2-6-15 扉の遮音性能に対する隙間部吸音処理の効果* ◎朝倉巧(東大・院)、坂本慎一(東大生研) 1 はじめに 窓サッシや可動パーティション周辺に生じ る隙間は遮音性能低下の要因となる[1,2]。既報 [3] において、単純隙間に対する吸音処理の効 果について 2 次元波動数値解析を用いて調べ るとともに実物大模型実験によって扉周辺に 生じる隙間に対する吸音処理の効果について 確認した。本報では、周辺隙間内部を吸音処 理した扉の遮音性能について 3 次元波動数値 解析を行い、実物大模型実験結果と比較した。 2 検討対象とした扉 Fig. 1 に赤丸で示す場所に片開き扉を設置 した。Fig. 2 の Elevation に示すように扉四辺 のうち、三辺に 3∼5 mm の隙間を作った。扉 は中密度繊維板(MDF、密度 530kg/m3)で製 作し、板の内部に Fig. 2、cross section A-A’お よび B-B’に示すようにグラスウール(G. W.、 密度 96kg/m3)を挿入するための空間を設け た。本検討では、G. W. の深さ d を変化させ た場合の影響について調べた。Table 1 に各条 件の G. W. 厚み d を示す。Case 0 は扉単体の 遮音性能を把握するための条件であり、現場 実験では隙間を油粘土で封じた。 3 3.1 解析の概要 3 次元 FDTD 法を用いて、隙間を含めた扉 の音響透過損失を解析した。Fig. 2 に示す扉 を Fig. 3 に示すようにモデル化した。音源側 および透過側の音場は、開領域を想定するた めに PML で囲った。扉の音響透過は、板の 曲げ振動解析と音場解析を連成することによ り考慮した。板の曲げ振動解析には以下の方 程式を用いた。 Glass wool panel 2000 D ∇ 4 w + ξD Outside the room Measurement point (Height: 1500) Ceiling height: 2400 door 4600 1400 Inside the room Ceiling height: 2700 8150 unit: [mm] Fig. 1 Plan of the measurement site. B Narrow gap G. W. (96 kg/m3) 770 2115 door A 48 A’ 30 d B’ Elevation Outside the room Cross section B-B’ d Inside the room ∂ 4 ∂ 2w ∇ w+µ 2 = p ∂t ∂t ( 500 1000 L. S. 数値解析による検討 Narrow gap G. W. (96 kg/m3) Cross section A-A’ Fig. 2 Elevation and cross section of the door. Table 1 Variation of the thickness of the G. W.. Case 0 Case 1 Case 2 Case 3 without gap d: 0 mm d: 15 mm d: 75 mm (1) ) ここで D は曲げ剛性( D = Eh 3 12 1 − γ 2 ) 、 E はヤング率、 h は板の厚み、 γはポアソン比、 w は垂直方向の変位、µは板の面密度、p は単 位面積に働く垂直外力、ξは MDF の内部損失 に関する係数である。本検討では 48 mm 厚の MDF を想定し、E=2.5×1010 N/m2 、 γ=0.5、 µ=25.4 kg/m2、ξ=7.96×10-4 を与え、板周辺は 単純支持とした。また、多孔質吸音材内部に は、Rayleigh モデルに基づいた減衰を与えた。 流動抵抗は G. W.密度 96 kg/m3 に対応した 50000 Ns/m4 を与えた。空間離散化幅 0.02 m (隙間部位のみ 0.005 m)、 時間離散化幅 3.125 ×10-3 ms としてインパルス応答を計算した。 音源としてFig. 1に示すように平面波を与え、 受音側において隙間を含んだ壁全体から放射 される音響エネルギーレベル LJ,t を求めた。 その際, 測定閉曲面上 13 点における音響イン テンシティを求め,それらを積分した。音源 側において壁全体に入射する音響エネルギー レベル LJ,s を別途算出し、LJ,t と LJ,s の差分を とることにより垂直入射透過損失を算出した。 3.2 解析結果 結果を Fig. 4 に示す。質量則から算出した TL を併せて示す。Case 0 は概ね質量測に従っ た。