バイオマテリアルの設計

物質工学域研究紹介
バイオマテリアルの設計
バイオマテリアル研究室 実験室 総研 B521, 522, 52n3
教員名 長崎 幸夫 (教授) 教員研究室 総研 B507
クスポリマードラッグの設計を行っています。
1. はじめに
我々の研究室では高分子の精密合成技術を
ベースとした機能性材料、特に生体機能の一部
を代替する「生体機能材料」を目指した研究を
行っています。
本研究室で初めて見出された外部刺激に応
答して性質を変化させるポリサイラミン、両末
端に様々な官能基を導入したヘテロ二官能性
ポリエチレングリコール(PEG)、悪玉活性酸素
を選択的に消去する高分子、生体のわずかな環
境変化で機能する分子や材料などを設計し、髙
感度で病気を診断するセンサー、薬や遺伝子を
体内目的部位まで運ぶドラッグキャリア・遺伝
子ベクター、手術時に利用する高機能材料や臓
器代替材料などの新規設計をし、実用化による
社会貢献を目指しています。
2. 主な研究テーマと具体的内容
2.1. 高性能バイオインターフェースの設計に
よる髙感度バイオセンシング:
材料を生体内や生体環境で利用する場合、そ
の界面を精密に設計することが極めて重要で
す。我々の研究室では独自の材料を利用し、表
面・界面の物理化学的な生体最適化を行うとと
もに、生体反応をアクティブに制御する新しい
設計を行い、バイオマテリアルやバイオセンサ
ーの設計を進めています。
2.3. がん環境変化で機能する新しい治療のた
めの分子設計
がんの微細組織中では pH や酸素濃度が低下
し、アポトーシスが抑制されるなど、通常の組
織に比較して特異的な環境にあります。我々の
研究室では低 pH や低酸素で機能するナノ粒子
や薬物をデザインし、正常組織では副作用が無
く、腫瘍に特異的に反応する新しい物質・材料
の設計を行っています。
2.4. 物理と化学の融合による新しい抗がん治
療法の開発
現在の薬物治療ではクスリが全身に拡散す
ることで副作用を生じる原因となります。我々
は光、放射線や中性子線などで反応するあるい
は反応性が向上する部位をナノ粒子に創り込
み、ナノ粒子が腫瘍に集積するとともに物理的
エネルギーによって初めて反応し、がんをやっ
つける新しい治療法を開発しています。
2.2. 難治疾患に挑むポリマードラッグ療法の
開発
脳梗塞や心筋梗塞、アルツハイマーや動脈硬
2.5. 患者さんに優しい透析法の開発
現在国内で 30 万人にのぼる腎不全患者さん
が透析を受けています。その大部分が透析膜を
利用した血液透析と言われる方法で血液を浄
化しています。しかしながら血液透析は透析膜
材料と血液との接触により血液がダメージを
受け、この活性化した血液が全身を循環するこ
とにより、わずかに残存している腎機能が完全
化など、様々な疾患で活性酸素種が原因となっ
ていることが知られています。我々は正常な細
胞内で産生される良玉活性酸素による反応を
妨げることなく、疾患部位で過剰に産生する悪
玉活性酸素を選択的に消去する新しいレドッ
に消失し、(エリスロポエチンが産生されなくな
るため)重度の貧血が起こり、更には心筋梗塞や
脳梗塞のリスクが上がる事が知られています。
また血液透析は週 2〜3 回、数時間にわたる透
析治療のため、社会復帰が困難であります。血
液透析に対し、腹膜透析は残存した腎機能を生
かす透析法であり、自宅においても可能なため
患者への負担が少ない透析法です。しかしなが
ら従来の腹膜透析法では透析液に含まれてい
るグルコースにより、腹膜に酸化ストレスダメ
ージが生じ、腹膜硬化症といった症状が現れる
(大学院)生体材料科学特論、生体材料工学特
論、物質科学・バイオ特別研究、医工学概論(フ
ロンティア医科学)、医科学特別演習(フロンテ
ィア医科学)
事が知られています。我々はこのような腹膜硬
化症を低下させ、患者さんのクオリティーオブ
ライフ(QOL)の高い新しい腹膜透析法をナノテ
クノロジーを駆使して作り上げています。
2.6. 外科手術を安全にする新しい材料設計
外科手術の際、臓器は大気に露出され、乾燥
するだけでなく、酸化的ストレスを受けます。
我々は酸化ストレスを抑制し、癒着を防ぐ新し
い癒着防止剤の設計を進めています。
共同研究
1. 潰瘍性大腸炎、大腸がんに関するナノメディ
シンの開発と評価→筑波大医学部消化器内
科
2. 動脈硬化、糖尿病に関するナノメディシンの
開発と評価→筑波大医学部代謝内科
3. ガン温熱治療用磁性粒子の開発と評価→筑
波大学数理物質系物理工学、医学部消化器外
科
4. 脳梗塞・再灌流障害に対するナノメディシン
2.7. バイオイメージングを可能にするナノ粒
子デザイン
早期の病気の発見や診断は元気で明るい社
会をつくるのに大切な技術です。赤外線で光る
の開発と評価→筑波大学医学部脳外科
5. アルツハイマー治療用ナノメディシンの開
発と評価→筑波大学医学部脳神経内科
6. ナノ粒子アシストボロン中性子捕捉療法の
開発→筑波大学医学部脳外科および京都大
粒子や酸化ストレスで信号を ON にするナノ粒
子は生体内の病変や酸化ストレスを検知する
新しいバイオイメージングシステム用材料と
して期待されます。
3. おわりに
大学の教育は教室で知識の習得をすること
も重要ですが、最先端の研究を基に、生きた題
材を通して学ぶことが極めて重要です。我々の
研究室では社会に貢献する工学的な最先端研
究をすすめるとともに、グループミーティング
や年度末ミーティングを通し、研究開発に対す
る考え方を学び、使える研究者への成長を目指
し、日夜頑張っています。
参考文献
http://www.ims.tsukuba.ac.jp/~nagasaki_lab/public
ations_and_proceedings/publications.htm
担当授業
(学類)高分子化学、生物工学、有機電子論
プロジェクト
学原子炉研究所
7. 腎臓梗塞・再灌流障害に関するナノメディシ
ンの開発と評価→筑波技術大学
8. 心筋梗塞・再灌流障害に関するナノメディシ
ンの開発と評価→国立循環器病研究センタ
ー
9. 歯周病治療用インジェクタブルゲルの開発
と評価→神奈川歯科大学
10. 非アルコール性肝炎に関するナノメディシ
ンの開発と評価→カリフォルニア大学サン
ディエゴ校
11. 活性酸素消去型ナノ粒子の大腸粘膜におけ
る効果の遺伝子解析→ノースキャロライナ
大学
12. 腹膜透析用ナノ粒子の開発と評価→筑波技
術大学および筑波大学付属病院 日立社会
連携教育研究センター
連絡先
TEL029-853-5749
e-mail yukio@nagalabo.jp