股関節外旋角度の違いがリフティング動作時の 体幹動作に及ぼす影響 Relationship between trunk movement and right hip external rotation angle during the lifting movement 04M40078 小貫泰志 Yasushi Onuki 指導教員 丸山剛生 助教授 審査員 西原明法 教授 中山 実 助教授 本論文は、股関節外旋角度の違いによるリフティング動作時の体幹に及ぼす影響を調べるために、 足部外旋角度位置を変えることによって股関節の外旋角度 3 条件を規定し、体幹の回旋を伴うリフ ティング動作を行い、その時の体幹結合部、骨盤部、左右股関節の回旋動作とその関係について検 討している。 第 1 章「序論」では、高齢化社会と介護負担、移乗介護における体幹回旋動作と腰痛の関係、移 乗介護とリフティングの先行研究について、体幹と骨盤の回旋メカニズム、骨盤と下肢の関節連鎖 について論じ、研究の目的、論文の構成を述べている。 第 2 章「方法」では、動作実験として被験者 6 名が行う体幹の回旋を伴うリフティング動作と、 測定項目について述べている。リフティング実験、足部外旋角度条件とリフティング動作の 3 次元 解析方法として、体幹セグメントの区分定義、身体セグメント重心における運動座標系の設定方法、 オイラー角の算出方法、関節角度定義、そしてデータ解析方法、統計処理について述べている。 第 3 章「結果」ではリフティング実験によって得られた結果から、足部外旋角度条件の違いが、 体幹結合部、骨盤部、左右股関節の回旋角度に及ぼす影響を示し、体幹の最大回旋角度によって規 格化された体幹結合部と骨盤部の回旋比率を、体幹の最大回旋角度点において算出した。体幹の回 旋開始点から回旋終了点までの骨盤回旋運動と左右股関節の回旋運動の相関関係の傾きの変化を検 討している。 第 4 章「考察」では、本研究で用いられている体幹セグメントの区分方法の妥当性とリフティン グ実験環境の体幹動作への影響を先行研究と比較しながら論じている。足部外旋角度条件間の違い による、体幹の最大回旋角度における体幹結合部と骨盤部の回旋比率の変化とその変化から推測さ れる腰部負担の関係、骨盤回旋角度変化と左右股関節の回旋運動の抑制の関係について考察してい る。さらに、被験者間によって異なる股関節アライメンが骨盤回旋運動に及ぼす影響を考察してい る。 第 5 章「総括」では、本研究の総括と今後の課題について述べている。 以上より本研究では、体幹の回旋を伴うリフティング動作において回旋側の足部を外旋させるこ とによって体幹の回旋動作に対して、体幹結合部よりも骨盤部の回旋の貢献が増加し、また骨盤部 の回旋運動に対して左右股関節の回旋運動は抑制されていることが示唆された。 Relationship between trunk movement and right hip external rotation angle during the lifting movement In this study, Relationship between trunk movement and right hip external rotation angle during the lifting movement was reported. The external rotation angle of the right hip was three condition and they were provided by the external rotation angle of the right ankle segment position. The purpose of this study was to examined the relationship of the trunk junction segment , pelvis segment rotation angle and right, left hip joints rotation angles during the lifting movement with trunk rotation movement. About the lifting movement holding heavy load with the trunk rotation movement, we conducted motion analysis measurement. Subjects were the healthy five male graduate students and one male adult. For the motion analysis measurement, sampling frequency was 120Hz and the maker positions were attached to 29 positions on the subject. The external rotation angle of the right ankle segment were 3 conditions (0°、30°、60°). The ankle