77 - 日本放射線技術学会 東北部会

治療分野
座長集約
【治療計画装置における MU 値の検討】
- XiO, Eclipse, Pinnacle について青森県立中央病院 腫瘍放射線科
駒井 史雄 (Komai Fumio)
今回のテクニカルミーティングのテーマは,治療を初めて2~3年目の若手の方や他の部門から配属に
なった初心者の方々を対象に放射線治療に関して興味をもって貰えるように身近なMU値算出方法を選択
しました.
最近の放射線治療は,従来の放射線治療と比較すると格段に画像照合や治療装置の精度を細かく管
理し,日々QA/QCを行うといったような治療を行っています.また,保険点数の適用に伴い,強度放射線
治療(以下:IMRT)や画像誘導放射線治療(以下:IGRT)など高精度放射線治療が,より身近に受けることが
可能になってきました.そこで今回は,各学会等でQA/QCのような精度が問われる中で,患者にとって大
事な処方線量(MU値算出方法)の算出について,三種類(XiO, Pinnacle3, Eclipse)の治療計画装置(以下:
RTP)から算出される各パラメータからどのような方法で導き出され,MU値が算出されているのかを理解した
上でRTPを扱うことが大事になってくるのではないでしょうか.そこで,青森県立中央病院の浅利さんには,
RTP-XiOの基本的なクラークソン法のMU値の導き方について, 大館市立病院の工藤さんには,
RTP-Pinnacle3のSuperposition法のMU値の導き方とアルゴリズムの説明について,岩手医科大付属病院
の土屋さんには,RTP-Eclipseのペンシルビームコンボリューション(以下:PBC)法のMU値の導き方とアリゴ
リズムについて,お話していただきました.
今回のテクニカルミーティングにおいて,三施設のRTPが,どのようなビームデータを使用し,MU値が算
出されているのかを十分に理解して貰えたかと思っております.日々患者に対して,照射を行なっている
我々(診療放射線技師)が,今回学んだことを念頭におき,安全で安心な放射線治療を行なっていってもら
えれば幸いと思っております.また,三人の方のMU値算出方法が,今後各施設でのMU算出方法に少し
でもお役に立てればと考えております.最後ではありますが,今回話題を提供してくださった浅利さん,工
藤さん,土屋さんに感謝し御礼申し上げます.
XiO MU Calculation
青森県立中央病院 腫瘍放射線科
浅利 一哉 (Asari Kazuya)
【はじめに】
モニタユニット値(以下MU値)は、患者処方線量を決定するのに重要な因子であり、現在は治療計画装
置(以下RTPs)を用いてMU値の算出を行っている.
しかし、MU値を算出する際のパラメータや線量計算アルゴリズムは、それぞれのRTPsで特有のものが用
いられている.そこで今回は、RTPs-XiOのMU計算パラメータと線量計算アルゴリズムについて検討したの
で報告する.
【アルゴリズム】
XiOのアルゴリズムにはClarkson、Convolution、Superposition、Fast Superpositionの4つがある.今回は
Clarkson法を用いてMU計算などの検討を行った.
【Clarkson】
1. Clarkson法について
Clarkson法は実測したデータを用いる実測ベースのアルゴリズムで、1次線と1次散乱線を線量分布と
し、2次以降の散乱成分は考慮していない.また、密度の異なる物質に対しての計算精度は低いが、均
質な物質に対しては計算精度が高い.
2. 線量分布、MU計算に用いられるデータ
実測深部量百分率(PDD)、ファントム散乱係数(PSCF、Sp)、実測軸外対角比(OCD)、全散乱係数
(TSCF、Scp)、コリメータ散乱係数(CSCF、Sc)、ウェッジファクター(WF)などがある.実測PDDとPSCFは組
織ファントム線量比(TPR)を算出する際に用いられる.TPRを算出する計算式は以下のとおりである.
TPR(d,rd) = [PDD(d,r,f)/100]×[Sp(rd0)/Sp(rd)]×[(f+d)/(f+d0)]2
rd : 深さdでの照射野サイズ
r : 表面での照射野サイズ rd0 : 基準深での照射野サイズ
d0 : 基準深
f : 線源-表面間距離
実測OCDは照射野内の分布形状を作る際に用いられる.
TSCFとCSCFはPSCFを算出する際に用いられる.
