平成 27 年度 電子情報工学科 卒業研究発表会 脳波を用いた快・不快状態のマッピングに関する研究 著者 古和泰志 1.は じ め に 普段、私達は様々な感情を主観的に体験してい る。感情の喚起は客観的に観察可能な行動や生理 反応の表出を随伴することが多い。例えば、楽し く て 「笑 っ て し ま う 」。緊 張 し て 「手 汗 が 出 る 」、「落 ち 着 か な い 」な ど が あ る 。し か し な が ら 、感 情 の 喚 起の行動や生理反応の表出は健康人にみられる事 であり、体が動かせないといった患者や表情の変 化が読み取れない人は感情表現と行動・生理反応 の 関 連 性 を 判 断 す る の が 難 し い 。 情 動 (表 情 等 )と 感 情 (怒 り ・ 喜 び ・ 悲 し み 等 )の 関 連 性 に つ い て 調 べている研究などは多く見られたが、脳波のみを 用いて感情を読み取る解析方法についてはまだま だ発展段階であり、これといった解析方法は確定 していない。 そこで、本研究では情動を伴わない単純に脳波 の変化のみから感情を読み取る方法について調べ た 。具 体 的 に は い く つ か の 音 を 聞 い て い る と き の 、 被験者の快・不快状態や具体的な感情をアンケー トによって調べ、音を聴いている最中の脳波との 関連性について調べた。そして解析した脳波から 快・不快状態のマッピングを行った。 2. 実 験 2.1 実 験 環 境 被 験 者 を 椅 子 に 楽 な 体 勢 で 座 ら せ 、イ ヤ ホ ン を し て も ら う 。 電 極 を 右 耳 朶 (グ ラ ン ド )、 右 側 頭 部、右上側頭部に双極法で被験者の頭皮に取り付 ける。この時、電極固定に水泳キャップを使用し た 。そ れ ら の 電 極 に よ り 検 出 さ れ る EEGを 生 体 電 気 計 測 機 器 (MP36) を 使 用 し て 計 測 し た 。 2.2 実 験 手 順 今 回 の 実 験 の 被 験 者 は 、 20 才 男 性 8 人 で あ る 。 被 験 者 に は 以 下 に 示 す 4 つ の 音 を 閉 眼 (安 静 )状 態 で各音を順番に聴いてもらう。聴く時間も以下に 示す。 音 1 ク ラ シ ッ ク ピ ア ノ (シ ョ パ ン : ノ ク タ ー ン 第 2 番 変ホ長調) 2 分 音 2 被験者の好きな曲 2 分 音 3 本 当 に あ っ た 怖 い 話 (テ ー マ ソ ン グ ) 2 分 音 4 世 に も 奇 妙 な 物 語 (テ ー マ ソ ン グ ) 2 分 音 2 は実験前に被験者に気分が高揚する音を選ん でもらい、実験者が2分に加工したものを使用し 指導教員 小松貴大 た。 具 体 的 な 実 験 手 順 は ま ず 音 1 を 聴 く 前 に 、閉 眼 かつ無音状態で 1 分間の脳波を測定した。その後 音1を聴いている最中の脳波を測定し、聴き終わ った後に目を開けてもらい、音1から感じた快・ 不快状態、音1を聴いている最中の感情、心理状 態 (快 ・ 不 快 )に も っ と も 影 響 し た 音 の 部 分 、 の 3 つの項目についてのアンケートに答えてもらった。 これを1セットとし、音1から音4まで順に合計 4セット行う。 2.3 解 析 方 法 計 測 し た 脳 波 は 8〜 13[Hz]の α 波 (low:8〜 9[Hz],middle:9〜 11[Hz],high:11〜 13[Hz])、 13 〜 30[Hz]の β 波 (low:13~ 15[Hz],middle:15~ 25[Hz],high:25~ 30[Hz])、 お よ び 30~ 70[Hz]の γ 波 の 振 幅 ス ペ ク ト ル を Fast Fourier Transform(以 下 FFT)を 用 い て 解 析 す る 。 振 幅 ス ペ ク ト ル か ら α 波 と β 波 の low、middle、highの 能 率 をそれぞれ求める。能率の求め方につては以下に lowα 波 の 能 率 の 計 算 式 を 示 す 。 low α 波 の 能 率 = low α 波 成 分 の 振 幅 ス ペ ク ト ル の 総 和 α 波成分の振幅スペクトルの総和 × 100 無 音 状 態 は 1 分 間 の う ち 0~ 25 秒 間 と 25~ 50 秒 の 脳 波 デ ー タ に 対 し て FFTを 用 い α 波 と β 波 の low、middle、highの 能 率 、お よ び γ 波 の 能 率 を 求 め 、 そ の 平 均 値 (α L ,α M ,α H ,β L ,β M ,β H ,γ ) を求めた。