えば法律行為を契約法に全部規定したらいいかというとき、それに慣れている現
在の法曹たちが、どういう具合に捉えるか。仮に、現在の法曹には不便でも、未来
の法曹たちの負担が軽くなるというのだったら、私はそれでも構いません。しかし、
そういうメリットがなくて、何となく学術的・学理的に分かりやすさを追求すると
いうのだったら、私はそういう発想には反対します。
それから、これは先ほどから何人もの方がおっしゃっていますように、民法総則
は、民法の総則であるばかりではなくて、法律学の総則でもあるのです。そこのと
ころの意味もやはり押さえなければいけない。そういった意味で、我々がこちらの
ほうがいいと、あまり気楽に考えてはいけない。そういう意味では、先ほどどなた
かがおっしゃったように、我々は謙虚に自制的に振る舞わなければいけないと思い
ます。
○大村委員 いくつかのレベルのご議論があるように思います。契約に関する規
定をまとめるのが分かりやすいかどうかというところも見方によって違うかもし
れません。しかし、一定の人にとっては、それは分かりやすいだろうというのは、
加藤先生も認めていただいたところだろうと思いますし、瀬川先生はそれが大事
だとおっしゃってくださったかと思います。ここは、ほかのことを括弧に入れれ
ば、少なくとも契約のところにある種の規定があるということは、それ自体につ
いては見通しがよくなるということなのではないかと思います。
その上でいくつか別の要請が出ているかと思います。1 つは、原理的な問題で
あって、総則中に法律行為の規定を置いておくことの意味をどう考えるか。これ
は繰り返しになりますが、私は人、物、法律行為という基本概念が総則にあると
いうことは必要だと思っています。今回の編成案はその前提で作っております。
今後、授業でどう扱うかはわかりませんが、個別の契約について教えるのとは別
に民法が主体と客体と行為を要素としているということは教えられるべき事柄で
あって、そのための根拠となる規定がなければいけないと思っています。ここは
たぶん具体的な案に反対されている方も、そこはそうだということで、たぶんこ
の場は一致できるのではないかと思っています。
そのことのために総則にどれだけの規定を置く必要があるのかというのが 2 番
目の問題だろうと思います。そして、3 番目に、総則の規定を動かすことによっ
て、実際上の不便がどの程度生ずるのかということがあって、先ほどの準用の問
題にもありましたが、これはどのように考えるのか。これは十分に対応すること
が必要だろうと思いますので、考えていかなければいけないと思っています。
そのことと絡むのですが、法律行為の概念は、確かに重要です。加藤先生ご自
身にも伺いたいのですが、我々は考えるときに法律行為という非常に抽象的な概
念を頭の中に持っていますが、契約というのを基本的なカテゴリーとして考えて
いることも極めて多いわけです。そして、確かに法律行為の規定は単独行為にも
適用されますし、身分行為にもあるいは物権的な行為にも適用されますが、その
ときには法律行為の規定をそのまま適用していいだろうかどうかを考えているわ
けです。一般理論が妥当しない場合があるという前提でもう少し抽象度を下げて
処理をしているということだろうと思います。この処理の仕方は規定の置き方に
かかわらず、変わらないと思います。変わらないように目次を定めるべきだと思
います。従来のように、契約については法律行為の考え方を当てはめる。契約の
ところに規定が置いてあろうとなかろうとそうであって、その他のものについて
は法律行為という形で抽象化されるが、どの考え方がどこまで妥当するかと我々
は個別に考えてきたわけです。それを今後も考えていくことになるということで、
そこもたぶん基本認識自体はそうは大きくは動かないように思います。
そうなると、あとはそれぞれの方々が、いま申し上げたような要素について、ど
のような重み付けをされるかということと、見かけ上、目次が変わることが非常に
わかりやすいと感じるのか、当面馴染みにくいと感じるのか、それがどのように世
の中に受け止められるだろうかということの感覚、後ろの 2 つの要素で先ほどのよ
うなものについての重み付けが変わってくるのたろうと思います。前に申し上げた
3 点は、それぞれについて加藤先生にも賛成していただけるのではないかと思いま
すが、いかがでしょうか。
○加藤委員 法律行為というときに、普通は契約を念頭に置いているというのはお
っしゃるとおりです。私は民法第一部を教えるときに、パンデクテンの順番どおり
に教えていますが、法律行為にたどり着く前に、制限能力に基づく取消しや、意思
無能力による無効を教えなければなりません。そのときは、とりあえずは「法律行
為を教えるまでは、契約の無効取消しと考えようね」といって教えています。そう
いった意味で典型的に契約が問題となるということは大村さんがおっしゃるとお
りです。
例えば、現行民法を見ますと、売買の規定は有償規定に準用するとなっています。
実は売買の規定が有償規定総則の意味をもっているのです。私はパンデクテン派で
すから、それらの規定を全部契約総論の有償規定原則として規定して、売買のとこ
ろからは削りました。発想法としてどちらがわかりやすいかということです。
大村さんたちが提案なさっている準用規定とは、契約法に総則的機能を与えると
いうことです。それが先ほどどなたかがおっしゃった「契約栄えて、他は滅ぶ」と
いう発想なのです。たしかに、パッと理解するためには、具体的なもののほうが分
かりやすい。しかし、具体化された契約は分かりやすくなったとしても、契約以外
の所についてイメージがつきにくくなるわけです。ですから、そこをどう考えるか
というのが問題です。
もう 1 つは、準用規定、準用規定といっても、どこで、どういう欠落があるかわ
かりません。そういう意味で現行の民法総則ということは、層化、重層化してきた
ことによって、もちろん適用するときに何らかのモディフィケーションが必要かも
しれませんが、構造的に漏れがないという構想になっているわけです。しかしなが
ら、契約法がいくら実質的に総則的機能をもつといっても、民法典の冒頭に規定さ
れているわけではない契約法は、構造上、すべてに適用されることはありえません
から、準用規定、準用規定として、たくさんの準用規定を置いたとしても、どこか
が法典から抜けてしまう可能性があるのです。それは解釈などで適当に補っていく
こととは思いますが、そういう問題が 1 つあります。
さらに、準用規定といっても、先ほど始関さんがおっしゃったように、準用とい
うことについて厳しい見方がとられるということになると、準用ではなくて、各所
に具体的規定を置く必要が出てきます。具体的に規定を置くということは、条数が
増えていくということです。その条数が増えても構わないという方もありました
が、法律に習熟していない人は、見てわかりやすい条文を歓迎すると同時に、たく
さんの条文を勉強するのは嫌なのです。できるだけコンパクトに勉強したいので
す。そこのところのバランスが問題で、私はある程度きれいに抽象化したほうが、
ものはわかりやすいと思うタイプの人間ですし、抽象的なのは嫌で、具体的に各論
的に問題を考える、たくさん時間をかけるのがいいというタイプの人と両方いるか
ら、白紙で民法を作るのであれば、何も私もパンデクテンだけがいいとはいいませ
ん。白紙で作るのだったら大村さん達の案もありだと、最初に言ったのはそういう
ことです。
でも、抽象的なコンパクトな法典と、具体的で膨大な法典とのメリット、デメリ
ット裏腹だと私は思っています。パンデクテンのメリット、デメリットと大村さん
たちの提案のメリット、デメリットは裏腹なので、別段、原理的に私のほうが優れ
ているといおうとは思いませんし、そんなことを議論しても、自分たちのことを誇
示するだけで意味がないと思います。
現段階で考えていかなければいけないのは、原理的にいずれがよいか、という問
題ではなく、社会的コストだと思います。メリット、デメリット裏腹で、どちらと
も優劣分からないのだったら、そのために変革の社会的コストをかける必要がどこ
にあるのか。それが私の基本的疑問だと思いますし、おそらく角さんがおっしゃっ
ている総論的なこととも結び付くのではないかと思っています。
○池田委員 そろそろその話は収斂してきたのではないかと思います。私自身はや
はり加藤先生が言われたように「なぜ民法を直さなければいけないの」というのに、
どれだけ説得的に答えられるか自信はまだありません。ここまでみんなでやってき
たことで、いま大村さんがお話になったように、人、物、法律行為(主体、客体、
行為)という基本概念は総則に置くというのは、大村さんも反対していないという
か、賛成しています。
準用のところは、いま加藤先生からもお話がありましたが、先ほど始関さんも言
われたように、なるべく準用規定を少なくしようとしたら、総則のところの共通規
定は、ある程度しっかり置いておく必要があるように思います。
そして、契約から取りかかるのがわかりやすい、説明しやすいというのは、大多
数の皆さんが実際にそう感じていると思いますし、私もそのように感じますので、
このスタンス自体を、私は否定するわけではありません。そうすると、その辺から
も大村さんが最後に言われたように、契約から取りかかるという発想を、どの限度
で達成できるのかというところで落とし所が出てくるのかと思います。
私は結果的には、加藤先生が言われたような編別をまたがないやり方、いま総則
にあるものは総則にというのにかなり近くなると思います。具体的に申し上げます
と、今回の資料1の2頁の債権編の細目次で言いますと、まず第3節第2款の代理、第1
目基本原則、第2目表見代理、第3目無権代理、これは先ほども私が申し上げたよう
に、任意代理と法定代理、両方があって、それは「人」というものにかなり近づく
ものですから、法律行為という意味からも、人との近づき具合ということからも、
「代理」は民法総則に置くべきである。だから、第3節第2款は総則に戻すべきであ
るというのが私の提案です。
それから、第2節第2款の契約の無効および取消し〔契約の有効性〕の中の第1目無
効および取消しの原因、第2目無効および取消しの効果の主要部分は、現在の総則に
ある無効取消しになると思います。総則の無効取消しは契約以外のことでも出てく
る、というのは先ほど大村先生の説明にあったとおりで、この第1目、第2目は総則
の所に戻す。そうすると第3目の契約条項の無効というのが残りますが、これは今の
無効取消しとはまた違うので、これを第2款にして、契約条項の無効とされるもよし、
それは自由にご検討いただければいいと思うのです。しかし、現在の民法総則にあ
る無効取消しは民法総則に戻すべきである。
それから、第3章の第7節に債権時効とあるわけですが、ここに入れるというのは、
時効は権利消滅原因と考えておられるのか。物権の所と債権の所に分けて規定する
というよりは総則に戻して、「時効」は総則にまとめたほうが効率がいいだろうと
思っておりますので、これも戻すべきである。そうすると、基本的には「代理」「無
効取消し」「時効」は全部総則に戻るということになります。私の中での積極性と
いう意味では、代理と無効取消しは絶対総則に戻ったほうがいいと考えていますが、
時効については、取得時効および消滅時効というのと、物権と債権に分けてうまく
規定できれば、それでもいいではないかと言われると、それは見せていただいて考
えるべきかなという気もします。したがって優先順位からすれば少し落ちるかもし
れませんが、時効も総則に戻るべきである。そうすると、結果的には、加藤先生が
おっしゃるように、編別をまたがない処理になるかと思います。
もう1つ。第7章有価証券というのが最後に付きますが、これについては先ほど、
補章の意味であって受け皿となる位置を示したものだということでしたが、私は、
有価証券に関する規定は商法や会社法の各条文に譲るようなことをイメージしてお
りましたので、置くほどのことがあるのだろうかという疑問を持っております。
さらに細かいことを言いますと、期間の計算、これを法の適用に関する通則法に
移すということが表紙に書いてありますが、法の適用に関する通則法の位置づけを
どう考えるか。それから、現在期間がここに置いてあるのですが、私がここを話す
ときには、年齢計算の例外的な計算の仕方を一緒に話すのです。事ほど左様に、民
法を市民の基本法として考える場合には、そういう話が総則に置いてあることによ
ってつながるのです。これを外してしまえば、取引法的発想を重視する所と平仄が
合っているのかなと。そこまで細かいことをどうこう言う必要はないかもしれませ
んが、期間の計算法を通則法に移すというのは良いのか悪いのか、私としてはあま
り釈然としないところがあるのです。これは「時効」の所へ組み込んでしまっても
いいものだと思うので、自分の教科書ではそうしてしまっているのですが、その辺
りの処理でよろしいかと思います。とりあえずは以上です。
○大村委員 まず、加藤先生のご発言を伺いました。いろいろなところについて
判断の差はあるとは思いますが、私が先ほど整理した後ろのほうの社会的影響、