3. 等価正方形照射野の算出法
Jawコリメータ等価正方形はA/P法を用いて算出される.計算式は以下のとおりである.
等価正方形照射野一辺 = 4×(面積/周囲長)
MLCによる等価正方形照射野はBjarngardの式を用いてClarkson積分法により算出される.計算式は
以下のとおりである.
R = 0.5611s
R : 等価円半径 s : 等価正方形照射野一辺
4. 実効深の算出法
Clarksonは不均質補正としてRatio TAR法が用いられている.
式は以下のとおりである.
Ratio TAR = TAR(d’,Wd)/TAR(d, Wd)
d1, ρ=1
TAR : 組織空中線量比
Wd : 深さdの照射野サイズ
d2, ρ=ρe
d’ : 不均質補正考慮の実効深
d’は次のように算出される.
d3, ρ=1
d’ = (d1×ρ)+ (d2×ρe)+ (d3×ρ)
Fig.1 不均質物質を含んだ実効深
【MU計算式】
XiOのMU計算式は以下のとおりである.
MU=(Dose/Fra)/[DoseOutput×TXR×(PSCF(0)/PSCF(ec))×other factor] ・・・・(1)
DoseOutput=D×Scp(ec) ・・・・(2)
TXR=[TPR(deff,bes)×PSCF(bes)]/PSCF(0) ・・・・(3)
other factor=(SCD/SWD)2×CF×WF×TF ・・・・(4)
Dose : 処方線量
Fra : 治療回数 PSCF(0) : 0照射野におけるファントム散乱係数
PSCF(ec) : Jawコリメータ等価正方形照射野におけるファントム散乱係数
D : 照射野10cm×10cmでのモニタ単位数あたりの吸収線量
Scp(ec) : Jawコリメータ等価正方形照射野のおける全散乱係数 TPR : 組織ファントム線量比
PSCF(bes) : MLC等価正方形照射野におけるファントム散乱係数 SCD : 線源校正点間距離
SWD : 線源ウェイト点(計算点)間距離 (SCD/SWD)2 : 距離の逆二乗補正係数
CF : 補償フィルタ係数
WF : ウェッジ係数
TF : トレイ係数 deff : 実効深
ec : Jawコリメータ等価正方形照射野
bes : MLC等価正方形照射野
【DoseOutput、TXRの検証】
DoseOutput計算式(2)とTXR計算式(3)が正しいかどうかを検証した.
1. DoseOutputの検証
XiO で 均 質 フ ァ ン ト ム 上 に 実 効 深 10cm 、 Jaw コ リ メ ー タ 照 射 野 サ イ ズ を そ れ ぞ れ 5cm×5cm 、
10cm×10cm、10cm×5cm、20cm×20cmを設定しMU値を求め、各照射野のXiOが算出したDoseOutput
と手計算により算出したDoseOutputを比較した.手計算で用いたScp(ec)は測定データから多項式を求
め、それぞれの等価正方形照射野を多項式に代入して算出した.
①
②
③
④
Fig.2 TXR 計算式の検証に用いた MLC 形状
 結果
各照射野サイズで誤差が少なかった.このことから(2)式が正しいことがわかる.
Table 1 XiO と手計算での DoseOutput の値と誤差
XiO
Calculation
Error (%)
5×5
0.769
0.769
0.00
10×5
0.801
0.802
0.12
10×10
0.848
0.848
0.00
20×20
0.915
0.915
0.00
2. TXRの検証
XiOで均質ファントム上に実効深10cm、Jawコリメータ照射野サイズ10cm×10cm、4種類のMLC照射
野(Fig.2)を設定しMU値を求め、各照射野のXiOが算出したTXRと手計算により算出したTXRを比較した.
手計算で用いたPSCF(bes)は測定データから多項式を求め、それぞれのMLC等価正方形照射野を多項
式に代入して算出した.
 結果
各照射野で誤差が少なかった.このことから(3)式が正しいことがわかる.
Table 2 XiO と手計算での TXR の値と誤差
XiO
Calculation
Error (%)
①
1.407
1.408
0.07
②
1.383
1.386
0.22
③
1.396
1.397
0.07
④
1.422
1.423
0.07
【MU計算時の注意点】
TSCFとCSCFの測定は基準深(大抵は10cmまたはピーク深)で行うが、両係数の測定深を基準深と一致
させなければならない.例えば基準深を10cmとした場合、両係数の測定深を10cmとし測定をする.片方、
または両方の測定深をピーク深で測定してはならない.測定深と基準深が一致していない場合は、両係数
を用いて算出するPSCFやPSCFを用いて算出するTPRが間違った値となってしまい適切な計算ができな
い.
