マーケティングのエコシステムを活用するための オウンドメディア

Japan Marketing Academy
★
論文
トリプルメディア+1、マーケティングのエコシステムを活用するための
オウンドメディア「コカ・コーラパーク」のプラットフォーム化
笊 ――― はじめに
笆 ――― マーケティングとメディア
笳 ――― ソーシャルメディアの革新性
笘 ――― ソーシャルメディアとマーケティングの共犯関係
江端 浩人
て何よりも重要なのがどの様な組み合わせで
● 日本コカ・コーラ株式会社
メディアを使っていくべきかの部分に焦点を
絞って論じてみたい。
インターネットの普及によって従来のメデ
私たちが直面しているメディア環境の大き
ィアの概念を超える新しいメディアが相次い
な変化は,従来マスメディアを中心に管理さ
で登場している。企業が自社で保有しコント
れていた情報の流通経路がインターネットの
ロールできる「オウンドメディア(自社メデ
仕組みにより解放されたことによるものであ
ィア)」を核として,その他のメディアを活用
る。インターネット登場以前には,企業が自
する手法やそのメリット・デメリットを分析
らの情報を配信するためには他社の管理する
する。
経路(テレビ,ラジオ,新聞,雑誌,屋外広
告,交通広告,チラシ等)を通じて行うこと
が一般的であった。ダイレクトメールや電
笊――― はじめに
話・ FAX など直接情報を送る手段もあった
がその単価が高いため,多くの情報が既に整
1994 年に電通が発行している「日本の広告
備された広告インフラで流通されていたので
費」の中に「インターネット」という新しい
ある。しかし,インターネットの中では企業
広告媒体が加わった。以来その金額や規模は
自らがホームページという媒体を所有するこ
飛躍的に成長してきた。そして「2010 年(平
とが可能となった。消費者はその情報を自由
成 22 年)日本の広告費」 の中でインターネッ
に閲覧することが出来,インターネットの電
ト広告が制作費をあわせて 7,747 億円となり,
子メールを通じて企業は直接消費者に自社情
6,396 億円の新聞広告を抜いてテレビに次ぐ第
報を格安で届けることが可能になったのであ
2 番目の広告媒体となった。本論文では,未
る。更に,近年ではインターネット上に SNS
だ最大のメディアであるテレビに対してイン
(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)
ターネットが追いつけるかどうかや将来のメ
が登場し,企業も消費者に近い立場に立つこ
ディア環境がどうなっていくか,ということ
とで,情報の発信に加え消費者と直接会話す
ではなく,どのメディアを使うべきか,そし
ることが可能になってきたのである。
1)
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論文
本論文では,このような背景で誕生し成長
によると 2)「トリプルメディア」とは,2009
を続けるインターネットという新たなメディ
年秋,日本アドバタイザーズ協会の Web 広告
アの概念を検証するとともに,日本コカ・コー
研究会が第 20 回 WAB フォーラムで提唱した 4)
ラがグローバルの本社であるザ コカ・コーラ
コンセプトである。それによるとトリプルメ
カンパニーが提唱するコミュニケーション戦
ディアは,1)企業が媒体費を支払って広告を
略に基づき,新メディアを活用するに当たり
掲載する従来型の「ペイドメディア(買うメ
導入している手法や考え方を紹介することと
ディア)」,2)自社サイトに代表される,企業
するものである。
が直接所有する「オウンドメディア(所有す
るメディア)」,3)SNS やブログ,ツイッタ
笆――― トリプルメディアの定義と
先行紹介事例
ーなど,消費者からの情報発信により 5)信頼
や評判を得られる「アーンドメディア(得る
メディア)」,の 3 つのメディアのことを指す。
マーケティングにおいて近年「トリプルメ
図表− 1 はコルコランが Sean Corcoran's
ディア」に関する記事や文献が多くなってき
Blog For Interactive Marketing Profession-
ている。これは従来「メディア(媒体)」と一
als: Defining Earned, Owned And Paid
括りにされていた主にマスメディアを中心と
Media の中で示したものであるが,以下にそ
した広告媒体をさしていたものに加え,イン
れぞれのメディアについて解説したい。
ターネット上にあるホームページやソーシャ
(1)オウンドメディア(Owned Media)
ル・ネットワーキング・サービス(SNS)の
発展などにより新たに登場してきたメディア
企業やブランドがコントロールするメディ
が加わったものである。博報堂の安藤元博氏
アでインターネットやモバイルのサイト,企
■図表―― 1
インタラクティブメディア専門家が定義するアーンド,オウンド,ペイドメディア
Sean Corcoran's Blog For Interactive Marketing Professionals
Defining Earned, Owned And Paid Media
出典:http://blogs.forrester.com/interactive_marketing/2009/12/
defining-earned-owned-and-paid-media.html
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メディアとマーケティングの共犯関係
業ブログや Twitter 等のアカウントを指す。
