映画文化の保存 デジタルシフト下の危機的課題 人文科学の主要問題Ⅰ(講義) 情報人文学の最前線 フィルム・アーカイブ、キャリア、コンテクスト、 真正性、永続性、デジタルジレンマ 1-2.映像アーカイブの対象 ―映像文化、映画文化の場合― ①情報 content 映像・音声情報 ②記録媒体 carrier フィルム、テープ、紙、セル、ガラス、 ディスク、カード、ドライブ ③生成~受容の文脈 context カメラ、映写機、プロジェクター、モニター、 ディスプレイ、受容の環境、デバイス、 発行物、スピーカー、観客、批評等々 2015/04/15 →07/15 映像学部 冨田美香 映画文化の保存 デジタルシフト下の危機的課題 1.映画文化の保存概略 2.映画文化保存:デジタルシフト下の危機的課題 2-1.概略 2-2.宮川一夫撮影台本アーカイブ 4 1-3.映像アーカイブの3つの仕事 上映 放送 出版 DVD Web… 公開 調査 *媒体変換 保存(カタロギング) 永続的・循環型映像文化 1-1.映像をアーカイブする アーカイブ:永続的アクセスに対応する確実な保存 *映画芸術科学アカデミー The Digital Dilemma http://www.oscars.org/science-technology/sci-tech-projects/digital-dilemma ユネスコ 『動的映像の保護及び保存に関する勧告』 1980年10月27日 第21回ユネスコ総会採択 ⇒「世界視聴覚遺産の日」 動的映像は、 「諸民族の文化的独自性の一表現」 「教育的、文化的、芸術的、学術的、歴史的価値」 「一国の文化的又は歴史的遺産の一部」 http://www.mext.go.jp/unesco/009/004/026.pdf 3 収集 3つのC Content 視聴覚情報 Carrier 記録媒体 Context 文脈 オリジナル保存 修復、媒体変換、 復元 1-4.映像アーカイブの国際組織 CCAAA [UNESCO as Observer] Co-ordinating Council of Audiovisual Archives Associations FIAF: 映画中心 FIAT/IFTA : テレビ IASA: 音響と視聴覚 ICA: 公文書館の視聴覚部門 IFLA: 図書館の視聴覚資料部門 AMIA: 映像、個人 SEAPAVAA: 東南アジア太平洋地域 ARSC: Association for Recorded Sound Collections 6 1 1-5.映画文化のアーカイブ 1-5.映画文化のアーカイブ 無声映画全体の90%近く、1950年以前に製作された 映画作品のおおよそ50%が、既に失われている。 →再優先課題はフィルム(carrier、content)の保存。 →フィルム・アーカイブの設立 国際フィルム・アーカイブ連盟 Fédération Internationale des Archives du Film http://www.fiafnet.org/ 1938年に、フランス、イギリス、ドイツ、アメリカの4機 関によって世界の映像遺産の保護を目的に、設立さ れた非営利・非政治の国際団体。現在は140以上の 機関、77カ国以上が加盟 。 *オリジナル素材のフィルムとは 劇場用映画(35mm) 1.①ネガ(カメラ内)→②ポジ 2.①ネガ→②ポジ →③インターネガ→④ポジ(上映用) → ④ポジ(上映用) 3.①ネガ→②ポジ→③縮小ポジ(16,9.5,8mm等販売用) 個人映画(小型映画=16mm,9.5mm, 8mm) 1.①ネガ(カメラ内)=①ポジ 7 1-5.映画文化のアーカイブ carrier フィルムについて 1-5.映画文化のアーカイブ ○責務 映像遺産を保護し、作者の表現を可能な限り、最 も真正にかつ最良の状態で、後の世代に渡すこ と。 ⇒オリジナル素材、オリジナル・フォーマットを尊 重する。 ⇒素材を保存すること。 ⇒それらを永久的に調査、研究や上映に利 用できるようにすること。 http://www.fiafnet.org/uk/members/ethics.cfm 映像文化のアーカイブ 可燃性フィルム Nitrate film ニトロ・セルロース 不燃性フィルム Safety film アセテート “ヴィネガー・シンドローム” ポリエステル フィルム 10℃以下・相対湿度20~30%環 境で、数100年間保存可 8 1-5.映画文化のアーカイブ 1.素材の完全性を尊重、保護する。どんな操作、切断、偽造、検閲か らも保護する。 2.短期的な興味のために、素材の長期生存を脅かさない。唯一の素 材の危険に対しては、アクセスを拒否する。 3.素材を、もっとも良い条件で保存する。 4.素材を復元(コピー)する時、本来の姿をゆがめず、正確な複製にす る。プロセスは文書化する。 5.素材を復元する時、オリジナル素材の性質やその創造者の意図を 変更しない。 6.オリジナルの上映体験と最も近い状態をめざし、特に適切な映写ス ピードや正しい縦横比に注意する。 7.