第4章 三次市におけるケーブルテレビ事業の運営形態 (670kbyte)

第4章 三次市におけるケーブルテレビ事業の運営形態
第4章 三次市におけるケーブルテレビ事業の運営形態
1 運営形態の比較整理
三次市ケーブルテレビ事業は,民間事業者による市内全域整備が見込めないため,公設
民営形態で実施することとしたものである。本来であれば民間事業者による整備を期待する
ものであっても,採算上の問題から民間事業者による整備が難しい場合,必要なサービスの
提供を可能とするために地方公共団体が整備しなければならない場合があるものである。運
営形態として①民設民営(単独・支援),②公設民営,③公設公営方式を比較整理する。
図11 整備・運営方式一覧
有
①民設民営(単独)
既
設
イ
ン
フ
ラ
②民設民営(支援)
③公設民営
④公設公営
無
高
採算性
低
出典:総務省 「情報通信基盤整備モデル」より
図13のとおり,①民設民営(単独),②民設民営(支援),③公設民営,④公設公営の各
方式の区分は主に採算性で分かれることとなり,採算性が高くなるにつれ,地方公共団体の
負担は少なくなる。また,基盤となるインフラの有無(初期投資の有無)により,以降の採算
性にも影響する。
36
無
第4章 三次市におけるケーブルテレビ事業の運営形態
(1) 民設民営方式
民設民営方式は,民間の電気通信事業者が施設や設備などの整備を行い民間の電気
通信事業者が運営する方式,いわゆる通常の民間サービスである。最近では,当初設備費
又は運営費の一部を地方公共団体が支援する形もあり,民設民営(単独)と民設民営(支
援)に分類される。民設民営(支援)型と公設民営は,地方公共団体が当初設備費を負担
するという面では近似している面があるが,民設民営(支援)型では,初期導入設備の一部
の費用負担を地方公共団体が行い,設備更新以降は原則電気通信事業者が行うこととな
っている。
運営・保守
初期導入設備
行
電
気
通
信
事
業
者
費の支援
政
サービス提供
市
民
設備所有
民設民営(単独)
民設民営(支援)
37
第4章 三次市におけるケーブルテレビ事業の運営形態
(2) 公設民営方式
公設民営方式は,地方公共団体がインフラを整備し,IRU契約により民間の電気通信事業
者が貸与された設備を運用する。三次市はこの方式である。
電気通信事業者が全ての設備の減価償却費を計上・負担することにはならず,電気通信事
業者はサービス収入により通常の運営費及び維持管費を賄うことになるものである。この方式
を維持するため,電気通信事業者はIRU賃借料,運営・保守経費をサービス収入の範囲内で
賄う必要がある。そのため,IRU 契約で電気通信事業者が負担する設備使用料(IRU賃借料)
は,運営・保守経費やサービスを提供する期間を考慮し,合理的な金額にする必要がある。
設備を貸与する地方公共団体は,運営をする電気通信事業者の意向に配慮した設備設
計をする必要がある。
設備貸与
サービス提供
電
気
通
信
事
業
者
行
政
運営・保守
設備所有
38
市
民
第4章 三次市におけるケーブルテレビ事業の運営形態
(3) 公設公営方式
地方公共団体がインフラを整備し,運営まで行う形態を「公設公営方式」という。
テレビ放送,インターネット等の利用環境をすべての地域住民に提供したいと望んでいても,
民間の電気通信事業者が採算性によりサービス提供を行わない場合,地方公共団体が主
体となり整備・運営しサービスを提供する。サービス利用料は,市場価格程度に抑える必要
があるため,地方公共団体の支出負担が大きい。電気通信事業者届等が必要で,地方公
共団体の事務的負担も費用負担も大きいものとなる。運営については,地方公共団体が直
接関わる場合もがあるが,専門性が高いため指定管理で運営している地方公共団体もあ
る。
運営・保守
行
サービス提供
政
市
民
設備所有
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第4章 三次市におけるケーブルテレビ事業の運営形態
(4) 運営形態の比較
総務省作成のメリットデメリットを表18に示す。
表18 整備・運営方式パターンメリットデメリット
整備・運営方式
公設公営方式
パターン
メリット
デメリット
地方公共 団体 による
・自治体の要望するサービスが
・行政の事務的負担が大きい(さら
独自の整備
可能で,公共性が高い情報を
に電気通信事業者届等が必要)
提供できる。
・行政の整備費用負担が大きい
・料金面では,民間事業者より
(各種支援措置が利用可能)
安価な設定が可能
・整備後の管理運営に関する行政
の負担が大きい
公設民営方式
地方公共団体のインフ
・整備後の運営費用について
