Lab.Clin.Pract.,24(1):69-79(2006) 最近の話題 子宮頚癌検診における HPV-DNA 検査の意義 金沢大学医学部保健学科 笹 川 寿 之 に高いことが判明した.このことから,30 歳以 はじめに 上の女性における HPV 検査は感度,特異度とも これまでの研究から高リスク型 human papil- 高く,信頼性の高い検査であるといえる.本稿で lomavirus(HPV)の感染が子宮頚癌の原因である は,HPV 感染による発癌のメカニズムについて ことは疑う余地のない事実であり,子宮頚癌発生 述べたのちに,HPV-DNA 検査の導入の目的と意 を予防する目的で HPV ワクチンのヒト治験も日 義について解説し,実際の臨床や細胞診業務に従 本で始まろうとしている.HPV が子宮頚癌の原 事する人達が,子宮頚部細胞診をどう読むべきか 因であるならば,HPV 感染を知ることで子宮頚 について考察したい. 癌の発生を予知できると考えられ,子宮頚癌検診 1.HPV 感染と子宮頚部発癌のメカニ ズム における HPV-DNA 検査の導入は意義のある試 みであると思われる.しかし,HPV-DNA 検査が 陽性であるということの意味を充分理解していな HPV は現在,100 タイプ以上が同定されてお いと誤った判断が下される可能性があり,産婦人 り,そのうち 40 タイプ以上が子宮頚部や膣,肛 科医や細胞検査士はその点を留意すべきである. 門,陰茎,咽頭,喉頭などの粘膜上皮に感染する 最近,日本においても性行為を経験した若い女性 ため粘膜型 HPV と呼ばれている(図1).これら の子宮頚部に高頻度に癌を誘発する高リスク型 のうち,膣や外陰部,肛門,陰茎に発生する尖圭 HPV が感染していることが明らかになりつつあ コンジローマは HPV 6, 11 型などによって形成さ 1)2) .HPV-DNA が陽性であった若い女性の米国 れるが,この病変はほとんど癌化しないため,こ における追跡調査では約 9 割が 2 年以内に HPV れらは低リスク型と呼ばれる.一方,子宮頚部や る 3) が自然消失したと報告されており ,若い時期の 肛門の癌やその前癌病変から検出される HPV 16 HPV 感染は一過性のものがほとんどである.そ 型などは高リスク型 HPV と呼ばれている 4)∼6) . こで,この点だけを取り上げて子宮頚癌検診にお 図1は HPV 型 E6 遺伝子領域の遺伝子系統樹 4) を いて HPV-DNA 検査を導入することに反対する もとにわかりやすく修正したものであるが,最近 人も多い.そのほとんどが自然治癒するのであれ の報告 5)∼7) 結果を総合し,子宮頚癌や CIN-3 の ば,子宮頚癌検診における HPV 検査は偽陽性例 組織で検出される HPV を高リスク型と定義すれ を増やし子宮頚癌検診の精度を下げることになる ば 17 タイプがそれに相当する.尖圭コンジロー と考えられるからである.しかし,最近我々が石 マなどの良性の上皮過形成病変をつくるものを 川県で行った子宮頚癌の大規模疫学調査の結果で 低リスク型,CIN-1 に検出されるが CIN-2 以上 は,細胞診正常で HPV 陽性の人は 30 歳代の女 の高度病変ではほとんどみられないタイプをリ 性の 6.8 % 以下であり年齢が進むほど低下した. スク不明型とした.また,この遺伝子系統図がで また,併行して行った研究では,HPV-DNA 検査 きた当初には粘膜型と考えられていた A2, A4 グ による頚部異常の検出感度は細胞診よりも明らか ループの HPV 型は実際には皮膚型であることが − 69 − Lab.Clin.Pract. (2006) 図1 ヒトパピローマウイルス(HPV)の遺伝子分類 (文献 1 の図を簡単にした,正式の系統樹ではない) 判明し6),残りの 49 タイプが粘膜型である.高リ また pRB の分解を促進することで細胞分裂を再 スク型は報告によって多少異なり,特に HPV 45, 度開始させると考えられている8).HPV は自分の HPV 73 は日本の癌ではほとんど見つかっていな DNA を合成するために細胞内酵素を利用する目 い5)6). 的で細胞分裂を誘導すると考えられている.