O - 北海道環境科学研究センター

耐候性鋼橋梁の維持管理と鉄鋼さびの科学
Toshiaki Ohtsuka Faculty of Engineering, Hokkaido University 大塚俊明 北海道大学大学院工学研究院 1
鉄さびの科学と鉄鋼さび層の評価
1.  はじめに:鉄鋼さびの防食性 2.  鉄さびの成長機構 1.  鉄さびの生成
2.  鉄さびの成長 3.  鉄さびの種類
3.  鉄錆の長期間曝露時の経時変化
4.  錆層の保護性・非保護性の見極め 5.  非保護性錆が生成する環境 6.  鉄鋼錆の組成と陰イオンの関係
7.  湿潤環境下での錆層の評価法と保護性錆の条件 8.  まとめ 2
1. はじめに
耐候性鋼のさび
耐候性鋼材とは・・・
Cr , Ni , Cu 等を少量含有する低合金鋼
自然に生成するさびが防食能力を持つ(保護性さび)ために無塗装で使用
可能な鋼材:耐候性鋼材の橋梁の裸使用
Life Cycle Cost 低減のメリット
現在、日本の橋梁の15%が耐候性鋼製
3
耐候性鋼材の建物
北海道開拓記念塔
札幌;厚別運動公園モニュメント
(国松明日香作):16mの高さ 4
耐候性鋼橋梁;維持費(life Cycle Cost)が低い;建設費は少し高い
鋼橋梁;ペンキ代を含むコストと裸使用の耐候性鋼のコスト
建設費は耐候性鋼の方が高いが,将来のペイント代を考えると
どちらが安いか?
普通鋼は約10年毎にペンキ塗り替え 耐候性鋼;20年に一度維持管理
普通鋼
耐候性鋼
10年 20年 30年
使用年数
5
仙台・名取大橋に17年間曝露された耐候性鋼と炭素鋼の腐
食量(板厚減少)の経時変化。
y = AtB dy/dt = AB tB-­‐1 6
2. 鉄錆の成長機構 2.1 鉄錆の生成
FormaPon of Fe rust
Fe
AdsorpPon & CoagulaPon Steel
電 流 Fe2+
Steel
H2O
FeOOH
+nH2O
Neutral Aq. SoluPon
活性態 遷移領域 不働態 酸素
発生
カソー
ド防食
O2
Fe3+
CoagulaPon
+PolymerizaPon DehydraPon
FeOOH
酸素濃度に依存して Green Rust (Fe2+aFe3+b(OH)m・xAy-­‐) FeOOH・nH2O
DehydraPon
+電位 Fe Fe2+ Fe Fe304・H2O Fe 3+(小さな電流) FeOOH or Fe203 FeOOH
2. 鉄錆の成長機構 2.1 鉄錆の成長: the Evans Model
U. R. Evans, Corros. Sci., 9 (1969) 227.
U. R. Evans and A. A. J. Taylor, Corros. Sci., 12 (1972) 277 重要なこと=>乾燥(昼間)ー湿潤(夜間) 乾燥(昼間)
H2O
湿潤(夜間) H2O
Rust
Rust
Steel
Steel
湿潤ー乾燥サイクルによる鉄鋼錆の成長
(Evans Model)
湿潤環境(夜間) 2FeOOH + 2xH+ + 2xe-­‐ → 2FeO1-­‐x(OH)1+x (where x = 1/3, → (2/3)Fe3O4・2H2O) xFe → xFe2+ + 2xe-­‐ xFe2+ + (1-­‐x)FeOOH + 2xH2O → 2FeO1-­‐x(OH)1+x + 2xH+ 乾燥環境(日中) 2FeO1-­‐x(OH)1+x + (x/4)O2 + (3x/2)H2O → 3FeOOH 湿潤ー乾燥1サイクルでの全反応 xFe + (3-­‐x)FeOOH + x/4O2 + 3x/2H2O → 3FeOOH 湿潤ー乾燥サイクルでの錆の成長速度 = [3/(3-­‐x)], ここで, x ;湿潤環境での還元割合 湿潤環境での還元割合 => 錆層の成長速度を決める. 錆層の成長性の判断 => 湿潤環境で錆層がどのように還元変
化するかが重要な過程である. 湿潤環境で還元され難い錆 = 成長が少ないさび = 保護性錆 湿潤過程での錆の変化の測定が重要である.