・行政の事務的負担が大きい
ラ設備等貸与による
行政の負担が少ない
・行政の整備費用負担が大きい
運営
・整備後の管理運営に関する
(各種支援措置が利用可能)
行政のリスクが小さい
・運営事業者の意向により事業内
・条件次第で整備したネットワー
容の制限を受ける可能性がある
クを行政サービスへ利用できる
民設民営方式(支
民間事業 者によ る整
・行政の事務的負担が小さい。
・民間事業者が長期的に運営でき
援)
備(ただし,当初整備
・行政の費用負担は当初の支
るだけの収入を確保する必要があ
費の一部を地方公共
援のみである
るため,支援する行政側での加入
団体等が負担),一定
・整備後の行政による管理運営
者確保や,加入者推計を調査する
の加入者数確保等の
の必要がない
必要がある
採算担保が取れた場
・行政サービスへの利用のためには
合に多い
別途インフラを整備する必要がある
民設民営方式(単
民間事業 者によ る独
・行政の事務的負担がない
・行政サービスへの利用のためには
独)
自の整備
・行政の整備費用負担がない
別途インフラを整備する必要がある
・行政による管理運営の必要が
ない
出典:総務省 「情報通信基盤整備モデル」より引用,一部改変
公設公営方式,公設民営方式,民設民営方式の運営上の違いを表19~21にまとめ
た。(一般的な形)
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第4章 三次市におけるケーブルテレビ事業の運営形態
表19 公設公営方式
摘
要
地方公共団体
民間事業者
条例の要・不
要
要 (現条例で適用可)
○
-
建設費用
サービス提供に必要な設備整備の費用負担
○
-
維持管理費用
運営費,補修・更新費等の費用負担
○
-
保守対応
設備保守の費用負担
○
-
事業
放 送
登録事業者
○
-
免許
通 信
認定電気通信事業者
○
-
表20 公設民営方式
摘
要
地方公共団体
民間事業者
条例の要・不
要
不要
-
-
建設費用
サービス提供に必要な設備整備の費用負担
○
-
維持管理費用
運営費,補修・更新費等の費用負担
○
△
保守対応
設備保守の費用負担
○
△
事業
放 送
登録事業者
-
○
免許
通 信
認定電気通信事業者
-
○
地方公共団体
民間事業者
-
-
表21 民設民営方式
摘
要
条例の要・不
不要
要
基本的にはなし
建設費用
サービス提供に必要な設備整備の費用負担
維持管理費用
運営費,補修・更新費等の費用負担
-
○
保守対応
設備保守の費用負担
-
○
※1
○
事業
放 送
登録事業者
-
○
免許
通 信
認定電気通信事業者
-
○
※1 民間事業者の不採算地区では,補助金等の負担を求められる場合も有り得る。
※2 △:対応することが有り得る。
2 各サービスの継続適否等の分析
三次市のケーブルテレビ事業を運営する三次ケーブルビジョンは,放送事業,通信事業と
41
第4章 三次市におけるケーブルテレビ事業の運営形態
して,5つのサービスを提供している。各サービス毎の分析を行う。
表22 三次ケーブルビジョンのサービス項目
事業領域
サービス・プラン名
⑴地上デジタ
ル放送
チャンネル等
地デジ6Ch+自主放送 4Ch
ライトプラン
広島FM・NHK-FM・RCC ラジオ
料金/月額
(税別)
1,500円
地デジ6Ch+自主放送 4Ch
■放送事業
基本プラン
BS デジタル 11Ch
(新規加入終了)
CS デジタル 15Ch
⑵多チャンネ
2,000円
広島FM・NHK-FM・RCC ラジオ
ル放送
地デジ6Ch+自主放送 4Ch
たっぷりプラン
BS デジタル 11Ch
CS デジタル 33Ch
3,000円
広島FM・NHK-FM・RCC ラジオ
⑶音声告知放送
200円
音声告知+機器登録済ラジオ局
プロバイダ料含む
⑷インターネット
(1メールアドレス容量20MB)
■通信事業
3,000円
ホームページ容量10MB)
⑸IP電話
三次ケーブルビジョン IP 電話間の
※インターネットとセット契約が必要
050番号どうしは通話料無料
500円
(1) 地上デジタル放送
放送サービスの基本となるもので,難視聴対策としての地上デジタル放送に自主放送を
加えたサービスである。地上デジタル放送事業自体は本来民間事業領域であるが,三次市
ケーブルテレビ事業は難視聴対策としての側面がある。難視聴地区では,テレビを視聴する
ためには本サービスへの加入が必須となるが,難視聴地区以外でも自主放送を目的に加入
されるケースも多い。
① サービス継続の適否
地上デジタル放送の同時再放送サービスは,難視聴対策としての側面があり,難視
聴地区での居住がある間においては,サービスを停止することはできない。現時点で,
