コウライテンナンショウの性転換のしくみについて

コウライテンナンショウの性転換のしくみについて
(2801 青森県立弘前南高等学校 自然科学部 植物班)
1
研究の動機
④雌雄個体の背丈と自生地照度
土壌ではなく光合成量の違いによる生長量の差が雌雄分化の要因ではない
かと考え、各個体生息域の照度を測定した
本校は世界自然遺産である白神山地の麓に位置しており、白神山地は多種多様
な動植物が分布し、冷温帯の自然生態系のすぐれた見本とされています。
しかし、身近にあるにも関わらず、地元の白神山地が世界遺産登録された理由
を知る生徒の割合は低く、植物相と動物相の観点について調べることにしました。
その中で性転換植物であるコウライテンナンショウのことを知りました。
1300
花
序 1200
の
高 1100
さ
1000
(mm)
900
800
700
600
2
コウライテンナンショウの生態調査
500
400
300
♂:
200
♀:
100
0
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
20
22
24
26
28
偽茎直径(mm)
1300
花
序 1200
の
高 1100
さ
照度と雌雄個体分布
花序の高さと茎の直径
1000
(mm)
900
④雌雄個体の背丈と自生地照度について
⇒茎の太さに比例し、背丈も 900mm 付近を境に高いものが雌である。また
各個体生息域の照度を測定したが、雌雄での明確な差はなかった。
800
700
600
500
400
外形は雌雄個体とも同様
花部の中の違い
左がめしべ(雌個体)右がおしべ(雄個体)
□研究動機:コウライテンナンショウは性転換する(環境により性決定
する)植物で、白神山地のふもとに自生していることから、
その性決定の環境要因について調べた。
300
♂:
200
♀:
100
⑤雌雄の分布箇所(H27)
雌雄の分布箇所を地図にした。
0
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
20
22
24
26
偽茎直径(mm)
28
*久渡寺の階段を中心軸とした分布地図
□調査方法:屋外調査 コウライテンナンショウの高さ・茎の直径・雌雄個体
の分布位置を記録
屋内調査 化学室の3つのプランターにコウライテンナンショ
ウを植えて窓辺に置き、観察
⑤雌雄分布地の特徴
⇒雌個体の周囲に雄個体が同心円状に分布する傾向がみられる。
①雌雄の外観の比較
⑥クローン球根による生殖と性分化
クローンを用いることで遺伝的な均一性が確保されているため、
雌雄分化の違いをもたらす要因がより明確 になるはずであると考察し、
クローン球根から得た個体と、その親個体(雌)の条件を変えて栽培した。
①茎の太さ(地上1cm)と性の相関について
⇒個体の外観として大きいものが雌、小さいものが雄という傾向があっ
たが、茎の直径を測ると直径 14mm 付近が雌雄の境界線といえる。
クローン球根の採取
②雌雄個体数の変化 H25・26・27
白神山地でも数個体自生しているが、久渡寺に群生地があるため、そこを調
査区とした。
雌雄の比率(雌の出現率)
H25) 雌:雄=13:27
H26) 雌:雄=22:38
H27) 雌:雄=23:59
雌出現率 32.5%
雌出現率 36.7%
雌出現率 28.0%
②雌雄個体数の変化について
⇒3年間を平均すると雌の出現率は31.9%であり、雌:雄はほぼ
1:2である。 雌は雄の半分しか分布しない。雌になるための条件が
あるのではないか。
➂雌の生育条件
全体的に雌が斜面の下に多く、雄は斜面の上に多かったので次の仮説をたて
た。 仮説:雌株があったところのほうが、栄養状態が良い。
調査方法:雌株、雄株があったところのうち 3 箇所から土壌を採取し、電気
伝導率と pH を調べる。
結果:
考察
➂雌の生育条件について
⇒・土壌の栄養状態に差は無かった。
・個体の年齢に比例して大きくな
る球根が次年度の個体サイズを決
定する、もしくは光合成量が大き
く影響するのではないか。
A 無機塩類の濃度を違えて栽培
N : P : K
1
1
2
1
2
1
2
1
1
B
オーキシン(インドール酢酸)の投与
左側が球根にオーキシンを
投与、右側は対照。投与し
たもののみ発芽・成長した。
C
P リッチのは
4/4 球 根 が 発
芽・成長し、K
リッチは 2/4、
N リッチは 0/4
と全く発芽し
なかった。P が
根の伸長を大
きく促進した
と考えられる。
クローン球根の雌雄分化
♂
球根サイズ
小
♂
⇒
♀
1 親球根は雌のまま、クローン球根は2個
体が雄、1個体は花序を形成しなかった。一
度雌に分化したものは雄に戻らず、子は雄で
始まると考えられる。
2 全ての個体で3枚目の葉芽から花序とな
ることがわかった。
大
今後の課題と謝辞
屋外での調査と室内での栽培を通して、雌雄の特徴をつかむことが出来たが
雌雄分化の生理学的な要因は、はっきりしていないので、今後の調査と実験
でその点を明確にしていきたい。また本研究においてご指導をいただいた弘
前大学白神自然環境研究所の山岸洋貴先生、活動支援をいただいた中高生の
部活動支援プログラム(JST)に深く感謝申し上げます。