(A) Wet condiCon
FeOOH
Fe3O4
e
H+
FeOOH
Fe2+
H2O
Fe3O4
Fe
(B) Dry condiCon O2
Fe3O4
FeOOH
H2O
Fe
9
2. 3 さびの種類
α-­‐FeOOH
ゲーサイト
安定なオキシ水酸化物,SO42-­‐イオン存
在下で生成し易い
β-­‐FeOOH
アカガネアイト
Cl-­‐を含むオキシ水酸化物.Cj-­‐イオン存
在下で生成する.
γ-­‐FeOOH
レピッドクルロサイト
さびの初期に見えるオキシ水酸化物.
主にさび外層に見える
Amorphous-­‐
FeOOH
非晶質オキシ水酸化物 安定なオキシ水酸化物.さび層の半分
程度を占める
Fe3O4
マグネタイト
電気伝導性に富む黒色さび.湿潤環
境で多く見られる.
緑さび
Fe(II),Fe(III)を含んだ水
酸化物.各種陰イオンを
含む Fe(II),Fe(III)を含んだ水酸化物.各種
陰イオンを含む.さびの前駆体. オキソブリッジ (Fe–O–Fe) ならびに 水酸基ー(水素結合)−オキソ基 (Fe–OH -­‐ -­‐ O–Fe)
10
3. 鉄錆の長期間曝露時の経時変化
(四電コンサルタント,三浦正純氏提供)
初期:鋼表面がむき出しで、腐食速度は速い。流れさびが多く、発生するさびは黄色で細かい。
遷移期:初期さびの下で緻密なさびが生成しはじめることにより腐食速度がしだいに低下する。
さびは黄色から赤褐色、黒褐色と落ち着いた色に変化してくる。
安定期:環境に応じた一定の腐食速度となった段階。腐食進行によるさび成長と、成長したさび
の脱落が繰り返される。
厳しい環境
(海岸部)
板
厚
減
少
量
板厚減少許容値
通常の環境
初期 遷移期
安定期
マイルドな環境(山間部)
期待耐用年
耐候性鋼材の腐食概念図
経年
11
耐候性鋼(JIS)橋梁の使用条件
①飛来塩分の少ない場所であること
飛来塩分測定省略可能領域:
海岸線から20km
を超える地域
海岸線から5kmを
超える地域
海岸線から2kmを
超える地域
該当地域
なし
許容飛来塩分量 ≦0.05 mdd
海岸線から1kmを
超える地域
(四電コンサルタント,三浦正純氏提供)
3. 鉄錆の長期曝露時の経時変化
全国41橋梁曝露(建設省土木研究所,
鋼材倶楽部,日本橋梁建設協会ー7橋
梁分を,腐食防食協会さびサイエンス
研究会に提供
海浜部では,海塩粒子の影響で,非保
護性の錆層が生成している. Table Chemical composiPon of steels exposed in various sites.
13
3. 鉄鋼錆の組成の経時変化
保護性のある錆層の組成の経
年変化
腐食防食協会(現;学会)のさびサ
イエンス研究会での研究成果
IniCal 1-­‐2 y: γ-­‐FeOOH + Fe3O4 3-­‐10 y: am. FeOOH 10-­‐ y: am., α-­‐FeOOH *am = amorphous α-­‐FeOOH
10-­‐ y
IniCal
3-­‐10 y
γ-­‐FeOOH+Fe3O4
am-­‐FeOOH
保護性さび(非成長性さび)の生成 => 適度な乾湿繰り返し条件 非保護性(成長性)さび Cl-­‐を含む環境 => β-­‐FeOOHの生成 湿潤環境 => Fe3O4 4. 保護性のある さび と保護
性のない“さび”の見極め JSSC 耐候性鋼橋梁の可能性と
新しい技術 D編 資料編
15
レベル5
レベル4
レベル3
レベル2
(四電コンサルタント,三浦正純氏提供)
16
(四電コンサルタント,三浦正純氏提供)
レベル1(層状剥離さび)
17
腐
食
速
度
レベル5
浮きさび
(表層さび)
レベル4
固着さび
(内層さび)
地鉄
レベル3
うろこさび(薄い).
凹凸小
レベル2
速
い
うろこさび(厚い).
凹凸大
層状さび・層状剥離さび
レベル1
各外観レベルのさびイメージ図.(四電コンサルタント,三浦正純氏提供)
さびの評点と維持管理
•  評点 5−3: そのままでの状
態で充分使える •  評点2:要観察,必要なら補
修を入れる必要があるが,
現状では特に支障がない. •  評点1:異常,早急に何らか
の補修が必要 •  もう少し客観的な指標は?