放送については技術的な代替手段が見当らず,サービスの継続が必要である。三和
町・三良坂町の民放アンテナでは,民放4局のうち,2局しか電波送出がされていない。
ケーブルテレビサービスは市内全域をサービスエリアとしているため,アンテナ設置によ
り視聴できない場合は,ケーブルテレビに加入することで必ず視聴が可能となる。
② 法的責任
42
第4章 三次市におけるケーブルテレビ事業の運営形態
放送法第140条ケーブルテレビの義務同時再放送制度により,平成23年6月30日
付で三次ケーブルビジョンは三次市の難視聴地区への地デジ同時再放送を義務付け
られている。難視聴地区での居住がある間においては,また,他の方法で難視聴解消
ができない限り,地デジ同時再放送のサービス継続が必要である。
表23 放送法第140条
(受信障害区域における再放送)
第 140 条 登録一般放送事業者であつて、市町村の区域を勘案して総務省令で定める区
域の全部又は大部分において有線電気通信設備を用いてテレビジョン放送を行う者として総
務大臣が指定する者は、当該登録に係る業務区域内に地上基幹放送(テレビジョン放送に
限る。以下この条、第 142 条及び第 144 条において同じ。)の受信の障害が発生している区
域があるときは、正当な理由がある場合として総務省令で定める場合を除き、当該受信の障
害が発生している区域において、基幹放送普及計画により放送がされるべきものとされるす
べての地上基幹放送を受信し、そのすべての放送番組に変更を加えないで同時に再放送を
しなければならない。
※地上基幹放送・・・・・・・いわゆる地上デジタル放送
③ 経営的側面
ケーブルテレビ事業の全サービスには光ファイバーを敷設した伝送路の維持管理が
必要となる事は大前提として存在するが,本サービスのみを見た場合(光ファイバーの
維持管理を本サービスから切り離して考えた場合)には,設備更新に係る費用は極め
て少なく,利益率は良い。
(2) 自主放送
自主放送番組は三次ケーブルビジョンの放送サービスに加入することで視聴できる。
自主放送サービス単体でみると,直接収入が広告収入や三次市からの番組制作委託
料となるため,単体事業分析では赤字となっているが,実際には多チャンネル放送サービ
スを含めて自主放送番組を目的に加入されている世帯も多いと考えられ,市民への広報,
議会中継等の行政情報発信サービスや,地域のコミュニティ情報発信の役目を担ってい
る。
① サービス継続の適否
加入者に対してではあるが,市民への広報や議会中継,地域のコミュニティ情報発
43
第4章 三次市におけるケーブルテレビ事業の運営形態
信の役目を担っており,サービス停止による加入者減少,地域活力の減退に繋がること
も考えられるため,経費削減やより市民に受け入れられる内容への改善に努めつつ,地
上デジタル放送とともにサービスの継続が望ましいと考えられる。
② 法的責任
自主放送を中止することに関し法的な制約はなく,総務省への変更申請を行うことで
可能である。
③ 経営的側面
非難視聴地区でのライトプラン加入はほぼ自主放送目的の顧客と考えられ,視聴者ニ
ーズを把握した上での分析が必要である。
(3) 音声告知放送
市として,防災行政情報の伝達手段として整備を行ったサービスである。当初整備では,
旧三次市内のみのサービスであったが,平成25年度から,オフトーク及び防災無線に代
わる防災行政情報伝達手段として三次市内全域に整備を行う。
① サービス継続の適否
三次市が施策を終了しない限り継続することになる。
② 経営的側面
防災行政情報伝達を目的としており,前身となる旧三次市で三次農業協同組合が
サービス提供していた有線放送(500円+税),旧村部でNTTがサービス提供して
いるオフトークサービス※(月額300円+税)より安価な料金(月額200円+税)とな
っている。
※オフトークサービスの料金は月額600円+税であるが,半額は三次市が補助しているため,
市民の直接負担は300円+税となっている。
③ 行政の負担
市の施策であり,維持管理を含めた費用は三次市が負担する必要があると考えられ
る。ただし,他のサービス領域と混在しないよう,明確に区分する必要がある。
(4) 多チャンネル放送
難視聴対策である地上デジタル放送と,自主放送に加え,有料の民放チャンネル放送
を加えたもの。難視聴地区では難視聴対策+αのサービスとして,また,受信可能地域で
の付加サービスとして顧客を獲得している。難視聴対策が行政の役割とすると,本サービ
スは極めて嗜好性の高いサービスであり,提供するのは民間の役割であるといえる。
① サービス継続の適否
地上デジタル放送以外の部分については,三次ケーブルビジョンのサービスが終了し