実行でき,実施規模が想定でき,内容もコン
掲載内容に関してのコントロールが出来る上
トロールできるが,広告が過多で反応が鈍っ
に,比較的コストが安いメリットがあるが,
ている上に信頼性などの問題もある。
企業発信の情報の信頼性やどのくらいの人間
に到達するかの保証が無く,大きくなるには
(3)アーンドメディア(Earned Media)
時間がかかるなどの問題点が指摘されている。
消費者自身がコンテンツを発信するチャネ
横山隆治氏は著書「トリプルメディア・マー
ルでいわゆる口コミやバイラルといったもの
ケティング」 の中で「自社メディアは 3 つの
である。信頼性が高く,購買への影響も大き
メディアの中核」としたうえで企業サイトを
く,将来に残るものが多い一方,内容を企業
「コーポレートサイト」
,
「ブランドサイト」
「キ
がコントロールできないので悪評が流れる可
6)
ャンペーンサイト」の三つに分類している。
能性もあり,そのスケールは想定できず,測
(以下引用)
定も難しい。
「コーポレートサイト」:企業の情報を発
信するためのウェブサイト。顧客,投資家,
上記のなかでは,現在インターネット上で
従業員など,幅広いステークホルダーに向
定義されている 3 つのメディアについて触れ
けたコンテンツを用意することが多い。コ
たが,現実社会ではインターネット上以外の
ーポレートサイトのドメインには企業名を
情報流通が当然存在する。前述の博報堂の安
使用するのが一般的だ。
藤元博氏によると 7)博報堂では,縦軸にトリ
「ブランドサイト」:特定の商品やサービ
プルメディア,横軸にそれがどのような場で
スのブランドの情報を発信するためのウェ
機能しているのかを置き,生活者が接するあ
ブサイト。ブランドサイトはコーポレートサ
らゆる「メディア」を 9 つのマトリックスで
イト内の階層に開設することもあるが,そ
一覧できるようにした「POE マトリックス TM」
れとは別にドメインを取得することも多い。
というものを開発したということである( 図
「キャンペーンサイト」:特定のキャンペ
表− 2 参照)
。この POE マトリクスでは,従
ーンの情報を発信するためのウェブサイト。
来のマスメディア(テレビ,ラジオ,新聞,
ブランドサイトは中長期的な視点で運用す
雑誌,屋外広告,POP)に加え,他社の事
るが,キャンペーンサイトは期間限定。キ
業・流通やマスメディア掲載記事やセールス
ャンペーンの目的に特化した機能を装備す
トーク,リアルクチコミを代表的な例として
るため,ブランドサイトから独立させるこ
要素に入れている。
メディアの種類を 3 つに規定しないケース
とも多い。
も出てきている。2010 年 11 月に経営コンサ
ルタント会社のマッキンゼー(McKinzey &
(2)ペイドメディア(Paid Media)
企業やブランドが広告チャネルを利用する
Co.)のエデルマンとサルスバーグが McKin-
ために金銭を支払うバナー広告や検索連動広
sey Quarterly Beyond paid media: Market-
告,スポンサーシップなどが含まれる。すぐ
ing's new vocabulary 8)の中で Paid, Owned,
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■図表―― 2
POE マトリックス™
出典:http://adv.asahi.com/modules/keyword/index.php/
content0036.html
■図表―― 3
ペイドメディアを超えて:マーケッターの新しい語彙
Beyond paid media: Marketing ユ s new vocabulary Beyond paid media: Marketing ユ s new vocabulary™
出典:http://www.mckinseyquarterly.com/Marketing/Digital_Marketing/
Beyond_paid_media_Marketings_new_vocabulary_2697
Earned に続くメディアとして Sold Media と
ッキンゼーによるとこのトレンドは通販や旅
Hijacked Media を定義している
(図表− 3 参照)。
行関連(航空,ホテル)で始まったばかりで
(4)Sold Media(ソールドメディア)
あるが間違いなく増えるだろうということで
自社のサイト上に他社のコンテンツ(広告)
ある。そして,他社のコンテンツ(広告)を
を載せることであり,事例としては電子商取
置くことは収入があることのみならず,消費
引のサイトや自社のコミュニティ上で他社の
者はそのサイトを客観的なサイトとみなし,
広告を掲載することである。日本コカ・コーラ
全体のトラフィックを押し上げる効果がある
ではコカ・コーラ パークがこれに当たる。マ
も知れないということである。
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メディアとマーケティングの共犯関係
(5)Hijacked Media(ハイジャックド・メディア)
サイトを活用し沈静化したことがあったとい
。
う(図表− 4 参照)
企業やブランドの資産やキャンペーンが特
定の強く否定的な意見を持つ消費者や団体
今まで,5 つのメディア定義に関して述べ
(悪意の第三者)の“人質”になるケースであ
てきたが最後に米コカ・コーラ本社が定義する
る。例えばソーシャルネットワークなどを通
もう一つのメディア(シェアードメディア)
じメンバーは企業サイトを乗っ取ることが出
を紹介したい。これは 2011 年 4 月 6 日にニュ