さび層の評価法 (腐食防食協会・さびサイエンス研究会)
1.  外見観察 => うろこ状,層状,均一なさび 2.  環境観察 =>乾燥・湿潤,塩化物の飛来と雨による洗
浄 3.  電磁膜厚系による錆厚さ測定
4.  セロテープで剥離された錆層の粒径あるいは粒の厚
さ測定
5.  イオン抵抗測定(インピーダンス測定)
6.  錆層被覆電極の電位測定
7.  X線回折での組成比からの推定
8.  錆層からの溶解性塩化物イオン量測定
9.  BET吸着による錆微粒子の粒径推定 => 種々の方法を組み合わせて,総合的に判定 さび層の性状評価の手法 さび層イオン抵抗(インピーダンス) 電位減衰測定 さび層の粒径測定<=セロテープ剥離 ・・・・・・・・・・・・・
表面粗さおよび粒径測定による
鉄鋼さび層の評価
Evaluation of steel rust layers by surface roughness and particle
size
北大院工 ○古谷真輝、大塚俊明 物材機構 田原晃、四電コンサル 三浦正純
21
背景
メンテナンスを適切に行うため
にさび層の状態を把握
目視によるさび層
の外観評価
簡便に定量できる測定法が望ましい
腐食の進行によるさびの成長でさび層の 表面粗さおよび粒径が異なると予想される。
本実験の目的 レーザー変位計を用いてさび層の
表面粗さおよび粒径を測定、評価 22
実験方法
試料の設置方法
レーザー変位計: キーエンス製LJ-G080
・試料 NIMSが曝露
試験を行った
もの
Fe-1Ni
Fe-3Ni
・Fe-Ni系
Fe-5Ni
Fe-9Ni
Fe-1Cr
Fe-3Cr
・Fe-Cr系
Fe-5Cr
Fe-9Cr
・Fe-0.4Cu
・SM490
・SMA490
・曝露年数 0.5年 1.0年 1.5年 2.0年 3.0年
23
レーザー変位計
による凹凸測定
耐候性鋼表面のレプリカ
パテタイプの歯科用
ゴム質弾性印象材
(5cm×5cm)
24
実験方法
・曝露状態 開放大気環境(open)
遮へい大気環境(sheltered)
・曝露場所 宮古島 銚子 筑波
25
実験方法
レーザー測定長さ:26mm
高さ分解能:1µm
例 Fe-1Cr 宮古島 0.5年 開放大気環境 の試料
Height displacement, H/mm 20
0.60
0.50
表面粗さ: さび層の粗さを分析する。 0.40
0.30
0.20
表面粗さの定義
0.10
0.0
-0.10
-5
0
5
10
15
20
25
30
Laser measurement length, L/mm
26
実験結果
両軸の対数をとった場合
表面粗さ
回帰曲線
Surface roughness, R /mm
0.1
R=ARWBR Sheltered condition
R:表面粗さ ,W:腐食量 AR,BR:定数 (BR<1) AR: 1 g m-2の Corrosion
loss での表面粗さ
BR: log(R) / log(W) の傾き
BR ≈ 0.5
0.01
Opened condition
10
100
1000
-2
Corrosion loss, W /g m
27
5. Environment condiCon for the formaCon of non-­‐protecCve rust 耐候性鋼のさび層の成長と�
湿潤時間との関係
北大工 大塚俊明,佐藤由起子,上田幹人
28
実験概要
•  湿潤時間の変えたときのさび層生成 –  湿潤時間の影響 –  塩分濃度の影響 •  さび層の厚さ変化 •  さび層のインピーダンス •  さび層の組成:XRD 29
実験
•  耐候性鋼(SMA材) –  C:0.14mass%, Si:0.36, Mn;1.0, P;0.01, S;0.005, Cu;
0.3, Ni;0.1, Cr;0.5, V;0.05, Ti;0.015 –  住友金属工業提供 •  濡れ時間とさび成長とさび組成他 •  塩分濃度とさび成長とさび組成他
30
湿潤方法
耐候性鋼板
ガーゼ状紙
NaCl水溶液あるいは純水
31
湿潤ー乾燥サイクル条件
•  湿潤主環境 80hWetness/ 3h Dry: –  1週間の大部分湿潤:1回3時間70℃で乾燥 Wet Period, 80h
Dry, 3h
•  乾燥主環境 1h Wetness/ 23h Dry: –  1日1時間湿潤:23時間デシケーター中で乾燥 Wet, 1h
Dry Period, 23h
•  乾燥主環境 5h Wetness/ 79h Dry: –  週2回5時間湿潤:残りをデシケーター中で乾燥 Wet, 5h
Dry Period, 79h
さび厚さ測定:乾燥時にマイクロメータで板厚さを5点測定し,平均化
32
Effect of NaCl concentraCon 1 h Wetness / 23 h Dry 1 h Wetness / 23 h Drying
0.35
Thickness of Rust Layer, D / mm
0.3
0.25
0.2
3.5 % NaCl Soln.
