道路情報基盤活用委員会2014活動報告書

ITS Japan
道路情報基盤活用委員会
2014 年度活動報告書
2015 年 6 月
特定非営利活動法人 ITS Japan
道路情報基盤活用委員会
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目
次
第 1 章 はじめに ........................................................................................................................ - 3 第 2 章 道路情報基盤活用委員会の今までの活動 ....................................................................... - 5 2.1 次世代デジタル道路地図研究会 ................................................................................................ - 5 2.2 次世代デジタル道路情報委員会 ................................................................................................ - 7 2.3 道路情報基盤活用委員会 ........................................................................................................... - 9 第 3 章 2014 年度の活動 .......................................................................................................... - 11 3.1 自動運転での利用 .................................................................................................................... - 11 -
3.1.1 ダイナミックマップの役割 ............................................................................................. - 15 3.1.2 ダイナミックマップの構造 ............................................................................................. - 16 3.1.3 データの流通の仕組み .................................................................................................... - 17 3.2 オープンデータ、ビッグデータでの利用 ................................................................................ - 20 3.3 オーソリティテーブルの対象道路の拡大 ................................................................................ - 23 3.4 国際標準化 ............................................................................................................................... - 24 第 4 章 今後に向けて ............................................................................................................... - 25 -
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第1章 はじめに
自動車は、今、大きな変革期を迎えようとしている。
その一つが、電動化である。
自動車の歴史は、1885 年にカールベンツが内燃機関(ガソリンエンジン)を馬車に搭載
したことに始まる。その後、ヘンリーフォードが大量生産により低価格化したことで、自動
車は大きく普及し、今では、自動車は、人々の生活に無くてはならないものとなった。
しかし、地球の温暖化がクローズアップされるにつれ、世界中に普及した自動車が排出す
るCO2が問題となり、様々なCO2削減技術が開発され、CO2を排出しない電気自動車
への期待も大きくなった。
今、電池の技術が大きく進化したことで、電気自動車の実用化が可能となり、電気自動車
の普及がスタートした。さらに、水素から電気を得る水素自動車も実用化され、今後、自動
車の動力源は、内燃機関から電気へと移行が進むものと思われる。
二つ目は、情報化である。
自動車を運転する際、運転者は、走行する位置や走行する道路の状況、車の周辺の状況等、
様々な情報を入手し、自動車を運転する。
ITS 技術の一つとして開発されたカーナビは、走行位置や目的地までのルート、交差点で
の右左折等の情報を運転者に提供することで、運転者の負荷を減少させ、たとえ、今まで一
度も行ったことが無い場所でも容易に行けるようになり、また、どんな場所からも自宅に帰
ることができるようになった。
さらに、カーナビは、通信技術と連携することで、道路の渋滞状況や対向車の情報を運転
者に提供することも可能となった。また、カーナビの位置情報は、情報センターで共有化さ
れ、道路の様々な状況を推定する技術(プローブ技術)も開発された。
自動車の情報化は、今後、さらに、運転者の負荷を減らし、自動車の安全性の向上に大き
