10 Panasonic 社製デジタルミラーによる脳卒中片麻痺患者の重心軌跡

第 2 セッション
基礎(一般演題)
一般口述
10
Panasonic 社製デジタルミラーによる脳卒中片麻痺患者の重心軌跡の分析と
移乗動作の関連性―移乗自立のための判定基準の検討―
山形 繁広(やまがた しげひろ),成田 孝富,山口 千里,田中 幸菜,前濱 那菜子
西宮協立リハビリテーション病院 リハビリテーション部
キーワード
脳卒中片麻痺,移乗動作,麻痺側重心移動
【目的】
ADL 動作上での移乗自立の判定において明確な基準はなく,セラピストの主観的な経験に基づいていることも
少なくない.本研究では Panasonic 社製デジタルミラーを使用し,健常者,片麻痺患者の移乗自立群,移乗非自立
群の重心軌跡長の分析を行った.移乗自立のための判定基準として麻痺側への重心移動とそれに伴う支持性に着
目し,健常者,移乗自立群,非自立群で比較検討し,考察を行ったので報告する.
【方法】
対象は 2015 年 3 月 5 日から同年 6 月 3 日に当院に入院している検査上の説明などの理解ができ,高次脳機能障
害の影響が少ない脳卒中患者とした.健常者 11 名(平均年齢 25.8 歳±3.5,男性 5 名,女性 7 名).物的支持なし
での立位保持が可能な移乗自立群 5 名(平均年齢 74.2 歳±6.7,男性 3 名,女性 2 名,右片麻痺 4 名,左片麻痺 1
名)
,非自立群 4 名(平均年齢 77.8 歳±6.7,男性 1 名,女性 3 名,右片麻痺 2 名,左片麻痺 2 名)
.Panasonic
社製デジタルミラーを使用し,自身で左右均等だと思うところで停止してから 30 秒間左右への体重移動を対象者
の可能な範囲,ペースで行った.その際検査者は対象者の動作分析を行った.
【結果】
矩形動揺面積の平均は健常者 76.98cm2,移乗自立群 95.62cm2,非自立群 67.85cm2,重心幅左右の平均では健常
者 18.85cm,移乗自立群 18.12cm,非自立群 11.83cm,重心幅前後の平均は健常者 3.97cm,移乗自立群 5.06cm,非
自立群 5.6cm であった.t 検定より,非自立群は健常者と比較して,重心幅前後で拡大していることが認められた
(p<0.05)
.また重心左右においては有意に縮小していた(p<0.01).そして健常者と非自立群の重心幅前後にお
いても有意差が認められた.移乗自立群・非自立群共に有意差はみられず,動作分析の結果,骨盤後退の代償動
作が半数に認められた.
【考察】
非自立群は健常者と比べて重心幅左右が有意に縮小し,重心幅前後が拡大していた.これらは麻痺側重心移動
に伴う骨盤帯の不安定性が関係していると考える.脳卒中片麻痺患者では,重心動揺が大きくなり,安定性限界
も狭いと言われている
(Murray et al. 1975)
.移乗のステップ時には麻痺側踵荷重を維持し,非麻痺側をステップ
する必要があるが,非自立群では麻痺側重心移動時に足底内前後の動揺が生じており,ステップを出すための支
持が不十分である可能性が重心移動の結果より考えられる.本研究は移乗自立のための判定基準を検討していた
が,対象者数が十分ではなかった.これからも継続して調査していく必要があり,麻痺側重心移動と体幹機能や
感覚との関連等も検討し,移乗自立の判定基準をより明確にしていくことが今後の課題と考える.
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第 2 セッション
基礎(一般演題)
一般口述
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Functional Reach Test における上肢高さの違いが下肢の運動戦略に及ぼす
影響
矢野 正剛(やの まさたか)1),枡田 隆利1),重盛 大輔1),長尾 卓1),大垣 昌之2)
愛仁会リハビリテーション病院 リハ技術部 理学療法科1),
愛仁会リハビリテーション病院 リハ技術部2)
キーワード
Functional Reach Test,下肢の運動戦略,上肢高さ
【目的】
Functional Reach Test(FRT)は,立位時足圧中心の前後移動距離(前後距離)との関連について多くの報告
があり,FRT は動的立位バランス測定の指標となり得る可能性が示されている.しかし,FRT での到達距離
(FR
値)と動的バランスとの関連性を積極的に支持しない報告も存在する.その理由としては,FRT ではリーチ動作
は水平に行うように設定されているが,リーチ動作を行う高さが統一されておらず,FRT 施行時の運動戦略を特
に指定していないためである.