そういうところの考え方が重要であるということですね。
○加藤委員 大村さんと私とは考え方が逆なのだけれども、別に二つの考え方の優
劣を争う気はありません。要するに、大村さんの考えているのにもメリット、デメ
リットがあるし、私のパンデクテン的な考え方にもメリットとデメリットがある。
そこのところで、こちらのメリットで大村さんのデメリットを攻撃する気もありま
せん。もし、裸の状態で、はじめて民法を作るのであれば、どちらがいいかは国民
の意見を聞くべきだと思います。
ただ、現在、一世紀以上にわたって日本民法典が機能しているという前提があり、
それを変えようとするときには、変えるだけのメリットの立証責任は大村さんのほ
うにありますよということです。
○大村委員 ご趣旨は分かりました。この案にメリットがあると思って私どもは
取りまとめたのです。そのことはまた皆さんの間でご議論になると思いますが、
議論の整理としては、先ほど加藤先生と私とでほぼ一致したのではないかと思い
ます。
○加藤委員 結論は逆ですが。
○大村委員 結論は逆ですが、整理の仕方としては一致したのではないかと思い
ますが。
それから、池田先生の具体的なご提案が今ありましたので、具体的な提案以前
の話がもしもうよろしいということになれば、是非、池田先生のご提案を出発点
にして皆さんでご議論いただければいいと思うのです。それとの関係で池田先生
から、無効取消しに関する規定と代理に関する規定、債権時効に関する規定を総
則に戻すということで重み付けをしていただいたかと思います。この重み付けと
いうのが非常に大事で、どこかで線を引くというときに、ではどこで線を引くの
かということにもなると思うのです。
ちょっと横道に逸れますが、第 3 章は債権の消滅等となっています。「等」は
消滅とは限らないという趣旨です。これはここでもいいかもしれないということ
だったのですが、残りの「代理」と「無効取消し」については全く同じようにお
考えなのかどうかということについてご意見を伺えればと思います。例えば無効
取消しの所について、「契約条項の無効」はここに残してもいいのではないかと
池田先生から言っていただいたのですが、先ほど問題になりました、消費者契約
法の 4 条の規定を取り入れるということを考えたときに、それは「法律行為」の
ほうをお考えなのでしょうか、それともこの「契約」の場所をお考えなのでしょ
うか。
○池田委員 私がいま申し上げたものの中では、具体的に消費者契約法の何条がど
こということは一切考えておりません。基本的に、契約だけで出てくる無効取消し
という話ではないでしょうということで、無効取消しの条文として現在あるものを
総則にお戻しになったらということです。債権法全体を自由に見直すというのがこ
の委員会のやるべきことだと私は思っていますので、契約条項の無効という項目を
立てたいと言うのならば、それはどうぞお立ていただいて、それをまた我々に見せ
てください、というだけのことです。
○加藤委員 基本的に、池田さんの移動の案を支持したいと思います。ただ、反対
の軽重の問題で、時効について、総則に戻す必要はないとは私は思いません。とい
いますのは、仮に時効を総則からはずすとしても、形成権の消滅時効の問題は、債
権法の時効や物権法の時効では解決できません。やはり、総則に残さざるをえない
と思います。
それから、相続回復請求権の消滅時効については、いろいろな議論がありますが、
仮に現行民法884条の文言どおりにそれを消滅時効と考えるとしますと、相続法
に規定されたその時効についての、時効総論的規定の適用は、債権時効とか物権時
効では解決できません。「代理」も「無効取消し」も「時効」も一括して総則に戻
していただきたい。そういう前提で池田さんの意見をセコンドしたいと思います。
もう 1 つ。消費者契約法の規定の無効取消しをどう置くかということなのですが、
私は、民法の一覧性というのを非常に重要視しているのです。ですから、消費者契
約法に別に規定されているだけで民法をみても分からない、というのは問題だと思
うのです。ただ、これは先ほど河上さんが問題にしたこととも絡むと思うのですが、
消費者契約法の変動性というのは、民法の一般規定よりずっと激しいと思うので
す。そこのところも社会の力関係で決まったところがありますが、今後とも、もう
少し変わっていく可能性はあると思います。そういうことを考えると、先ほど継続
性と安定性ということをおっしゃいましたが、民法が消費者契約法を取り込むこと
による民法典それ自体の改正を繰り返すことは避けたほうがいいと私は思ってい
ます。
私たちの改正提案ではどういう具合にこの問題を解決したかといいますと、無効
取消事由に不実表示という項目を加えた。これは磯村さんが提案したのですが、そ
の規定を入れて、ここで言う言葉で「一般法化」しました。それ以外は、民法典を
見たら消費者法に無効取消事由が規定されていることが分かるように、消費者契約
法に無効取消事由が規定されているということのレファレンス規定を民法の無効
取消権の所に置いたのです。そういったレファレンス規定を置くことによって、こ
の問題は相当程度解決できるのです。確かに、消費者契約法の無効取消しは法律行
為一般ではなくて、契約の取消しです。ですけれども、レファレンス規定の形で置
くならば、法律行為の無効取消権の所に消費者契約法の特則があるということをレ
ファレンスしておくのだったら構わないと思います。そこで、私たちの改正提案で
は、民法総則の法律行為の所に消費者契約法のレファレンス規定を置いています。
○池田委員 私も順番を付けるような発言をしました。そのときに、債権時効のほ
うは、うまく説明ができれば残してもいいと言ったのは、現在の取消権の消滅時効
のようなものが、このやり方だと、債権時効のほうに吸収しておやりになるのかな
と思ったからであって、形成権の時効というものが概念としてそのままあるのであ
れば、それは物権、債権に分けては処理できない。この点は、おっしゃるとおりだ
と思います。
○鎌田委員長 ここで10分間休憩を取ります。
(休憩)
○鎌田委員長 それでは再開します。いずれにしろ、これから個別の提案について
の審議をしていくので、大まかに、今日提案されたような編成案に従って審議をす
るとどれぐらいの日数がそれぞれの項目に充てられるかについて資料を作ってもら
いました。それでいくと、この問題について今日ここで決着をしないとなかなか厳
しいことも確かなのです。完全にここで合意が形成できるともあまり思えないので
すが、同時に個別の提案を見ていって、これはやはり総則に戻したほうがいいよね
という議論の仕方もあり得るところだろうと思います。そのためには、淡々と提案
内容を各論的に審議するだけでは足りないので、今日みたいな形で審議するか。ま
た、個別の提案に即して編別を議論するにしても、お手元にいまお配りしていただ
いたような日程だと少しきついので、少なくとも1日か2日は日程を追加しておきた
いと思います。年を越しますと毎週土曜日ということですから、それが毎週土・日
になるかもしれないのですが、年内は少し飛び飛びなので、この間に追加の日程を
入れることが可能かどうか。今ここにいらっしゃる方の中でも、それは駄目だとい
う方がどれぐらいいらっしゃるかをお伺いしたいのです。
(日程調整のための打合せ)
○鎌田委員長 では12月21日(日)に入れさせていただくということも射程に入れ
て日程調整をさせていただきます。
先ほど、総則との関係につきまして加藤先生、池田先生からご提案が出されてい
るわけで、これについて、ほかにご意見などはございますか。
○野村委員 それ自身についてということでもないのですが、いままで議論されて
いるのは、どちらかというと契約の所に置いて契約に関する規定をずっと続けて規
定するということですので、もし元に戻して総則のほうに移してということになる
と、両方に分かれることになって、やや見通しが悪くなるかなという気がしており
ます。仮に総則のほうに戻すのであれば、契約のほうの見通しの悪さが解消するよ
うな、方法を考える必要があるのではないかと思います。極端に言えば、錯誤なら
錯誤について総則としての規定もあり、契約特有の規定の書き方をするということ
も考えられるのではないかと思います。ちょっと煩雑になるのかもしれないのです
が、その辺も考慮していただいたほうがいいのではないかと思いました。
○加藤委員 いまの案も 1 つありうるとは思うのですが、二重に規定を置くのもど
うかと思います。先ほど私は消費者契約法について、民法総則の無効取消しの最後
に、契約法の無効取消権についてのレファレンス規定を置くと言いましたが、契約
の所に「契約の無効取消し」という条文を置いて、この契約の無効については民法
総則の何条から何条までのほか、消費者契約法の場合には、消費者契約法何条の規
定が適用される、という条文を見れば、契約法を読んでいっても分かりますので、
そういった形もあり得るかとは思います。
○鎌田委員長 先ほど河上先生からご指摘があったように、「人」の所の制限行為
能力による取消しというのも「契約」の取消原因のほうには入っていないわけです
から、それも含めて、そういう見出し的な規定を設けるというのは、1つの案として
はあり得るかと思います。ほかにいかがですか。
○角委員 このスケジュール案の話なのですが、例えば1月24日の所に無効取消しと
か、契約の当事者で代理について議論するとあります。私も河上先生と同じで、前
半はほとんど出ていなかったので事情が分からないのかもしれないのですが、ちょ
っと唐突の感がいたします。
それは置いておきまして、何で債権法を改正するのかとか、債権法の改正は何の
ためかと。いま目次や編別をどうするかということに関してだけ伺っていますと、
契約フレンドリーな民法にするということがあると思うのです。契約フレンドリー
にするのはよろしいのですが、「フレンドリー」の程度というのが問題です。先ほ
ど安永先生がおっしゃったように、契約フレンドリーにする余り、ほかの友達はみ
んな捨ててしまうというところがあるように思います。確かに、世の中で契約とい
うのは非常に大きな重みを占めていると思いますが、契約だけのために民法がある
わけではないわけですから、そこのところをなぜここまで契約フレンドリーになさ
るのか。総則から法律行為を引っ剥がしてここに持ってくる、そこのところのご説
明が先ほどから全然伺えてないのです。こうやると契約で一覧性があるというのは
確かですが、本当に民法全体から見て、総則から引っ剥がしてこうしたということ
の他とのバランスとか、やはりこれがいいというお答えをいただいていないので、
お願いできればと思うのです。
○安永委員 言葉が一人歩きして私の言わんとする趣旨が誤解されているように思
うので一言。確かに、契約法が分かりやすい形に全体が構成されているということ
にはなるのですが、総則の部分がいわば留守になってしまう。しかし、ご説明では
これは「準用」ということで処理ができる、つまり、法律行為の条文の主要な部分
は確かに契約法の中に移ってしまうけれども、従前総則のルールで処理されていた
いろいろな事柄も、変わりなく、この新しい提案全体で処理できるのだ、心配は要
りませんと、そこを見せてもらえれば、私としては、こういう改正もあるかなと、
そういうつもりで申し上げているのです。総則の部分は一見空になってしまうよう
に見えるけれども、しかし実は必ずしも空になっていない。その点を十分説明して
いただいていないというふうに印象づけられているのですが、準用という言葉でお
っしゃっている部分をもう少し丁寧に説明していただければありがたいです。熱い
議論をしている人たちとは違って、ある種の不安が我々の側にはあるので、そこの
ところをもう少し見せてほしい。本当は、今後細かい中身の議論をする際に、そう
いうものを見せていただけるのだと思うのだけれども、今この瞬間、全然その見通
しが分からないのでやや不安だという趣旨なので、いま見せてほしいのです。つま
り準用という言葉で何が語られているのかということを、もう少し具体的に見せて
ほしいのです。そこが私としては懸念だと、そういう趣旨で申し上げているのです。
全体として強く反対しているという趣旨では全くありませんので、誤解のないよう
にお願いします。
○森田(宏)委員 何を議論しているかということについて確認したいと思います。
議案 2 の提案そのものは、「提案審議のための改正民法典の編成」、つまり、これ
からどういう順番で審議していくかということです。もっとも、必ずこの順番で審
議していくわけではなさそうなのですが、それは措くとして、例えば、この議案 2
について、加藤先生が、最終的な構成については私は反対だけれども、審議の順番
はこれでいいよと言われたら、それで合意が成り立つということなのかなとも思っ
たのですが、事はそれほど単純ではなくて、どこに規定を置くかによって提案され
る案のあり方も変わってくることも考えられます。先ほど、総則と契約にそれぞれ
「法律行為」を置いて、総則のほうは法律行為一般、契約のほうは契約における具
