中国はなぜこの先我々の安眠を妨げるのか(PDF/266KB)

中国はなぜこの先我々の安眠を妨げるのか
2016年 6月13日
ゼーン・ E ・ブラウン
パートナー、債券ストラテジスト
世界の投資家の懸念には、中国での債務増大、不良債権の拡大、そして問題を抱える「ゾン
ビ」国有企業の存在が挙げられます。
要旨

金融市場は、中国で増大する債務とそれによる投資への潜在的な影響を注視してきまし
た。特に懸念されるのは、不良債権の増大と債務不履行拡大の可能性です。

加えて、こうした過剰債務が進んでいる経済・政治環境も懸念材料です。例えば、中国
の多くの国有企業が過剰債務を負った状態にあります。

にもかかわらず、中国の市中銀行は債務不履行のわずかな増加に対してさえも備えが
十分ではありません。

中国にはどんな選択肢があるのでしょうか?負債に苦しむ国有企業問題の対処に向け
た緩やかな措置と銀行の段階的な資本増強が可能性のあるアプローチと言えるでしょう。

鍵となる論旨 - 中国が過剰債務から復調する兆しを投資家が待ち望む間、今改めて米
国集中型の資産配分に注目してみることが、妥当な戦略だと言えるでしょう。
この数カ月間、中国の総債務規模に関する市場の懸念は拡大してきました。そして債務の増大
ペースの速さがさらに大きな懸念材料となっています。しかし、世界経済の成長に最終的に影響
をもたらしかねない、そして世界中での国内外資産に影響を与えかねないのは、不良債権の増
大と債務不履行拡大の可能性です。ウルフ・リサーチなどの調査会社は、中国の債務増大、経
済成長の減速、そしてそれに続く帰結は、こうした断層から派生する問題ゆえに、今や世界市場
への最も大きな脅威となっていると結論付けています。また億万長者で投資家のジョージ・ソロス
氏は、借入を原動力とする中国経済と、世界経済を骨抜き状態にした金融危機が始まる直前の
2007-08 年の米国の状況との間には、恐ろしい類似点があると見ています。
こうした点から、世界の投資家が投資戦略を構築する上で考慮すべき一つの対外要因があると
するなら、それは中国債務という難問でしょう。
マッキンゼーによると、2007 年には 7 兆ドルであった中国の政府、民間セクター、家計の総債務
規模は、2014 年半ばまでに 28 兆ドルへと 4 倍に拡大しました。国際決済銀行(BIS)によるデー
タを基にすると、2015 年の中国の国内総生産(GDP)に対する債務比率は 240%から 270%の範囲
にあり、新興市場の平均値である 175%を大きく上回っています。さらに、フィナンシャル・タイムズ
1
紙によれば、新規借入が一段と速いペースで続いており、2016 年の第 1 四半期にはほぼ 1.0 兆
ドルに達しました。これは 3 ヵ月ベースで見た最高水準であるとともに 2015 年のペースの 1.5 倍
を超えています。
債務の報い
中国の総債務規模は過去数年間に GDP の 2 倍の速さで拡大してきました。そしてその比率さえ、
この先一段と悪化が見込まれています。エコノミスト誌は最近のレポートで、「1 人民元の新たな
GDP を創出するのに必要な借入額は、(2008-09 年の)金融危機前の 1 人民元超から、今では
4 人民元近くまで上昇している」と伝えています。
中国の債務規模とその拡大ペース以上に懸念されるのが、こうした過剰状態を生んだ経済・政
治環境だと我々は考えています。中国が輸出・投資主導型経済成長から国内消費・サービス主
導型経済に移行するなか、同国経済は国有企業の過剰債務に苦しんでいます。
石炭、鉄、セメント国有企業のかつての伸びを支えたのは、借入と莫大なインフラ支出でした。そ
の結果、これらの業界の生産能力は過剰になり価格への下押し圧力となっており、さらに過剰債
務負担と相まって、多くの国有企業の業績は悪化し債務利息返済ができない危機に陥っていま
す。エコノミスト誌は、2014 年(取得可能な最新のデータによる)に中国の大手 1,000 社の 16%が
課税前利益を上回る金利負担を負っていたとしています。インフラ支出と輸出主導経済からの転
換は、すなわち重債務を抱える国有企業の収入源の減少につながるため、情勢は今や一段と悪
化しているものと見込まれます。これらいわゆる「ゾンビ」企業の業績は、中国経済の減速に伴っ
てさらに悪化する恐れがあります。
銀行は危機に瀕して?
中国規制当局は 2016 年第 1 四半期の不良債権が債務全体の 1.75%に達したと発表しました。
不良債権の増加は 18 四半期連続で、過去 11 年間で最も高い水準となりました。民間による試
算では、この数値はさらに高まります。中国最大の証券会社が所有する調査会社 CLSA は、不
良債権はすでに貸出残高の 19%に達している可能性があり、25%まで増加する恐れがあると見積
もっています。潜在的な損失規模は 1.4 兆ドル、中国の GDP の 13.5%に達する可能性がありま
す。同様に、別の調査会社マッコーリーは 4 月 29 日に、国際通貨基金(IMF)の結論を引用して、
企業の 20%が危険な状態にあり貸付額は 1.3 兆ドルを上回る可能性があると述べています。
中国の銀行は、民間企業の分析や IMF が示唆する巨額債務の増加は言うまでもなく、債務不履
行のわずかな拡大に対してさえも備えが十分ではない状況です。不良債権向け引当金は最低の