そこで今回,FRT における下肢の運動戦略に着目し,FRT 施行時の上肢高さの違いが FR 値,前後距離に及ぼ
す影響を調査したので報告する.
【方法】
対象は健常成人 15 名.平均年齢 24.9±3.2 歳,平均身長 1.64±0.10m,平均体重 55.3±11.0kg.
測定方法は,Duncan らの方法に準じ FRT を施行し FR 値,前後距離ならびに運動戦略について記録した.FRT
施行時の上肢高さが肩峰レベル(原法)と,上肢高さは対象者任意の高さ(高さ任意)の 2 通りの方法で施行し
た.統計処理は,Wilcoxon 検定を用いて双方を比較し,有意水準は 5% 未満とした.
【結果】
FR 値は原法で 36.1±7.0cm,高さ任意で 45.0±6.3cm と高さ任意にて有意に大きかった(p<0.01)
.前後距離は
原法で 91.9±26.9mm,高さ任意で 93.4±28.0mm であり有意差を認めなかった.運動戦略の分類は高崎らの報告に
習い分類を行い,原法では股関節屈曲のみ(H パターン)11 名,股関節屈曲→足関節底屈(HP パターン)3 名,
股関節屈曲と足関節底屈が同時に出現する(H P パターン)1 名,高さ任意では H パターン 5 名,HP パターン
9 名,H P パターン 1 名であった.開始肢位を基準とした FR 値最大到達点での股関節屈曲,足関節底屈角度は,
!
!
原法ではそれぞれ 26.1±9.3̊,3.0±2.9̊,高さ任意では 43.3±9.1̊,6.0±2.8̊ であり,双方共に高さ任意にて有意に
大きかった(p<0.01)
.
【考察】
本研究の結果より,高さ任意で FR 値,股関節屈曲角度,足関節底屈角度は原法より有意に大きかった.健常成
人を対象にした本研究では,足関節底屈筋群の活動により足関節の背屈をしっかりと制御することができると考
えられ,高さ任意の場合,原法よりも HP パターンの割合が増えていることからも足関節を制御することで股関節
の自由度も拡がり原法より更に股関節屈曲角度,足関節底屈角度が増え FR 値の増大に繋がったものと考える.前
後距離については,本研究では最大到達点までの距離で比較を行ったため,双方共に FR 値最大到達点では COP
の前方移動限界まで達していたため,有意差を認めなかったと考えられる.このように,FRT 施行時の上肢高さ
の違いで下肢の運動戦略も変わり,FR 値に大きく影響するため,臨床場面で動的立位バランスの評価に FRT
を定期的な評価として用いる場合,施行時の上肢高さを規定する必要があり,また下肢の運動戦略も加えて評価
することでより明確な身体機能の評価や治療効果の判定に繋がるものと考える.
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第 2 セッション
基礎(一般演題)
一般口述
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端座位での側方リーチ動作における圧中心軌跡と股関節周囲筋の筋活動に関
する検討―運動開始前後の運動学的特徴に着目して―
池田 幸司(いけだ こうじ)1),末廣 健児2),木津 彰斗3),國枝 秀樹3),高
浩壽3),鈴木 俊明4)
1)
2)
鉢嶺医院 リハビリテーション科 ,医療法人社団石鎚会 法人本部 ,
医療法人社団石鎚会 リハビリテーション部3),関西医療大学大学院 保健医療学研究科4)
キーワード
座位側方リーチ,COP逆応答現象,股関節周囲筋
【目的】
臨床で用いられる座位側方移動の運動学的特徴を知るため,我々はこれまで座位側方移動時の股関節周囲筋の
活動について検討した.そして,動作時では股関節伸展による骨盤後傾の制動と,股関節内旋による骨盤の側方
傾斜が必要であり,これらに移動側股関節周囲筋が関与することが示唆された.しかし,動作開始前後の機序は
未だ明らかでない.本研究では座位側方リーチ動作における圧中心(center of pressure:以下,COP)及び両側
股関節周囲筋の筋電図の計測と,体幹と骨盤の動画解析を行い,座位側方移動の開始前後の運動学的特徴を検討
した.