体化という案で考えるということになると、そういう案で規定を置くのか、それと
も契約だけに規定を置くのかによって、第 2 準備会の準備の仕方も変わってくるよ
うに思います。
鎌田先生の先ほどのまとめによりますと、これは審議の順番ということですが、
中身が決めったうえでの編別構成を考えると、例えば、債権時効がどうなるかにつ
いて、これは内部でもまだ決まっておりませんが、かりに権利消滅構成という形を
採ることになれば、むしろ総則に持ってきたほうがよいということになるかもしれ
ない。しかし、そこはまだ決まっていなくて、さしあたり議論していく順番はこれ
だというのが議案 2 だと思います。そうすると、規定の内容が定まったうえでの最
終的な編別構成というのは、どこでどういう議論をする場があるのかというのが、
このスケジュールだと、まだよく分かりません。
もう1つは、先ほどから準用規定を置くという話が出てきましたが、準用規定と
いうのはどういう形で置けるのだろうかという点です。法律行為一般についての規
定が総則にあればその適用になるのでしょうが、それが総則にはないという前提で
どこかに準用規定を置く。例えば、相続の承認・放棄について、「これらについて
は契約の規定を準用する」という規定を相続の放棄・承認のところに置くのか、そ
れとも単独行為一般について規定するところで、「単独行為については契約の規定
を準用する」という規定を置くのか。ただ、準用の準用は駄目だということになり
ますと、あり得べき解答も限られてくるように思います。いまの安永先生のご意見
を伺っておりますと、準用規定というのは一体どういうものになるのかということ
についても併せて具体的に示してもらって、その良し悪しで最終的な編別構成はど
ちらがよいかを決めたいというニーズもあるように思われます。準用規定はどこで
提案するか、そこまで各準備会の提案内容に含まれているのか、それとも、第1準
備会でそれぞれの規定を動かしたことによって、準用規定がどこにどういうふうに
置かれることになるのかも検討したうえで提案されるのか。最終的に改正がなされ
たときには、総則の「法律行為」が無くなって、準用規定もないというわけにはい
きませんので、何らかの形でそれについての提案もされなければならないというこ
とになるとすれば、それはどのタイミングで、どこから提案されるのか。そういう
ことについての見通しがあるか無いかによって、いまの議論も変わってくると思い
ます。全体についての見通し、この議案で決まると何が残されていて、残された問
題はどういう形で今後決まっていくのかということについての見通しが明らかに
なると、もう少し議論が収束していくのかなという感じを持ったものですから発言
させていただきました。
○鎌田委員長 いま森田さんのご指摘の中にもありましたが、ご覧いただければ提
案審議のスケジュールはこの順番になっていないわけです。これは順番を決めると
いうよりも、今後の提案審議を進めていく前提として、どういう編別を念頭に置い
てそれぞれの提案内容を作っていくかということです。契約の中に置かれる条文な
のか、民法総則に置かれるのかによっても、表現ぶりや内容が変わってくる。そう
いう意味では、順番よりもむしろ、今後提案の内容を決めていくときにどういう編
別を構想するかということですから、ずっとやっていって、全く編別に関する異論
がなければ、このままの編別の完成品が出来るということになります。しかし、1個
1個の中身を見ないで確定することは難しい。中身を審議していくうちに、これはこ
この位置よりも、やはり総則だというようなことが出てくるのを排除するわけでは
決してないのです。
○加藤委員 提案されたのが通らなくても、この順番でやるということですか。
○鎌田委員長 審議の順番自体は、例えば無効取消しが総則に入れば、それは総則
の内容で審議をすればいい。順番の前後まで入れ替えなくても、ほぼ対応できると
思うのですが、どうですか。
○山本(敬)委員 ただ、これは契約法を作るという前提でしか並んでいないので
す。かりにここに規定を置いた場合に、これまで総則の法律行為の規定で処理され
ていたことが今後どうなるのかという見通しは、この議論ですぐに出てきますか。
○加藤委員 仮に大村さんたちが提案なさった案が通ったら、この日程では全然足
りない。要するに、遺言とか何かの無効取消しをどこで準用するのかとかを規定せ
ず、これで終わったら、無茶苦茶な、穴だらけの案です。この日程では絶対足りま
せん。総則に規定されていれば、自然に各則に適用されるけれども、自然に適用さ
れない民法の中間に無効取消規定を置こうというのに、それについての準用方式の
検討が全然ない。
○大村委員 準用関係は、この位置にこれが出来たらどういう準用規定を設けな
ければいけないかというのはそれに付随して全部。
○加藤委員 それは本末転倒だと私は思うのです。どういう枠組みをやるかという
ことが決まってからスケジュールを決めるべきで、これは提案どおりにしなさいと
言わんばかりのスケジュールで、全体会議での議論は単なる儀式という前提で、ち
ょっと失礼です。
○鎌田委員長 そういうふうにおっしゃられるのは重々承知の上なのです。ただ、
次回11月15日にどこかに報告の準備をしてもらわなければいけないのです。
○加藤委員 11 月 15 日とか初めから決まってしまっているところはいいけれど
も、先のところは、状況が変わったら変えないといけないと思います。
○鎌田委員長 例えば無効取消しの原因、効果は大体民法総則を引き継いでいます
から、民法総則の意思表示、法律行為の項目としてこの内容を審議する。代理も代
理のひとまとまりで、民法総則の代理として審議をしていただくということになっ
て、編別これを組み換えると総則から順番にやらなければいけないというわけでも
必ずしもないし、それは微調整してもいいのです。これも実際上機械的に割っただ
けですから、この会はすごく短時間でできるとか、ここは3つしか項目がないけれど
も、ものすごく時間がかかるというものがあるので、最終的な審議の内容について
は微調整があると思います。しかし、大まかな見通しとして、これからひと通りや
っていただくのに2月末までかかってしまうということをざっと見ていただきたい。
3月に4回で第2読会を終わらせるにしても、2月末までにひと通りやるためには、例
えば11月15日の内容1つを取っても、まる1日やっても足りないぐらいの内容を持っ
ていますから、逐条審議の形には基本的にならない。事前に資料を配付してもらっ
て、基本的な考え方について議論を闘わせていただくというやり方しかトータルと
してできない、ということもご覧いただいたほうがいいのかもしれないのです。と
同時に、この種の議論がまとめてできるのは今回か、日にちを追加すれば、もう1回
ぐらいしかないので、一応この日程の中でご議論いただきたいというイメージを得
ていただくためには、むしろいま加藤先生にご指摘されるようなことは当然出てく
るだろうということを前提にしつつ作って配付してもらった、ということで今回は
ご理解いただきたいと思います。内田さん、私の説明で足りない部分があれば補足
してくださいませんか。
○内田事務局長 もともとこのスケジュール案は、原案をご承認いただく前に配付
するつもりが全くなかったものです。もし原案が承認されなければ配付する予定も
なかったのです。ただ、今後の審議のやり方が、総則に戻す、あるいは同じような
規定を総則にも置くといった形で審議のやり方を早急に変更しなければいけないと
いうことになりますと、全体のスケジュールを見ながらご議論いただいたほうがよ
ろしいのではないかということで、ご批判を受けるのを重々承知の上で配らせてい
ただきました。
○瀬川委員 審議日程のことから離れるのですが。角さんのお話で、総則は野とな
れ山となれだということですが、それでいいではないか、民法総則を持っていない
民法典もたくさんある、民法総則を持っていても、時効がないし、法律行為がない
という所もあるのだから、総則は分解してしまっていいのだ、どこが悪いのかとい
う議論も成り立ちます。結局問題は、最初1回、2回目の全体会でしたか、この改正
を何のためにするのかということを議論しましたが、今の段階できちんと議論しな
いと、総則に盛り込む内容が決まらないという感じがするのです。
私自身は、国民に分かりやすい法典にする。そうした場合には、具体的な問題の
所になるべく引き寄せたほうが分かりやすいだろうと考えていたのですが、他方で
加藤先生がおっしゃるように、そうしたら準用をいろいろ作らなければいけないこ
とがある。加藤先生のおっしゃる準用の問題は、確かに国民に分かりやすいかわか
りにくいかということもありますが、今までだと法律家がやっていた総則の規定の
解釈や適用をどうするか、たぶんそこの問題をイメージしていらっしゃると思うの
です。
必ずしもつながった話ではないのですが、ヨーロッバでこれだけ総則が揃ったと
いうのは、ドイツ法がいちばん近いわけですが、ドイツ法でも取得時効は総則に入
れていません。それで、日本民法で何でそこに入れたのか。しかも債権と物権を対
比させている。ドイツで物権と対比されているのは債務、しかも債務関係なのです。
これはフェアヘルトネスで、たぶんサビーニ以来の考え方から「債務」とはしなか
ったと思うのです。明治のときに民法典を作った3人の先生の議論を見ていると、日
本の民法典があえて物権と債権を対置したのは、1つのモデルを作らなければいけな
いと考えていたからだと思います。つまり、それまでの日本社会のシステムにはな
かった新しいシステムを作り上げる、モデルを作るつもりだったと思うのです。100
年経って、そのモデルがかなり定着したところで、今度の民法典を、どのレベルを
目線に置いて作るのかという辺りの共通認識が必要なのではないかというのが私の
意見です。私が最初に発言したのは、今までは法律家に目線を置いて民法典を考え
たけれども、もう少し一般の人の所に置いたらどうかということです。先ほど加藤
先生は、これはもう分かりやすくしただけだとおっしゃいましたまさに分かりやす
くすることが目的だと思うのです。もし、そうではない、あるいは何か別の所が目
的になっているとすれば、目的の所を議論しないと、この先この問題が残ってしま
うと思うのです。ただ、目線を下げたときに伴う別の問題があるので、どこまで意
思一致できるかは別ですが、その辺の忌憚のない話をした上で先に進めるほかない
と思います。
○大村委員 いま瀬川先生に言っていただいたことに尽きるのです。角先生から
先ほど、契約を中心にして編成することがなぜいいことなのかということについ
て説明していないではないかと言われましたが、瀬川先生がいまおっしゃったよ
うに、契約を中心にして編成することによる見通しのよさというのが一方にある
と思うのです。そのことは言ったつもりなのですが、見通しはよくなっていない
ではないかということならば、それはそういう議論として承りたいと思います。
ただ、そのことの強調が足りないではないかということだとすると、それは考慮
すべき事柄の一方の要素でありまして、他方の要素として、総則にある抽象的な
概念を維持することも意味のあることだと思っております。そちらは今そうなっ
ているから、それ以上言うことはないのかもしれませんが、それにも十分な意味
を認めるということです。私自身は、その 2 つの要請のバランスをとるというの
が編成案について議論することだと考えているのですが、それでは足りないとい
うことでしょうか。
○角委員 まさにそこが、私はそうは思わないことなのです。いまの現行民法が持
っているモデル、あれは非常に考え抜かれたモデルだと思うのですが、それを壊し
てしまうという感じがして、しょうがないのです。それで、壊してしまって大丈夫
か。法律行為は総則に残すけれども、いま中核の規定は全部契約に行くと、「適用」
という話が「準用」になってしまったら、本当に書けるのか。何度も繰り返しにな
りますが、民法というのは日本のほかの法制度のベースにもなっているわけで、い
まの民法の編別というのがあってこそベースになれていると思うのです、条文の中
身の話もありますが。だから、それを1回ご破算にしてしまったら、ほかのところに
あまりにも波及効果が大きい。契約は見えるようになるかもしれないけれども、ほ
かへの影響というのがあまりにも大きいのではないか、私はそう思うのです。これ
は全く私の個人的な意見なのですが、人間の知恵が積み上げられてきたものを、そ
んなに簡単に壊してしまっていいのか。それで社会が出来上がっているときに、非
常に微妙なバランスで出来上がっているものをバーンと壊してしまったときに、民
法はいい、契約法はいい、しかし、ほかのところは大丈夫ですかという、そこの納
得が得られないというところだと思うのです。
○瀬川委員 2つの問題を区別しないといけないと思うのです。ほかのところは大丈
夫かという問題があるのは、そのとおりだと思います。この提案からすると、例え
ば第4章の物のところは、たぶん対応の仕方が違ってきて、これは物権の所に基本的
に戻しますし、法定利息の所は債権法に戻すべきです。現行民法典の場合も、起草