segment posture of the static posture was defined as the 0 degree condition of the external rotation angle of the right angle segment. And the other conditions were defined as the angle to the static posture. In particular, to analysis the trunk rotation movement during the lifting task, the trunk segment was segmented the 2 segments of the upper trunk and the pelvis segment. The local coordinate systems consisted of the three orthogonal unit vectors (x, y, z) were set on the center of gravity in the upper trunk segment, the pelvis segment and the right, left tight segment. Euler angle about the rotation angle that is z axis angle was calculated from the direction cosine between the each local coordinate system. Euler angle about the rotation angle of the trunk junction joint , pelvis segment and the right , left hip joint was respectively defined as the relative angle of the upper trunk segment to the pelvis segment , to the global coordinate system , to the pelvis segment . As the conclusion, in the max trunk rotation angle, the bigger the external rotation angle of the right ankle posture, the ratio of the rotation angle of the pelvis to the trunk max rotation angle was increased. The bigger the external rotation angle of the right ankle posture, we revealed that to the same rotation movement of the pelvis segment, the internal rotation movement of the right hip was restrained and the external rotation of the left hip was restrained. 第 1 章 研究背景と目的 Table1 subjects data ( n= 6, mean ± SD ) 移乗介護は、高齢者の体重の一部もしくは 全体重を持ち上げ左右に回旋をリフティング 動作である。左右に回旋を行う際に第 12 胸 椎の回旋に伴って生じる腰部の回旋動作が腰 痛の原因動作であると言われ、移乗介護にお いて腰部の回旋動作を減少させるような介護 姿勢が必要とされている。移乗介護における 体幹の回旋動作に関する先行研究の多くは、 重量物を保持した体幹の回旋を伴うリフティ ング動作によってモデル化されている。この 先行研究において、骨盤と下肢の回旋動作に よって体幹部の回旋を減少させられることが 示唆されている。骨盤部の回旋動作は股関節 の回旋動作によって生じる。骨盤部が回旋す る際に、回旋方向側の股関節は内旋運動を行 なうため、内旋運動に影響を与えることで骨 盤部の回旋運動に変化が生じる可能性がある。 本研究では股関節の内旋運動に影響を与え る因子として、 股関節の外旋姿勢に着目した。 そして異なる足部外旋位置を 3 条件用意し、 足部外旋位置によって股関節の外旋姿勢を 3 条件規定した。 本研究の目的は、移乗介護の動作を重量物 を保持したリフティング動作によってモデル 化し、異なる股関節の外旋姿勢が、体幹部と 骨盤部の回旋動作に与える影響を調査・評価 することにある。 第 2 章 方法 2.1 被験者 Table1 に被験者の身体的特徴を示す。本研 究の被験者は、健康な男子大学院生 5 名およ び成人男性 1 名の合計 6 名であり、事前に実 験の目的と内容を十分に説明された上で実験 に参加した。 被験者は過去、現在において腰痛の既往歴 が無く、上肢、下肢に障害がないという条件 の元で選定された。 