FP技能検定3級

基本テキスト①
基本テキスト②
Ⅰ ライフプランニング
<この項目で学習すること>
ライフプランニングでは、ファイナンシャル・プランニングの現状や役割を学び、ラ
イフプランのベースとなるライフイベント表やキャッシュフロー表、個人バランスシー
トの作成方法をおさえましょう。そして、人生の三大資金である「教育」
「住宅」
「老後」
に関連する知識を吸収してください。
特に、老後資金の柱となる公的年金などの社会保険制度は試験でも必須分野です。健
康保険と年金保険を中心に数字や制度概要を把握してください。
<特に重点的に学習する内容>
第1章 ファイナンシャル・プランニングの基礎知識
・FP の職業倫理と関連法規
・ライフプランニングの手順と手法
第2章 人生の三大資金のポイント
・教育資金 ・老後資金 ・住宅資金
第3章 社会保険
・健康保険と国民健康保険
・介護保険 ・雇用保険
第4章 公的年金
・国民根金 ・厚生年金 ・老齢給付 ・障害給付
・企業年金
1
・遺族給付
第1章
ファイナンシャル・プランニングの
基礎知識
第1節 FP とは………..……………….…………………………………………4
第2節 FP と関連法規…………………….……………….………….…………5
第3節 ライフプランニングの手順と手法………………………………….....7
3
第3節 ライフプランニングの手順と手法
1
ライフプランとは何か?
ライフプランとは、ライフデザインを具体化した人生設計のことをさします。一般的
に、在職中の人生設計プランを「ライフプラン(狭義)」と呼ぶのに対して、退職後の
人生設計プランは「リタイアメントプラン」と呼ばれています。具体的な人生設計計画
である「ライフプランニング」は、以下の 6 つのステップに従って行われます。
<Step① 顧客との関係確立とその明確化>
FP が顧客に対してライフプランニングの目的や提供するサービスの内容、報酬等に
ついて説明を行い、顧客から了承を得ます。
<Step② 顧客情報の収集と目標の明確化>
質問紙や面談により、ライフプランニングのために必要な情報を収集します。また、
顧客の目標の明確化と数値化をはかります。
<Step③ 顧客のファイナンス状態の分析と評価>
保険の見直しや資産運用の分析、
「キャッシュフロー表」や「個人バランスシート」
の作成等により現状分析を行います。現状の確認と問題点を把握します。
<Step④ プランの検討・作成と提示>
問題点を把握後、その問題点に対しいかに解決を図るか、また現状を把握していただ
くために提案書を作成します。解決案を提案書に記載します。
<Step⑤ プランの実行援助>
解決策をもとに顧客の目標を到達するための実行援助を行います。また、それに伴い
必要に応じて他の専門家の紹介も行います。
<Step⑥ プランの定期的見直し>
解決できたかどうか、また新たな問題が発生していないかどうか定期的な見直しを行
います。
7
2
人生の三大資金
ライフプランを検討するうえで、もっともお金のかかる出来事 3 つとはいったい何で
しょうか。それは、
「教育・住宅・老後」になります。
「教育資金・住宅資金・老後資金」
を人生の三大資金と呼び、中長期的に計画的に準備する必要があるといえます。
3
ライフプランの立て方
ライフプランを立てるためには、顧客情報の収集が重要となります。顧客情報には、
年齢や収入、資産額など数値化できる「定量的情報」と、価値観や性格、ライフスタイ
ルに対する考え方など数値化することができない「定性的情報」があります。いずれの
情報も質問紙や面談によって収集します。顧客の同意のもと、必要に応じて顧客情報に
関する書類のコピーを入手することもあります。
定量的情報
定性的情報
家族の年齢、収入、支出、資産額(貯蓄額など)
、加入している保険金
額、年金額など
今後の夢や希望、健康状態、ライフスタイルに対する考え方、価値観、
家族の性格、資産運用や住宅取得等に対する考え方など
ライフプランを立てる上で、まずは顧客の今後の生活におけるライフイベントや必要
となる資金額を確認し、
「ライフイベント表」を作成します。そして、そのライフイベ
ントをもとに、将来の収支や資金繰りに問題がないかどうか確認を行う「キャッシュフ
ロー表」を作成します。
4
ライフイベント表とは?
