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中国農村金融機関におけるリスク管理

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5 月 26 日第 3 分科会
中国農村金融機関におけるリスク管理
紀平良昭(愛知学泉大学)
金融業は、特殊なリスクを負担する産業であり、中国農村金融にもリスクが存在している。周知の
ように、中国農村金融は複雑な発展過程をたどってきた。このため、農村金融におけるリスクは、多
種多様であり、リスク発生の原因も複雑である。農村金融に何らかのトラブルが発生した場合、農村
金融や中国金融システム全体にも影響を与えかねない。農村金融を支える各農村金融機関は、
金融改革の政策的な要請に合わせて漸進的な改革を進めている。しかし、農村では収益機会の
不足などから、必ずしも十分に金融が発展していない 5 。本報告の目的は、1.農村金融機関の現
状を概観し、2.金融リスクの内容を整理し、3.リスク管理という視点から、農村金融機関のリスクとそ
の発生要因を分析し、農村金融機関が改善すべき課題が何かを検討することにある。
1.農村金融機関の種類
2006 年末時点における中国農村金融機関は、主に(1)中国農業銀行、(2)中国農業発展銀行
6
、(3)農村信用合作社7、(4)農村商業銀行、(5)農村合作銀行などがある。また、貯蓄機関として
(6)郵政貯金(郵便貯金)が存在する8。なお、農村合作基金会は 1999 年までに清算・解散された9。
この他、各地にさまざまな非正規金融が存在する10。
中国の短期貸付に占める農業貸付ならびに郷鎮企業貸付の割合を図示した。2000 年以降、農
業貸付割合が伸びており、2002 年には郷鎮企業貸付を抜いた。また、国有銀行の農業貸付、郷
鎮企業貸付割合の推移も示したが、これらはともに低下した。農業貸付を大きく伸ばした金融機関
は農村信用合作社であり、農村の主な借入主体は国有銀行から農村信用社へ借入先をシフトさ
せた。国有銀行(特に農業銀行)は商業化により、採算性の観点から農村支店を閉鎖し、結果的に
従来の農村金融の役割から退いた。一方、農村信用社の改革が進行中であり、今後、急増した貸
付資金の回収で債務者のモラル・ハザードの発生をどう食い止めるのかは注意してみておく必要
5
今井・渡邉(2006)によれば、農村では資金不足ではなく、資金運用の機会が不足していると指摘してい
る(255 ページ)。
6 同行のリスク管理については、紀平(2005)を参照されたい。
7 阮蔚(2000)は 90 年代末における経営状態について、農家の資金需要との関連から考察した。
8 郵便貯金が農村金融や中国金融に与える影響については、唐成(2005)を参照されたい。
9 農村合作基金会については、孫(2003a)に詳しい。
10 本報告では非正規金融について扱わない。さしあたり、孫(2003b)、今井・渡邉(2006)を参照されたい。
がある。また、非正規金融部門は、ハイリスクな経営に陥りやすく、同部門の無秩序な増大は、農
村金融や中国金融全体を不安定化させる恐れもある。したがって、非正規金融部門も含めて、今
後、農民向けの貸付がどのような発展を遂げるのか注目しておく必要があるだろう。
図 短期貸付に占める農業貸付・郷鎮企業貸付割合の推移
12.0%
10.0%
8.0%
6.0%
農業
郷鎮企業
国有銀行の農業貸付
国有銀行の郷鎮企業貸付
4.0%
2.0%
0.0%
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
年
出所: 『中国金融年鑑』(各年版)
2. 金融リスクの種類
(1)決済機能に関わるリスク
個別の金融機関(支店、営業所、出張所)レベルで発生しうるリスクとして、流動性リスクがある。こ
れは、手持ち資金の不足などから取り付け騒ぎになる可能性である。健全経営の銀行でも偶発的
に取付けを起こすことがある。次に、地域レベルで発生しうるリスクとして、決済リスクがある。たとえ
ば、ある金融機関で流動性リスクが顕在化することにより、周辺地域一帯で金融機関に対する信用
秩序不安が広がる場合がこれに当てはまる。そして、金融システム全体で発生しうるリスクとして、シ
ステミック・リスクがある。前述の流動性リスクや決済リスクなどが顕在化し、一部の銀行の破綻が金
融ネットワーク全体に波及し、ネットワーク全体が不調に陥る場合である。
