(参考資料4) リスク源としてのマスメディア -広告の悪影響とその対策- Mass Media as a Huge Source of Risk 掛谷 英紀 * Hideki KAKEYA Abstract. In this paper the author analyzes several examples where the mass media have played active roles in damaging people’s lives. It is generally believed that the mass media play the role of preventing social damages by telling correct information of risks and giving proper warning to the public. In reality, however, commercialism often leads the media to become the very subjects who ruin the social welfare in Japan. They often help illegal business to expand by accepting them as their sponsors and letting their commercial messages spread. For example major TV stations in Japan have frequently broadcast misleading commercial messages by consumer finance companies despite of the protest by the victims of those companies. As for newspapers, major quality papers in Japan have accepted advertisement of the publishers who sell books telling false stories on the medical effect on cancers and have gained large profit by deceiving the patients. Though the media have earned enormous amount of money by these advertisement assisting illegal businesses, the responsibility of the media has rarely been discussed as a major social issue. In this paper the author measures the amount of the damage caused by the commercial messages of the illegal businesses and discusses the countermeasures to these misconducts by the media. Key Words: Mass Media, Advertisement, Commercial Message, Illegal Business, CSR 1.はじめに 最近、企業において、CSR(企業の社会的責 任)に積極的に取り組むところが増えている[1]。 その背景には、相次ぐ企業不祥事に対して、世の 中の見る目が厳しくなっていることが挙げられよ う。企業にとって、CSRへの取り組みは、レピ ュテーションリスクを回避する有効な手段となる。 また、消費者にとっても、CSRの取り組みが盛 んになることは、企業が消費者や社会を危険に晒 すリスクを低減することにつながる。CSRがそ のように機能すれば、企業と消費者がWIN-W * 筑波大学(University of Tsukuba) INの関係を構築できることになろう。 世間の企業に対する厳しい目を醸成する上で、 マスメディアの役割は極めて重要である。不祥事 が企業の利益を大きく損ねるほどのリスクになる には、マスメディアがその不祥事を広く世間に伝 え、消費者の購買行動に影響を与えることが必要 となる。