く貢献することになるものと思われる。
そして、今、新たな変革として、自動化が始まろうとしている。
2012 年に、Google がカルフォルニアの公道で、自動運転の試験走行を開始したことで、
自動運転の技術が現実的なものとなり、自動車各社は、自動運転の実用化に向け、その開発
を加速化させることになった。
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交通事故の大半は、運転者の不注意によるものであり、もし、自動運転を実用化すること
ができれば、交通事故の多くを減らすことができる。
図1.
交通事故類型(出典:警察庁交通局「平成26年中の交通事故の発生状況」
)
図2.
交通事故原因(出典:警察庁交通局「平成26年中の交通事故の発生状況」
)
しかし、自動運転を実用化するためには、センサ、人工知能等、解決すべき課題は多く、
地図もその一つとなっている。
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第2章 道路情報基盤活用委員会の今までの活動
ITS Japan では、2004 年の「次世代デジタル道路地図研究会」以来、新たな ITS サービ
スに向けた地図の議論を行ってきた。
2.1 次世代デジタル道路地図研究会
2004 年、ITS Japan では、ITS セカンドステージにおける安全・安心を支える走行支援
サービスの実現へ向け、デジタル道路地図のあり方を研究するため、
「次世代デジタル道路
地図研究会」を立ち上げ、次世代のデジタル道路地図の議論を開始した。その成果は、
2005 年 8 月に、「次世代デジタル道路地図の実現に向けた提言」にまとめられ公開された。
提言では、8つの走行支援サービスを想定し、それらの走行支援サービスを具体化するた
めに必要とする情報を、2007 年とその後に分け、その整備目標を提示した。
サービス名
安全
全域
単路
交差点
環境
(渋滞緩和)
表1.
サービス内容
標識情報提供サービ
ス
案内標識、規制(工事規制も含む)の適切な
情報を運転手に提供することにより注意を促
し交通事故防止に寄与する。
地域(ゾーン)情報
提供サービス
スクールゾーン、お祭りゾーンなどの地域情
報を運転手に提供することにより注意を促し
交通事故防止に寄与する。
路車(車路)協調サ
ービス
路側の情報と地図の情報を組み合わせて運転
手に提供することにより注意を促し交通事故
防止に寄与する。
カーブ進入危険情報
提供サービス
カーブに進入する際、速度超過情報を運転手
に提供することにより注意を促し交通事故防
止に寄与する。
速度超過箇所情報提
供サービス
速度超過が発生しやすい緩やかな下り坂部情
報を運転手に提供することにより注意を促し
交通事故防止に寄与する。
交差点危険情報提供
(一時停止)支援サ
ービス
交差点の一時停止情報を運転者の挙動に応じ
て提供することにより注意を促し交通事故防
止に寄与する。
詳細な道路情報提供
サービス
従来の経路案内に加えて、走行すべき車線を
案内したり、車線毎の渋滞情報を提供したり
することで、快適な運転に寄与する。
サグ情報提供サービ
ス
サグ渋滞が発生する箇所の情報を提供するこ
とで、渋滞緩和に寄与する。
次世代デジタル道路地図の対象となる走行支援サービス
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区分
情報項目
情報の内容
2007 年頃
①道路構造
に関する情
報
カーブ情報
・路線最小曲率半径
の区間
中長期
・曲率半径
・カーブの始終点
・横断勾配
・連続カーブの数・間隔
勾配情報
・路線最大縦断勾配
の区間
・縦断勾配
・勾配始終点
・高さ(絶対高さ、高速と一
般道の差高など)
②道路に附
随する情報
信号機
・信号機位置
同左
標識
・規制標識情報(一
時停止、速度規制、
一方通行など)
(左記に加え)
・警戒標識情報(急
カーブ、サグ渋滞発
生箇所など)
規制ゾーン情報
・スクールゾーン
・案内標識情報(案内方法を
統一・ネットワーク化した
もの)
(左記に加え)
・その他安全に関するゾーン
(居住者以外進入禁止など)
交差点情報
・位置
同左
・名称
・一時停止線位置
レーン情報
道路基準点情報
・道路幅員
(左記に加え)
・歩道有無
・レーン情報
・キロポスト
(左記に加え)
・位置補正情報
(参考:
(信号現示)
-
(・信号現示)
動的情報)
(工事規制)
-
(・区間、内容、期間)
(車線毎の渋滞
情報)
-
(・車線毎の渋滞情報)
表2.
次世代デジタル道路地図として整備が必要な情報
さらに、次世代デジタル道路地図に求められる要件も定義された。
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次世代デジタル道路地図に求められる要件は、
① 次世代サービスに必要な情報内容を必要な箇所でもつこと。
② 迅速かつ確実な情報更新を行うこと。
③ 拡張性・互換性を確保すること。
ITS Japan のこの委員会に前後して、国土交通省でも、「次世代デジタル道路地図研究会」
(委員長:東京大学空間情報科学研究センター柴崎教授、2005~2007 年)が立ち上げられ、
次世代のデジタル道路地図に必要となる2つの基盤が提案された。
次世代デジタル道路地図に必要となる2つの基盤
① 道路の共通位置参照方式:道路上の位置を共有するための仕組み
② 道路基盤地図情報(道路基盤データ):高精度な道路地図
2.2 次世代デジタル道路情報委員会
一方、「次世代デジタル道路地図研究会」の議論の中で、新たな ITS サービスが利用する
のは、地図だけでなく、様々な道路情報であることが明らかとなり、ITS Japan の「次世代
デジタル道路地図研究会」は、2007 年に、
「次世代デジタル道路情報委員会」となり、新た
な ITS サービスで利用される道路情報の検討が進められることになった。
その成果は、2008 年4月に「安全・環境に資する走行支援サービス実現のための道路情
報基盤整備と流通に向けた提言」としてまとめられた。
提言では、走行支援サービスを実現するための要件が示された。
走行支援サービスを実現するためには、