ライフイベント表とは、顧客やその家族の将来の予定や希望する出来事を年表形式で
まとめたものになります。ライフイベント表を作成することにより、いつ何があるのか
を把握でき、また必要な資金がいくらぐらいなのか見積もることができます。
なお、ライベント表の必要資金の見積もりは「現在価値」で記入します。また、ライ
フイベント表は 1 年間の設定を 1 月~12 月とし、12 月末時点での年齢でそろえて表記
します。
8
<将来価値と現在価値について>
現在価値はいまのお金の価値であることはお分かりになることでしょう。それでは将
来価値とは何でしょうか。これは、1 年後など将来における資金の状況を示します。例
えば、現在手元に 100 万円あるとします。これを運用したことにより 1 年後に 3%増え
たとします。その結果、1 年後に 100 万円は 100 万円×1.03=103 万円となっているこ
とになります。この 103 万円が将来価値となります。つまり、利子や運用により増える
分も考慮した金額をさします。
反対に、この例ですと運用して 1 年後に 103 万円となりましたが、これを現在価値に
直すと 100 万円となります。いまあるお金が現在価値となるわけです。
<ライフイベント表の例>
家族の年齢
西暦
家族のイベント
必要資金
(年)
夫
妻
長男
長女
2017
34
32
4
1
2018
35
33
5
2
2019
36
34
6
3
2020
37
35
7
4
2021
38
36
8
5
2022
39
37
9
6
車買換え
××万円
2023
40
38
10
7
長女小学校入学
××万円
2024
41
39
11
8
2025
42
40
12
9
住宅購入
××万円
2026
43
41
13
10
長男中学校入学
××万円
2027
44
42
14
11
2028
45
43
15
12
2029
46
44
16
13
2030
47
45
17
14
2031
48
46
18
15
長男幼稚園入園
長男小学校入学
長女幼稚園入園
長男高校入学
長女中学校入学
家族で海外旅行
9
(万円)
××万円
××万円
××万円
××万円
5
キャッシュフロー表とは?
キャッシュフロー表とは、お金の流れを示した表になります。具体的には、現在の収
支状況やライフイベント表をもとに、将来の収支状況や貯蓄残高を推測して表にまとめ
ます。キャッシュフロー表の数値は、利息や物価などを加味した「将来価値」で記入し
ます。
<キャッシュフロー表の例
単位:万円>
<キャッシュフロー表の意義>
・現在の家計における収支および貯蓄残高、将来予想される状況を一目で把握できる
・今後のライフプランを検討するにあたって、問題点を発見しやすい。また、その問題
点に対する解決策を提示可能
10
上記キャッシュフロー表例では、老後の生活資金が不足するおそれがあることを指摘
できる。さぁ皆さんであればどのように対応しますか?