よって、CSRに積極的に取り組む社会 的機運を高める上で、マスメディアが果たしてき た役割には一定の評価を与えてしかるべきだろう。 しかしながら、CSRを語る上で、マスメディ アが内包する負の側面も大きいことは見過ごせな い。最も大きな問題点は、マスメディアの批判報 道の対象が限定されていることである。そのため、 マスメディアによる批判を免れる企業については CSRの考え方が十分定着しないという問題が生 じている。 具体的には、マスメディアのスポンサー企業が 不祥事をおこした場合、その他の企業の不祥事に 比べ、その取り扱いを小さくする傾向がある。さ らには、不法行為を行っている企業広告を積極的 に受け入れることで、マスメディアは時にスポン サー企業の不法行為による被害拡大を助長する結 果となっているケースも少なくない。消費者金融 のCMの氾濫、あるいはタイアップ商法を行った 出版社広告の積極的受け入れなどがその代表例で ある。また、マスメディア自身の不祥事について は、マスメディアはできるだけ伝えないようにす る傾向も顕著である。 このようなマスメディアの商業主義による悪影 響は、社会問題化してもおかしくないが、実際に それがマスメディアの責任論に発展することはな い。マスメディアは自分自身の不祥事については、 それがたとえ重大な不祥事であっても大きく報道 することはしない。そのため、マスメディアの不 祥事に対して、世論の厳しい目が向けられない状 況をメディア自身が作り出しているのである。 本論文では、このようなマスメディアの悪影響 を定量的に評価することを試みる。まず、第2章 においては、過去に筆者らが行った、企業の脱税 事件の新聞報道における、スポンサー企業・非ス ポンサー企業間の報道量の差異の調査結果をレビ ューし、マスメディアにおけるスポンサー企業へ の配慮の実態を示す。続いて、第3章においては、 マスメディアの広告が不法行為の被害を助長した 例として、史輝出版によるタイアップ商法への新 聞社の寄与、および消費者金融のテレビCMの影 響の評価を行う。第4章で上記の問題を解決する 方策について考察を行い、第5章で本論文をまと める。 2.スポンサー企業への配慮 従来から、マスメディアの報道にスポンサーへ の配慮が見られることは、多くの人が指摘してい る。たとえば、住基ネット導入時、自治体をネッ トで繋ぐことによる危険性がマスメディア上で盛 んに論じられ、ついには住基ネットから脱退する 自治体まで現れるに至った。しかしながら、実際 のところ、民間企業が有している情報の方が、商 売上の情報価が高いものが多い。そのため、当時 から専門家の間では、住基ネットよりも民間企業 からの情報漏洩のリスクの方が高いという考え方 が一般的であった。ところが、その種の意見はマ スメディアには完全に無視された。 実際には、住基ネット開始直後のYahoo! BBやジャパネットたかたの例に代表されるよう に、民間企業からの情報漏洩が相次いでおり、現 在ではその種の報道が日常化するに至っている。 このように、より深刻な民間企業の個人情報漏洩 のリスクを報じなかった背景には、スポンサー企 業に対するマスメディアの配慮があったと推察す ることができる。 しかし、スポンサーへの配慮があったのではな いかと想像される事例を個々に積み上げることは できても、それはあくまで個別のケースであり、 邪推あるいは例外として片付けられることが多い。 より客観的な議論をするためには、スポンサーで あることが不祥事の報道量にどの程度影響を与え るかを定量的に評価することが必要である。 しかし、このような評価が困難な背景に、事件 規模の評価の難しさがある。当然ながら、報道量 は事件の規模が大きくなるほど増えると予想され る。であるから、スポンサーと非スポンサー企業 の不祥事報道量を比較するには、事件規模が同じ もので評価しなければならない。つまり、事件規 模に関する客観指標がない限り、スポンサーへの 配慮を定量評価することはできないことになる。 この問題を解決する方法として、渡邊、半澤、 掛谷は、企業による法人税脱税事件に限定して報 道量を比較する調査研究を行った[2]。法人税脱税 事件においては、脱税額、所得隠し額、追徴額な ど、事件規模を数値化する客観指標が存在してい る。