概要版

京都市観光振興政策に関する提言
∼京都文化を視点とする新たな観光戦略をめざして∼
概
要
版
平成 15 年 12 月
公明党京都市会議員団
はじめに
京都市には、現在、年間約 4,000 万人の観光客が訪れている。
京都のさまざまな場所、豊富な文化財、伝統行事、町並み、おみやげ、食事、そして
京都に暮らす人々の生活の中に散りばめられた京都文化を体験するために、人々はやっ
てくる。京都を訪れる人々が京都文化を体験するのに、京都のまちは行動しやすくでき
ているだろうか。案内システムは親切にできているだろうか。それ以前に、国内外に京
都文化の魅力をわかりやすく伝達する努力が払われているだろうか。こういった面では、
現状ははなはだ心もとないといわざるをえない。
現在、国際的な観光交流人口の増加により、海外からの観光客の増加が予想され、世
界が憧れる京都文化を打出し、文化の魅力で海外からの観光客を京都に引き寄せ、国際
観光都市としての京都を復活させるチャンスである。
我々は、京都の観光振興をよりいっそう推進していくにあたり、京都文化を視点とす
る新たな観光戦略を構築し、より強力な推進体制のもとで、訪れる人が京都文化を享
受・体験しやすいシステム、さらに多くの観光客を迎える体制を整えることが急務であ
ると考え、ここに、観光振興政策に関する提言をとりまとめるものである。
京都観光の現状と世界の観光の潮流
1
京都市の観光政策の方向性
2
観光政策の課題と具体的施策例
3
観光政策の推進に向けて
9
京都観光の現状と世界の観光の潮流
1 京都市観光入込数の推移
京都市の観光入込数は、長期的には倍増∼停滞∼微増という推移をたどっている。平成 14 年も
微増し、過去最高を記録した。2 泊以上の宿泊観光客が減少し、春と秋の観光シーズンへの集中化
が続いている。
男女・年代別の傾向は、女性が 6 割∼7 割、40 歳以上が 6 割∼7 割で推移している。
外国人観光客の入洛者は韓国、中国からの観光客が増加、欧米からの観光客も全国的な割合より
多い。
1人あたりの観光消費額が減少。特に宿泊観光客の消費額の減少が顕著である。
2 世界の観光の潮流とわが国の観光政策
2020 年には世界の旅行収入は 1995 年の約 5 倍の規模になるという。日本の外国人旅行者受入数
は年間 477 万人で世界 35 位、1 位のフランスは 7,650 万人である。一方、外国旅行者数では日本は
年間 1,783 万人で 10 位である。
小泉内閣は 2003 年 1 月、観光立国懇談会を設置し、訪日外国人旅行者数を 2010 年までに倍増し
て、1,000 万人とすることを目標として掲げた。ビジット・ジャパン・キャンペーンを展開し、イ
ンバウンド重視政策を強力にすすめている。
京都市は 1930 年に観光課を設置し、翌年には京都駅前に観光案内書を設置するなど、全国に先
駆けて観光行政に取り組んだ。長期的な観光振興施策として、2001 年、
「京都市観光振興推進計画
∼おこしやすプラン 21∼」を策定した。
3 観光と経済波及効果
日本国内で消費される旅行消費額は、総額 20.6 兆円になる。産業連関表を用いて推計した生産
波及効果は 35.3 兆円、家計を迂回して消費される効果(第 2 次波及効果)を含むと 48.8 兆円であ
る。また、雇用効果は直接効果が 181 万人、第 2 次波及効果を含むと 393 万人となる。また、他産
業への波及効果の内訳は、影響の大きい順に、
「その他サービス等」5.6 兆円、
「金融、保険、不動
産」4.9 兆円、
「旅館その他の宿泊所」4.4 兆円、
「その他製造業」4.2 兆円、
「食料品」3.1 兆円、
「卸
売業」3.1 兆円、
「飲食店」2.6 兆円、
「小売業」2.5 兆円、
「運輸付帯サービス」2.3 兆円、
「鉄道輸
送」2.0 兆円、
「航空輸送」1.9 兆円などとなり、様々な分野への経済波及効果が生み出される。
観光地としての魅力を高めることは、文化や景観、快適なまちづくりや都市の魅力の創造、市民
の生活を改善し、都市への誇りや都市の魅力的イメージの形成という分野に及び、その影響は大き
い。
1
京都市の観光政策の方向性
2000 年に桝本市長は、京都経済の活性化のために現在の約 1.2 倍の観光客を迎え入れようという
「観光客 5,000 万人構想」を発表した。この構想は大いに評価できるものであるが、5,000 万人を
受け入れる宿泊施設や交通施設の充実など課題は山積している。本稿は、