道路情報の網羅性、正確性、鮮度が重要となる。
道路情報の網羅性、正確性、鮮度を確保するためには、

その道路情報を管理する主体からの更新情報の提供とその流通が必要となる。
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また、その要件を具体化するために、国土交通省の「次世代デジタル道路地図研究会」で
提案された、
「道路の共通位置参照方式」と「道路基盤地図情報」の 2 つの基盤の早期実現
を提言した。
図3.
道路の共通位置参照方式
(出典:国土交通省国土技術政策総合研究所「道路の共通位置参照方式における基本的考え方」)
図4.
道路基盤地図情報
(出典:東大 CSIS-I「第 10 回公開シンポジウム
国土交通省国土技術政策総合研究所発表資料」
)
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その後、委員会では、この提言を具体化するための議論が行われ、「道路の共通位置参照方
式」、「道路基盤地図情報」を共通基盤とした「道路情報基盤」を提案し、官民それぞれが収
集・整備する道路関連情報を共有化し、相互利用する仕組みの構築が重要であることを明ら
かにした。
図5.
道路情報基盤
(出典:ITS Japan「次世代デジタル道路情報委員会 2010 年度活動報告書」
)
2.3 道路情報基盤活用委員会
「次世代デジタル道路情報委員会」は、2011 年に、「道路情報基盤活用委員会」(本委員
会)となり、
「道路情報基盤」の普及に向けた活動が進められることになった。
「道路の共通位置参照方式」は、その後、
「道路の区間ID方式」に改称され、2011 年に
は、日本デジタル道路地図協会(DRM 協会)により、県道以上の道路の ID テーブルの整
備が完了し、公開され、その利用が可能となった。
また、「道路基盤地図情報」については、国土交通省国土技術政策総合研究所(国総研)
に「大縮尺道路地図の整備・更新に関する共同研究」が設置され、「道路基盤地図情報」の
整備・更新手法の検討に加え、その利用方法の検討も進められることになった。
そこで、委員会では、
「道路情報基盤」の利用方法を具体化するため、「道路の共通位置参
照方式」を「オーソリティテーブル」
、「道路基盤地図情報」を「オーソリティマップ」と称
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して、その具体的な利用方法の検討が行われた。
利用シーン
ITS サービス
検討内容
自動運転
マルチモーダル
災害対応
道路管理
道路管理者が公開する情報への「道路情報基盤」の適
用方法と道路情報の共有化による効果を検討
自治体業務
オープンデータを推進する自治体が公開する情報を整
理し、「道路情報基盤」によるオープンデータの共有
化方法を検討
表3.
道路情報基盤の利用シーン
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第3章 2014 年度の活動
2014 年度は、自動運転の開発が加速化したことと、オープンデータとビッグデータの議