よって、事件規模の指標をX軸、報道取り扱 い量をY軸として、個々の脱税事件をプロットし たとき、スポンサー企業も非スポンサー企業も同 じ回帰直線上にデータが存在していれば、新聞社 はスポンサー企業に配慮していないということに なり、異なる回帰直線上にデータがあれば、スポ ンサーと非スポンサーで違った対応をとっている ことが示されることになる。 もちろん、報道量は事件規模のみに依存するわ けではない。同じ日に別の大事件があれば、同規 模の事件であっても、報道の取り扱いが小さくな るなどの影響は存在する。しかし、これはスポン サー、非スポンサーの違いとは独立の変数である と考えられ、ガウシアンノイズとして回帰直線か らのずれを生じさせる要素の一つであると見なす ことができる。 実際、以下に渡邊らの研究結果の詳細を記す。 同研究は、1999年1月から2005年の6月 まで、計6年半の朝刊・夕刊について調査を行っ ている。渡邊らは、この期間の朝日新聞と読売新 聞の記事データベースから「脱税」 「申告漏れ」 「所 得隠し」のいずれかが本文中に含まれる記事を全 て収集し、そのうち、企業の法人税脱税事件の第 一報のみを抜き出し、それらについて企業名、事 件規模(申告漏れ額、追徴額など)、記事の掲載面、 記事の文字数データを抽出し、得られたデータベ ースに対して検討を加えている。 同研究では、まず、脱税記事として取り上げら れた企業を新聞広告掲載量上位企業・雑誌広告掲 載量上位企業・その他有名企業(上場またはそれに 準ずる企業)・それ以外の企業の44つのグループ に分類している。この中の新聞、雑誌の広告掲載 上位企業へ分類した企業は2002年~2004 年の新聞、雑誌広告出稿量(段)上位100社に 含まれる企業としている。ここで、雑誌広告掲載 量上位企業を1つのグループとして分類したのは、 雑誌の中には新聞社系列の雑誌が存在するため(2 270誌中34誌)、雑誌広告に関してもスポン サーの傾向が見られる可能性があるという仮説に 基づいている。また、有名企業とそれ以外の企業 を分けたのは、有名な企業の脱税事件ほどニュー スバリューが高いため、より大きく報道される可 能性があるという仮説に基づいている。 記事検索サービスによって得られたデータベー スのうち、申告漏れ額が記載されている記事は計 321件(うち新聞広告企12件、雑誌広告企業 16件、その他有名企業80件、それ以外213 件)、追徴額が記載されている記事は計195件 (うち新聞広告企業11件、雑誌広告企14件、 その他有名企業74件、それ以外96件)であっ た。渡邊らは、各カテゴリについて十分なデータ 量が得られたこの2つの数値を事件規模の指標と して解析を行っている。 一方、報道量を定量評価するために、渡邊らは 負の広告料金という概念を導入している。これは、 新聞記事の文字数を面積に換算するとともに、記 事がどの面に掲載されたかを抽出し、同じ面積の 広告をその面に出したとするとどの程度の広告料 金を支払う必要があるかを、報道取り扱い量の指 標としている。 以上で、事件規模の定量化と報道量の定量化が 可能となったので、これに基づきスポンサー企業 と非スポンサー企業間で脱税事件の取り扱い量に 差があるかどうか回帰分析により統計的に評価す ることが可能となる。 ただし、ここで留意すべき点として、モデル選 択の問題がある。統計的な検定を行うには、ある モデルを仮説として立てることが必要になるが、 そのモデル選択の段階で恣意的な操作が行われる ことが考えられる。実際、社会学や女性学の分野 では、その種の恣意的統計操作が頻繁に見られる ことについては、既に多くの指摘がある[3,4,5]。 このような恣意性を回避するため、渡邊らは、 4分類された企業を実際どのように分類するかに ついて、 (1) 1分類モデル(全て同じカテゴリ) (2) 2分類モデル(新聞・雑誌広告上位を1分 類、それ以外を1分類) (3) 3分類モデル(新聞・雑誌広告上位を1分 類、その他有名企業を1分類、その他非有 名企業を1分類) (4) 4分類モデル(新聞広告上位、雑誌広告上 位、その他有名企業、その他非有名企業を それぞれ1分類ずつ) の4通りのモデルを考えるとともに、事件規模の スケーリングについても、金額そのままを用いる ものと、金額の対数をとるものの2通りを考え、 計8種類の回帰モデルをモデルの候補とした。そ の上で、それらのモデルのうちAICが最小(未 知データに対する予測力が最も高い)になるもの を最適なモデルとして採用している。 