「観光客 5,000 万人構想」
を是としつつも、本物の「京都文化」を満喫する内外の観光客を増やすということを当面の目標と
すべき、という基本的なスタンスを取る。
これからの京都の観光政策が取るべき3つの基本的な方向性を提起する。
1 国際観光都市・京都の復活
京都は歴史的にも千年の都であり国際都市であった。現代においても、国内ではゆるぎない観光
都市としての地位を確立し、国際的にも知名度の高い都市であった。しかし、観光行動の多様化や
国内外のライバル都市の出現で、かつての「国際観光都市」京都の吸引力は低下している。
今後、世界的な観光需要の増加、特にアジアを中心に予想される観光人口の莫大な増加に備え、
外国人観光客にとっても訪問しやすい都市として、京都の観光環境を整備し、21 世紀に再度「国際
観光都市」となることを宣言すべきである。
また、都心観光、まちなか観光といったトレンドに対応したしつらえを京都のまちが体現し、国
際的にも観光トレンドのトップランナーであり続ける「国際観光都市」への復活をめざす。
2 セレブリティ観光・京都
京都観光の中心は文化観光であり、多少費用が高くついても京都に滞在し、京都の文化を深く味
わおうとする「セレブリティ」観光客を主要なターゲットとすべきである。
現在の京都観光の主力は 50 歳代で、20 代のときから京都に親しんできたリピーターが多い。こ
ういった「京都ファン」層を手厚くもてなし、何度来ても満足できる内容を用意する。町角でなに
げなく感じられる京都らしさから超一流のものまでが京都の町に存在している。
今の若い世代を京都ファンとして将来のリピーターとして引き付けることが重要である。
3 「観光政策」からの脱却
かつての「観光政策」は、観光客のみを対象とした対症療法的な施策が主であった。今や京都市
民にとって魅力のあるものや場所は観光客にとっても魅力があり、また、観光客が行くところは市
民も行くようになった。新しい時代の観光振興においては、観光客のみを対象とする施策はもはや
無効であるといっても過言ではない。観光地としての魅力を高めることは、観光関連産業に経済効
果をもたらすだけでなく、文化や景観、まちづくりや産業振興、市民の生活環境の改善、都市への
誇りや都市の魅力的なイメージの形成をもたらす。市民と観光客が共に快適に過ごせるような空間
の創出や、共に楽しめるイベントの創出など、新しい振興策が必要とされている。
2
観光政策の課題と具体的施策例
1 文化的魅力による海外からの観光客の誘致
京都の文化的魅力を積極的にかつ的確に伝え、来訪者が行動しやすい案内システムをつくるなど、
世界が憧れる京都文化を紹介する万全の環境をつくることが重要課題である。特に、観光情報の多
言語発信は喫緊の課題である。国際会議の誘致も視野にいれ、
「観光情報ウェブサイトの多言語化」
という面で、世界のトップをめざす。通訳・翻訳の優秀な人材を京都に迎え、通訳・翻訳業界の振
興も視野にいれて、国際観光都市としての条件を整える。
ウェブサイトだけでなく、実際に外国人観光客を京都に迎え入れた際の、フェイス・トゥー・フ
ェイスの多言語案内機能の充実、東京の京都館の観光振興機能の強化も図らなければならない。
(1)広報、情報発信の充実
〔施策例 1〕観光情報ウェブサイトの多言語発信
京都市観光文化情報システムは日本語と英語のサイトを提供しているが、国際的な集客という観
点からは他都市に遅れをとっている。この際、国際観光都市にふさわしく、徹底的な多言語化を図
る。日本語、英語、中文簡体字、中文繁体字、ハングルに加えヨーロッパの主要な言語などを加え、
世界でもトップレベルの多言語サイトとする。京都市の姉妹都市の言語やECの公用語、世界歴史
都市連盟の国々の言語を網羅すれば、文字通り世界一の多言語ウェブサイトとなる。
〔施策例 2〕 メディアミックスによる多様な広報の展開
〔施策例 3〕 「文化的」
「百科事典的」ガイドブックの発行
〔施策例 4〕 京都のアーティストによる広報
〔施策例 5〕 祇園祭の粋を紹介する海外巡行
〔施策例 6〕 京都館観光コーナーの充実
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(2)海外からの観光客が行動しやすい接客・案内システムの充実
〔施策例 7〕 海外からの観光客に親切な多言語観光案内窓口
京都駅の観光案内所や都心の新しい観光拠点施設に、外国人観光客に対応できるスタッフを置く。
