SIDS in HPV programme & CCAP SIAM 25, 17/10/2007 初期評価プロファイル(SIAP) ヘキサクロロシクロペンタジエン 物 質 名 :Hexachlorocyclopentadiene (HCCP) 化学式:C5Cl6 CAS No.:77-47-4 SIAR結論の要旨 HCCPの正確な経口による吸収量は導出できなかったが、1回の強制経口投与(用量7-61mg/kg bw)後に、 僅かな経口吸収は約18%から39%までの範囲であり、また、30日間の混餌投与では、5.5%から12%であっ た。皮膚塗布後の、HCCPのカイネティクスに関する試験は利用できない。しかし、急性経皮毒性試験で報 告された毒性反応が示すように、HCCPは経皮吸収される。吸入試験によれば、完全には呼吸器吸収を排除 できないと結論している。 経口投与の後、腎臓、肝臓、いくつかの試験では、脂肪、生殖腺、と肺がおもな残留物の蓄積箇所であっ た。尿中には、少なくとも4つのHCCP代謝物が存在していた。ラットとマウスの双方は、HCCPを劇的に分 解することが出来、排出物中または組織中には完全な形のHCCPは見出されなかった。糞便は排出の主な経 路であることが明らかになった。 ラットに対する吸入LC50(4時間)は0.018-0.041mg/Lの範囲であり、ウサギのLC50(3.5時間)は<0.0158 mg/Lであった。急性吸入試験におけるHCCPの影響は、眼と鼻の分泌物、不規則な呼吸、および気道の損傷 が含まれた。ウサギの経皮LD50は< 200-780mg/kg bwであり、ラットの経皮LD50は>2000 mg/kg bwであっ た。両種とも、HCCPは、皮膚に顕著な影響を引き起こした。さらに、全ての皮膚刺激性試験で、ウサギに 死亡例が観察された。ラット経口LD50は505-1500mg/kg bwの範囲であり、マウス経口LD50は679 mg/kgbw であった。急性経口ばく露では、臨床症状は下痢、昏睡、呼吸減少が含まれた。0.1mLのHCCPを右目の結 膜嚢に入れた眼刺激性試験においても、死亡が全ての試験動物で認められた(雌雄4匹のウサギ)。 HCCPは皮膚と眼に対して刺激性、および腐食性である、動物試験およびヒト作業者で、気道に対して刺 激性である。HCCPは皮膚接触により、感作を誘発するかもしれない。 亜慢性吸入ばく露の局所と全身影響に対する全体的なNOAECは0.45mg/m3である(マウス、ばく露13週後 まで観察)。吸入ばく露1.67mg/m3以上の投与レベルで、マウスにおいて絶対的な体重の減少と喉頭と気管 の扁平上皮化生が観察された。慢性吸入ばく露の全体的なNOAECは確認されなかった、なぜなら試験された 最小の試験用量でもばく露に関連する局所影響を誘発したためである(LOAEC:0.11 mg/m3)。このLOAEC は、ラットとマウスによる2年慢性吸入試験から導かれた。0.11 mg/m3 HCCP以上の濃度は気道に毒性を引 き起こした、つまり、ラットとマウスの両方の鼻、気管、および肺の気管支および細気管支における呼吸上 1 一般社団法人 日本化学物質安全・情報センター 皮の色素沈着発生率の増加を生じた。さらに、ラットで0.11 mg/m3HCCP以上の濃度にばく露された雌の喉 頭上皮の扁平上皮化生の有意に高い発生率の増加が観察された。腫瘍の発生率の増加は認められなかった。 慢性ばく露後全身影響のNOAECは、0.11 mg/m3である。NOAECは、0.56と2.28mg/m3にばく露されたマウ スにおける化膿性の卵巣炎の高い発生率に基づいている。 二つの13週間(強制)経口毒性試験がラット(投与量0、10、19、38、75、150mg/kg bw/日)およびマウ ス(投与量0、19、38、75、150、300mg/kg bw/日)について行われた。