第3章 モバイル WiMAX エコシステム (1)インテルの野望とモバイル WiMAX エコシステムの実体 モバイル WiMAXエコシステムは、モバイル WiMAX 事業を巡るベンダーとオペレータを中心としたバリュー チェーンを意味する。このバリューチェーンは、市場で自然に形成されたものではなく、インテルを中心にモ バイル WiMAX の商用化と拡大を支援するための一種の「モバイル WiMAX 連合体」といえる。インテルは、 WiMAX フォーラムに参加したベンダーとオペレータを集めて、モバイル WiMAX の協力体制を構成するこ とで、市場の立ち上げと同社中心の多様なモバイル WiMAX バリューチェーンの形成を期待している。 インテルが 2006 年下半期から本格的に始めた WiMAXエコシステムの構築は、次のいくつかの経路を通 じて行われた。まず「RosedaleI、II」の発売で WiMAX 業界のリーダーとしてのポジショニングを明確に確認 させる。またオペレータへの直接投資により、サービス事業者側の味方を確保する一方、インテルを中心に ベンダーとオペレータを縛る連合勢力を構築し、開放性と規模の経済が実現できる友好陣営を結成しようと するのである。 ①デュアルモードチップセット「Rosedale II」 2006 年 6 月、インテルはワシントンで開催された「WCE」(Wireless Communications Expo)フォーラムで、 早いうちに 802.16d と 802.16eに対応する新型 WiMAXチップ「RosedaleII」を発売するという計画を明らかに した。Rosedale II は 2005 年発売した「Rosedale I」に引き続き、同社が発売する二番目の WiMAX 商用チッ プで、Rosedale I とは異なり固定系とモバイル WiMAX の両技術に互換できる。これにより「Rosedale I」がモ バイルと互換されないため、規模の経済確保と固定型 WiMAX インフラベンダーの戦略に、打撃を与えたと いう非難も免れるようになった。 インテルは RosedaleII の発売が、802.16d と 802.16e という 2 つの標準の互換性を確保することにより、大 量のチップ生産と規模の経済を確保し、WiMAX モデムの価格が DSL とケーブルモデムなどの既存固定ブ ロードバンド設備の価格水準まで引き下がるきっかけになるとみている。 ②オペレータに対する直接投資 インテルはベンチャーキャピトル子会社である Intel Capital を通じて、主にチップセッベンダーやインフラ ベンダーのみならず、WiMAX 事業者、あるいは WiMAX 事業に興味がある固定・移動通信事業者への投 資と支援に乗り出している。2006 年 5 月には、Intel Capitalがエジプト国の多国籍通信事業者である Orascom Telecom への投資を行い共同に WiMAX サービス提供会社である Orascom WiMAX を設立した。 第3章 モバイル WiMAX エコシステム 77 また、北米の無線ブロードバンド事業者である Clearwire に対する直接投資も発表した。インテルはスプ リント・ネクステルに引き続き二番目に多い 2.5GHz 周波数ライセンスを保有している Clearwire に約 9 億ド ルを投資した。 オペレータに対する投資額では最大規模だという。これには Clearwire を利用して北米市場でモバイル WiMAX の風を巻き起こし、スプリント・ネクステルにモバイル WiMAX の選択を圧迫しようとする意図がある と考えられる。結局、インテルの意図通りスプリント・ネクステルは次世代の網技術としてモバイル WiMAX を 選んだ。 ●表40 インテルの 主なWiMAX関連投資の現状(2005~2006) 地域 欧 州 北 米 南 米 アジア太平 中 東 国家 イギリス ドイツ オランダ アメリカ アメリカ アメリカ ブラジル メキシコ オーストラリ エジプト 事業者 PIPEX Wireless DBD Worldmax Navini Networks Beceem Communications ClearWire Neovia MVSNet Unwired Australia Orascom Telecom WiMAX 事業形態 WiMAX サービス事業者 WiMAX サービス事業者 WiMAX 事業者(Enertel と合弁会社設立) WiMAX 装備ベンダー WiMAX チップセットメーカー WiMAX サービス事業者 WiMAX サービス事業者 WiMAX サービス事業者 WiMAX サービス事業者 WiMAX 事業者(Orascom 合弁会社設立) 出典:インテルホームページ このようにインテルが WiMAX と通信、技術分野まで莫大な投資に踏み切っている理由は、インテルのチッ プが搭載された設備と端末が活用できるネットワークとプラットホーム環境を拡大させるためである。