→60 歳以降も働く、ご夫婦で働く、運用して増やすなど様々な対応策を考えること
ができる。決して解答は一つではない
(1)キャッシュフロー表作成の際の必須項目
キャッシュフロー表には、必ず記載する項目があります。それは、①年間収入、②年
間支出、③年間収支、④貯蓄残高です。これに必要に応じて項目を細分化していきます。
家族の年齢は 12 月 31 日時点の年齢を記載し、金額は万円単位(万円未満四捨五入)で
記載します。
(2)収入と支出
キャッシュフロー表の作成に使用する収入には、「可処分所得」を記載します。可処
分所得とは、年収から税金(所得税+住民税)、社会保険料を差し引いた金額が該当し
ます。いわゆる手取り金額といわれるもので、自由に使えるお金をさします。
支出については、大きく分けると以下の項目などにわけて記載します。①基本生活費
(食費や被服費など)
、②住居費(住宅ローン、住宅維持費、家賃など)、③教育費、④
保険料(生命保険料、損害保険料など)、⑤その他の支出や一時的な支出。こうして作
成されたものが前頁のキャッシュフロー表になります。
可処分所得=年収-税金(所得税+住民税)-社会保険料
(3)変動率等の設定
キャッシュフロー表は将来のお金の流れを示しています。そのため、貯蓄や運用によ
り増加するもの、物価上昇により費用が上がるものなどに関しては「変動率」を用い将
来の金額を算出します(前頁のキャッシュフロー表では(1%)と記載しています)。
以下の計算式を用いることで、将来の金額を算出します。
○年後の金額(予想)=現在の金額×(1+変動率)経過年数
(4)年間収支
年間収入から年間支出を差し引くことで求められます。
11
年間収支=年間収入-年間支出
(5)貯蓄残高
貯蓄残高は年間収支により増加した分を加味する必要があります。その際にどのよう
に運用するかによって増える割合(運用率)は異なります。仮に普通預金で運用するな
らば、マイナス金利適用下の現状ではほとんど利息が見込めないため運用率を 0%とし
て保守的に計算することもあります。
貯蓄残高=前年の貯蓄残高×(1+運用率)±年間収支
6
個人バランスシートとは?
「個人バランスシート」とは、現時点での資産と負債の状況を示す表のことです。資
産から負債を差し引くことで「純資産」を求めることができ、現時点の家計に余力があ
るのかどうか、負債が重荷となっていないかどうかを確認することができます。純資産
が多いほど健全といえ、マイナスの場合には債務超過に陥っているといえます。なお、
個人バランスシートの金額は「時価」で記入し、保険については解約返戻金相当額を記
載します。
<個人バランスシートの例>
【資産】
【負債】
現預金
300 万円
住宅ローン
2,000 万円
生命保険
200 万円
負債合計
2,000 万円
投資信託
100 万円
【純資産】
2,500 万円
純資産残高
1,250 万円
負債・純資産合計
3,250 万円
自宅
自動車
資産合計
7
150 万円
3,250 万円
6 つの係数
キャッシュフロー表の作成の他、将来の金額の算出や年金受取額の算出など様々な試
算を行う際に計算を容易に行うことができる方法があります。それが 6 つの係数です。
この 6 つの係数をうまく利用できるようになれば、現在価値や将来価値も容易に算出で
12
きるようになることでしょう。
(1)終価係数
現在の金額から将来の金額を求める際に利用します。今手元にあるお金を所定の期間、
一定の利率で運用できた場合に、将来のある時点でいくらになるかを算出する際に用い
る係数です。
<計算例>
現在の基本生活費が 250 万円である場合、物価上昇率を 1%と見込んだときの 10 年後
の見込額はいくらになりますか?1%、10 年の終価係数を 1.1046 とします。
<解答>
250 万円×1.1046=276 万 1,500 円
(万円未満四捨五入の時には 276 万円と記載する。
)
(2)現価係数
将来の金額から現在の金額を求める際に利用します。一定の利率で運用しながら、将
来のある時点で必要とする金額を得るためには、現時点ではいくらの金額があればよい
かを算出する際に用いる係数です。
<計算例>
運用した結果、10 年後に 100 万円を得たいと考えています。年利率 1%で運用したと