来ればビジネスに悪影響を与えられることが
ーヨーク Ad Age Digital Conference でコカ・
解っている。海外では企業ブランドの face-
コーラ本社の Integrated Marketing Commu-
book のページが悪意のある第三者によって乗
nications のトップ,ウェンディ・クラーク氏
っ取られたり,従業員の問題行動が消費者の
によるスピーチ で紹介された。従来のトリプ
隠し撮りで YouTube に掲載されたりした事
ルメディアに 4 つ目の「Shared」メディアが
例があるほか,日本でもお客様相談室の会話
加わったものである。
がそのままソーシャルメディアに掲載された
(6)Shared Media(シェアードメディア)
り,有力電機メーカーのソーシャルメディア
自社の企業やブランドの世界観だけで表現
アカウントが乗っ取られた事例があるという。
そのような場合に企業に損害を与えることに
できない他社と共同で運営するものというこ
熱心な消費者はそのほかの消費者にも製品や
とである。たとえば流通の店内で展開される
サービスをボイコットして会社に損害を与え
広告は,運営する店舗の傘の下で行なわれて
ようとする。そのようなケースは米国でとあ
おり,単独で行っているものではないので
る自動車メーカーで悪評が出たときに比較的
Shared と定義付けている。スポンサーシップ
速やかに Twitter や Digg といったソーシャル
やライセンスグッズなどもこの中に入ってく
■図表―― 4
マッキンゼーが提唱する 5 つのメディアのタイプ
出典:http://www.mckinseyquarterly.com/Marketing/Digital_Marketing/
Beyond_paid_media_Marketings_new_vocabulary_2697
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るであろう。例えば,FIFA ワールドカップ
ポートによると,そのスピーチの中でクラー
やオリンピックではコカ・コーラは独自のコン
ク氏はお金を出せば偉大なブランドを確立で
ポジットロゴを作るが,それは一種の Shared
きる時代は終わり,クロスメディアに通用す
Media と呼んでいいものではなかろうか?あ
るリキッド・アンド・リンクド戦略に切り替え
るいはコカ・コーラのブランドをあるアパレル
る必要があると話したという。
メーカーにライセンスして商品化した場合も
この戦略が必要な背景として,メディアや
シェアードといえるのではないだろうか?
消費者の多様化が挙げられる。 図表− 6 はそ
(図表− 5 参照)
れを簡単に表した図である。1980 年代には一
つのマーケティングメッセージを作り,それ
笳――― コカ・コーラ本社のコミュニケー
ション戦略−リキッド・アンド・リ
ンクド(Liquid and Linked)
な
コンテンツとトリプルメディア+
1 の活用
をあらゆるところで展開したのが 90 年代には
消費者をセグメンテーションして各セグメン
トにあわせたメッセージを展開するようにな
っていったのである。2000 年代にはインター
ネットの台頭で,One-to-One(ワン・トゥ・
ワン)マーケティングが活発になり,消費者
2011 年 4 月 6 日にニューヨークで行われた
は企業側がある程度その人の属性や嗜好に合
で前述のウェン
わせることを期待するようになって来たので
ディ・クラーク氏が行ったスピーチで紹介さ
はないだろうか。そして 2010 年代に入り,ソ
れた「リキッド・アンド・リンクド(Liquid &
ーシャルネットワークが台頭してくると「ネ
Linked)戦略」という考え方が,最近世界中
ットワーク化された消費者」ということを念
のコカ・コーラのマーケターの中で広がりつつ
頭に入れなければならなくなってきた。ネッ
ある。この考え方が公になった Ad Age のレ
トワークされた消費者は相互に情報をやり取
Ad Age Digital Conference
10)
■図表―― 5
北京オリンピック時のコカ・コーラ コンポジットロゴ
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メディアとマーケティングの共犯関係
りし,そこに企業の入る余地が少ないために,
携帯,ゲーム機などインターネットを介した
従来型のコンテンツやコミュニケーションで
波及を意識した VC(Video Content)に変え
は,うまくメッセージを伝えることができな
ているという。
い,ということがリキッド・アンド・リンク
ド戦略の背景にある。つまり消費者にリーチ
ある期間で動画サイト YouTube では,コ
する方法が多様化した,そして何よりも消費
カ・コーラ関連の動画がおおよそ 1 億 4600 万
者自身が情報の発信者になったことによって,
回見られていたが,そのうちコカ・コーラ社が
コンテンツの開発やコミュニケーション戦略
提供したものの閲覧数は 2600 万回に過ぎず,
の変更を余儀なくされたのである(図表− 7)。
消費者が生成したものが 5 倍近い 1 億 2000 万
まず,最初の要素,リキッドとはどのよう
回に上ったという。まさに,リキッドとはこ
なことであろう? 英語でリキッド(Liquid)
の様に消費者がブランドに関して自ら会話や
とは液体の意味であり,金融でも Liquidity は
コンテンツとして広めることである。また,
「流動性」を表す言葉である。つまり,メッセ
クラーク氏は企業が提供したものを閲覧する
ージやコンセプトはどの媒体にでも波及する