復元や素材の提示にかかわる決定や論理的根拠に関して、記録を し公開する。 8.不必要にオリジナル素材を破戒しない。法律上、行政上可能で安全 であれば、ナイトレートも保存する。 http://www.fiafnet.org/uk/members/ethics.cfm 映像文化のアーカイブ 10 9 11 1-5.映画文化のアーカイブ フィルム(carrier、content)について 1.媒体の信頼度:35mm=永続性・信頼のおけ る国際標準化された統一フォーマット 2.ヒューマンアイ・リーダブルかつタンジブル 3.デバイス依存度が低い 4.高解像度の潜在力 5.監督あるいはカメラマンの意思と関与によって 生み出された創作物 映像文化のアーカイブ 12 2 2-1.デジタルシフト下の危機的課題 2-1.デジタルシフト下の危機的課題 カラーフィルムの現像 1.フィルムの問題 ・フィルムの存続…アーカイブ用 黒化銀 富士フィルム:デジタルセパレーション用黒白レコー ディングfilm ETERNA-RDS*アカデミー科学技術賞 ・フィルム現像所の存続 ・フィルムに知悉した技術者の存続・育成 2.ボーン・デジタルの問題 ・「オリジナル」データの非永続性 露光後 発色現像 黒化銀周りの酸化物に カプラーが反応して色素に。 非国際標準化、マイグレーション課題、非安定性 ・コンテンツ、コンテクストの消滅 ハロゲン化銀除去 色素だけの像に イエロー色素 漂白 定着 黒化銀をハロゲン化銀 に戻す この時、黒化銀像と色素像 の二重構造になる。 13 2-1.デジタルシフト下の危機的課題 16 2-2.デジタルシフト下の危機的課題 米国映画保存法 National Film Preservation Act 1988年制定、1989年施行 1.フィルムの問題 米国議会図書館内に米国映画保存委員会発足 (National Film Preservation Board) ナショナル・フィルム・レジストリー (公開後10年の作品から毎年25本) 1996年 全米映画保存基金設立 (National Film Preservation Foundation) 例:「宮川一夫撮影台本アーカイブ」 科学研究費助成事業(基盤研究C) 課題番号 25370193 課題名 撮影監督宮川一夫アーカイブ・プロジェクト 代表者 冨田美香 ・フィルムに知悉した技術者の存続・育成 14 2-1.デジタルシフト下の危機的課題 ハロゲン化銀の 現像 定着 ハロゲン化銀の露 未露光のハロゲン化 光部分を黒化銀に 銀を除去 露光部(撮影済フィル 還元 ム) 2-2.デジタルシフト下の危機的課題 撮影監督宮川一夫アーカイブ・プロジェクト 白黒フィルム現像 露光 17 2013 (H25)年度4月から2015 (H27)年度3月までの3年間 現像済み 黒化銀像のみ残る 宮川一夫撮影監督(1908-1999、京都生) 代表作:大映京都『無法松の一生』(1943、稲垣浩) 『羅生門』(1951、黒澤明) 『雨月物語』(1953、溝口健二)*溝口作品多数 『おとうと』(1960、市川崑)*銀残し 撮影台本は、第1回作品『お千代傘』(1935、日活、尾崎純)から 最終作『舞姫』(89、篠田正浩、ヘラルド)までの135作品中、 109作品総計283点あり。 3 2-2.デジタルシフト下の危機的課題 撮影監督宮川一夫アーカイブ・プロジェクト デジタル化資料 ①宮川一夫書き込み撮影台本 2013年度 ⇒デジタル化した撮影台本 日活株式会社、株式会社 KADOKAWAが著作権所有の作品 から、60冊(60作品)。 デジタル化仕様 : ナカバヤシ 画像スキャニング:カラー、300dpi以上、画素の保間は不可 8bit非圧縮、 RGB-TIFFファイル 4620ファイル 冊子単位のPDF 60ファイル 画像のゆがみ、傾き、汚れは補正 資料:解綴は極力行わない。 修復:破損、亀裂、しわ、セロハンテープの剥離作業 2-2.デジタルシフト下の危機的課題 撮影監督宮川一夫アーカイブ・プロジェクト デジタル化資料 ②カット尻等のフィルム断片貼り込み撮影台本 2015年度 ⇒デジタル化した/中の撮影台本 オリジナルネガの存在しない作品中、 (株)KADOKAWAが著作権所有の作品から、18冊(18作品)。 デジタル化コンセプト ・オリジナルネガの保存 →撮影後、別保存 ・撮影台本へのネガ貼り込み箇所を極力明らかにする ⇒オリジナルネガを紛失した作品はすべてデジタル化する *予算、デジタル化方法、作業期間の設定 作業:イマジカウェスト ピクセル設定:4608×3456 2-2.デジタルシフト下の危機的課題 撮影監督宮川一夫アーカイブ・プロジェクト 『刺青』(1966,増村保造) 『とむらい師たち』(1968,三隅研次) 課題:著作権 フィルムと酸性紙の保存 オリジナル・ネガフィルム 混合媒体の活用に適したデジタル化の方法 フィルムを熟知した技術者の存続・育成=フィルム文化 4
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