水際地盤学からの展望 ー流域環境の変遷と海岸の地形環境を考えるー Goldcoast (Google) 関口 秀雄 大阪市立大学理学研究科 客員教授 1 講演内容 1.生存基盤を考えるヒント: 流域環境の変遷 2.流砂系と漂砂系の連関 3.漂砂セル(概念モデル)の物理的基礎 4.海岸侵食の事例研究 (a) 西湘海岸 (b) 大潟海岸 5.最近の浅海地質学アプローチの動向 (a) 埋没浜崖の同定(GPRとOSLの適用) (b) 陸棚の洪水堆積層(100年オーダ) 6.まとめ 2 1.生存基盤を考えるヒント: 流域環境の変遷 人口の推移⇔文明(都市化)⇔流域環境の変遷 (国連資料) 流域環境の変遷に学び将来のあり方を洞察したい! 3 流域環境変遷の例: 黄河の年間土砂流出量の推移 Wang et al. (2007) 黄土(loess)の侵食 1950年以降のデータはLijin流量観測所での浮遊運搬土砂フラックスによる 4 生存基盤を支える物質循環 ◎ 水循環 ◎ 堆積物の分配 (流砂漂砂系) エネルギー (災害外力) (自然再生エネルギー) 生存基盤 物質 地表環境 ・水 ・溶存物質 ・堆積物(泥、砂、礫) ・多様な地形 ・多様な生態系 ・多様な文明 5 気候変動を視野に入れて 自然条件 社会条件 陸 海 海岸域は陸と海のインターフェース (Nicholls et al., 2007) 6 オランダ臨海低地における 水際防災の考え方 高潮 砂丘 低平地 Delft Hydraulics 潮位1mの余裕⇒ 高潮再帰確率1万 年に1回に低下! Gerritsen(1969) 7 海岸砂丘(自然のバリア)の侵食 広域地盤沈下の (関口, 2007) 推移 自然・社会環境の変遷と LEGACYをよく表す! ゼロメートル地帯 海岸法 改正海岸法: 伊勢湾台風 防護・利用・環境保全 8 の調和 日本列島における主要な 沿岸災害のタイプ 冬季風浪 暴風浪外力の評価 ◎既往最大主義? 国交省(2003) ◎極値統計解析の進展には 極値情報が重要! 9 総合土砂管理を 目指して! 流砂系現況マップ 藤田光一他(2008): 国総研資料,第445号 10 2.流砂系と漂砂系の連関 11 森林・水・土壌環境の劣化(過剰な土砂生産・流出) の背景 塚本(1998) 戦前における 木質資源の利用: 燃料,建設材料,肥料(草山化)等 産業活動 (タタラ製鉄)の影響評価の例: 貞方(1996) 流砂漂砂系のイメージ 海水の表現は省略されている Seibold and Berger (1993) Cf. Inman & Nordstrom(1971)による海岸地形の大分類によると、上図は collision coast (変動帯の海岸)に対応する 13 海岸林 (外浜) (沖浜(内側陸棚)) 漂砂セルに基づく堆積物収支のとらえ方 (Komar, 1998改編)14 流砂系応答を復原する試み: 木津川の破堤地形 に着目して 15 東・関口・釜井(2010 ), 水工学論文集 1) 過剰な土砂流出の痕跡(破堤地形) 災害の素因(天井川化)と誘因(洪水の規模)を調べる 木津川下流域の空中写真 (1973年5月15日撮影) 16 2) 天井川化のしくみ ◎山地荒廃にともなう洪水流出特性の変化 ◎過剰な土砂流出 ⇒ 河床上昇 ⇒ 天井川化 18世紀前半の河床上昇 (古文書) (a)河道の両端に堤防を設置 八幡市 付近 精華町 付近 30年間に 1.4m上昇 50年間に 1.5~1.8m上昇 枇杷庄村 (城陽市) 30年間に 2m上昇 (b)堤防間で流路変化を繰り返し,河床が上昇 (c)河床上昇に伴い,堤防が増強され,更なる河床の 上昇を招く 17 3) 参考にした先行研究: 大矢・久保(1993)による水害地形分類図 18 4) 破堤地形の保存状況: 土地利用の変化から読み取る (データ源:米空中写真) (データ源:都市計画図) 総面積77×104m2 総面積63×104m2 1948年当時の畑作としての土地利 用エリア(地形分類図における破堤 地形範囲内) 2002年当時の畑作としての土地利 用エリア(地形分類図における破堤 19 地形範囲内) 19 5) 物理探査の実施 探査深度2.2m 探査深度2.8m 暖色=高比抵抗値=砂質 寒色=低比抵抗値=泥質 探査深度3.4m 牽引式比抵抗探査による比抵抗の段彩図 zエリア①は 比抵抗値が高い ⇒ 砂質 20 6) 破堤による流出土砂量の評価 TIN, Natural Neighbor(空間内挿法)で破堤地 形の3次元立体図を作成し,基準面より上部 の堆積物量を算定 氾濫堆積域 T.P.