水準に留まっています。ロイターによれば、中国の銀行規制当局は、2016 年第 1 四半期の貸付
損失引当金比率-報告された不良債権向けに確保されている現金比率-は 175%で、ここ 6 年
間の最低水準に落ち込んだと発表しています。中国の 4 大銀行の内の 2 行は規制当局が定め
る 150%を下回っています。
公式統計である 1.75%から不良債権がわずかでも増大すれば、銀行は現金準備金の増額と資本
の減少を余儀なくされるでしょう。ソシエテ・ジェネラルの中国担当エコノミストは「総体的に見ると、
国有企業の貸出債権と債券の 4 分の 1(潜在的にリスクのある規模)が、商業銀行の総資本基
盤と貸倒引当金の合計に相当する」と述べています。
解決策を探して
こうした状況のなか、中国はこの問題に対処するためどのような選択肢を持っているのでしょう
か?大規模な債務不履行は答えではないでしょう。非効率的な国有企業に債務不履行が広が
れば、過剰生産能力の解消と資源再配分の効率化が可能になるかもしれません。しかしそうな
れば、中国で銀行危機が発生し、経済成長は失速し、政情不安を招くのはほぼ避けられないでし
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ょう。ゾンビ企業存続のための追加貸出のほうが受け入れやすい解決策ではありますが、後々さ
らに大きな問題を生むことになるでしょう。
ゾンビ企業の問題対処に向けた緩やかなステップと、徐々に銀行の資本増強を進めることが可
能性の高いアプローチだと言えるでしょう。大手銀行と国有企業はどちらも中国政府が保有して
いることから、解決策は資本主義民主主義国家の手法とは異なる形で作成されると考えられま
す。一つの解決策は、ゾンビ企業に政府が資金を提供し、企業規模を縮小させ、職を失う就業者
たちへの再研修と再配置を行わせることです。また、現在進められている他の解決策には、デッ
トエクイティスワップ(債務の株式化)、不良債権の証券化、新設国営資産管理会社への不良債
権の移管が挙げられます。このいわゆる「バッドバンク」方式は中国が周期的に利用してきた慣
行です。
こうした解決策に困難が伴わないわけではありません。これらには目先痛みを伴う可能性が高い
ものの、いくつかの問題を確実に解決し、他の問題を先送りするでしょう。そして重要なのは、経
済・政治問題の厄介な不透明地帯に中国を置くことを回避してくれるだろうということです。
投資への影響
中国が債務問題を整理し、いくつかのセグメントにおける過剰生産能力の解消を進めていること
から、新たな経済成長のために利用可能な資源は少なくなることが見込まれます。成長に向けた
借入への依存を軽減することは、投資とそれに伴う消費による景気拡大の度合いを弱めることを
意味します。そうした環境下では、これまで中国需要がもたらしてきたコモディティー(商品)への
下支えは減少することになるでしょう。加えて、中国が過剰生産能力を縮小するとしても(不本意
であることは明らかです)、雇用減少による経済的政治的リスクや、鉄、セメント、石炭といった商
品の供給継続による価格押し下げは、投資家にとっては対中投資の魅力減少につながるはずで
す。
一方で、中国市場に依存している新興市場の回復もすぐには見込めないでしょう。同様に、世界
市場のインフレ率も上昇することはなく、むしろ、新興市場が売上拡大のために商品輸出価格を
引き下げることから下押し圧力に直面する恐れがあります。中国に始まる新興市場における景
気減速によって、米国など信頼性ある成長を見せる市場への投資フローは高まる可能性が高く、
そうなればドル高、そして恐らくは証券価格を下支えすることになるでしょう。
最後に、中国経済は減速する可能性があるものの、米国の対中国輸出は大きな影響を受けない
と考えられます。世界銀行によれば、米国の中国向け輸出は米国 GDP の 0.9%に過ぎません。さ
らにこれらの輸出に含まれるのは飛行機、映画、先端医療機器で、これらは中国の商品輸入が
減少しても影響を受けない可能性が高い分野です。
中国の不良債権問題が表面化し、解決策が明らかとなるなか、その結果としてもたらされる景気
減速は、数多くの影響を投資に及ぼすことになるでしょう。そうした影響の中には、商品価格の一
段の下落、いくつかの新興市場における景気拡大ペースの減速、依然として続く世界的なデフレ
圧力、ドル高、そして緩慢ながらも堅調な経済成長による恩恵を受ける米国証券市場に対する投
資家の関心の高まりが含まれます。中国の債務問題を起因とする米国への直接的な負の影響
は明らかではありません。したがって、投資家が過剰債務からの中国の回復の兆しを待つ間、地
方債、米国を拠点とする企業の社債、米国の小型・中型株といった米国集中型の資産に今改め
て重点を置くことは、筋が通っているはずです。
見通しや予想は現在の市場情勢を基にしたものであり予告なく変更されることがあります。予想
を保証ととらえるべきではありません。
市場が将来同様の状況下で同じようなパフォーマンスを示す保証は一切ありません。
前述の経済レポートで示された見解は発表日現在のものであり、今後その内容が変更となる可
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