人材マネジメントの 求心力と遠心力 未来を想い考える 共想・知創 富士ゼロックス総合教育研究所 図1 雇用者数の推移(単位:千人) 5,477 10,237(▲973) 11,210 50代 11,319 40代 12,850 (1,531) 30代 12,762(▲609) 10,845 15,000 7,187(1,710) 60代以上 13,371 研究開発&コンサルティング部 コンサルティンググループ グループ長 平成 24 年 ( )内は増減 平成 19 年 9,575 (▲1,271) 20代 10,000 5,000 0 0 5,000 10,000 15,000 加部 雅之 日本国内では、少子高齢化など人口構造の変化や国内市場の縮 小が深刻な課題となっていますが、企業に与える影響も小さくあり 影響をもたらすのか、もう少し具体的に企業の視点から考えてみま した2011年の経済同友会の 「世界でビジネスに勝つ 『もの・ことづ ます。本来、変化を嫌う 「人」を変えていくためには、個々の所作振 しょう。 くり』を目指して」*3という報告書においては、新時代のリーダーを る舞いを規制するのではなく、様々な局面において一人ひとりが自 「プロデューサー人材」「ディレクター人材」と定義し、リーダーの ら判断し、行動できるための判断軸、すなわち組織の 「価値観」を あり方について提言をしています。プロデューサー人材として必要 強烈に浸透させる必要が出てきました。そこでは 「求心力」が求めら 前述のように、企業では50代にさしかかろうという年齢層が相 な素養は、多岐にわたる関連業務を把握し、部分ばかりではなく れます。また、技能をスムーズに伝承するためには、日頃から意識 対的に多くなっています。就職当時、日本経済は活況を呈していま 全体を見ることができること、また、多様な文化や歴史あるいは美 的にコミュニケーションをとり、「困った時は助けるよ」「わからな したから、誰もがいずれ管理職になることを疑わずに頑張ってきま 的価値を理解し“もの・ことづくり”への応用を考えられること。ディ いことがあったら聞いてね」 という一体感のある職場づくりが必要で した。ところが企業をとりまく環境の変化や、企業内の組織構造の レクター人材として必要な素養は、高い技術的専門性とコミュニ す。ここでも 「求心力」 を利かせたマネジメントが必要です。 変化によりその夢も儚くも消えかかっています。組織のスリム化で ケーション能力、実行力、およびチームリーダーシップであるとし ません。そうした時代背景のなか、「労働」「仕事」に対する価値観 や働き方も多様化しています。ここでは、 「人材マネジメントの求心 力と遠心力」と題して、これからの企業の人材マネジメントのあり方 について考えてみたいと思います。 1. 日本企業の人員構成の変化 ① 中高年層のモチベーション低下 「名ばかり管理職」 をおかなくなり、専門職に求められる要求も厳し ています。 ② 個に着目する人材マネジメント 政府の就業構造基本調査 によると、平成24年の雇用者 (役 くなりました。ただでさえポストが減るなか、優秀な若手に抜擢人 こうした人材を従来型の人材マネジメントの仕組みの中で発掘・ 員除く)は約5,353万人と、平成19年の5,326万人よりも増えてい 事で先を越され、上司部下の年齢逆転は珍しいことではなくなって 育成することは難しく、今後そうした人材になることが期待される いうものではないところに現在のマネジメントの難しさがあります。 ます。年齢構成的には図1のとおりとなっており、年代別の増減に います。そうした層では、企業の外にやりがいを求めるケースは、 (人 30代、40代の育成については、企業の経営者、人事部門の頭を たとえば前述のように、もう少し外に目を向けてほしい中高年層に は違いがあることがわかります。 生という観点からは)まだ健全なのですが、低いモチベーションの 悩ませる種となっています。 *1 *2 全体的に見ると、若年層(20代、30代) の労働力が減少しており、 ベテラン層(40代、60代以上)が増えているため、企業内でも労働 「愛社精神」「同期意識」 などの求心力が働き、社内に目を向け続け まま企業生活を送ることになるケースも多く見られ、深刻な問題と たり、逆に将来を担う次世代リーダーに 「遠心力」が働き、人材流 なっています。 出の危機が生じたりするといったパラドックスが発生することにな 者の高齢化が進んでいることがわかります。私は1967年生まれで すが、大学を卒業し就職したのは1990年、「バブル組」と呼ばれ、 実はこうした 「遠心力」「求心力」は、一律に働かせればよい、と ② 技能伝承の行き詰まり この頃の有効求人倍率は1.43でした。一方、1971年生まれ (卒 建設業界では2020年の東京オリンピック開催に向けて活況であ 業年1994年)は、いわゆる 「就職氷河期」と呼ばれる時代に突入し る一方、深刻な人手不足に悩まされていると聞きます。作業者が た時代です。1994年の有効求人倍率は実に0.64、就職したくて 高齢化する一方で、若手の従事者が少なく、中堅も層が薄いため、 もできない人が巷にあふれました。あれから約30年、そうした新 現場で必要とされる技能がうまく伝承されていないという問題に加 卒一律採用という日本独自の仕組みが招いた結果が図1です。企業 えて、経験不足の監督者・作業者によって引き起こされる品質問題 の中をのぞいてみると、ポスト不足に喘ぐバブル組(40代後半)に 3. これからの人材マネジメントのあり方 これまで見てきたように、様々な課題を抱えるなか、これからの 人材マネジメントはどうあるべきなのでしょうか? ります。つまり現代は 「群」の人材マネジメントでは通用せず、「個」 に着目した人材マネジメントが必要となっているのです。 昨今よく耳にする 「タレントマネジメント」を、日本企業の環境も 考慮しながら解釈するには、実はこうした背景があることを理解し ていなければならないのです。ここでいう 「タレント」とは、将来の ① 組織からの遠心力と、組織の求心力 幹部候補である。いわゆる 「Aクラス人材」に限定せず、「ビジネス プロデューサー人材のように、これからのリーダーは環境変化に 上の競争優位を生む人材」 と広くとらえます。対象者、場面ごとに 「求 など、企業経営の根幹を揺るがしかねない問題に発展しています。 伴う社会のニーズの変化に敏感でなければなりません。企業内の 心力」「遠心力」の両方を利かせながら 「個別に」マネジメントしてい 対して、次代を担う 「氷河期組」を含む30代から40代前半がすっぽ 組織内の人間関係も希薄になるなか、「俺の背中を見ろ」だけでは 論理で物事を考え、企業内の競争だけに目を向けていたのでは、 くことが重要なのです。 りと抜け落ちる、いびつな構造になっています。 人は育たないのです。 本当の競争に勝つことはできないのです。そうした面からも、社会 とのつながりを持ち、社会のニーズがどこにあるのに目を向ける機 ③ 次世代リーダー育成の難しさ 2.企業内で起こっていること こうした人員構成の変化が企業経営、特に人材面でどのような 12 グローバル環境でのビジネス展開が当たり前となってきた昨今、 ビジネスリーダーの定義が変わってきました。東日本大震災が発生 会を作るための 「遠心力」を利かせた人材マネジメントが必要になっ てきます。 一方で、企業には常に 「イノベーション」「変化」が求められてい *1 就業構造基本統計調査:5年ごとに実施、直近は平成24年 *2 雇用者:15歳以上の有業者から自営業者、家族従業者を除いた人数 *3 経済同友会2010年度 もの・ことづくり委員会提言書より。 もの・ことづくりとは 「こ れまでの強みであった、 日本にしか実現できない“ものづくり”(擦り合せ技術、高 い安全・安心水準)を強化して先端“ものづくり”領域における優位を確保すると同 時に、製品にサービスを加えて価値創造型の競争力強化を行うこと。 13
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