Case 1 では隙間が生じることによって、 * Effect of sound absorption treatment inside peripheral gaps of doors on sound insulation performance, by ASAKURA Takumi (Graduate school, the Univ. of Tokyo), SAKAMOTO Shinichi (I.I.S., the Univ. of Tokyo). 日本音響学会講演論文集 - 1043 - 2007年9月 500 3000 3000 500 780 Plane wave d Measurement surface 500 PML absorption layer (B) Cross section B-B’ 500 現場実験による確認 3000 3000 Narrow gap 500 3600 2120 Glass wool of 96kg/m3 density Plane wave 4.1 実験の概要 Fig. 1 に示した現場において、隙間の生じ た扉を挟んだ測定点間の特定場所間音圧レベ ル差、Dp を求めた。測定点は Fig. 1 に示す二 点である。室内においてラウドスピーカから 広帯域ノイズを放射し、室内および室外受音 点において測定された音圧レベルの差分とし て Dp を算出した。 4.2 実験結果 結果を Fig. 5 に示す。Case 0 に比較して Case 1 では、250 Hz 以上の帯域において遮音性能 が低下しており、5k Hz までの広い周波数帯 域における遮音性能が大きく低下する様子が みられる。この傾向は、Fig. 4 に示す解析結 果(Case 0 および Case1)においても同様に みられる。G. W. を設置した Case 1 および Case2 では 2 kHz 以上の帯域において、解析 結果と同様、10 dB 以上の遮音効果が得られ ている。さらに、1k Hz 帯域付近において、 Case 0 に比べて 15 mm 吸音した Case 1 では性 能が低下する様子がみられるが、G. W. 厚み d を増すことによって性能が向上する様子がみ られ、この傾向についても解析結果と同様で ある。 Vibrating plate Measurement surface Rigid surface Unit :mm Fig. 3 Cross section of the sound field for 3-D calculation. まとめ 片開き扉を対象として、扉周辺に生じる隙 間に対する吸音処理の効果について検討した。 3 次元波動数値解析を用いて、隙間内部を吸 音処理した扉の遮音性能を解析した結果、現 場実験結果と同様、吸音処理による中高音域 における遮音性能向上を確認した。 参考文献 [1] 須田他, “音響インテンシティ法によるサ ッシの部位別遮音性能の把握”, INCE/J 講 演論文集 109-112, 2003. 9. [2] 坂本他, “インテンシティスキャニング法 による間仕切壁の遮音性能測定”, 日建論 109-112, 2003. 9. [3] 崎本他, “スリット隙間の音響伝搬特性と 伝搬音低減のための吸音処理の効果”, 音 講論 717-718, 2006. 9. 60 Case 0 Case 1 Case 2 Case 3 Mass law 50 40 TL [dB] 4 (A) Cross section A-A’ 3000 遮音性能が低下しており、隙間長さ(48 mm) によって決まる共鳴周波数(2.5k Hz)におい てディップが生じた。Case 2 および Case 3 で は、吸音処理を施したことにより 1.6k Hz 以 上の周波数帯域において遮音性能が向上した。 Case 2 と Case 3 を比較すると、1.6k Hz 以上 の帯域では同程度の遮音性能が見られるが、 1k Hz 周辺において G. W. 厚み d を増すこと により(Case 3)遮音性能が向上した。 30 20 10 0 125 250 500 1k 2k Frequency [Hz] 4k Fig. 4 Calculated results of TL of door. 5 60 Case 0 Case 1 Case 2 Case 3 50 Dp [dB] 40 30 20 10 0 125 250 500 1k 2k Frequency [Hz] 4k Fig. 5 Measurement results of the Dp. 日本音響学会講演論文集 - 1044 - 2007年9月
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