ダム開発に抵抗するパナマ、ナソ民族 もし私たちに権利がないというのであれば、私は家に籠もって、建設機械が私たちのテリトリーをずたずたにしていく姿を泣きなが ら見ていることでしょう。でも私たちには権利があります。あなた方が私たちの権利を認めていないだけなのです。 ナソ民族は、コスタリカとの国境沿いの、ボカス・デ・トロ 県に居住する約 3000 人ほどの、パナマでも少数の先住 民族集団です。ナソ民族の11コミュニティはテルディ川 ( Abuela de Agua)流域に生活し、そのテリトリーの多く が自然保護区に含まれています。ナソ民族は 1973 年よ り、そのテリトリーの法的な認知(コマルカの制定)を求め ていますが、いまだ法的に承認されていません。 こうした中、テルディ川の支流のボンジック川( Rio Bonyik) に 1997 年からダム建設の話が動き始め、 2004 年からは、コロ ンビアの公営企業である Empresas Publica de Medellín ( EPM)が建設に向けての動きを本格的に開始しました。この中で、ナ ソ民族の中に分断が生み出されています。当時の伝統的な権威の長、ナソ民族の王であるティト・サンタナはいくつかの開発事 業との引き替えにダム建設を許容する方針を打ち出しました。 しかしこれに反発した人々は 2005 年 1 月 5 日に民族総会を開催し、ティト・サンタナは役を解かれ、バレンティン・サンタナが 新たな権威として任命されました。それ以来、ナソ民族に分裂が生まれ、建設を進めようとする政府や企業側はこの分裂を利用 しています。またコマルカの設定に関しても、ダム建設を条件にしようとしているのです。 更に 2007 年 10 月からダム建設のための道路工事が開始されたことから、反対派住民との対立が深化しつつあります。道路 工事を強行しようという企業に対抗して、反対派のナソ民族は建設機械の侵入に抵抗しています。しかし多数の警官が動員さ れて反対派が弾圧されるとともに、企業側は武装集団を連れてくるとともに、ナソ民族のダム推進派にも武器を渡し、反対派の 住民との対立を煽っています。ナソ民族の内部で暴力的な衝突が危惧される事態となっているのです。民族内部でこのような対 立がもたらされたことは、これまでなかったことだと言います。 また未成年も含めた逮捕、拘束後に一日以上手足に鎖をつけて拘束し、水すら与えないということすら行われました。ナソ民 族に対する民族差別が警察当局によって行われています。 ダムだけではなく、道路建設はこの地域に非常に大きな問題を引き起こす可能性 があります。まずこの地域は主として河川交通に依存し、車による外部との交通はあ りませんでした。そこにダム建設に伴い道路を建設することがもたらす地域社会への 影響ははかりしれないものがあります。川縁に近い、コミュニティの豊かな土地に道路 建設が計画されていますが、そこに居住する世帯が新たにナソ民族のテリトリーの 中に土地のなかに得られる保証はありません。また道路ができれば、地域外から放牧 地の拡大などが進む可能性も非常に高いものです。 村の近くまで迫りつつある道路建設 このように今回のダム建設計画は、ナソ民族の将来に大きな打撃を与える可能性 があります。 ボンジックの村に住むマルティナさんは、数ヶ月に渡って継続してきた道路封鎖に対して、 道路の通行を妨害したとして 2008 年 2 月 27 日に逮捕されました。夫や親戚まで銃口を 突きつけられて逮捕され、更には子どもまで拘束されたことに強い憤りを感じています。その 際、検事や人権擁護官に対して話したことを思い出しながら次のように語ってくれました。 もし私たちに権利がないというのであれば、私は家に籠もって、建設機械が私たちのテリトリーをずたずたにしていく姿を泣きなが ら見ていることでしょう。でも私たちには権利があります。あなた方がその権利を認めていないだけなのです・・・なぜ私たちに権利が あるなら、なぜその権利を行使できないのでしょう。先住民族は権利を持っています。ですから政府は私たちの問題を解決するため に取り組むべきなのですが、ここにやってきて問題を解決しようとはしていません。 (ダム建設)のプロジェクトが「開発」だというのなら、私はこんな所で検事を相手に話などしていないでしょう。このプロジェクトの せいで、私は警察に拘束され、娘も拘束され、未成年の拘置所に連れて行かれ、そんなところを知ることになり・・・もし私たちに 権利があるのならなぜ、あなた方はそれを尊重しないのですか。 魚、私たちは魚で生きています。ダムで水は汚染されないというけど、魚はみんないなくなることでしょう。だってボカ・チカ(在来種 の魚の一種)はタービンを抜ける事はできません。木だって伐採されます。道路が、地面の下を、木を伐採することなく造られるの いうのですか 私たちが森を守ってきたのです。政府の環境局(ANAM)ではありません。 ANAM は私たちがトウモロコシやフリホールを栽培す るために木を切るためにはあれこれ規則を押しつけるのに、今回のプロジェクトでは 1200ha もの伐採を認めているのです。 道路ができたらどうなることか。土地を買いに山ほどの人が入ってくるでしょう。そして牧草地も開かれ、森も破壊されるでしょう。 町の人は、電気代が高い、電気が必要だといいますけど、私たちにその負担を押しつけないでください。私たちには私たちの権 利があるのです。私は一度だって、外に住みたいと思ったことはありません。もしそうならとっくにチャンギノーラ(注:近郊の町)に行 って、バナナ農園なりで働いていることでしょう。 私たちはまずコマルカを求めているのです。その後にプロジェクトの話はしてください。 いくら金が欲しいのだ、と紙をちらつかせました。私たちには何も価値がないみたいに。『インディオ』はまるでお金の前に何でも渡 すみたいに・・・お金は今もないし、きっと明日も全然お金などないことでしょう。でも、私たちにはこのテリトリーがあります。ここで私 は死んでいくことでしょう。でも子どもや孫はここで生き続けていくのです。私たちがこのプロジェクトを認めてしまったら、若者たちの未 来はどうなるのでしょうか。( 2008/6/11 インタビュー) ナソ民族は自分たちの声を伝え、政府と交渉し、このプロジェクトの見直しを要求していく方針です。コマルカを承認させ、その 上で自分たちの未来を自分たちで決めていくことを求めています。 開発と権利のための行動センターでも、微力ながらもこの動きを支援していきたいと考えています。 今動けば、ナソ民族の未来は変わるかもしれない! ナソ民族の権利確立支援カンパは下記口座までお願いします。 ◆郵便振替口座:00230−5−131472 ◆口座名 :開発と権利のための行動センター (通信欄に「ナソ」と指定ください)
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