すると現在いくら必要ですか。1%、10 年の現価係数を 0.9053 とします。
<解答>
100 万円×0.9053=90 万 5,300 円
(万円未満四捨五入の時には 91 万円と記載する。
)
(3)減債基金係数
一定利率で運用しながら、将来目標とする額を貯めるために必要となる毎年の積立額
を求める際に用いる係数です。
13
<計算例>
10 年後に老後資金として 1000 万円貯めたい。年利率 1%で運用したとすると、毎年い
くらずつ貯めていけばよいですか。1%、10 年の減債基金係数を 0.09558 とします。
<解答>
1000 万円×0.09558=95 万 5,800 円
(万円未満四捨五入の時には 96 万円と記載する。
)
(4)年金終価係数
毎年の積立額を一定利率で運用した場合の将来の元利合計を求める際に用いる係数
です。
<計算例>
毎年 100 万円ずつ貯めた場合、年利率 1%で運用したとすると 10 年後にはいくらにな
っていますか。1%、10 年の年金終価係数を 10.462 とします。
<解答>
100 万円×10.462=1,046 万 2,000 円
(万円未満四捨五入の時には 1,046 万円と記載する。)
(5)年金現価係数
目標とする金額(例:年金)を受け取るために必要な現在の元本を求める際に利用し
ます。一定利率で運用しながら所定の金額を毎年受け取るためにはいくらの元本(原資)
があればよいかを計算する際に用いる係数です。
<計算例>
10 年間にわたって年利率 1%で運用し、毎年 100 万円ずつ受け取りたいと考えた場合、
現在いくら必要でしょうか。1%、10 年の年金現価係数を 9.471 とします。
<解答>
100 万円×9.471=947 万 1,000 円
(万円未満四捨五入の時には 947 万円と記載する。
)
(6)資本回収係数
現在手元にある金額を運用しながら受け取れる年金額を求める際に利用します。手元
14
資金を一定の利率で運用しながら取り崩した場合に、毎年いくら受け取ることができる
かを計算する際に用いる係数です。ローンの毎年の返済額を求める際にも利用されます。
<計算例>
現在手元にある資金 1,000 万円を今後 10 年間にわたって年金として受け取る場合、年
利率 1%で運用したとすると毎年の年金額はいくらになりますか。1%、10 年の年金現
価係数を 0.10558 とします。
<解答>
1,000 万円×0.10558=105 万 5,800 円
(万円未満四捨五入の時には 106 万円と記載する。
)
15
第2章
人生の三大資金のポイント
第1節
第2節
第3節
第4節
教育資金………………………………………….…………………….18
住宅資金…………………………………..….……………….………..20
老後資金…………………………….……………..………….………..27
決済ツールとしてのカードやローンのしくみ.…………..………...29
17
第1節 教育資金
1
教育資金の考え方
教育資金は住宅資金や老後資金とならび、人生の三大資金の一つといわれています。
教育資金として必要となる金額は家庭によって大きく異なりますが、一般的に入学金や
授業料等の「学校教育費」と、塾や習い事の費用としての「学校外教育費」をあわせた
ものが該当します。
いつ必要となるのか、どれぐらい必要となるのかはライフイベント表を作成すること
で見積もることができます。そのため、子どもの進学にあわせておおよそどの程度必要
になるかを試算し、そのためにいつから貯めていくか計画的に行動することが重要とい
えます。
2
教育資金の準備
(1)積立貯蓄/一般財形
教育資金はできる限り安全性を重視して確実に貯めることを心掛けるべきです。その
ため、預貯金の積立による計画的な資金確保の他、勤務先に財形貯蓄制度があれば一般
財形貯蓄をもとに貯める方法も検討されるとよいでしょう。これは給与天引きにて積み
立てを行うことができる仕組みです。
(2)学資保険/こども保険
教育資金確保の手段として代表的なものに「学資保険」や「こども保険」をあげるこ
とができます。いずれも各生命保険会社が取り扱う貯蓄性の保険であり、満期時には満
期保険金を受け取ることができます。また、契約者である保護者が死亡した場合には、
以後の保険料支払いは免除されます。