また、基準深をピーク深とした場合、TPRは組織最大線量比(TMR)となる.
【XiO-MU計算式のまとめ】
(2)、(3)式とPSCFをSpに置き換えられることから(1)式が
MU=(Dose/Fra)/[(D×Scp(ec)×TPR(deff,bes)×Sp(bes)×Sp(0)×other factor)/(Sp(0)×Sp(ec))]
となり、さらにScp(ec)をSc(ec)とSp(ec)に分離し、Sp(0)とSp(ec)を消去すると上記の式は
MU=(Dose/Fra)/[(D×Sc(ec) ×Sp(bes)×TPR(deff,bes)×other factor]
となる.これはSc、Sp、TPRなどを用いた一般的なMU計算式となる.XiOのMU計算式もこのような一般的
な計算式を用いていることがわかる.
【まとめ】
Clarksonは実測データを用いる実測ベースのアルゴリズムであるので、Superpositionなどとは異なり今
回のように自分自身で検証が可能となっている.
またXiO-MU計算式はXiO特有のパラメータを用いているが、基本形は一般的なMU計算式と変わりは
ないことがわかった.
【参考文献・図書】
1) 放射線治療における誤照射事故防止指針.日本放射線技術学会出版委員会.59-60,2003
2) 金子勝太郎,他 : 放射線治療技術の標準.品質保証・品質管理(治療計画装置).日本放射線治療専
門技師認定機構監修.261-262,2007
Pinnacle3 について
- Convolution/Superposition 大館市立総合病院 放射線科
工藤 淳 (Kudo Jun)
【はじめに】
Pinnacle3で用いられている線量計算アルゴリズムはモデルベース計算法のConvolution/Superposition
法である。今回、Convolution/Superposition法とMU計算に関するパラメータの概要について説明した。ま
た、Pinnacle3で計算されたMU値が不均質を考慮しているかについて不均質ファントムを用いて検証した。
【線量計算アルゴリズムとビームモデリング】
1. Convolution/Superposition法
線量計算アルゴリズムは測定ベース計算法とモデルベース計算法に大別され、測定ベース法には
Clarkson法、モデルベース法にはConvolution法とConvolution/Superposition法があり、Pinnacle3ではモ
デルベース計算法のConvolution/Superposition法が用いられている。測定ベース計算法では、水ファン
トムを用いて測定された線量データを直接参照して線量分布を積算するのに対し、モデルベース計算
法では、線量分布には実測ビームデータは用いず、治療計画装置で確立されたビームモデルにより線
量計算が行われる。また、Clarkson法やConvolution法では体内の不均質による散乱線の密度補正が十
分に考慮されないが、Convolution/Superposition法では1次線と散乱線の不均質を考慮した線量計算
が行われる。
Convolution/Superposition 法 で は 、 TERMA(total
energy released per unit mass)とKernel(カーネル)に
より線量計算が行われる(式1)。Fig1に示すようにボ
クセル点P′から点Pに寄与する吸収線量D(r)は、
点P′でのターマとカーネルを重畳積分することによ
り得られる。このようにして、すべての点から点Pに寄
与される吸収線量を求め、それを総和することにより
Fig. 1 Convolution/Superposition の概念図
点Pでの吸収線量が求まる。
D(r)=ʃV μ/ρ(r′)Ψ(r′)・K(r-r′)dV ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ (1)
μ/ρ(r′)Ψ(r′):TERMA , T(r′) 、 K(r-r′):Kernel
TERMAは一次光子が相互作用点で放出する全エネルギーで、質量減弱係数とエネルギーフルエン
スの積で表される。モデリングにより得られたフルエンスが考慮された連続スペクトルをエネルギー成分
ごとに分割し、各エネルギー成分に質量の減弱を考慮させた放出エネルギーを計算する。そして、全て
のエネルギー成分の放出エネルギーを足し合わせることで連続エネルギーのTERMAが得られる。
光子から水に付与されるエネルギーの拡散パターンを、モンテカルロ法を用いて近似計算した散乱モ
デルの関数をKernelと言う。Pinnacle3ではエネルギーの違いにより散乱線の広がりも変わるため、その変
化に対応したマルチエネルギーカーネルが使用されている。あるエネルギーでのフルエンス比率とその