ラットに対する局所および全身影 響のNOAELは、前胃における影響と相対的腎臓重量増加のそれぞれに基づいて10 mg/kg bw/日であった。 マウスにおける全身影響のLOAEL 19 mg/kg bw/日もまた相対的腎臓重量に基づいている。マウスの局所影 響NOAELは、前胃における影響に基づいて10 mg/kg/bw/日であった。 HCCPは細菌の変異原物質であるようには見えず、哺乳動物細胞に対してin vitroで遺伝子突然変異を誘発 しない。明らかな毒性条件下であるが、HCCPはIn vitroの動物細胞の染色体異常を誘引した。処置された雄 ショウジョウバエの胚細胞では、優性致死突然変異の誘導はなかった。13週間後、マウスでは、最大耐性量 を含む種々のHCCPの投与量の吸入ばく露で小核赤血球は認められなかった。HCCPはin vivo条件下では変 異原活性はないと考えられる。 ラットとマウスの2年慢性吸入試験に基づいて、HCCPはこのルートでは、発がん性物質であるとは考えら れない。経皮と経口ばく露後のHCCPの発がん影響に関するデータはない。HCCPのin vivo変異原性がない こと、および慢性吸入ばく露後のラットとマウスに発がん性がないことから、HCCPは発がん物質でありそ うもない、と結論できる。 生殖能に特化したHCCPの毒性に関する吸入および経皮試験は入手できない。いくつかの反復吸入ばく露 試験(ラットとマウスに少なくとも4.46mg/m3までを13週間ばく露;ラットとサルに2.28mg/m3までを14週 間ばく露;ラットに6.34 mg/m3までを30週間ばく露;ラットとマウスに2.28 mg/m3までを2年間ばく露)で、 雌雄の生殖器官を組織病理学的に検査したが、受胎能については、生物学的に意味のある処置に関連した組 織病理学的影響は観察されなかった。よって、吸入ばく露による受胎能への影響に対するNOAECは6.34 mg/m3と決定された。 HCCPの生殖毒性に関する標準的な経口試験は入手できない。反復経口投与毒性試験(13週;ラットは150 mg/kg bwまで、マウスは300 mg/kg bwまでばく露)において、雄雌の生殖器官を組織病理学的に検討した。 しかし、生物学的に意味のある処置に関連した組織病理学的な影響は観察されなかった。それ故、受胎能へ の影響に対する経口のNOAELはラットが150 mg/kg bw、マウスが300 mg/kg bwと決定された。 ラットとマウスを用いた経口の催奇形性試験では、催奇形性の影響は認められなかった。経口の母獣毒性 と発生毒性に対する全体的なNOAELは、ウサギの試験に基づいて25 mg/kg bw/日と結論された。ウサギで、 一件のマイナーな骨格変異(13肋骨)が、かなりの母獣毒性(重篤な下痢と死亡)が認められた75 mg/kg/bw/ 日投与のウサギの胎仔に高頻度で見られた。 環境 HCCPは、薄い黄緑色の液体で、融点は-9℃、沸点は239℃、蒸気圧は10Pa(25℃)、ヘンリー定数は 2 一般社団法人 日本化学物質安全・情報センター 2.7E-02atm m3/mol(25℃)と決定された。物質の水溶解度の測定値は1.03-1.25mg/L(22℃±1℃)である。振盪 フラスコ実験でlogKowは5.04と測定された。ファットヘッドミノーにおける生物濃縮係数は29と<11であった。 14C試験ではより高いBCF値が報告された(金魚で323と1297、カダヤシMosquitofishで1230) 。報告された より低いBCF値は、定常状態での生物蓄積係数を示すもので、それはHCCPの一定濃度の30日流水ばく露に おいて測定され、そして、より高いBCF値は、放射活性総量に基づき、それ故、難分解性の代謝物を含むか もしれない 14C試験から導かれた。 HCCPは、大気中で光化学的に生じたヒドロキシラジカルとの反応により消失する(推定消失速度定数は 5.6x10-13cm3/分子×secであり、相当する半減期は29日である)。