実際に入洛した外国人観光客に直接対応する人的システムを充実させる。英語やハングル、中国語
ができる専門スタッフを常駐させる。接客のマインドを持ったスタッフが求められる。その他の多
くの外国語のスタッフはボランティアの登録システムを確立しておく。こうした活動を通じて、市
民の観光・もてなしのマインドを喚起していくことが重要である。
〔施策例 8〕 「博物館入場と交通機関乗車フリー」カルチャーカードの発行
(3)海外からのインセンティブ・ツアーの企画・誘致の促進
〔施策例 9〕
コンベンションの誘致促進
〔施策例 10〕 産業交流・研修ツアー誘致促進
〔施策例 11〕 文化交流等訪問者への優遇制度
〔施策例 12〕 文化芸術・学術文化のツアー
海外からの観光客がじっくり滞在して京都体験をするプログラムである。何事かを学ぶ、技術を
習得する、あるいは生活習慣そのものを体験するなかでの京都体験であり、1 週間程度の滞在を前
提とする。大学コンソーシアムの協力を得て、海外の観光客が受講でき、京都文化を身をもって体
験できるような集中講義を企画する。宿泊施設がタイアップすることで割安にすることができ、観
光シーズン外の通年的取組みに適用できる。
実体験、技術習得、など具体的な成果が得られ、受講を通じて、実際に京都の代表的な観光資源
を見学できるようなプログラムとする。京都の祭、大文字、お盆、年末年始などを体験するプログ
ラムや京都の伝統的な住まいである町家体験プログラムなど、海外からの集客をめざした中長期滞
在、通年型のプログラムを開発し、ホテル・旅館の協力を得て推進する。
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2 京都体験プログラムの充実
京都の魅力をじっくりと味わう、滞在型の「京都体験プログラム」を整備し、広報・プロモーシ
ョンを推進する。特にキャンパスプラザの講義や伝統技術習得体験を滞在型観光と組み合わせ魅力
的な観光プログラムとして展開する。
具体的なバリエーションとして、すでにある体験プログラムを十分に活用するとともに、新たな
プログラムやイベントを開発して文化体験の通年性、夜のプログラムの充実をはかる。
京都らしい舞台、街角でのイベント、市民生活に深く根をおろした文化、また商店街や小さな路
地の店舗など、従来あまり目立たなかった魅力の発掘・紹介もまた必要である。ほとんど観光客の
目を意識してこなかった風俗・習慣やイベントの中にも、京都文化の魅力として、観光客が注目す
るものがある。市民が気づかなかった魅力を発見し、顕在化していくことも課題である。
(1)滞在型文化芸術体験プログラム
〔施策例 13〕 文化芸術体験プログラム
宿泊観光と文化芸術体験を組み合わせ、文化施設の見学や文化イベントへの参加だけでなく、短
期のワークショップや作家の講演、作家との食事会などの交流を伴うプログラムを開発する。
文学作品にゆかりの地をめぐり、作家との食事会を持つ、あるいは歴史の講師とともに史跡をめ
ぐるといった企画は一日散歩というような形で比較的よく企画され、熟年層に人気のあるところで
あるが、京都はこういった資源は 1 日では回りきれないほど多い。長めにじっくり滞在しフルコー
スをまとめて体験するプログラムを創出する。宿泊施設の長期割引、また観光シーズン以外の割引、
講師や参加者同士の食事を通じた交流などをふんだんに盛り込む。
美術や写真の領域では写生会、撮影会、作品合評会などを組み合わせ、じっくりと好きな趣味に
浸るという京都体験を味わうプログラムとする。
音楽や演劇の鑑賞と講師によるワークショップ(発声、演奏、身体訓練、セリフの訓練など)を
組み合わせた企画は若い世代にも需要が見込める。
いずれも長期滞在の格安宿泊料金、夏場、冬場の割引などを盛り込む。
〔施策例 14〕 伝統技術・工芸体験プログラム
〔施策例 15〕 コンサートなど夜のプログラムの充実
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(2)滞在型学術文化体験プログラム
〔施策例 16〕 大学コンソーシアム受講プログラム
財団法人大学コンソーシアム京都(キャンパスプラザ京都)との連携により、観光客が1週間と
か 1 ヵ月とかの長期にわたって京都に宿泊し、受講できるプログラムを創設する。
例えば、
「京都名建築めぐり」は京都の名建築を、講義を受けながら、数日にわたって実際に見
