2 自立支援医療(更生医療) 障害者自立支援法が平成18年4月1日から施行され、それに伴い、いままで身体障害者福祉法に基 づき行われてきた「更生医療」は、児童福祉法に基づき行われていた「育成医療」、精神保健福祉法 に基づき行われていた「精神通院医療」とともに自立支援医療として一元化され、それぞれ「自立支 援医療(更生医療)」、「自立支援医療(育成医療)」、「自立支援医療(精神通院医療)」となり ました。これらのうち、当所の判定が必要なのは、自立支援医療費(更生医療)の支給認定を行う場 合です。 (1) 自立支援医療(更生医療)の定義について 自立支援医療(更生医療)とは、疾病、事故、災害等による身体的損傷に対して医療(一般医 療)がなされ、すでに治癒(欠損治癒や変形治癒等の不完全治癒)した障害者を対象に、日常生 活能力、社会生活能力、または職業能力を回復、向上、若しくは獲得させることを目的として行 うリハビリテーション医療のことです。 (2) 自立支援医療(更生医療)の要否の判定依頼について 根拠法令等 ・自立支援法第58条第1項 ・「自立支援医療費の支給認定について」別紙3 自立支援医療費(更生医療)支給認定実施要綱 (最終改正:平成18年9月22日障発第0922001号厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長通知) 自立支援医療(更生医療)の要否の判定の事務の流れは、次のようになります(図番号参照)。 ① 市町村長(委任された福祉事務所の長を含む。)は自立支援医療費支給認定申請書を受理 し、申請者が申請の資格を有すると認めたときは②以降の流れになります。 ② 心身障害者総合相談所の長に自立支援医療(更生医療)の要否について判定を依頼します。 ③ 判定の結果、判定書が市町村長に送付されます。 ④ 市町村長は判定の結果、自立支援医療(更生医療)を必要とすると認められた者について 支給認定を行い、自立支援医療受給者証を交付します。判定の結果、自立支援医療(更生医 療)を必要としないと認められた者については認定しない旨、通知書を交付します。 ⑤ 申請者は受給者証を提示して治療を受けることになります。その際、自立支援医療(更生 医療)の給付を受けられるのは、障害者自立支援法第59条第1項の規定に基づき都道府県知 事(政令市、中核市においては市長)が指定した指定自立支援医療機関(病院・診療所、薬 局、訪問看護ステーション)においてです。 自立支援医療費(更生医療)の支給認定の概要 ⑤自立支援医療受給者証、保険証の提示 ⑥自立支援医療(更生医療)の給付 指定機関医療 身体障害者 ②自 立 支 援医 療 受 給 者 証交 付 ( 却 下 決定 通 知) ①支 給 認 定申 請 ⑦自己負担額支払 病院・診療所 薬 自立支援医療(更生医 局 訪問看護ステーション 療)の給付の委託 市 町 村 長 診療報酬審査支払機関 社会保険診療報酬支払基金 国民健康保険団体連合会等 ⑬診 療 報 酬の 支 払 付 中核市長 ⑫診療報酬の額の決定 ⑧診 療 報 酬の 請 求 交 指定都市長 ⑨概 算 の 請求 書 頼 総合相談所長 ⑪診療報酬の審査 ⑩概 算 の 支払 定 依 心 身 障 害 者 診療 報 酬 の支 払 委託 ③判 定 ⑫診 療 報 酬の 額 の決 定 ②判 都道府県知事 ア 自立支援医療(更生医療)の対象 (ア) 対象となる障害の範囲 18歳以上で身体障害者手帳を有する肢体不自由者、視覚障害者、聴覚・平衡機能障害者、 音声・言語・そしゃく機能障害者、内臓機能障害者(心臓、腎臓、小腸、肝臓機能障害に限 る。)、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害者が対象となります(身体障害者手帳交 付申請と自立支援医療費支給認定申請を同時に行うことが可能な場合もあります。)。その 障害の範囲は身体障害者福祉法第4条の別表に示されています。 対象となる障害は、臨床症状が消退しその障害が永続するものに限られます。そのため、 急性期心臓機能障害では対象とならない場合があります。