渡邊らの分析では、読売新聞におけるAIC最 小モデルは、申告漏れ額についても追徴額につい ても1分類対数モデルとなっている。つまり、企 業の種別によらず同じ回帰モデルとして取り扱う のが最も予測力の高いモデルとなっている。これ は、スポンサー企業、非スポンサー企業、有名企 業、無名企業といった違いによって取り扱う報道 量を差別していないことを意味する。 一方、朝日新聞については、申告漏れ額につい ては図1に示す3分類対数モデル、追徴額につい ては図2に示す2分類対数モデルがAIC最小と なっている。申告漏れ額について各分類の回帰直 線を比較すると、広告上位掲載企業の脱税事件に おける報道量が最も小さくなり、ついで非有名企 業の報道量が小さく、スポンサーではない有名企 業の脱税事件の報道量が最も多くなっていること が分かる。一方、追徴額について回帰直線を比較 すると、ここでも広告上位掲載企業の脱税事件は、 それ以外の企業の脱税事件に比べ報道量が小さく なっていることが分かる。 2分類モデルとなった朝日新聞における追徴額 に関する分析について、全てのデータが非スポン サー企業(広告上位企業以外)の回帰モデルに従 うという仮説を帰無仮説、スポンサー企業(広告 上位企業)のデータはその回帰モデルより低く値 を示すという仮説を対立仮説としてt検定を行っ たところ、t=0.012(片側検定)となり、両者に統 計的に有意な差があることが確認された。 800 万 600 円 400 200 0 -1 A 新聞広告上位掲載量企業 B 雑誌広告上位掲載量企業 A,B 切片:115.4 傾き:39.5 0 1 2 800 万 円 600 3 C その他有名企業 C 切片:110.9 傾き:85.9 400 200 0 -1 0 1 2 800 万 円 600 400 200 0 -1 3 D D それ以外の企業 切片:113.8 傾き:50.4 0 1 2 3 Y軸:負の広告料[万円] X軸:申告漏れ額の対数[log10(億)円] 図1 企業脱税事件における申告漏れ額と朝日新 聞の報道量の関係を記述する AIC 最小の回帰モデ ル[2] 万 円 1000 800 A 新聞広告上位掲載量企業 B 雑誌広告上位掲載量企業 A,B 600 400 200 0 -1 0 万 円 -1 切片:85.7 傾き:66.4 1 2 1000 800 600 400 200 0 3 C その他有名企業 D それ以外の企業 C,D 切片:146.0 傾き:82.9 0 1 2 t検定(片側)の結果:p=0.012<0.05 3 Y軸:負の広告料[万円] X軸:追徴額の対数[log10(億)円] 図2 企業脱税事件における追徴課税額と朝日新 聞の報道量の関係を記述する AIC 最小の回帰モデ ル[2] 3.不法ビジネス広告の悪影響 前章で紹介した研究は、広告主への配慮が新聞 社の公平性の欠如を招くことを示すものではある が、広告主への配慮自体により、市民に対して直 接的な危害を与える例とはいえない。そこで、本 論文では、マスメディア自体がリスク源になって いる例として、不法ビジネスの広告塔としてテレ ビコマーシャルや新聞広告が機能している例を取 り上げ、その影響を評価する。 広告主の不祥事の過小報道は、マスメディアの 商業主義の一つの表れであるが、その商業主義が さらに行き過ぎると、社会的に悪影響のあるCM でも広告収入のためならば受け入れるといったこ とがおこる。その最たる例が、史輝出版とミサワ 化学による「アガリクス」タイアップ商法の新聞 広告である。 まず、この事件のおさらいをしておく。ミサワ 化学の販売するアガリクスがガンに効いたとする 体験談を史輝出版していた。ミサワ化学自身がア ガリクスはガンに効くと言った場合、これは薬事 法違反になる。そこで、ミサワ化学の代わりに史 輝出版が体験本を出版するという形で宣伝を行っ たのである。実際は、ミサワ化学と史輝出版はグ ルで、史輝出版の広告費をミサワ化学が肩代わり するなどの関係があった。また、史輝出版の本に 書かれていた体験談もライターによるでっち上げ であったことが判明した。結果的に、2005年 10月、両者とも薬事法違反で摘発され、関係者 が逮捕・起訴されるに至った。 史輝出版の体験本の広告手段として使われたの が新聞広告である。この史輝出版が新聞広告に注 ぎ込んだ金額は大きい。