̶ 遺伝子保存部 ̶

●̶ 遺伝子保存部 ̶●
日本蝶類研究会
その遺伝子材料の提供をお願いいたします。
この作業が、蝶趣味の何を担っていくのかは不明
です。将来的に使わないかも知れません。ですが、で
きる時に出来ることを始めたいと思います。以前のア
ンケートで下記のような種群が候補となっております。
ゴイシツバメシジミ、ヒョウモンモドキ、大雪山や小
以前よりアナウンスしてまいりました、遺伝子保存
液に浸透させます。
笠原に生息する種、ヒメチャマダラセセリ、シロオビヒ
部プロジェクトを発動します。公共機関ではやってく
2.ただちに液体窒素にて凍結(ガラス化法)するも
メヒカゲ北海道南西部亜種、山形ウラジャノメ、広島
れない、かたや個人ではまったく荷が重い。そんな作
のと、1分間に1℃ずつ凍結(緩慢凍結法)する組に分
ウラジャノメ、日光オオイチモンジ、八ヶ岳タカネヒカ
業を、会に参加されている専門家の協力を得て会の名
けて凍結していきます。
ゲ、八ヶ岳クモマツマキチョウ、ニペソツ山ダイセツタ
の下に遂行することによって、
「アマチュアレベルでも
3.液体窒素下(-196℃)で保存を行います。
【写真2】
カネヒカゲ、太平洋水系のギフチョウ、オオルリシジミ、
出来ることをやっていく」という前向きな精神を貫くこ
【写真3】
草原性の蝶、湿地生の蝶、疎林の蝶、ミヤマシロチョ
とになるかと思います。本プロジェクトは日本蝶類研
究会の重要な位置づけにあると考えています。
「卵を液体窒素化で保存し、いつでも解凍すれば
再び発生が始まる…」。そんな夢のような技術が確立
されれば絶滅に瀕している蝶を救うことができます。
また、様々な理由で飼育して増やすことのできない蝶
を、時が来るまで眠らせておくことが出来ます。哺乳
動物では、野生動物の受精卵を液体窒素下で保存す
るプロジェクトが立ち上がっており、受精卵そのもの
を保存する技術もほぼ確立されております。
ところが、卵殻に覆われた蝶の卵を保存することは
非常に困難です。その理由は、哺乳動物の受精卵保
存に使用される凍結保護液(グリセロール、DMSOな
ど)を卵内に浸透させることが困難であることが挙げ
られます。また、卵殻を除いて胚を取り出せば生きた
以上の方法で、組織や染色体(遺伝子)は鮮度を
保ったまま、ほぼ完全な状態で永久保存が可能にな
ります。究極は、凍結した卵を解凍すれば発生を開始
し幼虫が生まれることですが、現状の方法では受精
卵であっても恐らく発生には至らないと思います。し
かし近い将来、染色体(遺伝子)からの個体再生が
可能になれば、新鮮な組織さえ残しておけば(この場
合は受精卵でなくても良い)、絶滅した蝶が再び野山
を舞うことができるようになると思います。
できれば、絶滅の危機にある蝶の復活は、あくまで
自然状態での復活を目指すことは当然ですが、実際
には困難な状況が多くあることを、愛好家の皆さんは
その感性によって誰よりも肌で感じておられることと
思います。本プロジェクトは「最悪の状態を想定した
保険」として実施しようと思っております。
ままの保存は可能になるでしょうが胚を培養するため
提供されるものは卵が一番良いと思われます。それ
の培養液や設備が別途必要になります。これらの技
ほど沢山の数は必要ありません。プロジェクトに参加
術開発には時間と費用が必要となります。しかし、そ
して頂ける方は、まず日本蝶類研究会まで連絡くださ
んな技術開発を待てないほど危機的状況になりつつ
い。その後、遺伝子材料は会事務局ではなく、作業に
ある蝶がいると思います。
関わって頂ける方へ直送いただきますので、折り返し
このような背景から、蝶の卵や弱齢幼虫を液体窒
素下で保存し、とりあえず新鮮な組織を永遠に残す
送付先の住所等を連絡させていただきます。電子メー
ルまたは封書でご連絡ください。
作業として『遺伝子保存部』を開始したい思います。
なお、対象は全蝶類全個体群を目標にはできませ
「永久凍土の中に閉じ込められたマンモス」よりかな
んので選定が必要になります。ヒメチャマダラセセリ、
り保存の質が高いバージョンとお考えください。おお
ゴイシツバメシジミやオガサワラシジミなどはもちろん
まかな方法は以下の通りです。
のこと、以前にも本誌で話題になったアサマシジミの
北海道亜種など、蝶愛好家ならではの感性があるか
1.卵または弱齢幼虫(成虫も可能)をクライオバイア
と思います。現状では100種分までのバイアルを用意
ル中【写真1】で高浸透圧に調製したDMS O入り保護
できます。保存したい種群または地域変異の吟味と、
4 フィールドサロン(18) Mar. 2010
【写真1】
ウ、ゴマシジミ全般、クロシジミ、チャマダラセセリ、ヒ
メヒカゲ、オオウラギンヒョウモン、ホシチャバネセセ
リ、オオムラサキ栗山亜種個体群、ヤリガタケシジミ、
中部地方産ヒョウモンモドキ、十勝連峰のウスバキチ
ョウ、石狩岳周辺のウスバキチョウ、アサヒヒョウモン、
日高山塊のダイセツタカネヒカゲ、新潟県のチョウセ
ンアカシジミ、アサマシジミ全般、東北地方のベニヒ
カゲ全て、ウスイロヒョウモンモドキ、コヒョウモンモド
【写真2】
キ、西日本ウラギンスジヒョウモン、九州ヒメシロチョ
ウ、ミヤマシジミ、キマダラルリツバメ、シルビアシジミ、
ツマグロキチョウ、一部シロオビヒメヒカゲ、エゾツマ
ジロウラジャノメ、ベニモンカラスシジミ、ミヤマチャ
バネセセリ、キマダラモドキ、クロヒカゲモドキ、カバイ
ロ、ウラギンスジヒョウモン、アカセセリ、ギンイチモン
ジセセリ、ハマヤマトシジミなど。
たとえば、採集規制されている種群の材料の入手
は困難です。名案の御座います方はご教示ください。
また、凍結保管の場所は1箇所ではなく数箇所に分
けておくことが、災害などに対しての危険分散という
意味でも必要な条件となります。液体窒素保存容器
をお持ちで、空きスペースを本プロジェクトに供与して
も良い、あるいは卵の保存方法を共同研究しても良い
とお考えの方がいらっしゃれば、是非ともお声をおか
けくだされば幸いです。宜しくお願いいたします。
【写真3】
愛好家の知識や感性は「蝶の保全」という観点活かせる思います。世にいくつもの条例による保護や採集禁止があり
ますが、「蝶が居なくなって一番寂しい思いをするのは蝶愛好家である」そのことを重要視したい。
たとえばレッドデータブックという書籍に縛られることもがよくあります。そして、いくつかの意見の相違や条件不
足を感じています。そこでは、愛好家の作るRDBという企画も立ち上げたいと思います。どの企画も皆様の協力なし
では成就しえませんので、ご協力をお願いいたします。各企画は追って会誌等でアナウンスいたします【延】
フィールドサロン(18) Mar. 2010 5