ても,視聴希望者がパラボラアンテナを設置し衛星受信をすることで視聴が可能になる。
CS放送は,CS受信対応のパラボラアンテナを設置し,スカパーJSATと個別に契約を
44
第4章 三次市におけるケーブルテレビ事業の運営形態
行うことで料金は上がるが,同等サービスの利用が可能である。難視聴地区の地上デ
ジタル放送の視聴については,ライトプランへの移行が必要となる。また,ブロードバンド
サービスが提供されている旧三次市内ではNTTぷららと契約することでCS放送を視聴
することも可能である。
表24 多チャンネル放送の代替手段
提供方式
衛星放送(パラボラアンテナ)
単位:円/月
ブロードバンド
サービス内容
BS デジタル放送
CS 放送
BS・CS 放送
事業者
-
スカパーJSAT
NTT ぷらら
基本料金
-
NHK 受信料
2,280
サービス料金
-
機器レンタル料
-
合計
421
2,700
-
3,672
2,280
-
-
2,280
4,093
540
5,520
・衛星放送は別途パラボラアンテナ設置費用が発生
・CS 放送(パラボラアンテナ使用の場合)専用チューナが必要な場合がある
・ひかりTVを利用する場合,フレッツ光との別途契約が必要
② 法的責任
多チャンネル放送を中止することに関し法的な制約はなく,総務省への変更申請を
行うことで可能である。
③ 経営的側面
非難視聴地区では多チャンネル放送目的の加入者も多いと考えられ,経営に対する
影響度を慎重に分析する必要がある。なお,設備費は高額である。
(5) インターネット
ケーブルテレビ事業の目的としてブロードバンド過疎地域の解消がある。三次市周辺部
では,ADSLの申込みもできないブロードバンド過疎地域があり,それらの地区では,ケー
ブルテレビインターネットが唯一のサービスとなっている。旧三次市内の一部はNTTが最
大1Gbpsのブロードバンドサービスを提供しているほか,周辺部でもWiMAXや各携帯電
話事業者の高速通信サービスが利用可能な地域もある。
① サービス継続の適否
インターネットサービスを終了した場合,地域によって情報通信格差が発生する。
WiMAX も NTT のブロードバンドサービスも,現時点では市内全域はカバーしていない。た
だし,今後の動向により,移動体通信をはじめとする他の事業者に顧客が奪われる可能
性があり,サービスの見直しの検討は必要である。
② 法的責任
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第4章 三次市におけるケーブルテレビ事業の運営形態
インターネットサービスを中止することに関し法的な制約はなく,総務省への変更申請
を行うことで可能である。
③ 経営的側面
インターネットサービスは会社収益の3分の1を占めているが,設備更新費は高額で
ある。料金設定は他の民間サービスと比較しても安価な設定となっており,現時点では
優位性があり顧客獲得の一因となっていると考えられる。しかしながら,NTT西日本の
光ファイバサービスも次第に低価格化しており,また,IP電話や携帯電話等との抱き合
わせによる割引等もあり,今後価格優位性は次第に失われる可能性がある。
(6)
IP電話
インターネットサービスのオプションとして提供しているものであり,IP電話のサービス提
供そのものは本来民間の役割である。第1章で述べたとおり,三次ケーブルビジョンが提
供しているIP電話サービスは緊急通報ができないが,IP電話サービス加入者同士の通
話や,提携するIP電話サービス加入者との通話は無料で行える。
① サービス継続の適否
サービスを中止した場合でも,機能的には電話で代替ができる。ただし,通話相手先
によっては,IP電話よりも高い通話料を支払う必要がある。
② 法的責任
IP電話サービスを中止することに関し法的な制約はなく,総務省へ廃止の届け出を
行うことで可能である。
③ 経営的側面
三次ケーブルビジョンのIP電話サービスは,総加入世帯中500世帯と少なく,サービ
スを中止しても影響は少ないと考えられる。IP電話サービスはエネコム(中国電力)の設
備を使用していて,機器の維持管理費用がほとんど発生せず,月額料金から基本使用
料とユニバーサル料金(1電話番号あたりの,NTTへの支払額)を差し引いた金額が三
次ケーブルビジョンの収入となるためサービスを継続しても運営にあまり大きな影響は発
生しないと想定される。
(7) その他
三次市のケーブルテレビ事業は,整備するにあたり国からの補助金を活用しているため,
サービス停止時には補助金の一部返還を行わなければならないことが想定される。
46
第4章 三次市におけるケーブルテレビ事業の運営形態