0.15
0.1
0.35 % NaCl Soln
0.05
Pure Water
0
0
10
20
30
40
Period, t / d
50
60
70
33
Influence of Cme duraCon of wetness on the rust layer growth in pure water Pure Water
湿潤主環境
Wet Period, 80h
0.2
Dry, 3h
Thickness of Rust Layer, D / mm
80 h Wetness
/ 3h Dry
0.15
乾燥主環境
Wet, 1h Dry, 23h
0.1
1 h Wetness
/ 23 h Dry
0.05
5 h Wetness
/ 79 h Dry
0
乾燥主環境
Dry Period, 79h
Wet, 5h
0
10
20
30
40
50
Period, t /day
60
70
80
34
Influence of Cme duraCon of wetness on the rust layer growth in 0.35% NaCl Soln. Wet Period, 80h
0.35 % NaCl Soln.
0.35
80 h Wetness
/ 3h Dry
0.3
Thickness of Rust Layer, D / mm
Dry, 3h
0.25
5 h Wetness
/ 79 h Dry
0.2
0.15
0.1
1 h Wetness
/ 23 h Dry
0.05
0
0
10
20
30
40
Period, t / d
50
60
70
80
35
XRD of the rust layer formed in duraPon of 80 h wetness and 3 h dry :Strong XRD peaks correspond to those of Fe3O4-­‐γ-­‐Fe2O3. 湿潤主環境
80 h Wetness/ 3 h Drying
Fe3 O4
▲
Fe3O4+ γ-­‐FeOOH
"-FeOOH
Intensity, I/ a.u.
高い電気伝導性
■
▲
■
▲ ▲ ▲
Pure Water
0.35% NaCl Soln.
3.5 % NaCl Soln.
10
20
30
40
2! /
50
60
70
36
XRD of the rust layer formed in duraPon of 80 h wetness and 3 h dry :Strong XRD peaks correspond to those of Fe3O4-­‐γ-­‐Fe2O3.
Evans Model (B) Dry Condition
(A) Wet Condition
FeOOH
O2
Fe3O4
e
FeOOH
Fe2+
Fe3O4
FeOOH
H2O
H+
H2O
Fe3O4
Fe
Fe
図 湿潤・乾燥過程でのさび生成のEvansモデル。 湿潤が長く,乾燥が短い:酸化が不十分で,Fe3O4が相対的
37
に多いさび層。
XRD of the rust layer formed in duraPon of 1 h wetness and 23 h dry XRD peaks correspond to those of Fe3O4-­‐γ-­‐Fe2O3 with small amount of α-­‐FeOOH and β-­‐FeOOH. Fe3 O4
乾燥主環境
#-FeOOH
●
■
低い電気伝導性 (絶縁性) $-FeOOH 1h Wet/
▲
23h Dry
■ "-FeOOH ▲
●
▲▲
■
○
Intensity, I / a.u.