エム・アール・エス広告 調査株式会社の公表している調査結果[6]による と、新聞広告出稿量上位100社ランキングにお いて、史輝出版は2002年に57位、2003 年に85位にランクインしている。2003年の 推定広告費は4.3億円に上る。毎日新聞の報道 によると、ミサワ化学は2001年12月からの 3年余りでアガリクスを約20億円売り上げたと されている。1年あたりの売上げが7億円弱であ るから、この事件で新聞広告の占める比重は極め て大きい。 このように、新聞が間接的に関与した事件であ るにも関わらず、新聞社からこの件に関する反 省・謝罪等は一切発せられていない。 広告を通じた社会的悪影響は、新聞だけではな くテレビにも存在している。その典型例が消費者 金融のCMである。2006年、アイフルの違法 な取立てが明らかになり、CMが自粛されるに至 った。2003年に発覚した不祥事で、武富士も CM自粛となっていたが、それまでは、1993 年(平成5年)の消費者金融のCM解禁以降、そ のCM本数は図3に示すとおり右肩上がりで増加 してきたのである。特に、ゴールデンタイムでの CMが解禁となった1999年(平成11年)以 降、自己破産の件数増加は消費者金融のCM本数 の増加に見事に連動していることが分かる。もち ろん、自己破産の数は、景気の動向にも大きく左 右される。実際、消費者金融は、不況で増えたニ ーズを埋めたにすぎないとの弁明がしばしばなさ れる。そこで、失業率や倒産件数のデータもグラ フに重ね合わせているが、これらの指標は自己破 産の数とはあまり連動していない。よって、消費 者金融のテレビCMの影響が自己破産の増加に極 めて大きく寄与しているとの判断は妥当であろう。 実際、2006年3月発表の国民生活センター 「多重債務問題の現状と対応に関する調査研究」 [7]によると、借り入れを決めた宣伝の種類として テレビコマーシャルを挙げる人が6割に上ってい る。また、多少古いデータになるが、池野は、消 費者金融のCMの伸びに連動して貸出残高が急増 しており、さらに自己破産の約8割は消費者金融 関連であることを紹介している[8]。 250 200 系列1 150 サラ金CM本数 系列2 自己破産件数 系列4 系列5 失業者数 系列6 倒産件数 100 平成11年を 100とした値 50 0 14 25 36 47 58 69 10 13 11 14 12 15 13 16 14 17 (平成) 7 811 12 9 10 図3 消費者金融のCM本数(ビデオリサーチ調 べ)、自己破産件数(最高裁集計)、完全失業者数 (総務省統計局労働力調査)、倒産件数(東京商工 リサーチ調べ)の推移 4.考察 以上、マスメディアの広告が違法なビジネスの 宣伝を通して市民に大きな被害をもたらしている ことを示したが、マスメディアの側からもいくつ かの言い分が考えられる。 一つの意見として、いちいち広告の中身までチ ェックできないという見解があろう。しかし、新 聞社には広告審査部門が備わっている。実際、新 聞社は自社を批判する雑誌の広告掲載については しばしば拒否という態度をとっている。 「アガリク スがガンに効く」という宣伝文句についても、そ の信憑性について広告掲載前に医療関係者に相談 するなどの対応がとれたはずである。少なくとも、 広告の横に、 「この広告の内容に、十分な医学的根 拠はありません」といった但し書きを入れるなど の対応も考えられたであろう。それを怠った新聞 社の社会的責任は厳しく問われてしかるべきであ る。 一方、消費者金融のテレビCMの場合はどうで あろうか。このケースも新聞の場合と同様、消費 者金融の実態までチェックできないとの言い訳は あるだろう。しかし、2006年4月に金融庁が アイフルに業務停止命令を出し、CMが自粛にな る前から話題となっていた。2005年4月の段 階で、アイフル被害対策全国会議が発足し、近畿 財務局宛に行政処分の申し立てを行っていた。ま た、同会議は、2005年9月の段階で、テレビ 局に広告中止を申し入れている。にもかかわらず、 テレビ局はその申し入れに全く応じなかったので ある。その意味で、消費者金融の実態とはかけは なれたイメージアップ広告を作り続けた広告代理 店、そしてそれを流し続けたテレビ局の責任は重 いといわざるをえない。 なかでも、広告代理店の悪徳ぶりを示すものと して、次のような事例がある。