表25 事業領域の整理
事業領域
サービス
⑴地上デジタル放送
施策的側面
設備費割合
※1
難視聴対策
3.10%
⑵多チャンネル放送
10.26%
放送事業
通信事業
⑶自主放送
行政情報発信
18.16%
⑷音声告知放送
防災行政情報伝達
0.97%
⑸インターネット
情報通信過疎対策
14.28%
⑹IP 電話
0.00%
通信設備
⑺放送・通信設備
情報通信過疎対策
40.64%
施設基盤
⑻発電機,空調設備等
-
7.09%
消耗品
⑼UPS バッテリー等
―
5.50%
※1 光ファイバを除いた20年間の全体設備更新費を100とした割合
(8) 事業領域の選択と集中の一例
<通信サービス業務を電気通信事業者へ譲渡するケース>
① 設備等の取扱いについて
この手法は,電気通信事業者へ通信サービスにかかる設備を譲渡し,通信サービスの
運営を任せるものである。通信サービスにかかる設備を譲渡するということは,特定の権利,
財産が三次市から電気通信事業者へ移転するということであり,譲渡した段階で,通信設
備に関するすべての「所有権」を失うことになるが,言い換えれば通信設備を維持・管理
する責任がなくなるということであり,以後の保守費用を負担する必要がなくなる。
一方,三次ケーブルビジョンは放送設備を使用して「放送サービス」を提供するため,三
次市とIRU契約を締結する必要があり,さらに,通信設備を使用して加入者宅へ伝送する
ため,電気通信事業者ともIRU契約を締結する必要がある。
ただし,電気通信事業者が「通信サービス」を提供するにあたり,三次市が整備している
伝送路機器と技術規格が異なる場合は,技術規格に適合した伝送路機器に取り換える
必要があり,当然その際は設備投資が必要となる。IRU契約は第 1 章「表2 IRU契約の
要件」に記載したとおり,使用権を取得する電気通信事業者の同意なしに契約を破棄す
ることができないこととなっており,三次ケーブルビジョンの同意が必須である。
47
第4章 三次市におけるケーブルテレビ事業の運営形態
図12 電気通信事業者へ通信サービスを業務譲渡するイメージの一例
※CATV局は,放送サービスを提供し,放送設備の管理を行
う。通信事業者はインターネットサービスを提供し,インターネッ
ト設備と通信設備を管理する。(領域の分割方法が多数あり)
CATV局
放送設備
加入者宅
ONU
電気通信事業者
局舎
インターネッ
ト設備
②
通信設備
三次ケーブルビジョンの経営について
インターネットサービス及びIP電話サービスを業務譲渡することにより,通信サービス
の管理運営費用を削減でき,また,電気通信事業者は伝送路を自社の局舎へ引き込
むため,放送設備も電気通信事業者局内収容となり,賃借料が発生するが,サブセン
ターの節減により,維持管理費用を削減できる。
しかし,全域でサービス提供を開始した平成19年度以降,インターネットサービスは
年々増加傾向にあることから,今後も増加が見込まれるインターネットサービスを三次ケ
ーブルビジョンから切り離すことで収益が減少し,運営への影響も考えられる。
表26 三次ケーブルビジョンのサービス別加入者数
単位:世帯
H19
H20
H21
H22
H23
H24
H25
基本プラン
たっぷりプラン
6,839
6,855
6,852
6,919
6,923
6,939
6,915
ライトプラン
4,996
5,128
5,226
5,242
5,344
5,373
5,392
インターネット
3,448
3,741
4,149
4,520
4,780
4,963
5,017
474
474
488
486
478
458
455
IP 電話
48
第4章 三次市におけるケーブルテレビ事業の運営形態
図13 三次ケーブルビジョンのサービス別加入者数の推移
8,000
7,000
6,000
5,000
契
約4,000
数
3,000
2,000
1,000
0
H.19
H.20
H.21
H.22
H.23
基本プラン+たっぷりプラン
ライトプラン
インターネット
IP電話
H.24
H.25
③ 加入者について
電気通信事業者がインターネットサービスを提供することで,利用者は最大1Gbps
のサービスを受けることができる。
しかし,三次ケーブルビジョン加入者は電気通信事業者のネットワークを利用すること
になり,別途契約が必要となるだけでなく,利用料も増えることが想定されることから,電
気通信事業者と綿密に協議を行う必要がある。
3 将来のコスト削減を可能にするための方策
将来にわたって必要となる経費を,できるかぎり削減する方策について検討する。
(1) ヘッドエンドを他のケーブルテレビ局と共用
コスト削減を図りつつケーブルテレビ事業を継続していく手段として,第2章,第3章でも