+15m~16m 低地(後背湿地)の標高 T.P.+13m~14m 推定流出土砂量=100~200×104m3 21 21 7) 堆積土砂量に適合する氾濫流量の推算 ○掃流砂量式 芦田・道上の式 氾濫総流量は10億m3 に達する? (毎秒5000 m3流出で2日間継続) Q.このような研究の意義は? A.極値の推定に寄与できる 22 3.漂砂セル(概念モデル)の 物理的基礎 23 海岸林 概念モデルとしての漂砂セル (Komar, 1998改編)24 漂砂の物理過程の基礎 波の遡上 (岸沖断面内の表現) Horikawa (1988) 砕波 浅海波 沿岸砂州 砂漣 厳しい波浪負荷によって、海底床にはシートフロー(液状化・流動化を ともなう水と土が混然一体となった流れ)が発生する 25 暴風浪時における堆積物の沖合流出の可能性を 示唆する既往モデル 26 水―堆積物系の状態変化 鉛直方向の浸透流速 流動化 固体状態 粒径 Lowe(1975) 27 鉛直浸透流の作用による砂の状態変化 流動化 ボイリング ケイ砂No. 6 中央粒径: 0.32mm 鉛直浸透流速 Amiruddin et al. (2006) 28 (流動化した砂柱) 流動化した砂は堆積物重力流 として側方に流れていき再堆 積する (佐々・関口, 2009) 29 海底における堆積物 の移動過程の物理: 体積濃度 未だ発展段階にある 既存の漂砂量則は半経験式 であり、その適用には留意が 必要! 一方向流れの物理 高橋 (2004) 30 4.海岸侵食の事例研究 (a) 西湘海岸 31 (b) 大潟海岸 酒匂川 海保 海底地形図 4. (a) 西湘海岸 海底谷に面する典型的な変動帯の海岸 32 2007年台風9号による西湘バイパスの被災 Damage to a 4-lane seaside road due to storm waves (Yokohama Road office, 2007) Failed section of road-seawall system 33 (関口撮影)34 約40万m3の砂礫が海底谷に流出した! 西湘海岸保全対策検討委員会 第2回委員会公開資料より 35 海岸段丘 前浜 後浜 永年の海岸侵食により、1.5m 砂浜による被覆低下 吸出し等の複合過程 Pre- and post-failure profiles of road-seawall system (Sekiguchi et al., 2009) 36 西湘バイパス本復旧断面のイメージ 西湘海岸保全対策検討委員会 第3回委員会公開資料より Q. 養浜砂(砂礫)をいかに維持するか? 4.(b)大潟海岸 37 孤立漂砂系に遷移した砂浜海岸 研究の背景: ①わが国では毎年160haの砂浜面積が消失 (田中ら,1993) ②土砂収入をほとんど期待できない海岸の増加 ③岸沖方向の土砂輸送機構の解明が重要に なってきた 調査方法: ◎3次元サイドスキャンソナー(C3D)計測 2008年7月および2009年7月実施 ◎バイブロ・コアサンプリング(VCS) 2009年7月実施 38 D’ 広域の漂砂環境の理解を 深めるためのヒント D 潟町砂丘 関 川 海岸線に平行な地質断面図 (新潟県地盤図, 2002) (a) 1872年 (直江津町史) 関川河口の直江津港の発展 日本海 河口水深 1.8m 歴史的には、日本海側の港(新潟港等)は河口 の堆砂問題(水深不足)に悩んできた! 関 川 (c) 2008年 (沖防波堤の完成) (b) 1969年 (河と港の分離) 40 上越地域海岸における海浜変形の推移 1969年当時の直江津港 沖防波堤の 延伸 2008年現在の直江津港 地形図(1/25000)に基づく ◎1991年時点まで汀線位置は後退してきた ◎それ以降、汀線位置が落ち着いているのは海岸保全構造物の設置効果の表れ, しかし… 41 高解像度海底地形計測プロジェクト 2mグリッドの水深情報が得られる! 