Fe3O4+ γ-­‐FeOOH+ α-­‐
FeOOH + (β-­‐FeOOH)
■
○
3.5% NaCl
Soln
0.35 % NaCl Soln
Pure Water
10
20
30
40
50
60
2! / degree
70
80
90
38
まとめ
•  さびが厚くなる条件(成長性さびの生成条件) –  NaCl濃度が高い –  湿潤期間が長い •  NaCl濃度が高い:もろいさび:「うろこ」さび:相対
的にβ-­‐FeOOHの多いさび •  湿潤期間が長い:乾燥でも電子伝導性:Fe3O4が
主体:「層状はくり」さび •  湿潤期間が短い:薄いけれど,乾燥状態で絶縁
性:FeOOHが相対的に多い。 •  インピーダンス:湿潤期間が長いと,厚くとも小さ
なインピーダンス •  うろこさびの生成:湿潤期間が長く,NaCl濃度が
高い場合に生成:成長速度が大きい
39
6. Change in rust composiPon with anions-­‐ Raman spectroscopy 耐候性鋼材のさび生成における 硫酸ならびに塩化物イオンの影響
エコマテリアル講座 環境材料学研究室 田中翔三
6. 鉄鋼錆の組成と陰イオンの関係
錆層組成の経年変化
•  FeOOHの生成 = 従来からの見解 –  初期皮膜=> γ-­‐FeOOH –  SO42−存在下 => α-­‐FeOOH –  Cl−存在下 => β-­‐FeOOH α-­‐FeOOH
10-­‐ y
IniCal
3-­‐10 y
γ-­‐FeOOH+Fe3O4
am-­‐FeOOH
Cl-­‐を含む環境 => β-­‐FeOOHの生成 湿潤環境 => Fe3O4 さび組成は,環境に存在する陰イ
オンにより変化 目的:ラマン散乱分光法で.さびの
経時変化を測定し,上の予測を確
立する. 実 験 方 法 試料材料 耐候性鋼板 (JIS規格 SMA)
添加元素
Mass %
C
Si
Mn
P
S
Cu
Ni
Cr
V
Ti
0.14
0.36
1.0
0.01
0.005
0.3
0.1
0.5
0.05
0.015
サイズ:約1.3 cm 形:八角形
SiC 研磨紙で
#1500 まで研磨
アセトン中で
超音波洗浄
NaCl 及び Na2SO4 水溶液
1.3 cm 真空乾燥
42
試料台に設置
実 験 方 法 その場測定用セルと 共焦点型レーザーラマン分光測定装置
Open space in cell Sample Sample stage Cell for atmospheric corrosion Incident laser light Scaqering light Air inlet Sample 湿度を調整した空気を流入
Quartz glass Air exit 乾燥(RH 10%)-­‐湿潤(RH90%) 繰り返し環境(25℃) Edge filter Spectrometer CCD camera Lens Lens Sample 100 µm Pinhole Quartz glass レーザー照射部の表面のみの測定が可
能
43
実 験 方 法 乾湿繰り返し方法とラマン測定条件
湿潤-­‐乾燥切り替え装置
空気入り口
乾燥(約RH 10%)-­‐湿潤(約RH90%) 繰り返し環境(25℃) 100 90 セル
RH (%) 自動経路切替え装置
湿潤経路
シリカゲル
10 0 0 乾燥経路
室温 25℃
4 8 12 16 68 72 Time, t/h 水槽 23.1 ℃
ラマン測定条件
NaCl 付着試料
光源: Arイオン レーザー 514.5 nm
レーザー強度: 5.0 mW
1測定時間:露光 10 s
積算回数 50回
測定間隔:15 分毎に 測定
高濃度NaCl、及び Na2SO4 付着試料
光源: YVO4半導体レーザ 532 nm
レーザー強度: 0.5 mW
1測定時間:露光 60 s
積算回数 10回
測定間隔:15 分毎に 測定
44
Initial 15h => g-FeOOH + Fe3O4
From 15h b-FeOOH grows
After 100h, g-FeOOH and Fe3O4 again appears ! !-FeOOH
!
"-FeOOH
※! ※
●
※
!
1 cps
※
!
47h 30min
43h 30min
39h 30min
※! ※
●
※
!
143h 30min
35h 30min
Intensity, I / a.u.
※
Fe3O4
1 cps
Intensity, I / a.u.
●
※
31h 30min
27h 30min
23h 30min
123h 30min
119h 30min
99h 30min
19h 30min
95h 30min
15h 30min
75h 30min
11h 30min
7h 30min
1400
3h 05min
1200
1000
800
600
-1
Raman shift, !" / cm
71h 30min
400
200
1400
1200
1000
800
600
-1
Raman shift, !" / cm
400
200
45
曝露期間による質量比(β-­‐ to γ-­‐ FeOOH) の変化
NaCl
Absorbed water
Weathering Steel/ NaCl (0.93 mg cm-­‐2)/ Wet-­‐dry cycles
Steel
Mass ratio, !/(!+")
1.0
!-FeOOH
γ-­‐FeOOH+Fe3O4 Aq. Soln + NqCl
0.8
0-­‐12 h
Steel
Steel
0.6
β-­‐FeOOH (Cl−)
0.4
0.2
○ Dry period ○ Wet period
0.0
"-FeOOH
0
50
100
12-­‐ 50 h
Steel
Steel
γ-­‐FeOOH+Fe304
150
Time/ h
Since free Cl-­‐ is fixed in β-­‐FeOOH, it decreases with formaPon of β-­‐FeOOH, then γ-­‐FeOOH again grows.