【方法】
本研究はヘルシンキ宣言を鑑み,研究概要や個人情報の扱い等について説明し,同意を得た成人男性 11 名(平
均年齢 24.8±3.7 歳)
を対象とした.被験者を測定台上に両足底接地にて端座位とらせ,両肩関節外転 90 度にさせ
た.この肢位より一側中指から 15cm 側方に配置したゴール板に 1 秒間でタッチするよう側方リーチを行わせた.
動作時は両上肢水平位で移動側大腿と下腿は傾斜させず,両足底接地を維持させた.各被験者に両側へ課題を行
わせ,課題時の筋電図と COP を測定した.筋電図は両側の大腿筋膜張筋,中殿筋,大腿直筋を測定し,各筋の活
動の開始時期と振幅変化を検討した.COP は測定台上に重心動揺計のプレートを 2 枚並べて配置し,座面上の
COP を測定後,その変位について検討した.動画解析は C5,C7,Th9,Th12,L4,両側上後腸骨棘にマーカー
を付着し,ビデオカメラにて記録した課題時の動画を連続静止画像に変換後,画像上のマーカー変位を検討した.
なお,本研究は反対側中指に電極を付着し,開始肢位よりスタート板に接触させ,この電極の振幅値変化を動作
開始時点とした.
【結果】
動作開始前では,開始肢位より両側上後腸骨棘の反対側変位と反対側上後腸骨棘の下方変位が生じ,骨盤は前
額面にて反対側へ側方傾斜した.また COP は反対側及び前方変位し,このとき反対側大腿筋膜張筋,中殿筋,大
腿直筋の活動を認めた.動作開始直後では,C5,C7,Th9 は移動側変位したが,Th12,L4,骨盤は変位せず,脊
柱は頸椎及び胸椎の移動側側屈が生じた.このときの COP は反対側及び前方変位を維持し,反対側各筋も活動の
持続を認めた.また移動側各筋は動作開始前後において活動の変化を認めなかった.
【考察】
動作開始前の COP 反対側及び前方変位は逆応答現象であり,これは反対側への骨盤の側方傾斜に伴ったと考
える.また,この骨盤変位は反対側大腿筋膜張筋及び中殿筋による股関節外転・内旋と反対側大腿直筋による股
関節屈曲により生じたと考える.動作開始直後では頸椎,胸椎の移動側側屈が生じ,COP 変位と反対側各筋の活
動は動作開始前の状態を維持した.これは動作に伴う体幹の移動側傾斜の制御ため反対側への骨盤変位を維持し
たと考える.
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第 2 セッション
基礎(一般演題)
一般口述
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Functional Reach Test における長座体前屈距離,体幹前傾角度の関係性
枡田 隆利(ますだ たかとし),矢野 正剛,重盛 大輔,長尾 卓
社会医療法人 愛仁会 愛仁会リハビリテーション病院 リハ技術部 理学療法科
キーワード
Functional Reach Test,長座体前屈,体幹前傾角度
【目的】
Functional Reach Test(以下,FRT)は動的バランスの評価法として医療や介護などの分野で広く用いられて
おり,Duncan らは「立位において安定性の限界を反映するもの」と定義している.一般に FRT の測定値(以下,
FR 値)に影響を与える要因として Duncan らは足底圧中心点(以下,COP)の変位に高い相関性があると報告し
ており,前岡らは立位姿勢における体幹前傾角度に高い相関性があると報告している.立位姿勢における体幹前
傾角度が高い相関性を示すのであれば,より簡便に測定可能であり幅広く用いられている長座体前屈にも FR 値
と高い相関性を示すのではないかと仮説をたて,今回検証した.
【方法】
対象は健常成人 14 名
(男性 5 名,女性 9 名)
.平均年齢 24.9±3.3 歳,平均身長 1.64±0.09m,平均体重 54.7±11.1
kg.
FRT の測定方法は,Duncan らの方法に準じて施行し FR 値を記録した.FRT 測定時の立位姿勢における体幹
前傾角度は矢状面より肩峰,大転子,腓骨頭,をランドマークとしてビデオカメラ
(Panasonic 社製 HDC TM750)
で定点撮影し,撮影した動画を二次元動作解析装置(株式会社ダートフィッシュ・ジャパン社製 Dartfish)使用し
解析した.長座体前屈は 2 回測定し,その最長距離を代表値とした.統計処理は Spearman の順位相関係数を用
いて,FR 値と体幹前傾角度,FR 値と長座体前距離の関連を調べた.有意水準を 5% 未満とした.