その 皮膚では,HPV は微小外傷を通じて進入し基 結果,上皮の過形成が誘発され疣やコンジローマ 底細胞に感染することが始まりであるが,子宮頚 となる(図2).HPV-DNA の複製には E1 蛋白と 部の場合は扁平円柱上皮境界(Squamo-columnar E2 蛋 白 の 共 同 作 用 が 重 要 で あ り , E1 蛋 白 は junction: SC-junction)に存在する円柱上皮細胞あ HPV-DNA の複製開始点に結合し複製を開始する るいは予備細胞などの基底細胞に感染することが し,E2 蛋白は複製された HPV-DNA を娘細胞に 感染の始まりである可能性が高く,それが癌化に 正しく分配するために重要であることが明らかに とって有利に働くと考えられている(図2).この なった 9) .したがって,E1,E2 蛋白は中層の上 ことは,癌が膣扁平上皮では発生しにくいが, 皮細胞に発現する.表層の細胞では E4 蛋白が発 SC-junction や Transformation zone によく発生す 現し,細胞分裂を停止させ,細胞死を誘導する10). ることから示唆される.扁平上皮の基底細胞は通 同時に E4 は細胞質内のケラチンネットワークに 常は休止状態(G1 期)にあるが,何らかの増殖刺 作用してこれを分断する.また,表層の細胞では 激が入ると分裂を開始する.しかし,正常では何 後期遺伝子蛋白である L1,L2 が発現し,これら 度か分裂した後に分化して細胞質の豊富な中層の の蛋白は集合して HPV-DNA を取り囲みウイル 細胞に変化する.さらに表層部ではさらに扁平な ス粒子を形成する.E4 蛋白の多彩な機能は形成 細胞に変形して死んでゆく.分化した細胞は細胞 された粒子が細胞外に放出するのに役立つと考え 周期で言うと G0 期の細胞でありそれ以上分裂し られており,放出された HPV はさらに近隣の細 ない.しかし,HPV が感染した細胞に E7 蛋白が 胞や他人の細胞に感染する(図2).ここまではす 発現すると,E7 は pRB と E2F との結合を解除し, べての HPV 型に共通した生活環であるが,高リ − 70 − 子宮頚癌検診における HPV-DNA 検査の意義 図2 HPV 感染期,子宮頚部拡大模式図 スク型 HPV の場合は,E6 蛋白が細胞の分化や極 はさらにあがる16).一方,ヒトの癌細胞では高リ PDZ ドメインを有する蛋白と結合する能力があ スク型 HPV-DNA が癌細胞の DNA に組み込まれ り,その結果,細胞の分化を抑制したり細胞極性 ていることが多く,この組み込みは癌化にとって を失わせたりする.この作用は,CIN 形成に関与 重要なステップであることが知られている.組み していると考えられる.さらに高リスク型 HPV 込まれた HPV-DNA は安定して E6,E7 蛋白を発 の E6 は p53 の 機 能 を阻 止す る 13) . p53 は 細 胞 現させると考えられているが,組み込まれた DNA に損傷が入ったときに誘導され,細胞分裂 HPV-DNA を介して E2 や E7 蛋白が作用する結 を阻止して遺伝子の修復を助けるが,高リスク型 果,染色体異常を誘導する可能性も指摘されてい HPV が感染すると遺伝子に異常を持った細胞の る 17)18) .図3は子宮頚部発癌の過程を示した.こ 分裂を止めることができなくなる.一方,E7 は れまで,癌化には HPV 感染以外の外部因子が必 細胞分裂を促進するが,p53 を安定化する作用も 要であるとされてきたが,HPV 遺伝子の多彩な ある.したがって,p53 抑制機能のない低リスク 機能が明らかになるにつれて,一定の条件が満た 型や皮膚型 HPV ではこのような異常分裂は起こ されれば HPV 感染のみで発癌する可能性がある らないが,高リスク型 HPV の感染によって E6, と考えられる.その一つの条件は免疫である. E7 が同時に発現すると,何らかの理由で DNA が HIV 感染などの免疫反応不全状態は感染の持続化 損傷した場合においても,遺伝子が修復されずに を許容することで癌化を促進する.感染後におこ 細胞分裂を繰り返す可能性がある.その過程の中 る免疫応答には個体差があり,その結果,HPV から様々な癌形質を獲得した細胞が生き残り,そ に感染しても自然に治ってしまうヒトと癌になる れが真の癌細胞となると推察される.マウスを用 ヒトとに区別される19).