学資保険やこども保険は、貯蓄重視のものと、契約者が死亡した場合の死亡保障や子
どもの医療保障など保障を重視したものがあります。そして、満期時だけではなく、進
学時に祝金がでるものもあります。
3
教育ローン
教育資金を計画的に準備できなかった場合や、思ったよりも教育資金が必要となった
場合などには、一定の要件のもと国や民間金融機関による教育ローンを利用する方法を
検討します。
18
代表的な公的教育ローンとしては、日本政策金融公庫が行う「国の教育ローン」があ
り、固定金利で最大 350 万円(留学の場合には 450 万円)まで借りることができます。
なお、民間金融機関の教育ローンは変動金利により取り扱いが多くなっていますが、資
金使途が自由なフリーローンと比べると金利が低く設定されています。
教育ローンの使いみちは、入学金や授業料にとどまらず、テキストなどの教材費や下
宿代などにも利用できます。
<国の教育ローン(教育一般貸付)概要>
種類
融資機関
融資条件
融資限度額
条件
4
国の教育ローン/教育一般貸付
日本政策金融公庫
親の年収制限あり(子どもの人数により年収上限額が異なる)
融資対象の学校に入学・在学する学生の保護者に対する貸し付け
学生 1 人につき 350 万円以内(ただし、海外留学資金の場合には 450
万円まで利用可)
固定金利/返済期間は 15 年以内/最長 4 年間元金の据え置き可能
奨学金制度
教育資金が不足する場合には、教育ローンの他、奨学金制度を活用する方法がありま
す。奨学金制度は、保護者である親ではなく子ども(学生)がお金を借り、卒業後に返
済を行う仕組みですが、卒業後返済を行う必要がない給付奨学金を導入しているケース
もあります。
代表的な奨学金制度として、日本学生支援機構が行う奨学金をあげることができます。
日本学生支援機構の奨学金には、
「第一種奨学金」と「第二種奨学金」があります。第
一種奨学金は、無利子であり、借りた資金のみを返済していけばよいことになります。
第二種奨学金は有利子(在学中は無利子)であり、卒業後、借りた資金と利子を返済す
る必要があります。学生本人の成績などにより利用できる奨学金の種類が変わります。
平成 30 年度進学者から、返済が不要の「給付型奨学金」が実施されます(平成 29 年
から、一部先行実施あり)
。
19
第2節 住宅資金
1
住宅の考え方
住宅の購入は、人生においてもっとも高い買い物の一つといわれており、一般的には
一部を頭金と準備し、残りは住宅ローンを組むことで購入します。長期にわたって返済
を行うのが通常であるため、安心して返済できるような資金計画を行うことが重要です。
住宅を取得する際には、住宅価格のほかに様々な諸費用が必要となります。一般的に
は、諸費用を含んだ物件価格の 20%~30%程度を頭金として用意すべきだといわれてい
ます。
2
自己資金の準備手段
自己資金の準備手段としては、ご自身で貯めて準備をするほか、親などから資金援助
を受ける方法があります。親からの資金援助には、住宅取得資金の贈与に関する特例が
ありますので、一定の条件に該当する場合には利用されるとよいでしょう(詳細は「相
続・事業承継」で学習します)
。
(1)財形住宅貯蓄
財形住宅貯蓄とは、勤務先を通じた給与天引きの積立制度です。住宅購入や住宅の増
改築のために資金を準備したい場合に利用でき、貯蓄商品と保険商品があります。貯蓄
商品では元本と利子をあわせて 550 万円まで、保険商品は払込保険料 550 万円まで非課
税で貯蓄を行うことができます。また、「財形住宅融資」を受けることができるメリッ
トがあります。
<財形住宅貯蓄の対象者>
対象者
積立期間
非課税
申込時の年齢が 55 歳未満の勤労者
5 年以上
元利合計もしくは払込保険料 550 万円まで
20
3
住宅ローンの考え方
住宅ローンは通常、10 年や 20 年、30 年など返済が長期にわたります。そのため、返
済方法や金利水準など住宅ローンをどのように組むかによって総返済額が大きく変わ
ることになります。総返済額がどの程度になるかももちろん重要ですが、毎月の返済が
滞りなく行うことができるかどうかを見極めることが大切です。通常は、毎月の返済額
を手取り収入(可処分所得)の 25%以内に抑えることが目安とされています。
