Signal-to-News FT-IRによる爆発物工業製品の分析 IR/Raman Customer News Letter サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社 IR/Raman 営業部 編集発行 : マーケティング部 M94004 はじめに Key Words y FT-IR y 爆発物 y 含有量 y 拡散反射 y ATR y 顕微赤外 フーリエ変換赤外分光装置(FT-IR)とその多彩な測定アクセ サリによる応用範囲が広がるにつれて、FT-IRは爆発物産業 においても分析を簡単に、かつ信頼のおけるやり方で解決 する手段となっている。 爆発物産業においては、超高エネルギーを伴う反応物質を 対象に分析および解析を行っており、例えば、酸化反応プロ セスでの窒素を含む段階的な反応を伴う試料を分析してい る例がある。窒素の大部分は混合物として含まれており、こ れらは、強く、そして特徴的なピークとしてスペクトル上で簡 単に検出できる。今回、FT-IRにより、爆発物の工業製品の 分析を行い、さらに定量分析も行ったので報告する。 実験 試料としてTNT、RDX、HMX、ニトロセルロース、そしてアジ 化鉛を比較した。測定に使用したアクセサリとして拡散反射 アクセサリ、ATR、赤外顕微鏡を使用した。 結果と考察 アジ化鉛を含む信管中の黄色/緑色粉体の確定 信管衝撃試験の後、黄色/緑色の粉体物質が発見された。 赤外顕微鏡より得た赤外スペクトルから判断すると、その製 品は、信管を製造する段階で一般的によく使用される充塡 剤のシノキサイドと判断した(図1)。さらに高湿度中、昇温過 程での信管の爆露試験の際、黄色/緑色の物質は同じタイ プの信管でも発見された。赤外スペクトルからの解析により (図2)、その物質はアジ化銅であると断定した。別のサンプ ルもSEM-EDS(X線回折装置)で分析した結果、銅を検出し たため、定性結果を裏づけている。 砲撃後の大砲のバレルの分析 砲撃中に形成されたバレル内の堆積物の分析を行った。使 用された発射用火薬には炎光を抑える物質であるKNO3(図 3)が含まれている。この物質は堆積物中からは検出できな いが、主な構成要素は各種の青酸塩であることが判明して いる。その中の一例として図4に示すようにKCNが、拡散反 射測定装置を用いて確認された。 オクトール内のTNT含有率の分析 吸光度スペクトルのピークの高さまたは面積は、含有量と相 関を持っている。混合物の場合、溶媒や他の物質の干渉作 用が起こらないピークを選ぶことにより、定量分析が行える。 10mℓクロロフォルムに約350mgのオクトールが特殊フラスコ の中で溶けるが、この溶媒ではTNTだけが溶解してもHMX は溶解しない。測定は、NaClセルの中で0.1mmの光路長を 持つ液体セルで行った。定量分析に使用した波数領域は 1800~1100cm-1間の非対称振動と対称振動、NO2の伸縮振 動に基づくピークについて行った。 この領域ではクロロフォルムの干渉を受けないため(図5)、キ 検量線はR=0.9998で良い相関を示している。オクトール内 のTNTの量は、定量精度のサンプル量350mgで±0.2%の 精度を持っているので、充塡剤内の極めて微量試料におい ても、品質管理として充分な制度を誇ることができる。これは 例えば、およそ5000mgのサンプルが必要な従来の比重計を 用いた測定方法では不可能である。 PBXに含まれるバイトン含有量の分析 分析したプラスチック爆弾(PBX)は~5%バイトン(フッ素ゴ ム)を含むHMXである。純品のHMXとPBXのスペクトルの比 較では、バイトンのスペクトルも部分的に一致するが、バイト ンの低数測の強い吸収のために解析が煩雑である。総バイ トン量を算出するために、HMXを30~150mg、特殊フラスコ 内で10mℓのジメチルスルホキシド(DMSO)で溶解し、標準 サンプルを測定して検量線を作成した(図6)。この検量線は R=0.999で完全な一次曲線が描かれている。 ニトロセルロース(NC)に含まれる窒素含有率の分析 もっとも興味深いアプリケーションとして、ニトロセルロース (NC)に含まれる窒素含有率の定量分析の例を示す。 一般的に、NCは経時的に減少する場合が多く、例えば HPLCでこれらの減少量を知ることができる。その他、数多く の測定方法が提案されているが、これらは間接的に経時変 化を解釈する方法であり、発射燃料から発生するNO2を考え ても、全ての発生したNO2が安定剤に反応するわけではない ので定量的な評価は煩雑である。