ことは“Impression”と表現しており,それ
ようにする必要があるということだ。したが
に勝るのは消費者が自ら表現し広める
って最近は動画を表す言葉の TVC(TeleVi-
“Expression”であると言っている。これから
sion Commercial)という表現を,パソコン,
はいかに多くの消費者に“Expression”
(表現)
■図表―― 6
メディアや消費者の多様化(模式図)
■図表―― 7
リキッド・アンド・リンクド戦略
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される“リキッド”なキャンペーンを実施でき
例えば縦軸が販売金額,横軸が販売アイテム
るかが成否を決するということになるだろう。
であり,インターネット販売など受注窓口を
広げるスケールメリットを出すことで,1 店
上記の例にも見られるように,インターネ
舗で営業をして販売する形態よりも,低いコ
ット上では一つのコンテンツが多く見られる
ストで容易に多くの在庫を持つことが出来る
ということではなく,複数のコンテンツが見
ので取り扱うアイテム数が増え,最終的にト
られるということを留意する必要があるであ
ータルの販売が増えることを指している。こ
ろう。つまり,それは企業から発信するだけ
れをコンテンツに応用すると企業が提供する
ではなく,消費者が取り込み自らコンテンツ
コンテンツそのものの 1 本あたりの閲覧数は
化して拡散できるように用意する必要がある
それほど多くなく,世の中に出ているそのコ
のである。そのようなコンテンツの視聴回数
ンテンツ全体の閲覧数の中では少数であって
をコンテンツ別に並べた場合には概ね図表− 8
も,消費者自身の Expression により生成され
のようになるのではないかと考えている。
広がっていくコンテンツが多ければ,総視聴
図表− 8 はインターネットの性質でもある
回数が増えるということである。そのため,
「ロングテール」を表している図である。ロン
企業が豊富なコンテンツを用意するとともに
グテールという言葉は従来,インターネット
ユーザーが企業コンテンツの作成と配信行う
上の商品販売を論じることに使われることが
ことを可能せしめれば,消費者が企業コンテ
多いが, 図表− 8 はロングテールを視覚化す
ンツをロングテール化し活用できる可能性を
るときに使われる代表的な図で,統計モデル
示唆している 11)。
の一つである冪乗則(べきじょうそく,
power law)を表したものが長い尻尾のよう
次に「リンクド」であるが,これは文字通
に見えることから来ている。当初はインター
りリンク,つまり何かとつながっているとい
ネット販売で大量の在庫を抱える場合の販売,
うことである。まず何よりもコンテンツはキ
■図表―― 8
ロングテール(模式図)
出典: http://en.wikipedia.org/wiki/The_Long_Tail
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メディアとマーケティングの共犯関係
ャンペーンの本来のコンセプトと繋がってい
シャルグラフ 12)により広く波及すると考えら
る(リンクド)必要がある。コンテンツが如
れるからである。日本コカ・コーラでも独自に
何にリキッドであり消費者自身がコンテンツ
ソーシャルメディアに情報を拡散できる
化して広がりを見せても,それがキャンペー
“Happy”と“Share”ボタンを設置しており,
ンのコンセプトと繋がっていないと全てがバ
消費者が情報や意見を拡散しやすくしている。
ラバラに見えて「コンテンツは広がれども賞
クラーク氏が明かしたところによると,まだ
品やサービスは売れない」ということになる
まだ初期のステージではあるが昨年末に英国
可能性がある。そして更にそのキャンペーン
とコロンビアで行った調査によると,ファン
のコンセプトは,そもそも消費者のニーズと
と呼べる人はそのブランドの購入意向が 10 倍
直接つながっていなければならない。キャン
高く,実際の消費も 2 倍以上あったという。
ペーンが広まっても,そのコンセプトが消費
コカ・コーラでのリキッド・アンド・リンク
者に無関係であればやはり商品やサービスも
ド戦略の成功例として,クラーク氏は 2011 年
売れないからである。
に「コカ・コーラ」ブランドで実施した FIFA
リンクドの例としては日本でも実施されて
ワールドカップのグローバルキャンペーンを
いるクロスメディア施策,「続きは Web で」
挙げている。まずは「コカ・コーラ」の基本的
や「検索」といった手法もこの中に入るであ
な価値としてあらゆる場面で掲げている“ハ
ろう。例えば VC に検索窓をいれ,その検索
ピネス”や“前向き”といったコンセプトを
から SEM/SEO を通じホームページへ誘導し,
FIFA ワールドカップという,強いスポーツ
ホームページにあるソーシャルリンク(Like
コンテンツと結びつける(リンクド)ために,
(いいね!)ボタンやツイッターボタン)から
サッカー選手が試合でゴールした後のゴール
内容がソーシャルにシェアされるという具合
パフォーマンスに着目した。通常はサッカー
である。消費者はあらゆる媒体で情報をやり
選手が行う行動であるが,このキャンペーン
取りしているので,1 つの媒体で完結せずに
では,Celebration を最高の喜び,歓喜の瞬間
他にも波及しなければならない。つまりその
といった解釈に基づき,ユーザー自らが喜び
コネクションプラニングにはインターネット
を表現する“What's your Celebration”とい
やソーシャルメディアによる波及も含めた,
うコンテンツを展開し,ユーザーの投稿も呼
