同性カップルでも「結婚に相当」の条例 案、なぜ生まれた?きっかけつくっ

執筆者: Chika Igaya
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同性カップルでも「結婚に相当」の条例
案、なぜ生まれた? きっかけつくった渋
谷区議に聞く【LGBT】
投稿日: 2015 年 02 月 17 日 08 時 03 分 JST 更新: 2015 年 02 月 17 日 11 時 20 分 JST
東京都渋谷区は、同性カップルに対して「結婚に相当する関係」と認める証明書を発行す
る条例案を 3 月議会に提出する。可決されれば、全国でも初めての制度となる。近年、性
的マイノリティ(LGBT)に対する理解を深めようとする動きが各地で活発化しているが、
同性婚を含めた法的な整備は、他の先進国に比べて議論も遅れている。
そこへ今回、渋谷区から発信されたニュースは全国を駆けめぐった。いまだ日本では法的
に婚姻関係を結べない同性カップルにとっては大きな一歩となる条例案、きっかけは
2012 年 6 月に開かれた議会での、一人の区議による質問だった。なぜ渋谷からこの条例案
が生まれたのか? 質問に立った区議、長谷部健さん(42)に聞いた。
■始まりは 2012 年 6 月の区議会で行われた質疑応答
僕の友人知人にも LGBT の人がいます。まあ全くもって普通だし、むしろいろいろな分野
でその感性が生かされ活躍しています。昔に比べてだんだんと市民権を得てきていますが、
国際都市の中では東京はこの分野ではまだまだ遅れをとっています。特に結婚ということ
ではいまだに意見が割れているというのが現実です。日本の法律でも結婚は認めていませ
ん。
そこで、渋谷区は、区在住の LGBT の方にパートナーとしての証明書を発行してあげては
いかがでしょうか。
2012 年 6 月の定例議会で質問に立った長谷部さんは、こう提案した。長谷部さんは、結婚
式場で同性カップルの挙式が断られたりすることや、法律で病院の ICU に家族しか入れ
ないために自分のパートナーの付き添いができない場合があることを説明。区がパートナ
ーとしての「証明書」を発行することで、同性のカップルも安心して暮らすことのできる
環境を整備してみては、と続けた。
提案に対し、桑原敏武区長はこう答弁した。
渋谷区では、平和国際都市として多様な方々を受け入れる中で、その中では LGBT の方々
も含めて、この方々を受け入れる共生社会でなくてはならない、このように思っている次
第でございます。
今日では、国においても平成十六年七月には性同一性障害の性別取り扱いの特例に関する
法律が施行されまして、家庭裁判所の審判により戸籍の性別変更が認められるようになっ
てきた、それも一つのこのステップかなと、このように思いますけれども、議員提案のこ
のパートナー証明の発行でございます。これが一体どういうような意味を持つのか、ある
いはこれを、難しいことを言うようでございますけども、自治事務の範囲内として考える
ことはできるのかどうか、その辺についても研究する必要があるだろうと、このように思
っております。
議会でのやり取りはさらに続く。1 年後、2013 年 6 月の定例議会でも、別の区議、岡田麻
里さんが証明書について質問。これに対し、桑原区長は「議員御提案のパートナー証明の
発行につきましては、国内法や国際法などの関係を考え合わせるとき、制約も大きく、検
討すべき課題が多くあると思いますけれども、今後、専門家の御意見等も聞きながら前向
きに検討してまいりたいと思います」と答えていた。
こうした議会での質疑応答などを経て、2014 年に渋谷区は有識者らによる検討委員会を
立ち上げた。当事者である区民からのヒアリングなどを行い、条例案をまとめた。渋谷区
によると、区内の 20 歳以上の同性カップルが対象で、互いを後見人とする公正証書や同
居を証明する資料を提出すれば、「パートナーシップ証明」を発行するという。区民と区
内の事業者に、証明書を持つ同性カップルを夫婦と同等に扱うよう求め、条例に反した事
業者名は公表するとしている。
■LGBT 当事者たちの悩みを聞いた区議が提案
条例案のニュースを見ながら、「やっとですね」と語る長谷部さん。渋谷区で生まれ育っ
た渋谷っ子だ。2002 年に博報堂を退社後、ゴミ問題に関する NPO 法人「green bird」を設
立。2003 年、区議に当選した。長谷部さんはなぜ、2012 年 6 月の議会で同性カップルを
対象とした証明書導入の提案をしたのだろうか?
