週次レポート 平成 28 年 6月 20日 英投票にらみ円高持続と円反落の

週次レポート
平成 28年 6月 20日
英投票にらみ円高持続と円反落の攻防
現状は残留優勢の見通し、離脱でも政策対応が焦点
今週の為替相場は、ドル/円、クロス円での円高圧力継続と反動円安をにらんだ波乱相場が予想されよう。
週間予想はドル/円が 1
00.50
-107.5
0円、ユーロ/
円が 114.80
-122.
30円。23日の英国における E
U離脱を
問う国民投票が重要テーマとなるなか、現状は残留優勢の見通しとなっている。実際に残留多数となれば、
ポンド高やユーロ高、リスク選好の円安が想定されやすい。万一の離脱多数や僅差となれば、一旦は円全面
高の激震相場が警戒されるが、その場合は G7協調による政策対応が焦点になる。
日本の輸入減一服で輸出減速、円高歯止めへ
「英 EU離脱の投票結果次第で、為替の世界はがらっと変わるだろう。4
-6月で国内鉄鋼需要が底打ちと
の見方は変えていない」――。
日本鉄鋼連盟の進藤孝生会長(新日鉄住金社長)は 20日、定例会見でこのような見解を示した。鉄鋼は、
中国発の過剰供給や内外経済の減速、円高などが直撃している苦境業種だ。それでも鉄鋼連盟が 16日発表し
た受注統計によると、4月の普通鋼鋼材受注は前年同月比+1.
2%と 3カ月連続増となった。3月に 20カ月ぶ
りに増加に転じた内需向けが+1.7
%と 2カ月連続増となり、同会長が指摘するような一旦の底入れシグナル
が点滅しつつある。
それでも日本市場では英投票警戒のほか、根深い中国発の世界減速懸念、米 FRBの利上げ遅延、米大統領
選でのトランプ候補リスクなどにより、安全逃避による債券高(長期金利は急低下)
・円高の圧力が続いてい
る。その中で外国人投資家による日本国債投資で判断材料となる「ドルベースでの日本の債券価格指数」は、
過去最高値の本格上抜けを巡る重要攻防に直面してきた。日本の債券価格指数(ブルームバーグ・EFFA
S=欧
州証券アナリスト協会連合会の債券指数、10年以上)は前週 16日、ドル換算で 4
.325ドル前後となり、2
012
年 11月以来の高値を突破している。
前回の複合デフレによる円高・債券高(金利は低下)を受けたドル建ての過去最高値が、20
12年 7月から
9月の 4.22ドル前後となっている。このまま完全上抜けとなり、一段と円高・債券高がオーバーシュートし
ていくか。あるいは過去最高値圏で頭打ちから高値横這いに移行し、歴史的な 2番天井とクライマックスを
形成。ジワリと安全逃避による円高と債券高の「終わりの始まり」に移行するかの重要な分水嶺を迎えてい
る。
ドル建て円債価格のテクニカルでは、前週に 52週移動平均線からの上方乖離率が+26%を突破してきた。
過去には 1998年 10月、1995年の 4月から 7月以来という、記録的な上昇過熱の領域に突入している。いず
れも現在と同じような円高加速の局面であったが、199
8年の場合は同年 8月の 1ドル=14
7円からのドル急
落後、1
0月の 111円前後でドルが底入れし、12月にかけて 1
24円方向へのドル自律反発が観測された(円は
反落)。1
995年についても、同年 4月の 80円割れでドルが底入れから底固めへと移行。同年 11月に 104円
台を回復し、その後は 1998年の 147円方向まで「倍返し」の反動円安が加速された実績を有している。
現在は根深い世界減速懸念や米 FRBの利上げ遅延、日銀の緩和手段と緩和効果の限界懸念などにより、
「円
高トレンドはまだ長引く」という見方が強い。それでも為替需給を左右する日本の貿易統計では、最新 5月
に-407億円の赤字となった。予想は+700億円の黒字であったが、4カ月ぶりの赤字転落となっている。輸
入は前年比-13.8
%となり、前月の-23.8
%から下げ幅を縮小。先行き原油反発のほか、鉄鋼連盟会長が指
摘する内需復調、熊本地震などの復興事業により、輸入は底入れが見込まれている。かたや輸出は-11.