3次元マルチビームサイドスキャンソナー(C3D)による地形計測 42 2008年7月 C3Dによる海底地形計測中 内山氏 43 C3Dプローブ C3D計測(2008年7月)に基づく海底地形 東ら(2009) ①人工リーフの沖合(水深8mより沖)に,湾入状の海底地形の形成 (侵食域) ②観測桟橋(K)の沖合に大規模な弓型砂州地形の形成 ③人工リーフ周辺には局所的な地形変化(洗掘)が生じている 44 観測桟橋 観測桟橋付近の海底音響画像ー大規模な弓型砂州地形が明らか 45 漂砂の動態把握に向けて海底堆積物のバイブロコア(VCS)採取 2008年C3D結果と測線C,D VCS_01 測線D 測線C VCS_02 VCS_03 VCS_04 VCS_05 VCS_06 VCS_07 VCS_08 VCS_09 VCS_10 46 採取した海底堆積物の特徴 47 砂浜ー砂丘系における漂砂環境の連関 東・関口・山口(2010), 海岸工学論文集(掲載決定) 48 5. 最近の浅海地質学アプローチ の話題 (a)埋没浜崖の同定(GPRとOSLの適用) (b)陸棚の洪水堆積層(100年オーダー) 49 5.(a) 埋没浜崖の同定 Buynevich et al. (2007) ・暴風浪イベントによる砂浜の地形変化の痕跡 (埋没浜崖)を同定; GPR(地中レーダ)探査 • 浜崖を形成したイベントの発生時期の同定; 石英を用いたOSL(光励起ルミネッセンス) 年代測定 ・堆積性海岸システム: バリア(barrier)に着目; 北大西洋に面するMaine湾のHunnewell浜 ‘Nor’easterによる被災 (e.g., 1978年blizzard)50 地中レーダとは? 電波を使った物理探査 手法 反射法 反射法 PulseEkko PulseEkko 100 100 PC PC 田村 亨氏 より コンソール コンソール 送信器 送信器 コンソール用 コンソール用 バッテリー バッテリー Noggin Noggin plus plus アンテナ・コンソール アンテナ・コンソール バッテリー バッテリー 一体型 一体型 50 50 MHzアンテナ MHzアンテナ 受信器 受信器 100 100 MHzアンテナ MHzアンテナ 200 200 MHzアンテナ MHzアンテナ 宇宙線 ルミネッセンス年代 測定法の要点 自然放射線 52 アメリカ東海岸 Maine湾 Hunnewell浜 53 基礎となる先行研究: Buynevich et al. (2004), Geology 前進性の砂浜海岸 ・浜堤列 ・1978年暴浪による浜崖 ・海岸砂丘におけるGPR測線 1978年形成の浜崖写真(Google Earthより) “砂浜の乗馬を楽しむツーリスト” 54 4つの埋没浜崖をとらえた地中レーダ画像: 重鉱物の濃集が浜崖のGPR画像 コントラストを強調! 浜崖形成年はOSLによる Buynevich et al. (2007), Geology 55 Buynevichらの研究グループの大目標: 埋没浜崖の規模と形成履歴情報 ⇒ 北大西洋における過去1500年間 の暴風浪環境の変遷や気候変動(大西洋振動)の推定 ◎ 極端現象の統計解析に資する 56 5.(b) 陸棚の洪水堆積層 Sommerfield et al. (2007) 洪水プルーム 対流沈降 Hyperpycnal flow 57 河と海の繋がり:アメリカ西海岸 Eel流域 Eel河とMad河からの洪水による 堆積物流出量: M = 19 x 106 tons/yr 海底への堆積量: ・内側陸棚 ~ 10% ・中間-外側陸棚 ~ 20% ・大陸斜面 ~ 20% ・海底峡谷の谷頭 ~12% ・残りは不明 ◎洪水堆積物の行方と規模が定量的 に把握できるようになってきた ◎海底での洪水堆積物の再移動機構 Pb210法による堆積速度分布 (Sommerfield et al., 2007) 58 6.まとめ 1) 流域環境の変遷を読み解くポテンシャルの増 進 ⇒ 将来のリスク・コミュニケーションの基盤醸成 2) 海岸侵食は「堆積物収支の不均衡による環 境災害」 ⇒ 海岸環境の保全には流砂系と漂砂系の連関 についての理解がますます重要になる 59
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