かもめの国から(第九回)2007 年 12 月①

かもめの国から(第九回)2007 年 12 月①
~ヒツジの国から②~
今回は、12 月に参加してきた国際学会について書いていきたいと思います。私自身、国際学会というのは
初めての経験で非常に面白かったので、その模様をレポートしてみたいと思います。
まず、今回参加したのはANZMACというオセアニアのマーケティングの学会になります。いま駐在している
大学は経済の大学なので、発表の場はこの分野の学会になりました。と言ってもバリバリのマーケッティン
グ理論の発表だけではなく、幅広い事象をマーケッティングの視点から捉えたプレゼンが多かったです。日
本の国内学会で言うならば、生活経済学会みたいな感じですね。
飛行機が飛ばなかったりすると困るので、12/1 に会場のオタゴ大学あるデニーデン入りし、翌 2 日に事
前登録を済まして準備は完了です。申込自体は 11 月にネットで済まして、参加費もカード決済(9万円くら
い…)していますので、これで一安心です。
今回の宿は、大学に迷惑をかけるといけないのでホテルでは無くて安い B&B にしました。Sahara という名
で大学の傍なので非常に便利です。築 100 年の古い建物で床が軋みますが、洋風の洒落た宿です。ただ、こ
の時期のダニーデンは夏休み開始で混んでいる為、最初と最後の日は近くの小さな別の宿に移りました。
サハラ B&B、1906 年建築の古い建物
部屋は床が軋みますが、清潔でした
最初と最後に泊まった 526George St Hotel
会場のオタゴ大学は、NZで最古という由緒ある大学だそうです。非常に大きな大学で、ツアーのガイドさ
んがここのOGでしたが、今はどれだけキャンパスがあるのだかよくわからない…というほどゴチャゴチャし
ています。大きなキャンパスがあるのですが、そこに入りきれない研究室や教室はキャンパスの外の民家に
入っているので、もらったキャンパスマップではよくわかりません(汗)
緑あふれる広いメインキャンパスには、構内を川が流れています。建物も落ち着いて、趣があります。
シンボルの時計台
キャンパスを川が貫流しています
近代的な innovation center もあります
いよいよ 12 月 3 日からANZMAC conferenceの始まりです。開始が 8:45 からと早いので、8 時ころには
宿を出ました。会場と宿が近いと便利で良いですよね。会議はマオリ神話の紹介から始まりました。このあ
たり、NZらしいですね。その後、実行委員長の挨拶や委員の紹介などを経て基調講演へ。今回はコペンハー
ゲ ン ビ ジ ネ ス ス ク ー ル で 異 文 化 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン マ ネ ー ジ メ ン ト 学 部 の 教 授 を 務 め る Dr. Suzanne
Beckmannでした。
今回のメイン会場の St David’s Foyer
マオリの天地創造の神話から始まります Dr Suzanne Beckmann の基調講演
講演終了後は最初のコーヒーブレイクです。国際会議や学会はこの手の飲み物や軽食休憩が多く、参加費
に含まれています。学会中の昼食や conference dinner や最終日の excursion まで全てが学会という扱いです。
毎日日替わりで色んなおやつが出ます
お昼ごはんも毎日日替わりのビュッフェです 色々あって悩みます
休憩明けからは各 track に分かれての分科会ですが、20 もあります。「マーケットコミュニケーション」
「ブランド化」「ネットワーク」「消費者行動」「企業の社会的責任」「電子マーケット」「イノヴェイシ
ョン」「国際マーケッティング」「マーケット教育」「マーケット調査」「マーケット理論」「セールスマ
ネージメント」「小売り」「価格」「流通経路」「サービスマーケティング」「社会、NPO、政治的マーケテ
ィング」「スポーツ、芸術、遺跡」「戦略的マーケティング」「観光マーケティング」。
これらにみっちりとプレゼンが組み込まれているので、興味があるのを見つけて聞きに行くことになります。
この日のプレゼンで面白かったのは、Values Relevant to Japanese Tourism Behaviour in New Zealand というタイ
トルのオタゴ大学Leah Watkins博士の発表でした。