3%(
前
月は-10
.1%)
と、8カ月連続での減少となった。輸出は当面、円高や中国などの世界減速により、停滞が続
くという警戒感が強い。輸入回復と輸出低迷は貿易黒字の減少を通じ、タイムラグを経て円高・ドル安に歯
止めを掛ける可能性を秘めている。その他の注目ポイントは以下の通り。
<英国での EU離脱を問う国民投票>
英国では 23日に EU離脱を問う国民投票が予定されており、それまではリスク回避の株安・円高やポンド
安、欧州経済への打撃懸念によるユーロ安の混乱余地が残されている。前週には EU残留支持派の議員が射殺
されるという悲劇もあり、前週後半からは残留優勢の世論調査が目立ち始めた。23日には出口調査などで残
留有利が報じられると、ポンドやユーロの反発やリスク選好の株高・円安が後押しされる。
一方、出口調査で接戦報道が出てきたり、最終的な離脱多数の波乱、残留派勝利でも僅差となれば、激震
相場が現実化する。一時的なポンドやユーロの暴落、日本での株価暴落と円暴騰の波乱シナリオが警戒され
よう。しかし、その場合は G7協調による緊急ドル資金供給のほか、為替相場の混乱次第ではポンド安定化の
協調介入も可能性としてゼロではない。二次反応としては、政策対応や一旦の悪材料の出尽くしにより、リ
スク回避相場の鎮静が意識される。ただし、ユーロについては、23日の英投票が終了すると、26日のスペイ
ン総選挙が新たな警戒材料となる。
<米 FRBの利上げ動向や経済指標>
米国では F
RBによる利上げ遅延やペース減速の見通しが強まってきた。今週も FRB幹部の発言などで、利
上げ慎重姿勢が再確認されると改めてドルが戻り売りに押されやすい。一方で米国の経済指標については、
強弱混在ながら底堅さも見られている。現在のドル安や利上げ警戒の後退、金利低下、原油安定化などは、
先行き米国経済を下支えしていくものだ。今週は 22日の中古住宅販売、23日の新規失業保険申請、23日の
新築住宅販売、24日の耐久財受注などで、「懸念ほどには弱くはない」という打たれ強さが注視される。
<資源相場や資源国通貨の「下値固め」攻防>
WTI原油先物は 6月 8-9日に 1バレル=51ドル超えまで上昇したところで、調整反落となっている。一方
で前週 16日以降は米 FRBの利上げ遅延姿勢やドル安により、下げ止まりも見られ始めた。夏にかけては世界
的な資源エネルギー需要が見込まれ、原油を含めた資源相場は下値固めが注目されやすい。連動する形で為
替相場でも、NZドル、豪ドル、カナダ・ドル、南アフリカ・ランドといった資源国通貨ついて、根強い戻り
売りに対しての下値余地の狭まりや、下値固めが焦点となる。
月足テクニカルの一目均衡表で、NZドル/円は雲の下限 72
.41円前後の上抜け維持を巡る重要攻防が続い
ている。カナダ/円は転換線 86.
10円前後や雲の下限 8
6.60円前後の回復が焦点となっている。
<ドル/円の節目メド>
ドル/
円の理論値面での適正水準、国際的に許容される中立レートである購買力平価では、OECDによる 2015
年ベースで 1ドル=10
6.04円、IMFの 2016年見通しで 103.32円となっている。20日には IMFが最新の対日
審査報告で、
「年初からの実質実効為替レートの増価(円高)は、中期的なファンダメンタルズと整合的な水
準になってきた」、「為替の増価は、デフレ・リスクの低減に向けた取り組みを阻害する」といった見解が示
されている。国際的には円の割安批判が修正され、円相場の適正判断が見られ始めた。今後の日本の政策対
応については、一段の円高・デフレ泥沼化の阻止に向けた「為替市場介入以外の政策努力」が是認されやす
い環境となっている。
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