なお、住宅ローンを組む際に、金融機関から「団体信用生命保険」への加入を求めら
れることがあります。団体信用生命保険に加入すると、契約者である住宅購入者に万が
一のことがあった場合には、保険金で住宅ローンの残債を一括返済されます。民間の住
宅ローンでは強制加入となっており、保険料は金利に含まれていることが一般的です。
4
住宅ローンの金利の種類
住宅ローンの金利には、大きく分けて「固定金利」、「変動金利」、「固定金利選択型」
があります。
(1)固定金利
固定金利は、ローン契約時から返済期間終了まで金利が変わりません。そのため、金
利が低いときに住宅ローンを組むことができれば低金利の恩恵を受けることができま
す(総返済額を抑えることができる)
。一方、金利が高いときに住宅ローンを組んだ場
合には、市場金利が下がってもローン契約時の金利で返済する必要があるため、不利と
なります。
(2)変動金利
変動金利は、市場金利の変動により一定期間ごとに金利が見直されます。そのため、
借入後に金利が低下すれば総返済額を減らすことができますが、金利が上昇すれば総返
済額の増加を招く恐れがあります。金利の見直しは 6 ヵ月ごとに行われ、毎回の返済額
が変わるのは 5 年ごとであるケースが一般的といえます。
(3)固定金利選択型
固定金利選択型は、ローン契約当初の一定期間は固定金利であり、その一定期間が終
了後はその時の金利水準をもとに固定金利選択型か変動金利かを選択していくもので
す。
21
<固定金利と変動金利、固定金利選択型のイメージ>
<住宅ローン金利のポイント>
・金利低下局面では変動金利、金利上昇局面では固定金利で借り入れる方が有利となる
5
住宅ローンの返済方法
住宅ローンの返済方法には、
「元利均等返済」と「元金均等返済」があります。
(1)元利均等返済
元利均等返済とは、借りた元金と利子(利息)をあわせた返済額が毎回一定額となる
返済方法です。毎回の返済額が一定であるため、返済計画が立てやすい点がメリットで
すが、返済当初は毎回の返済額の中に占める利子(利息)の割合が高く、金利など同じ
条件の元金均等返済に比べると最終的な総返済額が多くなります。
(2)元金均等返済
元金均等返済とは、借りた元金部分は毎回一定額ずつ返済し、利子(利息)は元金残
高によって計算される返済方法です。返済当初の返済額は多いものの、返済が進むにつ
れて毎回の返済額は徐々に減っていきます。
22
<元利均等返済と元金均等返済のイメージ>
6
住宅ローンの種類
住宅ローンには大きく分けて、住宅金融支援機構などが行う「公的住宅ローン」と、
民間金融機関が行う「民間住宅ローン」があります。住宅金融支援機構が行う公的住宅
ローンは「フラット 35」と呼ばれ、融資主体は民間金融機関ですが、融資後に住宅金融
支援機構が住宅ローン債権を買い取る仕組みで行われています。
民間住宅ローンは取扱金融機関により違いがあるといえますが、公的住宅ローンに比
べると収入基準などが緩やかなケースが多いといえます。なお、借入金利は、融資実行
時点の金利が適用されます。
(1)フラット 35 の主な特徴
フラット 35 の主な特徴は以下のとおりです。
融資主体
融資限度額
適用金利
対象住宅
民間金融機関(融資後、住宅金融支援機構がローン債権を買い取り)
最高 8,000 万円で建設費・購入価額の 100%まで
取引金融機関が決定。最長 35 年の全期間固定金利または段階金利、
適用金利は金融機関により異なる
新築住宅や中古住宅の購入
23
マンションなど共同住宅の場合、床面積 30 ㎡以上
一戸建ての場合、床面積 70 ㎡以上
返済期間
収入基準
保証人
繰上返済手数料
15 年~35 年、完済時の年齢は 80 歳以下
年収に占めるすべての借入れの総返済負担率が年収 400 万円未満の
場合は 30%以下、400 万円以上の場合は 35%以下であること
不要
無料、ただし 1 度に 100 万円以上(インターネット利用の場合は 10
万円以上)の返済が必要
(2)財形住宅融資
独立行政法人勤労者退職金共済機構が実施する公的な住宅ローンを「財形住宅融資」
といいます。これは、勤務先を通じて財形貯蓄を行っている勤労者が利用できます。
財形住宅融資を利用するためには、財形貯蓄を 1 年以上継続し、残高が 50 万円以上