さらに、 多様な player との協力を通じて自社中心のエコシステムを形成して行くための意図が隠れている。現在、イ ンテルの投資は子会社である Intel Capital が担当している。 Intel Capital はすでに 30 ヶ国以上で 1000 以上の企業に投資を行っており、より集中的な持分投資が必 要な地域や産業部門では「Intel Digital Home Fund」「Intel Capital Middle Eastland Turkey Fund」など 6 つのファンドを構成して投資している。 特に、インテルがベンダーだけではなく、オペレータと協力の範囲を広げ、WiMAX リーダーとして影響力 を強化している背景は、モバイル WiMAXの商用化と拡大の土台作りを独自でするのは現実的に難しく、友 好勢力の確保を急がなければならないということを認識したからだ。つまり、インテルは実際にエンドユーザー を対象に商用サービスを展開するオペレータとの協力が必須不可欠であると判断したのである。 WB マーケティングレポート Vol.2 モバイル WiMAX ベンダーの国際戦略と無線ブロードバンド市場拡大のシナリオ 78 ●表41 Intel Capitalのファンド設立状況 ファンド名 規模 Intel Digital Home Fund 2億ドル ホームネットワーキングSW/HW会社に投資 Intel Communications Fund 5億ドル ネットワーキングおよび通信技術開発会社に投資 Intel Capital China Technology Fund 2億ドル 中国のSW∙HWサービス開発会社に投資 Intel Capital Middle Eas tand Turkey Fund 5000万ドル Intel Capital India Technology Fund Intel Capital Brazil Technology Fund 主要内容と目的 中東/トルコのSW∙HW∙コンテンツ開発会社に投資 2億5000万ドル インドの技術会社に投資 5000万ドル ブラジルIT産業成長のための投資 出典:Intel Capitalホームページ ●図29 インテルが構想しているモバイルWiMAXエコシステムの仕組み 出典:ATLAS Research Group ③エコシステムのキーワード:「開放性」と「規模の経済」 インテルがモバイル WiMAX 商用化の準備に当たり、① WiMAX 陣営のリーダーとしての立地を固め、② オペレータに対する直接的な投資に踏み切り、③アウトソーシングを通じてコア能力を強化する――など、 最近の取り組みを見る限り、インテルが進めているモバイル WiMAX エコシステム構築のキーワードは、「開 放性」と「規模の経済」である。 今まで、インテルが WiMAX リーダーであることをアピールしてきただけに、インテル中心のエコシステムが 形成されるのは、自然な流れであるかもしれない。しかし、固定型 WiMAX 市場での協力体制とは異なり、モ バイル WiMAX 市場では、インテルを中心とした強力な連合体制が胎動する可能性が高い。これが実現さ 第3章 モバイル WiMAX エコシステム 79 れれば、インテルのモバイル WiMAX 陣営は「開放性」と「規模の経済」を確保し、世界における無線ブロー ドバンド市場で強力な影響力を発揮できるだろう。 (2)モバイル WiMAX ベンダー間の提携状況 ①ベンダー間の主な提携動向 モバイル WiMAX のエコシステムを主導しているインテルは 2005 年発売した固定型 WiMAX 商用チップ 「Rosedale I」に引き続き、モバイル WiMAX の互換性を確保した「Rosedale II」チップセットを発売した。イン テルは WiMAX を世界におけるすべての周波数に対応できるようにする方針であり、WiMAX チップ分野で 最も優れた技術力を持っていると評価されている。インテルはモトローラ、アルカテル、alvarion、Navini など 多数のベンダーに WiMAX チップを供給している。 しかし、最近モトローラがモバイル WiMAX チップセット開発に向けて TI(Texas Instruments)と協力する と明らかにし、インテル主導のモバイル WiMAX エコシステムにはどめをかけている。2007 年 1 月、モトロー ラは TI と 3G、モバイル WiMAX チップの共同開発に向けた戦略的提携を締結した。モトローラは TI のチッ プセットをモバイル WiMAXの顧客宅内装置(CPE)に搭載する計画であり、2008 年からは低価マルチメディ ア端末にも TI のチップを搭載する計画である。 スプリント・ネクステルがインテルチップが搭載された CPE を使うと予想されてきたが、主力供給メーカー に選定されたモトローラが TI とチップセット開発に向けた提携を締結したことでインテルの役割とポジション に変化が生じると思われる。