者は、物の規定を物権の所に入れるか、総則に入れるかで相当議論しているので、
もし、いまのような発想だったら、これはやはり物権の所に戻して、利息の所は債
権法に戻す。取得時効についても、中断事由としての承認というのは取得時効の場
合と消滅時効の場合と相当違うので、これもきちんと議論しないといけない。だか
ら、物権のほうの取得時効の所は、きちんとまた考えなければいけない、そういう
手当はあります。しかし、それと総則を小さくしていいのかどうかというのは別の
問題で、持っていったところで、きちんと作ればいいわけです。物権が駄目になる
とか、そういう心配はないと思います。
それと、これまでの法律行為の相当部分や時効規定を総則に維持しなければいけ
ないということの積極的な理由を何か言っていただいたほうがいいですね。
○角委員 それはお話したつもりですが。
○瀬川委員 言っていただいたのですが、最後の部分は別の問題だと思います。
○角委員 それは民法だけの世界ではなくて、法律行為というのが。
○瀬川委員 そこは分かります。
○角委員 そこを全部契約の所に持っていってしまって、確かに残るとは言っても、
抜け殻みたいなものしか残らないという気が私はいたします。それが私の誤解であ
るのなら、私の誤解を解いていただきたいのです。すごく変な言い方ですが、日本
人の会議の仕方というのは、きちんとみんなで議論をするのが大事なのに、議論し
ないで、この提案でバーッと行きますよという話がすごく多いのです。私はいま、
この編別のご提案に反対だと言っていますが、もし、ちゃんと納得がいくようにし
ていただければ、これにしがみつく気は全然ないのです。これを何で変えるかとい
うのを日本国民に対して説明しなければいけないわけです。それくらいかみ砕いた
形でこの危惧を払拭していただきたいと、極めて単純なことを言っているだけなの
です。
○大村委員 おっしゃっていることは、いくつかのレベルにわたっているかと思
います。その中で、とりあえずお答えしたいと思うのは、法律行為に関する実質
的な規定が総則に置かれていないことの波及効果について、角さんは 2 つおっし
ゃっているように思うのです。1 つは、総則が抜け殻になるとおっしゃっている
のですが、これはたぶん法律行為というものに関する理念的な事柄をおっしゃっ
ているような気がするので、それはそれで論点になる。先ほど来言われている、
法律行為というものをどのように考えるかということだと思います。私は、ここ
に法律行為に関する中核的な規定が置いてあれば、法律行為の概念についてなお
これを維持していると考えられる、それでいいのではないかと思うのですが、そ
れと民法総則の規定が全法体系、山本和彦さんが訴訟行為とか、行政行為とかと
おっしゃいましたが、そういうものの基礎になっているということとは別の問題
だと思うのです。後のほうの問題は理念の問題ではなくて、実際上の問題として
重要な事柄のように思うのですが、訴訟行為や行政行為というのが法律行為の概
念を下敷にしているということが総則の規定を移すことによって影響を受けるか
というと、これは概念上の問題ですので、特に影響を受けないのではないかと思
います。
あとは規定の適用関係がどうなるのかということが非常に問題になっておりま
す。これは準用規定を置くと申し上げているのですが、加藤先生から、非常にあ
ちらこちらに準用規定を置かなければいけないのではないかというご指摘があり
ました。個別の準用規定を置いたほうがいいかどうかというのは確認すべき事柄
だろうと思いますが、その前提として、包括的な準用規定をまず 1 つ置くという
ことが出発点になろうかと思います。法律行為という概念があれば法律行為の概
念の中に収まって、契約以外のものについては事柄の性質に応じて抜いていくと
いう操作をすることになりますが、契約に関する規定という形で実質規定を配置
してそれを準用するということになりますと、抜いたものにもう一度網をかぶせ
るということになって、契約以外のその他の法律行為については基本的に準用さ
れるという規定を置いて、あとは従前の施行方法で準用される規定のうち性質上
準用から外れるものは何かと考えていく。ただ、この際、これまでにも法律行為
の一般論が当てはまるかどうかが不明の問題がありましたので、準用規定を置く
に当たって、個別にその適用関係を明らかにする、ということをしたほうがいい
ものについては対応したほうがいいのではないかと思っております。
○加藤委員 大村さんが提案なさったような形にすると、民法典の条数が膨れ上が
るか、民法典がいびつな形になるか、どちらかだと私は最初に申し上げました。個
別に準用規定を置いていったら民法典の条数が膨れ上がるのです。他方で、包括的
な準用規定を置くというと、いままではずっと抽象化したものが総則にあってその
後の各論に適用されたのが、今度は各論の所に原則規定が置かれることになる。い
ままでは頭を見ながら法の適用を考えていたのが、腹の辺りが総則的機能をもつの
で、腹の辺りを見ながら法の適用を考えることになる。一体何でそんないびつな形
にしなくてはいけないのかというのが私の疑問なのです。だから、膨れ上がるか、
いびつになるか、どちらかではないかというのが私の疑問です。
○大村委員 それは何をいびつだと考えるかということだと思うのです。現状を
出発点に考えれば、変える以上は現状とは違う形になるわけですから。
○加藤委員 現行民法では、みんなに共通するものが最初の総則にあったのです
が、ご提案では、みんなに共通するものを最初に置かずに各論の腹のところに置い
たのです。しかし、みんなに共通するものは総論なので、みんなに共通するものが
各論にあるというのはおかしい。
○大村委員 みんなに共通するかどうかは分からない。従前だって、そうだった
わけです。
○加藤委員 それだったら準用規定など置く必要はないでしょう。
○大村委員 すべての規定がそのまま他の法律行為に当たるかどうかは、これま
でも分からなかったわけです。これまでは法律行為全般という枠をかけた上で、
契約以外のものについては個別に考える、その発想があったわけです。
○加藤委員 その辺の構造は変わりません。共通規定を全部括って最初の総則に置
くか、共通規定を括りながら各論に置くかです。特に「物権」が先にあって次に「債
権」があるという構造が変わらないときに、共通規定を債権に置くことの歪みを私
は言っているのです。
○大村委員 そのことはよく分かります。それは総則規定というものをまず配置
すべきだという体系思考に基づいているので、その前提に立って先生がそう評価
されるということはよく分かります。契約編の規定を充実されるという前提に立
って現在と同じ帰結を導くということは、先ほど始関さんがおっしゃった「準用
の準用」という問題を括弧に入れると、理屈の上では成り立つ問題なのだろうと
思います。
○加藤委員 裁判紛争が世の中の現実を表しているわけではないと思います。た
だ、裁判紛争だけから言いますと、世の中でいちばん判例集に載る事件が多いのは、
民事では不法行為が圧倒的です。それを別にすると、売買や賃貸借などが非常に多
いと思います。そういう意味の現実性を配慮しているということは私も分かるので
すが、今回のご提案はいちばん多いところを見習えという形のものです。確かに、
いちばん多いところの紛争にぶつかった人は分かりやすいでしょう。しかし、それ
以外のところは分かりにくくなるということでは、犠牲にしているのです。だから、
先ほど瀬川さんがいみじくも言った、目線をどこに置くかというところと密接に関
連した議論ではあるのです。
○大村委員 分かりやすさの点なのですが、個別の紛争に当たって、いまの規定
の置き方、法律行為一般に関する規定はあるけれども、遺言について、それがそ
のまま適用されるかどうかは分からないというのと、契約の規定があってそれが
準用されるのだけれども、どの規定が準用されるのかが分からないというので、
分からなさの程度は同じなのではないでしょうか。
○加藤委員 そこのところの分からなさのことを言っているのではなくて、契約の
ところの議論が何でほかのところに先導性をもつかということが分からない。それ
が私が先ほど「いびつ」と言ったことの意味です。
○大村委員 おっしゃるとおりですが、それは先生の立場からは理解ができない
ということでしょうか。
○加藤委員 これは釈迦に説法ですが、法律などというのは、もともと法律として
あったわけではない。個別の紛争があって、その個別の紛争の中の解決基準を抽象
化してできたわけです。現行のパンデクテンが完璧なものだとは思わないのです
が、完成度がかなり高くなったのがパンデクテンなのです。それを今度は逆方向に、
ケースローにまで戻すというわけではないけれども、この抽象化を途中まで逆転さ
せようというのが今回の発想です。それで、そのことの是非を問うているのです。
そのことの是非というのは、先ほどいみじくも瀬川先生がおっしゃったように、目
線をどこに置くかということと密接に関係していると言っているだけです。
○池田委員 いま2人のお話を伺っていて、いびつ、格好の悪さというのは加藤さん
のおっしゃるとおりだと思うのです。例えば1月24日の審議予定の所に書いてあるの
は、先ほどの私の提案のように、代理とか、表見代理、無権代理、それから今ある
無効取消し。これを戻したところで、何が契約の所で使われるか分からない。それ
だけ抜き出して契約の規定を後ろへ付けるということに、私は全然異論がないので
す。何で最初からこちらへ全部移してやろうとされるのか。先ほど角さんが言われ
た「私の疑問を解いてほしい」というのに、まだ誰も解いてくれていないように私
は思うのですが。結局代理とか無効取消しを総則の所に置いて、何が債権法で困る
のか、それを抜き出して見せていただかないと。最初から契約法にその部分を持っ
てくる、その問題設定自体に納得できないのです。いま総則に置いてあって、契約
法でこれがうまく使えるかどうか分からない部分がこれだけありますと出して、1月
24日に、その部分は債権法で手当てしましょうというような話が出てくるのなら分
かるのですが、この辺はいかがですか。
○大村委員 この考え方は、いま先生がおっしゃったように、その規定が総則に
置かれているがゆえに、契約の場面で具体的な適用において困るという発想には
立っていないのです。いまの池田先生のお考えに従って言うと、規定の置き方と
しては、総則に一般論としてあるものでは不都合なので契約に特化された形の規
定が必要ならば、それはそれで置いてくださいということになると思います。そ
れは十分にあり得る考え方だろうと思いますが、ここでの発想はそうではなくて、
我々が今回改正の対象にしているものについて、改正の対象を、まずひとまとま
りのもの、一覧性のある形で置きましょうという出発点に立つ。代理のルールは
変わります。しかし契約に置いたがゆえに内容が変わるのではない。あるいは無
効取消しの原因についても内容が変わりますが、それは契約の所に置いたから変
わるのではない、そういう前提に立ったわけです。基本的な発想としては、何か
現行法で配置上困ることがあるかというと、現在法律家が適用する分にはそれは
ないのだと思うのです。我々はそれを前提に適用しております。法律家がこれか
ら使っていく分には、総則にあっても支障はないということだろうと思います。
従前の法律行為の抽象性、一般性というのを維持しつつ、いま加藤先生がおっし
ゃったように、契約に具体的な規定を置くということがよろしいのか、よろしく
ないのかということだと思うのです。池田先生は、それはよろしくないというこ
とでしょうか。あるいは、加藤先生は、二重に置くならば、それは構わないとい
うことでしょうか。
○加藤委員 総則の規定を契約法で準用するならば構わないけれども、二重に規定
することには私は反対です。
○大村委員 準用するという形で契約の規定の一覧性を確保するのは構わないと
いうお話だったかと思いますが、池田先生は、契約に関する規定を一体配置する
という発想自体に違和感がおありだということでしょうか。
○池田委員 いえいえ、一覧性を高めるために、何で今、適用するのに問題のない
条文の場所を動かすのか、そこまでの必要性がどこにあるのかということです。
○廣瀬委員 私はどうしても体系性だけではなくて中身の話が気になってしょうが
ない。しかし、それをやるには体系性の話が終わらないといけないといわれるわけ
ですが。この点について、私のような粗雑な人間の意見も聞いていただきたいので
す。私の記憶によれば、たしかオランダでいまの民法典が出来たときにそれまでの
フランス型の民法典にはなかった「法律行為」概念をあえて採用しこれは通則に入
れたけど、「錯誤」は契約法の方に入れたのではなかったかと思うのです。そして、
これは向こうに行ったときにホンデュース教授か誰かから聞いたのですが、錯誤は
契約の方に必要だという実質的議論があってそうなったということです。
他方、中身によるという話の続きなのですが。この目次でいくと、特に第8回全体
会議参考資料だと詳しいのですが、これの4頁のいちばん下に第2目。これは契約に
ついて、無効および取消しの効果というので、なかなか面白いことがたくさん出て