(2)信用仲介機能に関わるリスク
市場リスクとは、市場取引を通じて発生する可能性があるもので、金利変動による金利リスク、有
価証券等の価格変動による価格リスク、為替変動による為替リスクなどのように細分化できる。信用
リスクは与信先の財務状況の悪化や倒産によって、金融機関の保有する資産価値が減少すること
によって生じる損害の可能性である。そして、オペレーショナル・リスクは、銀行の内部管理体制の
不備や大規模災害、システム障害などによって被る損失の可能性である。
3. 中国農村金融のリスクとその発生要因
(1)不良債権比率の高さ
経済発展の遅れた地域では、貧困撲滅貸付などで返済が滞り、不良債権が発生しやすい。
また、90 年代後半、経済発展の進んだ地域でも、主な貸付先(農村供銷社、郷鎮企業、国有
食糧綿花買付企業など)の経営状態悪化に伴い返済が滞り、金融機関の不良債権が増加し
た。これらはいずれも農村金融機関の信用リスクを高める要因の一つである。
(2)経営管理や内部統制制度の不備・機能不全
市場リスクの査定能力が低く、貸付金のモニタリング能力が低いなど、非効率的な経営管理状
態が続いている農村金融機関では不良債権を発生させやすい。また、上級行(本店や省支
店)による下級支店の統制がうまく機能していないと、各支店レベルで不正融資などが行われ、
金融秩序を害する 11 。こうした金融機関では、信用リスクやオペレーショナル・リスクが大きい。
また、機会主義的行動(逆選択やモラル・ハザード)を生む要因にもなる。
(3)地元政府(行政当局)による不当な関与
地元政府が、特定の貸付先に対して融資の斡旋や特別融資枠の設定を要求する。たとえば、
財源確保のため、赤字企業に対し融資するよう農村信用社に圧力をかける 12 。政府の不当な
関与があると、農村金融機関は市場リスクや信用リスクに対応しにくい。さらに、このような融資
先や融資残高が増加すれば、オペレーショナル・リスクも大きくなる。また、農村資金の配分を
非効率的なものにし、金融による農村開発や貧困撲滅などの政策実現を妨げ、農村金融機関
がリスクをとって、信用仲介機能を高めるインセンティブを失う。
(4)政策金融が財政機能を一部代替
政策金融の信用貸付が、財政機能を一部代替している。財政が十分な財源を確保し、各種の
補助金や利子補填を、農村金融機関の口座に振り込まなければならないが、実際には赤字財
政が続き、財源確保もままならない地域では、財源不足のため資金が口座に振り込まれない
場合も多い。これらの地域では、財政からの振込は中長期的に滞り、政策金融の金融資産は
塩漬け状態になる。行政が健全な財政運営を維持できず、農村金融機関の資金供給に過度
に依存すると、農村金融機関の決済機能と信用仲介機能の双方に大きな影響を与える。
まとめ
農村金融の決済機能や信用仲介機能は依然として低く、機会主義を防止するメカニズムも形成
11
たとえば、上海市農村信用合作社は農凱集団に 38 億元を不正に融資したと一部メディアで報じられて
いる(2006 年 9 月 4 日付『21 世紀経済報道』)。
12 たとえば、湖南省祁東県農村信用合作聯社は、現地行政からの不当な圧力によって、地元のタバコ工場
とセメント会社に納税用資金の貸付を強要された。これらの工場や企業に融資された資金は、税金として
徴収されたという(1997 年 3 月 29 日付『金融時報』)。
されたとはいえない。行政が財源を確保し、さらに、農村金融機関の信用仲介機能に関わる各種リ
スク(市場リスク、信用リスクやオペレーショナル・リスク)を増大させないような関係を構築しなけれ
ばならない。また、農村金融機関は、不良債権の処理を進め、さらに、決済機能、信用仲介機能の
双方に関わるリスク対策を進めなければならない。
参考文献
紀平良昭(2005) 「中国農業発展銀行のリスク管理」『アジア研究』第 51 巻第 3 号
阮蔚(2000) 「中国農家の資金需要と農村金融の体制」『農林金融』第 53 巻第 11 号
唐成(2005) 『中国の貯蓄と金融』慶応義塾大学出版会
孫家蓉(2003a) 「中国の農村合作基金会について」『中京商学論叢』第 50 巻第 1・2 号
孫家蓉(2003b) 「中国の農村における非正規金融について」『中京商学論叢』第 50 巻第 1・2 号
今井健一、渡邉真理子(2006) 『企業の成長と金融制度』名古屋大学出版会
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