「LGBT 当事者で、一緒に『green bird』の活動をしている杉山文野さんの話を聞いたり、
その仲間とも知りあうようになって、実情を知るようになったのがきっかけでした。彼ら
は『結婚もできないし』と悩んでいたので、だったら『証明書』を出してみたらとジャス
トアイデアで思いつきました。これなら戸籍制度などをいじる必要もない。それが当事者
の人たちの反応がとても良かったので、政策にしようと勉強を始めました」
もともと渋谷区は、LGBT に対する差別を撤廃して性の多様性をアピールするために毎年
開かれているイベント「東京レインボープライド」の舞台になるなど、LGBT についての
情報発信の拠点にもなってきた。
「渋谷区にも LGBT の方が多く住んでいますし、海外に行けば、彼らのあり方は普通のこ
とです。『人権、人権』と強く主張するというよりも、それが『普通』のことだという空
気にしたい。渋谷が国際都市であるというからには、まず渋谷からそれを実現したいと思
い、提案しました。それを区長や行政の人たちが受け止めてくれたことがうれしいですね」
■ダイバーシティとして、新しいカルチャーを渋谷から発信
長谷部さんが渋谷区で目指しているのは、ダイバーシティだ。
「2020 年には東京オリンピック・パラリンピックも開かれます。特にパラリンピックは
これまで、オリンピックほど注目されてきませんでしたが、ロンドン・パラリンピックの
ポスターでは、選手たちが手を差し伸べる対象ではなく、リスペクトの対象としてかっこ
よく描かれていました。
アテネ、北京、ロンドンのパラリンピックでマラソンに出場した高橋勇市選手も、ロンド
ンが最も声援が多くて走りやすかったそうです。成熟した都市の条件なのかもしれません。
また、日本人記者がプロテニスのロジャー・フェデラー選手に「なぜ日本のテニス界には
世界的な選手が出てこないのか」と聞いたところ、フェデラー選手は「日本には国枝慎吾
(車いすテニスプレーヤー)がいる」と答えたそうです。
世界がそういうふうに変わり始めています。それに乗り遅れてはいけない。渋谷区にとっ
ても、東京オリンピック・パラリンピックはチャンスです」
また、渋谷は新しいカルチャーを発信してきた都市でもある。「いろいろ深くも考えまし
たが、単純にその方が渋谷として、クールだよ、と思います」と長谷部さんは笑う。
「上海に旅行した時、『ヤバイ』と思った。21 世紀がそこにありました。勝ち負けじゃ
ないけど、世界でクリエイティブな街はどこかといえば、パリ、ロンドン、それから東京
が入ってほしい。でも、段々それが薄くなっている感じもしていました。少し前には、原
宿発、渋谷発のカルチャーがたくさんあった。竹の子族やロカビリー族、DC ブランド、
渋カジ、渋谷系音楽、コギャル。でも最近はそういうブームがない。
街の底力をあげていくには、やはりダイバーシティだと思います。LGBT を始め、多様な
人たちが集まってくることで、新しいカルチャーが生まれる。それから、単純に自分の子
供がもしも LGBT だったとしたら、『それはおかしいことじゃないんだよ』と言ってあげ
たいですね」
条例案は 3 月の区議会で提出される。条例案の詳細が明らかになれば、「また議論が深ま
る」と長谷部さん。渋谷区が先陣を切った形だが、世田谷区でも同様の動きがある。渋谷
区から東京へ、そして世界へ。新たなムーブメントが起こるのかもしれない。
(平成 27 年度渋谷区当初予算案の概要より抜粋