学する。ゆっくり京都に滞在し、ふだん 1 日では見学できない建築も含めてまとめて見学すること
を通じ、京都を奥深く体験するというプログラムである。そのため、桂離宮や修学院離宮の見学手
続きを簡略にするような配慮が必要である。宿泊施設の協力で長期割引、シーズンオフ割引といっ
た制度と組み合わせる。
財団法人大学コンソーシアム京都のシティカレッジ事業では、社会人の学習ニーズの高度化に応
えるものとして、京都の大学より提供された科目を受講できる制度があり、夜間の開講科目も提供
されている。
「京都学」シリーズは他府県からの受講者も多く好評である。
中長期滞在の観光客が受講できる集中型の講義を設け、京都への宿泊観光と組み合わせ、魅力的
な京都体験プログラムを開発する。
(3)京都らしい生活文化体験プログラム
〔施策例 17〕京都の町家で過ごす新婚旅行、金婚・銀婚ツアー
あるエッセイストの町家暮らしが評判を呼んでいるが、京都の伝統的なすまいに宿る京都文化を
体験するプログラムである。次節の都心観光にも言えるが、町家は京の都心生活を体験する際に不
可欠の施設である。
新婚旅行や金婚・銀婚ツアーで滞在し、町家での生活、自炊して夫婦が日常的な生活をする、数
日∼1 週間の貸家施設として町家を整備する。旅館のようなサービスはないが、自分たちで暮らす
ための道具はそろっており、ウィークリィ滞在型の宿泊施設として町家を活用する。
町家で過ごしたいという需要は高まっている。店舗としての利用のほかにも、宿泊できるスペー
スとして、町家の修復・整備を進めていく必要がある。
〔施策例 18〕
「京都の年末年始」体験ツアー
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3 都心観光の環境整備
清水や嵯峨に代表される京都の周辺部は観光客でにぎわうが、街の中心部は比較的少く、夕方に
社寺が閉まると行くところがないといわれる。名所観光に変わって、都心部の散策やショッピング
が観光のトレンドになりつつある現在、市民にとっても観光客にとっても快適な環境整備が急がれ
る。
都心の環境整備にとって、町家は京都の大きな財産の1つである。都心部、特に東西は大宮通、
河原町通、南北は丸太町通、五条通に囲まれる部分に町家が集積している。文化財の対象となるよ
うな由緒ある町家からただの老朽木造住宅といえるものまでが混在している。それぞれの町家にふ
さわしい活用方法を見出し、推進することが、京都の都心再生の切り札的役割を果たす。
(1)都心観光の拠点づくり
〔施策例 19〕 立誠小学校跡地を「都心観光の拠点となる施設」に
都心観光の拠点として、木屋町通の高瀬川沿いの都心繁華街にあり、集客ポテンシャルの高い立
誠小学校跡地を活用する。都心観光の拠点となる施設は、駅にあるような目的地へ行くための案内
所ではなく、そこでコンパクトな京都文化の体験もできる施設であり、寺社などの名所観光にはな
い魅力を持つ施設である。
都心部小学校跡地活用において、計画が未決定の跡地であり、早期に具体的な計画段階へと進め
るべきである。実現に向けて PFI などの手法を検討する。
施設の機能として、
「リッセイ・コーナー」
「角倉パーク」
「くつろぎのスペース」を設ける。
「リッセイ・コーナー」は、祇園の「ギオンコーナー」が日本舞踊など伝統的な京都文化を海外
の観光客にコンパクトに紹介するのに対し、京都の現代文化を紹介する施設とする。舞台芸術のた
めのホールと展示施設を持ち、常に、観光客や市民のためのパフォーマンスを行う。
「角倉パーク」は、高瀬川を開削し、大阪・伏見・京都の物流ルートを確立した角倉了以や「高
瀬舟」にちなんだポケットパークとし、敷地内に配置する。
「くつろぎのスペース」は、国内外の観光客がくつろげる場所で、市民と観光客が交流するスペ
ースでもある。海外からの観光客に親切な多言語観光案内機能を持たせる。
〔施策例 20〕 歴史博物館の建設
〔施策例 21〕 フィールドミュージアム情報提供システムの観光活用
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(2)歩行者空間の整備
〔施策例 22〕 「歩いて楽しいまち」の展開
市内の散策コースは、東山区の「ねねの道」や中京区の「鉾の道」など各区においても独自にす
すめられている。また、歴史散策コース、文遊回廊などテーマ性をもった回廊、都心のショッピン
グコース、水辺の散策路など、様々なネーミングと整備が行われている。