またサムスンも独自に WiMAX チップを開発しており、ノキアの場合、チップ供 給先は公開しなかったが、長年にわたる TI との協力関係を維持しているという点でインテル主導のエコシス テムの変数となっている。 アルカテルは、インテルと WiMAXの商用化と共同技術開発に向けた提携を締結するなど、他の設備メー カーに比べて、比較的に積極的な姿勢を堅持している。同社は GSM、3G、WiMAX に対応できるマルチ標 準の基地局を開発することで、事業者が共通プラットホームにどのような技術を選択して対応するかを選択 できるようにすると明らかにした。アルカテルは 3GSM の期間中に、インテルと提携を締結、802.16e 標準の 承認と両社製品の互換性確保、モバイル WiMAX マーケティング部門で協力している。 しかし、最近アルカテルがフランス WiMAX チップセット開発メーカーである Sequans Communications(以 下、Sequans)に 2、400 万ドル以上の金額を投資したことが伝えられ、一部ではアルカテルもインテル以外 に多様なベンダーとの提携を推進しているのではないかと分析している。特に今回のアルカテルの投資を きっかけに WiMAX チップセット市場が「インテル vs.小規模ベンダー連合」に変化する可能性も予想されて WB マーケティングレポート Vol.2 モバイル WiMAX ベンダーの国際戦略と無線ブロードバンド市場拡大のシナリオ 80 いる。これはアルカテルのようなメジャーベンダーが迅速な設備発売のためインテル以外の多様なチップセッ ト供給先を確保するため取り組んでおり、小型ベンダーが携帯電話向けの低電力小型 チップを素早く開発 しているためでもある。 一方、アルカテルに買収されたルーセントは Alvarion と提携し、WiMAXプラットホームを次世代のコンバー ジェンス・ソリューションに追加すると決定した。WiMAX を 3G および固定ネットワークを補完する技術に位 置づけ、自社の IMS(IP Multimedia Subsystem)ベースのソリューションを強化し、WiMAX、3G、WiFi、固定 ネットワーク間の持続的な互換が可能なコンバージェンス・ソリューションを通信事業者に供給する計画であ る。Tier2 級のベンダーである Alvarion はルーセントの他もアルカテル、Datang Telecom、シーメンスなどの パートナーに WiMAX 設備を OEM 方式に供給している。 モバイル WiMAX 端末部門では、UMPC(Ultra Mobile PC)やスマートフォンなどに WiMAX を利用できる ようにする技術開発が、チップセットメーカーと端末メーカーを中心に活発化している。インテルとノキアは、 共同でモバイル WiMAXの商用化に向けた研究を進めている。ノキアは WiMAXに対応する「Tablet PC 770 モデル」を発表した。 一方、ノーテルは韓国の LG 電子と合弁会社 LG-ノーテルを設立し、会社を上げて技術協力に取り組ん でおり、WiBro とモバイル WiMAX を狙ったソリューションを発売している。2006 年初に WiBro の試作品を披 露したが、LG・ノーテルの設備は韓国 WiBro 市場のみならず、世界のモバイル WiMAX 市場を狙っている。 ②ベンダー間の提携関係変化の原因 モバイル WiMAX が市場の中心となったことにより、インフラベンダーの提携戦略に変化が起きている。ま ず、Tier1 ベンダーがモバイル WiMAX 設備を直接に開発・生産するようになり、固定系設備に力を入れて きた Tier2ベンダーと提携する必要性が少なくなっている。インフラベンダーよりはチップセットベンダーやオ ペレータとの提携を通じて、確実なチップセット供給先と製品需要先を確保することが競争力を高める鍵と なっている。例えば、モトローラが TI とチップセット開発に協力し、サムスンとアルカテルがそれぞれ Beceem と Sequans に投資している。 一方、インフラベンダー間の提携は基地局や制御局などの特定設備を専門的に生産するメーカーの登 場とともに、Tier1 ベンダーと Tier2 ベンダーが役割を分担する形で現われる可能性が高い。今までのように Tier2 ベンダーが Tier1 の OEM を生産するのではなく、多くの Tier2 ベンダーが Tier1 ベンダー設備の特定 モジュール生産を担当する形の提携関係が登場すると思われる。また、長期的にはモバイル WiMAX 市場 が拡大されれば、規模の経済効果を狙う Tier1 ベンダー間の合従連衝が現れる可能性もある。 第3章 モバイル WiMAX エコシステム 81 (3) ベンダーとオペレータとの提携の現状 ①提携の意味 モバイル WiMAX ベンダーとオペレータ間の提携の現状が重要な理由は、インテルが主導しているモバ イル WiMAX エコシステムの中心である同時に、グローバル市場の拡大と形態を予想するバロメーターであ るからだ。