東芝のTMPM370が活躍。

Success STORIES
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株式会社東芝 セミコンダクター&ストレージ社 / 東芝マイクロエレクトロニクス株式会社
車輪型ヒューマノイドロボット
「HJM-47」
のモータ制御に
株式会社東芝 セミコンダクター&ストレージ社 / 東芝マイクロエレクトロニクス株式会社
HAJIME ROBOT
イーエスピー企画
東芝のTMPM370が活躍。
セプトが素晴らしいことから、はじめ研究所へ
も薦めたという。「当初は、ブラシレス DC モー
タのなかでも組込みやすいものを使いたいとい
うことで、イーエスピー企画の江崎さんと一緒
ヒューマノイドロボット製作で著名な「はじめ研究所」は、車輪型ヒューマノイドロボットの「HJM-47(はじめロボット47 号機)」に
に研究をしていたのですが、なかなかうまくい
東芝セミコンダクター & ストレージ社(以下、東芝)の ARM® Cortex®-M3 搭載マイコン TMPM370 を採用した。はじめ研究所に
きませんでした。江崎さんから TMPM370 を紹
TMPM370 を紹介したのが、モータ制御技術で多くの実績を持つイーエスピー企画である。ここでは TMPM370 の搭載理由に加え、
介されて、ベクトル制御が簡単に使えるものが
最新製品となるCortex-M4F 搭載マイコン TMPM470 の有用性などを聞いた。
あるのだったら、ということで採用することに
決めました」
(坂本氏)。ロボットに使用するモー
タには、TMPM370 に搭載されているエンコーダ
有限会社はじめ研究所
取締役・工学博士
坂本 元 氏
などの位置決めに必要な機能が活用できる。
はじめ研究所が製作した車輪型ヒューマノイ
ド ロ ボ ッ ト「HJM-47」は、2013 年 12 月 13 日 に
東芝マイクロエレクトロニクス株式会社
ミックスシグナルコントローラ統括部
ミックスシグナルコントローラ応用技術部
部長
増田 孝雄 氏
日本テレビで放映された「リアルロボットバト
TMPM370 評価ボードに
ドライバやモータを追加
ル日本一決定戦」向けに開発し、見事に優勝を
遂げた。現在は、テーマパークやイベントのエン
ロボットとしてパワーのあるパンチが打てる。
タテインメントロボット、また大学や研究機関
「 モ ー タ を 評 価 す る な ら、 ド ラ イ バ や モ ー
タ も 必 要 だ と い う こ と で TMPM370 が 搭 載
された評価ボードにそれらを乗せた評価プ
での研究用のプラットフォーム機体として利用
されている。
ベクトル制御に必要な
ソフトウェアが不用に
車輪に電動バイク用のインホイールモータを
ラ ッ ト フ ォ ー ム と い う 形 に し ま し た( 図 1)」
2 輪、補助輪として自在キャスター 4 輪を使用し
ギアが衝撃に弱いと、パンチした際にモータ
(イーエスピー企画 江崎氏)。さらに江崎氏は、
た合計 6 輪の車輪型ロボットである。車輪で移
の保護回路が働いてすぐに停止してしまう。そ
TMPM370 に搭載されたベクトルエンジンは、
動するため、平地のコンクリートやアスファル
こで、バネなどの衝撃を吸収するものを入れて
ブラシレス DC モータのベクトル制御の重い処
ト上で時速 40km での走行が可能だという。上
いるという。腕の重量を軽くしたり、腕の長さ
理部分をハードウェアで対応できるというコン
半身の関節には強力なモータを使用し、バトル
も制限があったため腰をひねることでリーチを
稼ぐなどの工夫を凝らした。
「HJM-47 の開発には東芝の TMPM370 が搭載
実用性を考えると大型の
がけるようになりました。身長 2m の二足歩行
である TMPM370 が搭載されている。TMPM370
されたイーエスピー企画の開発プラットフォー
ロボ ット(集合写真内)の開発が終わり、現在
をはじめ研究所に紹介したのがイーエスピー
ムを採用しました。他のマイコンで組んでいた