【結果】
各測定値は,FR 値は 45.0±6.5cm,体幹前傾角度は 44.3±8.2 度,長座体前屈の測定値は 39.8±9.6cm であった.
FR 値と体幹前傾角度は(r=0.46,p<0.09)で相関は認めず,FR 値と長座体前屈は(r=0.60,p<0.03)であり
相関を認めた.
【考察】
本研究の結果より,FR 値と長座体前屈の測定値には相関性があることが示唆された.長座体前屈の利点はより
!
簡便かつ安全に動的バランスの評価が行えるという所にあり,医療や介護などの現場において FRT を施行する
にも検査方法を理解するのが難しいケースやマンパワーが必要になるなどの場合に,長座体前屈は有用になるの
ではないかと考える.また,本研究においては FR 値と体幹前傾角度に有意な相関性は見られなかったが,他の先
行研究では高い相関性を示したという報告が幾つか存在し,FRT の測定方法や姿勢制御ストラテジーの違いに
よってデータにばらつきが生じる可能性が考えられる.これは,今回有意な相関を示した FR 値と長座体前屈測定
値にも言えることであり,FRT を測定するに当たり最適な測定方法の統一と姿勢制御ストラテジーの理解および
評価を詳細に行う必要性があると考える.
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第 2 セッション
基礎(一般演題)
一般口述
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端座位での前方リーチ肢位保持における大殿筋および内側・外側ハムストリ
ングスの筋活動
木津 彰斗(きず あきと)1),末廣 健児2),國枝 秀樹3),石濱 崇史2),池田 幸司4),鈴木 俊明5)
田辺記念病院 リハビリテーション部1),医療法人社団石鎚会 法人本部2),
介護老人保健施設やすらぎ苑 リハビリテーション科3),鉢嶺医院 リハビリテーション科4),
関西医療大学大学院 保健医療学研究科5)
キーワード
前方リーチ肢位,大殿筋,ハムストリングス
【目的】
運動療法において,日常生活動作能力向上のために端座位での前方リーチ動作を行うことがあるが,その際の
大殿筋や内側・外側ハムストリングスの筋活動について検討された研究は少ない.そこで,端座位での前方リー
チ肢位保持における下肢筋の筋活動についてリーチ距離を変化させて計測し,若干の知見を得たので報告する.
【方法】
対象は,ヘルシンキ宣言に基づき同意の得られた健常男性 10 名(25.0±0.9 歳)とし,開始肢位は両肩関節屈曲
90̊ 位にて上肢を保持させた端座位で,両股・膝関節屈曲 90̊ 位,両股関節内外旋中間位に規定した.次に,開始
肢位から股関節屈曲による体幹の前方傾斜にて両指尖を 5cm から 30cm まで 5cm 刻みでランダムに前方へリー
チさせ,その肢位を保持させた状態で下肢筋の表面筋電図を 5 秒間計測した.
各筋の電極位置は,大殿筋上部線維は上後腸骨棘 2 横指下と大転子外側端を結ぶ線上の筋腹上(部位 A)およ
びその 2cm 上方の筋腹上(部位 B)
,下部線維は坐骨結節より 5cm 上の筋腹上(部位 C)およびその 2cm 下方の
筋腹上(部位 D)とし,部位 A・C の中間点(部位 E)にも各々電極間距離 2cm で配置した.また内側・外側ハ
ムストリングスの筋腹上にも同様に電極を配置した.
そして各部位の開始肢位での筋電図積分値を 1 とした筋電図積分値相対値を求め,各リーチ距離における値に
ついて一元配置分散分析および多重比較検定を実施した.有意水準は 5% 未満とした.
【結果】
部位 A の筋電図積分値相対値はリーチ距離 5cm と比較して 30cm で,部位 B の筋電図積分値相対値はリーチ
距離 5cm と比較して 20cm 以上,10cm・15cm と比較して 30cm にて有意な増加を認めた.また,部位 C の筋電
図積分値相対値は 5cm と比較して 20cm 以上,10cm と比較して 25cm 以上,15cm と比較して 30cm で,部位 D
の筋電図積分値相対値はリーチ距離 5cm と比較して 20cm 以上にて各々有意な増加を認めた.部位 E において
も,リーチ距離 5cm と比較して 30cm で筋電図積分値相対値の有意な増加を認めた.