50 h-­‐
Steel
Steel
46
Raman spectra of different spots of rust layer ater exposure in wet-­‐dry cycles for 72h in the presence of NaCl deposit with 0.11 mg cm-­‐2.
◇ γ-­‐FeOOH ※ β-­‐FeOOH ● Fe3O4 ◎ CO32-­‐
上下反転
(B)
(D)
(A)
Area of
(C)
salt attached 5 mm
(A)  Fe3O4 (Β) β-­‐FeOOH (C)  Fe3O4 + γ-­‐FeOOH (D)  Amorphous-­‐FeOOH
Intensity, I / a.u.
!
◎
(A)
※
●
!
※
※
!
1 cps
(B)
(C)
(D)
1200
1000
800
600
400
-1
Raman shift, !" / cm
200
47
Na2SO4 存在下での耐候性鋼上の錆 (Na2SO4 沈殿量; 0.80 g cm-­‐2) 乾湿サイクル:4h湿潤ー4h 乾燥
S
1 cps
#
Intensity, I / a.u
# S
S
$
#
#
初期生成物=> γ-­‐ and α-­‐ FeOOH. 20 h後の生成物 => α-­‐FeOOH 70h 00min
47h 30min
1400
1200
1000 800
600
400
-1
Raman shift, !" / cm
α: α-­‐FeOOH γ: γ-­‐FeOOH S: SO42-­‐
200
48
まとめ: 鉄鋼錆の組成と陰イオンの関係
1.  さび生成に及ぼす陰イオンの効果(乾湿サイクル
実験とラマン測定):Cl-­‐イオン => 初期にγ-­‐FeOOH => β-­‐FeOOHの増加 => Cl-­‐のβ-­‐FeOOH内の固定化
(Free Cl-­‐濃度の低下)=> γ-­‐FeOOH生成 2.  SO42-­‐イオン=> 初期にはα-­‐と γ-­‐FeOOH生成 => 15 h 以降はほとんどα-­‐FeOOH 49
7. Change of rust layer with weung ProtecCve Property of Rust Layers on Weathering Steel
Laboratory of Corrosion Engineering Graduate School of Engineering
Hokkaido University, Sapporo, Japan
T. Ohtsuka, Vannie J. T. Resabal, H. Iwasaki and S. Tanaka
According to Evans model,
•  The rust growth is determined by a reducPon of weung process. •  If the dry process conPnues for long Pme, there is no growth of the rust. •  The research is required for the webng process. •  Measurement –  Mass change with water vapor absorpPon in rust layer –  Impedance change with water vapor absorpPon in rust layer 50
–  Near infraredrReflecPon absorpPon spectroscopy with water vapor absorpPon in rust layer. 7. 湿潤環境下での錆層の評価法と保護性錆の条件 Evans model に従えば,さび層の成長は •  主に湿潤環境のさび還元過程により決まる. 湿潤状態で,さびの還元がどの程度起きるか(あるいは,下地
鉄がどれだけ酸化されるか)に依存する.. •  もし,乾燥過程が続けば(あるいは,湿潤時間が短ければ)
さび成長は少ない. •  注目すべき点:湿潤環境でのさびの還元過程の研究 •  研究 –  錆層の水分吸収量の時間変化 –  錆層が水分を吸収した時のインピーダンス変化(伝導性
変化) –  錆層の近赤外反射吸収分光による吸収水分の測定 湿潤ー乾燥サイクルによる鉄鋼錆の成長
(Evans Model)
湿潤環境(夜間) 2FeOOH + 2xH+ + 2xe-­‐ → 2FeO1-­‐x(OH)1+x (where x = 1/3, → (2/3)Fe3O4・2H2O) xFe → xFe2+ + 2xe-­‐ xFe2+ + (1-­‐x)FeOOH + 2xH2O → 2FeO1-­‐x(OH)1+x + 2xH+ 乾燥環境(日中) 2FeO1-­‐x(OH)1+x + (x/4)O2 + (3x/2)H2O → 3FeOOH 湿潤ー乾燥1サイクルでの全反応 xFe + (3-­‐x)FeOOH + x/4O2 + 3x/2H2O → 3FeOOH 湿潤ー乾燥サイクルでの錆の成長速度 = [3/(3-­‐x)], ここで, x ;i湿潤環境での還元割合 湿潤環境での還元割合 => 錆層の成長速度を決める. 錆層の成長性の判断 => 湿潤環境で錆層がどのように還元変
化するかが重要な過程である. 湿潤環境で還元され難い錆 = 成長が少ないさび = 保護性錆 (A) Wet condiCon
FeOOH
Fe3O4
e
H+
FeOOH
Fe2+
H2O
Fe3O4
Fe
(B) Dry condiCon O2
Fe3O4
FeOOH
H2O
Fe
湿潤過程での錆の変化の測定が重要である.