あることが条件です。融資額は財形貯蓄の合計残高の 10 倍以内で 4000 万円以下、住宅
取得価額の 90%以内となっています。返済期間は最長 35 年で、金利は 5 年ごとに見直
される 5 年固定金利となります。フラット 35 と併用も可能です。
(3)民間金融機関の住宅ローン
フラット 35 や財形住宅融資以外にも、民間金融機関が独自に取り扱いを行う住宅ロ
ーンを利用する方法があります。公的住宅ローンと比べると物件に対する制限や収入基
準は緩やかといえます。一般的に、融資を受ける場合には、団体信用生命保険に加入す
る必要があり、融資額は 1 億円以内となっています。
7
住宅ローンの見直し
住宅ローンを組んだ後に資金に余力が出てきた場合には「繰上返済」を検討してみま
しょう。また、金利の高いときに借りている場合などには、昨今の金利低下により「借
換え」を行うことで総返済額を軽減できる可能性があります。
(1)繰上返済
繰上返済とは、毎回の返済とは別に、まとまった資金をもとにローンの元金の一部ま
24
たは全部を返済することをさします。繰上返済した金額は、借りたお金である元金部分
に充当され、その分ローン残高が減少し、今後支払うべき利子(利息)の総額が減少し
ます。これにより総返済額を減らす効果が見込まれます。
繰上返済には 2 通りの方法があります。1 つは毎回の返済額は変えずに返済期間を短
縮する「期間短縮型」
、もう 1 つは返済期間を変えずに毎回の返済額を軽減する「返済
額軽減型」です。同じ条件で繰上返済をした場合、期間短縮型の方が利息軽減効果が高
くなります。また、繰上返済はローン残高が多く残っている借り入れ当初に行った方が
利子の総額を圧縮させ、効果は高くなるといえます。
<期間短縮型と返済額軽減型>
(2)借換え
借換えとは、現在返済しているローンを一括返済するために、別の金融機関で新しく
ローンを組むことです。現在返済しているローンの金利よりも低い金利で借り換えるこ
とで、利息軽減効果が期待されます。
ただし、借換えにはローンの保証料や手数料、抵当権の設定費用などがかかることか
ら、これらの諸費用を考慮したうえで借換えにメリットがあるかどうかを検討する必要
があります。一般的には、
「住宅ローン残高が 1,000 万円以上あること」、
「残りの返済
期間が 10 年以上あること」
、
「借換え前後の金利差が 1%以上あること」が借換えにより
利息軽減効果を得ることができる目安といわれています。
25
8
住宅取得と税金
住宅などの不動産は、購入時・保有時・売却時いずれにおいても税金がかかります。
購入時には「不動産取得税」や「印紙税」が、保有時には「固定資産税」や「都市計画
税」が、売却時には利益が発生していれば所得税や住民税がかかります。
なお、一定の条件を満たす住宅ローンを組んだ場合には、ローン残高に応じて一定の
税額が還付される「住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)」の適用を受けることが
できます。また、住宅購入資金を親から贈与を受けた場合などには贈与税の特例により
贈与税が非課税となる措置も設けられています。詳細は「不動産」および「相続・事業
承継」にて説明しますが、かかる税金もあれば戻ってくる税金もあることを知っておい
てください。
税金の他にも、住宅は住み続けるために修繕費用が発生します。マンションやアパー
トでは、修繕積立金や管理費などの費用がかかりますので、購入後にもコストがかかる
ことは覚えておいてください。
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第3節 老後資金
1
リタイアメントプランの考え方
リタイアメントプランとは、退職後の人生設計をどうするか検討することです。日本
人の平均寿命は世界一の水準といえ、これまでとは働き方が異なってきていること、公
的年金だけでは老後資金が不足する恐れがあることを考慮すると、リタイアメントプラ
ンの重要性は日に日に増すばかりです。
多くの人にとって、退職後の収入は減ることになるでしょう。そのため、退職金やそ
れまでにためたお金をどのように使うのか、また運用により増やしていくのか、不足す
る場合にはどう対処していくのか、早めの準備・検討が必要といえます。
2
リタイア後の資産運用