述べた「他のケーブルテレビ局と接続してネットワーク化し,ヘッドエンドを共用する」方法は,
選択肢のひとつと考えられる。
ヘッドエンドを共用することで,当該設備の保守費や更新等のコストを低減させることが
できるため,他社とのサービス競争や人口減少に伴い懸念される加入者数減・収入減に
対する有効な対策となる。 また,受信点とヘッドエンドを共用でき,平成22年4月に改
正された「新放送法」で義務付けられた有線放送設備の構成機器等に故障等が発生し
た場合でもサービスを継続して提供することが可能となる。
ヘッドエンドを共用しても,自主放送はこれまでどおり継続でき,三次ケーブルビジョン
49
第4章 三次市におけるケーブルテレビ事業の運営形態
の経営サービスの主体性を維持した運営が行える。
第2章の規模の拡大による業界再編・連携の流れ,第3章の運営事例でも触れたよう
に,ヘッドエンドの共用は既にかなりのケーブルテレビ局で実施されている。実現に向けて
は連絡線の構築が必要となり,伝送路を整備するために地方公共団体,相互の電気通
信事業者との交渉が必要で,場合によっては地方公共団体の支援も必要である。
表27 独自構築とヘッドエンド共用の費用概算比較表
単位:千円
独自構築
BS
35,000
CS
250,000
番組購入費
加入者数割合
その他
ヘッドエンド共用
35,000
備
考
新放送法への対応が可能
(受信点の二重化)
75,000 サービス提供方法によって変動あり
共用先加入者と
合算した割合
加入者数での単価交渉が可能
共用先との連絡線
の構築が必要
ヘッドエンド共用先の設備を更新する際
に負担金発生
・ヘッドエンド設備の構築費用が圧縮でき,番組調達費も抑えられる。
・ヘッドエンド同士が接続されることで,ある程度の冗長化・二重化が可能(新放
メリット
送法への対応)
・共用を行っても,従来の自主放送は継続可能
・伝送路利用料が発生する。
デメリット
・ヘッドエンド共用先の影響で停波が発生する可能性はある。
・共用先との連絡線の構築が必要
(2) サービスのクラウド化
三次ケーブルビジョンで管理しているサービスをクラウド化し,設備費及び維持管理費の
削減を検討する。現在,業務・サービス提供のために使用しているピオネットのシステムサ
ーバをクラウドへ移行すると想定した場合,「顧客管理サーバ」「メールサーバ」「Web サー
バ」がクラウド化することができると想定される。
① 顧客管理サーバ
顧客管理システムは,これまで放送・通信機器と連動させるためにピオネットでも独
自にシステムを構築する必要があり,社内に顧客管理サーバを設置し,加入者の管
理を行っていた。
現在では,使用している機器と連動させることが可能なクラウド型の顧客管理シス
50
第4章 三次市におけるケーブルテレビ事業の運営形態
テムサービスが提供されているため,加入者情報をクラウドのシステムに移すことで,
顧客管理サーバの費用を削減することが可能と考えられる。加入者管理は,専用の
管理画面(端末)からインターネット回線を通じて 24 時間監視することが可能である。
② メールサーバ・Webサーバ
ピオネットでは,インターネットサービス加入者に,フォルダ容量が 20MB のメールア
ドレスを 1 加入者につき 1 つ,ホームページ容量を10MB付与しているため,加入者
数に応じた容量を確保する必要がある。
メールサーバ・Webサーバをクラウド化することで,利用者に「利用料」が発生する
場合があるが,設備の更新費用が削減できるだけでなく,クラウド側でウイルススキャ
ンやスパムメールのブロック機能などが提供されるものもあり,セキュリティの強化及び
運営コストの削減ができると考えられる。プロバイダーが提供するメールアドレス・ホー
ムページの容量は次第に拡大しており,メールであれば,現在1GB程度の容量を提
供するプロバイダが標準的である。自設であれば,設備の増強又は更新を行う必要
があるが,クラウドサービスであれば,こういった変化にも段階的に対応できる。
最近ではメールアドレスの提供のみといった低価格プロバイダーサービスも多数存
在し,ブログの開設やホームページの開設が無料でできる民間サービスも一般的とな
っているため,メール・ホームページの利用率を調査し,プランの細分化や,料金の
見直しを検討するといったことも必要である。
③ クラウド運用している事例
J:COM などの大手ケーブルテレビ局では,㈱テクノロジーネットワークスが提供してい
る「ZAQ」と呼ばれるシステムを導入している。ZAQ は,これまでケーブルテレビ局が
個々で提供していたセキュリティサービスやアプリケーションサービスをケーブルテレ