4m のもの(はじめ研究所 坂本氏 搭乗)を開発
企画である。イーエスピー企画と東芝は関係
ベクトル制御のソフトウェア部分がハードウェ
ロボットのなかでも人に似せたヒューマノイ
しています。小型ロボットだと、おもちゃやホ
が 深 く、「IAR シ ス テ ム ズ 社 か ら 提 供 さ れ る
アで入っていて、演算速度が速いことから、ベ
ドロボット(人型ロボットや二足歩行ロボット
ビーで終わってしまいますが、実用性を考える
TMPM370 搭載ボードをイーエスピー企画さん
クトル制御部分のソフトウェアはほとんど不用
など)が、注目を集めている。はじめ研究所は、
と大型のものが必要になります。しかし、大型
にサポートしてもらっています。特にモータ制
になりました」
(坂本氏)。
2002 年からヒューマノイドロボットを開発・販
ロボットは、作るのが難しく部品が少ないため
御の開発ボードでは、イーエスピー企画の高い
さらに坂本氏は、モータ数の制限はなかった
売してきた。
「もともと人型の小型ロボットか
大変苦労しました」
(坂本氏)という。
技術力が活かされているので、TMPM370 がリ
が、使用数が多くなると重量がかさんだり、故
リースされた頃から協力いただいています」
(東
障のリスクも多くなってしまう。今回のモータ
ヒューマノイドロボットが必要
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らスタートしたのですが、より実用的なロボッ
はじめ研究所が製作した車輪型ヒューマノイ
トを開発したいということで大型ロボットを手
ドロボットの「HJM-47」に、東芝のARM マイコン
ARM PARTNERS SUCCESS
芝 廣里氏)。
図 1:TMPM370 搭載ブラシレス DC モータ開発プラットフォーム。6 月には新バージョンの発売が予定されている。
構成として、肩、肘、首などの関節部にサーボ
ARM PARTNERS SUCCESS
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ており、ロボカップ世界大会など多くの大会で
アドバンストエンコーダを搭載している。「使
優勝や入賞を果たしている。
う 側 と し て 心 を 打 た れ た の は、TMPM370 や
「モータ制御は多くのノウハウが必要になり
TMPM470、TMPM070 のパッケージは基本的に
ます。お客様のなかには長らくモータを専業に
ピン互換であり、ハードウェア的な互換性が活
してきて多くのノウハウがある方ばかりでなく、
かされていることです」
(江崎氏)。
「それに加え
モータ制御の経験が少ないところが多いのも事
レジスタも同じにしており、ソフトウェアも互
実です。そういうお客様でもベクトルエンジン
換性をもっているので、基本的にそのまま使用
を使えば、モータ制御を行うことが容易になり
いただけます」
(三枝氏)。
ます」
(江崎氏)。「モータにはモータごとの個
アドバンストベクトルエンジンを
搭載した TMPM470
TMPM370 は、Cortex-M3 プ ロ セ ッ サ を
80MHz で動作させており、ブラシレス DC モー
タの効率的な制御を実現するベクトル制御
性があり、それぞれのモータに合わせたチュー
省エネの観点からも
エンジンを内蔵している。さらに、2 モータへ
東芝マイクロエレクトロニクス株式会社
ミックスシグナルコントローラ統括部
ミックスシグナルコントローラ応用技術部
ミックスシグナルコントローラ応用技術第一担当
主務
廣里 暢盛 氏
の対応や周辺アナログ回路内蔵といった特長
株式会社イーエスピー企画
代表取締役
により、モータを使用する製品の省エネを促
江崎 雅康 氏
進できる。「ソフトウェアでベクトル制御を行
ピン互換を維持したパッケージ
ベクトルエンジンが有用
ラメータチューニングシステム)と呼ぶお客様
のモータ制御システムのチューニングを助ける
「国内のお客様は基本的に国内ベンダの製品
であると認識されており、現在、国内外問わず
多くの引き合いがあります。さらに、省エネの