います。ここでは無効の主張権者とか、取消権者とか、法定追認とかずらっとあり
ますが、この中身の基になっている能力の問題、これも★が付いているから流動性
があるのでしょうが、こういうものが「法律行為」の総則のほうに置かれる可能性
もあるわけです。そこでの無効とか、取消しという問題が出てきたときに、その取
消権者の範囲とか無効権者の範囲とかその効果というのが、契約のほうだけに置い
ておくのでいいのかというのは、私にはよく分からないところがあります。ですか
ら、中身によって本当にこれでいいのかどうか、例えば錯誤は、法律行為あるいは
意思表示での話と契約における錯誤というのは違うかどうかといったことを議論し
たほうがいいかもしれない。時間があればの話ではあるかもしれませんが。
法律行為をすべて取り払おうという意見はないみたいですね。大村先生も法律行
為自体は残すと言っているわけで、意思能力とかも、随分残っているわけですね。
他方で、全部いまのままのほうがいいという人もいるわけですが、私はそこには疑
問を感じています。私の意見としては結局中身の問題が大事だと思っているので、
おおよそのところで中身の話をして、最終的にその後で決めていただくのが、私と
してはありがたいのですが。
○鎌田委員長 それは中身を検討した結果、また編別を直すということは当然あり
得ると考えています。
○池田委員 先ほどの追加ですけれど、債権法を作るのだから、契約から入るのが
いいのだから、契約の規定について一覧性を高めたいとおっしゃるのだけれど、一
方で、総則について総則の基本規定の一覧性が高くなるのはどういう並べ方ですか、
という質問が出てきたときには、やはりいまあるような形のほうが、今回のご提案
よりも総則の一覧性が高いですよ。だから、さっき私が申し上げたように、ここで
我々は「民法(債権法)改正検討委員会」をやっているけれど、一方に「民法(総
則)検討委員会」はないのですから、そうすると、それは債権法を作るのだからこ
うしたいという、それで全部100%貫けるというのはおかしいではないですか。そこ
は民法全体、総則にまで手を出すのだったら、手を出して引っ張ってくるだけの理
由があるのかどうか、そこをきちんとバランス感覚を持って議論しましょうという
ことです。
○大村委員 池田先生がおっしゃった権限の問題というのは、確かにあるのだろ
うと思います。しかし、法律行為は今回の検討対象になっていると思います。で
すから、法律行為の中の規定それ自体を改正することは、我々がここで議論すべ
き事柄だろうと思っています。
その上で場所はどうするのかということを考える際に、総則をどうすることに
なるのか、それを考えよというのは先生のおっしゃるとおりだろうと思います。
総則について考える機会を持たずにここで議論していいのか、というご疑問もも
ちろんだろうと思います。ただ、総則についての見方も、1 つの見方として、先
ほど来お話しているような考え方に立ってやってはいかがかということで、この
目次案をご提案しているわけです。それはよろしくないというのは、もちろんあ
り得る議論ですので、それはよろしくないということでご議論いただければと思
っております。その上で、総則の一覧性と先生がおっしゃったときには、そこに
は法律行為というものをひとまとまりにして、法律行為に関する規定はできるだ
けそこにあったほうがいいというご判断があるのだろうと思いますが、この案は
法律行為については基本的な規定を総則に置き、実質規定は契約に置いていいの
ではないかという前提に立っているということで、そのこと自体の当否をご議論
いただくということになるのではないかと思います。
○池田委員 おっしゃるとおりだと思います。ですから、私は大村先生が言われた
ように、人、物、法律行為、主体、客体、行為という部分は、包括的に一覧性のあ
る形で総則にあるべきだと、だから法律行為については原則だけ残して、あと具体
的なところは契約のほうに持っていくというのに反対しますということです。だか
ら、ご提案に対して私の先ほどのような修正案も、同等にご審議をしていただけれ
ば幸いです。
○内田事務局長 全くの比較法的な情報だけですが、廣瀬先生が言われたオランダ
ですが、オランダは法律行為の部分は財産法総則にあります。オランダは法律行為
の規定が家族法、日本で言う親族法に適用されるのはおかしいという判断をして、
財産法について総則法を置いて、そこに入れたということです。ちなみに、オラン
ダがそれを検討する際にドイツ法とともに参照したスイスの場合は、債務法の中に
法律行為の規定が入っています。
もう一つは民法総則ですが、私は民法総則の価値は認めますし、総則を置くこと
には賛成で、総則に法律行為の原理規定を置くことも賛成ですが、全くの比較法の
情報として、総則を持っているのは近代のヨーロッパの民法典ではドイツだけで、
そのあとにできたスイスもイタリアもオランダも民法総則は持っていません。人、
物、行為の三分法による一覧性というのは、民法典全体でそれを表現するというの
がヨーロッパの一般的な民法典のあり方だろうと思います。
○大村委員 総則の必要性は、先ほど申し上げましたように私も池田先生と同じ
なのですが、総則に規定を置くときに、総則の規定の具体性をどのぐらいのとこ
ろにまで置くのかというのが、たぶん違っているのだろうと思います。先生は、
少なくとも法律行為についてはかなり具体的な規定まで総則にあったほうがいい
のではないかというお考えなのだろうと思って伺いましたが、例えば現在法人の
規定は非常に原則的な規定しか置かれていないという状況で、法人の実体規定は
外に出てしまっているわけです。ちょっと出すぎだという感じも個人的には抱き
ますが、あのレベルに揃えればいいかどうかは別にして、現在置かれている規定
よりは抽象度の高い所で人の規定を整理し、法律行為の規定を整理する。そのレ
ベルのものとして、人、物、行為を規律することが考えられるのではないかとい
うのが私の考え方です。それはある所からは程度の問題ということになるのかも
しれませんが、総則を尊重するという場合の、あるいは存在意義を認めるという
場合の扱い方には、1 つでない、いくつかの方法があるのではないかと、お話を
伺いながら思いました。
○鎌田委員長 一応予告した終了時間は4時半なのですが、少し延長していただくと
して、いま民法総則との関係についてご意見がたくさんあるのですが、債権法の内
部でも債権総論と契約の間で融合、再編成をしているわけで、法定債権と契約債権
との関係とか、債権総論と契約との関係等についてもご意見があればお出しいただ
ければと思います。
○河上委員 先ほどからの議論を聞いていて思ったのですが、総則の諸規定の具体
的な適用の際の普遍的な価値に対する評価が違うのではないかという気がして、お
そらく財産法の総則として使うということについては、そこまで絞ることについて
はほとんど異論がないのではないかという気がします。総則として置いたとしても。
もう一つ、私は総則の規定の持っている普遍的な価値は尊重したいと思っています
ので、池田先生や加藤先生と同じ意見を持っているのですが、他方で契約法の一覧
性を高めたいという要望に応えるのであれば、一度契約法の中で各規定を吟味して
みるという作業をしないと、それは一般的な議論をしてもしようがないので、とり
あえずはこの提案の形で審議をしてみて、総則とダブルで動かしてみて、これは重
なり合っているからここはこっちに持ってきておこうという議論を、1つずつやって
いったらいいのではないかという気がします。
債権のほうですが、債権総則の規定は私はあったほうがいいと思います。もし、
契約のところで一覧させるのであれば、法定債権のほうを先に出しておいて、それ
から契約のほうでやれば、大体つながりのいい形で並ぶのではないかと、先ほど全
体を見ながら思っていたのですが、いかがでしょうか。
○加藤委員 基本的に、私は物を抽象化して考えたほうがコンパクトにまとまると
思っていますので、私も債権編についても、債権総論、契約総論、契約各論、法定
債権と規定していく形を維持したいと思っています。ただ、今日の議論であらゆる
点に反対すると問題が拡散するので、それについて述べていない。ですから、今日
ここまで来て、すべて債権法の内部についてまでどうやるかを議論していただく時
間があるとはとても思いませんので、今日は特に発言しませんが、発言しないとい
うことは賛成したことではないということを、きちんと述べておきたいと思いま
す。
○鎌田委員長 まだご発言になっていらっしゃらない方で、我慢していたけれど一
言言いたいという人は、遠慮なくご発言ください。
○磯村委員 債権法改正がなぜ必要かという出発点との関係かもしれないのですが、
加藤さんのご意見、あるいは先ほど池田先生のご意見もあった中で、例えば債権法
を改正することによって、他の分野に当然影響が出るということは認めざるを得な
いのではないかというのが私の認識です。
例えば、契約の債権というときに、債務不履行というのは現在では債権総則レベ
ルで規定されているわけですが、416条の問題を実質的に考えようとすると、これは
契約上の債務不履行の問題として捉えざるを得ない。そうすると、そのときの損害
賠償についてのルールを整理するということなるとは、では法定債権の場合にどう
なるかという問題を必然的に伴うのではないかと思います。したがって、総則の問
題を検討するカウンターパートがないというのは、あまり意味のないある種無意味
な自己拘束ではないかと私は考えていて、むしろ債権法を改正することが民法の全
体の中でどういう意味を持つかということを自覚的に意識するというのが、あるべ
き姿勢なのではないかと思います。
債権法の改正の必要性というのは、すでに能見先生が中心となられたのときに私
法学会シンポジウムでも100年のときに取り上げられ、その中で現在の債務不履行の
体系がこれでいいのかということのが、おそらく我々の共通認識として出発点にあ
ったのではないかと思います。その上で編別を動かすかどうかは具体的なレベルで
の議論の対立点だと思いますが、債権法の改正がというのは債権法の部分だけの改
正で終わるものではないというのは、この全体会議でも共通に共有しておくべき問
題かなと思います。
○加藤委員 別に反対とか何かではありませんが、共通認識と言われたので、私も
共通に括られると困るなと思って、発言させて頂きます。この研究会の初回に、私
はなぜ民法改正のための検討対象を債権法・法律行為・消滅時効の分野に限定する
のかということを強く質問しました。最初ですから、あまり反対というニュアンス
にはならないように気をつけましたが、それでも強い疑問を呈しました。基本的に、
民法の改正というのは 2 つの要素があると思っていて、その 1 つは現代社会に即応
する。1 世紀経つとすべての規定が即応しているわけではありませんから、その部
分は即応していかなければいけないと思うのです。それから分かりやすさ、国民に
とっての分かりやすさだと思います。この分かりやすさの捉え方が、大村さんたち
と私とではだいぶ違うのだろうと思いますが、現代社会に即応していないという部
分からいいますと、おそらく用益物権とか相隣関係とか、今回民法改正委員会が除
外した部分がいちばん現代社会との齟齬が強いので、むしろこの会議での民法改正
のための検討が最初に提案された分野に限定されることに私は違和感をもってい
て、その違和感は反対という形ではなくて疑問という形で表明し続けたつもりで
す。この会議では債権法改正がまず必要だということで、私はもちろんここのメン
バーですから債権法改正には協力していますが、改正分野をこのように限定しよう
という問題意識を共有しながら協力しているのではなくて、この会議に来てみたら
初回からこの分野だけだと既定事実としていわれたので、このような限定の仕方に
問題はあると考えつつも、反対すると会議が壊れてしまいそうなので、我慢して協
力したということです。
○鎌田委員長 しかし、改正しなくてもいいというわけではないと。
○廣瀬委員 最初のときに一言申し上げたのですが、債権編の中での総則とか各則、
契約法の中での総則的な括りとか、そういうグルーピングとそれぞれのタイトルに
ついても少し分かりづらい所がありますので、検討をしていただきたいと思ってい
ます。もう一つ加えれば、第3編「債権」の中の第1部に「契約および債権一般」と
なっている。これについては、債権総則というものをなぜ特別に設けないかという
ところが、どうもいまひとつよく分からなくて、いままでのご意見を伺ってもまだ
分からない。あるいは、もう少し法定債権をやったあとで、すべてを括った債権総
則みたいなものが出てくる余地があって、そういう場合にはそういうものを残すぐ
らいの話であれば、それでもいいかなという気がするのですが、それが1つ。
それから、契約に基づく債権、契約と債権との関係ですが、契約というのは物権
とももちろん関係あるわけですが、そこの関係ですね。これもまだ分からない所が
あります。その辺の議論を、今後さらに深めていただければと思います。
○鎌田委員長 ほかにいかがでしょうか。議案2をご承認いただいて、スイスイと先