ビ事業者向けに,ASP(アプリケーションプロバイダ)で提供している。
また,中四国エリアではハートネットワーク株式会社(愛媛県)が顧客管理でクラウド
を導入しており,ケーブルテレビ加入者の管理を行っている。四国のケーブルテレビ事
業者は電力系電気通信事業者が提供するインターネットサービスを導入しており,機
器の運用管理,加入者が利用するアプリケーションサービスのサーバ整備,運用管
理までを電力系電気通信事業者が行っている。CATV 事業者が行っているのは,初
期の引込工事,伝送路保守,課金のみである。
(3) 新方式の設備導入による既存設備の効率化
① WDM(ダブリュー・ディー・エム 波長分割多重通信装置)の導入
1つの物理光ファイバ芯線内に波長の異なる複数の光信号を通過させることにより,
多芯の光ファイバを利用することと同等の効果を得るもの。データ速度の向上、大
容量データ通信が可能となる。
例えば,現在の三次ケーブルビジョンの運営では,放送・通信サービスを1芯ず
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第4章 三次市におけるケーブルテレビ事業の運営形態
つ利用しているが,WDM技術を利用することで,1芯だけを使ってサービスを提供
し,物理芯線を有効に活用するといったことも(設備投資が必要であるが)技術的
には可能となる。
図14 WDMの仕組み
送信器
送信器
合
成
器
分
配
器
送信器
受信器
受信器
受信器
WDM(Wave length Division Multiplexing)光ファイバを用いて大量の信号を送信するための技
術であり,波長の異なる複数の光搬送波を同時に利用し,光ファイバをより効率的に利用できる。
出典:総務省 「平成13年度 総務省情報通信白書」より
② 次世代10ギガビット級PONシステムの標準化
三次市のFTTH(Fiber To The Home)によるブロードバンドサービスの提供
は,「PON(Passive Optical Network, ポン,受動光ネットワーク)」方式を採用
している。 PON方式は,Ethernet(通信規約)と光ファイバの途中に分岐器を入
れることにより1本の光ファイバを複数の世帯に引き込むことを可能とする技術であ
り,センターと加入者宅を1本の光ファイバケーブルで繋ぐSS(Single Star)方式
と比較すると,高性能であるにも関わらず設備費用が安価であるため,PON方式を
採用している事業者が多い。
光アクセスシステムのさらなる高速化をめざして,次世代の規格として「10 ギガビ
ット超のPONシステム」,10G-EPON(テンジーポン)が開発され,次第に実用化
され始めている。三次市が伝送路を整備した8年前は光の伝送距離はまだ短く,情
報を中継するためのサブセンターを概ね10キロメートルごとに設置する必要があり,
多くのサブセンターが存在する。しかし,10ギガビット級のPONシステムは少なくとも
旧三次市内全域をカバーできるほどの伝送距離があるため,将来的に,光ファイバ
網の伝送路張り替えをする場合に最新の10G-EPONを導入すれば,旧三次市内
のサブセンターは不要となり,サブセンターに設置している機器の削減や維持管理
費の削減が可能と考えるが,伝送路の敷設について再設計・施工する必要が生じる
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第4章 三次市におけるケーブルテレビ事業の運営形態
ため,費用対効果について慎重に検討しなければならない。
図15 SS方式とPON方式の違い
SS(Single Star)方式
送出側と加入者が1対1で接続されている。
クロージャー
光ファイバーケーブル
CATV局
PON(Passive Optical
Network方式)
1本の光ファイバーをクロージャー内で分岐させ、複数の加入
者と接続されている。
PON(ポン)装置
クロージャー
光ファイバーケーブル
スプリッタ―
CATV局
(4) 県内・外の他事業者と経営統合,もしくはアライアンス(連携)
ケーブルテレビを含む放送・通信業界は,政府の方針や世界的な流れによって,常に
新しい技術開発が行われ,業界のスタンダードとなるため,常に設備の更新やそれに係
る技術の習得が要求されている。 そのため,単独でサービスを提供するケーブルテレビ
では,機器更新費用の捻出や,技術者の育成など,費用だけでなく時間的にも膨大な労
力をともなう。
近年では,規模の経済の追求の観点から大規模なケーブルテレビ局の傘下に入り,グ
ループとして経営を行うことにより,技術的な知識や経営・営業のノウハウを共有するとと