それに対し、赤外分光法 は、NC内の窒素の総量をダイレクトに分析が行えるのが特 長である。 発射燃料をエチルアセテートで溶解し、この溶液をKBr窓材 上に滴下した。溶液を乾固させた後に赤外顕微鏡で測定 し、NO2 のピークが吸光度1.0に近い吸収ピークがある波数 領域を定量に使用した。CH2伸縮運動のピークを内部標準 ピークとして用い、NO2/CH2の強度比によって得た検量線を 図7に示す。さらに、窒素の含有量が広範囲である場合は、 赤外スペクトル内の全てのピークを多変量解析により解析す ると、より優れた定量結果を算出することが可能である(図 8)。数点の試料は完全な相関が得られなかったが、これは 材料各成分の相互作用によるスペクトルへの影響があったと 考えられる。 発射燃料に含まれる燃焼減速剤の測定 発射燃料に添加し燃焼が始まると、燃焼の制御をするため に発射燃料の表面は多種の物質で処理されている。使用さ れている物質の中の1つに、フタル酸ジブチル(DBP)があ る。発射燃料にDBPの浸透する深さを制御するための多種 の方法が工夫されており、この分析にFT-IRを使用した。 発射燃料自体をミクロトームを用いて薄くスライスした後、赤 外顕微鏡のステージに置き、端からDBPが無いポイントまで ~50umのアパーチャサイズでマッピングを行った。1750cm-1 のC=Oピーク(図9)について、測定点の端からの距離による 強度の変化を図10に示す。このチャートにより発射燃料に DBPの浸透具合が判断できる。 燃料に含まれる充塡剤のSiによる品質低下 無機物の測定にもFT-IRを利用することができる。点火充塡 剤を16週間に渡り温度60℃、湿度75%条件下で保管した 後、Pb3O4 、Fe2O3 から構成されている物質を検出したが、Si は検出できなかった。この充塡剤には、点火を遅らせる B、 KCLO4、酸化スズ及び酸化チタンを含む物質が含まれてい る。この測定ではATRアクセサリを使用し、スペクトルを未処 理のものと比較した。 Pb3O4 とFe2O3には変化はなかったが、SiはSiO2に組成変化 をしており、充塡剤により近い所のサンプルにはもっとも多く SiO2を検出することができた(図11)。充塡剤の表面近くから SiO2 の濃度と深さ方向のバリエーションのチャートを図12に 示す。明らかに、Siを酸化させる物質が充塡剤から出現して いることが理解できる。 まとめ M94004 以上のように数種の爆発物の分析に、FT-IRが威力を発揮 する例を示した。各種サンプリングアクセサリと測定方法によ り、どのような試料にも対応でき、応用範囲は広がっている。 今回紹介した例により、FT-IRは、爆発物産業という新しい 分野でもその有用性を示すことができた。 爆発物産業、燃焼燃料の分野において、FT-IRの測定方法 の可能性について情報交換し合うことになれば、より興味深 い分析が可能であろう。 サーモフィッシャー サイエンティフィック株式会社 スペクトロスコピー営業本部 IR/Raman 営業部 横浜本社 045-453-9210 大阪支店 06-6863-1552 E-mail [email protected] 図1 シノキサイド(混合物)のスペクトル 図2 黄緑色の異物のスペクトル 図5 TNTのスペクトル キャリブレーション用の2本のピーク 図9 発射燃料の表面深さによる違い 図10 C=Oとエッジからの距離の関係 図6 HMXの検量線 www.thermofisher.co.jp (日本) 図3 KNO3のスペクトル 図7 NC内の窒素の検量線 図11 SiのSiO2への組成変化のスペクトル www.thermo.com (グローバル) ©2007 Thermo Fisher Scientific Inc. All rights reserved. All trademarks are the property of Thermo Fisher Scientific Inc. and its subsidiaries. Specification, terms and pricing are subject to change. Not all products are available in all countries. Please consult your local sales representative for details. 図4 大砲バレル中のKCNのピーク 図8 多変量解析による窒素の検量線 図12 SiO2のバリエーション TNT : トリニトロトルエン RDX : へキソーゲン
© Copyright 2024 Paperzz