喫煙や経口避妊薬の長期 いた研究14)15)から HPV 16 E6-E7 遺伝子によって 投与が子宮頚癌のリスクファクターであるが, 癌が誘導される可能性が示されたが,最近の研究 HPV 感染に従属した因子であることも明らかに では HPV-16 E6 だけでも皮膚に癌ができること なっている.これらは HPV に感染した細胞に直 ,hDlg 12) が報告され,また,E7 を導入すると癌化の効率 などの 性をコントロールする hScrib 11) − 71 − Lab.Clin.Pract. (2006) 図3 前癌状態から子宮頚がん発生の課程 接作用あるいは免疫系を介して働きかけ,発癌を parakeratosis を含めた. 2.角化または角化亢進(Parakeratosis / hyper- 促がすと考えられる. keratosis):オレンジ G 好染の小型の卵円形,ま 2.HPV 感染と細胞形態 たは多角形の細胞を parakeratosis,無核の角化細 2002-2003 年に 17 歳から 65 歳までの女性 503 胞集団や中表層細胞が混在してできた集塊を多数 名から同意を得た後に HPV-DNA 検査と子宮頚 認めるものを hyperkeratosis とした.異型のほと 部擦過細胞診を行った20).HPV-DNA 検査には, んどないものとした. 21) と DNA chip 3.定型的 koilocytosis:おもに中表層の扁平上 を用いた.子宮頚部擦過細胞から DNA を抽 皮細胞で,核の周囲明庭(空洞)をもつ細胞で,核 出し LCR-E7 法を用いた HPV 検査により型を判 腫大,クロマチン増量,核縁不整などの核異型を 定した.混合 HPV 型感染例や HPV 型判定不能 伴うものとした. 我々が 開 発 し た LCR-E7PCR 法 法 22) 例について DNA chip 法による HPV 型判定を行 4.非定型的 koilocytosis:核異型がない核周囲 った.低・高リスク型 HPV は図1に示す分類に 明庭像(halo)や明庭像が明らかでないが,風船状 したがった.細胞診断は,1 人の細胞診技師が異 にふくれたような表層細胞を含めた. 常を選別し 1 人の細胞診指導医によって判定した. 5.細胞質内の空胞または封入体(Cytoplasmic 最初のスクリーニングで異常であった症例には, vacuolation or inclusion body):細胞質内に空胞や コルポスコピーを施行し狙い組織診による組織診 封入体様の所見を有する頚管由来又は化生細胞. 6.濃染像(Smudged nucleation):融解状無構造 断を行った.指導医は,HPV 結果を伏せた状態 ですべてのスライドを再検して診断した.細胞所 に濃染する核. 7.奇怪核(Bizarre nucleation):著しい切れ込 見を以下のように定義した(図4). 1.角化異常(Dyskeratosis):オレンジ G 好染 みを伴う分葉状,多核様の奇怪な核形態をしめす のスパイク状または多角形の中表層扁平上皮細胞 裸核23)またはそのような核を有する細胞とした. で , N / C 比 大 , ク ロ マ チ ン 増 量 や smudged 8.多核(Multinuclation):一つの細胞質に 2 核 nucleation などを伴うものとした.異型を伴う 以上の核を有する中表層細胞 − 72 − 子宮頚癌検診における HPV-DNA 検査の意義 図4 細胞所見と典型像 9.Giant cell:長径 150 mm 以上の巨大扁平上 Dyskeratosis の 73 %(Odd 比 2.8) , Parakeratosis の 61 %(Odd 比 2.2) で あ り , 以 下 Cannon ball 皮細胞. 10.未熟化生(Immature metaplasia),傍基底細 appearance の 57 %(Odd 比 1.8),Immature meta- 胞 (parabasal cells) , 未 熟 頚管 腺 細 胞 (Immature plasia / parabasal cells の 62 %(Odd 比 1.7)と続く. glandular cells):未分化な小型の上皮細胞集団, Multinucleation は HPV 感染例の 65 % にみられた 化生細胞,傍基底細胞あるいは未熟頚管腺細胞と が,多変量解析では有意差がみられなかったため, の鑑別が難しい場合があるので,本研究ではこれ 他の所見に従属した所見と考えられた.