HCCPの高次に塩素化された構造に基づ いて大気中ではこの化合物のオゾンとの反応は非常に遅く環境的に有意ではないであろうと予期されている。 水中からのHCCPの消失に関する分解過程は、光分解、加水分解と生分解である。水中におけるHCCPの加 水分解は光分解に比較して、よりゆっくりと生じ、半減期はpHに依存しているように見える。浅瀬または流 水においては、光分解が主要な運命プロセスであり;より深い水中においては、加水分解と生分解はより重 要な環境運命プロセスであるかもしれない。HCCPの加水分解半減期は、3.3日(pH7、30℃)であった。水 中における光分解の推定半減期は10.7分である。HCCPは有機炭素に強く吸着し、土壌中では移動しないと 考えられている(HCCPの測定値Kocは4265)。生分解についての入手可能なデータセットは、それらのデザイ ンが、非生物的プロセス(吸着、蒸発、加水分解、光分解)による消失または分解と、生物的分解による消 失または分解との違いとをわかりやすく区別していないので、決定的な結果は得られなかった。しかし結果 は、HCCPが水環境中ではゆっくり、または中程度の速度で生分解するので、証拠の重みアプローチに基づ けば、本質的な生分解性であると考えられることを示唆している。嫌気的条件下では脱ハロゲン化が生じ、 一つ以上の塩素が付いた代謝物が生成するだろう。土壌中でのHCCPの残留性は低く、用いたHCCPの90% 以上が分解してほぼ7日以内に非極性の生成物になる。EPISUITEを用いたレベルIIIの分布モデルに基づい て(大気、水圏、土壌に均等に継続的に放出されると仮定して)、環境に放出されたHCCPの大部分が土壌 (74.1%)と底質(19.5%)に、そして水圏(3.68%)と大気(2.66%)へはわずかに分布するだろう。SimpleBox モデル(v2.0)、MackayレベルIIIモデル、は物質の100%が、最初にこれらの区分の内の一つに放出された際 の、土壌、大気、水圏への分布パーセントを評価するために用いることができる。 受容区分 大気 水圏(底質含) 土壌 大気 91.7 1.7 0.5 水圏 2.5 98.3 0 土壌 5.8 0 99.5 淡水魚類に対するLC50(96時間)は、7-240μg/Lの範囲であり、最小のLC50(96時間)の7μg/L(測定値)は、 淡水魚ファットヘッドミノー(Pimephales promelas)で観察された。海水魚類のLC50(96時間)は37-48μg/Lの 範囲であった。淡水無脊椎動物のLC50(48時間)は39-52.2μg/Lの範囲であった。海水種のLC50(96時間)は7- 371μg/Lの範囲であった。淡水と海水の藻類では生長が3.5から240μg/Lばく露レベル範囲で約50%阻害され ると報告された。 ファットヘッドミノーの1日齢仔魚を用いた、30日初期生活段階流水式毒性試験では、LC50(96時間)は7μg/L であった(4日以内に到達した)。毒性と生長データに基づいて3.7μg/Lが、ファットヘッドミノー仔魚におけ るHCCPの最高無有害影響濃度(NOEC)である。オオミジンコに対するNOEC(21d)は9μg/Lであった。海 3 一般社団法人 日本化学物質安全・情報センター 水の無脊椎動物(Misidopsis bahia)のNOECは0.3μg/L(繁殖)であった。 活性汚泥微生物のEC50(0.5時間)は>100mg/Lであった。 レタス(Lactuca sativa)に対するHCCPの毒性は、土壌と栄養液で決定される。生長におけるHCCPのEC50 は設定濃度に基づいて10mg/Kg d.w.であった。 ばく露 全世界の製造量は、1988年に約15,000トンであると推定され、米国とオランダで等分していた。現在HCCP の製造は、米国の1企業のみに限られていると考えられている。 