52
Measurement apparatus
Impedance (conductance ) change measurement
Mass change measurement
Humidified Humidified RelaPve humidity (RH) of the air or nitrogen gas flowing into the cell is controlled. 53
Near Infrared reflecCon absorpCon spectroscopy PC
NIR
Spectrometer
Optical fiber
Halogen Ramp
Dry gas Artificial
air or N2
Auto-timer to change
the routes of air
Humidified gas
Acrylic case Water Bath 23.1 ℃ Route of air in wet process 54
全国41橋梁曝露(建設省土木研究所,鋼材
倶楽部,日本橋梁建設協会ー7橋梁分を,
腐食防食協会さびサイエンス研究会に提供
Table Chemical composiPon of steels exposed in various sites.
55
Amount of water vapor absorbed in the rust layer on weathering steel (steel B) from humidified N2 gas. The weathering steel was exposed on Yobitugi bridge in Nagoya city for 17 y. The thickness of the rust layer is about 141 µm.
-3
Mass Chenge, M / 10 g cm
-2
1.0
Dry CondiCon Wetting
0.8
0.6
Rust Rust layer thickness
141 µm
Webng H2O 0.4
0.2
Dry
0.0
0
1
2
3
4
5
Time, t / h
6
7
8
56
錆層への水蒸気の吸収量 H2O Dry CondiCon Rust 2.0
-3
Weight Change, M / 10 g •cm
-2
Ishikari Kako Bridge
Arita Bridge
1.5
Natori-gawa Bridge
Ebig-awa Bridge
Yokkaichi Bridge
1.0
Yobitugi Bridge
錆層厚さと吸収水分量との関係 Amount of water Absobed, M / 10-3g ・cm-2
Transient in the water absorbed from wet N2 atmosphere at RH 90% 2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
0
50
100
150
200
250
300
Thickness, L / μm
Omine-sawa Bridge
0.5
0.0
0
1
2
3
4
5
Time , t / h
6
7
8
吸収水分量は,さび層の体積比で8% 錆層は,水分量を受け入れる空隙が 8 %存在
する.. Impedance decrease of the rust formed at coastal area. Rust at coastal site Rust at mountain site 12
12
Ishikari-gawa Bay Bridge
10
2
log( |Z| / ! cm )
10
2
log( |Z| / Wcm )
Dry
9
0.5h
8
2h
7
4h
6
8h
9
0.5h 2h
8
7
8h
6
5
5
0
0
4h
-30
-30
8h
2h
0.5h
-60
2h
-60
Dry
Dry
-90
-90
-2
10
10
-1
0
10
1
2
3
10
10
10
Frequency, f / Hz
4
10
5
10
8h
0.5h
Phase, ! / degree
Phase, ! / degree
Ominesawa Bridge
DRY
11
11
-2
10
-1
10
0
1
2
10
10
10
10
Frequency, f / Hz
3
4
10
5
10
The impedance of the rust layer exposed at coastal site gradually decreases more with the webng. 錆層の伝導度変化:インピーダンスの逆数(Z-­‐1) 山間部曝露の錆と海浜部曝露のさび
Conductance, Z -1 / S・cm
-2
10
-6
10
-7
10
-8
10
-9
at 1Hz
10
-10
10
-11