論が活発化したことを受け、下記の検討を行うことにした。
① 自動運転での「道路情報基盤」の利用
② オープンデータ・ビッグデータでの「道路情報基盤」の利用
③ 「オーソリティテーブル」の対象道路の拡大
3.1 自動運転での利用
自動運転を実現するためには、人がクルマを運転する動作(認知、判断、操作)を様々な
システムが代替することになる。
図6.
自動車の運転と自動運転
この中で、自動走行システムを正確に機能させるためには、まず、走行環境、周辺環境を
正確に「認知」することが重要であり、下記の技術が利用される。
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図7.
自動走行システムが走行環境、周辺環境を「認知」するための技術
領域Ⅱ「協調システム」や領域Ⅲ「クラウド(情報)」の技術は、ITS の技術でもあり、
車載システムだけではなく、道路を維持・管理する道路管理者や交通管理者との連携が重要
となる。
そ こ で 。 政 府 は 、 SIP ( 戦 略 的 イ ノ ベ ー シ ョ ン 創 造 プ ロ グ ラ ム : Cross-ministerial
Strategic Innovation Promotion Program)のテーマの一つとして「自動走行システム」を取
り上げ、ITS Japan の会長でもあるトヨタ自動車渡邊顧問を PD(プログラムディレクター)
とし、2020 年の東京オリンピック・パラリンピックを目標に、自動走行システムの具体化
に向けた官民の連携による研究開発が開始されることになった。
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図8.
SIP「自動走行システム」
(出典:SIP「自動走行システム」自動走行システム推進委員会)
SIP「自動走行システム」では、協調領域となる下記の研究開発テーマが設定され、自動
走行システムが利用する地図「ダイナミックマップ」は、その一つとして議論が進められる
ことになった。
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図9.
SIP「自動走行システム」の研究開発テーマ
(出典:SIP「自動走行システム」研究開発計画)
そこで、道路情報基盤活用委員会の事務局は、地図の専門家として、ダイナミックマップ
を議論する場となった民間側サブワーキングである「ダイナミックマップ SWG」に参加し、
ダイナミックマップの具体化に向けた活動を支援することになった。
3.1.1 ダイナミックマップの役割
ダイナミックマップ SWG では、ダイナミックマップの要件を明らかにするため、自動走
行システムの各走行シーンにおける地図の利用方法のユースケースがまとめられ、自動走行
システムが利用する地図の目的と役割が明らかにされた。
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機能
自車位置の推定
道路情報の先読み
移動体検知と予測
障害物検知
ダイナミックマップの役割
自動車の走行位置を判定する。