す。ベクトルエンジンを使用することで、ク
製品を開発しました」
(増田氏)。
東芝マイクロエレクトロニクス株式会社
ミックスシグナルコントローラ統括部
ミックスシグナルコントローラ応用技術部
ミックスシグナルコントローラ応用技術第一担当
三枝 昭久 氏
3 種類の PI ゲインを
適正に調整できる PTS を開発
も効率良いチューニングが可能となります。PTS
モータを 13 個(大 7、中 4、小 2)、車輪部にハ
ロック周波数が低いマイコンでも対応できま
第 1 世代のベクトルエンジンは、ブラシレス
観点からもベクトルエンジンに注目が集まって
の開発コンセプトは、手軽に最適値を探れるよ
ブモータを 2 個搭載したという。
す」
(東芝 三枝氏)。「マイコンにいろいろなこ
DCモータのベクトル制御の複雑な計算をハード
います」
(増田氏)。「日本の国内総消費電力の
ベクトル制御には、電流、速度、位置推定と
うなツールをご提供しようというものです」
(三
「これらのモータは分散制御しています。腰
とをやらせようとすると、より高速なクロッ
ウェアで実行できるようにしたもので、セクタ
57%はモータが消費しており、ブラシレス DC
いう 3 種類の PI 演算があり、そのゲインを適正
をひねりながら腕を伸ばすなどの各モータが連
ク周波数が必要になり、発熱や消費電力の増
ごとに計算式が変わる相変換や座標軸変換など
モータのベクトル制御技術は電力不足問題解決
に調整する必要がある。PTS は、ベクトル制御
動する動作は、別のマイコンで集中管理をして
大などの課題が生じます。ベクトルエンジン
の複雑な演算を専用演算ユニットとスケジュー
のカギのひとつとなるでしょう。家電製品や自
に必要な最適制御ゲインを可視化するツールだ。
制御しています」
(坂本氏)。
を活用することで、クロック周波数を低く抑
ラで構成されたベクトル制御エンジンが自動的
動車など民生用途では、ブラシレス DC モータ
「PI ゲインの調整は、いままでは経験豊富なモー
で、PTS だけですべて簡単にできるというもので
TMPM370 は、ブレーキと首周りのモータ制
えられ、消費電力の低減など、多くのメリッ
に処理できる。第 2 世代のベクトルエンジンプ
の採用が急速に進むことで省エネが広がってい
タの専門家が時間をかけて行っていました。PI
はないが、ある程度のところまで絞り込んでく
御に使用した。腕の制御はパワーが必要なので、
トを感じていただけると思います」
(東芝 増田
ラスは、第 1 世代のベクトルエンジンの機能に
ます。ただし、国内総電力消費量の 50%を占め
のパラメータは無限にありますが、PTS を使う
れるだけでも有用なツールといえるでしょう」
現在、イーエスピー企画と TMPM370 を使用し
氏)。
加え、1 シャント専用関数の追加など、カスタマ
る産業用途分野や 25%を占める業務分野はこれ
ことで絞り込むことができます。絞り込んだ後、
TMPM370グループの後継となるのがTMPM470
イズ性を向上している。最新のアドバンストベ
からです。いままさに、消費電力 1/2 の工場を
実際にモータを回して測定し、最適な点を見つ
「 は じ め 研 究 所 と し て は、 ロ ボ ッ ト を ど ん
「購入したモータは必ずしもベストだとは
だ。「TMPM470 は、 コ ア に 最 大 144MHz 動 作
クトルエンジンは、非干渉制御やデッドタイム
目指すための模索が始まっているように思いま
けることができるので、それほど経験がなくて
どん大きくしていきたいと思っています。そ
思っていません。たとえば、産業用ロボットで
の ARM Cortex-M4F を 採 用 し、 第 3 世 代 の ベ
補償など新機能を加え、さらなる性能や使い勝
は何かにぶつかったときに停止する保護回路は
クトルエンジンとなるアドバンストベクトル
手が向上したものとなっている。
「ベクトルエン
た制御基板を開発中とのことだ。
ジンは世代を更新することによって、よりかゆ
きの衝撃で止まってしまっては倒れてしまいま
御向けマイコンです」