もに,経営効率の向上を図っている事例が見られる。また,新しいサービスを提供する場
合に発生する設備投資は,大量購入することにより経費削減につながる。
広島県でも「ふれあいチャンネル」がこのような動きを見せており,経営統合,もしくはア
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第4章 三次市におけるケーブルテレビ事業の運営形態
ライアンス(連携)を行うことで,より効率的なサービス提供の可能性が期待できる。「ふ
れあいチャンネル」の統合経過等を以下に示す。
表28 ふれあいチャンネルの概要(現状)
対象世帯数
約 370,000 世帯
総接続世帯数
約 160,000 世帯(電波障害接続含む)
サブセンター数
6 か所
伝送路形態
HFC・FTTC・FTTH・FWA(無線)
多チャンネル放送
JDS(日本デジタル配信)
放送系伝送方式
トランスモジュレーション方式(全域)・パススルー方式(FTTH エリ
アのみ)
インターネットバックボーン
Edion・ZAQ(J:COM 系列)・JP-NAP
インターネット提供方式
DOCSIS3.0 を用いた高速インターネットサービス
業務連携
2010 年に中国新聞社と業務提携した尾道ケーブルテレビは,同新聞社系列のふれあいチ
ャンネルと連絡線で接続され,多チャンネル放送用のヘッドエンド設備を共用している。
また,番組制作面でも相互協力の体制を築いている。
支局の役割
ふれあいチャンネルは,本社のある中央支局と 4 つの支局で構成されている。
各支局は,合併したケーブルテレビ局のヘッドエンドが稼働していたが,全て廃止し,現在はサ
ブセンターの役割を果たしている。
また,窓口業務の機能を有しており,加入者対応などを行っている。
自主放送
現在,ふれあいチャンネルでは自主制作番組を17本制作している。
その中の一つであるケーブルデイリートピックスでは,各支局が制作したイベント・行政情報を
日替わりで放送している。
また,提携局である「ひろしまケーブルテレビ」や,県下ケーブルテレビ局が制作した自主放
送番組も同一チャンネルで放送されている。
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第4章 三次市におけるケーブルテレビ事業の運営形態
表29 広島県内のMSO ふれあいチャンネル 統合の経過
平成7年(1995年)
7月
◇ふれあいチャンネル設立
平成9年(1997年)
2月
◇ふれあいチャンネルとして安佐北区に開局。
開局当初の加入世帯数・・・約 2,000 世帯
~
平成16年(2004年)
10月
◇ケーブルシティ 22(CC22)を合併。
合併後の加入世帯数・・・約 33,000 世帯(内,約 16,400 世帯
が編入。ケーブルシティ 22 エリアを佐伯支局とし,従来のエリア
を安佐北支局とした。
平成17年(2005年)
10月
◇ふれあいチャンネルが中国ケーブルビジョン(CCV)を合併。
合併後の加入世帯数・・・約 140,000 世帯(内,約 88,000 世
帯が編入)中国ケーブルビジョンエリアを中央支局とし,本社を
安佐北支局から中央支局に移転。
佐伯支局は西部支局に改称して広島県廿日市市に進出。
平成20年(2008年)
7月
◇KDDI と提携し IP 電話(0ABJ)サービス提供開始
平成22年(2010年)
5月
◇尾道ケーブルテレビと中国新聞社(ふれあいチャンネル)が業
務提携。
平成24年(2012年)
11月
◇IRU 契約にて大竹市へ進出,大竹支局を設置した。
12月
◇中国電力が所有するひろしまケーブルテレビの株式の大半を
中国新聞社へ譲渡し,ひろしまケーブルテレビの経営権が中国
新聞社へ移管。
※ひろしまケーブルテレビは経営権が中国新聞社へ移管したが,
ふれあいチャンネルと統合はされていない。
図16 ふれあいチャンネルのサービスエリア
安佐北区
佐伯区
廿日市市
広島ケーブル
テレビエリア
西区
尾道ケーブル
テレビエリア
安芸区
中区
海田町
大竹市
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第4章 三次市におけるケーブルテレビ事業の運営形態
表30 ふれあいチャンネルのサービスエリア
中央支局
広島県広島市中区・西区
安佐北支局
広島県広島市安佐北区
西部支局
広島県広島市佐伯区・廿日市市
安芸支局
広島県広島市安芸区・安芸郡海田町
大竹支局
広島県大竹市
尾道ケーブルテレビエリア
広島県尾道市
ひろしまケーブルテレビエリア
広島市 東区・南区・安佐南区,安芸郡府中町
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