走行道路判定

走行車線判定

車線のない場所における自車位置推定
走行する上で遭遇する様々な事象を事前に入手することで、走行
方法を判断する。

走行道路情報

走行車線情報

車載センサ補正

走行車速制御

回避行動
周辺を移動する移動体の存在を検知し、自車との接近を予測す
る。

移動体検知

衝突可能性のある移動体の判断

他車が検知する移動体情報の共有

移動体の移動予測
走行の障害となる障害物の存在、接近を判断する。

動的障害物と静的障害物の判定

衝突の可能性のある対向車の判定

障害物情報の共有
表4.
自動走行システムにおける地図の目的と役割
3.1.2 ダイナミックマップの構造
このダイナミックマップの役割を果たすためには、新たな地図データの仕組みが必要とな
る。
自動走行システムでは、カーナビの技術や協調システム、安全運転支援システムの技術を
利用することになるため、既存の地図データの構造との連携は必須であり、今まで、ITS
Japan で検討を進めてきた「道路情報基盤」の仕組みを取り入れたダイナミックマップのデ
ータ構造の案が提案され、現在、その具体化に向けた議論が進められている。
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道路情報基盤
オーソリティテーブル
オーソリティマップ
図10.
ダイナミックマップ・基盤的地図のデータ構造(案)
3.1.3 データの流通の仕組み
自動走行システムでは、走行環境と周辺環境を認知するため、自律システムの情報と協調
システムの情報に、ダイナミックマップの情報を連携(データフュージョン)させることに
なるため、ダイナミックマップには、精度に加え、鮮度と網羅性が重要となる。
そこで、情報の鮮度と網羅性を確保するためには、「道路情報基盤」での議論で明らかに
なったように、道路を整備・管理する官と、道路を利用する利用者(民)の連携が必須であ
り、ダイナミックマップの要件として、下記が必要となる。
ダイナミックマップの要件
① 道路情報を利用するための基盤となる地図
② 動的情報をリアルタイムに利用するための仕組み
③ 道路の変化をダイナミックマップに反映させる仕組み
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また、ダイナミックマップの情報の流れとして、次図が検討されている。
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図11.
ダイナミックマップの情報の流れ (出典:SIP「自動走行システム」メディアミーティング)
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3.2 オープンデータ、ビッグデータでの利用
東日本大震災では、ITS Japan は国と連携して通行実績情報・通行止め情報を提供し、災
害時の官民連携の情報共有の必要性が認識された。そして委員会では災害情報共有化の手段
の一つとして「道路情報基盤」の利用を提案してきた。
災害情報を共有化するためには、民間の通行実績情報を共有化するだけは不十分であり、
現地で災害状況を把握し、災害対応を行う自治体との情報の共有化が必須となる。
これまで、自治体が管理する情報は、管理情報であり、その一部は公開はされてはいたが、
その公開方法は様々であり、その利用は容易ではなかった。しかし、インターネットの普及
とクラウド技術の進化により、行政が監理する様々な情報をオープンデータとして公開する
ことで、行政の透明性の向上と経済の活性化が可能であることが明らかとなり、公共データ
のオープンデータ化の動きが世界中で活発化されるようになった。
日本においても、電子行政オープンデータ戦略として、下記がまとめられ、公共データの
オープンデータ化が進められるようになった。
図12.
電子行政オープンデータ戦略 (出典:総務省)
この電子行政オープンデータ戦略の中で、オープンデータの利用を促進するためには、
「②機械判読可能なデータ形式で公開すること」が重要であり、「道路情報基盤」の仕組み
は、自治体が管理するオープンデータの位置情報の機械的な処理を可能とし、その共有化を
容易にする。しかし、自治体が新たな仕組みを利用するためにはインセンティブ(採用する
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ための理由)が必要となるため、委員会からは、各自治体が「道路情報基盤」を利用する明
確なインセンティブを提示できなかったため、「道路情報基盤」の利用はなかなか進まなか
った。
しかし、災害情報の共有化の仕組みの検討が、総務省で進められることになり、災害情報
共有システム「Lアラート」の具体化が進められる中、G 空間情報の利用の有用性が明ら
かとなった。そのためには、自治体の防災担当者が災害時に位置情報を追加入力する必要が
あり、L アラートの普及を加速化させる施策「普及加速化パッケージ」では、「情報入力の
支援」の検討が進められることになった。
図13.
災害情報共有システム(L アラート)の概要(出典:総務省)
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図14.
L アラートの「普及加速化パッケージ」
(出典:総務省)
一方、ビッグデータの利用は自動走行システムでも期待されている。自動運転車が安全に
道路を走行するためには、道路の適切なメンテナンスが必要であり、たとえば、