Ishikari Kako Bridge
海浜部曝露のさび Arida Bridge
工業地帯曝露のさび Yobitugi Bridge
初期吸収された水分のチャンネルによる
伝導度の増加 0
1
2
3
4
5
6
Wetting Time , t / h
7
8
海浜分曝露の錆層の後半での伝導増加 => 錆層の還元変化 => the FeOOH to FeO1-­‐x(OH)
1+x 水の吸収 => 近赤外光反射分光測定
NIR
NIR reflecPon absorpPon spectroscopy (NIR-­‐RAS) during the weung process. Specimen; Steel B, Exposure in Yobitugi bridge for 17 y. The reflectance was referred to the reflectance (R0) of rusted steel before the weung. 100
Reflectance, R / %
0
Rusted steel
98
-1
5195 cm
-1
5105 cm
96
94
!(OH)a + !(OH)s
H2Oの吸
収バンド
92
[!(OH)a + "(OH)]
8500
8000
7500
7000
6500
6000
5500
-1
Wave Number, ! / cm
5000
4500
60
さび粒子間のイオン選択透過性
水分吸収実験 => 水分が入るオープンスペースは体積比で8% さび粒子の大きさ => 保護性の高いさびは10 nm径以下(石川達雄等の窒素
吸着実験の結果) さび粒子を100 nm立法体と仮定すると, さび粒子表面の固定電荷による,イオ
ン選択透過性の発現
100nm
100nm
2.7 nm (両側にできる電気
二重層が重なり合う)
さび粒子表面の電荷=pHにより変化
−Fe−OH + H+ ⇆ −FeOH2+ ⇆ −Fe+ + H2O
−Fe−OH + OH− ⇆ −Fe−(OH)2− ⇆ −Fe−O− + H2O
さび粒子表面の電荷
pH < zpc (酸性) −Fe−OH + H+ ⇆ −FeOH2+ ⇆ −Fe+ + H2O
pH > zpc(アルカリ性) −Fe−OH + OH− ⇆ −Fe−(OH)2− ⇆ −Fe−O− + H2O 多価陰イオン(リン酸イオン,モリブデン酸イオンなど)の吸着=> 表面電荷を負にする:zpcのpHをアルカリ側に変化させる −Fe+ + Ax− ⇆ −Fe−A(x−1)− 負の表面電荷=陰イオンの侵入を妨げる,陽イオン選択透
過性 −
−
−
Mx+
−
−
−
Ay−
まとめ
•  湿潤環境でのさび層の変化 –  インピーダンス(電気伝導性) –  水分吸収量測定 –  近赤外反射分光 •  最初に水分吸収(さび層体積の約8%)=>還
元による組成変化(非晶質のFe(II)-­‐Fe(III)オキ
シ水酸化物?:伝導度の増加) 63
7. まとめ
1.  新しいさび健全性の評価法=>簡便な表面粗さ測定 2.  非保護性(成長性)さびの生成条件;湿潤が続く環境;飛来海塩
量が多い環境 3.  湿潤時のさびの変化(Evans Model):水分は体積比で約8%浸透
可能.伝導性の増加.反射率の低下:初期に水が浸透し,その
後,組成変化が起こる. 4.  さび生成に及ぼす陰イオンの効果(乾湿サイクル実験とラマン測
定):Cl-­‐イオン=>初期にγ-­‐FeOOH=>β-­‐FeOOHの増加=>Cl-­‐のβ-­‐
FeOOH内の固定化(Free Cl-­‐濃度の低下)=>γ-­‐FeOOH生成 5.  SO42-­‐イオン=> 初期にはα-­‐とγ-­‐FeOOH生成 => 15 h 以降はほとん
どα-­‐FeOOH 64
学問としての今後の課題
•  Evans Modelの精緻化 •  さび層の保護性を下げる要因 –  湿潤時間が長く、乾燥時間がない環境 –  塩化物イオン環境 ⇒ 湿潤環境の解消のための設計(水抜き,じめじめし
た環境の改善) ⇒ 塩化物イオンが残らないように,あるいは除去するよ
うに •  さびの下地鋼保護性を決める要因 –  組成(環境により決定するので,重要でない) –  さび粒子の大きさ(乾湿環境の重要性) 耐候性を決める低合金鋼の添加元素の役割は?
65
謝 辞
佐藤由起子(元研究室秘書),小松朋寛(日刊工業新聞),岩崎弘資(日本
パーカライジング),田中翔三,古谷真輝(リケン),Vannie J. T. Resabal
(フィリピン・ミンダナオ工業大学),上田幹人准教授
腐食防食協会(現;学会) さびサイエンス研究会の皆様
さびサイエンス研究会 初代委員長:室工大の故三澤俊平教授 2代目委員長:大塚俊明 (北大,室工大,東北大,大阪 教育大,兵庫県立大の教員 +鉄鋼会社の研究員 +コンサルタント会社の研究員)
北海道大学大学院工学研究院 環境材料学研究室 (H24.04)
66