にというふうには行かないと思いますが、人数だけで多数決というよりも、ことは
いちばん根本的な部分ですので、今日いろいろご議論があって、その部分を意識し
ながら先へ進まざるを得ないだろうと思いますので、先ほど1日日にちを追加させて
いただいて、今後もさらに追加することもあり得ると思いますが、とりあえずはこ
の案で各準備会がおおむねこういうコンセプトで準備を進めておりますので、これ
に基づいて具体的な案が出てきたところでもう一度、だからこういう編別にしなけ
ればいけないという形で議論をしていただくということでお願いしたいと思ってい
ます。それでは進めにくいですか。
○加藤委員 その場合に、代理でも時効でも契約の無効取消しでもいいですけれ
ど、こういったものは総則にある法律行為一般の規定として考えるのか、契約法の
内容について考えるのかによって随分違ってくると思います。ですから、このもの
についてこの問題に決着をつけないまま、その前の関係ない部分についてスケジュ
ールが詰まっているのだから議論しようということには私は反対しませんけれど、
そのための準備を始める前に、これらの規定を総則に置くのか債権編に置くのか、
それは決めていただきたいと思います。曖昧にしていただいては困ると思います。
○鎌田委員長 置き場所によってかなり変わる部分と、どっちに置いても中身がそ
んなに変わらない部分と両方あるとは思うのですけれど。
○加藤委員 そういう議事の進め方にすると、なあなあで提案内容どおりになって
いくのは目に見えているわけで、私はそれを承服する気はありません。
○鎌田委員長 それはそうですけれども、逆にここで例えば契約法の中に置きます
と多数決で決めたら、もう二度と総則に戻らないということがあるかというと、そ
れもたぶんないと思うのです。
○加藤委員 現実問題として、全体会議のメンバーよりも、準備会の中でもいろい
ろ議論があったことは読めば分かりますから、準備会の方々が一枚岩だとも思って
はいませんけれど、しかし一応、提案されたような形で拡大準備会で決まった、そ
してこの全体会議は明らかに拡大幹事会のメンバーが過半を占めている、こういう
形態のもとにこの会議の決定がなされていくわけです。
端的に申し上げますと、民法改正は、社会的な活動ですから、社会的な活動とし
て評価を受けると思うのです。今日全体会議のメンバーで発言した人の中では、私
の発言が一番多いかもしれないけれど、拡大幹事会で決まった提案を、拡大幹事会
メンバーが過半を占める全体会議で議論する形態のもとでは、私の反対が全体会議
の結論になることは難しいだろう、と私は思っています。
それでも、私が非常におそれているのは、学者というのはやはり学者の理論で遊
んでいるだけだなという世の中の評価を民法(債権法)改正委員会が受けることで
す。さらにいえば、民法学者は社会に対する責任を気にせず、学理で遊んでいると
いう社会的評価を受けることを私はおそれています。
ですから、ご提案どおりの内容で決まったら、この会を壊すとかアリバイ作りの
ためではなく、私は文書をもってなぜこのような提案に反対するのか、全部きちん
と明らかにしていきたい。世の中に対して、民法学者みんながこのような方向に賛
成しているのではないということは、私ははっきり社会に対して示したいと思う。
これは別に皆様方の多数の意見に対して反対するとか、少数意見で意固地になって
いるということではなくて、世の中に対しての説明責任はきちんと果たすつもりで
す。
もちろん、大村さんたちの考えと私の考えは違うので、違う考え方、この会議で
は多数の考え方を全面的に否定するつもりではないのですけれど、私個人は、社会
的必要がないのに法を変えようとするのは非常識だ、という感覚をもっている。こ
れはもちろん大村さんたちを非難しているわけではないですよ、ただ、学者の社会
的責任として、みんながそう言っているのではないということははっきり文書で社
会に示しておきたいと思います。したがって、この問題をなあなあで済ませる気は
ありません。
○鎌田委員長 なあなあにはならないですよ、最後には形ができるわけですから。
○池田委員 私は、今日代理と無効取消しと時効の所は総則に戻すというご提案を
しておりますので、そして何人かの方からは賛成をいただいていますので、準備会
の皆さんには大変恐縮ですけれど、このスケジュールどおりおやりになるのであれ
ば、それぞれの所で私の言った所を契約のほうに入れると、債権法のほうに入れた
らこういう規定になります、総則のまま置くのだったらこういう規定になりますと、
両方作っていただけませんか。それで議論するべきだと私は思いますが。
○鎌田委員長 ダブルで提案を作れと言われると、各準備会はもう手一杯だという
ことになるのかもしれませんが。
○加藤委員 そうおっしゃることは分かるけれど、そういうことは要するに全体会
議での議論は無視して、なあなあで済ませるということですよ、言ってしまえば。
○鎌田委員長 いやいや、そうではなくて。
○加藤委員 それは、やめましょう。
○鎌田委員長 さっき河上さんのご意見の中でも、契約法の中でこういう条文にな
りますが、と。総則だとどうなるかというと、総則にいま現に条文があるので、そ
れと対比してこれはやはりどっちにあったほうがいいですねというような形で、中
身を見ながらでないと最終判断は難しいということでしたが、これもあり得る議論
だと思うのです。だから、基本的にこの編別を前提にして準備を進めていただいて、
具体的な提案が出てきたものを見て、より強い理由で、やはり総則だという議論を
その機会にやるというのが1つの進め方です。
○加藤委員 ……、なぜ原案がこれらの規定を契約法に置くことなのですか。その
理由を説明してください。
○鎌田委員長 いままで準備会、幹事会で議論してきて。
○加藤委員 つまり、全体会議よりは、準備会、幹事会のほうが優先するというこ
とですね。全体会議では決まっていませんよ。
○鎌田委員長 全体会議では決まっていません。それを、具体的な提案を見た上で
最終判断をしたほうが妥当なのではないかという。
○加藤委員 具体的な案は全体会議では決まっていないけれど、準備会の意向どお
り進めるということですよね。
○内田事務局長 問題になっているのは法律行為と時効ですが、法律行為について
は加藤先生も大体お分かりだと思いますが、準備会内部でもさまざまな意見があり
ます。そのさまざまな意見も、今日の資料にもありますがグラデーションがあって、
どこまで債権編に持ってくるかということについてもいろいろなバリエーションが
ありますので、そのすべてについて案を作って並べてどれにしますかということま
で準備するのは、ちょっと難しいと思うのです。ただ、加藤先生はたぶん全部総則
ということだと思いますので、一括して全部総則、全部債権という2つの対比につい
ては、結局は「法律行為」という所を「契約」と書くということです。担当準備会
を無権代理して勝手なことを言うとあとで叱られるのですが、どこで切るかという
ことの議論になると大変ですけれど、一括してということであれば2つのバリエーシ
ョンを出すことは、あり得ないですか。
○鎌田委員長 法律行為は、もともとは総則を念頭に置いて提案されていますから、
契約に移したときにどうなるか、これは二案を出せると思います。それぞれ説明を
つけるのは難しいと思いますが。
○山本(敬)委員 にわかに厳しい方向へ話が進んでしまって当惑しているところ
ですが、当惑している理由だけを申し上げます。いま内田先生がご提案された方法、
つまり法律行為に残すとすればどのような規定があるか、契約に残すとすればどの
ような規定があるか、2つのバリエーションを示すことはあり得ないですかというこ
とですけれども、規定の中身自体は、そうひどく違うものにはならないだろうと思
うのですが、説明のコンセプトが基本的に変わってくると思います。それを2つ用意
して、どちらにするかを議論していただくのは、実は中身よりはコンセプトを議論
されることになるのではないかと思います。
そうしますと、コンセプトはコンセプトとして方針が決まってから中身の議論を
していただくほうが、我々としても提案がしやすいですし、より集中した、この限
られた時間の中で本当にするべき議論をしていただけるのではないかと思います。
ただ、どうしてもコンセプトだけではなかなか決着がつかない、サンプルでもいい
から両方出せということを強くおっしゃるのであれば、もちろんやぶさかではあり
ませんが、その辺りを踏まえて方針をお決めいただければと思います。
○池田委員 もともと法律行為については総則に残すお立場でのご議論が、準備会
で途中まであったわけですよね。ですから、私はこれから先契約に移った形だけで
出てきたら、やはり1個1個審議のときに「これは総則になったらどうなるのですか」
と伺わざるを得ないと思いますし、それだったらご準備できる範囲で2案作ってきて、
検討させていただきたい。
○磯村委員 山本さんと同じことになるのですが、資料を作るときには、提案の要
旨のあとに提案の理由を根拠づけるためにいろいろ解説を書くわけです。解説を書
くときに、例えば<A案>の法律行為の中では、なぜ法律行為に置かないといけないか
ということをいろいろ縷々説明するわけです。ところが、同じ提案者が返す刀で今
度は反対の裏側の説明をこれはこうでなければいけないという書き方をするのは、
かなり準備としての心構えのあり方としてさえも難しくなるかなという気がします。
○鎌田委員長 時効のほうは、逆に権利消滅構成かどうかということも関連してく
る要素があるので……。
○山田委員 時効について、まとめて発言させてください。時効、特に債権の消滅
時効について集中的に検討してきた第5準備会としては、今回大村さんにご説明いた
だいた総則編における時効の章の廃止の提案には賛成です。その理由は、第5準備会
の考え方をよく表しているものであるからです。9月23日の全体会議で債権の消滅時
効の効果についてご議論いただきました。私たち第5準備会が提案したいと思ってい
る考え方についてはご異論をいただいており、いま検討をしております。
鎌田先生から、債権の消滅時効の効果が消滅構成になったら総則に戻ることは容
易なのではないかという趣旨のお話をいただきましたが、私どもは必ずしもそう考
えておりません。その理由を、少し時間を頂戴して申し上げたいと思うのですが、
まず、現在の民法総則編にある時効を次のように分類して作業を進めてきましたの
で、それを説明させていただきます。それは債権の消滅時効とその他の財産権の消
滅時効、取得時効です。その中で、その他の財産権の消滅時効についてはいろいろ
なものが入ってきますが、例えば用益物権がその1つに入ってきます。用益物権は権
利内容をどうするかというのが、重要な問題であって、これはあらかじめ自己制約
をしているのかもしれませんが、民法(債権法)改正検討委員会は、物権を正面か
ら扱う場ではありませんので、そこに手をつけない以上、用益物権の消滅時効を対
象に含んでくるその他財産権の消滅時効については、自ずから制約があるだろうと
考えております。
取得時効については、手をつけておりません。具体的には例えば占有という概念
が取得時効にとっては非常に重要な意味を持っていて、それを現代化あるいは合理
化するというところから手をつけなければならないだろうと考えるからです。この
ように考えると、取得時効には手をつけようがないということです。
もう1つまとまりとしてあるのは形成権の問題で、今日も1度か2度話題になりまし
たが、これらはこの委員会で最終的な答えを出していかなければならないと思って
おります。第5準備会としては解除権、取消権について一応の考え方を今年の3月に
お示しして、個別に検討していただくというところで、キャッチボールの途中とい
うところです。そうしますと、債権の消滅時効については、全面的に見直しており
ますが、それ以外のその他の財産権の消滅時効と取得時効は、手のつけ方が相当程
度異なります。
これらが検討状況です。このような検討状況は、さまざまな事情を私たちなりに
検討考慮した結果、これはそれなりに合理的なものであろうと思っております。
そうしますと、最終的に債権の消滅時効の効果はどうなるか、これはまだオープ
ンと認識しております。しかし、起算点、時効期間、あるいはカギ括弧付きですけ
れども援用権者の範囲、障害事由などについて、全面的に見直した債権の消滅時効
に関するものと、必ずしも十分に手をつけていない、あるいはほとんど全く手をつ
けていない取得時効、その他の財産権に関するものとが問題となります。これらを
最初から同じ所に置くことを決めて取りかかるのと、分けて置くことができるとい
うことでやるのでは、分けて置くことができるというスタンスで取り組んだほうが、
債権の消滅時効については最もよいものを提案できるのではないかと考えます。手
のつかない、あるいは手を十分つけていない所に拘束されたり、引っ張られたりす
ることがないと考えたわけです。その結果、債権の消滅時効は、効果がどうであれ
債権編に置くという考え方であってほしいと思っております。