区画線のかすれ

道路標識の損傷、街路樹等による遮蔽

路面の損傷
等は、自動走行システムの安定走行を損なう大きな要因となる。
そこで、多数の車両がセンサーで検知した情報とダイナミックマップとを比較し、その差
分情報を道路の管理者に提供することで、道路の管理者は、道路の損傷等を知ることができ、
その結果として、適切なメンテナンスが行われれば、利用者は自動運転車を安全に利用する
ことが可能となる。
今まで、オープンデータ、ビッグデータでの「道路情報基盤」の採用には、そのインセン
ティブが明らかになっていなかったため、その採用は進まなかったが、「L アラート」や
「自動走行システム」が具体化されるにつれ、道路情報の共有化する手段としての「道路情
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報基盤」の有用性が明らかになれば、今後、その利用が進むものと期待される。
3.3 オーソリティテーブルの対象道路の拡大
現在、「道路情報基盤」が利用する「道路の区間 ID 方式」の ID テーブルは、県道以上の
道路の整備が完了している。
県道以上の道路の延長距離は 21 万 km であり、全国の道路の総延長 120 万 km に対して
は、そのカバー率は 15%でしかないが、自動車は、移動する際、県道以上の道路を利用す
ることが多く(下記の資料では、県道以上の道路の利用率は 70%)
、県道以上の道路の「オ
ーソリティテーブル」が整備されたことで、
「道路情報基盤」は、その価値を提供すること
が可能となった。
図15.
道路別の利用状況 (出典:国土交通省「道路行政の簡単解説」
)
しかし、災害対応や自動運転車を地域交通の手段として利用することを想定した場合、県
道以上の「オーソリティテーブル」だけでは不十分であり、少なくとも、カーナビが経路対
象道路とする、幅員 5.5m 以上の道路(延長距離 39 万 km)まで、「オーソリティテーブル」
の対象道路の拡大が必要となる。
今後、「L アラート」「自動走行システム」が具体化される中で、
「オーソリティテーブル」
も、その対象道路の拡大に向けた議論も進められるものと期待される。
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3.4 国際標準化
ISO ( International Organization for Standardization ) で は 、 道 路 上 の 位 置 参 照 技 術
(LR:Location Referencing)は、ISO17572(Location Referencing)に規定される。
ISO17572 には、2つの位置参照の技術が規定されている。
位置参照方式
Pre-Code 方式
概要
事前に、道路を特定するための共通 ID(テーブル)を作成し、共
有化することで、道路上の位置を ID で交換する手法
Dynamic 方式
対象となる道路の始点と終点の緯度・経度情報と付加的な情報
(経由地点情報、道路属性情報等)を利用して、道路上の位置を
特定する手法
表5.
位置参照方式
VICS で利用する VICS リンクは、Pre-Code 方式の代表例として Annex に記載されてい
る。2014 年は、ISO17572 の定期作業が行われ、本委員会のメンバーでもある三菱総研の
中條氏が標準化グループ(ISO/TC204/WG3/SWG3.3)の議長に就任し、日本から「道路の
区間 ID 方式(Road Section Idetification Data Set)」を提案し、Pre-Code 方式の新たな例
として Annex に、VICS リンクに併記する形で追加された。
現在、自動走行システムが利用する地図の国際標準化の議論が始まっており、道路情報を
利用するための手段として位置参照方式の重要性も明らかとなっている。そこで、様々な国
際標準の中で規定されている位置参照方式を整理する動きもあり、
「道路の区間 ID 方式」も
その中で、その役割が明らかになるものと期待される。
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第4章 今後に向けて
ITS Japan では、2004 年に「次世代デジタル道路地図研究会」を設置し、それ以来、次
