役員報酬カットのやり方 - JRS経営情報サービス

情報番号:20071233
テーマ:役員報酬カットのやり方
編著者:社会保険労務士 秋山 泰造
1.役員報酬カットについての基本的な考え方
役員報酬カットには本人の同意が必要
役員報酬を任期途中において増額または減額の改定するときは、株主総会で
決議された総報酬の限度までであれば取締役会の決議で行えます。
そして経営上の事情や職務内容の変更など合理性があれば、税務上の定期・
同額要件を満たさない臨時的な報酬=役員賞与としてではなく、通常の報酬額
を変更したものとして損金算入が認められます。
なお、会社と役員との間には報酬を支払う約束のもとでの委任契約が成立し
ており、役員報酬の全部または一部をカットすることは、委任契約の契約変更
になりますから原則的には個々の役員から同意を得なければなりません。
役員には報酬請求権
役員の報酬請求権について判例は「定款又は株主総会の決議によって取締役
の報酬額が具体的に定められた場合には、その報酬額は会社と取締役間の契約
内容となり、契約当事者である会社と取締役の双方を拘束するから、その後株
主総会がこれを無報酬に変更する旨の決議をしても、当該取締役は、これに同
意しない限り、報酬請求権を失わない。この理は、取締役の職務内容に著しい
変更があり、それを前提に株主総会決議がされた場合であっても異ならない。」
(取締役報酬請求事件・最高裁・平成 4 年 12 月)と役員に減額前の報酬の請
求権を認めています。
報酬カットを決議するのであれば,役員との更改契約という意思表示の合致
が前提になります。
個々または全員の同意を得て取締役会で減額改定を決議しなければなりま
せん。また、経営責任の取り方として役員報酬の全部または一部の返上を行う
こともありますが、あくまでも役員の任意に基づくものでなければなりません。
役員賞与の場合
なお、役員報酬を年俸制としている場合で、その賞与部分について支払時期
や支払額を事前に確定して税務署に届出をしていれば原則として役員報酬と
して損金参入となります。こうした年俸制役員報酬の賞与部分についても、役
員の同意がなければ減額はできないことになります。
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しかし、決算における利益処分としての役員賞与については、株主総会でどの
ように役員賞与支給案を決議しようと役員の同意が介在する余地がありません。
業績連動型の場合
さらに、月例部分のみではなく賞与部分やストック・オプションなど業績連
動型の役員報酬制度については、具体的な利益に関する指標によって算定方法
を定款または株主総会決議で定めることで報酬上限枠にかかわらず報酬額を
決定できるようになりました。
こうした場合に、期中における毎月の報酬額が、定められた算定方法によっ
て報酬額が変動することは、利益変動によるものであれば適正とみなされます。
算定方法に基づかないで、役員に不利益に変更した場合を除いては、役員の同
意が介在する余地がありません。
使用人兼務役員の場合
使用人兼務役員の報酬をカットする場合は、その労働に対する対価である従
業員給与の部分については雇用契約に基づく賃金の不利益変更に当たります。
労働条件の不利益変更法理が適用され、従業員の合意が得られないときには
一方的に変更することはできません。
2.役員報酬カットのトラブルを避けるには
役員選任時には特約が必要
こうした任期途中における報酬変更がトラブルの原因になるのを防ぐには、
役員を選任するときに、期中における臨時の報酬変更に関する特約に同意をも
とめるか、報酬決定・変更ルールについて周知しておかなければなりません。
特に、こうしたトラブルは、同族会社において発生しがちであることから、
より実務的に対応すべきであります。
たとえば、期中における臨時の報酬変更について、報酬規程の内規などに役
職変更その他役員の人事異動に伴う場合、業績悪化などに伴う場合、不始末そ
の他役員の責めに帰する事由がある場合などの基準を設定しておくべきです。
変更手続きについても、取締役会の決議により報酬額を変更できる旨を、株
主総会直後の取締役会で決議するか、委嘱契約書を取って個々の役員に周知し
ておくなど明確な形にしておく必要があります。
同意のない場合の報酬カットの可能性
会社と取締役との経営委任契約について、民法では受任者は委任の本旨に従
い、善管注意義務を負うと規定しています。これは怠慢また不注意によって会
社に損害を与えた場合には、損害賠償責任が生じるという意味です。会社法で
は「取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため
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に忠実にその職務を行わなければならない」として会社に対する取締役の忠実
義務を定めています。
先の最高裁判例の場合は、委任契約が継続することを前提にしたときに、契
約上において根拠基準のない契約更改について、役員の意思表示の合致を欠い
ているとして、役員の報酬請求権を容認しています。
しかし経営そのものを委任された役員は、取締役会を構成する一員としての
意思表示が決議に反映されます。その決議にたいする取締役の忠実義務にもと
づく一般的拘束力と報酬請求権との均衡について判例は言及していません。
問題は、形骸化が進展している取締役会において実質的に真性に十分議論さ
れ、かつ経営改善計画などに基づき、報酬カットしなければ経営破綻に陥る可
能性が大きいなど経営上の必要性や、役員報酬額の水準と従業員と比較考量さ
れる程度、役員個々の報酬額の減額によって被る個々の不利益の程度など役員
報酬カットに合理性がみとめられるならば取締役決議にも個々の報酬請求権
は、従属しなければならないのが道理です。
税務上の取扱いと報酬カット
期中において役員報酬を変更した場合、税務上不利になる場合があります。
注意して対応しないで役員報酬カットをしても、その財務改善の効果がそがれ
ることにもなります。また、役員報酬カットの処理後に、安易にカット分を支
給すると役員報酬(臨時的な給与)とみなされ損金計上が認められないことに
なりますので注意が必要です。
資金繰りに困っていても営業損益は黒字という会社であれば、財務としては役
員報酬のカットによって増益となり、法人税や事業税が課税されてしまいます。
資金繰りの改善を目的として報酬カットするのであれば、役員報酬を一部未
払いとして、期末時点で未払残高を計上して、「未払役員報酬」として処理する
ことにより全額が損金計上できます。資金繰りにめどがついたときに未払分を
一括支給しても臨時の報酬とはならず役員賞与と認識されることなく処理で
きます。
また、毎月の役員報酬の全額を一旦支給し、その後、「金銭消費貸借契約書」
にもとづいて、相当額を役員から借入れます。これによって損金計上と資金繰
りの改善ができます。
次期にも資金繰りの都合がつかず、未払役員報酬の支払や借入金返済が困難
な場合には、役員の任意にもとづき全部または一部の債権放棄を求めることも
可能です。なお、債務放棄された未払役員報酬または役員借入金の部分につき、
収益として債務免除益が発生しますので、その処理の時期を繰り延べすること
も必要となります。
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