巨細胞に らすべてを同じものとして扱った. 伴うことが多いので,多核の巨細胞は HPV に特 11.Cannon ball 像:1 つの扁平上皮を取り囲む 徴的な所見と考えられる.このような所見を総合 的に捉えることによって,細胞診断で HPV 感染 ように好中球が集まった所見. HPV 感染に特異的な所見について多変量解析 を推定することが可能と思われた.この検討で用 したところ(表1),最も Odd 比が高かったものは いた HPV 陽性症例の 70 % が高リスク型 HPV 単 コイロサイトーシスであり,定型的 Koilocytosis 独もしくは混合感染であったため,これらの の 95 %(Odd 比 15) , 非 定 型 的 Koilocytosis の HPV 感染所見は高リスク型 HPV 感染を反映して 71 %(Odd 比 3.5)が HPV 陽性であった.しかし, いると考えられる.この検討では,高リスク型と 定型的コイロサイトーシスは HPV 感染症例の 低リスク型の HPV を区別できる指標を明らかに 16 %(35 / 218)にしかみられず,この所見だけでは することはできなかったが,やや有意差がみられ HPV 感染を予知することは難しい.次に関連し たのは smudged nucleation であり,高リスク型感 た の は Smudged nucleation(SN) の 94 %(Odd 比 染の 19 % にみられたが,低リスク型を含むそれ以 5.4)と Bizarre nucleation(BN)の 88 %(Odd 比 4.7) 外 の HPV 感 染 で は 9.6 % に し か 認 め な か っ た であった.さらに Giant cell の 80 %(Odd 比 3.3), (Fisher’s test p=0.08).HPV リスク型と細胞診異 − 73 − Lab.Clin.Pract. (2006) 表1 HPV 感染に関連する子宮頚部細胞所見 解析因子 多変量解析1 Odd 比 HPV 陽性率 細胞所見 1. コイロサイトーシス(Koilocytosis) なし 33 % 1 非定型的 71 % 3.5* 定型的 95 % 15* 2. Smudged nucleation(SN) なし 39 % 1 あり 94 % 5.4* 3. Bizarre nucleation(BN) なし 40 % 1 あり 88 % 4.7* 4. Giant cell なし 1 36 % あり 80 % 3.3* 5. 異常角化(Dyskeratosis) なし 31 % 1 あり 73 % 2.8* 6. 錯角化または角化亢進(Parakeratosis / hyperkeratosis) なし 1 31 % あり 61 % 2.2* 7. Cannon ball 像(Cannon ball appearance) なし 38 % 1 あり 57 % 1.8* 8. 未熟化生細胞(Immature metaplasia) なし 31 % 1 あり 62 % 1.7* 9. 多核細胞(Multinucleation) なし 38 % 1 あり 65 % 1.0 95 % CI (1.89-6.42) (3.32-70.4) (1.12-26.2) (1.38-16.4) (1.67-6.57) (1.65-4.80) (1.36-3.56) (1.09-2.99) (1.05-2.89) (0.56-2.00) 1: 多重ロジスチックモデルにより,年齢と他の因子による補正を行った. 2:*: p<0.05 常との関係をみたところ,低リスク型 HPV の につれて陽性率は低下した.この結果から,細胞 12 % が 3a 以上の異常を示したのに対し,高リス 診異常者であっても年齢が進むと HPV 陽性率が ク型 HPV を含む混合型感染の 46 %,高リスクの 下がるといえる.しかし,細胞診のクラスと みの感染例の 58 % が 3a 以上の異常を示した.や HPV 陽性率について検討したところ(図6),異常 はり,高リスク HPV 感染は細胞異型を示すこと が高度になればなるほど HPV 陽性率はあがり, が多い(p<0.01). 癌の全例で HPV が陽性であった.すなわち,年 3.