ジャーナリスト須 田慎一郎の著書『下流喰い』[9]の記述によると、 同氏がある夕刊紙でメガバンクと消費者金融が手 を組むことに対する批判記事を書いたところ、大 手広告代理店が同夕刊紙の親会社に対し、広告出 稿を全面的にストップすると圧力をかけてきたと いうエピソードがあったとされている。 冒頭でも述べたとおり、最近、企業経営におい てCSRという言葉が盛んに使われるようになっ ている。通常のCSRの視点からすると、タイア ップ商法における新聞社の責任も、消費者金融C Mにおけるテレビ局の責任も厳しく問われてしか るべきで、新聞社やテレビ局、そして広告代理店 は、被害者救済に協力するとともに、今後同じ過 ちを繰り返さないような対策を行う必要があると 判断されるだろう。しかし、マスコミ業界にその 動きは全くない。実のところ、一般企業のCSR も、マスメディアの批判に耐えうるように、社会 的責任を果たしていることをアピールするという 面がある。しかし、マスメディア自身はマスコミ 対策をする必要がない。そのため、マスメディア は最もCSRが欠落する業種となっているのであ る。その意味で、今後も新聞社やテレビ局が違法 なビジネスの広告を垂れ流し続けることは十分予 想される。 では、このマスメディアをリスク源とする問題 に対して、市民はどう対処すればよいであろうか。 マスメディアの広告を安易に信用しないというメ ディアリテラシー教育を学校教育に取り入れるこ とも一つの解決策として考えられる。しかし、こ れは学校教育を終えた世代に対しては効力を発揮 しない。 より強力な対策として考えられるのが、テレビ の場合、視聴者側がテレビ受信機に対して有害な CMを強制的にブロックするように設定できるオ プションを追加することが考えられる。具体的に は、テレビCMのうち、自らが、あるいは自らが 信頼するある団体が好ましくないと判断したCM を別のCMと自動的に差し替えてくれるようなテ レビ受信機を用意すればよい。有害CMを判定す る団体については、視聴者が複数の団体から任意 に選択できるようにすることで、特定の団体に権 力が集中することを防ぐことができる。あるいは、 団体を指定する代わりに、SNS的な発想で友人 ネットワークの評価を参考にしてブロックするC Mを決定するという方法をとることも可能である。 この方法であれば、マスメディアや広告代理店が、 有害CM認定団体に圧力をかけることで評価を捻 じ曲げるといった被害を避けることができる。 CMブロック機能を実現するための要素技術に ついては、現在著者らも研究を進めているところ である[10]。 5.まとめ 本論文では、マスメディアが不法なビジネスを 行っている企業の広告を積極的に取り扱うことに より、市民が受けている被害について分析を行っ た。タイアップ商法における新聞広告の影響、消 費者金融による自己破産の急増を例にとって分析 し、ともに新聞・テレビ局による広告の悪影響が 大きいことが示された。有害広告から消費者が自 らを守る防御手段を整えていくことが今後の課題 となる。 参考文献 [1] 梅田徹(2006): 企業倫理をどう問うか グローバル化 時代の CSR.NHK ブックス. [2] 渡邊高郎, 半澤光希, 掛谷英紀 (2005): 企業不祥事に おける報道量の予測, メディア情報検証学術研究会 2005 講演論文集, pp.41-45. [3] 谷岡一郎(2000): 社会調査のウソ リサーチ・リテラシ ーのすすめ,文春新書. [4] 赤川学(2004): 子どもが減って何が悪いか,ちくま新書. [5] 掛谷英紀(2005): 学問とは何か:専門家・メディア・科 学技術の倫理,大学教育出版. [6] MRSAD Research, http://www.mrs-ads.com/mrsrep/ [7] 国民生活センター(2006): 多重債務問題の現状と対応 に関する調査研究 [8] 池野高理 (2002): サラ金の経済学,大阪経大論集 Vol. 53, No. 4, pp. 53-77. [9] 須田慎一郎 (2006): 下流喰い,ちくま新書. [10] 徳田典子,掛谷英紀 (2006): 不法ビジネスによるメ ディア広告の悪影響とその対策, 第2回メディア情報検 証学術研究会講演論文集,pp.19-23.
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