そうしますと、残りがその他の財産権の消滅時効、取得時効ですが、その主要な
対象は、形成権の問題はありますが、それを除くと物権、民法の中では物権です。
民法の外まで視野を広げると、ほかにもあるということは十分承知しておりますが、
民法の中では物権であろうかと思います。そうすると、それらのその他の財産権の
消滅時効と取得時効が持つ通則性というか総則性は、相当弱まります。そうなりま
すと、その他の財産権の消滅時効と取得時効の適用は、適用対象に含まれるものは
中心的には物権であって、それ以外の権利については、今日何度も話題になったと
ころで、実際はどうなるのかというのはこれから示していかなければいけませんが、
適宜準用規定等によって準用、または適用関係を明らかにしていくことで対応でき
るのではないかと思っております。したがって、時効についてこの検討委員会の中
で検討を委ねられた第5準備会としては、是非幹事会の提案の編成で進めていただけ
ると、いいかえれば、この編成で進めていただけると、我々が考えていることをよ
りよく表現できるのではないかと考えております。
○加藤委員 分科会の先生方に過重な負担をかける意図は全くありませんで、二重
に書いてほしいとは私個人は思っておりません。特に私は私達の民法改正研究会の
改正提案の理由書を書いて、徹夜に続く徹夜でしたから、どんなに大変かはよく存
じております。ただ、あまりいうと時効の内容に踏み込むので議論するのは遠慮し
ていたのですが、一言言わせていただきたいと思います。
消滅時効について抗弁権構成をとれば、債権編と物権編に分かれることはそれほ
ど不自然ではありません。しかし、仮に権利消滅構成を取って、時効総論を債権法
のところと物権法の消滅時効と分けるとしたら、これは極めて不自然です。私は、
この研究会の第一回会議で改正検討対象として消滅時効だけをとりあげるとおっ
しゃったときに、時効のところでこういう提案が出るであろうということは初めか
ら分かっていました。したがって、これはある意味で答えがでているものを議論し
ているものだと思っていました。
私は時効について特に強くは言いませんでしたが、抗弁権構成には反対です。反
対の結論をとって、権利消滅構成だとすると、用益物権の消滅時効と債権の消滅時
効と基本的に同じ法的効果になります。しかも、時効総則として同じ内容を債権編
と物権編に二度も規定するというのは、きわめて不自然です。いってしまえば、要
するに消滅時効を債権編にもっていくこと自体、また、債権の消滅時効を特殊扱い
をすることが、はじめから決まっていた出来レースみたいなところが実はこの会議
にはあるわけで、このような会議の組立て方自体、私は民法改正のための議論の立
て方として問題だと思っています。ただ、これは準備会の方に言っても仕方がない
ので、これまで言わなかっただけの話です。
こういう問題があることからいって、法律行為についての問題と時効の問題は根
っこは一緒で、この問題をベールにくるんで曖昧に議事を進めていくことは無理で
す。鎌田先生がいま議長をやっていらっしゃいますから、亀裂を表に出さないとい
う議長のご苦労は実によく分かりますけれど、臭いものに蓋をして進んでいくこと
自体は無理です。ですから、みんな大人なのですから、決着をつけるよりしょうが
ないと思います。決着をつけなければ、各準備会の方も気の毒ですよ。もう決着を
つけましょう。
○池田委員 私も準備会の方に過剰な負担をというのは本意ではないのですが、こ
のスケジュールどおりにそれでは準備をしていきますということになって、結局議
論するのは契約のところに入っている代理であり、無効取消しの規定でありとなる
わけでしょう。そうしたら、最終的にこの編別は頭から認めてくださいというのと
同じになりませんか。
○加藤委員 要するに、この全体会議は単なる儀式だ、ということですか。
○池田委員 だから、私は委員長が折角そうおっしゃってくださるのだから、両案
出てきてくれれば、そこで議論ができますねということを申し上げたのだけれど、
それは難しいということであれば、せめて出てきたところで全体会議に、1個1個こ
れを総則に置いたらどうなりますかと質問させていただいて、その場でもお答えを
いただく。その準備はしてきていただきたいということになるかと思うのです。
○河上委員 準備会の方が何種類もの案を作るのは、私は無理だと思います。ただ、
原案は作っていただいて、その原案が仮に現行法を変更すると、編別も含めて、位
置を変えるとか変更するのであれば、そこは正当化の理由をきちんと示していただ
くと。だから、内容的にその場面でいいかどうかも含めて、その位置がそこに来る
必然性についてきちんと説明をしていただいて、そこが納得できなければ元に戻す
という話にならざるを得ないと思うのです。ですから、原案は1つでかまわないと思
うのですが、その変更点に関する理由をきちんと示していただいて議論をするとい
うのでやっていけるのではないかと思うのです。
○鎌田委員長 分かりました。議案2というのも、これで確定して、確固不動のもの
にしたい、こういう編別にしたいという提案ではなくて、この準備会が何を前提に
準備すればいいかはこの段階で暫定的に承認してくださいと、こういう趣旨ですの
で、これで本当にこの点についての議論を今日で終わりにしていいかどうかは、若
干躊躇するところがないわけではないのですが、加藤先生のご提案はもありますの
で、今日決着をつけろということですよね。
○池田委員 私は、今日決着をつけないでくださいと。さっきまでの流れなのだか
ら、委員長が言われるように、いま加藤さんは決着をつけてくれと言ったけれど、
私は河上先生もおっしゃってくださったようにこの準備会に準備をしていただいて、
1個1個新しい債権法に置くのがいいのか総則に置くのがいいのかを一つひとつ議論
すると、それが筋でしょうと申し上げているので。
○鎌田委員長 法律行為と時効ですね。それは1個1個の規定というよりも、ひとま
とまりでしか処理はできないという話で。
○角委員 この会議が、準備会とか幹事会とか全体会議の進め方のルールが見えな
いのです。たぶん、加藤先生がおっしゃるのも私と同じご疑問が根っこにあると。
全体会しか出ていない我々は、本当に準備会の方々におんぶに抱っこで、膨大な時
間とエネルギーをかけてなさったものを出していただいたのを、いろいろ議論させ
ていただいているのですけれども、じゃあこうしてくださいというと、ものすごい
負担が準備会の方に来るので、何となくしょうがなくなあなあという形になってい
くような気がして、言葉は悪いですが、全体会議はガス抜きの会議でしかないよう
な気がしてしょうがないのです。だから、この会が一体どういうルールで意思決定
が行われているかというのを、ちゃんと教えていただきたいのです。
○鎌田委員長 規則がありますから。
○角委員 そうすると、この全体会議というのは何なのですか。
○鎌田委員長 全体会議で、準備会が準備したものはとてもじゃないけど世の中に
出せないと言われれば、持ち帰って……。
○加藤委員 私たちは、今日のご提案は世の中に出せないといったのです。そうし
たら、それについて決着はつけないでおこうという議事進行になったのです。私は、
議長の立場は分かりますから非難する気はないですよ。ただ、今回のご提案は、現
実的な案として世の中に出さないよと、少なくとも 4 人ははっきり言ったのです。
○角委員 それなのに、何となく結局は淡々と進んでいくような気がしてしょうが
ないのです。
○鎌田委員長 では、ここで多数決をやりましょうかと。
○角委員 でも、多数決と言ったら全体会の人間は少ないわけですから。
○加藤委員 だから、初めからシステム自体が出来レースなのです。全体会議の過
半を拡大幹事会の人が占めている場で、拡大幹事会の提出した案の賛否を問うの
は、人数比から言って、結論ははじめからわかっています。
○鎌田委員長 準備会も一丸となっているわけではないから、細かい票数を分ける
と全体会の委員と準備会少数派が合わされば、逆転することは十分あり得る。
○加藤委員 いったん中で話し合って決めたのに、そういう行動を要求するのはか
わいそうですよ。
○角委員 それは準備会とか幹事会の方に酷な話であって、それは絶対に。さっき
加藤先生がおっしゃったように大人の集団だから、そんなことは言わないというの
を前提にして決を取りますとかいう話になってしまうと、この会議の運営が非常に
不透明なような気がしてしょうがない。結局は、準備会で出てきたものが、時間が
ありませんといってバッと押されていくような気が。
○鎌田委員長 それはあまりしたくないのです。日程表も、これだけ忙しいのだか
ら我慢して従えというつもりで出したわけではありませんので。
○角委員 日程はいいのですが、たぶんこれはお尻が切られていますからみたいな
言い方を。でも、これだけの大きな法律を改正するときに、それは法務省さんのご
都合もおありなのでしょうけれど、ここまでお尻を切らなければいけないのかとい
うのも、私は前から疑問でして。いわゆる国策としての立法というのは随分ありま
したが、ああいうのは永田町の人たちがうるさいから、やれとエンカレッジなさる
からというのは分かるけど、民法ってそういう意味でのお尻の叩かれ方はないと思
うので、何でこんなギチギチしたスケジュールで、それも年が明けますとそれぞれ
入試が入ったりして、非常にタイトになってきて、いままでみたいに皆さん全員が
集まることができなくなるかもしれない。それを分かっていてこのスケジュールと
いうのが非常に無理で、もう少しゆったりやってはいけないのかというのがあるの
ですが、何かあるのですか。それはズルズルやったらこれは大きいですから、いく
らでもできますが、もう少しゆったりしたほうが、準備会の皆さんにまた続けてく
ださいと言うのは心苦しいのですが、少なくとも議論の余裕を見ていても、ものす
ごく大変だと思うのです。スケジュールを見ても、11月15日にこれだけ全部やるの
ですかと、いくら第2読会があってもクラクラするような話ですから、それも含めて
ちょっと考えていただきたいというのが、たぶん言っても無理なのでしょうけれど、
言わせていただきます。
○鎌田委員長 この委員会の日程は、別に法務省に決めていただいたわけではない
ので、確かに時間はかければかけるほどいい審議ができるのですが、意見が一致す
るようになるかどうかは難しいところであるのと、これは基本的にトータルとして
これで終わりになるわけではなく、これから本当に審議が次に待っているわけです
から、それと通算して何年ぐらいできるか、商事法務に負んぶに抱っこでやってい
ますので、いつまで無理強いができるかという両方を勘案して、大まかな日程を決
めたわけで、スケジュールに無理があることは本当におっしゃるとおりですが。
○野村委員 さっき河上さんが言われたように、これは一応提案審議のための順番
ということで、暫定的ということですので、これで準備会のほうでなぜ総則に置か
ずに契約のところに置くのかという点について十分な説明をいただいて、皆さんが
納得できればそうしましょうと。それでなければ総則に戻すということで、審議を
進めるということでよろしいのではないかと思うのです。
○鎌田委員長 よろしいですか。
○池田委員 私は結構です。
○瀬川委員 私も、たぶんこれが問題ではないかと思います。さっき山田さんのほ
うから、債権時効のところを主にやると、さまざまなグラデーションがあるけれど、
あまり時間をかけていないと。それは、出発点のほうにすれば債権法の改正だから。
確かに民法の改正なのですが、でも、括弧つけて債権法が付いています。そこの受
け止め方なのですが、債権法の改正なのだけれど、ほかの所の改正をどこまで熱心
に配慮して債権法を改正するのかという辺りの、さっき「野となれ山となれになる」
という言い方がありましたが、そこの理解というか、共通の構えというか、そこの
問題だと思います。民法を全部改正するというのはとても無理ですから、どこかを
区切ってやらなければいけない。債権、その中でも契約が中心にするということは
一致していると思います。
加藤先生は先ほど不法行為の訴訟が多いとおっしゃったけれども、訴訟の数を統計
的に見ればそれほど多いわけではありません。公刊される裁判例が多いだけです。
訴訟の数から見れば、貸金訴訟が圧倒的に多いです。たぶん、契約法のところが非
常に重要になってきている。それで、そこから変えていこう、契約中心に債権法を
改正しようというのだと私も思います。ただし、契約法だけが突進するのではなく
て、ほかの所との関係をどのように折合いつけていくかという辺りのスタンスの取
り方、それはまた準備会の方々に負担をおかけするのだと思うけれど、何かスタン
スだけでも変えてもらうとうまくいくのかなという気はしているのです。
○池田委員 全体会議のメンバーで、今日4人が明らかに編別について反対をして、
いま河上さんの発言について野村先生がフォローされて、こういうことでいかがで
しょうかということで、私はそれに同意しますと申し上げたので、全体会議から出
ているメンバーとしては、いまの野村先生の審議の進め方のご提案で了解というこ
とでよろしいのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
○鎌田委員長 ご不満はおありでしょうけれども、そういう形で。
○内田事務局長 準備会から提案をそれぞれ出す中で、配置をどうするかをその場
でまた一から議論するということになると、準備会の提案の内容の準備だけでも相
当なものがあるものですから、そこで配置をもう1回やり直せということになるのは、
準備会のメンバーには酷な感じがします。全体の編別について、先ほど準用の問題
とかなぜ変えるかという正当化の理由の問題とかについてご意見をいただきました
ので、それを補って、もう少し議論を先に進めることができるような材料をお出し
して、もちろん一致するかどうかは分かりませんが、もう一度議論の場を持つこと
も有益ではないかという感じを持ちました。
○加藤委員 それはいつですか。
○内田事務局長 15日が次回に入っておりますので、やるとすれば次回ということ
になると思います。
○加藤委員 それはそれで結構です。
○鎌田委員長 次回に続けてこのテーマをやって、そのときに少し準用関係その他
についての資料を提出することにしたいと思います。
○内田事務局長 準用の問題と、それから時効と法律行為についてはどうしてもい
まのような議論になりますので、もちろん提案の最終的な内容をその場で出すとい
うことはできませんけれど、どういう規定のあり方になるのかについては、特に法
律行為については内部でかなりの議論をしていますので、それもサンプルとしてお
出ししてはどうかと思います。
○野村委員 今日もかなり議論が進んで、一般論だけで総則に置くのがいいとか契
約に置くのがいいのかというのは、これ以上議論は進展しにくいのかなという気が
して、むしろ中身を見た上でもう1回考え直すほうが現実的ではないかと思います。
○内田事務局長 私もそう思います。まさに法律行為がそうなのですが、私は先ほ
ど準備会の負担に対する配慮を欠く失言をしましたが、総則に置くのか債権編に置
くのかというのは、根本理念にも関わるわけです。提案の体裁そのものは「法律行
為」という言葉を「契約」に置き換えるということで済む部分もあるかもしれませ
んが、準備のスタンスというか、どういう理念に基づいて提案をするかということ
が根本から変わってくるということがあります。ですから、この部分について両案
準備しておいて、一方がつぶれればもう一方といった審議のやり方を準備会にお願
いするのは無理だろうと思います。
○野村委員 全く削るというのなら、つまり、総則から完全に落とすというのなら
理念の問題が浮かび上がってくると思うのですが、一応残そうということでしょう。
○内田事務局長 原理的な規定は総則に置くということであっても、やはりものす
ごく対立があり、準備会委員の内部でもそれぞれについて大変な議論があります。
それをきちんと整理して、提案の最終的な中身そのものまでお出しして、こちらの
編成ではこうなりますというところまではもちろん準備はできません。しかし、今
回も第2準備会の資料が出ておりますが、いくつかのグラデーションがあります。そ
れがなぜそうあって、結果的にどうして現在の案になったのかということをもう少
しご紹介した上で、例えば、総則に原理規定だけ置くとした場合にそれがどのよう
なものなのか。これは数箇条ですので、それ自体を審議するわけではないにしても、
サンプルを示すことは可能かと思います。その上で、どちらがいいかというご議論
をいただいてはどうかと思います。
それから、今日は消費者契約法の話もちょっと出ましたが、一応消費者契約法も
ある程度取り込むということが予定されていて、その行き場所は法律行為になる可
能性があるわけです。一般法化すると法律行為に入ってきます。そうすると、消費
者契約法のところでは契約と書いてあるわけですから、それを法律行為に書き直し
てそちらに入れるのかといったことも論点になるわけで、そういったやや技術的な
点も含めて、内部で議論したことをもう少しお示しして、法律行為と時効にやや特
化した形ででも、もう一度議論したほうがいいという感じがします。
○池田委員 いま内田先生がおっしゃってくださったように、いくつかサンプルみ
たいなものをお示しいただかないと。これだけ今日は議論の対立がはっきりしたわ
けですから、反対する側の言い分はかなりはっきり言ったはずなので、もう1回同じ
議論をやっても水掛け論というか、繰返しになってしまいますから、ある程度完全
な形ではないにしてもサンプルを示していただく。総則に置いた場合にこういう不
都合があるとか、そういうことをおっしゃっていただかないと判断材料がないもの
ですから、対立の繰返しになってしまうと思いますので、お作りいただく準備会の
方には本当に申し訳ないですけれども、そこは全体会議をやる以上は、これだけ反
対論が出たわけですから、止揚していくためにはそれなりの材料をお出しいただき
たいと思います。
○内田事務局長 次回、15日はすぐですので、それに合わせた形で新規に資料を作
成するのは難しいかもしれませんが、幹事会段階での議論の素材をお示しするとい
うところでしょうかね。
○加藤委員 同じような形でやれば、同じような水掛け論になるのは目に見えてい
るのですが、水掛け論にならないような措置が可能だという腹案があるのですか。
そうでなかったら、同じ水掛け論になりますよ。
○内田事務局長 根本の原理的な対立、例えば加藤先生がおっしゃった抽象性に分
かりやすさをどこまで見出すかといったところまで遡れば、それはどんな議論の結
果でも合意が成立するのは難しいと思います。
○加藤委員 今日のことを繰り返すのだったら、それはあまり生産的ではないです
よね。だから、今日のことの繰返しにならないような、提案内容が何かあるのだっ
たら次回やるのはとてもいいと思いますが、もしとにかくヒートしたからもう 1 回
やろうということだと、今日と同じメンバーで同じことを話し合うだけで、たぶん
新しいアイディアが出ないので、同じことを繰り返すだけだと思うのですが。
○磯村委員 おそらく、法律行為と債権時効の問題を具体的な形で議論するという
ことだと、15日のほうは予定どおりで、それほど大きな影響がないところですので
進めていただいて、その次1回追加した12月21日のところでやるというのが生産的で
はないかなと思います。
○内田事務局長 それまでに何らかの準備ができるということでしょうか。
○磯村委員 できるという問題ではなくて、するという話なのだろうと思いますが。
○瀬川委員 いただいたスケジュール表ですと、1月17日の後半、契約の債権と1月2
4日の辺りが1つの具体的なめどですね。それまでいろいろスケジュールが組んであ
るので、それまでに議論しないところであったら、1月17、24日辺りまでに引き延ば
すことは可能かもしれません。あるいは今度の12月21日にその辺を持ってくること
も考えられるかもしれませんが、準備会の準備のほうが大変になります。
○内田事務局長 1月17日に予定されている提案内容を全部出して、中身も議論す
るけれども、そのうえで場所をどこにしましょうかと改めて議論して、原案の場所
が駄目だということになると、あとの準備ができなくなるのではないかと思います。
ですから、中身の本格的な議論に入る前に、ある程度のサンプルを示してでもどち
らに置くかの議論に決着をつけたほうが、準備がしやすいのではないかと思います。
○大村委員 これは先ほどから出ていることなのですが、実質審議に入ってから
位置の問題を議論するということになると、もちろん実質について触れながら議
論されることになりますが、結局は理念的な対立を抱えていますので、そのこと
が蒸し返されることになる。それでは意味がありませんねと加藤先生がおっしゃ
いましたが、どうしてもそういうことは出てくるだろうと思うのです。
○加藤委員 このままいったら蒸し返されてしまいますよね。
○大村委員 ですから、この点については、いつがいいか分かりませんが、でき
るだけ早くすり合わせをするということで、おっしゃったように蒸返しにならな
いような工夫ができるかどうかを考えるということなのではないかと、個人的に
は思います。
○池田委員 そうすると、結論的に12月21日ですか。
○内田事務局長 21日を追加して、そこでやるということでしょうね。
○森田(宏)委員 法律行為と時効の話が出ていますが、時効のほうは、そもそも
抗弁権構成を取るかどうかによって大きく位置づけの問題が変わってくると思うの
です。先ほど山田さんがおっしゃったのは、準備の、つまり暫定的な順番でやって
いく場合の話なのでしょうけれど、抗弁権構成を取らないことになった場合には、
果たしてその場所でいいかどうかは、改めてもう一度そこから議論することになる
という鎌田先生のまとめだったと思いますから、そちらのほうと法律行為の話はや
や違う。
債権の話は、先ほど形成権を除くという話でしたが、債権も解除権とか取消権と
か再売買の予約とか、そういうものは抗弁権構成は取れないということで、二元的
な構成になることが想定されますので、そちらのほうも扱いの仕方が、理念的な争
いになるというのはどちらかというと法律行為が重要さを編別でどう示すかという
点でしょうけれど、それを除いた準用規定がどうなるかとか、そちらのほうは技術
的な面もありますので、できる範囲でお示しいただくことが可能ではないかと思い
ます。
○内田事務局長 時効のほうも、法律行為と性質が違うと言えば違うのかもしれま
せんが、第5準備会は効果が消滅であっても債権時効は別扱いすべきであるというス
タンスに立っていますので、これがもし変わるのであれば、かなり提案される内容
に影響が出てきます。したがって、同じタイミングで基本的な方針を決めないと、
準備はできないのではないかと思います。
○鎌田委員長 そういう意味では、準備するのは第5準備会のほうが大変かもしれな
い。
○山田委員 12月21日にもう一度編成案を議論すること自体は異論はありません。
そのために、今日から時間を確保したほうがいいだろうというのは重要かと思いま
す。ただ、その場合は、1月10日予定の債権の消滅の第7節にある債権時効のスケジ
ュールを、ここだけ後ろに動かすことはあり得べしとしていただけるとありがたい
と思います。12月21日に編成が決まって、もし大きく変わった場合に、1月10日まで
に、果たしてこの時間で対応できるかどうかというのが心配なところです。個別の
話で申し訳ありませんがお願いを申し上げます。
○内田事務局長 もし編別の議論をするのであれば、折角今日ここまで議論しまし
たので、次回続けてやってはどうかという意見も内部にはあります。ただ、それは
議論の効率としてはいいかとは思うのですが、それに合わせて新たな材料を出すこ
とは難しくなります。そうすると、同じ議論の繰返しになる。次回出せるとすれば、
総則に残ると想定される法律行為の原則的な規定が例えばどういうものであり、準
用規定が例えばどういうものであるというぐらいのことは可能かもしれませんが、
それ以上のものはなかなか準備できない。そうすると、次回ではなくて12月21日に
することになりますが、その場合は、先ほどの時効との関係で時効の審議を少し遅
らせる必要があろうと思いますし、たとえ次回1回追加しても、いまのような議論が
個別の提案の中である程度出てくると思いますので、回数は現在予定されている回
数ではたぶん足りないだろうと思います。ですから、追加することもあり得べしと
いう前提で、とりあえず今日の議論の続きを21日に行うということで、大村さん、
いかがですか。もしご意見があれば。
○大村委員 私は、折角ここまで議論しましたので、仮のものでも次回さらに議
論していただいて、意見のすり合わせをしたほうがあとの準備会は、第 2 にして
も第 5 にしても、あるいはその他の準備会にしてもスムーズに進められるのでは
ないかと、個人的には思います。その際に、加藤先生がおっしゃったように結局
同じことを繰り返すだけではないかということがあろうかと思いますが、同じこ
とにならないような工夫ができるのかどうか、今日このあと幹事会もありますし、
もう 1 回幹事会が次回の全体会議の前にありますので、何か新たなご提案ができ
るということであれば、15 日に継続審議する。それが無理ならば、本格的に 12
月 21 日にやるという含みを持たせていただいたほうがいいのではないかと思い
ます。
【次回以降の予定】
○鎌田委員長 第2準備会、第5準備会と幹事会との話合いも必要になると思います
が、いまのような形で準備させていただいて、次回または12月21日に一応の方針を
決めるということにさせていただきたいと思います。このスケジュール案は、準備
会と十分な相談をしたわけではなくて、ズラズラと並べると大体こんな見取図にな
るというだけですから、先ほどの時効の位置も含めてなお変更があり得る、回数の
追加もあり得るという前提でご了解ください。
ほかに、委員の皆様方、あるいは事務局からご連絡すべきことはございますか。
よろしいですか。それでは、丸々1時間超過してしまいまして申し訳ありませんでし
た。今後ともよろしくお願いいたします。