子宮頚癌検診における細胞診の限界 と HPV-DNA 検査の意義 2003-2004 年にかけて石川県の女性 8000 人に つ い て , 細 胞 診 と hybrid capture 法 24) による 齢が上がるほど結果的に HPV 陰性の軽度異常が 増えたと思われる.今後の検討が必要であるが, おそらく,萎縮性膣炎などの炎症性変化を捉えて 異常としている可能性が高い.もう一つ重要な結 果は,細胞診正常者の HPV 陽性率は 30 歳代前 HPV-DNA 検査を行った.まず,細胞診正常者と 半の女性では 6.8 % で,年齢層が上がると激減す 異常者を分けて年齢別に HPV 陽性率を明らかに ることである.このことは,30 歳以上の女性に したところ(図5),正常異常ともに年齢があがる HPV-DNA 検査を施行した場合には偽陽性率が下 − 74 − 子宮頚癌検診における HPV-DNA 検査の意義 図5 子宮頚部細胞診結果と HPV 検査陽性(石川県での疫学調査 図6 N=8000 症例) 細胞診クラス結果と HPV 陽性率 がる,すなわち検査の特異度が高くなることを意 最初のスクリーニングでクラス 3a 以上であった 味する. 症例は,コルポスコピー検査による狙い組織によ 次に 1089 名について,細胞診スクリーニング って病理診断した.すべての症例において,日母 の結果と HPV-DNA の結果を比較した検討を行 分類によるクラス分け以外に病変を推定させた. った(表2,3).最初の細胞診スクリーニングは すなわち,クラス 3a の場合は CIN-1 か CIN-2 か 経験の浅い細胞検査士が行い,そのうちの 857 例 を推定させ,クラス 4 は CIN-3,クラス 5 は扁平 については 20 年以上の経験を有する検査士がブ 上皮癌とした.コルポによる精査を行えなかった ラインドで検鏡し診断した.1 人の細胞診指導医 症例については 3 名の推定診断結果から 2 名以上 は,すべてのスライドをブラインドで検鏡した. が合意した結果を最終診断とした.最終診断が − 75 − Lab.Clin.Pract. (2006) 表2 日母分類による細胞診結果と臨床診断 細胞検査士 1:経験が浅い 症例数:1089 CIN-1 以上 CIN-2-3 47 % 99 % 59 % 99 % 検出感度 検出特異度 細胞検査士 2:経験が豊富 CIN-1 以上 CIN-2-3 症例数:857 検出感度 66 % 74 % 検出特異度 98 % 96 % 最終診断は,コルポスコピー下の狙い組織診の結果または細胞診しか 得られなかった症例には 3 人の内 2 人以上の予想組織結果が一致した ものを最終診断とした. 最終診断が CIN であるのに細胞診がクラス 2 以下と診断した場合に 偽陰性とした。クラス 3a で CIN-3 であった場合は正診として扱った. 表3 HPV-DNA 検査による検診の感度 LCR-E7 PCR 法で高リスク型 HPV 陽性 症例数:1089 検出感度 検出特異度 Hybrid capture 法で高リスク型 HPV 陽性 症例数:663 検出感度 検出特異度 CIN-1 以上 CIN-2-3 88 % 81 % 100 % 85 % CIN-1 以上 82 % 88 % CIN-2-3 90 % 89 % CIN-1 以上の異常であった場合にクラス 1,2 と ち細胞診正常で HPV 検査陽性である率(仮の偽陽 した場合を誤診とし,クラス 3a で CIN-3 であっ 性率)は激減したことから,30 歳以上の女性の た場合は正診とした.その結果をまとめたのが表 HPV-DNA 検査は診断感度のみならず特異度にも 2である.経験の浅い細胞検査士の CIN-1 以上の 優れた子宮頚癌検診法であるといえる. 異常を検出できる感度は 47 %,CIN-2 以上の検 4.精度向上をめざした子宮頚部細胞診 断法 出感度は 59 % であった.一方,経験豊富な細胞 検査 士 の CIN-1 以 上 の 異 常 検 出 感 度 は 66 % , CIN-2 以上の検出感度は 74 % であった.経験の 以上の結果から,子宮頚癌検診スクリーニング 浅い検査士では 41 %,ベテランでも 26 % は CIN-2 における,細胞診の偽陰性を減らせるという意味 または CIN-3 の見逃しがみられた.日母分類にし で,高リスク型 HPV-DNA 検査を導入する意義 たがってスクリーニングした場合には,CIN の検 は大きいと考えられる.