あらゆるメディアのノウハウを結集しなけれ
びかけたのである。そしてそれにより Cele-
ばならないのである。
bration = Coca-Cola=Happiness の体験,とい
う構図を作り上げた。またソマリア人歌手
このようなリンクでは,例えば facebook の
K'NAAN が作った“Wavin' Flag”という歌
Like(いいね)ボタンを押されるよりは,他
をキャンペーンアンセムとして世界的に展開
の媒体に内容を広める Share という行為のほ
し,さらに日本など数カ国ではその国のアー
うが重要だという。というのもそのほうが消
ティストとコラボレーションを行うなどして,
費者の関与度合いが濃く,その消費者のソー
その国の歌詞とその国のあーティストにより
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パフォーマンスをされている楽曲でローカラ
ドなコンテンツを展開すべきメディアどのよ
イズし,キャンペーンのコンセプトである
うなものであろう? 2 章では 6 つのメディア
Celebration を,より分かりやすくそしてイン
(オウンド,ペイド,アーンド,ソールド,ハ
パクトを持って訴求することで,ブランドの
イジャックド,シェアード)を紹介したが,
コンセプトとリンクドさせた。このキャンペ
ここではソールドとハイジャックドをはずし
ーンの成功により,人々は FIFA ワールドカ
た 4 つのメディアでの展開を考えてみたい。
ップならではの喜びやそれぞれの国の大会に
ソールドは広告を配信している自社メディア
関する思い出を,「コカ・コーラ」の提供する
つまり「オウンド」+「ペイド」であり,ハ
Celebration やそれを表現する音楽と結び付け
イジャックドは犯罪行為による乗っ取りや悪
て,感じることが出来たのである。これはユ
意の第三者が運営するサイトだからである。
ーザーが自由に解釈し表現でき,あらゆる媒
体で展開可能な,そしてどんどん広がってゆ
まずオウンドメディアであるが,ペイド以
くキャンペーン,正に「リキッド・アンド・
外の自社で 100%コントロールできるものは何
リンクド」を実践した例の一つであったと言
でもこの範疇に入る。通常思い浮かべるのは
えるだろう。
インターネットや携帯の自社サイトかもしれ
ないが,消費者の目に触れるものは全てを対
笘――― リキッド・アンド・リンクドの展開
先としての 4 つのメディアとコカ・
コーラ パークの役割
象と考えたほうが良いだろう。コカ・コーラで
はオウンドメディアとして,例えば製品パッ
ケージやカップ,自動販売機,運送用のカー
トン(ダンボール),自社のルートトラックな
3 章で説明したリキッド・アンド・リンク
どの流通手段,自社サイト,封筒,名刺,電
■図表―― 9
リキッド・アンド・リンクド戦略の展開先としての 4 つのメディア
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メディアとマーケティングの共犯関係
子メールや従業員の制服にいたるまで幅広い
を担っていることの意識を向上させ,ひいて
ものを自社メディアとして捉えている。例え
は業務効率を向上させる結果となるのである。
ば製品のパッケージや自動販売機など消費者
オウンドメディアの活用はマーケティング
の目に触れやすいところに検索ボックスや
の中で一番見過ごされていた領域の一つであ
QR コード,URL などを表記することにより
ろう。日本コカ・コーラではインターネット上
多くの消費者を自社のサイトに誘導すること
のオウンドメディア「コカ・コーラ パーク」
が可能となってくる。また,コカ・コーラでは
に各メディアをつなぐ機能を持たせており,
全世界でのブランディングを強化するために,
インターネットにあるコカ・コーラ パークや
2011 年から全世界の社員全員のメールアドレ
ブランドサイトがコミュニケーション戦略の
スを“@coca-cola.com”に変更したり,名刺
プラットフォーム(ハブ)の役割を担うこと
を全社員共通のデザインにし,裏面で企業と
が多い。その理由は非常に簡単で他のメディ
しての事業指針である“Live Positively −世
アでは実現できないことが多いからである。
界をプラスにまわそう−”というメッセージ
インターネットにコミュニケーションの中心
と,その具体的な内容を訴求している。この
を置くことには他のメディアでは出来ない以
ような活動はマスメディアを使ったマーケテ
下の 3 つのメリットがある。
ィング活動よりも地味で当たり前のものとし
1)ユビキタス性:インターネットの自社サイ
て見過ごされるため,余り報道されたりする
トは接続性があれば 24 時間 365 日いつで
ことは無いが,筆者は非常に重要であると考
も,世界中のどこからでも誰でも閲覧が可
えている。その理由としては大きく二つあり,
能である。従って企業やブランドの情報を
まずはコスト効率が挙げられる。オウンドメ
知りたい人に分け隔てなく提供することが
ディアは企業やブランドのメッセージを載せ
可能である。
ることに関しての追加費用は
13)
非常に安いあ
2)情報の更新性:インターネット自社サイト
るいは通常の業務の延長で検討できるため,
は,他のメディアで展開されていることや,
投資効率(ROI)が非常に高い,ないしは効
ブランドのニュースをいつでも自由に変
果をある程度予測して投資をすることが出来
更・更新することが出来る。従って,その
る。また製品パッケージの変更や自動販売機
企業やブランドの現状をいつでも把握する
の装飾,電子メールの配信や名刺の作成も日
ことが出来る。
常的に行うことであるため,大きな調整や変