(東芝 増田氏)。さらに、
いところに手が届くものになっています。ア
ベクトル
エンジン
センサレス矩形波制御の位置検出を容易にす
ドバンストベクトルエンジンは、TMPM470 と
(VE)
るアドバンストエンコーダ(A-ENC)を搭載し
TMPM475 に搭載されており、今後は、モータ
開発環境は、Eclipse の統合環境に gcc のクロ
ており、プログラマブルモータドライバ(PMD)
制御向けのすべてのマイコンにアドバンストベ
スコンパイラを使用しているという。「はじめ
と組み合わせることで、センサレス矩形波制
クトルエンジンを搭載していきます」
(三枝氏)。
研究所さんのように先端を走っているのならそ
御が可能となっている。2015 年 2 月からサンプ
ういった環境でも良いでしょうが、産業界に落
とし込むには、商用の開発環境が必要になりま
ルの出荷を開始している。「ベクトルエンジン
は東芝オリジナルのペリフェラルで、第 1 世
「今後は、ベクトルエンジンばかりでなく、周
辺のアナログ回路なども取り込んでいくことで、
さらに使い勝手の良いマイコンをご提供してい
すので、イーエスピー企画としてはそういっ
代の『ベクトルエンジン』、第 2 世代の『ベク
たツールにも対応しています」
(江崎氏)。この
トルエンジンプラス』、第 3 世代の『アドバン
東 芝 は Cortex-M0 を 搭 載 し た TMPM070 グ
HJM-47 以外にも、はじめ研究所は小型、中型、
ストベクトルエンジン』と進化しています(図
ループもラインアップしている。最大周波数
大型など各種ヒューマノイドロボットを製造し
ARM PARTNERS SUCCESS
2)」
(三枝氏)。
きます」
(増田氏)。
40MHz で動作させ、ベクトルエンジンプラスや
2015 年 3 月から、PTS の提供を開始している。
「モータ制御のチューニングは非常に泥臭い世界
(江崎氏)という。
チューニングできません。制御マイコンとして
エンジン(A-VE)を搭載した最新のモータ制
(坂本氏)。
枝氏)。
うなると購入してきたモータでは思うように
必要ですが、二足歩行ロボットで足をついたと
す。もっと柔軟なモータ制御が必要になります」
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ニングが必要となりますが、東芝では PTS(パ
を使いたがります。海外でも日本製品は高品質
うと、コアへの負荷が大きくなることからク
ロック周波数の高いマイコンが必要となりま
す」
(江崎氏)。
ベクトルエンジンの進化
専用ハードウェアとソフトウェア処理の協調により、
さまざまな環境下でのモータ制御に
柔軟に対応し進化を続ける。
高機能化、高性能化を実現する
新関数群の追加
第3世代
りロボットに適した制御ができるのではと期待
アドバンスト
ベクトルエンジン
しています」
(坂本氏)。「モータが大きくなって
1 シャント専用関数
+カスタマイズ性向上
第2 世代
相変換演算とPMD、ADCが
連動し、CPU 負荷低減
TMPM370 や TMPM470 を 使 用 す る こ と で、 よ
M470 グループ製品
もパワーデバイス部分が変わるだけで、ロジッ
クはそのまま活かせます。今後は、IGBT や SiC
などのパワーデバイスを使用することで、大
ベクトルエンジン
プラス
型モータの制御に対応していきます」
(江崎氏)。
M370 グループ製品
第1世代
「モータ制御に向けたマイコンのラインアップ
の拡充に加え、性能を上げて価格を下げるとい
ベクトルエンジン
M070 グループ製品
う相反する要件を追求していきます」と増田氏
は結んだ。これからも東芝の提供するモータ制
御に関するソリューションは注目していくべき
図 2:数ある ARM マイコンのなかでも、その違いが際立つ東芝のベクトルエンジン。
すでに第三世代へと進化を遂げている。
だろう。
ARM PARTNERS SUCCESS
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