特に 30 歳以上の女性が 出感度は予想より低いことが判明した.一方, 受ける恩恵は大きいと考えられる.一方,細胞診 HPV-DNA 検査を行った場合(表3),LCR-E7 PCR は HPV 検査以上に特異度が高いことや,HPV 検 法での CIN-2 以上の異常検出感度は 100 % であり, 査と異なり癌細胞が見つかれば即時に診断できる 市販の hybrid capture 法23)24)でも 90 % の検出感度 などの利点があり,これから先も細胞診は重要な であった.一方,細胞診における特異度は CIN-1 検査であることは間違いないと思われる.両方法 以上の異常検出において 98 % 以上であったのに を併用することが最も望ましいが,経済的な理由 比べ,HPV 検査では 81-88 % と低い特異度であ からすべての子宮癌検診において両者を併用する った.この結果から HPV 検査陽性者のうち 1-2 ことは難しい.米国では,細胞診と HPV 検査を 割が偽陽性であると算定される.しかし,それは 併用して,細胞診で異常がみつかればコルポスコ すべての症例を含めた場合であり,石川県の大規 ピーによる精密検査,両方の結果が陰性であった 模調査でみられたように,30 歳以上の女性のう 場合は次回検診を 3 年後にする.そして HPV 検 − 76 − 子宮頚癌検診における HPV-DNA 検査の意義 査のみ陽性の場合は,6-12ヵ月後に再検するとい 25) では判断に迷う症例に対して ASC-US,ASC-H う方法が推奨されている .この方法では,診断 をもうけているが,これは,人間の目では判定が 精度を保ったまま不要な検査を減らせるとされて 難しい微細な変化に対して考案された苦肉の策と いる.しかしながら,日本でのコルポスコピー検 考えられる.Bethesda System 2001 で取り上げら 査の費用は米国などに比べて安いことから,精密 れた ASC-US の典型的写真の一部は,私のいう 検査の施行回数が減ったとしてもコスト削減につ ところの軽度の角化異常または非定型的 ながらないという意見もある.しかし,様々な因 koilocytosis に類似しているし,ASC-H は軽度の 子を加えた経済効果についての検討は未だ日本で 異型を伴う Immature metaplasia や Parabasal cell はなされていない.HPV 検査の費用は年々安く のようである.したがって,現行の分類を用いた なってきているので,そろそろ子宮頚癌検診に としても,考え方を理解するだけでかなり正確に HPV 検査を導入する時期に来ていると思う.私 診断できると思われる.具体的な方法を図7に示 がここで強調したいのは,HPV 検査を導入する す.弱拡大では,通常どおり背景所見をみて炎症 ことのもう一つの意義についてである.通常の細 の有無や変性,壊死などの有無を観察する.さら 胞診は非常に主観的な検査だが,一定の基準を設 に,HPV 感染を疑わせるような,角化細胞を含 定して修練をつめば,そうとう正確に診断できる む上皮細胞集塊,未熟化生または頚管腺細胞の多 と確信する.これまで用いられてきた日母分類は 数出現,Cannon ball などに注意する.このよう 子宮頚癌の自然史を考慮した分類ではないため, な所見がみられた場合には,中拡大で 事実に合わないところがある.そのことが細胞診 parakeratosis,dyskeratosis,多核細胞,巨細胞, による CIN の見逃しの原因の一つと考えられる. コイロサイトーシス(非定型的も含めて)があるか その点では,HPV 感染の発癌への関与を認めた どうかを確認する.特に,細胞の大小不同や形 Bethesda System の方が優れている.炎症時にみ 態の多彩さは高リスク型 HPV 感染を疑わせる. られる軽度の異型や反応性変化とされてきた症例 強拡大では,中表層細胞,未熟化生 (immature のうち,いくつかは高リスク型 HPV 感染に関連 metaplasia),未熟腺細胞,傍基底細胞(parabasal 26) cell)などについて注意し,細胞集団やその近傍に した変化のようである.Bethesda System 2001 図7 HPV 感染所見から推定する細胞診断法(笹川法) − 77 − Lab.Clin.Pract. (2006) 混在する細胞をよく観察する.