3)リアルタイム計測性:インターネット自社
更などなく実行しやすい。更に 2 つ目の理由
サイトは,ページへのアクセス経路,アク
として,自社メディアの活用は,従業員のブ
セス数や滞在時間,コンテンツの再生対数
ランドに対する意識の向上という副作用があ
やゲームのプレー回数,離脱先,などユー
る。電子メールのアドレスや名刺デザインの
ザーの各種反応がリアルタイムに計測でき
変更は,従業員に会社やブランドの目指す方
る。従って,その企業やブランドが行って
向やその優先順位を示すことで従業員自身が
いるマーケティングなど各種施策の効果を
企業やブランドのアンバサダーとしての役割
把握することが出来る。
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トとテレビを同時に使っている人の数が 59%
次にペイドメディアであるが,これはご存
もいたということである。ペイドメディアの
知のように金銭で購買できるメディアである。
有効活用に関しては他のメディアとの連携が
従来から各種メニューが整備されており,比
鍵になってくるであろう。
較的短い時間で確実に多くの消費者にリーチ
日本コカ・コーラではペイドメディアへの投
をするためにはペイドメディアを活用するこ
資効率をよくする為に各種の施策を行ってい
とが不可欠である。しかし,ペイドメディア
る。まずは自社の提供番組の視聴促進である。
も技術の進化などにより変化を余儀なくされ
同じ投資でも視聴率が高ければそれだけ広告
ているのではなかろうか? 2011 年 7 月より始
効果が計れるので,自社メディアである,コ
まった地上波デジタル化により,テレビはデ
カ・コーラ パークのサイトやメルマガ,ブラ
ータとの連動が容易になり,消費者はリモコ
ンドサイトを通じて提供番組を告知し,視聴
ンを通じて番組のクイズなどに参加したり,
を促す方法をとっている。次にはコンテンツ
景品に応募できるようになった。また,BS や
の自社メディアへの展開である。テレビ局で
CS,ケーブルテレビ,インターネット動画配
番組などと一緒に作るインフォマーシャルな
信等,多チャンネル化の到来により,個人の
どを,弊社ではブランデッドコンテンツと捉
消費する情報量が非常に増えた。結果として
えて,番組以外の自社メディアに掲載し,視
一つのコマーシャルが与えるインパクトが相
聴を広げる手法も展開している。出演者や音
対的に小さくなり,番組とタイアップした
楽の権利などにより実施が困難なケースも
「インフォーマーシャル」などの広告手法が活
多々あるのであるが,権利がクリアできるも
発になってきた。また,携帯ゲームの会社な
のに関してはなるべく連携を図ることを心が
どに代表されるように広告をインターネット
けている。さらにはコカ・コーラ パークのペ
誘導に使う事例も多くなってきている。これ
イドメディア化(ソールドメディア化)であ
は多チャンネル化と同時に消費者のメディア
る。2009 年以降,多くのページビューをあげ
同時消費という傾向にも対応したものである。
ているコカ・コーラ パークは他社の広告を有
図表− 10 は米国 Nielsen が調査をしたデータ
料で掲載してきた。自社メディアの価値を第
であるが,2009 年において既にインターネッ
三者との取引により確立することで,有料の
■図表―― 10
テレビ視聴とネット利用を自宅で少なくとも月に 1 回以上同時におこなう人
出典:http://blog.nielsen.com/nielsenwire/wp-content/uploads/2010/03/
3Screens_4Q09_US_rpt.pdf
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マーケティングジャーナル Vol.31 No.3(2012)
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メディアとマーケティングの共犯関係
出稿以外にもユーザーや商品,コンテンツを
リンクドであればよりブランドのメッセージ
持っている企業と等価交換的なバーターの取
に近いものになるはずだ。
引も可能になる。ペイドメディアとしてのコ
日本コカ・コーラでもアーンドメディアの積
カ・コーラ パークは広告の実収入とバーター
極活用を行っている。まずは公式アカウント
によるトラフィックやコンテンツ,商品の取
の運用である。facebook, Twitter, mixi, など
得による効果とあわせて大きくその投資効果
の有力な影響力と多くのユーザーを抱えるソ
を上げている。
ーシャルメディアで企業やブランドのニュー
スを流したり,消費者と直接意見のやり取り
次にアーンドメディアであるが,このメデ
などを行なっている。また,各種コンテンツ
ィアの中ではブランドが関与していようとい
にソーシャルメディアに連携するボタンなど
まいと,常に会話が発生している。そこで出
を設置している。これらは多くの企業が始め
てくるのが「リキッド・アンド・リンクド戦
た手法であるが,更に自社メディアとの組み
略」の中でも Distributed Creativity(拡散さ
合わせで各種の施策をおこなっている。例え
れるクリエイティブ)という考え方である。
ば,コカ・コーラ パークのアカウントと連動
先に紹介した YouTube のコカ・コーラのコン
してソーシャルメディアのアカウントへ投稿
テンツのようにアーンドメディアではユーザ
できる仕掛けを作っているのである。また,
ーが生成するコンテンツのほうが多い場合な
ソーシャルメディア上で人気のあるモバゲー
どがあり,リキッドなコンテンツが特に効果