時のエネルギーにおけるカーネルのデータベースを掛け合わせ、総和したカーネルをマルチエネルギ
ーカーネルと言う。Convolution法では形状が固定のKernelを使用するため不均質部分を補正できない
のに対し、Convolution/Superposition法では密度変化による可変型の散乱計算を行うため不均質部分
も考慮された結果が得られる。
2. ビームモデリング
実測したPDD・OCRとPinnacle3がモデルをもとに計算したPDD・OCRの誤差を用いて、パラメータを修
正しながら各施設にある放射線治療装置のビーム特性に合わせこんだビームモデルを確立することを
ビームモデリングと言う。Pinnacle3ではPDD・OCRの測定のほかに、アウトプットファクター算出用のポイ
ント線量測定、線量トランスミッション算出用のポイント線量の測定、マシン出力キャリブレーショイン値算
出用のポイント線量の測定を行い、データの入力を行う。また、放射線治療装置の機械的な構造の入力
も必要である。OCR測定の一つにXとYのJawが5cm×20cmと20cm×5cmの測定があるが、このOCRのモ
デリングによりコリメータ反転効果を考慮した結果を得ることができている。ただし、Pinnacle3では上下絞
りによる分布の違いは考慮しているが、モニタ線量計への後方散乱の影響は考慮されていない。PDDや
OCRなどの測定データはPinnacle3で用意したスペクトルを修正して各施設のビーム特性に合わせこむ
ために用いるもので、線量計算には使用されない。
【Pinnacle3でのMU値計算】
式(2)にPinnacle3でのMU値計算式を示した。
MU=D(Prescription) / { ND・OFc・TTF・(DMU)cal } ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ (2)
1. D(prescription)=Dose at Reference Point/Fraction
リファレンスポイントにおける線量のことで手計算における処方線量に相当する。
2. ND (Normalized Dose at Reference Point)
リファレンスポイントにおける正規化線量と訳され、リファレンスポイントにおけるエネルギーフルエンス
当たりの線量値と校正深(10cm)でのエネルギーフルエンス当たりの線量値の比と定義されている。これ
を式(3)に示した。この計算で用いられる線量とエネルギーフルエンスはピナクルによって計算された値
で、それらの値によってNDは計算されている。NDは深さ10cmで正規化したTPR、OCR、逆二乗補正な
どの要素が含まれた深部関数的なパラメータである。
ND=(D/Ψ0)Prescription/(D/Ψ0)Calibration ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ (3)
(D/Ψ0)Prescription : リファレンスポイントにおけるエネルギーフルエンス当たりの線量値
(D/Ψ0)Calibration : 校正深(10cm)でのエネルギーフルエンス当たりの線量値
3. OFc
Pinnacle Collimator Output Factorと言うMU値計算に用いるPinnacle独自の補正係数で、MUの手計
算に用いる出力係数とは異なる。OFcは式(4)によって計算される。
OFc=OF/OFp ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ (4)
OF : 深さ10cmで実測した値から求めたOutput Factor
OFp : Pinnacleで計算されたOutput Factor
4. TTF (Total Transmission Factor)
トレー線量透過率と言い、手計算におけるトレーファクターに相当する。シャドートレーを使わずMLC
を使う場合は1になる。
5. (Dose/MU)cal=Calibration Dose
測定したポイント線量を設定MUで割った値である。測定条件は10cm×10cmオープン照射野、測定
深度10cm、SCD100cm、設定MUは200MUである。これは手計算におけるDMUに相当する。
【検証】
1. 方法
不均質ファントムを用いてPinnacle3で計算された線量と実測値の誤差を求め、不均質を考慮した結果
が得られているかについて検証した。ファントムは固体ファントムを用い、Fig.2のように水、肺、骨、空気
の4つのモデルを作成した。そして深さ11cmを評価点とし投与線量の誤差を測定した。この時のMU値は
ピナクルで200cGyに設定して得られたものを使用した。
Fig. 2 ファントムの配置と評価点
2.結果
4MVX線、10MVX線のいずれにおいても誤差が1%未満であった(Table1,2)。