世代のデジタル道路地図や新たな ITS サービスが必要とする道路情報についての議論を行
なってきた。その結果、新たな ITS サービス実現の加速化を狙い、ITS サービスが利用する
道路情報を流通させるための手段として「道路情報基盤」を提案し、その活用の働きかけを
行ってきた。
「自動走行システム」や「L アラート」といった具体的なサービスが明らかになるにつれ、
「道路情報基盤」の重要性が認識され、今後、「道路情報基盤」の利用が進むものと期待さ
れ、委員会の活動目的は、達しつつあると考える。
そこで、本委員会は、当初の予定通り、4年の活動期間が終了する 2014 年度をもって終
了することにする。
しかし、自動運転やカーシェアリングのような新たな自動車の利用方法や、公共交通、パ
ーソナルモビリティ、自転車、歩行を組み合わせた多様な交通の利用方法への期待が明らか
となる中、地図の重要性は増しており、今後、活動内容を見直した上で、活動を再開したい
と考える。
最後に、今まで、各研究会、委員会に参加し、一緒に議論を進めて来た委員各位のご尽力
に厚く御礼を申し上げる。
以上
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委員会名簿
ITS Japan 道路情報基盤活用委員会
-2014 年度 委員名簿(組織名五十音順)-
委員長 :
浜田
隆彦
株式会社デンソー
情報安全事業グループ
情報安全技術企画室
委員
:
高畠
誠滋
アイシン・エィ・ダブリュ株式会社
VIT事業本部 ITS開発部 チームリーダー
委員
:
石川
健
アイシン・エィ・ダブリュ株式会社
VIT事業本部 先行企画部
委員
:
田中
善治
朝日航洋株式会社
空間情報事業本部
東京空情支社 副支社長
委員
:
大伴
真吾
朝日航洋株式会社
空間情報事業本部
システム開発研究センター
委員
:
末久
博行
朝日航洋株式会社
センター長
空間情報事業本部
東京空情支社 計測技術部
委員
:
森
一夫
副部長
アジア航測株式会社 営業統括部
顧問
委員
:
大貫
宏靖
市光工業株式会社
開発本部
P2P3 プロジェクトチーム
委員
:
樋川
祐一
インクリメント P 株式会社
研究開発部
プロジェクトリーダー
コンテンツ部
次長
委員
:
田中
淳
株式会社オリエンタルコンサルタンツ SC事業本部
関東支店 都市地域創生事業部門 交通技術部 部長
委員
:
竹平
誠治
株式会社オリエンタルコンサルタンツ SC事業本部
関東支店
委員
:
山口
章平
都市地域創生事業部門
株式会社建設技術研究所 東京本社
交通技術部 担当次長
情報部
一級技師
委員
:
山口
大輔
株式会社建設技術研究所 道路交通部
グループリーダ
委員
:
松林
豊
国際航業株式会社
企画部事業開発グループ
事業開発担当チーフ
委員
:
佐々木 洋一
国際航業株式会社 東日本事業本部 第三技術部
行政支援 2 グループ 技師
- 26 -
委員
委員
:
:
中島
竹川
正浩
道郎
住友電工システムソリューション株式会社
モバイルシステム事業部 新規事業推進部
課長
株式会社ゼンリン
推進2課
第二事業本部 第二事業推進部
部長
委員
:
古野
豊起
株式会社ゼンリン
東京社長室
担当部長
委員
:
林
康博
トヨタ自動車株式会社 IT・ITS 企画部
企画調査室
委員
:
大崎
新太郎
主任
株式会社トヨタマップマスター 企画開発部
主幹
委員
:
手嶋
英之
中日本高速道路株式会社 建設事業本部
次世代高速チーム チームリーダー
委員
:
浦
正勝
西鉄情報システム株式会社
営業開発グループ
部長
委員
:
野村
高司
日産自動車株式会社 電子技術開発本部
IT&ITS開発部 主担
委員
:
江崎
智行
日本アイ・ビー・エム株式会社
スマーター・シティ事業
新規事業開発 部長
委員
:
望月
篤
日本工営株式会社
インフラマネジメント事業部
都市・交通計画部 課長
委員
:
君塚
健一
委員
:
大貫
公仁
ネクスコ東日本エンジニアリング 施設技術部ITS課 課長
代理
パイオニア株式会社 カーエレクトロニクス事業統括部
カー市販事業部 事業企画部 マルチメディア企画部
渉外担当 部長
委員
:
市川
博一
パシフィックコンサルタンツ株式会社 マネジメント事業本部