タウンや mixi,GREE などのゲームやアプリ
的である。そのため,ブランドが自ら発信す
との連携を,購買が必須の消費者プロモーシ
る Impression より,ユーザーが自ら発信する
ョンに組み込むなど,積極的に行なってきた。
Expression の方がはるかに重要なのである。
アーンドメディア上では内容がコントロール
ユーザーはブランドやキャンペーンに対する
できない分,オウンドメディアやペイドメデ
意見を持っていたが,ソーシャルメディア
ィアとの連携が重要である。
(≒アーンドメディア)の登場でそれを表現
(Expression)しやすくなった,そしてそれが
最後にシェアードメディアであるが,これ
今までよりはるかに広がりやすくなっている。
も他のメディアとインテグレーションするこ
ブランドの価値をストーリー性とともに伝え
とが重要と考える。というのも,得てして購
ることで,それを消費者が自ら発信して伝え
買の現場となるお店の外側では素晴らしいス
てくれる(= Expression)状況を生み出せれ
トーリーを展開しているのに,実際に購買さ
ば,こんなに効率的なことはない。従って企
れる現場においては何も行われていないケー
業やブランドは,ユーザーに影響を与える情
スが散見されるからである。とりわけ清涼飲
報を提供したり,表現(Expression)するツ
料のように即時消費の商材などは特に,実際
ールを与えたり,広まりやすいコンセプトや
の購買が行われる店内でのアクティベーショ
ストーリーを提供することが重要になるので
ンは非常に重要であり,プランニングの段階
あろう。それがリキッドであればより広まり,
で忘れがちになるので,コカ・コーラではシェ
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マーケティングジャーナル Vol.31 No.3(2012)
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★
論文
アードという新しいメディアを敢えて定義し
この論文に記すことは出来ないが会員制度や
たという風にも考えられる。そして,このシ
ポイント制度ソーシャルメディアの連携や商
ェアードメディアという考え方は著者が共著
品や売り場との連携など,その内容は多岐に
で出版した「コカ・コーラ パークが挑戦する
渡る。それらのコカ・コーラ パークの連携策
の中で
が上手く機能することにより数多くのパート
「エコシステム・マーケティング」と書いたコ
ナーとのマーケティング・エコシステムの相
ンセプトに非常に似ているのである。パート
互活用が成立っており,サイト全体が活性化
ナー企業がそれぞれのファンを重ねて(お互
して,さらなる成長につなげることができて
いのマーケティング・エコシステムを活用)
いる。
エコシステム・マーケティング」
13)
マーケティング活動を行うことは時として自
コカ・コーラ パークは外部と連携するだけ
社単独で行う施策を超える効果をもたらすの
ではなく,日本コカ・コーラのポートフォリオ
である。
有効に活用するためのプラットフォームでも
ある。実際にコカ・コーラ パークを導入した
笙――― コミュニケーション戦略上の
「プラットフォーム」として
のコカ・コーラ パーク
後には,各個別ブランドサイトも大幅に訪問
者数やページビューを伸ばしており,結果と
してコカ・コーラ全体のインターネットサイト
の価値,ひいてはブランド価値向上している
各メディアの中のコカ・コーラ パークを中
のである。そして,プラットフォームを長年
心としたデジタル施策の,各メディアつまり
運用しコンテンツを蓄積することにより,コ
マーケティングのエコシステムを活用する
ンテンツのロングテール化によるアクセスの
「プラットフォーム」として機能させることを
増加という効果ももたらしているのである。
意味する。つまり,コカ・コーラで規定する四
プラットフォーム化のもたらすメリットは
つのメディア(オウンド,アーンド,ペイド,
上記のような規模(スケーラビリティ)だけ
シェアード)をうまく相互に機能させるため
ではなく,同時に運用の効率性をもたらす部
にある「プラットフォーム」ということだ。
分も大きいものである。例えばコカ・コーラ
ここでいう「プラットフォーム」とは平野敦
パークでは会員制度やポイント制度を一本化
士カール,アンドレイ・ハギウ共著の「プラ
したことにより複数のものがあったデータベ
ットフォーム戦略」
14)
のものに極めて近い。
ースの運用を効率化することに成功した。ま
「プラットフォーム戦略」の中で「プラットフ
た,コンテンツ開発においても同じプラット
ォーム戦略とは,多くの関係するグループを
フォーム上に全てのブランドのコンテンツが
「場」に乗せることによって新しい事業のエコ
展開できるので例えば新規のゲームを開発す
システム(生態系)を創造する戦略」と書か
るスピードやコストにおいても,大きな効率
れている。コカ・コーラ パークにはプラット
化をもたらしている。これは例えば似たよう
フォームとして機能させるための仕掛けがい
なゲームを複数サイト(このケースを 3 と仮
くつも用意されている。詳しくは競争戦略上,
にする)で展開する場合に従来であれば 3 本
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メディアとマーケティングの共犯関係
分の開発費が発生するのに対して,プラット
2007 年にコカ・コーラ パークを導入してから
フォーム上に展開する場合には 2 本目は半分
図表− 12 にあるように会員とトラフィックが
で出来てしまうことがあり,結果として 3 本
