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第7章
中国の国際協力をめぐって
1.中 国 の 国際協力の特徴
1.1
中 国の国際協力をめぐる論評
「新興ドナー」となった中国が、世界の資源、エネルギー、市場の急速な発展に危惧を
抱く人が増えてきているのは事実であろう。
しばしば指摘される論点は以下のとおり。
①中国の途上国に対する援助、特にアフリカに対する援助が急に増加してきた。
②中国からの援助はタイド(ひも付き)がほとんどであり、コンサルタントから一般労務
者までを中国から労務輸出するので、現地経済にプラスにはならない。また、援助案件
の中には、先進国の ODA の理念と異なるようなものもあり、公開の義務を負いたくない。
③ 中 国 は ODA を 受 け 入 れ る 資 格 を 持 つ 開 発 途 上 国 と 自 認 し て い る 一 方 で 、 OECD・ DAC
に参加せず、情報公開も不十分で不透明な面も多い。
④アフリカへの援助においては資源獲得が意識されていると思われる。また、アフリカで
は被援助国の経済発展に貢献する人材の養成といった側面と、中国政府の政策を支援す
る人材の養成といった2つの側面が際立っている。
これらの論点について少し補足すると、
①最近対外援助額が増加しているが、伸び率は、財政支出総額の伸び率とほぼ比例してお
り 、「 突 出 し て い る 」 程 で は な い 。 援 助 の 絶 対 額 は 、 1970 年 代 前 半 は 現 在 よ り は る か に
多かった。
中国 がア フ リカ の 経済 発展 を重 視 して い たの は 、1960 年 代 から で ある 。先進 国 は資
源確 保を 視 野に 入 れつ つ、アフ リカ に 対応 し てい たの で、貧 困、疫 病対 策が 遅 れた 。
②日本も戦後、被援助国から出発し、新興のドナー(援助国)に代わる過程では、同様の
政策を採用する時期が続いた。
③中国が関係国際機関等を通じて他のドナーと援助協調することは、開発目的を達成する
ためにも効率的であると思われる。
④エネルギー問題と環境問題は一体化しているので、資源の節約使用を進めるためには、
その技術とノウハウの共有が重要であり、国際協力、特に日本や韓国との環境対策・省
エネルギー対策への協力推進も不可欠である。
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1.2
中 国 の国際協力の視点
(1) 長 期 戦 略 の 堅 持
中国の対外援助政策は、過去を振り返ってみると、必ずしも安定していたわけでない。
1980 年 代 ま で は 、自 己 の 国 力 以 上 に ア フ リ カ 諸 国 な ど に 支 援 す る こ と に 、国 内 で も 批 判 が
あった。また、そもそも中国はまだ国内経済の発展を優先すべきなのに、どうして外国を
支援する必要があるのかといった中国国内での議論も根強い影響力を持っている。
だが、中国の対外援助政策が外交的に成果を収めてきたのも事実である。古くは中国の
国連復帰がその典型である。
このように中国の対外援助はしっかりした「国益」の堅持の下で、長期戦略を持ってい
る と い う こ と で あ る 。 そ の 要 因 は 、 第 1 に 中 国 政 府 と い う の は 、中 国 共 産 党 が 主 導 し 、そ
の政府の持つ基本的な性格を内包しており、常に地政学的な視点の中で優先されるべき取
り組み、方策がとられたものと考えられる。
第 2 に 中 国 は 、客 観 的 に お か れ た 外 交 的 、経 済 的 な 実 態 が あ る 。ア フ リ カ 諸 国 に 対 す る
援助の背景には、国連復帰等への対応がある。改革・開放政策が深化するに連れて、エネ
ルギー・資源の確保が大きな課題となってきた。それは経済の近代化、工業化を達成し、
開発途上国から先進国へ脱皮するという国家目標を達成する上で不可欠であった。
このように大きな国家目標の下で、外交戦略が決められ、それに基づいて対外支援、対
外協力が決められていく。これが国益である。国家の目標とは近代化であり、外交戦略は
資源確保、その重要な地域がアフリカである。アフリカは国家の数も多く、かつて欧州列
強の植民地であったという歴史的背景が中国と共通項を生み出している。
日本の対外援助は、援助のための援助、首相が訪問するときの「手土産」といった感覚
で見られてきたきらいがある。中国のように長期的な国家戦略をもって対外援助を展開す
るといった思考は大事である。
もちろん、これまでの中国のように、国益重視の対外援助では、地球規模で解決しなけ
れ ば な ら な い 課 題 に 対 処 し き れ る も の で は な い 。 た と え ば 、 地 球 温 暖 化 ( CO 2 排 出 規 制 、