HCCPは、ディルドリン、アルドリン、エンドリン、エンドサルファン、クロルデン、マイレックス、ペ ンタックのような多くの塩素化シクロジエン農薬製造の中間体として用いられている。同様に、難燃剤製造 の際の共重合物、および防食性ポリエステルとアルキド樹脂に用いられるクロレンド酸(HET-acid)または、 その無水物(クロレンド酸無水物)の製造中間体として使われている。更に、HCCPは難燃性樹脂製造の際 の添加剤であるDecloranePlusの製造にも用いられる。少量のHCCPの用途は、染料、医薬品の製造における 中間体である。ヨーロッパでは、HCCPが関連する主要な用途はわずかに二つである。HCCPはエンドサル ファン製造の中間体として用いられ、またHCCPはHET-acidの合成に用いられる。2000年には最大6000ト ンのHCCPがヨーロッパに輸入された。 HCCPの環境への放出は、シクロジエン農薬類とHET-acidの製造における中間体としての工業的利用の間 に生じるかもしれない。ヘキサクロロシクロペンタジエンは、農薬散布の際に、また難燃性樹脂や塗料の製 造と産業的使用の際に放出されるかもしれない。加工されたHET-acid(樹脂と塗料)中に残存するHCCP量 から、HCCPの推定環境放出総量は非常に低いことがわかる。エンドサルファンの場合にはHCCPの残存含 量は約0.1%である。 HCCPを農薬や難燃剤製造の中間体として使っている化学企業では、職業ばく露の可能性がある。これら の製品は閉鎖系で製造されており、職業ばく露は輸送ラインの接合と切り離しの際に生じることがある。職 業ばく露は、HCCPを含む製品が化学工程(つまり不飽和ポリエステル、塗料、熱可塑性樹脂に含まれる難 燃剤)に加えられる時にも生じることがある。反応生成物としてのHCCPへの非意図的ばく露は、半導体産 業において廃棄物のドラム缶詰めやメンテ作業を通じて生じる可能性がある。 職場では適切な作業者保護具が既に適用されている可能性もあるだろう。職業ばく露限度値(OEL)は複 数得られるが、しかし統一されていない。 中間体(農薬製造と難燃剤製造)としての利用されていることにより、予期されるHCCPへの消費者ばく 露は無視出来ると考えられる。 勧告と勧告の理論的根拠と追加作業の特徴 ヒトの健康 本物質は追加作業候補の一つである。この物質はヒトの健康に対する有害性示す特性を持つ(急性毒性、 4 一般社団法人 日本化学物質安全・情報センター 眼と皮膚の腐食性、気道刺激性、感作性、反復投与毒性)。それゆえ、加盟諸国は、作業者のばく露評価の実 施、および必要であれば、リスク評価を実施することを要請される。 注意:EU既存物質規則 793/93/EECとの関連でリスク評価が、EUにおいて進行中である。 環境 この化学物質は、現段階では追加作業の優先度は低い。この物質は、環境に対して有害性を示す特性を持 つ(淡水と海水生物の急性毒性は1mg/Lより低い) 。しかし担当国により提出されたデータ(いくつかのOECD 諸国での用途に関連する)に基づくと、環境への放出は低い。各国は、担当国が提示しなかった何らかのば く露シナリオを調査することを要望するかもしれない。 注意:EU既存物質規則 793/93/EECとの関連でリスク評価が、EUにおいて進行中である。 [著作権および免責事項について] [著作権] 本資料の著作権は弊センターに帰属します。引用、転載、要約、複写(電子媒体への複写を含む)は著作権の侵害となりますので御注意下さい。 [免責事項] 本資料に掲載されている情報については、万全を期しておりますが、利用者が本情報を用いて行う一切の行為について、弊センターは何ら責任を 負うものではありません。また、いかなる場合でも弊センターは、利用者が本情報を利用して被った被害、損失について、何ら責任を負いません。 5 一般社団法人 日本化学物質安全・情報センター
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