それらの細胞の核 associated with cervical abnormalities in Japanese の大小不同や核異型(bizarre nucleation, smudged women. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev 2001 Jan; 10(1): 45-52. nucleation,核縁肥厚,核縁不整形,クロマチン 増量や不均等分布)や N / C 比亢進などの所見につ 6) Matsukura T, Sugase M. relationship between 80 humanpapillomavirus いて注意し,最終的に診断する.オレンジ好性の genotypes and different grades of cervical intraepithelial neoplasia: association and causality. Virology 2001; 283: 139- 表層系の異型細胞が多ければ CIN-1,中下層の異 ると誤ることが多い.CIN の grade はあくまで傍 47. 7) Munoz N, Bosch FX, de Sanjose S, et al. 基底細胞(未熟化生細胞,未熟頚管腺細胞)の異型 International Agency for Research on Cancer 型細胞主体であれば CIN-2 または CIN-3 と考え Multicenter 度で決定すべきだと思う.表層系の細胞は変性す Cervical Cancer Study Group. Epidemiologic classification of human papilloma- ることが多いので異型度の判定には注意すべきで virus types associated with cervical cancer. N Engl J Med 2003 Feb 6; 348(6): 518-27. ある.実際には角化異常を伴わない CIN 1 症例や, 角化異常を伴った CIN-3 も多く存在する.炎症 8) Munger K, Basile JR, Duensing S, et al. Biological が強い場合も,HPV 感染を疑わす所見に注意し activities and molecular targets of the human て観察すれば,かなり正確に異常傍基底細胞を見 papillomavirus E7 oncoprotein. Oncogene 2001 Nov 26; 20(54): 7888-98. Review. つけられると思う.HPV 感染所見をみつけるこ とが目的ではなく,HPV 感染所見から異常を予 9) Van Tine BA, Dao LD, Wu SY, et al. Human papillomavirus(HPV) origin-binding protein 測して検鏡することが重要であると考えられる. associates with mitotic spindles to enable viral 多くの検査室で,たとえ一部であっても HPV 検 査を細胞診に併用することをお勧めする.私が本 DNA partitioning. Proc Natl Acad Sci USA 2004 Mar 23; 101(12): 4030-5. Epub 2004 Mar 12. 稿で示した検討結果が本当かどうかを自分で検討 10) Raj K, Berguerand S, Southern S, et al. E1 empty し,もう一度自分の目で細胞診を見直すことで, set E4 protein of human papillomavirus type 16 associates with mitochondria. J Virol 2004 Jul; 78(13): 7199-207. 新たな発見があると思う. 文 11) Nakagawa S, Huibregtse JM. Human scribble 献 (Vartul) is targeted for ubiquitin-mediated 1) Ishi K, Suzuki F, Yamasaki S, et al. 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