サブ会場のオタゴビジネススクール校舎 内部は日当たりの良い吹き抜けです 日本人の観光についてプレゼンした Watkins 博士
内容は、NZへの観光客数で第4位(オーストラリアが圧倒的なNo1)と重要でありながら、日本人観光客
が数量的に減少し始めているのは、日本市場に対するマーケティング調査が十分でないのではないかという
ものでした。そこで日本人観光客を「パッケージツアー客」と「バックパッカー」に二分化し、それぞれに
インタビュー調査をして質的分析を行い、その需要に沿った戦略を展開することで観光客誘致につなげよう
と提唱しています。バックパッカーは東北福祉大学の学生が顧客になるでしょうし、パッケージツアーは主
に高齢者が顧客になります。従って東北福祉大学は双方において関連してきますから、今後は福祉観光コー
スの学生や教員と交流できればと思って種をまいてきました。
初日の発表が終わった後は、
「カクテルパーティー」という軽食だけの懇親会が開かれました。昼間の発表
を通じて議論した相手と、それをさらに発展させようという趣旨です。会場は、大学内の The Link と呼ばれ
るビルの吹き抜けで、多数の研究者でごったがえしました。会場には弦楽四重奏なども入っていましたが、
カナッペなどのような本当に軽食しか出ないのですぐに酔っぱらってしまいました。日本人は、西洋人と一
緒のペースで飲むと辛いですね…
The Link 内の会場
こんなに大勢でごった返しました
弦楽四重奏が入って、洒落た雰囲気です
学会二日目も、幸い青天の中で行われました。午前中は「team efficiency」についてのプレゼンや「Wirksworth
の観光による町興し」などを聞いて回りました。午後は、フィンランド人の同僚のプレゼン(中国と西洋諸
国とで組織志向戦略がもたらす効果を比較するプレゼン)を聞いたりしました。
この日は夕方以降に学会行事がなかったので、宿から歩いてデニーデンにあるギネスブック認定の「世界
で一番急な坂」というのに行って来ました。確かに凄い坂で、歩いて登るのも辛かったです。ところがこれ
を自転車で楽に登っていくパンクな少年がいました。子供は怖いですね…
三日目は、いよいよ我々の発表です。今回の発表は、
“New Product Development”という顧客を取り込んで
より満足度の高い「製品」を開発していくビジネス手法を、
「製品」を「サービス」に置き代えて、サービス
開発につなげようという“New Service Development”が基本になっています。それを更に医療・福祉分野に
拡大できるのか?というのが、今回の我々の発表のテーマでした。理論的な部分はHSEの同僚が担当し、その
仮説を日本とフィンランドの高齢者施設での実証研究を通じて検証しようというものです。日本とフィンラ
ンドでのデータは、ラウレア応用科学大学の学生さんたちが東北福祉会の「せんだんの丘」に滞在して抽出
し、卒業論文にまとめたものです。フィンランドの学部学生のレベルの高さには、感心させられますね。
せんだんの丘などを基に卒論を書いたラウレアの学生さん
代表で発表してもらったRajala博士。福祉大のマークが有ります
その後は、
「企業の社会的貢献」の視点からプロサッカーチームの貢献を国際的に分析するプレゼンを聞き
に行き、この分野でも「共同で何かできたらいいね」と種を捲いてきました。高い費用をかけて来させて頂
いているので、自分達の発表だけでなく、大学に何らかの貢献をしなくてはいけません。これを通じて、東
北福祉大学の学生さんや教員と海外との交流が一層盛んになることを願っています。
その他にも、色々と面白いプレゼンがたくさんあって楽しい学会でした。全部あげると切りがないのでい
くつかスライドを紹介するに留めますが、神戸大学の先生が任天堂独占時代のゲームソフトにおけるプラッ
トフォームの発表をなさっていました。プレステ 3 や今後のブルーレイディスク等の争いにも繋がる面白い
発表でした。次の写真は、
「強い結合の小さなクラスター」と「弱い結合の広い世界」というネットワークで
よく言われる概念をコンピューターで実証しようとする面白い発表でした。次のページは、先にも書いた日
本を含めた世界各国のプロサッカーチームの取り組みを企業の社会的貢献の視点から分析したプレゼンでし
た。その次はベトナムにおける正規市場と闇市場の現状分析です。東北福祉大学はベトナムのオープン大学と