音1から音4については、アンケート よ り 被 験 者 が 一 番 快・不 快 状 態 を 感 じ た 25 秒 間 の 脳 波 デ ー タ を 用 い る 。そ の 25 秒 間 を 5 秒 間 隔 で FFT を 行 い 、 音 n(n=1~ 4)の α 波 と β 波 の 能 率 (α L n , α M n ,α H n ,β L n ,β M n ,β H n ,γ n )を そ れ ぞ れ 5 秒 間 ごと求める。求めたα波とβ波の能率と無音状態 の平均値との差を増加率とし、5 秒間ごとの増加 率 (I 1 n ,I 2 n ,I 3 n ,I 4 n ,I 5 n )を そ れ ぞ れ 求 め た 。増 加 率 の 求 め 方 は 音 1 の low α 波 (0~ 5 秒 間 )を 例 に以下に示す。 音 1 の low α 波 の I11 : α𝐿−𝐼11 = α𝐿1 − α𝐿 そして、5 秒間の中で一番大きい増加率をα波 (low、 middle、 high)と β 波 (low、 middle、 high) か ら そ れ ぞ れ 1 つ ず つ 選 択 す る 。つ ま り 、25 秒 間 を 5 秒 間 隔 に 分 け た 5 回 中 、 α 波 (low、 middle、 high)と β 波 (low、 middle、 high)の 選 択 さ れ た 回 数をカウントした。また、γ波については 5 秒間 隔で計算したγ波の能率が平均値より増加してい 平成 27 年度 電子情報工学科 卒業研究発表会 る回数が 5 回中何回あるかカウントした。 被験者の解析結果は個人差があるため、8 人の 解析結果を合成して考えることにした。カウント し た 回 数 を 用 い て 、音 nの α 波 (low、middle、high)、 β 波 (low、middle、high)、γ 波 の そ れ ぞ れ の 平 均 カウント数を求めた。平均カウント数の求め方は 音 1 の α 波 の lowを 例 に 以 下 に 示 す 。 音 1 の low α1 波 の 平 均 カ ウ ン ト 数 = 合成した被験者のカウント回数 合成した被験者数 各脳波の平均カウント数とアンケートから得ら れた各音における被験者の快・不快状態との関係 性を解析した。 な お 、ア ン ケ ー ト 結 果 が「 快 ・ 不 快 の ど ち ら で もない」の音の解析結果は含んでいない。 図 2 β波とγ波の平均カウント数と標準偏差 3.実 験 結 果 4.考 察 表 1 にアンケートから得られた各音におけ る被験者の感情を示す。図 1 は各音におけるα波 (low、middle、high)の 平 均 カ ウ ン ト 数 。図 2 は 各 音 に お け る β 波 (low、middle、high)と γ 波 の 平 均 カウント数を示している。 図 1 と図 2 を全体的にみると、ほとんど似たよう な 形 と な っ た が 、 音 2 の middle α 波 が 大 き く 違 うことが分かる。音 2 は快・不快状態を自発する ものなので、誘発する音より影響が多くでている と考えられる。 今 回 の 実 験 結 果 で は β 波 の 快・不 快 状 態 の 違 い は あまりみられなかった。 γ 波 を み る と 、快 よ り も 不 快 の ほ う が 増 加 す る 傾 向がみられる。 表 1 のアンケート結果より音 1 と音 2 では同じ快 状態でも被験者が感じた感情が違う。図 1 より同 じ快状態でも、感情が違えば脳波も違うと考えら れ る 。 そ の た め 快 状 態 (楽 し い )の と き middle α 波が増加する傾向があると考えられる。 不快状態のときは γ 波が関与していると考えら れる。 音 1 2 3 4 表 1 被験者が感じた各音を聞いた時の感情 アンケート結果 感情 快 落ち着く 快 楽しい 不快 怖い 不快 怖い 5.ま と め 本実験より、音で快・不快状態を作り出すこと ができた。各脳波と快・不快状態の関連性は、 middle α 波 、γ 波 の 2 つ が 関 連 し て い る こ と が 考 えられた。 さらに解析結果を正確にするため、快・不快の度 合 い (例 .少 し 怖 い な ど )の 場 合 を 考 慮 す る 必 要 が あ る 。音 1~ 4 を 被 験 者 に 選 ん で も ら う 必 要 が あ る 。 図 1 α波の平均カウント数と標準偏差
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