内側ハムストリングスの筋電図積分値相対値はリーチ距離 5cm と比較して 25cm 以上,10cm と比較して 30cm
で有意に増加したが,外側ハムストリングの筋電図積分値相対値は増加傾向を示すも有意差は認めなかった.
【考察】
端座位での前方リーチ距離の増加とともに大殿筋各部位の筋電図積分値相対値が増加していたことから,大殿
筋の各線維はいずれも股関節の伸展作用によって体幹を前方傾斜位にて保持することに関与したと考えた.
また,
内側・外側ハムストリングスに関して三浦らは,両筋の走行するベクトルの方向によりその作用に違いがあると
述べている.前方リーチは矢状面での運動であり,大腿後面を斜走する外側ハムストリングに比べ,本課題の運
動方向に沿う筋走行となる内側ハムストリングスの方が,股関節屈曲角度増大に伴う体幹の前方傾斜を制動する
ためにより積極的に関与したと考えた.
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第 2 セッション
基礎(一般演題)
一般口述
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Gaze Stabilization Exercises が前庭脊髄反射に及ぼす影響
上江田 勇介(うえた ゆうすけ)1),松木 明好2),森 信彦3),野村 翔平4)
近畿中央胸部疾患センター リハビリテーション科1),四條畷学園大学 リハビリテーション学部2),
山本病院 リハビリテーション科3),ペガサスリハビリテーション病院 リハビリテーション科4)
キーワード
Gaze Stabilization Exercises,Galvanic vestibular stimulation,H反射
【目的】
Gaze Stabilization Exercises(GSE)は,立位で眼前のターゲットを注視しながら頭部運動を行い,眼球を頭部
と逆方向,かつ同速度で動かす前庭眼反射を誘発するバランス練習である(Bhardwaj et al. 2014).このバランス
練習後,立位足圧中心動揺の前庭制御を反映する周波数帯に変化が生じる(岡ら 2014)ことから,GSE は前庭系
姿勢制御機構を可塑的に変化させている可能性がある.前庭系姿勢制御機構の変化は,前庭求心性入力に対する
身体反応を介して観察することができる.前庭求心性入力を定量的に負荷する方法に前庭電気刺激
(Galvanic vestibular stimulation:GVS)があるが,立位での GVS は前庭脊髄反射を誘発しバイフェイジックな身体動揺を生じ
させる一方,安静立位時の身体動揺の影響を強く受ける.他方,身体動揺の影響を受けない座位では GVS による
身体動揺や筋放電量増大させず,ヒラメ筋 H 反射振幅変動を観察することで,安定して前庭脊髄反射の変調を観
察することができる.今回,我々は GSE が前庭系姿勢制御機構に及ぼす影響を調べることを目的に,GVS のヒラ
メ筋 H 反射に及ぼす影響を GSE 前後で比較した.
【方法】
健常成人 8 名を対象とした.GSE は,被験者に 1m 先のターゲットを注視させたまま 1 分間 1Hz のビープ音に
合わせて頭部を左右に回旋させる課題とした.左右回旋角度はターゲットを注視できる最大の角度とした.GSE
直前,直後,10 分後に,頭部左回旋位でのバイポーラ GVS(右陽極,刺激時間 200ms,強度 4mA)に対する右
ヒラメ筋 H 反射修飾効果を座位にて計測した.H 反射は GVS 開始 100ms 後に右脛骨神経を電気刺激し,右ヒラ
メ筋から導出した.ただし,試験 H 反射振幅は最大 M 波振幅の 15−25% とした.GSE 直前,直後,10 分後の GVS
を負荷しない H 反射振幅(コントロール条件)と GVS 負荷時の H 反射振幅(GVS 付加条件)を比較した(One
sample Mann whitney s U test,α=0.017)
.
なお,本研究はヘルシンキ宣言に基づき,四條畷学園大学倫理委員会の承認,および参加者の同意を得て行っ
た.
!
!
【結果】
GSE 直前と 10 分後では,GVS により H 反射振幅は有意に増大していたが,GSE 直後は有意な差は認められな
かった.
【考察】
GVS による右ヒラメ筋 H 反射促通現象が,GSE 直後に消失し,GSE10 分後に再び現れたことは,1 分間の GSE
は前庭脊髄反射を一過性に変化させるが,10 分後には元に戻る可能性を示唆する.以上から,GSE による立位バ
ランス改善効果は前庭脊髄反射の可塑的変化を伴うものであることが推測された.
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