Table 1 4MVX 線での RTPS と実測値との誤差
ファントム 照射野 算出MU RTPS
(cGy)
5×5
337
200.0
水
10×10
290
200.2
20×20
258
200.3
5×5
282
200.2
肺
10×10
253
200.3
20×20
229
200.0
5×5
349
200.0
骨
10×10
300
199.7
20×20
266
199.6
5×5
283
200.3
空気
10×10
252
199.9
20×20
231
200.3
実測値
(cGy)
200.8
200.7
201.0
201.9
201.9
200.3
200.0
198.5
199.6
200.0
199.6
200.8
誤差
%
0.40
0.25
0.35
0.86
0.82
0.17
0.00
-0.62
-0.02
-0.15
-0.18
0.22
Table 2 10MVX 線での RTPS と実測値との誤差
ファントム 照射野 算出MU RTPS
(cGy)
5×5
271
200.0
水
10×10
245
200.2
20×20
226
199.8
5×5
242
200.0
肺
10×10
223
200.4
20×20
209
200.1
5×5
278
200.0
骨
10×10
251
200.0
20×20
232
200.3
5×5
244
200.0
空気
10×10
226
200.3
20×20
211
199.8
実測値
(cGy)
200.5
201.1
200.6
198.6
199.6
199.7
198.1
198.5
199.1
198.7
201.3
200.6
誤差
%
0.25
0.42
0.39
-0.71
-0.38
-0.21
-0.95
-0.75
-0.60
-0.66
0.48
0.40
【まとめ】
Convolution/Superposition法では体内の不均質だけでなく、頭頸部でみられる入射面や乳房温存照射
野での組織欠損を考慮したMU値計算も行われるため、そういった特徴を理解した上で手計算によるMU値
と比較検証しなければならない。また、MU値計算ではNDやOFcなどPinnacle独自の深部関数や補正係数
があるため、それらを理解し手計算によるMU値検証に臨むことにより誤照射事故防止にもつながると考え
た。今回の検証結果から、Convolution/Superposition法では不均質を考慮したMU値が得られていることを
確認できた。
【参考文献】
1) 日本放射線技術学会
監修:放射線治療における誤照射事故防止指針
.pp.48-49,pp.55-56,
日本放射線技術学会出版委員会,(2003).
2) 金子 勝太郎:放射線治療技術の標準.日本放射線治療専門技師認定機構(監修).pp.263-268,日
本放射線技師会出版会,(2008).
ECLIPSE PBC Algorithm
- 線量分布作成と MU 値計算 岩手医科大学附属病院 中央放射線部
土屋 匠 (Tsuchiya Takumi)
【はじめに】
Eclipseの線量計算アルゴリズムは、PBCアルゴリズムとAAAの2つが実装されている。今回、PBCアルゴリ
ズムについて線量分布作成とMU値算出の方法についての概要を解説する。
【線量分布作成】
1. PBCアルゴリズムの流れ(Fig.1)
Elipseの線量分布作成は3つのStepに分けられている。
Step1 : SSD100cm,均質な水等価媒質中の5つのスタンダード
デプス平面(dmax,5cm,10cm,20cm,30cm)においてコン
ボリューション処理を行う。スタンダードデプス間につい
ては補間処理を行い、線量分布を作成する。
Step2 : Step1 で 作 成 し た 線 量 分 布 を 実 際 の 治 療 距 離
SAD100cmへ移動。
Fig.1 Step1~3
Step3 : 皮膚面の斜入、不均質を補正。
2. 各Stepの詳細
① Step1
i) 重畳積分(コンボリューション)処理
各スタンダードデプスの平面を2.5×2.5mmのマトリックスに分割し強度分布(a)を割り当てる。その
マトリックスにPBCカーネル(b)をコンボリューションし、各マトリックスのコンボリューション値が計算さ
れ平面での線量分布となる。
(a)強度分布・・・・・・オープンの部分には1、MLCまたはBlockの部分にはトランスミッションファクタ
ー、Jawの部分には0の値としたもの。
(b)PBCカーネル・・・一般的なカーネルというのは光子の反応点周囲の3次元的な吸収線量分布
のことであるが、Eclipse内のPBCカーネルのデータは各スタンダードデプス
の反応点から半径方向へ0.25mm間隔の数値データで表されている。それ
は二次元的(平面)な分布である。
ii) 実効軸の決定
