FIAL 第 36 回フォーラム 2012 年 9 月 20 日 東ティモール-焦土からの復興そして開発へ 発表者 高岡淳二、星野和俊(共同報告) (1) はじめに 高岡は 2003 年 11 月から、星野は 2007 年 1 月から、それぞれ一年間、JICA 専門家として東テ ィモール大統領府に財政・金融顧問として勤務した。従って独立後間もない同国の状況をそれな りに調査研究したが、この程最新の資料を入手したので、この共同報告を行った。 (2) 主要データ (ア)国土: インドネシアの最東端、ティモール島の東半分。総面積は 14,900 平方キロメ ートル。 (イ)気候: 赤道直下に近く、雨季(11∼4 月)と乾季(6∼9 月)の区別があり、年間平 均気温はほぼ 30 度、一年中猛烈に暑く、雨季のスコールは激しいものがある。 (ウ)人口: 2010 年の国勢調査によれば、106.6 万人。 (エ)民族: 民族は大半がメラネシア系、その他ポルトガル人との混血と中国系。 (オ)平均年齢: 17.3 歳と大変若い国である。又平均余命は 60.2 歳。 (カ)公用語: ポルトガル語とテトゥン語。他に実用語としてインドネシア語と英語。 (3) 東ティモール略史 (ア)ヴァスコ・ダ・ガマのインド航路発見・開拓に続いて、ポルトガル人はマラッカ海峡 を経て、香料諸島に到着。東ティモールが発見されたのは 16 世紀の初め。 (イ) 第二次世界大戦当時、日本軍が占領・駐留。 (ウ) 1975 年 12 月、インドネシア軍が軍事介入・占領。背景には当時のベトナム陥落、イ ンドシナ諸国の共産化があり、東ティモールの左傾化を懸念した米国が暗黙の了解を 与えたとの通説。 (エ) 1991 年 11 月、サンタクルス墓地事件(インドネシア軍による無差別発砲事件)。この 事件を契機にインドネシアに対する国際的批判が高まる。 (オ) 1999 年 8 月、 「併合」か「自治・独立」かを問う直接住民投票。圧倒的多数で「自治・ 独立」を選択。併合派民兵による破壊・暴力行為が頻発、内戦状態に陥り、国連は東 ティモールへ多国籍軍を派遣(以後、国連の関与が続くが、2012 年末に国連の関与は 終了の予定)。 (カ) 1999 年 12 月、東京で第一回東ティモール支援会議。 (キ) 2002 年から二年間、PKO 活動として、自衛隊施設部隊が復興に貢献。 (ク) 2002 年 5 月 20 日「独立」。初代大統領シャナナ・グスマンが就任。 (ケ) 2006 年 4 月、軍・警察の間で衝突事件発生。この事件をきっかけにマリ・アルカティ リ首相の辞任に繋がったと推測している。ラモス・オルタが首相に就任。 (コ) 2007 年、大統領選挙の結果、ラモス・オルタが二代目大統領に就任。シャナナ・グス マンが首相に就任。 (サ) 2008 年 2 月、ラモス・オルタ大統領並びにシャナナ・グスマン首相襲撃事件。ラモス・ オルタは被弾したが、4 月に大統領職に復帰。その後、治安状況は、まず、安定して いる。 (シ) 2012 年 4 月の大統領決選投票で、シャナナ・グスマンが支持するタウル・マタン・ル アク(55 歳、本名:ジョゼ・マリア・バスコンセロス)が当選、5 月 20 日の独立記念 日に就任した。 同年 7 月の総選挙で、シャナナ・グスマンが率いる CNRT(東ティモール再建国民会議) が第一党となり、シャナナ・グスマンが引き続き首相に。 (4) 経済状況 (ア) 高岡、星野が現地に居た当時の GDP は 4 億ドル程度。国家予算は 2 億 5 千万ドル程度 であったが、国家予算の歳入は、二国間・多国間無償援助がその大部分を占め、国内産 業は細々とした自給・自足の農業しかなく、自前の歳入は輸入関税を中心に 4 千万ドル 程度に過ぎなかった(所得税は微々たるもの)。 (イ) まさに極貧国であり、全人口の半数は貧困ライン以下の生活を余儀なくされていた。 (莫大な資源収入と見間違えるばかりの財政・経済規模) (ウ) 高岡・星野の在勤時にも少額の資源収入はあったが、時恰もティモール海(東ティモー ルとオーストラリアの間に横たわる海域)での天然ガス開発が進んでおり、いずれこの 資源収入が国の経済に大きく寄与することが確実視されていた。 (エ) しかるところ、この度入手した各種資料によれば、石油基金(資源収入をこの基金に全 てプールし、国民議会の審議・承認を得て歳入に充当する)残高は 92 億ドルに達してい る。因みに、2010 年の GDP は約 6 億ドル、資源収入を含む GNI は約 27 億ドル。当時 と比較するとまさに様変わりと言う他、言葉はない。又、更に大規模な鉱床があるが、 開発は未着手。 (オ) 因みに、2012 年国家予算は何と 17 億ドル。その歳入の 9 割は石油基金からの充当とな っている。内、7 億 5 千万ドルがインフラ整備に充てられるとのことである。道路網(橋 を含む)が不備であること、電力や上下水道が不備であることから、インフラ整備に重 点を置くことは至極真っ当ではあるが、石油基金の取り崩しが過大ではないか。予算執 行能力が伴うのか。 (5) 東ティモールの課題 ① 日本の報道は、ほぼ治安問題に限られているが、元来民族対立は激しくなく、政治 的にも独立の英雄シャナナ・グスマン主導で安定化しており、以下の課題の解決に 期待したい。 ② この国は、5 世紀近くポルトガル、インドネシアに支配されて来ており、自前の統 治機構は皆無であった。従って、独立後 10 年の最大の課題は、Institutions Building (立法、司法、行政の確立)であった。この間、国連、世銀その他が手助けして来 たが、今年末に予定されている国連撤退後には自前での解決が大きな課題となる。 ③ 問題は、人口の 75% を占める農村・山村の貧困対策。国の中央を東西に貫く山脈群 の治山治水が遅れており、雨季には鉄砲水・洪水に見舞われ、農業灌漑に不備があ り、生産物の流通の為の道路網も貧弱、決済機能にも欠け農村・山村は貨幣経済の 外にある。 ④ 教育問題も大きな課題。現地語に加え、その歴史からポルトガル語、インドネシア 語、英語を話す世代に分かれており、学校教育・人材育成は困難に直面している。 ⑤ 新興資源国がややもすれば陥る「油の呪い」 「資源の呪い」も懸念材料。インフラ整 備に資金を使うのは正しい施策であるが、その過程で利権が偏り、貧富の差が拡大 し、職の無い若者の不満爆発が治安問題に繋がらないか、が懸念される。 (以上)
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