実際、スプリント・ネクステルのモバイル WiMAX 商用化はグローバル拡大の重要なきっかけとな り、ベンダーがモバイル WiMAX 事業を通じて、収益を得られるということも証明した。それだけでなく、今後 のモバイル WiMAX 事業でのオペレータとベンダー間提携の先例となった。 このために、現在モバイル WiMAX 採用を発表したオペレータの内、注目に値する事例はまさにスプリン ト・ネクステルである。スプリント・ネクステルのモバイル WiMAX 商用化に参加したベンダーとしてはモトロー ラとサムスン、インテルが 第 1 次に選定され、その後、ノキアも設備供給メーカーに選定されたことで、世界 3 大の端末メーカーがスプリント・ネクステルのモバイル WiMAX 設備を供給するようになった。 スプリント・ネクステルとの提携を通じてノキアは主なインフラの設計と端末を、モトローラは次世代 WiMAX 端末向けのモバイル WiMAX チップセットを開発すると明らかにした。一方、サムスンは、UMPC と PMP を含 めた 6 種の WiMAX 端末を供給することとなり、WiMAX チップセット事業にも参入する予定である。 ②主なベンダーの動向 今まで、明らかになった主要ベンダーとオペレータの提携関係は、メジャーベンダーとオペレータを中心 である。しかしこの以外にも提携を進めているベンダーとオペレータもあと推定される。もちろん、設備供給 の契約が最も確実な提携関係であるが、今後のモバイル WiMAX 市場が成長するほど、技術開発や R & D などの多様な形の提携関係が現れると思われる。 インテルの場合、スプリント・ネクステルとの提携に引き続き、欧州の事業者 6 社と技術供給を協議してい ると伝えられている。イギリスの週刊誌「The Business」誌の報道によると、インテルは数十億ドルが必要な WiMAX サービス開始に当たり、欧州事業者に投資する計画を持っている。実際に西欧州インテル Capital の関係 者はロシアおよび中東移動通信キャリア Orascomはもちろん、東部欧州事業者とも議論していると明らかに した。一方、インテルはアメリカの Clearwire に 6 億ドルの資金を投資して、モトローラとともに Clearwire の設 備供給ベンダーとしての立地を固めた。 モトローラは去年、米スプリント・ネクステルと Clearwire の他にもパキスタンの Wateen Telecom、バングラ デシュの Agni Systems、カナダの Bell Canada-Rogers の合弁会社と WiMAX 設備部門で提携を結んだ。ま た、2007 年 1 月にはマレーシアの通信事業者 Maxis とマレーシア初のモバイル WiMAX テストを実施した。 WB マーケティングレポート Vol.2 モバイル WiMAX ベンダーの国際戦略と無線ブロードバンド市場拡大のシナリオ 82 サムスンの場合、スプリント・ネクステルの他にも 2005 年 11 月、イタリアの最大通信事業者テレコム・イタ リアと WiMAX システムおよび、端末供給に向けた戦略的な提携を締結した。サムスンはテレコム・イタリアに PDA 型の WiMAX 端末 50 台とノート PC 搭載向けの PCMCIA カード 30 枚を提供する。また、2007 年の 2 月に南アフリカ共和国の Altech 社、1 月にサウジアラビアの 2 位データ通信事業者である BAYANAT、去年 12 月にブラジルの WiMAX 事業者 TVA、5 月にはクロアチア固定事業者 H1 と WiMAX 設備契約を結び、 欧州・アメリカ・南米・中東・アフリカ市場に拠点を確保した。 スプリント・ネクステルの入札に参加したが、モトローラとサムスンに負けたノーテルは、去年 12 月、台湾 Chunghwa Telecom とモバイル WiMAX ネットワーク設備供給の契約を締結した。この設備供給契約はノー テルが IP 系インフラ設備市場に力を入れると宣言した後、初めての成果であった。ノーテルは Chunghwa Telecom に MIMO 技術が搭載された 802.16e Wave 2 基地局と Access Service Network Gateways、CPE、ネットワー ク管理プログラム、ネットワーク統合及び、最適化サービスを提供することになる。また、日本の「National Broadband Connectivity 2010」試験サービス事業に参加して Toshiba と提携を発表、WiMAX 基地局及びターミナル、 エンジニアリングサービスを提供する予定である。 アルカテル・ルーセントは 2007 年の 2 月中旬、ドミニカ共和国の無線ブロードバンド事業者 ONEMAX と モバイル WiMAX 提携を進め、カリブ海最初の WiMAX ネットワークを構築するようになった。この契約によ り、アルカテル・ルーセントはサンディエゴ地域に 3.5GHz ベースの WiMAX 設備を提供する。