砂 漠 化 阻 止 な ど )、資 源・エ ネ ル ギ ー の 節 約 、食 品 安 全 な ど な ど 、一 国 の 国 益 を 超 え た 課 題
については、関係各国と強調して取り組むことが肝要である。
(2) 人 材 養 成 の 専 門 グ ル ー プ の 結 成
実際に研修を担当する教師グループのみならず、それを実施アレンジ、補佐する教員も
専門化していることが事業実施において極めて重要である。事業ごとに担当者が、あちこ
ち専門家を探すのでなく、あらかじめ多くの専門家をプールしておき、教育、人材養成分
野 の 専 門 家 が 連 絡 、相 談 す る 仕 組 み は 、事 業 実 施 に 当 た っ て 効 率 的 で あ り 、成 果 も 大 き い 。
また、アフリカで実績ある専門家が、また別のアフリカの国に行けば、専門家同士がお互
いに研鑽でき、次の研修要請や問題解決にプラスとなる。
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2.援 助 協 調の可能性
2.1
林 毅 夫の世銀副総裁登用
援助効率を向上するために、ドナー間の援助協調が不可欠である。すなわち、中国が
OECD・DAC に 加 盟 し 、多 く の 案 件 、多 く の セ ク タ ー で 他 の ド ナ ー と の 援 助 協 調 を 行 え ば 、
開発効果が高く、効率的で、環境影響、社会影響が小さい事業実施に結実化することが期
待できる。
中国は既に二国間援助に加え、国際援助協力にも前向きな姿勢を見せている。その背景
となったのが、北京大学林毅夫教授を世界銀行副総裁兼世銀チーフ・エコノミストに登用
する人事である。
林 毅 夫 氏 は 台 湾 出 身 で あ る が 、 中 国 大 陸 に 渡 っ た 経 済 学 者 で あ る 。 農 業 、「 南 南 問 題 」
の専門家であり、胡錦濤主席、温家宝総理とも太いパイプを持っているとされる。林教授
を 登 用 し た ゼ ー リ ッ ク 世 界 銀 行 総 裁 は 、林 氏 と は 食 糧 、ア フ リ カ 、
「 南 南 問 題 」分 野 で 協 力
したいとしている。
また温家宝総理も、林氏登用を踏まえ、世界銀行との協力を一層進め、資金、技術、人
的資源の面で貢献するとしている。
以上のように、開発系の課題を担当する主要ポストを、中国出身の研究者が務める意義
は大きい。今後、環境、開発、人材育成などの分野で、世界銀行やその他のドナーが中国
側 の 指 導 者 と 意 見 交 換 す る 機 会 は ま す ま す 増 え る で あ ろ う 。 そ し て 恒 常 的 に DAC メ ン バ
ーと中国側指導者が、より効果の高い援助を目指して、援助協調に進んでいくことは間違
いないと思われる。
2.2
日 中 協力のさらなる高度化を 目指 して
日 本 は ア ジ ア で 唯 一 の DAC 加 盟 国 で あ り 、「 旧 」 ド ナ ー と 、「 新 興 」 ド ナ ー と の 懸 け 橋
になり得る存在である。そして日本と中国は、アジアの開発部門で共通の課題に取り組ん
できた。この日中が協調して第三国支援に取り組む意義は大きい。
2007 年 4 月 に 温 家 宝 総 理 が 訪 日 し た 際 に 、「 日 中 双 方 は 協 力 し て 第 三 国 に 援 助 を 提 供 す
る」ことを明言した。すなわち、いわば援助協調を実施することで、日中のトップレベル
は既に合意しているのである。
実 際 、 ア フ リ カ 担 当 者 会 議 で 、 日 中 は 「 協 調 し て ODA の 質 を 高 め る 」 こ と に 着 手 し て
い る 。今 後 、ア ジ ア や 世 界 で 援 助 事 業 を 成 功 さ せ る た め に 、日 中 間 で 援 助 協 調 す る 意 義 は 、
ますます大きくなると思われる。
また、日本と中国がともに開発途上国の人材育成に貢献できる可能性は低くない。環境
保護問題で両国が協力しているように、人材養成でも可能性はあると考える。語学研修で
はそれぞれ言語が違うので無理であるが、職業研修のプログラムでは協調はできる。農業
教育研修などでは、日中の専門家がそれぞれ専門のプログラムに参加し、お互いの得意な
分野を共同で研修させるのである。
日中両国の専門家がアフリカで人材育成に従事することは、両国の相互理解と相互信頼
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にプラスである。アジアの国々であれば、日中両国の国益やメンツがどうしても引っかか
るが、アフリカでは利害対立も薄いと考えられる。
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