2014年3月18日 DAC における開発資金を巡る議論(ODA の譲許性と

2014年3月18日
DAC における開発資金を巡る議論(ODA の譲許性とは何か)
DAC 加盟国の ODA の速報値が発表される毎年 4 月上旬は、DAC が一年で最も注
目される時です。以前は、公表前に数値入手に向けたメディアの過熱取材が常態化
していましたが、最近では途上国への資金の流れ全体に占める ODA の量的比重の
低下もあってか、メディアの取材活動は静かになりました。発表方法も記者会見から
インターネット上へと変わっていますが、ODA 統計の番人という DAC の役割は引き続
き健在です。その一方で、この数年、統計の取り方に端を発し、ODA のあり方そのも
のを巡る議論が DAC 内で起こっています。
発端は、ドイツ、フランス、EU の ODA ローンの計上方法でした。途上国向けのロー
ンを ODA として計上するためにはいくつかの要件を満たす必要があり、その一つが
「譲許的性質を持つ」こと、具体的には「一般的な市場金利を下回る」こととされていま
す。これを「貸し手」(ドナー)から見るか、「借り手」(被援助国)から見るかという議論
です。
単純化すると、先進国 A 国はヨーロッパ市場で3%の金利で資金を調達でき、アフリ
カの B 国は7%で調達できるとします。この金利の差は、2 か国の信用の違いです。A
国が3%で調達した資金を5%で B 国に貸し付ける場合、A 国は2%の利ざやを得、B
国は自力で調達するより2%低い金利で借り入れられます(A 国の利ざや分は別の開
発援助に回されます。)。譲許性を「貸し手」の視点から見る国は、このローンの金利
は市場金利である3%を下回っておらず、譲許的ではないと考えます。つまり、ローン
の原資は市場から調達したもので国民の税金の投入がなく、ODA に該当しないと考
えるのです。それに対して、「借り手」の視点から見れば、B 国は自分で調達可能な資
金より低い金利で資金を調達でき、このローンは譲許的となります。A 国は税金こそ
使っていないものの、自国の信用を途上国に貸していると言えます。
日本の円借款には政府予算が使われており、どちらの視点から見ても十分に譲許
的なものです。それに対し、上述の手法は、ODA が生まれた約40年前には想定され
ていませんでした。ドイツ等はローンに技術協力を組み合わせるなど譲許性を高める
工夫を行ってはいますが、いずれにしても、「先進国が国民の税金の一部を途上国に
移転する」という単純な構図では捉えきれなくなってきています。
このような統計の問題に端を発し、そもそも現代の開発課題に即した ODA とは如何
にあるべきかという議論が昨年来 DAC で集中的になされています。加えて、ポスト20
15年開発目標では、貧困削減に加え、気候変動や治安等、開発に影響する様々な
側面が検討されていますが、先進国が ODA やその他のツールを活用してこれらの課
題に取り組めるよう、インセンティブを与える仕組みを作る重要性が指摘されていま
す。
さらに、今や途上国が受け取る資金において、民間投資、NGO・財団等の資金、送
金等の比率が高まっています。また、非 DAC 諸国の活動も盛んです。クウェート、ア
ラブ首長国連邦等、既に DAC 基準に従って ODA 統計をとっている国もありますが、
中国をはじめとする新興ドナーは、自らの開発協力は ODA とは一線を画するものと
規定し、額の把握さえ困難です。DAC では、これらの資金をどのように捕捉していくか、
技術的な検討と同時に政策的な観点からも議論を進めています。
DAC では、本年末までに「譲許的性質とは何か」について合意することを目指してい
ます。同時に、ポスト2015年開発目標に資する開発資金のあり方を提示したいと考
えています。3月上旬には DAC シニアレベル会合が開かれ、加盟国の政府高官がそ
れぞれの立場を表明しましたが、考え方が異なる部分も明確になってきており、年末
に向けて難しい交渉となりそうです。日本も既に政府部内での議論を本格化させてお
り、今後とも議論に積極的に参画していくつもりです。
(OECD 代表部参事官・DAC 副議長 岡野結城子)