subject 身長 [cm] 体重 [kg] 年齢 [age] 1 2 3 4 5 6 164.8 184.9 173.8 174.8 173.8 166.6 56.2 62.4 64.0 65.0 56.2 64.0 45 23 23 24 24 27 61.3 ± 4.03 27.7 ±7.82 mean ± SD 173.1 ± 7.1 2.2 リフティング実験 被験者は 12kg の重量物を保持した状態で 体幹の右回旋を伴うリフティング課題を行っ た。実験条件は異なる足部外旋角度 3 条件 (0°、30°、60°)であり、被験者は足部外 旋角度条件ごとに 4 回の試技を行ったため、 被験者1人当たりの全試技数は12試技である。 被験者間、被験者内の条件間のリフティング 方法の違いによる体幹の回旋動作への影響を 防ぐために、リフティング方法、リフティン グ速度を統制した。 2.3 足部外旋角度条件 右股関節の外旋角度を規定するために右足 部外旋角度を用いた。右足部外旋角度は被験 者の静止立位時における右第一指足先端、右 足部内側ラインを結んだ線分との角度と定義 し、実験条件には静止立位時の足部外旋角度 0 度条件、静止立位に対して 30 度条件、静止 立位に対して 60 度条件を指定した。 2.4 3 次元座標データ マーカーは、Fig1 に示したようにリフティ ング動作の動作分析を行うために被験者の全 身 29 点に取り付けられた。画像は光学式モ ーションキャプチャーシステム Mac Eagle Digital System Motion Analysis を用いて、 サンプリング周波数 120Hz で測定された。 2.5 解析方法 2.5.1 剛体リンクセグメントモデル 身体を剛体と仮定し、セグメント(身体部 分)を左右の足部、下腿部、大腿部そして Fig2 のように体幹の捻りを伴う運動を詳細に分析 できるように体 幹を左右の肋骨 Upper trunk 下端点を境に上 胴部、骨盤部の 2 セグメントに lower trunk 区分し、全体で 8 セグメントに 分割した。左右 の肋骨下端点 Fig 2 Trunk segment を結んだ線分 は、体幹結合部として定義される。この線分 は第 12 胸椎付近を通るため、体幹結合部の 回旋動作を分析することによって、第 12 胸 椎の回旋動作を分析することが可能である。 2.5.2 運動座標系の設定 静止座標系における 3 次元座標データを使 用して、体幹部、上胴部、骨盤部、左右の大 腿部の身体重心を原点として Fig3 のように 単位ベクトルを用いた右手系の運動座標系を 設定した。上胴部、骨盤部、左右大腿部の運 動座標系は、それぞれ、長軸方向がZ軸であ り、Z軸に直行で被験者の前方に向かうベク トルをY軸、そしてZ軸とY軸に直行なベク トルで被験者の右方向に向かうベクトルをX 軸として定義した。 Fig 1 Maker positions 左右股関節のオイラー角は、骨盤部に対する 左右大腿部の相対角度として定義した。 全ての運動座標系において、反時計回りを 正とした。体幹結合部、骨盤部では、被験者 が正面を向いた状態で、右肩が後方に回旋し た状態を右回旋と定義し、負の値で表記され ている。右股関節では正が内旋運動、負が外 旋運動を示し、左股関節も同様に定義した。 2.5.4 リフティングのフェーズ分け 体幹の回旋動作を分析するために、①体幹 の回旋開始点と、②体幹の回旋終了点を定義 した。①では、体幹重心周りの回旋角速度の 微小時間当りの変化率⊿ωを算出し、⊿ωの 負の最大値を取る時点を体幹の回旋開始点と して定義した。②では体幹の回旋角度が最大 値を取る時点を体幹の回旋終了点として定義 した。 Z X Y Z 2.5.3 関節角度定義 X Y 運動座標系間の方向余弦から、回旋角度を 示すオイラー角を算出した。体幹結合部に関 するオイラー角は、骨盤部に対する上胴部の 相対角度、骨盤部の回旋角度は静止座標系に 対する骨盤部の相対角度として定義した。 Fig 3 local coordinate systems 2.5.5 体幹結合部と骨盤の回旋比率 u nit [deg] e x t 骨盤部の回旋角度を体幹の最大回旋角度で 規格化することによって、体幹回旋における 骨盤部の回旋比率を算出した。本研究では、 特に式 1 のように体幹の最大回旋角度点にお ける骨盤部の回旋比率に着目した。同様に体 幹結合部の回旋比率も算出した。 0 30 60 0 -10 -20 -30 -40 -50 -60 Ankle joint externa l rota tion angle Fig 4 Ankle joint external rotation angle pelvis angle ratio[%] = Pelvis angle trunk max ×100 ・・・ unit [deg] 15 i n t 式1 trunk angle max 10 5 第 3 章 結果と考察 0 e -5 x -10 t 3.1 足部と股関節の外旋角度 -15 60 Ankle joint external rotation angle 100 80 60 40 20 0 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 trunk Angle [%] 3.2 骨盤部の回旋角度比率 Fig 6 Ratio of the pelvic angle standardized by the trunk max angle in subject1 (30deg, trial 4) Ratio of the pelvis angle [%] Fig6 は足部外旋角度 30 度条件における被 験者 1 の体幹の回旋運動に対する骨盤部の回 旋比率の変化を示し、○印は体幹の最大角度 における骨盤部の回旋角度比率を示している。 