増え始め,2009 年には外部に広告販売が出来
を 2 本分の予算で作成することが出来るよう
るほどのスケールとなり,オウンドメディア
なことが可能になってくることである。また,
の枠を超えてペイドとオウンドの両方の性格
コカ・コーラパークの場合は,自らペイドメデ
を持つソールドメディアとなった。そして
ィアとしての広告収入があるので,その利益
2010 年には各種のソーシャルメディア施策を
をリソースとして自らのコンテンツ開発に充
取り入れて三つのメディアを繋ぎ,マーケテ
てる事で更なる効率化が図れるのである。
ィング施策の中心としてプラットフォームの
図表− 11 はコカ・コーラ パークの進化を示
役割を担うメディアへと成長してきたのであ
した表である。2006 年まではペイドメディア
る。そして現在は,それぞれのメディアとの
を利用してオウンドメディアへのトラフィッ
連携を強化しているほか,シェアードメディ
ク誘導を行うのがメインであった。しかし
ア部門も強化すべく販売チャネルとの連携も
■図表―― 11
コカ・コーラパークの進化
■図表―― 12
日本コカ・コーラ社の自社メディア会員数と PV 数の推移
43
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★
論文
強化している。
率的だという仮説を立てている。
笞――― まとめと考察
注
1)http://www.dentsu.co.jp/news/release/2011/pdf/
2011019-0223.pdf
2)http://adv.asahi.com/modules/keyword/index.
php/content0036.html
3)http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/
20090930/338176/
4)http://blogs.forrester.com/interactive_marketing/2009/12/defining-earned-owned-and-paidmedia.html
5)横山隆治『トリプルメディアマーケティング』イ
ンプレスコミュニケーションズ 2010
6)http://adv.asahi.com/modules/keyword/index.
php/content0036.html
7)http://www.mckinseyquarterly.com/Marketing/
Digital_Marketing/Beyond_paid_media_Marketings_new_vocabulary_2697
8)http://adage.com/article/special-report-digital-conference/coca-cola-s-wendy-clark-liquid-linkedkey/226836/
9)http://adage.com/article/special-report-digital-conference/coca-cola-s-wendy-clark-liquid-linkedkey/226836/
10)http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%AA%E4%
B9%97%E5%89%87
11)ある消費者のソーシャルメディア上の人間関係の
こと。
12)江端浩人,本荘修二,『コカ・コーラ パークが挑戦
するエコシステム・マーケティング』(ファースト
プレス 2009)P40, P43
13)平野敦士カール,アンドレイ・ハギウ『プラット
フォーム戦略』(東洋経済新報社 2010)P35, P37
過去数年だけを振り返っても YouTube,
mixi, GREE, モバゲータウン, Twitter, facebook, Flicker, Linkedin, Google+ などさまざ
まなソーシャルインフラやサービスが登場し
てくることにも象徴されるように,インター
ネット環境は大きく変化してきた。インター
ネットを活用した新サービスの登場やソーシ
ャルメディアの普及によって変化してきたメ
ディア環境に対して,日本コカ・コーラではオ
ウンド,ペイド,アーンド,シェアードそれ
ぞれのメディアに対応する施策をプラットフ
ォームであるコカ・コーラ パークを通じて対
応してきた。しかしここで敢えて明記してお
くべきことは,現在のコカ・コーラ パークが
最終形ということではなく,今後も社会的な
トレンドなど周囲や自社の状況,そして我々
のブランドを支持していただけるお客様(消
費者)のニーズに応じて,新しい変化を取り
入れ進化して行くべきものである,というこ
とだ。従って常に新しいインフラやメディア
に対応してゆくことが重要になる。また,消
費者と接点を持ち,情報を伝える機能を持つ
あらゆるものがメディアと規定され始めてい
江端 浩人(えばた ひろと)
る現状では,それぞれのメディアを単独でど
う使うかということもさることながら,それ
日本コカ・コーラ株式会社
ぞれのメディアを戦略的に統合して活用する
インターラクティブマーケティング バイスプレジデ
コンビネーションが特に重要になってくるで
ント
あろう。特にメディアをまたいで活用する場
米国ニューヨーク五番街生まれ
合のプラニングには ROI の高いメディアを活
スタンフォード経営大学院 MBA
用した上で,キャンペーンの目的を達するた
伊藤忠商事,宇宙・情報部門,IT ベンチャー企業デ
めに必要なメディアを,適宜購入するのが効
ジプリ創業を経て 2005 年より日現職
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