放射性降下物 1950 年代末期から 1960 年代にかけて、世界各地で大型の大気圏内原 水爆実験が相次ぎ、いろいろな放射性同位元素が大気中に放出されました。 これらは気流に乗って全地球上に広がり、雨などに混じって地上に降って きて環境の放射線を増す原因となりました。これを放射性降下物(フォー ルアウト)と呼んでいます。 現在でも、私たちが日常食べている食品にはこの放射性降下物による放 射性物質が微量ですが含まれています。 137 有名なセシウム -137( Cs)の例を見てみましょう。下の図は東京で測定 したセシウムー137 の月間降下量と国産穀物中のセシウム -137 の量を表わし たものです。セシウム -137 の降下量が増えるとその後収穫される米や麦な ど穀物の中のセシウム -137 の量も大きく増加することがわかります。 日本産ビール、白米のセシウム 137 および月別降下量の変化 ギガベクレル/km 2 0.6 ベクレル 0.5 5 ビール(1ℓ中) 月間降下量 白 米(1kg中) 4 0.4 3 0.3 2 0.2 1 0.1 0 1959 1960 1961 1962 1963 1964 1965 1966 1967 注)1ベクレルは約27ピコキュリー、1ギガベクレルは10 9ベクレルである。 内山正史:セシウム-137の全身内部被曝に関する研究より 46 0 放射性降下物 当然、食品を経由して人間の体内に含まれるセシウム -137 の量も増え ていきます。下の図はヒューマンカウンタで体内のセシウム -137 含有量 を調べたものです。1962 年で米ソの大気圏内での核実験が停止したので、 環境中のセシウム -137 の量が減り、それにともなって、体の中のセシウ ム -137 も減ってきています。 セシウム -137 と並んで重要なのは、ストロンチウム -90 です。半減期が 短いものは空から地上に落ちてくる前に放射線を放出して安定同位元素に 変化してしまい、直接私たちに影響を与えることはありません。しかし、 セシウム -137 は 30 年、ストロンチウム -90 は 28 年と半減期が長いため、 この二つは長期にわたって空から降り続け、環境を汚染することになります。 1982 年の国連科学委員会の報告書ではこれらの放射性降下物が全人類 に与える影響は自然放射線源の約 3 年分に相当すると推定されています。 600 セシウム137の内体量︵ベクレル︶ 成人のセシウム -137 体内量の年次変化 500 (ヒューマンカウンタによる測定) 400 300 大気圏内核実験 200 チェルノブイリ事故 100 0 1964年 1968年 1966年 1972年 1970年 1974年 1976年 1988年 1986年 1990年 内山正史:「ホールボディカウンティングと日本人の放射性セシウムによる内部被曝線量」放射線科学、Vol.34, No.6,P169-P170,1991。 1986年以降のデータはセシウム-137とセシウム-134との和である。チェリノブイリ事故(1986年)の影響で1987年のセシウム-137の体内 量は再び増加した。 47
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