このことから、心臓機能障害につ いて身体障害者手帳交付申請と自立支援医療費支給認定申請を同時に行う場合で、その判断 が困難な時は、事前に当所へ連絡し確認してください。また、内臓障害によるものについて は、手術により障害の除去または軽減が見込まれるものに限られ、いわゆる内科的治療のみ のものは除かれます。 なお、腎臓障害に対する人工透析療法、腎移植後の抗免疫療法及び小腸機能障害に対する 中心静脈栄養療法については、それらに伴う医療についても対象となります。 (イ) 支給対象となる自立支援医療(更生医療)の内容と給付に要する費用 自立支援医療費の支給の対象となる更生医療の内容は、次のとおりです。 ① 診察 ② 薬剤または治療材料の支給 ③ 医学的処置、手術及びその他の治療並びに施術 ④ 居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話やその他の看護 ⑤ 病院または診療所への入院及びその療養に伴う世話やその他の看護 ⑥ 移送(医療保険により給付を受けることができない者の移送に限る。) また、自立支援医療費の支給に要する費用の概算額の算定は、指定自立支援医療機関にお いて実施する医療の費用(食事療養及び生活療養の費用を除く。)について健康保険診療報 酬点数表によって行われます。また、高齢者の療養の確保に関する法律の対象者の自立支援 医療(更生医療)については、高齢者の療養の給付に要する費用の額の算定方法及び診療方 針の例によって行われます。 ・訪問看護 障害者自立支援法で指定された居宅サービス事業者が行ないます。 対象者は、在宅腹膜透析者、居宅で血液透析を行う者、在宅中心静脈栄養法実施者 (指定医療機関の担当医が必要と認めたもの) ・訪問(通所)リハビリテーション 対象者は、脳血管障害等に肢体不自由の障害者で、指定医療機関の担当医の指示に基 づき、理学療法士、作業療法士の行う訓練により機能障害の回復が見込まれる者 手術後の短期間の訓練を原則とします。 イ 判定内容 判定は、申請者について、医学的に支給認定を行うかどうかについて行い、自立支援医療 (更生医療)を必要とすると認められた者については、医療の対象となる障害の種類(障害 状況)、高額治療継続者(いわゆる「重度かつ継続」)の対象疾病≪心臓機能障害(心臓移植 後の抗免疫療法に限る)、腎臓機能障害、小腸機能障害、肝臓機能障害(肝臓移植後の抗免 疫療法に限る)、免疫機能障害≫であるか否か、具体的な治療方針(具体的内容)、入院、 通院期間等の医療の具体的な見通し及び自立支援医療(更生医療)によって除去軽減される 障害の程度(治療効果見込み)について具体的に判断するとともに、支給に要する費用の概 算額の算定を行います。 ウ 判定依頼 (ア) 判定の方法は、文書判定で行います。 (イ) 判定依頼には次の書類を添付してください。 a 自立支援医療(更生医療)意見書 (a) 様式第5-1(肢体不自由・その他) (b) 〃 -2(心臓機能障害) (c) 〃 -3(腎臓機能障害) (d) 〃 -4(免疫機能障害) (e) 〃 -5(小腸機能障害) ※依頼前に、次の点を確認してください。 ・記載洩れはないか。 ・指定自立支援医療機関医師が作成した意見書であるか。 ・訪問看護を受ける場合は指定訪問看護ステーションであるか。 b 身体障害者手帳交付申請と自立支援医療費支給認定申請が同時に行われた場合は、身 体障害者手帳交付申請時の診断書写し(急性期の心臓機能障害について同時申請を行う 場合で、対象となるか判断が困難な時は、事前に当所へ連絡し確認してください。) c 治療材料を申請する場合は見積書 (ウ) 次の場合は、再度の支給認定(再認定)が必要となり、当所へ判定依頼を行うことになり ます。 a 医療の具体的方針の変更 支給認定の有効期間内に手術内容等の医療の具体的方針の変更がある場合は、事前に内 容変更の判定依頼をしてください。 b 医療の期間延長 支給認定の有効期間を2週間を超えて延長する必要がある場合には、事前に期間延長の 判定依頼をしてください。 