体幹の回旋運動の増加に伴い、骨盤の回旋比 率が増加していることが分かる。また Fig7 か ら分かるように足部外旋角度条件が大きくな るほど、体幹の最大回旋角度における骨盤部 の回旋比率が増加していることが分かる。 脊柱周りの軟組織に対するストレスは、体 幹の回旋角度に比例して高まるため、体幹の 最大回旋角度において、骨盤部の回旋比率が 増加することは、体幹部の回旋によって生じ る腰部負担の軽減につながる可能性がある。 30 Fig 5 Hip joint external rotation angle pelvic [%] Fig4 と Fig5 に右足部外旋角度と右足部外 旋角度によって規定された右股関節外旋角度 に関する被験者 1 名の代表例を示す。Fig4 か ら分かるように実験中の被験者の右足部外旋 角度は、験者が指定した右足部外旋角度条件 とほぼ一致していた。また Fig5 から分かるよ うに右足部外旋角度条件ごとに右股関節の外 旋角度が規定されることが分かる。 0 * [%] * p<0.05 * 70 60 50 40 30 20 10 0 0度 30度 60度 Fig 7 Ratio of the pelvic angle to the trunk max angle in subject1 Fig8(a)~Fig8(c)に示したように体幹の回 旋運動における骨盤部と右股関節の動作パタ ーンは股関節 0 度条件においては、リフティ ング開始初期において骨盤と股関節の波形は 平衡状態であり、右股関節内外旋動作が生じ ていないことが分かる。しかし初期姿勢にお ける股関節の外旋角度条件を変えた場合に、 右股関節角度の波形パターンはリフティング 初期において、一旦、外旋方向に膨らんだあ と徐々に内旋方向に変化していることが分か る。そして、外旋角度条件が大きくなるにつ れ、外旋方向への膨らみは大きくなり、右股 関節の内旋方向への角度変化が少なくなって いることが分かる。このことから、骨盤の回 旋角度の増加と右股関節の回旋運動には関連 性があると推察される。 e x t 60 30 Angle[deg] i n t 0 -30 Right hip joint 右股関節 骨盤 Pelvis -60 -90 0 0.5 1 1.5 2 Time[se c] (a) 0deg i n t e x t 60 30 Angle[deg] 3.3 骨盤-股関節回旋角度の関係 0 -30 -60 -90 Right hip joint 右股関節 骨盤 Pelvis 0 0.5 1 1.5 2 1.5 2 Time[se c] (b) 30deg 60 3.4 骨盤-股関節回旋角度の相関 骨盤の回旋運動と右股関節の回旋運動に関 連性があるため、両者の相関関係を調べた。 Fig 9 に骨盤回旋運動と右股関節回旋運動の 相関の傾きを示した。骨盤運動‐右股関節運 動の相関関係には、有意な負の相関関係が見 られた。この負の傾きは、右足部外旋角度条 件が大きくなるほど増加するということが分 かった。これは、同じ骨盤回旋運動に対する 右股関節の内旋運動の抑制を示しており、右 股関節内旋筋群の筋負担が軽減していること を示唆している。 0度 30度 60度 -1.2 -1.3 e x t 30 Angle[deg] i n t 0 -30 -60 -90 右股関節 Right hip joint 骨盤 Pelvis 0 0.5 1 Time[ sec] (c) 60deg Fig 8 Rotation angles of right hip and pelvis 参考文献 ・西條富美代、峯島孝雄、谷口敬道、主観的な 負担度および体幹と下肢の回旋角度による リフティング動作の分析、理学療法学、 vol14、 p19-23、1999 -1.4 -1.5 -1.6 ** p<0.01 -1.7 * * ** Fig 9 Slope of the correlation of pelvic and right hip joint rotation * p<0.05 ・ A Plamondon、M Gagnon、P Desjardins、 Validation of two 3-D segment models to calculate the net reaction forces and moments at the L5/S1 joint in lifting、clinical Biomechanics vol11、pp101-pp110、1996
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