表情の瞬間的変化に対する生理反応

表情の瞬間的変化に対する生理反応
喚起された感情による影響
○上出桃子 1・大森慈子 2・大平英樹 1
(1 名古屋大学大学院環境学研究科・2 仁愛大学人間学部)
キーワード:表情の変化,瞬目,感情
Physiological response to a momentary change in facial expression
Momoko KAMIDE1, Yasuko OMORI2 and Hideki OHIRA1
(1Graduate
School of Environmental Studies, Nagoya University, 2Faculty of Human Studies, Jin-ai University)
平均瞬目率(/0.2s)
笑い条件
笑い条件
リラックス条件
リラックス条件
恐怖条件
恐怖条件
笑い表情
0.5
男性写真
女性写真
0.4
0.3
ターゲット
ターゲット
0.2
0.1
0
-1.0
0
1.0
2.0 -1.0
0
1.0
2.0
無表情
0.5
男性写真
0.4
女性写真
0.3
ターゲット
ターゲット
0.2
0.1
0
-1.0
平均瞬目率(/0.2s)
目 的
人には表情を認知する能力が備わっており,変化が瞬間的
でも認識することができる(織田ら,2005).反応時間以外に
も,瞬目が表情の認識過程を反映することが示されているが
(足立,1995),変化する表情に関しては検討されていない.
本研究の目的は,表情の瞬間的変化における認識過程を生
理反応から検討することであった.また,表情認知に影響す
る要因として,抱いている感情の効果についても併せて検討
した.
方 法
被験者:大学生 15 名(男性 6 名,女性 9 名)
,平均年齢 20.87 歳(範
囲 20-21 歳)であった.
実験条件:視聴する映像の内容によって,笑い条件,リラックス条
件,恐怖条件の 3 条件を設定した.
実験刺激:ATR 顔表情画像データベース DB99(2006)より選出し
た男女各 4 名の笑い表情,無表情,恐怖表情の表情写真を用いた.
合成率の異なる9枚の表情写真を0.04sずつ段階的に連続呈示して,
表情がターゲット表情に変化し,また戻るといった 4s の表情写真
ムービーを作成した.変化は 6 パターンあった.
実験課題:表情写真ムービーのターゲット表情に対し,笑いまたは
恐怖の表出程度を 11 段階で評定するものであった.
生理指標:瞬目(V-EOG)と心拍(ECG)を,ポリグラフシステム
を介して測定した.
実験手続き:映像を 5min 視聴した後,課題が行われた.注視点 1s,
表情写真ムービー4s,表情評定 8s,黒画面呈示 1s を 1 試行として,
48 試行が実施された.休憩を 2min はさみ,異なる条件の映像視聴
と課題が計 3 回繰り返された.条件および表情写真ムービーの呈示
順は,被験者ごとに異なっていた.
結 果
ターゲット表情呈示開始を基準として,呈示前 1.0s から呈示後
2.0s までを 0.2s ごとに区切って分析した.
Figure1 に,各ターゲット表情に対する瞬目時間分布を条件別に
示した.0.2s ごとに,条件(3)×ターゲット表情(3)×写真の性別
(2)の分散分析を行ったところ,ターゲット表情呈示後 1.0-1.2s
に,表情の主効果が認められた(F (2, 28) =5.99, p < .01).Tukey
の HSD 検定の結果(p < .05),笑い表情,恐怖表情と無表情
の間の差が有意であった.1.2-1.4s において,表情の主効果
がみられた(F (2, 28) =6.95, p < .01).Tukey の HSD 検定の結
果(p < .05),笑い表情と無表情の間に有意な差が認められた.
つまり,ターゲット表情呈示 1.2s 後では,笑い表情,恐怖
表情と比べて無表情に対する瞬目率が高く,呈示後 1.4s では,
笑い表情よりも無表情のときに増加した.
考 察
笑い表情や恐怖表情に比べ,無表情に変化したときの瞬目
率が,呈示 1.2s,1.4s 後において高かった.瞬目の増加は記
平均瞬目率(/0.2s)
Key Words: change in facial expression, eye blinks, emotion
0
1.0
2.0 -1.0
0
1.0
2.0
恐怖表情
0.5
男性写真
女性写真
0.4
0.3
ターゲット
ターゲット
0.2
0.1
0
-1.0
0
1.0
時間経過(s)
2.0 -1.0
0
1.0
2.0
時間経過(s)
Figure1. 各ターゲット表情に対する条件別の瞬目時間分布.
憶へのアクセスを反映するという報告があり(福田・松尾,
1999),変化前後の笑い表情と恐怖表情が感情価のない無表情
に対する判断に影響し,何の表情であったか思い出していた
ため,瞬目が増加したと考えられる.また,本研究では,表
情の認知に対する感情の効果は認められなかった.表情も感
情刺激であり,感情状態に影響したためと考えられる.
以上,本研究により,表情の瞬間的変化における認識過程
と生理反応の関係が示された.
引用文献
足立美奈子(1995).既知性及び表情が顔の認識過程に与える
影響について-反応時間と自発性瞬目を指標として-
東海女子大学紀要,15,275-32.
ATR-Promotions (2006). ATR 顔表情画像データベース DB99 ATR
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(2014 年 12 月 25 日)
福田恭介・松尾太加志(1999).記憶システムへのアクセス回
数と瞬目活動 生理心理学と精神生理学,17,169.
織田朝美・向田茂・加藤隆(2005).表情の瞬間的変化の認知
認知心理学研究,3, 1-11.