10cm深平面においてコンボリューション値が最大になるマトリックスを通る軸と定義。
iii) 等価正方形サイズの決定
10cm深平面の最大コンボリューション値をもとに、コンボリューション値が同じとなる中心軸上の等
価正方形サイズを求める。
iv) 実効軸上の線量の決定
実効軸上の線量は中心軸上の等価正方形の線量と実効軸上の深部線量比、ファントム散乱係数
比の積で計算される。
Da(z;F)=Dm(z;A)×CM(z)×((PSF(A)/PSF(XY))
Da(z;F) : 実効軸上の線量
Dm(z;A) : 中心軸上の等価正方形の線量(ビームデータとして登録)
PSF(A)/PSF(XY) : ファントム散乱係数比(等価正方形のPSF/不整形照射野のPSF)
CM(z) : 実効軸上の深部線量比
CM(z)の求め方 : まず各スタンダードデプスでの等価正方形の中心軸上のコンボリュー
ション値に対する不整形照射野の最大コンボリューション値の比を計
算。次に各スタンダードデプス間の深部線量比をファンラインに沿って
直線補間により求める。
v) 実効軸と任意点のコンボリューション値の比(以下Off effective-axis Ratio:OeAR)の決定
各スタンダードデプスで最大コンボリューション値に対する任意点のコンボリューション値の比を計
算。任意の深さのOeAR値はファンラインに沿って直線補間して計算。
vi) 線量分布作成
上記の過程から求めたデータより、下記の式で任意点の線量を計算。
任意点線量(D)=実効軸上の線量(Da)×OeAR
② Step2
Step1で作成した線量分布を実際の治療距離のSAD100cmへ移動。Mayneord’s F factor使用
③ Step3
入射皮膚面の湾曲や不均質を補正
任意点線量(D)=実効軸上の線量(Da)×OeAR×Co×Cinh
Co:皮膚の斜入補正係数 TMR比と距離の逆二乗則を使用
Cinh:不均質補正係数
EclipseではGeneralized Batho Power Law,Modified Batho Power Law,Eq TAR の3種類の方法があ
り、基本的にファンラインに沿って各グリッドの電子密度比から補正係数を計算。
【MU値算出】
1. EclipseのMU値の計算式
MU=((PreDose/Fraction)/TMR(at isocenter))×OPF×TMR(d=10cm,Ajaw)
×(Prescribed Dose/Plan Normarization Value)
Pre Dose : 処方線量[Gy] 、Fraction : 治療分割回数
TMR (at isocenter) : isocenterのjaw sizeの等価正方形のTMR
OPF : Dose rate table [MU/Gy] depth=10cm
TMR(d=10cm,Ajaw) : depth=10cmのjaw sizeの等価正方形のTMR
Prescribed Dose(%) : 処方線量 、Plan Normalization Value(%) : 正規化した線量
TMR(d=10cm,Ajaw)はTREATMENT PLAN REPORTに非表示のためTMR表から値を参照
2. 計算式の確認(2つのフィールドの比較)
Jaw size 30×30cm² と Jaw size 30×30cm²にMLC(6×6)をいれたもので比較 (Table 1)
Table 1 2 つのフィールドの条件
PreDose
Jaw size(cm)
MLC
TMR
Fraction
(Gy)
OPF(MU/Gy)
Prescribed
Plan Normarization
Dose(%)
Value(%)
TMR(d=10cm,Ajaw)
(at isocenter)
30×30
none
1.0
1
0.970
105.6
0.877
100.0
100.1
30×30
6×6
1.0
1
0.970
105.6
0.877
100.0
94.0
結果
2つの照射野は同一Jaw sizeのためTMRはどちらも同じ値。違う項目はPlan Normalization Valueのみ。
(Table2)
Table 2 計算結果
Eclipse 算出
Jaw size(cm)
MLC
MU
計算結果
30×30
none
95
95.38
30×30
6×6
101
101.56
【まとめ】
線量分布作成
・ コンボリューション処理はスタンダードデプスのみで行い、その他は補間と比で作成される。
・ 実効軸上の線量は、中心軸上の等価正方形の線量を用いて計算している。
MU値計算
・ Jawサイズの出力を計算し、MLCによる出力の減少分をPlan Normalization Valueで持ち上げている。
【参考文献・図書】
1) 放射線治療における誤照射事故防止指針 社団法人日本放射線技術学会出版委員会