最期まで家で過ごせないのはなぜ?-在宅緩和ケアご遺族の声から考える- 爽秋会岡部医院 相澤 出 がん医療フォーラム2012 第2部 患者と家族の視点から考える地域の緩和ケア 2012年11月11日 本報告のテーマ、課題、論点 最期まで家で過ごせないのはなぜ? ・在宅緩和ケアの先駆的な地域でのケアの試み ー 在宅緩和ケアご遺族の声から考える ー ・実際のご自宅でのケアの様子 ・充実のケアでもなぜ中断? 医療法人社団 爽秋会(岡部医院) 附属 東北死生学研究所 主任研究員 相澤 出 ふくしま在宅緩和ケアクリニックの概要 医師 2名 看護師 5名 ケアマネジャー(MSW) 2名 事務員 2名 福島市に開業して五年目。 在宅緩和ケアを専門とする在宅療養支援診療所。 介護面やリハビリ、その他さまざまなニーズに 地域内の他事業所と連携しながら24時間対応。 開院以来、343人の患者さんを最期まで在宅でケア。 (2007年10月~2012年9月) がん患者:279人、それ以外の患者:64人。 がん患者のうち271人は最期までご自宅で過す。 → ご遺族調査の調査結果の示唆するところを考える 在宅の先駆的試みがなされてきた地域のひとつとしての宮城県 宮城方式: 多様で個別性の高い患者と家族のニーズに対応する ためにチームケアを重視。 患者と家族の生活を支え、自宅でも高いQOLを実現するため 医療職だけでなく、多様な職種が連携。 地域内でも日々のケアでの協力はもちろん、勉強会などを定期 的に実施し、ケアの質の向上のために情報を交換するなど、連携 の緊密化を進める(例示した福島の診療所も、こうしたケアの方 向性を共有。定期的に宮城県内の在宅療養支援診療所と緩和ケア の勉強会を共催)。 事例紹介: 大木さん(仮名)、70代男性 ご病気: 胆管がん・転移性骨腫瘍 同居家族: 妻(70代女性)と長男(40代、会社員) ご遺族調査より:60代男性から 診療所の看護師さん、先生には大変お世話になりました。あり がとうございます。病院から、在宅をすすめられた時は、大変シ ョックでした。見離された思いが強く感じられました。しかし、 それは、見離されたのではなく、患者にとってベストな道を、示 して下さったのです。 在宅介護は、3週間でしたが、毎日が、すごい充実感でいっぱ いでした。3人の子供達も、子供の頃の話しなど、自分が子供で まったく知らなかった事などを、たくさん、母親本人の口から聞 かせてもらい、濃密な日々だったと思います。その日数が長いか 短いかは、問題にならない程、すばらしい日々を過ごせました。 体と心と家族までもケアして頂いた事は、最高の感謝です。 経過: 胆管がんと診断され、一ヶ月間ほど入院。その間、放射線 治療を受ける。 その後、病状の説明を受け、在宅緩和ケアの利用をご本人と妻が 希望される。 退院後、約二か月間ご自宅で療養生活し、ご自宅で亡くなる。 支援体制: 診療所スタッフ(医師、看護師、ケアマネジャー)のほか 薬剤師の訪問、訪問リハビリ、ヘルパー、訪問入浴等の利用あり。 このほかにも、ご近所や友人によるお手伝いなどの協力もあり。 → ケアスタッフは主介護者(妻)の負担軽減を心がける。 大木さんご自身は、自宅に戻り、お気に入りの趣味の部屋で療養。 趣味(古書のコレクション)を満喫するなど、充実した時間をすごす。 がん医療フォーラム2012『地域で支える 新しいがん医療のかたち』資料 2012年11月11日 - 1 - ひとり暮らしの患者さんの自宅でのケア ふくしま在宅緩和ケアクリニックの場合、2007年10月~2011年7月のあいだ、 患者総数202人のうち一人暮らしの方は20人(平均年齢は70.3歳) ※橋本孝太郎他「独居がん患者に対する在宅緩和ケアにおける介護状況」『緩和ケア』Vol.22 No.4、 374~378頁を参照。 → 患者さんだけでなく ご家族も積極的にケアする緩和ケア → 医療面だけでなく、介護や生活全般にわたるサポートを、 多職種(医師・看護師・薬剤師・介護スタッフ・ケアマネジャー (ソーシャルワーカー)・その他・・・)によるチームケアで実現。 たとえ自宅でのケアであっても、もはや家族による介護を前提にしない時代。 家族に無理をかけず、家族もケアされる在宅ケアへ。 ひとり暮らしでも安心できる自宅でのケア・支援のあり方へ。 ↓ これによって、同居するご家族が日中は留守である方や、 一人暮らしの患者さんでも、自宅での療養が実現可能に。 なお、最新の国勢調査の調査結果によると… 一般世帯数 5184万2千世帯 そのうち、最も多い世帯の形態は「単独世帯(ひとり暮らし)」 「単独世帯」の数は1678万5千世帯(一般世帯のうちの32.4%!) 介護負担の軽減への配慮など、医療にとどまらないサポートや 自宅での療養環境の調整への努力により、安心できる在宅へ。 ※総務省統計局、2011、『平成22年度 国勢調査 人口等基本集計結果 結果の概要』27、30頁 ⇔ にもかかわらず、在宅を中断されるケースも・・・。 なぜ? 