リタイア後の資産運用は、基本的には安全性を重視した運用を心掛けるべきです。な
お、ある程度老後資金に余力のある方で 5~10 年程度使わないお金がある場合にはリス
クをとった運用を行うことも可能です。ただし、株式というよりは債券などリスクが低
めの金融商品での運用を心掛けるべきでしょう。
また、何かあった時に備えて、流動性にも配慮する必要があります。すなわち、すぐ
に現金化できる、もしくはすぐに現金としておろすことができる資金の確保も行ってお
くべきです。
3
成年後見制度
成年後見制度とは、20 歳以上でありながらも判断能力が不十分な人の権利を守るた
めの制度です。成年後見制度には、
「法定後見制度」と「任意後見制度」があります。
(1)法定後見制度
法定後見制度は、精神上の障害などによって判断能力が不十分となった場合に、本人
や一定の親族が申立てを行うことによって、家庭裁判所が本人の法律行為を手助けする
人物を選任するしくみです。判断能力がどの程度不十分かによって、
「後見」
「保佐」
「補
助」の 3 つにわかれ、それぞれ「後見人」
「保佐人」
「補助人」が選任されます。なお、
判断能力が全くない方が後見に該当し、判断能力が特に不十分な方が保佐、判断能力が
不十分な方が補助に該当します。
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(2)任意後見制度
任意後見制度は、将来判断能力が不十分になった場合に備えて、事前に本人があらか
じめ契約により将来の後見人を決めておくしくみです。任意後見の契約は必ず公正証書
で行う必要があります。任意後見制度での家庭裁判所の関与は、本人があらかじめ選任
しておいた任意後見人を家庭裁判所が選任した任意後見監督人を通じて監督するにと
どまります。
法定後見、任意後見ともに、その内容は登記されます。成年後見人(後見人・保佐人・
補助人)になるのに特に法令上の制限はありませんが、実際には配偶者や子供など親族
がなるケースが多いといえます。なお、以下の者は欠格事由に該当するため、成年後見
人になることができません。
①未成年者
②家庭裁判所で免ぜられた法定代理人・保佐人または補助人
③破産者
④被後見人、被保佐人、被補助人に対して訴訟をし、またはした者およびその配偶者な
らびに直系血族
⑤行方の知れない者
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第4節 決済ツールとしてのカードやローンのしくみ
1
カードの種類と特徴
電車やバスに乗るときに今や電子マネーで乗ることも珍しくはなくなってきていま
す。また、高額な商品を購入する場合には、現金で持ち歩くと不安といったことや分割
で買いたいという希望を満たすためにクレジットカードを利用する人も多いことでし
ょう。こうしたカードにはどんな特徴があるのでしょうか。
まず、
「クレジットカード」の特徴として、後払いでよいという点をあげることがで
きます。2 回払いまでであれば手数料がかからないため、利用の仕方さえ間違えなけれ
ば効率の良い買い物を行うことができます。
金融機関のキャッシュカードに支払機能をもたせ、現金の代わりに代金の支払いを行
うことができる「デビットカード」というものがあります。手数料不要で、通帳に預金
があればその預金額の範囲内で買い物を行うことができ、支払は即時行われます。
「電子マネー」は、現金の情報を IC カードに記録したものです。事前に入金するこ
とで利用するものや、クレジットカード等で決済する後払い方式のものもあります。
2
ローンやカードの支払方法
ローンやカードの支払方法には、手数料不要となる一括払いや二回払いのほか、手数
料が必要となる分割払いがあります。分割払いにおける主な支払い方式として、
「アド・
オン方式」と「リボルビング方式」があります。
(1)アド・オン方式
アド・オン方式とは、元金に対してあらかじめ利息を計算し、元金と利息の合計額を
返済回数で割ることで毎回の返済額を決定し支払う方式です。
(2)リボルビング方式
リボルビング方式とは、利用限度額の範囲内で、あらかじめ設定した一定金額(例:
1 万円など)や一定割合を毎回支払っていく方式です。
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