なお、医療機関変更については、判定依頼は不要です。ただし、変更先が指定自立支援医 療機関であることを確認してください。 エ 支給の開始時期 自立支援医療費(更生医療)の支給は、身体障害者手帳を有することを条件とすることから、 身体障害者手帳の交付日前には認められません。また、事前申請がなされ、当所の事前判定に 基づいて認定されるのが原則です。 ただし、心臓、腎臓、免疫、肝臓機能障害の場合に限っては、医療に緊急性が求められるこ とから、やむを得ず事後申請、事後判定となることも考えられます。その場合は、支給開始日 を判定日より遡って申請受理日としても差し支えありません。 心臓、腎臓、免疫機能障害以外の場合で、実際の治療よりも判定依頼が遅れる場合は、判定 依頼を行う前に当所へ連絡し調整してください(1ヵ月を超えて遅れた場合は、理由書の添付 が必要になります)。 また、身体障害者手帳交付申請と自立支援医療費支給認定申請が同時に行われる場合には、 支給開始日は、身体障害者手帳の交付日以降となることから、申請者に不利益が生じることが 無いように、対象となる医療の開始予定日が手帳の交付日以降となることの確認が必要です。 オ 支給認定の有効期間 有効期間は原則3か月以内とし、3か月以上に及ぶものについての支給認定に当たっては、 特に慎重に取り扱うこととされています。なお、腎臓機能障害における人工透析療法、腎移植 後の抗免疫療法、免疫機能障害に抗HIV療法、心臓機能障害における心臓移植後の抗免疫療 法、肝臓機能障害における肝移植後の抗免疫療法等の治療は長期間要するので、支給期間を最 初から1年としても差し支えありません。 力 後期高齢者医療制度との関係 後期高齢者医療の対象者については、後期高齢者医療制度による医療給付がなされますが、 外来や入院費の一部負担金等の直接負担する部分が自立支援医療費(更生医療)の支給の対象 になります。 (3) 自立支援医療(更生医療)の対象例について 自立支援医療(更生医療)の要否は障害種別や傷病名だけでなく、その症例の病態によって個 別に判定されます。次に対象となる障害名・傷病名と代表的な自立支援医療(更生医療)の給付 内容の例を示します。 ア 肢体不自由 (ア) 給付対象となる障害の状態と給付内容 a 麻痺による障害~リハビリテーション、装具療法 b 関節拘縮・強直・変形~関節固定術、関節形成術、人工関節置換術、骨切り術、リハビ リテーション c (イ) 不良切断端~義肢装着のための断端形成術 給付対象となる疾患名 ・変形性関節症 ・関節リウマチ ・骨壊死性疾患 ・代謝性疾患に基づく骨関節の変化 ・外傷後の骨関節の変化 ・骨関節の感染症後の変化 (ウ) 給付対象となる主な手術方法 ・皮膚~皮膚移植術、皮膚形成術 ・筋腱~腱剥離術、腱切り術、腱延長術、腱形成術 ・神経~神経剥離術、神経切除術、神経移植術 ※神経縫合術は急性期に行われるため、自立支援医療(更生医療)の適用外である。 ・骨~骨切り術、骨移植術 ※骨髄炎そのものに対する手術や骨折そのものに対する骨接合術は急性期に行われるため、 自立支援医療(更生医療)の適用外である。 ・脊柱、脊髄~脊椎固定術、椎弓除去術、脊椎変形に対する手術 ※ヘルニア摘出手術は疾病に対する手術であり、自立支援医療(更生医療)の適用外であ る。 ・関節~関節固定術、関節形成術、靭帯再建術(陳旧性の不安定性に対して)、人工関節置 換術、骨切り術、関節内清掃術(陳旧性のもので、機能障害の原因になっている場合)、 金属抜去術 ※急性化膿性関節炎に対する関節切開、関節内清掃や新鮮外傷による半月板損傷、靭帯断 裂等に対する手術は自立支援医療(更生医療)の適用外である。 