も交流していますので、ドイモイによって起きているベトナム社会の変化も非常に気になりました。
任天堂支配時代のソフトウェアプラットフォームの分析
ネットワーク理論のコンピューターによる検証
サッカーと企業の社会的貢献について、日本の事例もありました。
ベトナムの正規市場と闇市場の経済的分析
三日目の発表が終わると、三日間の疲れをいやしつつ、思いっきり弾ける「Conference Dinner」です。
「よ
く遊び、よく学べ」と言いますが、みんな元気でびっくりしました。七時開始なのですが、テーブルに着く
のは八時過ぎなので一時間以上腹に何もいれずに立ち飲みが続きました。西洋は、晩御飯が遅いですよね。
こんな感じで一時間以上立ち飲みでした
ようやく席に着いたのは八時頃。
NZ ビーフ食べ放題ですが、日本牛が良いです
八時過ぎにようやく着席できましたが、ここからがまた長いです。学会の偉いさんなどの挨拶が続き、よう
やく乾杯が済んで前菜が出てきました。そして学会各賞の発表に移ったのですが、これがまた長いんです。
何せ分科会が 20 ですから…。それらがようやく終わって、メインのビュッフェが始まったのは 9 時をゆうに
過ぎていました。料理は、自然に恵まれたニュージーランドの牛や羊やサーモンが食べ放題です。これも学
会参加費にコミコミですが、別途に追加すると一人 15000 円くらいのようでした。
パーティーの本領はこの後でした。会場は大学から歩けば 30 分以上離れた海沿いのコンベンションですが、
帰りの送迎バスが 23 時過ぎまで無いのです(汗)メインの料理を食べ終えても、帰れません…
そのうち、怪しい大木凡人みたいなエンターテイナーのおじさんや奇麗なお姉ちゃんの歌手が現れ、ダン
スや踊りが始まりました。すると次第に我々のテーブルの前の空間がダンスステージに様変わり。世界的に
高名な教授も無名のポスドクも、老いも若きも、男も女も皆で弾けたダンスパーティーになりました。途中、
デニーデンらしくケルティクダンスなどを挟みつつ、ぎゅうぎゅうに成りながら盛り上がっていました。
我々は 23 時の最初のバスで帰りましたが、他の同僚たちは 1 時過ぎまで居たって言っていましたので、パ
ーティー自体はもっと遅くまで続いていたはずです。日本の高名な研究者先生とは、似ても似つかない研究
者の姿がそこにはありました。(私的には、合わせはしますがあのノリはどうも性に合いません… )
三日間みっちり勉強し、その分、終わってからは深夜まで馬鹿騒ぎして三日目の夜は更けていきました。
しかし、学会の公式行事はこれで終わりではありません。四日目に、皆で行くエクスカージョン(「遠足」
と訳して良いものやら…)までが「学会」で、その参加料金も学会参加料金に含まれています。
「これは抜い
てね」という日本式の流儀は通用しません…。よく学び、よく語り合ったと研究仲間と楽しいひと時を過ご
して友情を深め、世界各地に戻りってからの研究の糧にしてくださいとのことなのでしょうね。
前回も書いたように、NZでは鉄道が廃れてしまって大都市近郊の通勤路線と観光路線以外に鉄道はあり
ません。ここデニーデンには、観光鉄道として名高いタイエリ峡谷鉄道があります。かつては通常の路線だ
ったそうですが、何せ走っているのが山の中と草原の中ですので採算が取れずに廃止され、今では一部のみ
が観光鉄道として運行されています。駅はスコットランド調の非常に奇麗な駅なのですが、何せ観光路線が
一日に二本だけですので日本の駅とは感覚が違いました。
スコットランド調のデニーデン駅
洒落た駅舎の中です
車両はアンティークの 1920 年調
電車は、まさに峡谷鉄道の名の通り、山の中を進んでいきました。NZは、丁度写真にもあるような黄色
い花が一面に咲いていて見事な景色でした。ただ、単調な景色ですし、終点で折り返すので同じ景色が繰り
返されて飽きてきます。おまけに、山の多い日本の鉄道に慣れた日本人にはそれほど目新しくないですので、
わざわざ乗りに行くほどのことではないかもです。この日が丁度フィンランドの独立記念日(しかも 90 周年)
らしく、時差に合わせてフィン人の同僚がシャンパンでお祝いしていたのが印象的でした!日本人は建国記
念の日を外国で祝ったりはしないので、フィン人の愛国心に感心した次第です。
以上、知的好奇心を非常に刺激された初めての国際学会のご紹介でした。
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