在宅ホスピス遺族調査 調査の概要: 宮城県・福島県で在宅緩和ケアを手がける6つの在宅療養支援診療所 (宮城県内5か所、福島県内1か所)の協力を得て実施。 2007年1月から2009年12月のあいだに看取りを経験した家族(主介護者)に 対して質問紙郵送による全数調査。調査実施期間は2011年1月~3月。 → 総数1191のうち、575票を回収(回収率48.3%) この調査の中で、在宅緩和ケアの利用の継続・中断とその理由についてもう かがった。 ※ 調査の実施にあたり、公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団 2009年度研究助成をうけた。 ※調査の詳細は以下を参照『2011(平成23)年実施 在宅ホスピス遺族調査報告書』 2010~2012年度 科学研究費補助金「地域社会にみる死生観の現在に関する複合的研究」 研究代表者、諸岡了介 患者さんとご家族のトータルサポートによって 8割の方がご自宅で療養生活をおくられたとの回答。 自宅療養を中断された患者さんの意向。 これをご家族と比べてみると・・・ 自宅での療養の中断への意向はご家族の方が多め。 がん医療フォーラム2012『地域で支える 新しいがん医療のかたち』資料 2012年11月11日 - 2 - 在宅から病院・施設への切り替えの理由 そう思っていた ややそう思っていた 患者の容態を みていて不安 ど ち らでもない そう思っていなかった あまりそう思っていなかった 無回答 計 61.7% 6.2% 12.3% 19.8% 100.0% 55.6% 16.0% 14.8% 13.6% 100.0% 43.2% 16.0% 23.5% 17.3% 100.0% 39.5% 13.6% 23.5% 23.5% 100.0% 29.6% 22.2% 33.3% 14.8% 100.0% の利用順が回ってきたため 24.7% 27.2% 16.0% 32.1% 100.0% 医師や看護師からの強い勧 めがあったため 17.3% 32.1% 25.9% 24.7% 100.0% 周囲の人々が在宅の継続に 反対し、入院させる よ うに主 13.6% 25.9% 38.3% 22.2% 100.0% 経済的に継続が難しくなった ため 4.9% 16.0% 55.6% 23.5% 100.0% 介護に関して職場の理解や 協力が得られなかったため 3.7% 18.5% 46.9% 30.9% 100.0% が大きくなったため 本人が病院の方が安心と考 えたため 介護者の精神的・体力的な負 担が大きくなったため 緊急の時に、医師や看護師 が駆けつける のに時間がか かる ため 本人が自宅にいる と家族に 迷惑を かける と考えたため 予約していたホスピ ス病棟等 張したため 大木さんが亡くなった当日の看護記録より: 妻に対して、状態は更に低下しており、今日、亡くなる可能 性もあり、これから呼吸の変化も起きてくると考えられるなど の話を行う。 (遠方にいる)息子さんに連絡したほうが良いか?と。会わせ たい人がいれば早めに連絡した方が良いことをお話しすると、 すぐに連絡している。 長男さんは本日どうしても仕事があり、休むことが出来ない ようで、仕事に行かれる。妻が一人になるのは覚悟はしていた が、不安とのこと。不安な時には連絡をいただいて良いことを 話す。 本当に家に帰り良かった。あの人がやりたいように家でパソ コンや漫画のことが出来て、と話され涙ぐんでいる。 がん医療フォーラム2012『地域で支える 新しいがん医療のかたち』資料 2012年11月11日 - 3 - ご遺族調査より:60代女性から 義母が日一日と衰弱していく様は、辛く胸が詰まる想いでした が、生きたいという気持ちが力となり、お洒落に何度も美容室に も行きました。温泉にも行くことができました。また、大好きな 楽天のユニホームを着て(楽天VS日本ハム)の観戦も実現しまし た。 亡くなる前後は、息子が義母を抱っこして、娘がボロボロにな った口内を綺麗に拭いてくれました。 家族皆で大切な時を過ごすことが出来、翌日、そのまま眠る様 に…。 旅立った義母は、自分が逝く日は、花が咲き誇る季節がいいと 口ぐせの様に話しておりました。その日は、まさに、桜花爛漫の 時でした。 まとめにかえて ・在宅緩和ケアでは患者さんのケアはもちろん、ご家族への ケアも重視。 → 家族に任せきりにしない自宅でのケアへ向けた努力。 ・自宅でよい時間を過ごすことができたいくつかのポイント ― 病院と在宅側との連携 ― 退院のタイミング ― 在宅のケアの具体的なイメージがつかめていたこと (そのひとつとして身近な人の「口コミ」の力) ・自宅で患者さんとご家族が直面する難問としての「不安」 今後の課題 → この「不安」にどう向き合っていくべきか? がん医療フォーラム2012『地域で支える 新しいがん医療のかたち』資料 2012年11月11日 - 4 -
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