それぞれの整備を生かすため、
「快適な散策コース」のコンクールを行い、京都の代表的な散策
路として顕彰し紹介する。美観や安全性を維持するため、地元市民のボランティア活動を奨励する
とともに、市の事業として、散策路をはじめとしたまちの美化に取り組む必要がある。
これらをネットワークし、京都回遊散策路として観光客にも紹介し、さらに魅力的な遊歩道とし
て整備する。
〔施策例 23〕 まちなかを流れる鴨川の親水空間の整備
(3)魅力的な町並みの形成
〔施策例 24〕 町家の改修など景観形成事業の推進
町家を改修することによって保存・活用し、京都らしい町並みを形成していく。都心の町家の集
積率の高いところに、補助金を出して、景観形成を図る。町家を改造したレストランや小物店舗の
人気が高く、市内の町家再生店舗の数が増えている。ビルやマンションを建てるより町家を改造し
た店舗をつくるほうが、魅力的な町並みを形成できるということを市民にアピールしていく。
すでに、宿泊施設としての町家の需要もあり、都心部の観光をすすめていくうえで、町家の活用
による景観形成は大きな役割を果たす。ユニークな都心観光の舞台として町家再生店舗を中心とし
た町並みが京都にとって貴重なものであり、この事業を徹底して推進する。
都心部でも、河原町通、大宮通、丸太町通、五条通に囲まれた地区は町家が集積しているが、特
に竹屋町通と押小路通の間と四条・五条間は、町家の集積率が非常に高い。界隈景観形成事業とし
て、補助金を出して、それぞれの町家にふさわしい活用を誘導していく。
現存する 2 万 8 千軒の町家のうち、400∼500 軒が店舗に利用されている。また、一口に町家とい
っても、頂点の文化財に指定されるような由緒正しい立派な町家から底辺の老朽木造住宅(約 1 万
軒)までピラミッド構造になって集積している。それぞれにふさわしい活用法、保存法、修復方法
が工夫されなければならない。
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観光政策の推進に向けて
1 推進体制
(1)観光関連組織の連携・統合化
京都の観光振興を推進していくためには、産・官・学一体となった強力な推進体制が必要である。
観光振興のための広報・プロモーション、コンベンションの誘致、観光資源の整備・開発、調査・
研究・マーケティングなどを総合的に展開する組織を確立していく必要がある。
社団法人京都市観光協会、社団法人京都府観光連盟、京都コンベンションビューロー、財団法人
京都市文化観光資源保護財団などの統合化を進め、より強固な体制のもと、効率的に観光振興政策
を推進できる機構をつくることが一考されてよい。
市庁内でも、産業観光局と関連部局とが連携した京都観光振興推進本部(仮称)を設置し、関連
団体との協力体制を形成するなど、
「総合行政」として取り組む必要がある。海外事務所や姉妹都
市との情報交換や協力体制がますます重要性を増す。東京の京都館はこの体制の出先機関であり、
大マーケットを擁する東京での観光案内や営業的活動にとどまらず、調査・研究機能を持った京都
観光の戦略的拠点として位置付けられるべきである
(2)調査・研究、マーケティング機能の強化
観光政策を推進していくためには、高度な調査・研究、マーケティング機能を持った体制が必要
である。観光トレンドの把握、観光地の中での京都のポジショニング、観光客が京都に求めるもの、
京都の都市イメージの分析、国内、国外のマーケティング、他都市の事例や観光戦略の研究などを
進め、観光政策の推進にいかしていくことが必要である。
2 実現に向けての手法
(1)行政の役割の明確化
観光政策の実現に向けて、官民の役割分担をはっきりさせる。観光客と市民の利害が対立すると
いうような場合、これを調整していくのは行政の役割である。また、補助金などの援助のしくみを
つくり、その制度を使って民間が景観に配慮したまちづくりをおこなっていくというようなケース、
行政が働きかけを行い、ホテル業界と伝統工芸など民間同士の連携を実現するなども考えられる。
(2)マーケティング情報の提供
調査・研究機能を持つ観光組織のもとでのマーケティング情報、観光トレンドの状況を京都の産
業界や観光関連業界に提供し、観光振興策や観光振興に役立つような商品開発に結びつける契機と
する。
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