イ 視覚障害 (ア) 白内障(先天性、老人性、外傷性、糖尿病性)~白内障手術(水晶体摘出術、摘出後の人 (イ) 角膜白斑(角膜混濁)~角膜移植術、角睦点墨術、光学的虹彩切除術 (ウ) 網膜剥離~網膜復位術、網膜光凝固術 (エ) 眼瞼内反症、眼瞼外反症、兎眼症~内反症手術、外反症手術、兎眼症手術 (オ) 瞳孔閉鎖症~光学的虹彩切除術、虹彩癒着剥離術 (カ) 加齢黄班変性症~光線力学的療法(PDT)、硝子体手術 (キ) 眼球摘出後の組織充填術や義眼包埋術 (ク) 進行した開放隅角緑内障に対する手術 工レンズ埋め込み術) ウ 聴覚障害 (ア) 伝音性難聴 外耳奇形~外耳道形成術等 中耳奇形・慢性中耳炎~鼓室形成術等、鼓膜形成術、乳突削開術 耳硬化症~あぶみ骨手術等 (イ) 感音性難聴 人工内耳等 エ 音声機能、言語機能またはそしゃく機能の障害 (ア) 構音障害 a 唇裂・口蓋裂等による音声機能障害、言語障害~口唇形成術、口蓋形成術 b 外傷性または手術後に生じた構音障害~形成術、歯科矯正治療 c 咽頭摘出~人工喉頭や食道発声訓練等 (イ) そしゃく機能障害 a 口唇・口蓋裂後遺症等によるそしゃく機能障害~歯科矯正治療等 b 嚥下障害~咽頭気管分離、輪状咽頭筋切断術、咽頭挙上術 オ 腎臓機能障害 (ア) 給付対象 腎臓機能障害のうち保存的治療では尿毒症状を改善することはできず、人工透析療法(血 液透析・腹膜灌流)または腎移植により症状が軽減または除去され、日常生活能力が見込め る場合 (イ) 給付範囲 ・血液透析 ・腹膜灌流(腹膜透析) ・腎移植術 ・移植腎摘出(腎移植後の不適合による) ・抗免疫療法 (ウ) 判定上の留意点 ・人工透析者が旅行する場合、再判定をする必要はない。 カ 心臓機能障害 (ア) 給付対象 ・手術およびそれに伴う治療を3ヵ月程度行って、将来確実に日常生活能力の回復が見込ま れる場合 (イ) 給付対象となる疾患名と主な手術方法 ・拡張型心筋症、拡張相肥大型心筋症、虚血性心筋疾患その他~心臓移植術、両心室同期型 ペースメーカー(CRT) ・心臓弁膜症~弁形成術、弁置換術、弁移植術、直視下交連切開術 ・心房中隔欠損症、三尖弁閉鎖不全症~心内修復術 ・先天性心疾患~関心根治手術、欠損孔閉鎖術 ・心筋梗塞、狭心症~大動脈一冠動脈バイパス術、経皮的冠動脈形成術及び経皮的冠動脈ス テント留置術 ・洞不全症候群、高度房室ブロック、完全房室ブロック~ペースメーカー植込み術、ペース メーカージェネレーター交換術 ・心室頻拍、心室細動~体内植込み(埋込)型除細動器植込み(埋込)術(ICD)及びそ の交換術、両心室同期型ペースメーカー兼除細動器(CRT-D) ※1 原則的には手術を前提にしているので、内科的治療(例えば、術後長期にわたるジ ギタリス剤の投与等)は自立支援医療(更生医療)適用外である。 ※2 術後の感染症に対する薬物治療は適用となる。 ※3 入院中のものが原則であり、特別な医療上の問題がない場合は、通院可能な状態と なった時点で、手術に伴う医療は終了したと判断される。 キ 小腸機能障害 (ア) 給付対象 小腸の大量切除または小腸の疾病による機能障害があって、中心静脈栄養法により栄養維 持の困難な状態が軽減または除去され、日常生活能力の回復が見込まれる場合 (イ) 給付範囲 ・中心静脈栄養法およびそれに伴う医療 ・中心静脈カテーテル留置に関連した合併症に対する医療 ク 免疫機能障害 (ア) 給付対象 ヒト免疫不全ウイルスにより免疫機能に障害があって、抗HIV剤の投与等により症状が 軽減または除去され、日常生活能力の回復が見込まれる場合 (イ) 給付範囲 ・抗HIV療法 ・免疫調節療法 ケ 肝臓機能障害 (ア) 給付対象 末期の肝硬変による機能障害があって、肝臓移植術により症状が軽減または除去され、日 常生活能力の回復が見込まれるもの (イ) 給付範囲 ・肝臓移植術(脳死肝移植、生体肝移植) ・肝臓移植後の抗免疫療法 (ウ) 給付期間 肝臓機能障害における肝臓移植後の抗免疫療法の治療は、長期間要するので支給期間を最 初から1年としても差し支えありません。 ※判定書の総合判定欄に、「なお、病状の性質上、長期にわたる治療継続が必要である事から当 該医療への継続の希望があれば、本判定内容を根拠に必要な措置を行うことが望ましい。」と 記載されていると、以後はそれに基づき援護の実施市町村は期間延長することができる。
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