交通政策部 交通戦略室 室長
委員
:
金木
大輔
パシフィックコンサルタンツ株式会社 マネジメント事業本部
交通政策部
委員
:
市川
龍平
委員
:
岩松
浩志
交通戦略室 チームリーダー
株式会社パスコ システム事業部 ITS技術部 部長
パナソニック株式会社 オートモーティブ&インダストリアル
システムズ社 インフォテインメント事業部 グローバル基盤
技術開発センター ソフト開発グループ 主任技師
- 27 -
委員
:
小見川 清
パナソニック株式会社 オートモーティブ&インダストリアル
システムズ社 インフォテインメント事業部
市販・用品ディビジョン 商品設計グループ 主任技師
委員
:
柴田
明人
委員
:
根岸 辰行
委員
:
富沢
委員
:
原
正之
智亨
パナソニック株式会社 オートモーティブ&インダストリアル
システムズ社 インフォテインメント事業部
市販・用品ディビジョン商品設計グループ チームリーダー
パナソニック株式会社 オートモーティブ&インダストリア
ルシステムズ社 新規事業本部オートモーティブ事業開発セン
ター事業企画グループ ITS 事業企画チーム 主事
株式会社日立製作所 情報・通信システム社 (情エン事)
CIS 本部 第四部 本部長付
フォルクスワーゲングループジャパン株式会社
東京技術代表部 マネージャー
委員
:
奥瀬 俊哉
株式会社ブロードリーフ ソリューション営業グループ
ディレクター
委員
:
藤井
一隆
ボッシュ株式会社
テクニカルセンター
先端技術開発部 先端技術開発グループ
委員
:
中村
之信
株式会社本田技術研究所 四輪R&Dセンター
第 12 技術開発室 第 3 ブロック 主任研究員
委員
:
安斉
秀彦
株式会社本田技術研究所 四輪R&Dセンター
第 12 技術開発室 第 3 ブロック 主任研究員
委員
:
中條
覚
株式会社三菱総合研究所 社会公共マネジメント研究本部
モビリティ戦略グループ
委員
:
早川
玲理
主任研究員
株式会社三菱総合研究所 社会公共マネジメント研究本部
都市再生戦略グループ 研究員
委員
:
竹中
憲郎
三菱電機株式会社
ITS推進本部ITS技術部
ITS技術第二課
課長
オブザーバー:
金藤
康昭
国土技術政策総合研究所
防災・メンテナンス基盤研究センター 情報研究官
オブザーバー:
重高
浩一
国土技術政策総合研究所 防災・メンテナンス基盤研究センター
メンテナンス情報基盤研究室
オブザーバー:
今井
龍一
室長
国土技術政策総合研究所 防災・メンテナンス基盤研究センター
メンテナンス情報基盤研究室
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研究官
オブザーバー:
松井
晋
国土技術政策総合研究所 防災・メンテナンス基盤研究センター
メンテナンス情報基盤研究室
オブザーバー:
深田 雅之
交流研究員
国土技術政策総合研究所 防災・メンテナンス基盤研究センター
メンテナンス情報基盤研究室
交流研究員
オブザーバー:
松村
正一
国土交通省国土地理院 地理空間情報部 部長
オブザーバー:
吉崎
稔
一般財団法人日本デジタル道路地図協会 上席調査役
オブザーバー:
石田 稔
一般財団法人日本デジタル道路地図協会 企画調査部
部長
オブザーバー:
土居原 健
一般財団法人日本デジタル道路地図協会 研究開発部
部長
オブザーバー:
前川
阪神高速道路株式会社 保全交通部
和彦
システム技術課
課長代理
オブザーバー:
兒玉
崇
阪神高速道路株式会社 保全交通部
交通企画課
主任
事務局:
大月
誠
特定非営利活動法人 ITS Japan 普及促進グループ
常務理事
事務局:
東條
吉博
特定非営利活動法人 ITS Japan 普及促進グループ
理事
事務局:
石毛
政男
特定非営利活動法人 ITS Japan 普及促進グループ
部長
計 57 者
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添付資料
添付資料 :SIP ダイナミックマップ SWG の議論に向け検討・作成した資料
参考資料 :自動走行システムのユースケース
「自動走行システムのユースケースの検討(地図の役割)
」
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