ONEMAX は 2007 年第 3 四半期に商用サービスを開始する予定である。 また 2006 年 10 月には、テリア・ソネラの子会社である、エストニアの Elion Enterprises と提携、Tallinn 地 域を中心に WiMAX ネットワークを構築中である。もしアルカテル・ルーセントがすべてのテリア・ソネラの子 会社と提携を結ぶようになれば、北部及び中欧州地域の代表的な WiMAX 供給ベンダーになる可能性が 高いと思われる。 ●表42 主なベンダーとオペレータ間のWiMAX提携の現状 インフラベンダー インテル モトローラ ノキア サムスン ノーテル アルカテル・ルーセント オペレータ Sprint Nextel、 Clearwire、 Orascom、 Pipex Sprint Nextel、Clearwire、Bell Canada-Rogers合弁会社 、 Wateen Telecom、 Agni Systems、 Maxis Sprint Nextel Sprint Nextel、 KT、 Telecom Italia、 TVA、 H1、 BAYANAT Chunghwa Telecom WiMAX Telecom、 Elion Enterprises、 ONEMAX 出典:ATLAS Research Group 第3章 モバイル WiMAX エコシステム 83 (4)モバイル WiMAX を採用したオペレータの動向 ① KT の動向 ・WiBro サービスの概要と現状 韓国における WiBroサービスの開発は、1998 年 KT とハナローテレコムが WLL(Wireless Local Loop)サー ビス向けに割り当てられた 2.3GHz 向けを再指定したことで始まった。 WiBro 事業者の選定当時、KT はすでに WiBro 関連技術に対し数回のテストを行い、WiBro 事業関連の 協議体を主導するなど積極的に事業準備をしてきた。グループ内部でも新成長事業として WiBro を選定し て、WiBro 事業への強い意志を示していた。KT は WiBro が移動通信市場に参入できる絶好の機会だと考 えていたわけである。 KT は 2005 年 10 月釜山で開かれた APEC 首脳会談で初めて WiBro サービスのデモを披露した。2006 年 4 月 3 日からは WiBro 試験サービスを開始し、これを機に WiBro を無線 LAN、移動通信サービスとは異 なるサービスとしてアピールしようとする意思を示した。データのニーズが高い大都市 38 の地域だけにサー ビスを提供、VoIP も除いて最初から徹底的にデータ中心サービスであることをアピールする戦略を採った。 2006 年 6 月、KT は世界初の WiBro 商用サービスを開始した。 しかし商用サービスは、①一部の都心部に限定されたカバレッジ、②ノート PC に挿す PCMCIA カードだ けが発売されたため、本人のノート PC が必要、③インターネット機能以外、差別化されたキラーアプリケー ションサービスがない、④消極的なマーケティングにより認知度が低い――などの理由から、中途半端なサー ビスとの評価を受け、1 月現在加入者が 1700 人にとどまり、初期の市場活性化には程遠い結果に終わった。 KT は、首都圏にカバレッジが拡大される 2007 年 4 月からソウル全域と首都圏の主要都市で、本格的な WiBro のマーケティングを展開する計画である。年末まで加入者 20 万人を確保し、2007 年を WiBro 事業 のターニングポイントにすると自信を見せている。同社はこれに向け、USB モデムやスマートフォンなどの端 末ラインアップを強化する予定であり、流通網も強化している。 WB マーケティングレポート Vol.2 モバイル WiMAX ベンダーの国際戦略と無線ブロードバンド市場拡大のシナリオ 84 ●図30 KTのWiBroサービス・マイルストーン(2002~2008年) ●図31 KTの WiBro 加入者数現状(2006.09vs.2007.01) 出典:E-DAILY、2006.09.19/Digital Daily、2007.02.06 ② WiBro 商用サービスの現状 ・カバレッジと端末 KT の WiBro カバレッジは商用サービスの開始当時、新村一帯と江南区、瑞草区、松坡区、盆唐区、盆 唐~内谷、盆唐~葬地の都市高速化道路、京釜高速道路の板橋 IC ~漢南、地下鉄盆唐線に限定された が、2007 年 4 月からはソウル全地域と一部の首都圏までカバレッジ拡大する予定である。端末の場合、商 用化時点では PCMCIA カードが唯一だったが、2006 年 11 月、WiBro 機能を内蔵した専用ノート PC「NT- 第3章 モバイル WiMAX エコシステム 85
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